説明

木造建築物における耐震性能評価支援装置

【課題】木造建築物の変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、地震エネルギー等を吸収する機能を備えた補強金物を取り付けた場合でも、設計者等が容易かつ簡単に、一目で評価および判定することが可能な木造建築物における耐震性能評価支援装置を提供する。
【解決手段】木造建築物の耐震性能を、各部材接合部に対する各種接合形式の採否による変形性能で評価するための木造建築物における耐震性能評価支援装置であって、入力データは、木造建築物の部材接合部の数、これら部材接合部に対して採用する接合形式の種類、各接合形式の適用数であり、演算用データは、予め求めた各接合形式個々の変形と荷重の相関を示す数値であり、演算手段は、各部材接合部における変形に対する荷重から木造建築物全体の変形に対する総荷重を算出して演算結果表示部に表示すると共に、木造建築物全体の変形に対する総荷重のグラフを作成して、評価判定部に表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、これまで行うことができなかった木造建築物の変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、地震エネルギー等を吸収する機能を備えた補強金物を取り付けた場合でも、設計者等が容易かつ簡単に、一目で評価および判定することが可能な木造建築物における耐震性能評価支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
木造建築物の構造耐力の検討では、各階およびXY方向の耐震壁の量(壁量)をそれぞれ算出するのが一般的であり、その耐震性能を評価する際には、例えば地震力に対しては、各階ごとに、「建物床面積」に「法令で定められた係数」を乗じた値(必要壁量)と、実際の建築物が備える耐震壁の量(存在壁量)とを比較し、存在壁量が必要壁量以上であれば、耐震性能的に問題がないとの判断がなされる。
【0003】
なお、存在壁量は、実際の「耐力壁の長さ」に「軸組の種類に応じた係数(壁倍率)」を乗じて算出される。壁倍率は、軸組における筋交いまたは構造用合板の有無、筋交いの形状寸法、形式など、その軸組の種類や仕様によって、それぞれ係数が規定されている。
【0004】
また、木造建築物においては、柱と横架材の接合部(仕口部)に補強金物が取り付けられることがあり、このような場合でも、前述した手法によって、耐震性能の評価および判断がなされている。
【0005】
このように木造建築物の耐震性能は、その建築物自体が有する構造耐力により、すなわち、存在壁量と、その建築物が「耐震性能を有している」と判断するために必要となる壁量との比較により、評価が行われている。換言すれば、存在壁量が、基準となる必要壁量を満たしているか否かという点だけで、「耐震性能を有している、有していない」の判断がなされている。
【0006】
そして、木造建築物の構造耐力および耐震性能について、この評価手法に基づいた支援装置が数多く存在する(特許文献1〜3参照)。
【0007】
特許文献1の「耐震診断結果に基づく補強設計提供装置」は、木造建築物について、入力手段より入力された建物情報、部材情報、間取情報及び劣化情報に基づいて、設定された補強オプションから補強オプション設定実行手段、検知器基礎補強手段、壁補強手段及び接合部補強手段が補強プランを作成し、該補強プラン施工後の木造建築物が各種法令に適合するか否かを診断した後、設計された補強プランを出力するようになっている。
【0008】
特許文献2の「性能評価支援システム及びその方法」は、耐震壁種類毎の壁倍率蓄積手段、建築物特定条件、外形ライン、要素の入力手段、耐力壁、準耐力壁を耐力壁線として入力する入力手段、前記入力データに基づき、耐震壁線候補抽出手段と、抽出した耐力壁線候補の中での耐力壁線確定手段、確定した耐力壁線に基づく壁線間データ算出手段、当該壁線間データをCAD画面上の各床ゾーン近傍に表示する表示手段、耐力壁線毎の耐力壁線判定手段、判定結果を耐力壁線毎に一覧表示する表示手段、壁倍率詳細、壁線詳細を一覧表示する表示手段を有するものである。
【0009】
特許文献3の「自動伏せ図作成処理装置およびプログラム」は、基本設計段階で間取りや外観などの意匠設計が終わった時点で、間取りから分かる耐力壁区画や構造フレームなどの木造建築物の基本構造を診断し、問題が出た場合には、すぐに間取り設計の修正・変更を行って問題を解決し、基本構造問題をほとんど解消した間取り図を作成して構造設計段階へ渡すようにする。これにより、構造設計段階では、間取り図から柱の自動配置や梁の自動生成を行っても、問題の発生を最小限に留めることが出来るので、基本設計への手戻りを大幅に減らすことが出来るものである。
