木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム
【課題】 地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムを提供すること。
【解決手段】 地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有する。
【解決手段】 地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を行う木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大規模地震において既存木造建築物に大きな被害が出たことから木造建築物の耐震性能が注目されるようになり、研究分野においても木造建築物の実物大の振動台実験などが行われるようになってきた。しかし、実物大の振動台実験では、膨大な費用と労力及び時間が掛かってしまうという問題があった。
【0003】
そこで、近年では、コンピュータの高性能化も相まって、建築物の地震時の挙動をシミュレーションプログラムによって計算・シミュレートすることにより建築物の時刻歴応答解析が行われるようになってきている。
【0004】
このような建築物の時刻歴応答解析としては、従来、マトリックス法に代表される有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いたシミュレーションプログラムにより行われることが一般的であった。
【0005】
しかし、有限要素法では、全体剛性マトリックスを計算していかなければならないため、倒壊まで追跡するには極端な非線形性を考慮しなければならず、特に、部材の破断(木材の折損)、亀裂の進展といった極端に破壊が進行した状態において計算の中で不釣合い力を処理することが難問であった。特に、木造建築物では、倒壊限界は層間変形角が1/5rad.を超える大変形域に達することもあり、有限要素法によるシミュレーションプログラムによって、変形が進行した状態から倒壊に至るまでの木造建築物の挙動を、地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることは甚だ困難であった。
【0006】
この問題を解決するため、本発明者は、破壊が進行した大変形域から倒壊に至るまでの地震時の実際の挙動を精度よくシミュレートするには、非連続体解析法の1つである個別要素法(Distinct Element Method:DEM)を用いることが有効ではないかと考え、個別要素法を基本原理とした本発明に係るシミュレーションプログラムを開発するに至った。この個別要素法を用いたシミュレーション手法は、土木分野で土砂や岩盤の崩壊などの非連続体の挙動を解析する手法として開発されたものであり、本発明者が適用を試みるまでは木造建築物の地震時の応答解析に個別要素法が用いられることはなかった。
【0007】
なお、地震時の応答解析ではないが個別要素法を建築物に応用した例としては、特許文献1に「建造物崩壊シミュレーション方法」が開示されている。しかし、この特許文献1に記載の建造物崩壊シミュレーション方法は、RC(鉄筋コンクリート)造の建築物を爆破により崩壊させる際のシミュレーション方法であり、爆破により粉々になったRC造の建築物に適用することはできるが、木造建築物の地震時の時刻歴応答解析に適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−21148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、前記従来技術の問題を解決し、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有するので、有限要素法をはじめとする従来のシミュレーションプログラムでは精度よくシミュレートすることができなかった変形が進行した状態から倒壊に至るまでの木造建築物の挙動を地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることができる。このため、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、軸組構法で建造された木造建築物の構造特性を活かし、更に精度よく計算・シミュレートすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算結果の分析が容易となり、木造建築物の耐震設計や震災時の被害の低減など様々な研究に資することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算に必要なデータの入力が容易となり、より高精度に地震時における木造建築物の時刻歴応答解析を行うことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算結果の利用が容易となり、時刻歴応答解析をアニメーションや3D画像などで視覚化して確認することも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】個別要素法による岩盤の崩壊シミュレーションの概念図である。
【図2】従来の個別要素法で計算する力の説明図である。
【図3】軸組のモデル化の概念図である。
【図4】同上のモデル化に用いた復元力特性の説明図である。
【図5】同上のモデル化に用いた骨格曲線を示すグラフである。
【図6】接合部のモデル化の概念図である。
【図7】同上のモデル化に用いた弾塑性バネの復元力特性を示すグラフである。
【図8】同上のモデル化に用いた弾塑性回転バネの復元力特性を示すグラフである。
【図9】鉛直構面のモデル化の概念図である。
【図10】鉛直構面のモデル化に用いた復元力特性の説明図である。
【図11】筋違のモデル化の概念図である。
【図12】本発明の実施例に係るプログラム計算の流れを示す説明図である。
【図13】解析モデルファイルの作成の流れを示す説明図である。
【図14】軸組ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図15】軸組モデルの各部の説明図である。
【図16】構面ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図17】構面モデルの各部の説明図である。
【図18】筋違ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図19】筋違モデルの各部の説明図である。
【図20】重量ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図21】解析モデルの重量指定を説明する説明図である。
【図22】解析モデルの確認画面の一例を示す図である。
【図23】解析モデルの外観の詳細設定ウィンドの一例を示す図である。
【図24】パラメータファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図25】パラメータファイルに軸組バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図26】パラメータファイルに接合部バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図27】パラメータファイルに回転バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図28】パラメータファイルに構面バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図29】パラメータファイルに筋違バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図30】各外力入力モードのイメージを示す説明図である。
【図31】外力ファイルの地震波入力時のフォーマットを示す説明図である。
【図32】外力ファイルのプッシュオーバー解析1のフォーマットを示す説明図である。
【図33】外力ファイルのプッシュオーバー解析2のフォーマットを示す説明図である。
【図34】計算条件ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図35】計算プログラムの主要な計算の流れを示すフローチャートである。
【図36】実験対象の木造住宅の各階平面図である。
【図37】兵庫県南部地震の際に観測された地震波形(JMA Kobe)を150%に増幅した波形の加速度応答スペクトルを示すグラフである。
【図38】1階の層間変位の時刻歴波形を振動台実験と解析モデルのシミュレーションとを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[個別要素法]
先ず、本発明に係るプログラムの基本理論である個別要素法の概要を説明する。
背景技術で述べたように、地震時の木造建築物の倒壊までの時刻歴応答解析を精度よく追跡できる解析手法として、本発明に係るプログラムでは、従来の建築分野における構造解析で一般的に用いられてきた有限要素法の代わりに、各要素に作用する応力を個別に計算して、全体剛性マトリックスを解く必要なく、加速度、速度、変位増分等を求めることができる個別要素法を基本理論として採用した。個別要素法は、元来、図1に示したような土壌や岩盤の崩壊を計算するために開発された「非連続体解析法(バラバラな物体の挙動を計算する手法)」であるので、大変形域から倒壊に至るまでの建物の挙動解析を自然に行うことが可能である。
【0022】
なお、個別要素法は、数値解析手法の中では動的陽解法のカテゴリーに入るものであり、従来の個別要素法を用いた解析手法では、図2に示したように、専ら物体と物体が接触した際にその反発力と摩擦力を計算するのみであった。このため、梁要素やトラス要素などの建築物の構造解析で一般的に用いられている構造要素が存在しなかった。そのため、建築分野では個別要素法を用いた研究例そのものが少なく、現状では、木造建築物を対象として個別要素法を用いた時刻歴応答解析ツールは存在しない状況である。
【0023】
(数値解析手法)
次に、この個別要素法の数値解析法について説明する。
解析モデルは、有限要素法と同様、節点とバネとを組み合わせていくことで構築する。あるバネiにおいて両端の節点1、2間の時刻t-1における全体座標系での変位ベクトル、応力ベクトルを下記(式1)、バネiの変位ベクトル[ Di ]t-1、応力ベクトル[ Fi ]t-1の時刻t-1における部材座標系での変位ベクトル、応力ベクトルを下記(式2)、各ベクトルの時刻t-1〜tのΔt間の増分を下記(式3)とし、時刻t-1において外力の作用によりバネiの両端の節点1、2に[Δdi ]tの変位増分があったとすると、要素剛性マトリックス[ Ki ]t、減衰マトリックス[ Ci ]tのバネiでは下記(式4)によって[ fi ]tを算出することができる。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
