説明

木造建築物の仕口部補強構造

【課題】木造建築物の仕口部を補強する場合に、大規模な変形に対し、仕口部に十分な靭性を確保することが可能であると共に、小規模な変形に対しても、仕口部の初期剛性や最大耐力を増大させることが可能な木造建築物の仕口部補強構造を提供する。
【解決手段】木造建築物の仕口部補強構造であって、縦向き及び横向き木製構造材50,51にそれぞれ取り付けられる第1取付部54と、第1取付部の間で、縦向き及び横向き木製構造材の仕口部52に位置させて設けられ、仕口部の小変形に抵抗する平坦面部55とを有する第1補強金物53と、縦向き及び横向き木製構造材にそれぞれ取り付けられる第2取付部6と、第2取付部の間で、縦向き及び横向き木製構造材の仕口部に位置させて設けられ、仕口部の変形の増大に従って伸縮変形して変形エネルギーを吸収する屈曲板部4とを有する第2補強金物1とを備え、第1及び第2補強金物を並列に並べて仕口部に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造建築物の仕口部を補強する場合に、大規模な変形に対し、仕口部に十分な靭性を確保することが可能であると共に、小規模な変形に対しても、仕口部の初期剛性や最大耐力を増大させることが可能な木造建築物の仕口部補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
縦向き木製構造材と横向き木製構造材とが接合される木造建築物の仕口部には通常、平板状の鋼材からなる補強金物が用いられている。この種の平板状の鋼材からなる補強金物は、初期剛性が高く、また最大耐力が高い一方で、エネルギー吸収性能の点で劣り、小規模の変形の範囲内であれば、大いに補強機能を発揮するが、大規模な変形の場合には、ほとんど機能し得ない。
【0003】
大規模な変形に対して補強機能を十分に発揮し得るエネルギー吸収性能に優れた補強部材が知られている。例えば、特許文献1の「仕口ダンパー」は、木造軸組構造の仕口部に固定する仕口ダンパーであって、柱に固定する柱固定部を有する第1硬質板と横架材に固定する横架材固定部を有する第2硬質板と第1硬質板と第2硬質板の間に接着積層されたシートの粘弾性材とからなり、粘弾性材はせん断弾性率Gが200〜1000kPa,tanδが0.3以上、最大せん断変形歪みが300%〜600%であり、粘弾性材のシートの厚さをd(cm)、柱固定部の柱当接面から前記粘弾性材の遠隔端部までの距離又は前記横架材固定部の横架材当接面から前記粘弾性材の遠隔端部までの距離の短い方をL(cm)とした場合、L/90≦d≦L/45である仕口ダンパーとするものである。
【0004】
特許文献2の「建築物の制振構造及び制振工法」は、軸組を構成する枠体の内側に、所定方向に外力が作用する場合とその反対方向に外力が作用する場合とで異なる大きさの抵抗力を発生するダンパーが取り付けられる。このダンパーは、枠体を構成する縦材及び横材間に架け渡され、それらの接合角度が減少する方向に枠体が変形したときに、所定の振動エネルギーを吸収するための抵抗力が発生する一方、前記接合角度が増大する方向に枠体が変形したときに、前記抵抗力よりも小さい抵抗力が発生する向きで取り付けられる。このような構造は、開口部にも適用可能となるものである。
【0005】
特許文献3の「仕口補強用具」は、水平部材と垂直部材を略直角に接合する仕口部に取付ける仕口補強用具を両側の取付部とそれらの取付部を連結する連結部とから構成し、その連結部に設ける変形部を、仕口部の内側の隅部を中心としてほぼ放射状に延びる複数の屈曲線に沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成し、かつ各屈曲部の高さが隅部に近い方から外側へ向けて漸増するように構成する。変形部の幅を狭くして外力による変形を変形部に集中させたり、隣接して設置した対をなす仕口補強用具の間からブレースをとるように構成してもよいというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−220614号公報
【特許文献2】特開2008−144362号公報
【特許文献3】特開2010−031630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これら特許文献の補強部材は、仕口部に生じる変形に常に追随して変形することを前提として、変形に従ってエネルギー吸収作用を発揮するものであることから、大規模変形に対してのみ、十分な補強効果が得られるが、初期剛性や、最大耐力が低く、小規模変形に対しては十分な補強機能を得ることができないという課題があった。