【0010】
これら支援装置は、新築の設計や既存建築物の耐震改修など、それぞれ対象を異にするが、いずれの支援装置も基本的には、対象建築物の入力情報に基づいて算出された構造耐力から耐震性能を評価するものであって、そのため、「耐震性能を有していない」と判定されたときには、自動的に、「補強金物を取り付ける」、「間取りを変更する」など、条件に見合った補強手法を施して「耐震性能を有する」状態に修正するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−272715号公報
【特許文献2】特開2004−036295号公報
【特許文献3】特開2005−316864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、近年、木造建築物の耐震性能については、構造耐力の他に、大地震の発生に伴って建築物が大きく変形したときの耐力、すなわち、建築物が備え持つエネルギー吸収能力(変形性能)でも評価することが重要になってきている。さらに、地震力等を吸収することによって、建築物が大きく変形しても、それなりの耐力を備える補強金物も市場に多く提供されている。
【0013】
しかしながら、設計者等が、構造耐力的に耐震性能を有している木造建築物に対し、変形性能から耐震性能を評価しようとしても、特許文献1〜3に開示されている支援装置は、あくまで基準となる構造耐力に対して耐震性能を評価および判断するものであることから、たとえ、変形性能に優れた補強金物を取り付けた木造建築物であっても、変形性能による耐震性能の評価および判断を行うことができないという課題があった。
【0014】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、これまで行うことができなかった木造建築物の変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、地震エネルギー等を吸収する機能を備えた補強金物を取り付けた場合でも、設計者等が容易かつ簡単に、一目で評価および判定することが可能な木造建築物における耐震性能評価支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置は、木造建築物の耐震性能を、各部材接合部に対する各種接合形式の採否による変形性能で評価するための木造建築物における耐震性能評価支援装置であって;演算手段と、該演算手段で演算するための入力データを入力する入力手段と、上記演算手段による演算に用いる演算用データを記憶した記憶手段と、上記演算手段による演算結果を表示する表示手段とを備え;上記入力データは少なくとも、上記木造建築物の部材接合部の数、これら部材接合部に対して採用する接合形式の種類、各接合形式の適用数であり;上記演算用データは、予め求めた各接合形式個々の変形と荷重の相関を示す数値であり;上記演算手段は、上記表示手段に、入力部と、演算結果表示部と、評価判定部を表示し;上記演算手段は、上記入力部に上記入力手段から入力される上記入力データを受け付け;上記演算手段は、上記入力データと上記記憶手段から読み出される上記演算用データを用いて、各部材接合部における変形に対する荷重を算出し;上記演算手段は、各部材接合部に対して算出した荷重の値を合計して、上記木造建築物全体の変形に対する総荷重を算出し、当該総荷重の数値を上記演算結果表示部に表示し;上記演算手段は、上記木造建築物全体の変形に対する上記総荷重のグラフを作成して、上記評価判定部に表示することを特徴とする。
【0016】
前記入力データが前記木造建築物の階高を含み、前記演算手段は、前記総荷重に上記階高を掛け合わせることで上記木造建築物全体の変形に対する転倒モーメントを算出し、当該転倒モーメントの数値を前記演算結果表示部に表示すると共に、変形に対する該転倒モーメントのグラフを作成して、前記評価判定部に表示することを特徴とする。
【0017】
前記演算手段は、部材接合部に対して採用する接合形式の種類や適用数が異なる複数の前記木造建築物の耐震性能を一括表示するために、複数の前記入力部と、複数の前記演算結果表示部を並べて前記表示手段に表示すると共に、前記評価判定部に表示する前記グラフを、これら異なる複数の上記木造建築物に対して作成したものを重ね合わせて作成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置にあっては、木造建築物の変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、地震エネルギー等を吸収する機能を備えた補強金物を取り付けた場合でも、設計者等が容易かつ簡単に、一目で評価および判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置の好適な一実施形態を示す、表示手段の表示の説明図である。