ここで、全体座標系 → 部材座標系の座標変換マトリックスを[ Ti ]tとすると前記(式4)は、下記(式5)と表わすことができる。
【0029】
【数5】
【0030】
前記式5を各バネにおいて計算し、各節点における応力ベクトル[ fi ]t1、[ fi ]t2を算出する。この応力ベクトルを、ある節点Aに接続されるすべてのバネにおいて加算することで、節点Aに作用する応力ベクトル[ FA ]tを算出する(式6)。
【0031】
【数6】
【0032】
この式によって算出された応力ベクトルをNewmarkのβ法(平均加速度法 β=1/4)によって数値積分を行い、時刻tにおける加速度[ aA ]t、速度[ vA ]t、変位増分[ΔDA ]tを算出する(式7)。
【0033】
【数7】
【0034】
以上の計算を各要素、各時刻について行うことで、外力に対するモデル全体の応答を算出していく。このように、全体剛性マトリックスを解かずに各要素で個別に応力を算出する点が従来の有限要素法にはない個別要素法の特徴である。つまり、時刻が進むことによる要素間の応力の伝播によって釣り合いを保つため、不釣合い力の処理や、崩壊後の挙動などは特別な処理をすることなく解析をすることができる。
【0035】
(解析モデルの構築)
次に、木造建築物の各構成部材のモデル化手法について説明する。本発明では、軸組構法により建造された木造建築物をモデル化するにあたって、各構成部材とその接合部を、軸組、接合部、鉛直構面及び垂直構面、筋違(すじかい)に分けてモデル化を行った。
【0036】
(軸組のモデル化)
先ず、軸組のモデル化について説明する。
図3に示すように、柱、束、梁、桁、窓台、まぐさ等の軸組部材は、部材の折損を考慮するために弾塑性回転バネ(塑性ヒンジ)+弾性梁要素でモデル化を行った。このモデルの入力された荷重と変形の関係を表わす復元力特性(履歴特性)は、図4に示した履歴則のものを用いた。ここで、部材の曲げ強度は、実験結果や文献などにより設定し、断面係数に従い最大曲げモーメントを決定した。
また、図5に示すように、この骨格曲線は、M−θ関係で定義されており、最大曲げモーメントを超えるとモーメントが低下し始め、曲げモーメントがゼロの回転角に達すると、部材が折損したとみなし、部材間の回転バネをピン接合に変更する。
このように設定することで、通し柱の折損や、垂れ壁がついた柱の横架材接合部での折損現象を解析で表現することが可能となった。
【0037】
(接合部のモデル化)
次に、軸組間の接合部のモデル化について説明する。
図6に示すように、軸組間の接合部は、弾塑性回転バネ+弾塑性バネ(せん断に対しては剛)を用いてモデル化を行った。圧縮・引張の弾塑性バネ(以下、接合部バネという)の復元力特性は、図7に示す片側弾性+片側スリップ型のものを用いており、この骨格曲線は実験データを元にして設定した。
また、弾塑性回転バネの履歴特性は、図8に示すスリップ型のものを用い、文献等から骨格曲線を決定した。なお、この弾塑性回転バネは、強軸、弱軸の各方向に独立に作用するように設定している。
【0038】
(鉛直構面、水平構面のモデル化)
次に、鉛直構面及び水平構面のモデル化について説明する。
図9に示すように、壁、垂れ壁、腰壁などの鉛直構面は、トラスバネでブレース置換することでせん断力のモデル化を行った。復元力特性は、図10に示すバイリニア+スリップ型の履歴則を用いた。
また、床、屋根などの水平構面も同様にトラス要素でブレース置換することでモデル化し、復元力特性も同様にバイリニア+スリップ型の履歴則を用いた。なお、図示する骨格曲線は、文献や実験結果を参考に設定した。
【0039】
(筋違のモデル化)
次に、筋違のモデル化について説明する。
図11に示すように、筋違部材は、1本の筋違に対して圧縮と引張の2本のトラス要素を配置することでモデル化を行った。圧縮筋違のバネは引張り方向の力には作用せず、引張筋違のバネは圧縮方向のバネには作用しないように設定することにより、筋違耐力壁の非対称な水平復元力を表現している。また、圧縮筋違は、フレームとの接合点を横架材に設定することで、圧縮筋違による梁・桁の突き上げ挙動をモデル化した。なお、復元力特性は、構面のバネと同様にバイリニア+スリップ型の履歴則を採用した(図10参照)。
【0040】
なお、各構成部材のモデル化にあたっては、数値積分は平均積分法とし、減衰は瞬間剛性比例型で、下り勾配では0%になるものとして設定した。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムについて図面を参照して説明する。
【0042】
(計算の概要)
先ず、本発明の実施例に係るプログラムの概要について図12を用いて説明する。図12に示す計算プログラム(calc.exe)が、本発明の一実施例として例示する木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであり、図中のgui.exeは、計算プログラムの支援ソフトであるインターフェースプログラムである。この計算プログラム(calc.exe)は、図12に示すように、後述の解析モデルファイル(test.mod)、パラメータファイル(parm.csv)、外力条件ファイル(load.csv)、計算条件ファイル(default.ini)の計4つの入力ファイル(表1参照)に保存されている情報に基づいて、規定された時間刻み(=Δt0)毎の所定の計算をコンピュータに実行させ、軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(detaout.csv)、解析継続ファイル(cont.mod)の3つの出力ファイル(表2参照)を出力する木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
また、インターフェースプログラム(gui.exe)は、計算プログラム(calc.exe)のインターフェースプログラムとして、入力ファイルである後述の解析モデルファイルの作成支援や解析モデルを3次元(3D)画像として可視化すること、出力ファイルである軌跡ファイルに保存された解析モデルの各要素の座標の時刻歴データをアニメーションにして可視化すること、などをコンピュータに実行させるプログラムである。
【0046】
[解析モデルファイル]
解析モデルファイルは、図13に示すように、解析モデルの部材端部の座標などの情報が入力された軸組ファイル(frame.csv)、構面ファイル(wall.csv)、筋違ファイル(brace.csv)、重量ファイル(weight.csv)の4つのCSVファイル(カンマ区切り形式のtextファイル)からインターフェースプログラム(gui.exe)で作成されるファイルであり、解析モデルの要素、バネに関する情報が入力されたファイルである。前述のように、本発明の解析モデルは、軸組、接合部、鉛直構面、垂直構面、筋違に分けてモデル化されているので、解析モデルファイルもこれらの解析モデルと合致するように、軸組ファイル、構面ファイル、筋違ファイル、重量ファイルの4種類のフォーマットのCSVファイルから後述の各モデルの部材端部の座標などの各種情報を入力して、インターフェースプログラム(gui.exe)で解析モデルとして可視化できるようになっている。
【0047】
(軸組ファイル)
軸組ファイル(frame.csv)は、図14に示すように、1行が軸組部材の1つと対応した13列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの軸組及び軸組間の接合部に関する情報が入力されるファイルである。表3に示すように、1列目は、軸組の種類を入力する部位であり、梁や桁などの横架材の場合は1、柱や束などの柱材の場合は2が入力される。2〜4列目は、軸組部材の端部1(図15参照)の絶対座標がXYZ順に入力され、5〜7列目は、軸組部材の端部2(図15参照)の絶対座標がXYZ順に入力される部位である。8列目は、軸組部材の端部1の接合部の勝ち負けが入力される部位であり、勝ちの場合は1が、負けの場合は0が入力される。端部に接合部が無い場合は、1が入力される。9列目は、8列目と同様に軸組部材の端部2の勝ち負けが入力される部位である。10列目は、軸組部材の断面の幅、11列目は、軸組部材の断面の成(せい:高さ)が入力され、12列目は、当該軸組部材のパラメータID(バネ番号)が入力され、13列目は、軸組部材の両端の接合部のパラメータIDが入力される部位である。このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したパラメータIDの番号と同一とする必要がある。また、座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。
【0048】
【表3】
【0049】
なお、部材の端部の座標が同一の場合、インターフェースプログラム(gui.exe)により解析モデルの接合部が自動で生成される。その際、「負け」となる部材は、芯−芯の座標で入力されているので相手の部材の幅の分自動でオフセットされる。また、3次元で座標入力するフォーマットであるが、Y座標(図15参照)を全て0とすることで、2次元のシミュレーションも可能である。
【0050】
(構面ファイル)
構面ファイル(wall.csv)は、図16に示すように、1行が桟木などで囲われた各構面の1つに対応した7列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの鉛直構面及び水平構面に関する情報が入力されるファイルである。表4に示すように、1〜3列目は、各構面の端部1(図17参照)の絶対座標がXYZの順に入力され、4〜6列目は、各構面の端部2(図17参照)の絶対座標がXYZの順に入力される部位である。軸組ファイルと同様に、座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。7列目は、構面のパラメータIDが入力される部位である。このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したID番号と同一とする必要がある。
なお、構面の端部には、軸組部材の端部が必要とされ、壁に開口部が有る場合は、軸組ファイルに開口部上下の横架材(窓台、まぐさ)を追加し、垂れ壁、腰壁を構面ファイルに追加する。
【0051】
【表4】
【0052】
(筋違ファイル)
筋違ファイル(brace.csv)は、図18に示すように、1行が筋違部材の1つに対応した7列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの圧縮筋違及び引張筋違に関する情報が入力されるファイルである。表5に示すように、1〜3列目は、筋違部材の端部1(図19参照)の絶対座標がXYZの順に入力され、4〜6列目は、筋違部材の端部2(図19参照)の絶対座標がXYZの順に入力される部位である。筋違ファイルも座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。7列目は、筋違部材のパラメータIDが入力される部位であり、このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したID番号と同一とする必要がある。