【0008】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、木造建築物の仕口部を補強する場合に、大規模な変形に対し、仕口部に十分な靭性を確保することが可能であると共に、小規模な変形に対しても、仕口部の初期剛性や最大耐力を増大させることが可能な木造建築物の仕口部補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる木造建築物の仕口部補強構造は、縦向き木製構造材と横向き木製構造材とを接合した仕口部を補強金物で補強するようにした木造建築物の仕口部補強構造であって、これら縦向き及び横向き木製構造材にそれぞれ取り付けられる第1取付部と、これら第1取付部の間で、該縦向き及び横向き木製構造材の上記仕口部に位置させて設けられ、該仕口部の小変形に抵抗する平坦面部とを有する第1補強金物と、これら縦向き及び横向き木製構造材にそれぞれ取り付けられる第2取付部と、これら第2取付部の間で、該縦向き及び横向き木製構造材の上記仕口部に位置させて設けられ、該仕口部の変形の増大に従って伸縮変形して変形エネルギーを吸収する屈曲板部とを有する第2補強金物とを備え、これら第1及び第2補強金物を並列に並べて上記仕口部に設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる木造建築物の仕口部補強構造にあっては、大規模な変形に対し、仕口部に十分な靭性を確保することができると共に、小規模な変形に対しても、仕口部の初期剛性や最大耐力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる木造建築物の仕口部補強構造が適用される仕口部の例を説明する説明図である。
【図2】本発明にかかる木造建築物の仕口部補強構造の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図3】図2に示した木造建築物の仕口部補強構造に適用される第1補強金物の斜視図である。
【図4】図2に示した木造建築物の仕口部補強構造に適用される第2補強金物の斜視図である。
【図5】図4に示した第2補強金物を説明するための図であって、(a)は正面視を、(b)は側面視を、(c)は平面視を、(d)はd−d線矢視を、(e)はe−e線矢視を、それぞれ示す図である。
【図6】図4に示した第2補強金物によるエネルギの緩衝・吸収作用を説明するための説明図である。
【図7】図2に示した木造建築物の仕口部補強構造における第1及び第2補強金物の並設状態を示す側断面図である。
【図8】図7に示した並設状態と異なる並設状態を示す側断面図である。
【図9】図7に示した並設状態と異なる、他の並設状態を示す斜視図である。
【図10】図7に示した並設状態と異なる、さらに他の並設状態を示す平断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明にかかる木造建築物の仕口部補強構造の好適な実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。木造建築物では一般に、図1(A)に示すように、柱材などの縦向き木製構造材50と土台や梁材などの横向き木製構造材51とを縦横に突き合わせて接合した箇所に仕口部52が形成される。また、図1(B)に示すように、柱材間に架け渡される横桟も横向き木製構造材51であって、柱材に横桟を突き合わせて接合した箇所にも、仕口部52が形成される。仕口部52では、縦向き木製構造材50の縦側面50aと横向き木製構造材51の横平面51aとがほぼ直角をなす関係で互いに面するように、縦向き及び横向き木製構造材50,51が接合される。
【0013】
本実施形態にかかる木造建築物の仕口部補強構造は、上述したような縦向き木製構造材50と横向き木製構造材51とを接合して形成される仕口部52であれば、どのような仕口部52に対しても適用可能である。仕口部52は、以下に説明するような補強金物53,1によって補強される。
【0014】
本実施形態にかかる木造建築物の仕口部補強構造には、第1補強金物53と第2補強金物1とが用いられる。第1補強金物53はステンレス鋼などの金属製であって、図2にその取付状態を、図3にその斜視図を示すように、縦向き木製構造材50の縦側面50a及び横向き木製構造材51の横平面51aにそれぞれ取り付けられる第1取付部54と、これら第1取付部54の間に、縦向き及び横向き木製構造材50,51の縦側面50aと横平面51aとの間に位置させて設けられる平坦面部55とを有する。
