説明

木材のプレス成形装置および木材を立体状に成形加工する方法

【課題】単純な機構で低コストで構成され、小さな圧力から連続して大きな圧力を印加できる木材のプレス成形装置を提供する。
【解決手段】大きな圧力を発生させる加圧シリンダー1と、成形する上下金型2b,2aと、可動側の金型2bを上下方向に平行に移動させるダイセット装置3bと、この可動側のダイセット装置3bと加圧シリンダー1の間に配置されたスプリング4とで構成された、薄板状の木材シート8を立体形状に成形するプレス成形装置であって、加圧シリンダー1の降下でスプリング4に荷重が印加され、このスプリング4のばね力で可動側のダイセット装置3bが降下し、金型2a,2b内に配置された木材シート状の被成形物8を加圧し、所定の時間スプリング4による被成形物8の加圧が行われた後、更に加圧シリンダー1を降下し続けて、可動側のダイセット装置3bに加圧シリンダー1による圧力が直接作用して所定の時間加圧されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状の木材を立体状に加工するための木材のプレス成形装置および木材を立体状に成形加工する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然の木材を用いた製品は、家具、室内照明などの様々な用途に用いられている。また、最近では、家電製品の筐体やスピーカの素材に木を用いる場合もある。室内環境をより自然に近くすることで、おちつき、ゆとりを得る空間となることから、木材製品の重要性がますます増加してきている。さらに、近年の環境問題の観点から、従来樹脂などの石油材料から作られるものを、たとえば木の間伐材などに置き換えることで、化石資源の使用量低減とともに木材固化による二酸化炭素排出低減による環境配慮を積極的に進めるべき状況に来ている。
【0003】
一般に、木材の立体形状のものは、無垢の木材を削り出して加工することで作製される。しかしながら、この方法では、多くの木材を使用することになり、森林資源の維持の点からも良くはない。また、削り出し加工では、1個づつ加工するので、加工コストを低減することは難しく、特にその形状が複雑であれば、ろくろ、旋盤などではなく、NC加工機などを用いる必要があるため、余計にコストがかかると言う問題があった。
【0004】
その為、薄くスライスした木材を丸めたり、立体形状にプレス加工するなどの方法が提案されている。
【0005】
薄い木材を立体的にプレス加工をする技術の一つとして、木材を用いたスピーカーの振動板が、薄い突き板で加工する技術が提案されている。この技術では、突き板の曲面成形における割れを防止するために、木と紙を張り合わせたシートに潤滑材を含浸させて木を柔らかくし、プレス成形時の割れを防止するというものである。
【0006】
具体的には、柔軟材(日本酒など)で軟化させた木をプレスで成形し、水分を蒸発させると共に仮成形する。その後、木の形状をより安定化させるために、木に熱硬化性樹脂を含浸させ、複数回に分けて高温プレス成形を行っている。
【0007】
また、木材を水蒸気雰囲気におき、高温高圧下でプレスによる圧縮成形加工する方法、および装置が提案されている。この技術は、スギやヒノキなどの原木を高温高圧・高湿度下で圧縮し、木材内の導管をつぶして空隙をなくしつつ、高温状態を維持することでその圧縮形状を固化させる方法およびプレスの装置技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−38499号公報
【特許文献2】特開2001−150406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述の木材を高温高圧下で圧縮する方法およびプレス装置では、スギやヒノキなどの比較的木材繊維密度が低い針葉樹において可能であり、広葉樹など木材繊維密度が高めの木材に適用することは難しい。また、高温化で木材の形状固定化するためには、長時間圧力を保持しながら温度を降下させてゆく必要があり、1個の製品が成形できるまでの時間が長いという問題があった。
【0010】