なお、筋違部材の端部にも、軸組部材の端部が必要とされ、筋違を襷掛けで入れる場合は、片筋違が別にあるものとして2行に分けて入力する。
【0053】
【表5】
【0054】
(重量ファイル)
重量ファイル(weight.csv)は、図20、表6に示すように、1行目が、解析モデルの階数、2行目が、解析モデルの各階の高さ、3行目が、解析モデルの各層の重量、が入力される最大5列まで入力可能なフォーマットのCSVファイルとなっている。
2行目の1列目は、GL(グラウンドレベル)(図21のh0)、2列目以降は、2階床レベル(図21のh1)、3階床レベル(図示せず)・・・と順次各階の床レベルがメートル単位で入力され、最後の列には、小屋梁のレベル(図21のh2)が入力される部位となっている。
3行目は、図21に示すように、解析モデルを、各階床を中心として串団子置換した場合の等価質量がkN単位で入力される部位となっており、最初の列は1階の下半分の重量が入力され、最後の列は最上階の上半分+小屋組の重量が加算されて入力される。
なお、ここで入力された重量は、当該高さに存在する要素の数で除され、均等に分配される。
【0055】
【表6】
【0056】
以上のように、軸組ファイル(frame.csv)、構面ファイル(wall.csv)、筋違ファイル(brace.csv)、重量ファイル(weight.csv)の4つのCSVファイルを入力すると、前述のインターフェースプログラム(gui.exe)を起動して、所定の操作をすることにより、各ファイルに入力された前述の各モデルの絶対座標などの情報を読み込み、図22に示すように、自動で3D(次元)画像として表示可能となり、その解析モデルを解析モデルファイルとして保存することができるようになる。
【0057】
また、本実施例に係るインターフェースプログラム(gui.exe)では、マウス、Ctrlボタン、画面上のボタンなどを操作することにより、確認画面で視覚的に解析モデルを確認することができるだけでなく(図22参照)、図23に示すように、解析モデルの外観、壁の透過率、光源の位置、地盤のメッシュの数(図22参照)、相対位置表示等が変更可能なようにプログラミングされている。
【0058】
[パラメータファイル]
次に、パラメータファイルについて説明する。
パラメータファイル(parm.csv)は、図24に示すように、1行が解析モデルでモデル化する際に置き換えるバネの1つと対応するCSVファイルとなっており、1列目には、置き換えるバネ毎(例えば、異なる仕様の壁が混在する場合は仕様毎)にパラメータIDが割り振られる。そして、2列目には、前述のモデル化手法に従って、表7に示すように、各部材や接合部などのモデル化するバネの種類に応じて1〜7の数値が入力され、3列目以降には、2列目に入力されたバネの種類に応じて異なる各種パラメータが複数列に亘って入力されるフォーマットとなっている。
以下、バネの種類毎に、入力するパラメータについて説明する。
【0059】
【表7】
【0060】
(軸組部材のバネの設定)
バネの種類が軸組バネである場合、即ち、パラメータファイルに柱、束、梁、桁、窓台、まぐさなどの軸組部材のパラメータを入力する場合は、図25、表8に示すように、2列目には、軸組バネを表わす1が入力される。そして、軸組部材は、前述のように、弾塑性回転バネ(塑性ヒンジ)+弾性梁要素によりモデル化されるので、バネのパラメータとして、3列目には、軸組部材のヤング係数(縦弾性係数)[kN/m2=10-6GPa]が入力され、4、5列目には、軸組部材の断面2次モーメント[m4]が(例えば、軸組部材が梁である場合は、幅、成の順番で)入力され、6、7列目には、最大曲げモーメント「kNm」(図5のMp)が入力され、8列目には、軸組部材の断面積[m2]が入力されるフォーマットとなっている(表8も参照)。
【0061】
【表8】
【0062】
(接合部のバネの設定)
バネの種類が接合部バネである場合、即ち、パラメータファイルに接合部のパラメータを入力する場合は、前述のように、接合部は、弾塑性回転バネ+弾塑性バネ(せん断に対しては剛)(=接合部バネ)でモデル化されるので、接合部バネと、回転バネとに分けて入力される。
【0063】
接合部の弾塑性バネのパラメータは、図26、表9に示すように、2列目には、接合部の接合部バネを表わす2が入力され、3〜5列目には、図7で示した復元力特性の1〜3次剛性[kN/m]が入力され、6,7列目には、その骨格曲線の変曲点D1,D2[m]が入力される(図7参照)。
【0064】
【表9】
【0065】
接合部の回転バネのパラメータは、図27、表10に示すように、2列目には、接合部の回転バネを表わす3が入力され、3〜5列目には、図8で示した復元力特性の1〜3次剛性[kN/m]が入力され、6,7列目には、その骨格曲線の変曲点D1,D2[m]が入力される(図8参照)。
【0066】
【表10】
【0067】
(構面のバネの設定)
バネの種類が構面バネである場合、即ち、パラメータファイルに鉛直構面又は水平構面のパラメータを入力する場合は、2列目には、構面バネを表わす5が入力される。鉛直構面又は水平構面は、前述のように、トラス要素でブレース置換することでモデル化されるので、図28、表11に示すように、3〜6列目には、図10で示した復元力特性の折れ点の荷重P1〜P4[kN]が入力され、7〜10列目には、復元力特性の折れ点の変位D1〜D4[m]が入力され、11列目には、バネの減衰定数が入力される。
【0068】
【表11】
【0069】
この構面バネのパラメータ情報は、2本のブレース置換バネに自動的に寸法、角度補正して計算に用いられるので、実験結果などから1P(0.91m)×3P(2.73m)の寸法の構面の荷重変形関係(図10で示したバイリニア+スリップ型の復元力特性)を求めて前記荷重P1〜P4、変位D1〜D4などの入力値をパラメータとして入力する。
【0070】
(筋違のバネの設定)
バネの種類が筋違バネである場合、即ち、パラメータファイルに筋違部材のパラメータを入力する場合は、筋違バネは、前述のように、圧縮筋違のバネは引張り方向の力には作用せず、引張筋違のバネは圧縮方向のバネには作用しないものとして、1本の筋違に対して圧縮と引張の2本のトラス要素を配置することでモデル化を行うので、1つの筋違部材を引張筋違バネ、圧縮筋違バネに分けて入力する。また、引張筋違と圧縮筋違は、一対で1つの筋違をモデル化しているため、パラメータIDは、引張筋違のID(例:601)+100が圧縮筋違のID(例:701)となるように割り振る必要がある。
【0071】
パラメータファイルに引張筋違バネのパラメータを入力する場合は、2列目には、引張筋違を表わす6が入力され、圧縮筋違バネのパラメータを入力する場合は、2列目には、圧縮筋違を表わす7が入力される。
【0072】
そして、筋違バネは、図29、表12に示すように、構面バネと同様にトラス要素でブレース置換することでモデル化されるので、3〜6列目には、図10で示した復元力特性の折れ点の荷重P1〜P4[kN]が入力され、7〜10列目には、復元力特性の折れ点の変位D1〜D4[m]が入力され、11列目には、バネの減衰定数が入力される。
なお、筋違バネも構面バネと同様、実験結果などから1P(0.91m)×3P(2.73m)の寸法の筋違構面の荷重変形関係(図10で示したバイリニア+スリップ型の復元力特性)を求めてパラメータとして入力する。
【0073】
【表12】
【0074】
[外力条件ファイル]
次に、外力条件ファイルについて説明する。
本実施例に係る計算プログラム(calc.exe)は、「地震波入力」、「プッシュオーバー解析1」、「プッシュオーバー解析2」の解析モデルへの地震力の掛け方が相違する3つのモードが実行可能にプログラミングされている。この「地震波入力」のモードは、図30(a)に示した通り、地盤レベルの要素全てに強制外乱入力を行うモードであり、「プッシュオーバー解析1」のモードは、図30(b)に示した通り、地盤レベルの要素を固定して解析モデルのある高さの要素全てを水平方向に強制変位を与えるモードであり、「プッシュオーバー解析2」のモードは、図30(c)に示した通り、地盤レベルの要素を固定して解析モデルの全てに水平方向の重力加速度を掛けるモードである。
【0075】
これらのモードに対応するため、外力条件ファイル(load.csv)には、前記3つのモードを実行する際に読み込む地震波等の外力の情報を入力する「地震波入力」、「プッシュオーバー解析1」、「プッシュオーバー解析2」のCSVファイルから入力する3つの入力フォーマットがある。
「地震波入力」のフォーマットは、図31に示すように、1行目がX方向の地震波、2行目がY方向の地震波、3行目がZ方向の地震波をそれぞれ入力する部位であり、表13に示すように、1列目には、入力フォーマットを選択するための各モードに応じた数値が入力される部位となっている。「地震波入力」の場合は1が、「プッシュオーバー解析1」の場合は2が、「プッシュオーバー解析2」の場合は3が入力され、「固定」の場合は、0が入力される。なお、この「固定」のモードは、地震力を掛けないモードである。
【0076】
【表13】
【0077】
2列目には、入力地震波の時刻歴ファイル(変位変形の時刻歴が1列に入力されたファイル)の名前が入力され、3列目には、2列目に入力した地震波の時刻歴ファイルの周波数が[Hz]単位で入力され、4列目には、地震波の時刻歴ファイルに入力されている数値の単位が[m]に対する倍率で入力される。例えば、[cm]の場合は0.01、[mm]の場合は0.001、[m]の場合は1.0が入力される。
そして、5列目は、地震波を増幅させる際の倍率である入力倍率が入力される部位であり、ここにマイナスを指定して入力すると正負逆方向(逆位相)の外乱入力となる。
【0078】
「プッシュオーバー解析1」のフォーマットは、図32に示すように、1行目がX方向の加力、2行目がY方向の加力、3行目がZ方向の加力をそれぞれ入力する部位であり、表14に示すように、1列目には、「地震波入力」のフォーマットと同様に、入力フォーマットを選択するための各モードに応じた数値が入力される部位となっており、「プッシュオーバー解析1」を選択する2が入力される。
【0079】
【表14】
【0080】
そして、2、3列目は、空欄とされ、4列目には、加力点の高さが[m]単位で入力され、5列目には、強制変位のスピードである加力速度が[m/sec]の単位で入力される。ここにマイナスを指定して入力すると正負逆方向の加力となる。
【0081】