【0015】
本実施形態にあっては、第1補強金物53の平坦面部55は、外周縁及び内周縁がほぼアーチ状をなす扇状形態で形成される。内周縁がアーチ状に形成されることで、仕口部52の入隅との干渉が防止される。平坦面部55には、その下端縁及び側端縁から同じ向きに向かってほぼ直角に折り曲げて、第1取付部54が一体形成される。
【0016】
下端縁の第1取付部54は横向き木製構造材51の横平面51aに当接され、側端縁の第1取付部54は縦向き木製構造材50の縦側面50aに当接される。第1取付部54には、木製構造材50,51にねじ込まれるビス56を通すビス孔57が形成される。また、平坦面部55には、必要に応じて当該平坦面部55に取り付けられるブレース58を固定するためのビス穴59が形成される。
【0017】
第1補強金物53は、第1取付部54をそれぞれ縦向き及び横向き木製構造材50,51の縦側面50aと横平面51aに当接させ、ビス孔57を通してビス56を木製構造材50,51にねじ込むことにより、仕口部52に取り付けられる。第1補強金物53は金属製の平坦面部55が仕口部52に位置され、この平坦面部55が仕口部52に生じる小変形に抵抗するようになっている。
【0018】
第2補強金物1は、図2にその取付状態が、図4にその斜視図が、図5に詳細な構成が、図6にその作用態様が示されている。第2補強金物1は、ステンレス鋼などの金属製の板材から形成される。第2補強金物1は、蛇腹状に形成される屈曲板部4と、屈曲板部4の両側に形成される一対の平坦板部5と、各平坦板部5の外側にほぼ直角に折り曲げて形成され、第2補強金物1を仕口部52へ設置するために縦向き木製構造材50の縦側面50a及び横向き木製構造材51の横平面51aに取り付けられる第2取付部6とを備え、これらが一体形成されて構成される。ブレース58は第2補強金物1に取り付けるようにしてもよい。
【0019】
屈曲板部4は、板材を、例えば断面が正弦波形状となるように、山部4aと谷部4bが反復する波状に屈曲させて形成される。このように波状に屈曲させることにより、屈曲板部4は、蛇腹状であって、山部4a及び谷部4bが並ぶ方向に向かって伸縮変形可能とされる。伸縮変形可能な屈曲板部4は、その伸縮方向に所定荷重以下の荷重が作用しても殆ど伸縮変形せず、所定荷重を超える荷重が入力されると伸縮変形し、この伸縮変形により、弾塑性域においてヒステリシスループを描くエネルギ吸収作用を発揮して、当該入力荷重を吸収するようになっている。所定荷重は、設計的に適宜に設定される。
【0020】
図示例にあっては、屈曲板部4は、中央に位置される谷部4bと当該谷部4bを両側から挟む2つの山部4aとが5本の屈曲線x,yに沿って屈曲されて、波状に形成されている。5本の屈曲線x,yのうち、中央の3本の屈曲線xは、縦向き及び横向き木製構造材50,51の角隅Pを基点として、これより放射方向に伸ばして設定される。外側の2本の屈曲線yは、角隅Pよりも遠方箇所Qを基点として、これより放射方向に伸ばして設定される。
【0021】
また、屈曲板部4は、仕口部52に面する内縁4cが入隅外方へ向かって凸のアーチ状に形成され、反対側の外縁4dが入隅内方へ向かって凸のアーチ状に形成されて、これにより伸縮方向中央(谷部4b)へ向かって順次幅狭に形成される。伸縮方向中央が幅狭に形成されるので、両側の山部4aだけでなく、谷部4bにおける変形能力も高められ、屈曲板部4の伸縮性能が向上される。
【0022】
屈曲板部4の伸縮方向両端それぞれには、これらに連続して、平坦板部5が一対形成される。各平坦板部5は、適宜幅寸法で、屈曲板部4から木製構造材50,51の長さ方向に入隅外方へ向かって延出され、これにより木製構造材50,51の長さ方向に沿う側縁部5aが長く形成される。このように、平坦板部5の側縁部5aの長さ寸法を木製構造材50,51の長さ方向へ長く形成することにより、当該平坦板部5による屈曲板部4と木製構造材50,51に接合される第2取付部6との間での効果的な荷重伝達が確保される。
【0023】
各平坦板部5の、入隅に面する内縁5bは、屈曲板部4の内縁4cに一連に連続させてアーチ状に形成される。従って、第2補強金物1と仕口部52の角隅Pとの間には、扇状の隙間Cが形成される。
【0024】