また、前述の薄いツキ板をプレスで曲げながら立体成形する方法では、立体形状を固定化するために例えば熱硬化の樹脂を含浸させて固化成形する方法が取られている。しかしながら、薄いツキ板を立体状に成形する際、直接曲げようとすると割れが生じてしまうため、まずは木材を柔らかくする必要がある。その手段として、水蒸気成分、特に前記の従来技術では、木材を日本酒に浸してから加熱することで柔らかくしてから成形する方法がとられている。この場合は、まず、最初のホットプレスにて、プレスしながら水分を蒸発させて仮成形し、その後、フェノールなどの熱硬化性樹脂を表面から浸透させて、再度ホットプレスにて樹脂を硬化させて形状を維持できるようにしている。
【0011】
ここで、最初のホットプレスでは、水分を蒸発させるために低い圧力でプレスしなければならない。低い圧力であれば、加圧中にも木材内の水分が放出されやすいからで、高い圧力でプレスすると、水蒸気が金型内で封じ込められて膨張するので、圧力開放時に水蒸気爆発を起こし、木材成形品が破損してしまう。逆に、フェノール樹脂で木材成形体をプレス硬化させる工程では、高い圧力をかけなければ、樹脂成分が木材の内部に浸透せず、十分な形状維持ができない。我々の実験では、最初の水分蒸発のためのホットプレスには、空気圧程度の数kgf/cm、樹脂成分硬化のためのホットプレスには油圧力レベルの数十kgf/cmが必要であり、その圧力は10倍近い差が必要であった。
【0012】
さらに、木材の水蒸気軟化と樹脂の浸透を一度の加熱プレスで行う技術が提案されている。この技術では、前述の成形加工方法に比べて低コストで成形が出来るという利点がある。しかしながら、やはり水蒸気が十分に蒸発するまでは高い圧力をかけることは出来ず、そのため、木材部分が非常に薄い厚み(例えば、100ミクロン以下)でなければ樹脂成分が木材部に十分浸透しない。したがって、0.2mmくらいの厚みのツキ板では、樹脂硬化には不十分であった。高い圧力を小刻みに加え、ガス成分を追い出しながらプレス加工を行うことである程度水蒸気爆発をなくすことは可能であるが、成形体の内部に気泡が残りやすく、成形体が部分的に膨らんだような不良を発生してしまう場合はあった。したがって、本技術においても、木材部分への樹脂浸透を十分に行って成形体を得るためには、低い圧力で水蒸気などのガス成分を抜きながら仮成形するプレス工程と、高い圧力で樹脂成分を木材内部に十分浸透させて成形硬化させるプレス工程との2工程による処理が必要であった。
【0013】
以上のように、薄い木材シートを安定した形状で立体成形するためには、ホットプレスにおいて少なくても低い圧力での加圧と高い圧力での加圧での2工程の処理が必要であった。プレスにおいて、圧力を制御、変化させる手段としては、サーボプレス装置による加圧が一般的である。サーボプレスは、コンピューター制御により、たとえば加圧しながらその圧力値をモニターしつつ、圧力バルブを調整して所定の圧力を維持する、または所定の圧力に変化するように制御して、圧力値を制御しながら高精度のプレス加工を行う装置である。そのほか、プレスの降下スピードを精密に制御しながらプレスすることで、金属板の深い絞り加工など、より困難な形状の成形加工が可能である。このように、サーボプレスは圧力調整、降下速度調整の精密制御が可能なので、上述のような木材のプレス成形に用いれば、圧力を低くして水分を放出しながら加熱プレスする工程と、圧力を高くして樹脂を木材へ浸透させながら硬化させる加熱プレス工程を、一度のプレス工程で圧力制御によって実現することが可能となる。
【0014】
一方で、サーボプレスはコンピュータによる制御方式なので、電気回路などの故障や不具合が発生して暴走したりする恐れがあり、特にプレス装置は安全面が重視されるので、フェイルセーフ機構などが必要となり、装置が非常に高価になるという問題があった。また、木材成形に用いる場合は、水蒸気や樹脂からのガス成分が発生するため、装置への錆びや、電気回路の腐蝕などを引き起こす可能性があった。
【0015】