「プッシュオーバー解析2」のフォーマットも、「プッシュオーバー解析1」と同様に図33に示すように、1行目がX方向の加力、2行目がY方向の加力、3行目がZ方向の加力をそれぞれ入力する部位であり、表15に示すように、1列目には、「プッシュオーバー解析2」を選択する3が入力され、2〜4列目は、空欄とされ、5列目には、加力点の高さが[m]単位で入力され、5列目には、解析モデルに加える水平力の加速度が[G]の単位で入力される。ここに入力する値は、解析モデルに加える水平力の大きさを、0[G]から徐々に増して行って1秒後に達する値が重力加速度1[G]の何倍になるかで指定するものであり、マイナスを指定して入力すると正負逆方向の加力となる。
【0082】
【表15】
【0083】
[計算条件ファイル]
次に、計算条件ファイルについて説明する。
計算条件ファイル(default.ini)は、図34に示すように、2行からなるCSVのファイルのフォーマットから入力されるファイルであり、1行目には、計算条件の情報が保存され、2行目には、前述のインターフェースプログラム(gui.exe)で解析モデルを見る際の視点の情報が保存されたファイルである。この計算条件ファイルは、計算条件の情報や視点の情報が予め設定されて保存されており、ユーザがエディタやメモ帳などのtextファイルを編集できるソフトを使って、必要な個所を編集・修正することで使用する。
【0084】
このCSVのファイルの1列目には、表16に示すように、本実施例に係る計算プログラム(calc.exe)で計算する計算回数が保存されており、2列目には、計算の際にインクリメントで増やす時間刻み(=Δt0)が保存されている。この計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)が時刻歴応答解析を行う時刻である規定時間Tとなる(図35参照)。
また、3列目には、出力の頻度、即ち、計算結果を出力する頻度が保存されている。例えば、ここで10000と指定すると、10000回計算する毎に1回、動画用のスナップショットが出力ファイルである後述の軌跡ファイル(out.trj)に記録され、その1/10の1000回に1回、分析用の荷重・変形情報などが出力ファイルである後述の計算結果ファイル(dataout.csv)に時刻歴データとして記録される。
【0085】
【表16】
【0086】
[計算の主要部の流れ]
次に、図35を用いて計算プログラム(calc.exe)の主要な計算の流れを説明する。
計算が開始されると、先ず、前述の入力ファイル〔解析モデルファイル(test.mod)、パラメータファイル(parm.csv)、外力条件ファイル(load.csv)、計算条件ファイル(default.ini)〕から必要な情報を読み込み(ステップ1)、解析モデルの初期値をセットする(ステップ2)。そして、時刻tにt=0(ステップ3)、バネ番号i(パラメータID)に最小値(図示実施例の場合i=1)を代入し(ステップ4)、外力条件ファイルで指定したモード及び計算条件に従って時刻tにおける外力を解析モデルに入力して計算を開始する(ステップ5)。
【0087】
次に、ステップ6に進み、バネ番号iのバネは、バネの種類が軸組バネであるか否かが判断される。具体的には、前述のパラメータファイルの1列目がiのバネは、同行の2列目の数値が1か否かで判断され、1である場合は、ステップ7に進み、そうでない場合は、ステップ9に進む。ステップ7では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から軸組バネであるバネiの前述の式4で示した要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ7)、前述の式4、式5に基づきバネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ8)。
なお、バネの種類が軸組バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0088】
【数8】
【0089】
バネiが軸組バネでなくステップ9に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が2か否かでバネiが接合部バネか否かが判断され、2である場合は、ステップ10に進み、そうでない場合は、ステップ12に進む。ステップ10では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から接合部バネ(圧縮・引張の弾塑性バネ)であるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ10)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ11)。
なお、バネの種類が接合部バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0090】
【数9】
【0091】
バネiが接合部バネでもなくステップ12に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が3か否かでバネiが回転バネか否かが判断され、3である場合は、ステップ13に進み、そうでない場合は、ステップ15に進む。ステップ13では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から回転バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ13)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ14)。
なお、バネの種類が回転バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0092】
【数10】
【0093】
バネiが回転バネでもなくステップ15に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が4か否かでバネiが構面バネか否かが判断され、4である場合は、ステップ16に進み、そうでない場合は、ステップ18に進む。ステップ16では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から構面バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ16)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ17)。
なお、バネの種類が構面バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0094】
【数11】
【0095】
バネiが構面バネでもなくステップ18に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が5か否かでバネiが圧縮筋違バネか否かが判断され、5である場合は、ステップ19に進み、そうでない場合は、ステップ21に進む。ステップ19では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から圧縮筋違バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ19)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ20)。
なお、バネが圧縮筋違バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は前記構面バネと同じ式となる。但し、圧縮筋違バネであるバネiは引張り方向の力には作用しないものとして応力ベクトル[ Fi ]tを算出する。
【0096】
ステップ21に進んだ場合は、自動的にバネiが引張筋違バネとなるので、引張筋違バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ21)、前述の式4、式5に基づき、バネiは圧縮方向には作用しないものとしてバネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ22)。
【0097】
以上のように、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出すると、ステップ23に進み、バネ番号iがパラメータIDの最大値imaxに達したか否かが判断されて、バネ番号iがまだ最大値imaxに達していない場合は、ステップ24でバネ番号iを1つインクリメントしてステップ6に戻り、次のバネi+1の応力ベクトルを算出する。
【0098】
そして、全てのバネについて応力ベクトルを求めたらステップ23でバネ番号iがパラメータIDの最大値imaxに達したものと判断されて、ステップ25に進み、節点Aについての応力ベクトルの算出を開始する。ステップ25では、節点番号Aに節点番号の最小値(図示の場合は1)が代入され、前述の式6に示したように、ある節点Aに接続されている全てのバネに作用する応力ベクトルを加算することで節点Aに作用する応力ベクトル[ FA ]tを算出する(ステップ26)。
なお、節点番号は、解析データファイルの情報から前述のインターフェースプログラムにより自動的に付与される番号である。
【0099】
そして、前述の式7に示したように、算出された節点Aの応力ベクトルをNewmarkのβ法(平均加速度法 β=1/4)によって数値積分を行い、時刻tにおける加速度[ aA ]t、速度[ vA ]t、変位増分[ΔDA ]tをそれぞれ算出する(ステップ27〜29)。これらの各計算値を算出すると、ステップ30に進み、節点番号Aが最大値Amaxに達したか否かが判断されて、節点番号Aがまだ最大値Amaxに達していない場合は、ステップ31で節点番号Aを1つインクリメントしてステップ26に戻り、次の節点A+1の応力ベクトルなどの前記各計算値の算出を節点番号Aが最大値Amaxに達するまで繰り返す。
【0100】
以上のように、全ての節点について前記計算が終了すると、ステップ30で節点番号Aが最大値Amaxに達したものと判断されてステップ32に進み、時刻tが規定時間Tに達したか否かが判断され、規定時間Tに達していない場合は、ステップ33で時刻tを計算条件ファイルの2列目に規定された時間刻みΔt0だけインクリメントしてステップ5に戻り、次の時刻t+Δt0のときの外力を解析モデルに入力して前述の計算を繰り返す。そして、時刻tが規定時間Tに達した場合は、前述の各計算値から所定の計算により[基礎反力]、「各階水平力」、「地盤絶対変位」、「各階特定点の絶対変位」を求めて出力ファイルとして後述の軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(dataout.csv)に時刻歴データとして前記計算結果を出力して保存し(ステップ34)、計算を終了する。
なお、この規定時間Tは、前述の計算条件ファイルに入力された計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)で規定される。
【0101】
[出力ファイル]
次に、出力ファイルについて説明する。
