説明

有機ケイ素化合物および該有機ケイ素化合物を使用する無電解めっきの前処理方法

【課題】金属めっきと良好な密着性を発揮し得る、簡易で環境負荷の少ない水系シランカップリング剤として好適な有機ケイ素化合物の提供、およびこれを用いた無電解めっきの前処理方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表される化合物と、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物およびトリカルボン酸一無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体を、更に下記一般式(3)で表される化合物と反応させて得られた最終生成物である有機ケイ素化合物、およびこれを用いた無電解めっきの前処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明品は、新規な有機ケイ素化合物および該有機ケイ素化合物を使用する無電解めっきの前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解めっきとは、電気を使用せずに還元剤を使用することで、ガラス、合成樹脂、貴金属等から選択される被めっき体(以下、基板とも呼ぶ)の表面に皮膜を形成させる手法のことである。しかし、無電解めっきを行う際に、被めっき体の表面に直接めっきを行うと成膜した際に密着力が弱く、めっきが不十分である場合がある。
【0003】
そのため、従来、被めっき体と成膜しためっき膜との間の密着力を向上させる目的で、被めっき体に対して前処理を行った後に無電解めっきすることが行われている。そして、その際に、前処理剤として有機ケイ素化合物を用いることが一般に知られている。
【0004】
例えば、特許文献1では、シランカップリング剤を前処理剤として使用することで、めっきされにくいガラス基板と無電解めっき層のめっき膜との密着力を向上させることを可能にしためっき方法を開示している。また、特許文献2には、耐熱性に優れ、金属表面に対する防錆作用が高いイミダゾールシラン化合物を用いた金属表面処理剤が開示されている。また、特許文献3には、アゾール系シランカップリング剤を使用した銀めっき方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−52701号公報
【特許文献2】特公平7−68256号公報
【特許文献3】特開2002−47573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1〜3に被めっき体の前処理剤として開示されている有機ケイ素化合物(シランカップリング剤)は、接着力が十分とは言えず、また、被めっき体の種類によっては所望の性能が得られず、被めっき体の前処理剤とした場合に、より効果的に機能し得るシランカップリング剤として有用な有機ケイ素化合物の開発が望まれている。さらに、近年の地球規模での環境保全の観点から、無電解めっきの前処理方法に使用する前処理剤においても、より環境への負荷の少ない処理剤の開発が望まれる。
【0007】
従って、本発明の目的は、金属めっきと良好な密着性を発揮し、しかも簡易で環境負荷の少ない水系シランカップリング剤として有効に機能し得る有機ケイ素化合物を提供することにある。さらに、本発明の目的は、被めっき体の前処理剤として有用な水系シランカップリング剤を開発することで、無電解めっきを施した場合に、被めっき体と金属めっきとの密着性を向上させることができ、しかも種々の被めっき体に適用が可能な無電解めっきの前処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物と、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物およびトリカルボン酸一無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体を、更に下記一般式(3)で表される化合物と反応させて得られた最終生成物であることを特徴とする有機ケイ素化合物を提供する。

(上記式(1)中、Aは窒素原子を含む炭素数3〜7の複素環基を表し、Z1は、直接結合を表すか又は炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)

(上記式(3)中、R3は炭素原子数1〜12の炭化水素基を表し、R4は、−NH2、−NCO、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表し、Z2は炭化水素数1〜10のアルキレン基を表し、かつ、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。)
【0009】
また、本発明は、別の実施形態として、被めっき体に無電解めっきをする際に、被めっき体に、上記有機ケイ素化合物によって前処理を施すことを特徴とする無電解めっきの前処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属めっきと良好な密着性を発揮し、しかも簡易で環境負荷の少ない水系シランカップリング剤として有効に機能し得る有機ケイ素化合物が提供される。さらに、本発明によれば、被めっき体の前処理剤として上記水系シランカップリング剤を用いることで、無電解めっきを施した場合に、被めっき体と金属めっきとの密着性を向上させることができる、種々の被めっき体に適用可能な無電解めっきの前処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の好ましい形態を挙げて本発明を詳細に説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、まず、下記一般式(1)で表される化合物と、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物およびトリカルボン酸一無水物から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物を反応させて得られる中間体を得、更に、該中間物と、下記一般式(3)で表される化合物とを反応させることによって得られる。以下、各構成成分について説明する。
【0012】

(上記式(1)中、Aは窒素原子を含む炭素数3〜7の複素環基を表し、Z1は、直接結合を表すか又は炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)