【図2】図1の木造建築物における耐震性能評価支援装置が適用される、一般的な木造建築物の1階平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置は基本的には、木造建築物の耐震性能を、各部材接合部に対する各種接合形式の採否による変形性能で評価するための木造建築物における耐震性能評価支援装置であって、演算手段と、演算手段で演算するための入力データを入力する入力手段と、演算手段による演算に用いる演算用データを記憶した記憶手段と、演算手段による演算結果を表示する表示手段とを備え、入力データは少なくとも、木造建築物の部材接合部の数、これら部材接合部に対して採用する接合形式の種類、各接合形式の適用数であり、演算用データは、予め求めた各接合形式個々の変形と荷重の相関を示す数値であり、演算手段は、表示手段に、入力部(イ−1)、(ロ−1)と、演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)と、評価判定部(ハ)を表示し、演算手段は、入力部(イ−1)、(ロ−1)に入力手段から入力される入力データを受け付け、演算手段は、入力データと記憶手段から読み出される演算用データを用いて、各部材接合部における変形に対する荷重を算出し、演算手段は、各部材接合部に対して算出した荷重の値を合計して、木造建築物全体の変形に対する総荷重を算出し、当該総荷重の数値を演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)に表示し、演算手段は、木造建築物全体の変形に対する総荷重のグラフを作成して、評価判定部(ハ)に表示するように構成される。
【0021】
また、入力データが木造建築物の階高を含み、演算手段は、総荷重に階高を掛け合わせることで木造建築物全体の変形に対する転倒モーメントを算出し、当該転倒モーメントの数値を演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)に表示すると共に、変形に対する転倒モーメントのグラフを作成して、評価判定部(ハ)に表示するように構成される。
【0022】
本実施形態にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置に備えられる入力手段、演算手段、記憶手段、並びに表示手段は、いずれも図示しないけれども、一般的なコンピュータシステムによって構成され、入力手段はマウスやキーボードなど、演算手段は、ハードディスクなどの記憶手段と連係するCPUやMPUなど、また表示手段はディスプレイやプリンタなどで構成される。
【0023】
演算手段は図1に示すように、表示手段に、入力データを入力する入力部(イ−1)、(ロ−1)と、演算手段による演算結果を数値で見せる演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)と、演算結果をグラフで見せる評価判定部(ハ)とを表示する。
【0024】
本実施形態にあっては、演算手段は、部材接合部に対して採用する接合形式の種類や適用数が異なる複数の木造建築物の耐震性能を一括表示するために、複数の入力部(イ−1)、(ロ−1)と、複数の演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)を並べて表示手段に表示すると共に、評価判定部(ハ)に表示するグラフを、これら異なる複数の木造建築物に対して作成したものを重ね合わせて作成するようになっている。
【0025】
以下、図1に表記した「入力部(イ−1)、(ロ−1)」、「演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)」、「評価判定部(ハ)」について、順次説明する。図1には、異なる2つの木造建築物をそれぞれ「基本仕様」および「検討仕様」と称して、それらの耐震性能を一括表示する場合が示されていて、2つの入力部(イ−1)、(ロ−1)と演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)が並べられている。これら「基本仕様」および「検討仕様」の構成は同じであるので、主として「基本仕様」に表記されている内容に沿って、説明する。
【0026】