前述のように、本実施例に係る計算プログラムは、出力ファイルとして軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(detaout.csv)、解析継続ファイル(cont.mod)の3つファイル(表2参照)に計算結果等を出力する(図12、表2参照)。
【0102】
(軌跡ファイル)
軌跡ファイル(out.trj)は、解析モデルの各要素(部材や接合部)の座標の時刻歴データが本実施例に係る計算プログラムから出力されて保存されているファイルであり、前述のインターフェースプログラムで閲覧するためのファイルである。
【0103】
(計算結果ファイル)
計算結果ファイル(detaout.csv)は、[基礎反力]、「各階水平力」、「地盤絶対変位」、「各階絶対変位」の順番で数値が並んだCSVファイルであり、周期は前述の計算条件ファイル(default.ini)で指定した[計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)]の逆数となっている。この「各階絶対変位」は、解析モデルの各階床の四隅の絶対変位が時刻歴で記録されている。
なお、1階層せん断力(ベースシア:base shearing force)=基礎反力、所定階iの層せん断力=i階以上の階の水平力の和、i階の相関変位=(i+1階の絶対変位)−(i階の絶対変位)として求めた。
【0104】
(解析継続ファイル)
解析継続ファイル(cont.mod)は、入力ファイルの解析モデルファイルに対応して、計算後の解析モデルの要素、バネに関する情報が入力されたファイルであり、このファイルを入力ファイルとして本実施例に係る計算プログラムでコンピュータに入力して再計算すると連続した倒壊シミュレーションが可能となる。
【0105】
以上のように、実施例に係る計算プログラム(calc.exe)によれば、軸組構法により建造された木造建築物を軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化して、これらのバネの種類に応じたパラメータ情報を予め入力しておいて、これらのパラメータ情報を用いて要素剛性マトリックスを決定して、バネに作用する応力ベクトルを算出するので、変形が進行した状態から倒壊に至るまでの軸組構法により建造された木造建築物の挙動を地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることができる。このため、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる。
【0106】
(効果の確認実験)
次に、前記作用効果を確認するために、各階平面図が図36に示すような寸法が7.28m×7.28m、高さが10.1mの3階建ての木造軸組構法住宅の実物大の振動台実験を行い、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである前述の計算プログラム(calc.exe)による解析結果との比較を行った。
【0107】
解析用の重量は、木造軸組構法住宅全体をクレーンで吊った際に計測した重量に、各部材の重量の拾いによって算出した各層の重量比率を乗じることによって算出し、各質点に配分した。ちなみに、2階重量が99.1kN、3階重量が97.5kN、小屋部分重量が67.3kNであった。
【0108】
入力地震波は、兵庫県南部地震の際に神戸海洋気象台で観測された図37に示す加速度応答スペクトルの地震波(JMA Kobe)を150%で入力した。なお、モデル化にあたっては、数値積分は10-5秒ごとの平均積分法とし、粘性減衰は瞬間剛性比例型5%とした。
【0109】
図38に振動台実験で記録された前記木造軸組構法住宅の1Fの層間変位の時刻歴と前述の計算プログラムによる時刻歴応答解析とを比較して示した。太線が振動台実験であり、細線が前述の計算プログラムによる解析結果である。図38に示すように、実物大の振動台実験と解析モデルのシミュレーション結果とは略一致しており、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである前述の計算プログラムにより地震時における3階建ての前記木造軸組構法住宅の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができたといえる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を行う木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大規模地震において既存木造建築物に大きな被害が出たことから木造建築物の耐震性能が注目されるようになり、研究分野においても木造建築物の実物大の振動台実験などが行われるようになってきた。しかし、実物大の振動台実験では、膨大な費用と労力及び時間が掛かってしまうという問題があった。
【0003】
そこで、近年では、コンピュータの高性能化も相まって、建築物の地震時の挙動をシミュレーションプログラムによって計算・シミュレートすることにより建築物の時刻歴応答解析が行われるようになってきている。
【0004】
このような建築物の時刻歴応答解析としては、従来、マトリックス法に代表される有限要素法(Finite Element Method:FEM)を用いたシミュレーションプログラムにより行われることが一般的であった。
【0005】
しかし、有限要素法では、全体剛性マトリックスを計算していかなければならないため、倒壊まで追跡するには極端な非線形性を考慮しなければならず、特に、部材の破断(木材の折損)、亀裂の進展といった極端に破壊が進行した状態において計算の中で不釣合い力を処理することが難問であった。特に、木造建築物では、倒壊限界は層間変形角が1/5rad.を超える大変形域に達することもあり、有限要素法によるシミュレーションプログラムによって、変形が進行した状態から倒壊に至るまでの木造建築物の挙動を、地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることは甚だ困難であった。
【0006】
この問題を解決するため、本発明者は、破壊が進行した大変形域から倒壊に至るまでの地震時の実際の挙動を精度よくシミュレートするには、非連続体解析法の1つである個別要素法(Distinct Element Method:DEM)を用いることが有効ではないかと考え、個別要素法を基本原理とした本発明に係るシミュレーションプログラムを開発するに至った。この個別要素法を用いたシミュレーション手法は、土木分野で土砂や岩盤の崩壊などの非連続体の挙動を解析する手法として開発されたものであり、本発明者が適用を試みるまでは木造建築物の地震時の応答解析に個別要素法が用いられることはなかった。
【0007】
なお、地震時の応答解析ではないが個別要素法を建築物に応用した例としては、特許文献1に「建造物崩壊シミュレーション方法」が開示されている。しかし、この特許文献1に記載の建造物崩壊シミュレーション方法は、RC(鉄筋コンクリート)造の建築物を爆破により崩壊させる際のシミュレーション方法であり、爆破により粉々になったRC造の建築物に適用することはできるが、木造建築物の地震時の時刻歴応答解析に適用できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−21148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、この発明は、前記従来技術の問題を解決し、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、前記のようであって、請求項1に記載の発明によれば、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有するので、有限要素法をはじめとする従来のシミュレーションプログラムでは精度よくシミュレートすることができなかった変形が進行した状態から倒壊に至るまでの木造建築物の挙動を地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることができる。このため、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、軸組構法で建造された木造建築物の構造特性を活かし、更に精度よく計算・シミュレートすることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算結果の分析が容易となり、木造建築物の耐震設計や震災時の被害の低減など様々な研究に資することができる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算に必要なデータの入力が容易となり、より高精度に地震時における木造建築物の時刻歴応答解析を行うことができる。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムにおいて、前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させるので、前記作用効果に加え、計算結果の利用が容易となり、時刻歴応答解析をアニメーションや3D画像などで視覚化して確認することも容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】個別要素法による岩盤の崩壊シミュレーションの概念図である。
【図2】従来の個別要素法で計算する力の説明図である。
【図3】軸組のモデル化の概念図である。
【図4】同上のモデル化に用いた復元力特性の説明図である。
【図5】同上のモデル化に用いた骨格曲線を示すグラフである。
【図6】接合部のモデル化の概念図である。
【図7】同上のモデル化に用いた弾塑性バネの復元力特性を示すグラフである。
【図8】同上のモデル化に用いた弾塑性回転バネの復元力特性を示すグラフである。
【図9】鉛直構面のモデル化の概念図である。
【図10】鉛直構面のモデル化に用いた復元力特性の説明図である。
【図11】筋違のモデル化の概念図である。
【図12】本発明の実施例に係るプログラム計算の流れを示す説明図である。
【図13】解析モデルファイルの作成の流れを示す説明図である。
【図14】軸組ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図15】軸組モデルの各部の説明図である。
【図16】構面ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図17】構面モデルの各部の説明図である。
【図18】筋違ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図19】筋違モデルの各部の説明図である。
【図20】重量ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図21】解析モデルの重量指定を説明する説明図である。