各平坦板部5には、それらの側縁部5aから連続して、かつ当該側縁部5aの全長にわたって、第2取付部6が一対形成される。換言すれば、第2取付部6は、平坦板部5を介して、屈曲板部4の伸縮方向両端にそれぞれ一体的に形成される。各第2取付部6は、2つの木製構造材50,51それぞれに接合するためにそれらに面するように、平坦板部5からL字状に立ち上がるように折り曲げられる。
【0025】
本実施形態にあっては、特に、これら一対の第2取付部6はともに、互いに面するように、平坦板部5に対してその表面5c側もしくは裏面5d側のいずれか一方の側へ折り曲げて形成される。すなわち、第2取付部6はともに、同じ向きに折り曲げられる。
【0026】
これにより、反対向きに折り曲げた場合に比べ、第2補強金物1は、屈曲板部4を横切る左右横向きのせん断作用に対し、左右どちらの方向に対しても効果的に抵抗しつつ、木製構造材50,51から第2取付部6に入力される荷重を、平坦板部5及び屈曲板部4へ効率よく伝達することができる。図示例にあっては、第2取付部6は、略四角形状の外形輪郭で形成されているけれども、取付箇所のスペースに応じてどのような形態で形成しても良い。
【0027】
第2取付部6には、これを木製構造材50,51に取り付けるネジ7を挿通するための複数のネジ孔8が形成される。ネジ孔8に挿通したネジ7で第2取付部6を木製構造材50,51に取り付けることで、第2補強金物1は、2つの木製構造材50,51間の仕口部52に設置され、木製構造材50,51同士を連結しつつ、当該仕口部52を補強するようになっている。
【0028】
そしてさらに、本実施形態にあっては、屈曲板部4は、平坦板部5の表面5c側もしくは裏面5d側のいずれか一方の側に寄せて一対の第2取付部6の間に位置するように、平坦板部5に対して、第2取付部6の折り曲げ側へ屈曲させて形成される。
【0029】
図5を参照して説明すると、各第2取付部6が平坦板部5の表面5c側へ折り曲げて形成されている場合、屈曲板部4の波状の山部4a及び谷部4bは、平坦板部5の板面を基準として、裏面5d側へは屈曲形成されずに、表面5c側へ向かってのみ屈曲形成される。
【0030】
このように形成することで、平坦板部5の裏面5dに対し、屈曲板部4のすべての山部4a及び谷部4bが平坦板部5の表面5c側に寄せて、一対の第2取付部6の間に位置される。
【0031】
本実施形態においては、屈曲板部4を平坦板部5の表面5c側へ寄せて形成することで、屈曲板部4は圧縮変形時、平坦板部5を基準として、おおよそ表面5c側外方へのみ迫り出すように変形されると共に、図6(a)に示すように、平坦板部5から伝達される荷重Fが蛇腹の端(図中、Sで示す)に偏って作用するように構成される。また、第2取付部6間に位置するように形成することで、屈曲板部4及びこれを変形させるスペースが、第2取付部6間に確保される。
【0032】
第2補強金物1は、一対の第2取付部6それぞれを2つの木製構造材50,51に対し接合することで、屈曲板部4をこれら木製構造材50,51で挟んだ形態で、仕口部52に設置される。地震などの外力の作用により建物に反復する揺れが生じ、これにより、木製構造材50,51同士の間に、入隅を開いたり閉じたりする角度変化を生じさせる荷重が加わると、その荷重の一部が第2取付部6から第2補強金物1に入力される。
【0033】
第2補強金物1は、仕口部52を大きく変形させる入力荷重が入力されると、屈曲板部4が伸縮変形し、弾塑性ヒステリシスループを描くエネルギ吸収作用で、入力荷重に対しこれを緩衝しつつ吸収し、これにより仕口部52を補強することができる。
【0034】
このとき、屈曲板部4は、圧縮変形される際、平坦板部5の表面5c側において外向きに迫り出すように変形することになる。また、屈曲板部4は、互いに面する一対の第2取付部6間のスペース内で伸縮変形することになる。
【0035】
さらにこの変形の際、第2取付部6から平坦板部5を介して屈曲板部4に入力される荷重Fは、図6(a)に示すように蛇腹の端Sに偏って作用する。図6(b)に例示した蛇腹の中央(図中、Tで示す)に荷重Fが作用する場合には、主に荷重作用方向の圧縮・引張作用のみによる変形態様となってモーメント作用mは僅かであるが、それに比べ、蛇腹の端Sに偏って荷重Fを作用させることにより、荷重作用方向の圧縮・引張作用のみならず、モーメント作用Mを格段に増大させることができ、伸縮変形に必要な荷重を低減することができる。なお、本発明において、第2補強金物1の屈曲板部4が、図6(b)に示した形態をなすように形成されていても良いことは言うまでもない。
【0036】