(上記式(3)中、R3は炭素原子数1〜12の炭化水素基を表し、R4は、−NH2、−NCO、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表し、Z2は炭化水素数1〜10のアルキレン基を表し、かつ、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。)
【0013】
[一般式(1)で表される化合物]
まず、上記一般式(1)で表される化合物について説明する。
上記一般式(1)で表される化合物(以下、単に「一般式(1)の化合物」と記載する場合がある)において、Aは窒素原子を含む炭素数3〜7の複素環基を表す。Aに使用することができる含窒素芳香環としては、窒素が環内に少なくとも1つ以上存在する芳香族環であれば特に限定されない。例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、イミオキサゾリル基、ピリジニル基、ピラゾリル基、ピラジニル基、インドリル基、インダゾル基、オキサゾリジン基、イソオキサゾリジン基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、トリアゾリル基、トリアジニル基、ベンゾオキサゾリル基、インドリル基、イソインドリル基およびフラザニル基等が挙げられる。これらの含窒素芳香環の中でも、めっきの前処理方法に用いた場合に、被めっき体と金属めっきとの密着性をより向上させることができるので、アゾール基であるピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基およびフラザニル基のいずれかであることが好ましい。さらには、イミダゾリル基又はトリアゾリル基がより好ましい。これらの含窒素複素環は、環内に1つ又は2つ以上の置換基を有していてもよいが、置換基の種類によっては水溶性が悪化する場合があるので注意を要する。
【0014】
また、上記一般式(1)中のZ1は、結合基がない状態の直接結合を表すか、或いは炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。本発明者らの検討によれば、Z1が炭素原子数11以上のアルキレン基であると、最終生成物である有機ケイ素化合物の水溶性が悪化する場合がある。Z1として使用することができるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられる。本発明の有機ケイ素化合物の水溶性をより良好なものとするためには、Z1が、直接結合であるか又は炭素原子数1〜7のアルキレン基であることが好ましい。特には、Z1は、直接結合であるか又は炭素原子数1〜5のアルキレン基であることがより好ましい。
【0015】
上記要件を満足する一般式(1)で表される化合物の具体例としては、例えば、1−(3−アミノプロピル)イミダゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−5−メチルチオ−1H−1,2,4−トリアゾール、1−(3−アミノプロピル)−2−メチルイミダゾール、1−(3−アミノプロピル)−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−アミノプロピル−2,4,5−トリブチルイミダゾール、1−アミノエチル−4−ヘキシルイミダゾール、1−アミノブチル−2,5−ジメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0016】
[ポリカルボン酸無水物]
次に、上記した一般式(1)で表される化合物と反応させて中間体を得る際に用いられるポリカルボン酸無水物について説明する。
ポリカルボン酸無水物とは、ポリカルボン酸から分子内で脱水した酸無水物のことであり、本発明では、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物、トリカルボン酸一無水物から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物を用いる。これらのカルボン酸無水物は、その分子構造中に環を形成していてもよく、また、芳香族環を有していてもよい。なお、以下、本明細書において、「ポリカルボン酸」とはテトラカルボン酸又はトリカルボン酸を意味し、「ポリカルボン酸無水物」とは、上記のポリカルボン酸から分子内で脱水した酸無水物を意味する。
【0017】
本発明に用いるポリカルボン酸無水物は、上記したポリカルボン酸無水物の中でも下記の一般式(2)で表わされる化合物(以下、単に「一般式(2)の化合物」という場合がある)であることが好ましい。

(上記式(2)中、R1およびR2は結合して酸無水物を形成する基を表すか、或いは、R1およびR2のうちの一方が−COOH基を、他方が水素原子、炭素原子数1〜12の炭化水素基および−COOH基から選ばれるいずれかの基を表し、Xは、−CO−、−O−、−SO2−又は窒素原子で中断されてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0018】
上記一般式(2)中のR1およびR2に使用できる炭素原子数1〜12の炭化水素基としては、例えば、下記のようなアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基等が挙げられる。
【0019】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ペンチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、ドデシル(ラウリル)基等が挙げられる。
【0020】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1−メチルエテニル基、2−メチルエテニル基、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基等が挙げられる。
【0021】
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘプチル基、メチルシクロペンチル基、メチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基、シクロヘプテニル基、メチルシクロペンテニル基、メチルシクロヘキセニル基、メチルシクロヘプテニル基等が挙げられる。
【0022】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−ビニルフェニル基、3−イソプロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−ターシャリーブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基等が挙げられる。
【0023】
また、一般式(2)中のR1およびR2は、−COOHでもよく、R1およびR2は、連結して酸無水物として環を形成していてもよい。R1およびR2は、上記の中でも特に、−COOH又は連結して酸無水物として環を形成していることが好ましい。更に、一般式(1)と反応性が高く、本発明の有機ケイ素化合物を短時間で製造できることから、R1およびR2は、酸無水物として環を形成していることがより好ましい。
【0024】
一般式(2)中のXは、−CO−、−O−、−SO2−、窒素原子で中断されてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であり、環を形成していてもよく、芳香族環を有していてもよい。より好ましくは、炭素原子数が1〜10の炭化水素基である。Xは上記の条件を満たせば特に限定されないが、無電解めっきの際に、本発明の有機ケイ素化合物を被めっき体に対する前処理に使用した場合に、めっき後の密着強度が向上するため、下記に例示する(B−1)〜(B−18)であることが好ましい。これらの中でも、(B−1)〜(B−5)がより好ましく、(B−1)、(B−3)、(B−4)又は(B−5)であることが更に好ましい。
【0025】