【図22】解析モデルの確認画面の一例を示す図である。
【図23】解析モデルの外観の詳細設定ウィンドの一例を示す図である。
【図24】パラメータファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図25】パラメータファイルに軸組バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図26】パラメータファイルに接合部バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図27】パラメータファイルに回転バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図28】パラメータファイルに構面バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図29】パラメータファイルに筋違バネの設定をする際のフォーマットを示す説明図である。
【図30】各外力入力モードのイメージを示す説明図である。
【図31】外力ファイルの地震波入力時のフォーマットを示す説明図である。
【図32】外力ファイルのプッシュオーバー解析1のフォーマットを示す説明図である。
【図33】外力ファイルのプッシュオーバー解析2のフォーマットを示す説明図である。
【図34】計算条件ファイルのフォーマットを示す説明図である。
【図35】計算プログラムの主要な計算の流れを示すフローチャートである。
【図36】実験対象の木造住宅の各階平面図である。
【図37】兵庫県南部地震の際に観測された地震波形(JMA Kobe)を150%に増幅した波形の加速度応答スペクトルを示すグラフである。
【図38】1階の層間変位の時刻歴波形を振動台実験と解析モデルのシミュレーションとを比較して示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[個別要素法]
先ず、本発明に係るプログラムの基本理論である個別要素法の概要を説明する。
背景技術で述べたように、地震時の木造建築物の倒壊までの時刻歴応答解析を精度よく追跡できる解析手法として、本発明に係るプログラムでは、従来の建築分野における構造解析で一般的に用いられてきた有限要素法の代わりに、各要素に作用する応力を個別に計算して、全体剛性マトリックスを解く必要なく、加速度、速度、変位増分等を求めることができる個別要素法を基本理論として採用した。個別要素法は、元来、図1に示したような土壌や岩盤の崩壊を計算するために開発された「非連続体解析法(バラバラな物体の挙動を計算する手法)」であるので、大変形域から倒壊に至るまでの建物の挙動解析を自然に行うことが可能である。
【0022】
なお、個別要素法は、数値解析手法の中では動的陽解法のカテゴリーに入るものであり、従来の個別要素法を用いた解析手法では、図2に示したように、専ら物体と物体が接触した際にその反発力と摩擦力を計算するのみであった。このため、梁要素やトラス要素などの建築物の構造解析で一般的に用いられている構造要素が存在しなかった。そのため、建築分野では個別要素法を用いた研究例そのものが少なく、現状では、木造建築物を対象として個別要素法を用いた時刻歴応答解析ツールは存在しない状況である。
【0023】
(数値解析手法)
次に、この個別要素法の数値解析法について説明する。
解析モデルは、有限要素法と同様、節点とバネとを組み合わせていくことで構築する。あるバネiにおいて両端の節点1、2間の時刻t-1における全体座標系での変位ベクトル、応力ベクトルを下記(式1)、バネiの変位ベクトル[ Di ]t-1、応力ベクトル[ Fi ]t-1の時刻t-1における部材座標系での変位ベクトル、応力ベクトルを下記(式2)、各ベクトルの時刻t-1〜tのΔt間の増分を下記(式3)とし、時刻t-1において外力の作用によりバネiの両端の節点1、2に[Δdi ]tの変位増分があったとすると、要素剛性マトリックス[ Ki ]t、減衰マトリックス[ Ci ]tのバネiでは下記(式4)によって[ fi ]tを算出することができる。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
【数4】
【0028】
ここで、全体座標系 → 部材座標系の座標変換マトリックスを[ Ti ]tとすると前記(式4)は、下記(式5)と表わすことができる。
【0029】
【数5】
【0030】
前記式5を各バネにおいて計算し、各節点における応力ベクトル[ fi ]t1、[ fi ]t2を算出する。この応力ベクトルを、ある節点Aに接続されるすべてのバネにおいて加算することで、節点Aに作用する応力ベクトル[ FA ]tを算出する(式6)。
【0031】
【数6】
【0032】
この式によって算出された応力ベクトルをNewmarkのβ法(平均加速度法 β=1/4)によって数値積分を行い、時刻tにおける加速度[ aA ]t、速度[ vA ]t、変位増分[ΔDA ]tを算出する(式7)。
【0033】
【数7】
【0034】
以上の計算を各要素、各時刻について行うことで、外力に対するモデル全体の応答を算出していく。このように、全体剛性マトリックスを解かずに各要素で個別に応力を算出する点が従来の有限要素法にはない個別要素法の特徴である。つまり、時刻が進むことによる要素間の応力の伝播によって釣り合いを保つため、不釣合い力の処理や、崩壊後の挙動などは特別な処理をすることなく解析をすることができる。
【0035】
(解析モデルの構築)
次に、木造建築物の各構成部材のモデル化手法について説明する。本発明では、軸組構法により建造された木造建築物をモデル化するにあたって、各構成部材とその接合部を、軸組、接合部、鉛直構面及び垂直構面、筋違(すじかい)に分けてモデル化を行った。
【0036】
(軸組のモデル化)
先ず、軸組のモデル化について説明する。
図3に示すように、柱、束、梁、桁、窓台、まぐさ等の軸組部材は、部材の折損を考慮するために弾塑性回転バネ(塑性ヒンジ)+弾性梁要素でモデル化を行った。このモデルの入力された荷重と変形の関係を表わす復元力特性(履歴特性)は、図4に示した履歴則のものを用いた。ここで、部材の曲げ強度は、実験結果や文献などにより設定し、断面係数に従い最大曲げモーメントを決定した。
また、図5に示すように、この骨格曲線は、M−θ関係で定義されており、最大曲げモーメントを超えるとモーメントが低下し始め、曲げモーメントがゼロの回転角に達すると、部材が折損したとみなし、部材間の回転バネをピン接合に変更する。
このように設定することで、通し柱の折損や、垂れ壁がついた柱の横架材接合部での折損現象を解析で表現することが可能となった。
【0037】
(接合部のモデル化)
次に、軸組間の接合部のモデル化について説明する。
図6に示すように、軸組間の接合部は、弾塑性回転バネ+弾塑性バネ(せん断に対しては剛)を用いてモデル化を行った。圧縮・引張の弾塑性バネ(以下、接合部バネという)の復元力特性は、図7に示す片側弾性+片側スリップ型のものを用いており、この骨格曲線は実験データを元にして設定した。
また、弾塑性回転バネの履歴特性は、図8に示すスリップ型のものを用い、文献等から骨格曲線を決定した。なお、この弾塑性回転バネは、強軸、弱軸の各方向に独立に作用するように設定している。
【0038】
(鉛直構面、水平構面のモデル化)
次に、鉛直構面及び水平構面のモデル化について説明する。
図9に示すように、壁、垂れ壁、腰壁などの鉛直構面は、トラスバネでブレース置換することでせん断力のモデル化を行った。復元力特性は、図10に示すバイリニア+スリップ型の履歴則を用いた。
また、床、屋根などの水平構面も同様にトラス要素でブレース置換することでモデル化し、復元力特性も同様にバイリニア+スリップ型の履歴則を用いた。なお、図示する骨格曲線は、文献や実験結果を参考に設定した。
【0039】
(筋違のモデル化)
次に、筋違のモデル化について説明する。
図11に示すように、筋違部材は、1本の筋違に対して圧縮と引張の2本のトラス要素を配置することでモデル化を行った。圧縮筋違のバネは引張り方向の力には作用せず、引張筋違のバネは圧縮方向のバネには作用しないように設定することにより、筋違耐力壁の非対称な水平復元力を表現している。また、圧縮筋違は、フレームとの接合点を横架材に設定することで、圧縮筋違による梁・桁の突き上げ挙動をモデル化した。なお、復元力特性は、構面のバネと同様にバイリニア+スリップ型の履歴則を採用した(図10参照)。
【0040】
なお、各構成部材のモデル化にあたっては、数値積分は平均積分法とし、減衰は瞬間剛性比例型で、下り勾配では0%になるものとして設定した。
【実施例】
【0041】
以下に、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムについて図面を参照して説明する。
【0042】
(計算の概要)
先ず、本発明の実施例に係るプログラムの概要について図12を用いて説明する。図12に示す計算プログラム(calc.exe)が、本発明の一実施例として例示する木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであり、図中のgui.exeは、計算プログラムの支援ソフトであるインターフェースプログラムである。この計算プログラム(calc.exe)は、図12に示すように、後述の解析モデルファイル(test.mod)、パラメータファイル(parm.csv)、外力条件ファイル(load.csv)、計算条件ファイル(default.ini)の計4つの入力ファイル(表1参照)に保存されている情報に基づいて、規定された時間刻み(=Δt0)毎の所定の計算をコンピュータに実行させ、軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(detaout.csv)、解析継続ファイル(cont.mod)の3つの出力ファイル(表2参照)を出力する木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【0045】
また、インターフェースプログラム(gui.exe)は、計算プログラム(calc.exe)のインターフェースプログラムとして、入力ファイルである後述の解析モデルファイルの作成支援や解析モデルを3次元(3D)画像として可視化すること、出力ファイルである軌跡ファイルに保存された解析モデルの各要素の座標の時刻歴データをアニメーションにして可視化すること、などをコンピュータに実行させるプログラムである。
【0046】
[解析モデルファイル]