これら第1補強金物53及び第2補強金物1は、並列に並べて仕口部52に設けられる。並列の形態としては例えば図2に示すように、木製構造材51,52の幅方向(図中、Wで示す)に横並びに並べる形態とされる。この場合、図7に示すように、第1及び第2補強金物53,1は、第1取付部54と第2取付部6が隣接するように向かい合わせても、図8に示すように、第1取付部54と第2取付部6が離れるように背中合わせにしてもよい。
【0037】
あるいは、入隅の内方と外方とに並べる形態で、これら第1及び第2補強金物53,1を配置するようにしてもよい。これ以外にも、図9に示すように、仕口部52において縦向き及び横向き木製構造材50,51がL字状をなす側面部分に当接するように第1及び第2取付部54a,6aを形成し、縦向き及び横向き木製構造材50,51の側面部分に並列に並べて設けるようにしてもよい。さらには、図10に示すように、第1及び第2補強金物53,1のいずれか一方を入隅に設置し、他方を側面部分に設置するようにしてもよい。
【0038】
図7及び図8に示した並列配置の例に従って説明すると、これら第1及び第2補強金物53,1は、仕口部52に変形が生じた際、当該仕口部52にねじれが生じないように、第1及び第2取付部54,6の取付間隔の中心が縦向き及び横向き木製構造材50,51の芯Zに沿って配置される。並列形態の変形例にあっても、第1及び第2補強金物53,1の性能を測定するなどして勘案し、変形力が木製構造材50,51の芯Zに沿って作用するように第1及び第2取付部54,6の取付位置を設定するようにしてもよい。
【0039】
本実施形態にかかる木造建築物の仕口部補強構造の作用について説明する。木造建築物に変形外力が入力し、仕口部52に変形が生じる際、第1補強金物53と第2補強金物1は、最初に第1補強金物53が小変形を阻止するように機能し、変形が増大して第1補強金物53の当該阻止機能が次第に喪失されていく途中で、第2補強金物1が変形エネルギーの吸収作用を開始し、第1補強金物53が機能しなくなった後も、第2補強金物1が継続して変形エネルギーを吸収するようになっている。
【0040】
具体的には、仕口部52の変形が小さい場合には、最大耐力の高い平坦面部55を備えた第1補強金物53が仕口部52の初期剛性を確保して、当該小変形に対して抵抗することができる。この際、伸縮変形して変形エネルギーを吸収する屈曲板部4を備えて変形に追従する第2補強金物1は、変形が小さいことから、ほとんど機能することがない。
【0041】
中規模の変形状態では、第1補強金物53が抵抗すると同時に、第2補強金物1の屈曲板部4が変形エネルギーの一部を吸収するので、これらを単独で用いる場合よりも、全体として耐力を高めることができる。
【0042】
さらに、変形が大きい場合や変形が次第に増大していく場合は、第1取付部54のビス56が木製構造材50,51から抜け出して第1補強金物53の木製構造材50,51に対する取り付けが緩んだり、ビス56や第1補強金物53が変形してしまうなど、第1補強金物53で変形に抵抗し得なくなる状況に移行すると、仕口部52のこの大きな変形によって第2補強金物1の屈曲板部4が伸縮変形を伴って変形エネルギーを吸収することができる。
【0043】
以上説明したように、本実施形態にかかる木造建築物の仕口部補強構造にあっては、上述した第1及び第2補強金物53,1を仕口部52に並列に並べて設けるようにしたので、大規模な変形に対し、伸縮変形して変形エネルギーを吸収する屈曲板部4を備える第2補強金物1によって仕口部52に十分な靭性を確保することができると共に、小規模な変形に対しても、平坦面部55を備える第1補強金物53によって仕口部52の初期剛性や最大耐力を増大させることができ、小変形から大変形に至る幅広い変形域で第1及び第2補強金物53,1が確実に機能して仕口部強度を向上することができる。
【0044】
仕口部強度が向上することにより、木造建築物の水平方向力に対する耐力の向上や、建築物の自重によって生じる転倒モーメントへの抵抗力の向上を確保することができ、建物の倒壊する角度がより大きくなって、倒壊を遅延させたり、さらには倒壊の危険性を低減することができる。
【0045】
また、一つの補強金物で小変形から大変形に至るまでの耐力をカバーすることは困難であると共に、製作にあたっても、コストや加工性・作業性の面で著しく不利であるが、本実施形態では、変形に応じて適した第1及び第2補強金物53,1を併用することで、同程度以上の性能を期待できると共に、製作にあたっても、コストや加工性・作業性の面で有利である。
【0046】