(1)入力部(イ−1)、(ロ−1)
木造建築物の耐震性能を、各部材接合部に対する各種接合形式の採否による変形性能で評価するにあたり、入力部(イ−1)、(ロ−1)では主として、部材接合部への接合形式の選定が行われる。以下の項目が、演算装置で演算するための入力データとして、入力手段から入力される。本実施形態では、入力データは、建物1階層を対象として設定される。
【0027】
・部材接合部の接合部仕様:補強金物の有無や、補強金物がある場合には、補強金物の種類の選定を行う。図示例では、「基本仕様」で「補強金物無」、「検討仕様」で「補強金物有(アコーディ:商品名)」が選定されている。
【0028】
・筋交い仕様(箇所):柱間の筋交いの有無、筋交いがある場合には、断面形状(□45×90等)と、柱間距離(B=910mm等)の選定を行う。図示例では、「基本仕様」および「検討仕様」いずれも、筋交いがある箇所に関し、「断面形状(□45×90):柱間距離(B=910mm)」が選定されている。
【0029】
・部材接合部の接合形式:本実施形態にあっては、表示手段の最下欄に表示されている「TypeA」〜「TypeJ」につき、部材接合部に対して採用する接合形式の種類と、それら接合形式の適用数を設定する。すなわち、部材接合部と接合形式とは、「接合形式」に図示で列挙されている柱や梁などの取り合い部分とその接合方法を言う。
【0030】
図示例にあっては、「基本仕様」で、「Type D:46(TypeDが46箇所),Type E:20,Type F:2 」と設定され、「検討仕様」で、「Type A:9,Type B:14,Type D:23,Type E:12,Type F:2,Type I:8」と設定されている。
【0031】
・構造用合板(枚):構造用合板が用いられている場合、枚数を入力する。図示例では、「基本仕様」および「検討仕様」いずれも、「0枚」である。
【0032】
・建物重量:建築物の重量を入力する。図示例では、「基本仕様」および「検討仕様」いずれも、「3.5ton」である。
【0033】
・全体:部材接合部の数(木造建築物の1階層における総数)を入力する。「全体」の項目に入力される数値は、上記「部材接合部の接合形式」で入力された各接合形式の適用数の合計と一致する。この項目は、適用数の合計を自動計算して表示させるようにしてもよい。図示例では、「基本仕様」および「検討仕様」いずれも、「68箇所」である。
【0034】
・階高:建築物の階高を入力する。図示例では、「基本仕様」および「検討仕様」いずれも、「H=2900mm」である。
【0035】
以上の入力データは、図2に示した木造建築物の伏せ図などから読み取られる。
【0036】
入力部(イ−1)、(ロ−1)に入力手段で入力データを入力すると、演算手段は、入力データを受け付けて、当該入力データと演算用データとを用いて演算を行う。演算用データは記憶手段に記憶されていて、演算手段は、記憶手段から演算用データを読み出して演算を実行する。
【0037】
演算用データは、上記「部材接合部の接合形式」で説明した「Type A」〜「Type J」それぞれについて、「変形(回転角(θ:rad.))と荷重(せん断力(kN)・転倒モーメント(kN・m))の相関」示す数値である。
【0038】
演算用データは、実験や解析等によって予め求められる。補強金物についても、選定されるすべての補強金物の場合について、演算用データが予め求められる。演算手段は、演算用データを、入力データである各部材接合部の接合形式に適用して、各部材接合部における変形に対する荷重を算出する。
【0039】
(2)演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)
演算手段は、表示手段に表示させた演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)に、演算結果を数値で見せる。図1により具体的に説明すると、接合形式の種類毎に、各回転角(変形)に対し、各部材接合部で生じるせん断力(荷重:適用数で合計したもの)と、せん断力から差し引くべき付加荷重と、当該せん断力を合計して木造建築物全体の各回転角に対する総せん断力(総荷重)と、木造建築物全体の各回転角に対する転倒モーメントとがそれぞれ数値で表示される。
【0040】
「基本仕様」では、回転角が1/200の場合、46箇所に適用したType Dの部材接合部において、その合計のせん断力が2.1kN、20箇所に適用したType Eの部材接合部において、その合計のせん断力が17.1kN、2箇所に適用したType Fの部材接合部において、その合計のせん断力が3.3kNであり、差し引く付加荷重が0.2kNであることから、木造建築物全体に生じる総せん断力は、22.3kNであり、転倒モーメントは、総せん断力に階高を掛け合わせることで、64.8kN・mとなる。