上記問題点を鑑み、本発明にあっては、単純な機構で構成され、コンピューター制御などの必要が無く、装置が低コストで構成される、小さな圧力から連続して大きな圧力を印加することの出来る、木材のプレス成形装置および木材を立体状に成形加工する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の態様は、圧力を発生させるための加圧シリンダー(1)と、成形するための上、下金型(2b、2a)と、前記金型の可動側の金型(2b)を上下方向に平行に移動させるためのダイセット装置(3b)と、前記ダイセット装置の可動側(3b)と、前記加圧シリンダー(1)との間に配置されたスプリング(4)と、を備え、前記加圧シリンダー(1)の降下によって、前記スプリング(4)に荷重が印加され、そのスプリング(4)のばね力によって前記ダイセット装置の可動側(3b)が降下し、金型(2a、2b)内に配置された木材のシート状の被成形物(8)を加圧し、所定の時間前記スプリング(4)による被成形物(8)の加圧が行われたあと、さらに前記加圧シリンダー(1)を降下し続けることによって、前記ダイセット装置の可動側(3b)に前記加圧シリンダー(1)が直接作用して、所定の時間加圧することを特徴とする木材のプレス成形装置であることを要旨とする。
【0017】
本発明の他の態様は、前述の木材のプレス成形装置であって、前記加圧シリンダー(1)が降下して、前記ダイセット装置の可動側(3b)が前記スプリング(4)により荷重が印加されて前記木材のシート状の被成形物(8)へ加圧したのち、前記加圧シリンダー(1)が前記ダイセット装置の可動側(3b)に直接作用するまでの間に、前記加圧シリンダー(1)は複数回上下往復動作を行い、前記スプリング(4)による被成形物(8)への加圧、圧力開放を繰り返した後、前記加圧シリンダー(1)が直接前記ダイセット装置の可動側(3b)へ到達させて、前記被成形物(8)への加圧を行うことを特徴とする木材のプレス成形装置であることを要旨とする。
【0018】
本発明の他の態様は、前述の木材のプレス成形装置であって、前記加圧シリンダー(1)の加圧面は少なくとも2段の高さの面(1a、1b)を有し、前記スプリング(4)は、前記ダイセット装置の可動側(3b)の面と、対向する前記加圧シリンダー(1)の加圧面のより遠い側の面(1b)との間に配置されたことを特徴とする木材のプレス成形装置であることを要旨とする。
【0019】
本発明の他の態様は、シート状の木材(8)を立体状に成形加工する方法であって、シート状の木材層(8A)と、繊維材料を含むシート状の基材層(8B)と、前記2層のうち少なくとも一方の層(8B)に浸透された熱可塑型、もしくは熱硬化型の樹脂材料(W)と、が重ねられた積層体(8A、8B)に、水蒸気などの高温水分を含ませて、前記積層体(8A、8B)を軟化させる工程と、前記積層体(8A、8B)に、所定の温度に加熱されたプレス成形の金型(2a、2b)にセットする工程と、前記積層体(8A、8B)を金型(2a、2b)で第1の圧力で所定の時間加圧し、積層体(8A、8B)を立体状に曲げつつ、前記水蒸気および樹脂材料から発生するガスを放出させる工程と、前記金型(2a、2b)を、前記水蒸気および樹脂から発生するガスの放出が略終了したのち、第1の圧力よりも高い第2の圧力を、所定時間印加する工程と、もしくは、前記ガスの放出量の低下に伴い第1の圧力を徐々に上げて、前記ガスの放出が略終了した時点から、第1の圧力もしくは第1の圧力からの上昇後の到達圧力よりも高い第2の圧力で、所定の時間加圧する工程と、所定の時間加熱加圧後、金型から被成形物(8)を開放する工程と、からなることを特徴とする木材を立体状に成形加工する方法であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高圧力を発生させる主のシリンダーと、このシリンダーからの降下圧力によって押されながら低圧力を発生させるスプリングとから構成され、被成形物を成形するための金型およびダイセット装置が、最初に低圧力を発生させるスプリングによる加圧で水蒸気成分を放出させながら加圧し、水蒸気成分や樹脂から発生するガス成分が発生し終わったときに主のシリンダーからの高い圧力で加圧印加されて樹脂浸透できるので、主シリンダーの降下速度の設定のみで内部にガス溜まりが残ることなく成形加工ができ、サーボによる制御が必要でなく、また装置構成が非常に単純なので、低コストで安全性の高い木材の成形用プレス装置を提供することが出来る。また、本プレス方法を用いれば、1回のプレス工程で成形が可能な木材の加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るプレス成形装置を示す正面図である
【図2】(a)〜(d)は本発明の実施の形態のプレス成形装置の一連の動作を示す図である。
【図3】(a)〜(e)は本発明の実施の形態の第2変形例に係るプレス成形装置の一連の動作を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は本発明の実施の形態の第3変形例に係るプレス成形装置の一連の動作を示す図である。