解析モデルファイルは、図13に示すように、解析モデルの部材端部の座標などの情報が入力された軸組ファイル(frame.csv)、構面ファイル(wall.csv)、筋違ファイル(brace.csv)、重量ファイル(weight.csv)の4つのCSVファイル(カンマ区切り形式のtextファイル)からインターフェースプログラム(gui.exe)で作成されるファイルであり、解析モデルの要素、バネに関する情報が入力されたファイルである。前述のように、本発明の解析モデルは、軸組、接合部、鉛直構面、垂直構面、筋違に分けてモデル化されているので、解析モデルファイルもこれらの解析モデルと合致するように、軸組ファイル、構面ファイル、筋違ファイル、重量ファイルの4種類のフォーマットのCSVファイルから後述の各モデルの部材端部の座標などの各種情報を入力して、インターフェースプログラム(gui.exe)で解析モデルとして可視化できるようになっている。
【0047】
(軸組ファイル)
軸組ファイル(frame.csv)は、図14に示すように、1行が軸組部材の1つと対応した13列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの軸組及び軸組間の接合部に関する情報が入力されるファイルである。表3に示すように、1列目は、軸組の種類を入力する部位であり、梁や桁などの横架材の場合は1、柱や束などの柱材の場合は2が入力される。2〜4列目は、軸組部材の端部1(図15参照)の絶対座標がXYZ順に入力され、5〜7列目は、軸組部材の端部2(図15参照)の絶対座標がXYZ順に入力される部位である。8列目は、軸組部材の端部1の接合部の勝ち負けが入力される部位であり、勝ちの場合は1が、負けの場合は0が入力される。端部に接合部が無い場合は、1が入力される。9列目は、8列目と同様に軸組部材の端部2の勝ち負けが入力される部位である。10列目は、軸組部材の断面の幅、11列目は、軸組部材の断面の成(せい:高さ)が入力され、12列目は、当該軸組部材のパラメータID(バネ番号)が入力され、13列目は、軸組部材の両端の接合部のパラメータIDが入力される部位である。このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したパラメータIDの番号と同一とする必要がある。また、座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。
【0048】
【表3】
【0049】
なお、部材の端部の座標が同一の場合、インターフェースプログラム(gui.exe)により解析モデルの接合部が自動で生成される。その際、「負け」となる部材は、芯−芯の座標で入力されているので相手の部材の幅の分自動でオフセットされる。また、3次元で座標入力するフォーマットであるが、Y座標(図15参照)を全て0とすることで、2次元のシミュレーションも可能である。
【0050】
(構面ファイル)
構面ファイル(wall.csv)は、図16に示すように、1行が桟木などで囲われた各構面の1つに対応した7列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの鉛直構面及び水平構面に関する情報が入力されるファイルである。表4に示すように、1〜3列目は、各構面の端部1(図17参照)の絶対座標がXYZの順に入力され、4〜6列目は、各構面の端部2(図17参照)の絶対座標がXYZの順に入力される部位である。軸組ファイルと同様に、座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。7列目は、構面のパラメータIDが入力される部位である。このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したID番号と同一とする必要がある。
なお、構面の端部には、軸組部材の端部が必要とされ、壁に開口部が有る場合は、軸組ファイルに開口部上下の横架材(窓台、まぐさ)を追加し、垂れ壁、腰壁を構面ファイルに追加する。
【0051】
【表4】
【0052】
(筋違ファイル)
筋違ファイル(brace.csv)は、図18に示すように、1行が筋違部材の1つに対応した7列からなるフォーマットのCSVファイルとなっており、解析モデルの圧縮筋違及び引張筋違に関する情報が入力されるファイルである。表5に示すように、1〜3列目は、筋違部材の端部1(図19参照)の絶対座標がXYZの順に入力され、4〜6列目は、筋違部材の端部2(図19参照)の絶対座標がXYZの順に入力される部位である。筋違ファイルも座標の単位は全てメートルであり、芯−芯の座標で入力される。7列目は、筋違部材のパラメータIDが入力される部位であり、このパラメータIDは、後述のパラメータファイルで指定したID番号と同一とする必要がある。
なお、筋違部材の端部にも、軸組部材の端部が必要とされ、筋違を襷掛けで入れる場合は、片筋違が別にあるものとして2行に分けて入力する。
【0053】
【表5】
【0054】
(重量ファイル)
重量ファイル(weight.csv)は、図20、表6に示すように、1行目が、解析モデルの階数、2行目が、解析モデルの各階の高さ、3行目が、解析モデルの各層の重量、が入力される最大5列まで入力可能なフォーマットのCSVファイルとなっている。
2行目の1列目は、GL(グラウンドレベル)(図21のh0)、2列目以降は、2階床レベル(図21のh1)、3階床レベル(図示せず)・・・と順次各階の床レベルがメートル単位で入力され、最後の列には、小屋梁のレベル(図21のh2)が入力される部位となっている。
3行目は、図21に示すように、解析モデルを、各階床を中心として串団子置換した場合の等価質量がkN単位で入力される部位となっており、最初の列は1階の下半分の重量が入力され、最後の列は最上階の上半分+小屋組の重量が加算されて入力される。
なお、ここで入力された重量は、当該高さに存在する要素の数で除され、均等に分配される。
【0055】
【表6】
【0056】
以上のように、軸組ファイル(frame.csv)、構面ファイル(wall.csv)、筋違ファイル(brace.csv)、重量ファイル(weight.csv)の4つのCSVファイルを入力すると、前述のインターフェースプログラム(gui.exe)を起動して、所定の操作をすることにより、各ファイルに入力された前述の各モデルの絶対座標などの情報を読み込み、図22に示すように、自動で3D(次元)画像として表示可能となり、その解析モデルを解析モデルファイルとして保存することができるようになる。
【0057】
また、本実施例に係るインターフェースプログラム(gui.exe)では、マウス、Ctrlボタン、画面上のボタンなどを操作することにより、確認画面で視覚的に解析モデルを確認することができるだけでなく(図22参照)、図23に示すように、解析モデルの外観、壁の透過率、光源の位置、地盤のメッシュの数(図22参照)、相対位置表示等が変更可能なようにプログラミングされている。
【0058】
[パラメータファイル]
次に、パラメータファイルについて説明する。
パラメータファイル(parm.csv)は、図24に示すように、1行が解析モデルでモデル化する際に置き換えるバネの1つと対応するCSVファイルとなっており、1列目には、置き換えるバネ毎(例えば、異なる仕様の壁が混在する場合は仕様毎)にパラメータIDが割り振られる。そして、2列目には、前述のモデル化手法に従って、表7に示すように、各部材や接合部などのモデル化するバネの種類に応じて1〜7の数値が入力され、3列目以降には、2列目に入力されたバネの種類に応じて異なる各種パラメータが複数列に亘って入力されるフォーマットとなっている。
以下、バネの種類毎に、入力するパラメータについて説明する。
【0059】
【表7】
【0060】
(軸組部材のバネの設定)
バネの種類が軸組バネである場合、即ち、パラメータファイルに柱、束、梁、桁、窓台、まぐさなどの軸組部材のパラメータを入力する場合は、図25、表8に示すように、2列目には、軸組バネを表わす1が入力される。そして、軸組部材は、前述のように、弾塑性回転バネ(塑性ヒンジ)+弾性梁要素によりモデル化されるので、バネのパラメータとして、3列目には、軸組部材のヤング係数(縦弾性係数)[kN/m2=10-6GPa]が入力され、4、5列目には、軸組部材の断面2次モーメント[m4]が(例えば、軸組部材が梁である場合は、幅、成の順番で)入力され、6、7列目には、最大曲げモーメント「kNm」(図5のMp)が入力され、8列目には、軸組部材の断面積[m2]が入力されるフォーマットとなっている(表8も参照)。
【0061】
【表8】
【0062】
(接合部のバネの設定)
バネの種類が接合部バネである場合、即ち、パラメータファイルに接合部のパラメータを入力する場合は、前述のように、接合部は、弾塑性回転バネ+弾塑性バネ(せん断に対しては剛)(=接合部バネ)でモデル化されるので、接合部バネと、回転バネとに分けて入力される。
【0063】
接合部の弾塑性バネのパラメータは、図26、表9に示すように、2列目には、接合部の接合部バネを表わす2が入力され、3〜5列目には、図7で示した復元力特性の1〜3次剛性[kN/m]が入力され、6,7列目には、その骨格曲線の変曲点D1,D2[m]が入力される(図7参照)。
【0064】
【表9】
【0065】
接合部の回転バネのパラメータは、図27、表10に示すように、2列目には、接合部の回転バネを表わす3が入力され、3〜5列目には、図8で示した復元力特性の1〜3次剛性[kN/m]が入力され、6,7列目には、その骨格曲線の変曲点D1,D2[m]が入力される(図8参照)。
【0066】
【表10】
【0067】
(構面のバネの設定)
バネの種類が構面バネである場合、即ち、パラメータファイルに鉛直構面又は水平構面のパラメータを入力する場合は、2列目には、構面バネを表わす5が入力される。鉛直構面又は水平構面は、前述のように、トラス要素でブレース置換することでモデル化されるので、図28、表11に示すように、3〜6列目には、図10で示した復元力特性の折れ点の荷重P1〜P4[kN]が入力され、7〜10列目には、復元力特性の折れ点の変位D1〜D4[m]が入力され、11列目には、バネの減衰定数が入力される。
【0068】
【表11】
【0069】
この構面バネのパラメータ情報は、2本のブレース置換バネに自動的に寸法、角度補正して計算に用いられるので、実験結果などから1P(0.91m)×3P(2.73m)の寸法の構面の荷重変形関係(図10で示したバイリニア+スリップ型の復元力特性)を求めて前記荷重P1〜P4、変位D1〜D4などの入力値をパラメータとして入力する。
【0070】
(筋違のバネの設定)
バネの種類が筋違バネである場合、即ち、パラメータファイルに筋違部材のパラメータを入力する場合は、筋違バネは、前述のように、圧縮筋違のバネは引張り方向の力には作用せず、引張筋違のバネは圧縮方向のバネには作用しないものとして、1本の筋違に対して圧縮と引張の2本のトラス要素を配置することでモデル化を行うので、1つの筋違部材を引張筋違バネ、圧縮筋違バネに分けて入力する。また、引張筋違と圧縮筋違は、一対で1つの筋違をモデル化しているため、パラメータIDは、引張筋違のID(例:601)+100が圧縮筋違のID(例:701)となるように割り振る必要がある。
【0071】