【0041】
また、「検討仕様」では、回転角が同じ1/200の場合、9箇所に適用したType Aの部材接合部において、その合計のせん断力が1.0kN、14箇所に適用したType Bの部材接合部において、その合計のせん断力が1.1kN、23箇所に適用したType Dの部材接合部において、その合計のせん断力が1.0kN、12箇所に適用したType Eの部材接合部において、その合計のせん断力が10.3kN、2箇所に適用したType Fの部材接合部において、その合計のせん断力が3.3kN、8箇所に適用したType Iの部材接合部において、その合計のせん断力が7.1kNであり、差し引く付加荷重が0.2kNであることから、木造建築物全体に生じる総せん断力は、23.6kNであり、転倒モーメントは、総せん断力に階高を掛け合わせることで、68.6kN・mとなる。
【0042】
すなわち、入力部(イ−1)、(ロ−1)に入力データが入力されたことに応じて、演算手段は、各部材接合部に対し、選定された接合形式ごとに、荷重−変形データを算出する。適用数が複数の場合には、各接合形式について合計し、変形に応じた荷重を算出し、数値として表示する。
【0043】
本実施形態では、入力した建物重量は、各変形量で変形したときに当該建物重量によって作用する荷重(付加荷重:P−δ効果)の算出に用いられる。
【0044】
以上のようにして、木造建築物全体の耐力(総せん断力)が算出され、その結果が回転角(変形)毎に表示されると共に、耐力と階高から木造建築物全体の転倒モーメントが算出され、これら数値が演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)に表示される。
【0045】
(3)評価判定部(ハ)
演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)に表示された数値、特に各回転角(変形)と木造建築物全体に発生すると想定されるせん断力(荷重)及び転倒モーメントとの関係が演算手段によってグラフ化され、このグラフが評価判定部(ハ)に表示される。本実施形態にあっては、「基本仕様」と「検討仕様」の異なる2つの木造建築物に対して作成されるグラフを重ね合わせたものが評価判定部(ハ)に表示される。
【0046】
また、本実施形態にあっては、追加的に、これら2つの木造建築物の変形性能を比較するために、最大耐力及びエネルギー吸収量が比率で表示される。図示例にあっては、2つの木造建築物における最大せん断力および最大転倒モーメントの数値からそれぞれ、最大耐力が1.21倍、エネルギー吸収量が1.25倍と表示されている。設計者等は、演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)の数値や、この評価判定部(ハ)のグラフから、変形性能による耐震性能の評価を容易に行うことができる。
【0047】
以上説明した本実施形態にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置では、地震力等を吸収する機能を備えた補強金物を部材接合部に取り付けた木造建築物に対し、またそのような補強金物を有しない木造建築物に対し、変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、その変形性能をグラフ化して表示するので、設計者等が容易に耐震性能の評価及び判断を行うことができる。
【0048】
変形−荷重関係だけで評価する場合には、入力データは基本的に、木造建築物の部材接合部の数、これら部材接合部に対して採用する接合形式の種類、各接合形式の適用数だけでよいので、想定していた変形性能が得られなかった場合であっても、容易に設定を変更して再評価を実行することができる。
【0049】
入力データに階高を追加すれば、得られたせん断力(荷重)の数値に階高を掛け合わせるだけで、転倒モーメントも評価することができる。
【0050】
演算手段が、複数の入力部(イ−1)、(ロ−1)と複数の演算結果表示部(イ−2)、(ロ−2)を並べて表示手段に表示すると共に、評価判定部(ハ)に表示するグラフを、これら異なる複数の木造建築物に対して作成したものを重ね合わせて作成するようにすれば、部材接合部に対して採用する接合形式の種類や適用数が異なる複数の木造建築物の耐震性能を一括表示することができ、比較検討による耐震性能評価を簡便に行うことができる。
【0051】