【図5】(a),(b)は本発明の実施の形態の第4変形例に係るプレス成形装置に用いるスプリングの高さ位置調整の比較図である。
【図6】本発明の実施の形態の第5変形例に係るプレス成形装置を示す正面図である。
【図7】(a)〜(j)は本発明の実施の形態に係る木材成形体の製造方法を順に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態に係る木材シートのプレス成形装置を示す正面図である。図2は、プレス装置が一連の動作を行うサイクルを示した図である。
【0024】
本発明の実施の形態に係る木材のプレス成形装置は、高圧力を発生させる主シリンダー(加圧シリンダー)1、プレス成形を行うための雌型の下金型2aと雄型の上金型(可動側の金型)2b、下金型2aに固定された固定側のダイセット装置3a、上金型2bを固定し、上金型2bをずれないように上下動作させるための可動側のダイセット装置3b、主シリンダー1と可動側のダイセット装置3bとの間に配置されたスプリング4、主シリンダー1に圧力を伝達するための油圧ポンプ5、金型部分に設けられた加熱機構のヒーター6および木材の成形時軟化方法としての水蒸気成分噴出機構7、とで構成される。また、動作制御機構として、油圧力を調節する油圧弁としての油圧力調整バルブ1A、主シリンダー1の降下・上昇スピードを調節する油圧弁としての速度調整バルブ1Bを有している。なお、図1中符号9はダイセット吊り下げ鎖である。
【0025】
プレス前の初期段階では、図2(a)に示すように、主シリンダー1と可動側のダイセット装置3bは離れて配置されているが、主シリンダー1の降下・上昇に合わせて可動側のダイセット装置3bが上下方向に動作するように設置されている。具体的には、たとえば、可動側のダイセット装置3bは主シリンダー1の一部に鎖9などで連結されており、主シリンダー1が降下すれば可動側のダイセット装置3bが降下して上下金型2b,2aが重なり合うようになっている。
【0026】
まず、被成形物である木材シート8を上,下金型2b,2aの間にセットする。このとき、木材シート8は軟化させるために水蒸気成分噴出機構7によって水蒸気もしくは水分などが含有されている。セット後、図2(b)に示すように、主シリンダー1を降下させると、下金型2aとの間に被成形物8を挟み込むように可動側のダイセット装置3bおよび上金型2bも降下する。そして、被成形物8は最初に可動側のダイセット装置3bおよび上金型2bの自重で加圧され、各金型2a,2bの形状にある程度沿うように変形する。このとき、各金型2a,2bはヒータ6で所定の温度で加熱されているので、被成形物8に含有された水分などが蒸発して行くが、被成形物8に加わる圧力は金型部分の自重だけなので、被成形物8の厚みなどにもよるが、まだ完全に金型形状に沿った形にはならず、上下金型2b,2a間の隙間も広いので、その隙間から蒸気は放出される。
【0027】
さらに、図2(c)に示すように、主シリンダー1を降下させてゆくと、スプリング4が主シリンダー1の降下によってそのばね力で可動側のダイセット装置3bおよび上金型2bに圧力を加える。主シリンダー1が降下するほど、スプリング4は圧縮されるので、ダイセット装置3bおよび金型2b側の圧力は徐々に大きくなってゆき、木材部分は金型に沿うようにして曲げられてゆく。なお、木材は、0.1〜0.3mm程度の厚みのシート状であれば、比較的弱い圧力でも十分に曲げ加工が可能である。このときのスプリング4により加わる力は、簡単なフックの法則に従い、F=kx(F:発生力 x:バネの縮み量 k:バネ定数)となり、主シリンダー1の降下によりスプリング4が縮むに従い力が強くなってゆく。この間、被成形物8への加圧力は徐々に上昇してゆくが、圧力が小さいうちは被成形物8内の水蒸気成分は金型2a,2b周囲から放出することが可能であり、また水蒸気は金型2a,2bからの熱で徐々に放出されるが、その放出量は時間がたつに従い減っていくと同時に圧力が徐々に大きくなるので、より効率的に水蒸気成分を放出できる。スプリング4による加圧力は油圧力などに比べてはるかに小さいので、初期段階で非常に小さな圧力で被成形物8を加圧することが可能である。木材部分は水分が多く含まれるほど曲げたときに割れにくくなるが、本方法のように小さなから徐々に圧力を上げていけば、木材を割れずに曲げつつ、金型隙間から水蒸気を放出させることが可能になる。