【0026】

【0027】

【0028】
本発明の有機ケイ素化合物の形成材料として好適な、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸一無水物およびテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、以下に列挙した化合物(C−1)〜(C−18)のテトラカルボン酸が脱水してなる一無水物又は二無水物が挙げられる。
【0029】

【0030】

【0031】

【0032】
また、本発明の有機ケイ素化合物の形成材料に好適な一般式(2)で表されるトリカルボン酸一無水物の好ましい具体例としては、下記に挙げる(C−19)〜(C−22)のトリカルボン酸が脱水してなる一無水物が挙げられる。

【0033】
このような本発明の有機ケイ素化合物の形成材料に好適な一般式(2)で表される化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。すなわち、例えば、メソ−ブタン1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタン−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物、1,2,3,4−シクロペンタン−テトラカルボン酸二無水物、シス−アコニット酸無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物、ジエチレントリアミンペンタ酢酸二無水物、ジグリコール酸無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸二無水物などを好適に使用できる。
【0034】
[一般式(3)で表される化合物]
次に、本発明の有機ケイ素化合物の形成材料に用いられる下記の一般式(3)で表される化合物について説明する。本発明の有機ケイ素化合物は、上述した一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物とを反応させて得た中間体を、更に下記一般式(3)で表される有機ケイ素化合物(以下、単に「一般式(3)の化合物」という場合がある)と反応させてなる最終生成物である。