第2補強金物1については、屈曲板部4を、平坦板部5に対しその表面5c側一方に寄せて、屈曲形成すれば、屈曲板部4が圧縮変形する際、当該屈曲板部4が平坦板部5の裏面5d側から外方へ迫り出すことがなく、当該裏面5d側に、伸縮変形する屈曲板部4と干渉することのないスペースを確保することができる。
【0047】
このようなスペースを確保できることにより、狭隘な取付箇所であっても、第1補強金物53に対し、第2補強金物1を適切に並設することができて省スペース化を達成することができると共に、第2補強金物1の機能を損なうことなく、これに近接させてブレース58などの周辺部材を設置することができる。
【0048】
また、屈曲板部4におけるモーメント作用Mを強めることができて、伸縮変形に必要な荷重を低減することができ、蛇腹状とした屈曲板部4の変形性能を改善し向上することができて、優れたエネルギ吸収能力を発揮させることができる。これにより、第2取付部6に作用する荷重が減少し、ネジ7等への荷重負担も軽減されることから、地震による繰り返しの揺れなどに対しても、屈曲板部4の機能を確実に発揮させることができる。
【0049】
また、一対の第2取付部6をともに、互いに面するように、平坦板部5に対してその表面5c側へ折り曲げて形成すると共に、屈曲板部4を、第2取付部6間に位置させるようにすれば、第2取付部6による接合に要するスペースと、屈曲板部4を伸縮変形させるスペースを同じ側(表面5c側)にまとめることができ、第2補強金物1をコンパクト化することができて、これによっても省スペース化することができる。
【0050】
さらに、屈曲板部4は、伸縮方向中央を幅狭に形成したので、両側の山部4aだけでなく、谷部4bにおける変形能も高めることができ、屈曲板部4の伸縮性能が向上する。平坦板部5の側縁部5aの長さ寸法を木製構造材50,51の長さ方向へ長く形成したので、当該平坦板部5による屈曲板部4と第2取付部6との間での効果的な荷重伝達を確保できる。第2取付部6をともに、同じ向きに折り曲げるようにすれば、反対向きに折り曲げる場合に比べ、屈曲板部4を横切る左右横向きのせん断作用に対し、左右どちらの方向に対しても効果的に抵抗しつつ、木製構造材50,51から第2取付部6に入力される荷重を、平坦板部5及び屈曲板部4へ効率よく伝達することができる。
【0051】
上記実施形態にあっては、一対の第2取付部6を、平坦板部5に対しL字状に折り曲げることで、互いに面するように形成した場合を例示して説明したが、図9に示したように平坦板部5に対して折り曲げることなく、第2取付部6と平坦板部5とが一連に平坦に連なる形態で形成しても良い。L字状に折り曲げた場合は、第2補強金物1は図示したように、木製構造材50,51間の入隅に納まる形式で設置されるが、平坦にした場合は、木製構造材50,51同士のL字状をなす側面部分に添設する形式で設置される。このような添設する設置形式であっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1 第2補強金物
4 屈曲板部
6,6a 第2取付部
50 縦向き木製構造材
51 横向き木製構造材
52 仕口部
53 第1補強金物
54,54a 第1取付部
55 平坦面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦向き木製構造材と横向き木製構造材とを接合した仕口部を補強金物で補強するようにした木造建築物の仕口部補強構造であって、
これら縦向き及び横向き木製構造材にそれぞれ取り付けられる第1取付部と、これら第1取付部の間で、該縦向き及び横向き木製構造材の上記仕口部に位置させて設けられ、該仕口部の小変形に抵抗する平坦面部とを有する第1補強金物と、
これら縦向き及び横向き木製構造材にそれぞれ取り付けられる第2取付部と、これら第2取付部の間で、該縦向き及び横向き木製構造材の上記仕口部に位置させて設けられ、該仕口部の変形の増大に従って伸縮変形して変形エネルギーを吸収する屈曲板部とを有する第2補強金物とを備え、
これら第1及び第2補強金物を並列に並べて上記仕口部に設けたことを特徴とする木造建築物の仕口部補強構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−77484(P2012−77484A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222026(P2010−222026)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】