【0028】
水蒸気成分を放出するための時間は、金型温度やスプリング4による加圧力などにより変化するので、たとえば主シリンダー1の降下スピードを調整することによって、十分な水蒸気成分の放出時間の確保が可能である。
【0029】
被成形物8内の水蒸気成分などが十分に放出されたのち、図2(d)に示すように、続けて主シリンダー1が降下してゆくと、可動側のダイセット装置3bおよび上金型2bはスプリング4による加圧の圧力から、主シリンダー1が直接可動側のダイセット装置3bを加圧する大きな圧力に切り替わる。もし、被成形物8の中に水分や樹脂から発生するガス成分が残っていた状態で大きな圧力を加えると、気体化して膨張したガスが抜けることが出来なくなり、圧力を開放したときにいわゆる水蒸気爆発を起して被成形物8が破損したり、もしくは被成形物8の中にガスが残って積層した層間で空洞が発生したりしてしまう。従って、被成形物8に大きな圧力が加わるときには、内部のガス成分を十分に除去した状態にすることが重要である。
【0030】
被成形物8に大きな圧力が加わると木材部分が押しつぶされるとともに、基材層8Bもしくは木材その部分に浸透させた熱硬化性樹脂も強く押されて木材の繊維間空洞部分に浸透しながら熱によって硬化する。ここで、加える圧力は、樹脂の濃度や木材部分の厚み、加熱温度などに応じて、樹脂成分が木材部分全体にまで浸透する条件を設定する。所定の圧力、時間で加熱加圧が終了すれば、圧力を開放して被成形物8を取り出す。このようにして、1回のプレス工程で、木材の成形体を加工することが出来る。
【0031】
ここでは、樹脂成分を木材に浸透させつつ形状固定する成形方法を示したが、そのほかに、例えばスギやヒノキなどの比較的やわらかい樹種を樹脂材料を用いずに高温高圧で長時間圧縮成形して形状固定するような方法においても、初期の曲げ加工には水分を含ませることで割れにくくなるため、同様の作用をもたらす。
(第1変形例)
第1変形例(請求項2に相当)は、装置構成は図1とほぼ同じである。その主シリンダー(加圧シリンダー)1の動作が、図3(a)〜(e)に示すように、主シリンダー1が降下して、可動側のダイセット装置3bがスプリング4により荷重が印加されて木材シート状の被成形物8へ加圧したのち、図3(b),(c),(e)に示すように、主シリンダー1が可動側のダイセット装置bに到達するまでの間に、主シリンダー1は複数回上下往復動作を行い、スプリング4による被成形物8への加圧、圧力開放を繰り返した後、主シリンダー1が直接可動側のダイセット装置3bへ到達させて、被成形物8への加圧を行う構成になっている木材のプレス成形装置である。
【0032】
成形加工する形状が、例えば深い凹凸形状である場合、低い加圧力でも水蒸気成分や樹脂のガス成分が上下金型2b,2aの隙間から放出されにくい場合がある。このよう場合は、主シリンダー1が降下してスプリング4により金型へ低い加圧力を所定の時間が加えて軟化した木材部分を金型2a,2bに沿うよう曲げた後、シリンダー1を上昇させて圧力を開放させる。そうすることによって、水蒸気やガス成分は、被成形物8の表面全体から放出させることが出来るので、この動作を複数回繰り返すことによってガス開放を行いつつ木材を割れずに曲面状に形状加工できる。ただし、この時点ではまだ木材部分は十分に硬化していないので、ガス開放が終了したタイミングで、主シリンダー1の降下によるスプリング4での加圧から、主シリンダー自体による高い圧力での加圧を行う。この高い加圧工程では、前述と同様、熱硬化樹脂成分が木材部分に十分浸透しつつ、木材繊維を押しつぶすことによって、安定した形状の木材の成形加工品を作成することができる。
【0033】
(第2変形例)
第2変形例(請求項3に相当)は、装置構成は図1とほぼ同じである。その主シリンダー(加圧シリンダー)1の加圧面が、図4(a)〜(c)に示すように、少なくとも2段の高さの面1a,1bを有し、スプリング4は、ダイセット装置の可動側3bの面と、対向する主シリンダー1の加圧面のより遠い側の面1bとの間に配置された木材のプレス成形装置である。
【0034】