【0035】
上記一般式(3)中のR3は、炭素原子数1〜12の炭化水素基を表すが、例えば、一般式(2)中のR1およびR2の説明で例示した、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基およびアリール基等を使用することができる。これらの中でも、水溶性が高いため、上記一般式(3)中のR3は、炭素原子1〜6のアルキル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましく、メチル基が最も好ましい。
【0036】
上記一般式(3)中のR4は、下記に述べるように、該一般式(3)の化合物と反応させる、先述した一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体の構造によって好ましい置換基が異なる。
(i)中間体が、一般式(1)の化合物とテトラカルボン酸二無水物との反応生成物であり、残基として無水物骨格がある場合、一般式(3)中のR4は、−NH2又はイミダゾリル基であることが好ましい。
(ii)中間体が、一般式(1)の化合物と、テトラカルボン酸二無水物、トリカルボン酸一無水物又はテトラカルボン酸一無水物との反応生成物であり、残基として無水物骨格がない場合は、一般式(3)中のR4は−NCOであることが好ましい。
【0037】
また、上記一般式(3)中のZ2は、炭化水素数1〜10のアルキレン基を表すが、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。このようなZ2としては、例えば、一般式(1)中のZ1として、例示したアルキレン基が挙げられる。本発明品の水溶性が良好なことから、炭素原子数2〜5のアルキレン基がより好ましい。また、該アルキレン基は−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよいが、中断されていないことが好ましい。
【0038】
このような一般式(3)で表される化合物の具体例としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、3−フェニルアミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0039】
[製造方法]
次に、本発明の有機ケイ素化合物の製造方法について説明する。
本発明の有機ケイ素化合物の製造方法は特に限定されず、下記のような公知の方法によって製造することができる。まず、下記のような方法で中間体を得る。例えば、ポリカルボン酸無水物(以下、(B)成分という場合がある)を溶媒に溶解させた溶液に、一般式(1)の化合物(以下、(A)成分という場合がある)を溶媒に溶解した溶液を0〜25℃で滴下し、滴下終了後、5〜40℃で0.5〜10時間撹拌し、中間体を得る。次に、得られた中間体を精製せずに、該中間体を、例えば、下記の(I)又は(II)に挙げるような方法により一般式(3)で表される化合物と反応させて、目的物である本発明の有機ケイ素化合物を得る。
【0040】
(I)一般式(3)中のR4が、−NH2、イミダゾリル基又はトリアゾリル基の場合、一般式(3)の化合物(以下、(C)成分という場合がある)を溶媒に溶解させた溶液を0〜25℃で滴下し、滴下終了後、5〜40℃で0.1〜5時間撹拌することによって本発明の有機ケイ素化合物を得る。
(II)一般式(3)中のR4が、−NCOの場合、一般式(3)の化合物を溶媒に溶解させた溶液を30〜80℃で滴下し、滴下終了後、30〜80℃で0.5〜6時間撹拌することにより、本発明の有機ケイ素化合物を得る。
【0041】
上記のようにして得られる反応生成物(中間体)における、一般式(1)の化合物とポリカルボン酸無水物との好ましい反応比は、一般式(3)の化合物の構造中においてR4としてとり得る基によって異なる。
(i)R4が、−NH2、イミダゾリル基又はトリアゾリル基の場合
一般式(1)で表される化合物のモル数/ポリカルボン酸のモル数=1.5/1〜1/1.5が好ましい。該モル比は、1.2/1〜1/1.2であることがより好ましく、1.1/1〜1/1.1であることが更に好ましい。
(ii)R4が−NCOの場合
一般式(1)で表される化合物のモル数/(ポリカルボン酸のモル数×1分子内の酸無水物の数)=1.5/1〜1/1.5が好ましい。該モル比は、1.2/1〜1/1.2であることがより好ましく、1.1/1〜1/1.1であることが更に好ましい。
また、最終生成物における、上記のようにして得られた中間体と、一般式(3)の化合物との比は、下記のようであることが好ましい。すなわち、中間体の形成に用いた一般式(1)の化合物と、中間体と反応させる一般式(3)の化合物との比が下記のようになるようにすることが好ましい。具体的には、一般式(1)の化合物と一般式(3)の化合物との比が、モル比で、一般式(1)の化合物/一般式(3)の化合物=1.5/1〜1/1.5となるように構成することが好ましく、1.2/1〜1/1.2となるように構成することがより好ましく、1.1/1〜1/1.1となるように構成することが更に好ましい。
【0042】
上記した各反応で用いる溶媒としては特に限定されないが、非プロトン性の極性溶媒であることが好ましい。より具体的には、テトラヒドロフラン、メチルターシャリーブチルエーテル、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、1,3−ジオキソラン、2−メチルテトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)、アセトニトリル、プロピオニトリル、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。より好ましいものとしては、アセトン、NMP、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられ、特にNMPを使用することが好ましい。
【0043】
本発明の有機ケイ素化合物の具体的な製造例を、方法1〜方法3として、以下に、反応の概要図を示して説明する。
<方法1>
方法1では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の二無水物をモル比1:1で反応させて中間体(S)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比1:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(S)となる。一般式(3)中のR4がアミノ基である化合物[(C)成分]が、該中間体(S)と反応した場合、中間体(S)の酸無水物の部位と、(C)成分のアミノ基の部位が反応し、アミド結合が形成され、中間体(S2)が得られる。そして、下記に示したように、得られた中間体(S2)の−Si(OR3)3基から脱R3OHをし、分子間で重合することで本発明品である有機ケイ素化合物が得られる。以下に、上記した方法1における反応の概要を示す。
【0044】

【0045】
<方法2>
方法2では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の二無水物をモル比2:1で反応させて中間体(T)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比2:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(T)となる。一般式(3)中のR4がイソシアネート基である化合物[(C)成分]と、該中間体(T)とが反応した場合、中間体(T)の−COOHの部位と、(C)成分のイソシアネートの部位が反応し、二酸化炭素の放出を伴ってアミド結合が形成され、中間体(T2)が得られる。この中間体(T2)は、中間体(T)の構造によって位置異性体となる。そして、下記に示したように、得られた中間体(T2)の−Si(OR3)3基から脱R3OHし、分子間で重合することで本発明品の有機ケイ素化合物が得られる。以下に反応の概要を示す。
【0046】

【0047】
<方法3>
方法3では、(A)成分と、(B)成分のテトラカルボン酸の一無水物をモル比1:1で反応させて中間体(U)とするが、(A)成分と(B)成分のモル比1:1での反応は、(B)成分の酸無水物部位と(A)成分のアミン部位が反応し、中間体(U)となる。一般式(3)中のR4がイソシアネート基である化合物[(C)成分]と、該中間体(U)とが反応した場合、中間体(U)のカルボン酸の部位と、(C)成分のイソシアネートの部位が反応し、アミド結合が形成され、中間体(U2)が得られる。なお、中間体(U)に反応部位が複数ある場合には、中間体(U2)は、異性体の混合物として得られる。また、該中間体(U2)は、中間体(U)の構造により位置異性体となる。そして、下記に示したように、得られた中間体(U2)の−Si(OR3)3基から脱R3OHし、分子間で重合することで本発明品の有機ケイ素化合物が得られる。以下に反応の概要を示す。
【0048】