以上により、これまで行うことができなかった木造建築物の変形性能による耐震性能の評価が可能になると共に、地震エネルギー等を吸収する機能を備えた補強金物を取り付けた場合でも、設計者等が容易かつ簡単に、一目で評価および判定することが可能となる。
【0052】
木造建築物の建物重量と階高を入力するようにしたので、付加荷重を算入して、木造建築物が大きく変形した際の耐力も正確に算出することができる。
【0053】
本実施形態にかかる木造建築物における耐震性能評価支援装置は、背景技術で説明した構造耐力的に問題のない木造建築物を対象とすることが好ましい。本装置は、新築であっても、既存建物の耐震改修(リフォーム)の場合であっても、用いることができる。本装置は、補強金物を使用する木造建築物であるか否かに拘わらず、用いることができる。
【0054】
上記実施形態では、建物1階層を対象とする場合について説明したが、複数階に対応する「入力部」を設け、各階層の変形性能を算出するようにしても良い。上記筋交い仕様は、任意に入力できるようにしても良い。入力データに、柱材等の木材の種類を入力できるようにしてもよい。これにより、さらに正確な変形性能を算出することができる。
【0055】
評価判定部(ハ)に表示するグラフは、上記実施形態で説明したように、重ね合わせる表示することなく、個別に表示するようにしてもよい。上記実施形態では、評価判定部(ハ)に最大耐力およびエネルギー吸収量の比率を表示するようにしたが、表示しなくてもよい。
【0056】
他方、これら最大耐力やエネルギー吸収量のいずれか一方または両方を、評価初期条件として入力データに設定し、変形性能の算出値を当該評価初期条件と対比して判定を行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0057】
イ−1,ロ−1 入力部
イ−2,ロ−2 演算結果表示部
ハ 評価判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造建築物の耐震性能を、各部材接合部に対する各種接合形式の採否による変形性能で評価するための木造建築物における耐震性能評価支援装置であって、
演算手段と、該演算手段で演算するための入力データを入力する入力手段と、上記演算手段による演算に用いる演算用データを記憶した記憶手段と、上記演算手段による演算結果を表示する表示手段とを備え、
上記入力データは少なくとも、上記木造建築物の部材接合部の数、これら部材接合部に対して採用する接合形式の種類、各接合形式の適用数であり、
上記演算用データは、予め求めた各接合形式個々の変形と荷重の相関を示す数値であり、
上記演算手段は、上記表示手段に、入力部と、演算結果表示部と、評価判定部を表示し、
上記演算手段は、上記入力部に上記入力手段から入力される上記入力データを受け付け、
上記演算手段は、上記入力データと上記記憶手段から読み出される上記演算用データを用いて、各部材接合部における変形に対する荷重を算出し、
上記演算手段は、各部材接合部に対して算出した荷重の値を合計して、上記木造建築物全体の変形に対する総荷重を算出し、当該総荷重の数値を上記演算結果表示部に表示し、
上記演算手段は、上記木造建築物全体の変形に対する上記総荷重のグラフを作成して、上記評価判定部に表示することを特徴とする木造建築物における耐震性能評価支援装置。
【請求項2】
前記入力データが前記木造建築物の階高を含み、
前記演算手段は、前記総荷重に上記階高を掛け合わせることで上記木造建築物全体の変形に対する転倒モーメントを算出し、当該転倒モーメントの数値を前記演算結果表示部に表示すると共に、変形に対する該転倒モーメントのグラフを作成して、前記評価判定部に表示することを特徴とする請求項1に記載の木造建築物における耐震性能評価支援装置。
【請求項3】
前記演算手段は、部材接合部に対して採用する接合形式の種類や適用数が異なる複数の前記木造建築物の耐震性能を一括表示するために、複数の前記入力部と、複数の前記演算結果表示部を並べて前記表示手段に表示すると共に、前記評価判定部に表示する前記グラフを、これら異なる複数の上記木造建築物に対して作成したものを重ね合わせて作成することを特徴とする請求項1または2に記載の木造建築物における耐震性能評価支援装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−36570(P2012−36570A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174610(P2010−174610)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)