主シリンダー1が降下するほど、スプリング4は縮められて上金型2bによりかかる圧力が徐々に大きくなってゆく。しかし、単純に主シリンダー1と可動側のダイセット装置3bの間にスプリング4を配置しているだけであれば、スプリング4が完全に縮んだ状態で金型に圧力が加わるので、スプリング自体に大きな圧力が加わり、長期間使用するとスプリング4のばね力などが劣化してしまう。
【0035】
従って、主シリンダー1の加圧面を2段形状にしておき、可動側のダイセット装置3bとの間隔が広い側の加圧面1bにスプリング4を配置することで、主シリンダー1が降下するに従いまずスプリング4のばね力で上金型2bを加圧し、さらに主シリンダー1が降下するほどスプリング4のばね力が大きくなって上金型2bへの圧力が上昇する。その間、被成形物8内の水分、ガス成分が十分に放出されるタイミングで、図4(c)に示すように、主シリンダー1のもう一方の加圧面1aが可動側のダイセット装置3bに接触して大きな圧力を加える。このとき、スプリング4は主シリンダー1の加圧面の2段形状の高さの差があるため、完全に縮まない。従って、長期間使用してもスプリング4のばね力は余り低下しないので、安定した量産が可能になる。
【0036】
ここでは主シリンダー1の加圧面を2段形状としたが、たとえば3段や4段形状にして、格段ごとに長さの異なるスプリング4を複数配置すれば、スプリング4による加圧力の設定範囲を大きくすることが可能になり、生産性や成形安定性を向上させることが可能になる。
【0037】
第3変形例は、装置構成は図1とほぼ同じである。図5に示すように、加圧する主シリンダー1の加圧面のスプリング4と接触する面1bは、その高さ位置を調節可能としいている。
【0038】
スプリング4によるバネの加圧力は、スプリング4が圧縮されるほどより強くなる。従って、スプリング4による加圧から主シリンダー1による加圧に切り替わる直前は、よりスプリング4が圧縮されるほど圧力が強くなり、また、スプリング4の圧縮が弱いほど加圧力が小さくなる。スプリング4による加圧から主シリンダー1による加圧に切り替わるとき、大きな圧力差が発生して、被成形物8へ加わる成形条件が異なってくる。木材は、その硬さや曲げやすさは、厚みだけではなく、樹種の違いによっても大きく変わってくる。特に、最初のスプリング4による加圧によって木材が曲げられるので、そのときの加圧条件は、各樹種ごとに最適値を設定しなければならない。このように、初期の加圧力を簡単に制御できるようにするためには、スプリング4のバネ力を簡単に調節できることが最も単純で、そのため、スプリング4と主シリンダー1との間隔を調節可能にすれば、スプリング4は主シリンダー1によって押されて縮む量を調節できるので、上金型2bを押し返すときの加圧力を調節することが可能になる。
(第4変形例)
第4変形例は、装置構成は図1とほぼ同じである。図6に示すように、主シリンダー(加圧シリンダー)の加圧面および稼動側のダイセット装置3bのスプリング4と接触する面(スプリング保持ベース)1cを広くして、スプリング4の配置本数を調節可能としている。
【0039】
前述の主シリンダー1とスプリング4との間隔を調節する機構でも、加圧力を調節可能ではあるが、単純に1本のバネの縮み量の調節だけでは、加圧力の調整範囲には限度がある。従って、スプリング4の本数を増やすことの出来る面1cを主シリンダー1と可動側のダイセット装置3bの加圧面に設けることで、加圧力を2倍、3倍、4倍…と大きく変化させることが可能である。被成形物8の木材の樹種による違い、厚みの違いだけでなく、大きさによっても単位面積当たりの圧力が大きく変わってくるので、スプリング4の本数をかえるだけで調節可能であることは、多品種生産の場合に簡単に装置プレス条件を変更することが出来、生産性が向上する。もちろん、本機構にさらに前述のスプリング4と主シリンダー1の加圧面の間隔を調節できる機能を設ければ、広い範囲の圧力を、より精密に制御することが可能になる。
【0040】
上述のプレス成形装置の技術を用いてシート状の木材を立体状に加工する方法を、図7(a)〜(j)を用いながら順番に説明する。
【0041】
まず、図7(a)〜(c)に示すように、シート状の木材層8Aと、繊維材料を含むシート状の基材層8Bと、この2層8A,8Bのうち少なくとも一方に熱硬化型の樹脂材料Wを浸透させ、乾燥させる。本発明では、基材層8Bの側にのみ樹脂Wを浸透させて後工程でその樹脂を木材層部分にもしみこませる方法で説明している。
【0042】