【0049】
本発明の有機ケイ素化合物の用途は、特に限定されないが、例えば、無機−無機材料、無機−有機材料、無機−無機有機複合材料等の異なる材料間の密着性を向上させる必要がある用途/手法の他、無機、有機、無機有機複合材料の改質や、金属の防錆用途等に利用することができる。
【0050】
シランカップリング剤として機能し得る本発明の有機ケイ素化合物が適用可能な具体的なプロセスとしては、下記のものが挙げられる。例えば、本発明の有機ケイ素化合物は、無電解めっき、電解めっき、化学気相成長法(CVD)、原子層堆積法(ALD)、物理気相堆積法(PVD)、有機金属分解法(MOD)、微粒子コーティング、印刷、その他、各種の無機、有機材料の塗布・コーティング・成膜等に使用することが可能であり、具体的には、例えば、ハケ塗り、ローラー塗り、スプレー、電着、静電、浸漬等の操作で、堆積層と基板(被堆積体)との間に密着性が求められる用途で、本発明の有機ケイ素化合物をシランカップリング剤として使用することが有用である。特に本発明の有機ケイ素化合物は、下記に述べるように無電解めっきの前処理剤として有用である。
【0051】
本発明の別の実施形態である無電解めっきの前処理方法について説明する。該方法は、被めっき体に無電解めっきをする際に、被めっき体に、上記で説明した本発明の有機ケイ素化合物によって前処理を施すことを特徴とする。本発明の有機ケイ素化合物は、少なくともその1種をそのまま使用してもよいが、水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、酢酸エチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等から選ばれる溶剤で0.001〜20質量%になるように希釈し、この液に金属を浸漬させる等の方法で塗布することが簡便で好ましい。尚、本発明の有機ケイ素化合物は、単独で用いてもよいが、複数の有機ケイ素化合物が混合した状態で用いてもよい。
【0052】
本発明の有機ケイ素化合物を上記したような溶剤に溶解させた溶液に、被めっき体を浸漬させる場合の温度および浸漬時間は特に限定されないが、例えば、20℃〜60℃で行うことが好ましく、その浸漬は0.1分〜5分間行うことが好ましく、更には0.1分〜3分間行うことがより好ましい。
【0053】
また、本発明の有機ケイ素化合物を溶解させた溶液中の有機ケイ素化合物の濃度は特に限定されないが、0.01質量%〜5質量%になるように希釈して使用することが好ましく、0.5質量%〜1.5質量%とすることがより好ましい。尚、本発明の有機ケイ素化合物は、単独で上記したような溶剤に溶解して用いてもよいが、複数の有機ケイ素化合物を上記したような溶剤に溶解して混合物溶液として用いてもよい。
【0054】
本発明の前処理方法では、例えば、本発明の有機ケイ素化合物を使用する上記に挙げたような具体的手段によって、被めっき体に無電解めっきをする際に、被めっき体に前処理を行い、その後に被めっき体に金属めっきをして堆積層を形成させる。このようにして本発明の有機ケイ素化合物で前処理することで、その後に被めっき体に金属めっきをして堆積層を形成させた場合に、本発明の有機ケイ素化合物の構造中の−OH基等の極性の高い親水性の官能基やアゾール部位は金属原子に対して配位しやすいため、基材と堆積層の密着性を向上させることができる。
【0055】
本発明の前処理方法で使用する被めっき体としては、特に制限はないが、例えば、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム等の金属、又ステンレス等のこれらの金属の合金、ポリシロキサンポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリカーボネート、ポリヘキサメチレンアジパミド、ノルボルネン樹脂、ニトロセルロース、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム等の合成樹脂、ガラス、シリカ、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ヒドロキシアパタイト、蛍石、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、コーディエライト、サイアロン、マシナブルセラミックス等のセラミックスが挙げられ、1種又は2種以上が選択される。特に、無電解めっき後の密着性の改善効果が高いため、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、ステンレス、セラミックス、合成樹脂が好ましく、銅、アルミ、ステンレス、ガラスがより好ましく、ガラスが更に好ましい。2種以上併用する場合は、合成樹脂を上記の好ましい条件で使用できる被めっき体と少なくとも一つ組み合わせて使用することが好ましい。尚、上記に挙げた被めっき体は粗面化処理されていても、粗面化処理されていなくてもよい。
【0056】
本発明の前処理方法において被めっき体を前処理した後にめっきに使用する無電解めっき液は、公知のものを使用することが可能であり、めっき液に使用できる金属は特に限定されない。例えば、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、パラジウム、タングステン、白金、ロジウム或いはルテニウム等が挙げられ、これらは2種以上を併用してもよい。
【0057】
本発明の無電解めっきの前処理方法を使用して製造される、めっきが施された製品は特に限定されないが、例えば、自動車工業材料(ヒートシンク、キャブレータ部品、燃料注入器、シリンダー、各種弁、エンジン内部等)、電子工業材料(接点、回路、半導体パッケージ、プリント基板、薄膜抵抗体、コンデンサー、ハードディスク、磁性体、リードフレーム、ナット、マグネット、抵抗体、ステム、コンピューター部品、電子部品、レーザー発振素子、光メモリ素子、光ファイバー、フィルター、サーミスタ、発熱体、高温用発熱体、バリスタ、磁気ヘッド、各種センサー(ガス、温度、湿度、光、速度等)、MEMS等)、精密機器(複写機部品、光学機器部品、時計部品等)、航空・船舶材料(水圧系機器、スクリュー、エンジン、タービン等)、化学工業材料(ボール、ゲート、プラグ、チェック等)、各種金型、工作機械部品、真空機器部品等、広範なものが挙げられる。本発明の無電解めっきの前処理方法は、特に無電解めっきと被めっき体との密着性が求められる電子工業材料に使用することが好ましく、中でも、半導体パッケージ、プリント基板の製造においてめっき処理を施す際に使用することがより好ましく、半導体パッケージが更に好ましい。