樹脂材料Wとしては、たとえばフェノール樹脂などが用いられる、充填させたい樹脂の量に応じて、たとえばメタノール溶液などで希釈したものを浸透させてもよい。また、浸透させる基材層8Bとしては、例えば繊維の長さが長い不織紙などが好適である。不織紙は、一般的な紙に比べセルロース繊維が長いので強度が強く、また適度な空間を有しているので樹脂を染み込ませやすいという特徴がある。また、紙ではなく、布などでもよい。
【0043】
樹脂を浸透させた後は、取り扱いを容易にするために、メタノール成分などを蒸発させて乾燥させる。
【0044】
このような状態で、図7(d)に示すように、シート状の木材層8Aと、樹脂を浸透させた基材層8Bを重ね合わせる。なお、基材層8Bの両側にシート状の木材層8Aを重ねることにより、被成形物8が両面とも木材面に仕上がるので、あたかも木材のみで加工されたような美しい木目、形状の成形体を得ることができる。
【0045】
図7(e)に示すように、重ね合わせたシート8A,8Bに、水蒸気成分噴出機構7から水分を噴霧して、水分を浸透させ、木材部分を軟化させる。より軟化しやすくするために、たとえば事前に木材シート部分を煮沸する、水分中に柔軟化液を加えるなどの方法を加えると、より一層成形時に割れが発生しにくくなり、好都合である。
【0046】
水分を含ませた重ねあわせ木材シート8に、前記のプレス成型装置にセットされた一対の金型2a,2b内に配置する。このとき、一対の金型2a,2bはヒータ6で所定の温度に加熱された状態になっている。この温度は、フェノール樹脂が十分な強度で硬化する温度が望ましく、たとえば180〜240℃くらいが好適である。
【0047】
プレス成形装置を起動させ、図7(f)に示すように、主シリンダー1を降下させると、上金型2bも降下して行き、被成形物8のシートを押し曲げる。このとき、まず最初にシートに加わる圧力は、上金型2bおよび可動側のダイセット装置3bの自重程度である。同時に、加熱された一対の金型2a,2bによってシート内の水分は蒸発して水蒸気になる。従って、木材部分が曲げられ始めるとき、水で軟化されるとともに高温水蒸気雰囲気に晒され、より木材が軟化しやすくなり、曲げたときに割れにくくなっている。
【0048】
続けて主シリンダー1を降下させると、図7(g)に示すように、次はスプリング4による加圧力が可動側のダイセット装置3bおよび上金型2bに加わり、被成形物8のシートへ加わる圧力が少しづつ増えてゆく。それに伴い、ゆっくりとシートが曲げられつつ、水蒸気が圧力を加えられた状態で高圧水蒸気雰囲気に晒されることになる。このように、木材を高温高圧水蒸気下で圧縮することで、木材を割れることなく曲げやすくする方法と同等の状態になっている。
【0049】
しかしながら、この状態でいきなり高い圧力を加えてしまうと水分が被成形物8の中で閉じ込められてしまい、蒸気化して膨張するので、圧力開放時に水蒸気爆発を起して被成形物8が破損したり、または木材層8Aと基材層8Bとの層間にガス溜まりができて浮き上がってしまう。
【0050】
しかしながら、本プレス成形装置の技術を用いれば、最初の圧力は非常に弱く、またスプリング4による加圧力も油圧力に比べればはるかに小さいので、図7(f)〜(h)に示すように、木材は割れることなく曲げられながら、プレス上下金型2b,2a間から水蒸気が開放される。
【0051】
ただし、高温状態においては、基材層に浸透させたフェノール樹脂も硬化して行くので、余りゆっくり圧力を上げてゆくと、木材部分に樹脂が浸透しないまま硬化してしまうので、成型後の強度が弱くなってしまう。従って、単純にゆっくりと時間をかけて圧力を上昇させてゆく方法では、成形物の形状安定性を確保することが難しい。
【0052】
本プレス成形装置でスプリング4による加圧力の上昇時間は、シート層部分の水分、フェノール樹脂に温度が加わることによる溶媒などの様々なガス成分が十分に放出される時間になるよう設定することが望ましい。
【0053】
ガス成分が放出されたタイミングで、上金型2bおよび可動側のダイセット装置3bに加わる圧力は、主シリンダー1による直接加圧に切り替わり一気に被成形物8に高圧力を印加することができる。このとき、基材層8Bからの樹脂は十分に硬化する前の状態なので流動しやすく、高圧力により基材層側から木材層側に浸透されるとともに、木材部分の空隙部分をつぶしてより強固に成形することが出来る。このときの圧力は、たとえば木材の厚みや面積に応じて様々な値が設定されるが、数十kgf/cm以上の油圧力による加圧が望ましい。