【0058】
無電解めっきを使用した半導体製造におけるビルドアップ法は、通常は、めっきスルーホール法によって作られたコア層の上に、絶縁層と導体層を交互に積み上げ、多層配電層を形成し、ビルドアップ基板を形成する方法であり、従来の張り合わせ型のプリント基板と比較し、微細な配線パターンを高密度に収容できる点で特徴がある。ビルドアップ基板の製造方法は特に限定されないが、例えば、まず、ソフトエッチングした被めっき体(基板)に対して、粗化を目的としてクロム酸−硫酸水溶液等でエッチング処理を行った後、被めっき体と堆積層の密着性を向上させる目的で、本発明の有機ケイ素化合物を用いた、カップリング剤を含有する水溶液に被めっき体を浸漬させる。その後、プレディップとしてパラジウム化合物等の金属化合物を含有する水溶液を用いて触媒を付与する。その後、無電解めっきを行い、引き続いて電解めっきを行う方法がよく知られている。
【実施例】
【0059】
以下、実施例等を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等により限定されるものではない。尚、以下の実施例等において「%」は特に記載が無い限り質量基準である。
【0060】
本発明で規定する一般式(1)の化合物〔(A)成分〕、一般式(2)の化合物〔(B)成分〕および一般式(3)の化合物〔(C)成分〕として、それぞれ下記の化合物を使用した。
【0061】
(A)成分
A−1:1−(3−アミノプロピル)イミダゾール
A−2:4−アミノ−1,2,4−トリアゾール
A−3:3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール
A−4:3−アミノ−5−メチルチオ−1H−1,2,4−トリアゾール
(B)成分
B−1:メソ−ブタン1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物
B−2:1,2,3,4−シクロペンタン−テトラカルボン酸二無水物
B−3:ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物
B−4:無水トリメリット酸
B−5:シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物
(C)成分
C−1:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
C−2:3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン
C−3:3−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン
【0062】
<有機ケイ素化合物の合成>
下記製造例1−1においては、本発明の有機ケイ素化合物の合成例を示した。
[製造例1−1]化合物No.1の合成
化合物No.1は下記のように合成した。
NMP(51.17g)に、B−1の化合物であるメソ−ブタン1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物(5.94g、0.03mol)を45℃で溶かした。その後25℃に冷却し、同温で、A−1の化合物である1−(3−アミノプロピル)イミダゾール(3.76g、0.03mol)/NMP(3.76g)溶液を5分かけて滴下した。滴下終了後、25℃で30分間撹拌した。撹拌後、25℃で、C−1の化合物である3−アミノプロピルトリメトキシシラン(5.38g、0.03mol)/NMP(5.38g)溶液を5分かけて滴下した。滴下終了後、25℃で30分間撹拌し、ガスクロマトグラフィー(以下、GCと略記)で、3−アミノプロピルトリメトキシシランの消失を確認して反応終了とし、本発明品の化合物No.1を得た。
【0063】
[製造例1−2〜1−3]化合物No.2および化合物No.3の合成
上記の製造方法1−1と同様の方法で、各化合物を表1の比率に従って用いて、化合物No.2および化合物No.3をそれぞれ合成した。
【0064】
[製造例1−4]化合物No.4の合成
化合物No.4は下記のように合成した。
NMP(47.52g)に、B−4の化合物である無水トリメリット酸(5.76g、0.03mol)を25℃で溶かした。水浴で20℃に冷却しながら、A−1の化合物である1−(3−アミノプロピル)イミダゾール(3.76g、0.03mol)/NMP(3.76g)溶液を5分かけて滴下した。滴下終了後、20℃で30分間撹拌し、60℃まで昇温した。その後、C−2の化合物である3−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン(6.16g、0.03mol)/NMP(6.16g)溶液を5分かけて滴下した。滴下終了後、95℃まで昇温し、2時間撹拌し、GCで3−イソシアナトプロピルトリメトキシシランの消失を確認して反応終了とし、本発明品の化合物No.4を得た。
【0065】
[製造例1−5〜1−10]化合物No.5〜化合物No.10の合成
上記の製造方法1−4と同様の方法で、かつ、各化合物を表1の比率に従ってそれぞれに用いて、化合物No.5〜化合物No.10の化合物を合成した。
【0066】
上記で製造した化合物No.1〜No.10の重量(質量)平均分子量を下記の条件で測定し、結果を表1に示した。
(分子量測定条件)
分子量測定装置:Shodex社製、GPC−101
カラム:Shodex社製、GPC KD−806M
分子量マーカー:標準ポリスチレン(0.2g/L)
【0067】

【0068】
市販或いは合成した下記の化合物をそれぞれ比較化合物No.1〜No.8とし、比較に使用した。
比較化合物No.1:3−アミノプロピルトリメトキシシラン
比較化合物No.2:3−アミノプロピルトリエトキシシラン
比較化合物No.3:3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン
比較化合物No.4:N−(3−トリエトキシシリルプロピル)−4,5−ジヒドロイミダゾール
比較化合物No.5:3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン
比較化合物No.6:2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン
比較化合物No.7:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン
比較化合物No.8:特公平7−68256号公報の段落[0022]の記載に従い、下記の比較製造例1−1のようにして合成した。
【0069】
[比較製造例1−1](比較化合物No.8)
イミダゾール3.4g(0.05mol)を95℃で融解し、アルゴン雰囲気下で撹拌しながら、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン11.8g(0.05mol)を30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに95℃の温度で1時間反応させた。
【0070】
<有機ケイ素化合物を用いた前処理方法>
上記で得た本実施例の有機ケイ素化合物、比較のための比較化合物をそれぞれに使用して、無電解めっきの前処理を行った後、無電解めっきを行った。その際に、被めっき体として、下記の材質の異なる3種の評価基板(90mm×50mm×0.4mm)をそれぞれ用いた。
D−1:FR−4(Ra≒1.3μm、パナソニック電工社製の銅張積層板の銅をエッチング除去したもの)
D−2:ガラス(ソーダ石灰ガラス)
D−3:ステンレス(SUS304)
【0071】
[製造法2−1]
実施例の化合物No.1〜No.10および比較化合物No.1〜No.8の各有機ケイ素化合物を、1質量%の濃度で含む各水溶液500mlをそれぞれ用意した。用意したそれぞれの水溶液に評価基板D−1〜D−3をそれぞれ、40℃で5分間浸漬した。浸漬後、プレディップ(25℃、1分)、活性化(35℃、5分)、水洗(25℃、1分)、還元(30℃、5分)、水洗(25℃、1分)の順に行い、無電解めっきの前処理を行った。
【0072】
次に、上記のようにして前処理をした評価基板D−1〜D−3と、前処理を行っていない評価基板D−1〜D−3を、表5のようにしてそれぞれ用い、下記の製造法3−1〜製造法3−4に従って、無電解めっきおよびこれに続く電解めっきを行って、基板上にめっきした。
【0073】
[製造法3−1]
市販の無電解銅めっき溶液(アトテック社製、製品名:MSK−DK)を使用し、めっき浴を32℃に調節した。該めっき浴中に、上記製造法2−1で前処理した基板又は前処理を行っていない基板を浸漬し、空気撹拌下、20分間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は1μmである。これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、150℃で30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解銅めっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥して、めっき物を得た。
【0074】
[製造法3−2]
下記表2に記載の成分が含有されている無電解ニッケル浴を調製し、浴の温度を60℃に調節して、上記製造法2−1で前処理した基板又は前処理を行っていない基板を浸漬し、空気撹拌下、2時間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は8.3μmである。これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解ニッケルめっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥して、めっき物を得た。
【0075】