【0054】
図7(i)に示すように、所定の時間加圧した後、図7(j)に示すように、被成形物8を取り出せば、木材の立体状の加工体が完成する。
【0055】
このように、本プレス技術を用い、上述のような手順で被成形物としての木材シート8のプレス加工を行えば、一度のプレス工程で、木材の軟化→水分やガス成分の放出→木材への樹脂浸透による形状安定化→立体状成形までを行うことがきる。
【0056】
このように、本発明によるプレス成形装置は、シート状の木材8A,8Bを立体形状に成形加工するために好適な装置であり、一度のプレス工程で被成形物8を完成させることができるので、木材成形品の製造コストを大きく低減することが可能になる装置と加工方法の技術である。
【符号の説明】
【0057】
1 主シリンダー(加圧シリンダー)
1a,1b 加工面
2a 下金型(固定側の金型)
2b 上金型(可動側の金型)
3a 固定側のダイセット装置
3b 可動側のダイセット装置
4 スプリング
8 シート状の木材(シート状の被成形物)
8A シート状の木材層
8B シート状の基材層
W 樹脂材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力を発生させるための加圧シリンダーと、
成形するための上下金型と、
前記金型の可動側の金型を上下方向に平行に移動させるためのダイセット装置と、
前記ダイセット装置の可動側と、前記加圧シリンダーとの間に配置されたスプリングと、
を備え、
前記加圧シリンダーの降下によって、前記スプリングに荷重が印加され、そのスプリングのばね力によって前記ダイセット装置の可動側が降下し、金型内に配置された木材シート状の被成形物を加圧し、所定の時間前記スプリングによる被成形物の加圧が行われたあと、さらに前記加圧シリンダーを降下し続けることによって、前記ダイセット装置の可動側に前記加圧シリンダーによる圧力が直接作用して、所定の時間加圧することを特徴とする木材のプレス成形装置。
【請求項2】
請求項1記載の木材のプレス成形装置であって、
前記加圧シリンダーが降下して、前記ダイセット装置の可動側が前記スプリングにより荷重が印加されて前記木材シート状の被成形物へ加圧したのち、前記加圧シリンダーによる圧力が前記ダイセット装置の可動側に直接作用するまでの間に、前記加圧シリンダーは複数回上下往復動作を行い、前記スプリングによる被成形物への加圧、圧力開放を繰り返した後、前記加圧シリンダーが直接前記ダイセット装置の可動側へ到達させて、前記被成形物への加圧を行うことを特徴とする木材のプレス成形装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の木材のプレス成形装置であって、
前記加圧シリンダーの加圧面は少なくとも2段の高さの面を有し、前記スプリングは、前記ダイセット装置の可動側の面と、対向する前記加圧シリンダーの加圧面のより遠い側の面との間に配置されたことを特徴とする木材のプレス成形装置。
【請求項4】
シート状の木材を立体状に成形加工する方法であって、
シート状の木材層と、繊維材料を含むシート状の基材層と、前記2層のうち少なくとも一方の層に浸透された熱可塑型、もしくは熱硬化型の樹脂材料と、が重ねられた積層体に、水蒸気などの高温水分を含ませて、前記積層体を軟化させる工程と、
前記積層体に、所定の温度に加熱されたプレス成形の金型にセットする工程と、
前記積層体を金型で第1の圧力で所定の時間加圧し、積層体を立体状に曲げつつ、前記水蒸気および樹脂材料から発生するガスを放出させる工程と、
前記金型を、前記水蒸気および樹脂から発生するガスの放出が略終了したのち、第1の圧力よりも高い第2の圧力を、所定時間印加する工程と、もしくは、前記ガスの放出量の低下に伴い第1の圧力を徐々に上げて、前記ガスの放出が略終了した時点から、第1の圧力もしくは第1の圧力からの上昇後の到達圧力よりも高い第2の圧力で、所定の時間加圧する工程と、
所定の時間加熱加圧後、金型から被成形物を開放する工程と、
からなることを特徴とする木材を立体状に成形加工する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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