【0076】
[製造法3−3]
下記表3に記載の成分が含有されている無電解スズ浴を調製し、浴の温度を80℃に調節して、上記製造法2−1で前処理した基板又は前処理を行っていない基板を浸漬し、空気撹拌下、2時間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は0.8μmである。これを、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解スズめっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃、30分乾燥して、めっき物を得た。
【0077】

【0078】
[製造法3−4]
下記表4に記載の成分が含有されている無電解銀浴を調製し、浴の温度を25℃に調節して、上記製造法2−1で前処理した基板又は前処理を行っていない基板を浸漬し、浴を撹拌しながら、10%グルコース水溶液を7分かけて滴下した。滴下終了後、30分間撹拌し、無電解めっきした。その際のめっき厚は0.6μmである。これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥し、10%硫酸に1分間浸漬した。そして、この無電解銀めっき上に、電解銅めっきを20μm形成し、その後、これを水洗(25℃、1分)した後、恒温槽内で、180℃で30分乾燥して、めっき物を得た。
【0079】

【0080】
[実施例4−1〜4−15、比較例4−1〜4−18]
上記した製造例3−1〜製造例3−4の各製造法によりめっきを施した各基板について、ピール強度を下記の条件で測定し、結果を表5にまとめて示した。なお、ピール強度の数値が高いほど、電解めっき後の被めっき体(評価基板)とめっき膜が剥離しにくく、密着度が高いことが分かる。
【0081】
測定装置:島津製作所社製 卓上試験機EZ−S使用
・ ピール速度:50mm/min
・ 試料サイズ:5mm幅
【0082】

【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明で提供する有機ケイ素化合物は、環境負荷が少ない水系シランカップリング剤として有効に機能するため、ハケ塗り、ローラー塗り、スプレー、電着、静電、浸漬等の操作で、堆積層と基板(被堆積体)との間に密着性が求められる各種用途に適用することで、良好な膜の密着性の実現を可能にする。このため、本発明の有機ケイ素化合物は、無電解めっき、電解めっき、化学気相成長法(CVD)、原子層堆積法(ALD)、物理気相堆積法(PVD)、有機金属分解法(MOD)、微粒子コーティング、印刷、その他、各種の無機、有機材料の塗布・コーティング・成膜等に適用することで膜の密着性を高めることができ、その広範な活用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物と、テトラカルボン酸一無水物、テトラカルボン酸二無水物およびトリカルボン酸一無水物からなる群から選ばれる少なくとも1種類のポリカルボン酸無水物との反応生成物である中間体を、更に下記一般式(3)で表される化合物と反応させて得られる最終生成物であることを特徴とする有機ケイ素化合物。

(上記式(1)中、Aは窒素原子を含む炭素数3〜7の複素環基を表し、Z1は、直接結合を表すか又は炭素原子数1〜10のアルキレン基を表す。)

(上記式(3)中、R3は炭素原子数1〜12の炭化水素基を表し、R4は、−NH2、−NCO、イミダゾリル基又はトリアゾリル基を表し、Z2は炭化水素数1〜10のアルキレン基を表し、かつ、該アルキレン基は、−NH−、−O−又は−S−で中断されていてもよい。)
【請求項2】
前記ポリカルボン酸無水物が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の有機ケイ素化合物。

(上記式(2)中、R1およびR2は結合して酸無水物を形成する基を表すか、或いは、R1およびR2のうちの一方が−COOH基を、他方が水素原子、炭素原子数1〜12の炭化水素基および−COOH基から選ばれるいずれかの基を表し、Xは、−CO−、−O−、−SO2−又は窒素原子で中断されてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
前記Xは、下記一般式(B−1)〜(B−5)から選ばれるいずれかを表す請求項2に記載の有機ケイ素化合物。

【請求項4】
前記Aは、アゾール基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
前記中間体である反応生成物における前記一般式(1)で表される化合物と前記ポリカルボン酸無水物との反応比は、該反応生成物と反応させる前記一般式(3)で表される化合物の構造中のR4によって下記のように決定されており、
(i)一般式(3)中のR4が、−NH2、イミダゾリル基又はトリアゾリル基の場合は、一般式(1)で表される化合物のモル数/ポリカルボン酸のモル数=1.5/1〜1/1.5、
(ii)一般式(3)中のR4が−NCOの場合は、
一般式(1)で表される化合物のモル数/(ポリカルボン酸のモル数×1分子内の酸無水物の数)=1.5/1〜1/1.5、
かつ、前記最終生成物における一般式(1)で表される化合物と前記一般式(3)で表される化合物との比が、モル比で、一般式(1)で表される化合物/一般式(3)で表される化合物=1.5/1〜1/1.5である請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機ケイ素化合物。
【請求項6】
被めっき体に無電解めっきをする際に、被めっき体に、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機ケイ素化合物によって前処理を施すことを特徴とする無電解めっきの前処理方法。
【請求項7】
前記無電解めっきに使用するめっき液の金属が、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、パラジウム、タングステン、白金、ロジウムおよびルテニウムからなる群より選択される1種又は2種以上である請求項6に記載の無電解めっきの前処理方法。
【請求項8】
前記被めっき体が、銅、銀、金、亜鉛、ニッケル、スズ、コバルト、クロム、ステンレス、セラミックスおよび合成樹脂からなる群より選択される1種又は2種以上である請求項6又は7に記載の無電解めっきの前処理方法。

【公開番号】特開2013−1935(P2013−1935A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132776(P2011−132776)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】