パラメータファイルに引張筋違バネのパラメータを入力する場合は、2列目には、引張筋違を表わす6が入力され、圧縮筋違バネのパラメータを入力する場合は、2列目には、圧縮筋違を表わす7が入力される。
【0072】
そして、筋違バネは、図29、表12に示すように、構面バネと同様にトラス要素でブレース置換することでモデル化されるので、3〜6列目には、図10で示した復元力特性の折れ点の荷重P1〜P4[kN]が入力され、7〜10列目には、復元力特性の折れ点の変位D1〜D4[m]が入力され、11列目には、バネの減衰定数が入力される。
なお、筋違バネも構面バネと同様、実験結果などから1P(0.91m)×3P(2.73m)の寸法の筋違構面の荷重変形関係(図10で示したバイリニア+スリップ型の復元力特性)を求めてパラメータとして入力する。
【0073】
【表12】
【0074】
[外力条件ファイル]
次に、外力条件ファイルについて説明する。
本実施例に係る計算プログラム(calc.exe)は、「地震波入力」、「プッシュオーバー解析1」、「プッシュオーバー解析2」の解析モデルへの地震力の掛け方が相違する3つのモードが実行可能にプログラミングされている。この「地震波入力」のモードは、図30(a)に示した通り、地盤レベルの要素全てに強制外乱入力を行うモードであり、「プッシュオーバー解析1」のモードは、図30(b)に示した通り、地盤レベルの要素を固定して解析モデルのある高さの要素全てを水平方向に強制変位を与えるモードであり、「プッシュオーバー解析2」のモードは、図30(c)に示した通り、地盤レベルの要素を固定して解析モデルの全てに水平方向の重力加速度を掛けるモードである。
【0075】
これらのモードに対応するため、外力条件ファイル(load.csv)には、前記3つのモードを実行する際に読み込む地震波等の外力の情報を入力する「地震波入力」、「プッシュオーバー解析1」、「プッシュオーバー解析2」のCSVファイルから入力する3つの入力フォーマットがある。
「地震波入力」のフォーマットは、図31に示すように、1行目がX方向の地震波、2行目がY方向の地震波、3行目がZ方向の地震波をそれぞれ入力する部位であり、表13に示すように、1列目には、入力フォーマットを選択するための各モードに応じた数値が入力される部位となっている。「地震波入力」の場合は1が、「プッシュオーバー解析1」の場合は2が、「プッシュオーバー解析2」の場合は3が入力され、「固定」の場合は、0が入力される。なお、この「固定」のモードは、地震力を掛けないモードである。
【0076】
【表13】
【0077】
2列目には、入力地震波の時刻歴ファイル(変位変形の時刻歴が1列に入力されたファイル)の名前が入力され、3列目には、2列目に入力した地震波の時刻歴ファイルの周波数が[Hz]単位で入力され、4列目には、地震波の時刻歴ファイルに入力されている数値の単位が[m]に対する倍率で入力される。例えば、[cm]の場合は0.01、[mm]の場合は0.001、[m]の場合は1.0が入力される。
そして、5列目は、地震波を増幅させる際の倍率である入力倍率が入力される部位であり、ここにマイナスを指定して入力すると正負逆方向(逆位相)の外乱入力となる。
【0078】
「プッシュオーバー解析1」のフォーマットは、図32に示すように、1行目がX方向の加力、2行目がY方向の加力、3行目がZ方向の加力をそれぞれ入力する部位であり、表14に示すように、1列目には、「地震波入力」のフォーマットと同様に、入力フォーマットを選択するための各モードに応じた数値が入力される部位となっており、「プッシュオーバー解析1」を選択する2が入力される。
【0079】
【表14】
【0080】
そして、2、3列目は、空欄とされ、4列目には、加力点の高さが[m]単位で入力され、5列目には、強制変位のスピードである加力速度が[m/sec]の単位で入力される。ここにマイナスを指定して入力すると正負逆方向の加力となる。
【0081】
「プッシュオーバー解析2」のフォーマットも、「プッシュオーバー解析1」と同様に図33に示すように、1行目がX方向の加力、2行目がY方向の加力、3行目がZ方向の加力をそれぞれ入力する部位であり、表15に示すように、1列目には、「プッシュオーバー解析2」を選択する3が入力され、2〜4列目は、空欄とされ、5列目には、加力点の高さが[m]単位で入力され、5列目には、解析モデルに加える水平力の加速度が[G]の単位で入力される。ここに入力する値は、解析モデルに加える水平力の大きさを、0[G]から徐々に増して行って1秒後に達する値が重力加速度1[G]の何倍になるかで指定するものであり、マイナスを指定して入力すると正負逆方向の加力となる。
【0082】
【表15】
【0083】
[計算条件ファイル]
次に、計算条件ファイルについて説明する。
計算条件ファイル(default.ini)は、図34に示すように、2行からなるCSVのファイルのフォーマットから入力されるファイルであり、1行目には、計算条件の情報が保存され、2行目には、前述のインターフェースプログラム(gui.exe)で解析モデルを見る際の視点の情報が保存されたファイルである。この計算条件ファイルは、計算条件の情報や視点の情報が予め設定されて保存されており、ユーザがエディタやメモ帳などのtextファイルを編集できるソフトを使って、必要な個所を編集・修正することで使用する。
【0084】
このCSVのファイルの1列目には、表16に示すように、本実施例に係る計算プログラム(calc.exe)で計算する計算回数が保存されており、2列目には、計算の際にインクリメントで増やす時間刻み(=Δt0)が保存されている。この計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)が時刻歴応答解析を行う時刻である規定時間Tとなる(図35参照)。
また、3列目には、出力の頻度、即ち、計算結果を出力する頻度が保存されている。例えば、ここで10000と指定すると、10000回計算する毎に1回、動画用のスナップショットが出力ファイルである後述の軌跡ファイル(out.trj)に記録され、その1/10の1000回に1回、分析用の荷重・変形情報などが出力ファイルである後述の計算結果ファイル(dataout.csv)に時刻歴データとして記録される。
【0085】
【表16】
【0086】
[計算の主要部の流れ]
次に、図35を用いて計算プログラム(calc.exe)の主要な計算の流れを説明する。
計算が開始されると、先ず、前述の入力ファイル〔解析モデルファイル(test.mod)、パラメータファイル(parm.csv)、外力条件ファイル(load.csv)、計算条件ファイル(default.ini)〕から必要な情報を読み込み(ステップ1)、解析モデルの初期値をセットする(ステップ2)。そして、時刻tにt=0(ステップ3)、バネ番号i(パラメータID)に最小値(図示実施例の場合i=1)を代入し(ステップ4)、外力条件ファイルで指定したモード及び計算条件に従って時刻tにおける外力を解析モデルに入力して計算を開始する(ステップ5)。
【0087】
次に、ステップ6に進み、バネ番号iのバネは、バネの種類が軸組バネであるか否かが判断される。具体的には、前述のパラメータファイルの1列目がiのバネは、同行の2列目の数値が1か否かで判断され、1である場合は、ステップ7に進み、そうでない場合は、ステップ9に進む。ステップ7では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から軸組バネであるバネiの前述の式4で示した要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ7)、前述の式4、式5に基づきバネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ8)。
なお、バネの種類が軸組バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0088】
【数8】
【0089】
バネiが軸組バネでなくステップ9に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が2か否かでバネiが接合部バネか否かが判断され、2である場合は、ステップ10に進み、そうでない場合は、ステップ12に進む。ステップ10では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から接合部バネ(圧縮・引張の弾塑性バネ)であるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ10)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ11)。
なお、バネの種類が接合部バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0090】
【数9】
【0091】
バネiが接合部バネでもなくステップ12に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が3か否かでバネiが回転バネか否かが判断され、3である場合は、ステップ13に進み、そうでない場合は、ステップ15に進む。ステップ13では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から回転バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ13)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ14)。
なお、バネの種類が回転バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0092】
【数10】
【0093】
バネiが回転バネでもなくステップ15に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が4か否かでバネiが構面バネか否かが判断され、4である場合は、ステップ16に進み、そうでない場合は、ステップ18に進む。ステップ16では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から構面バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ16)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ17)。
なお、バネの種類が構面バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は下記式となる。
【0094】
【数11】
【0095】
バネiが構面バネでもなくステップ18に進んだ場合は、同様にパラメータファイルの2列目の数値が5か否かでバネiが圧縮筋違バネか否かが判断され、5である場合は、ステップ19に進み、そうでない場合は、ステップ21に進む。ステップ19では、パラメータファイルの同行の3列目以降に記録されたパラメータ情報から圧縮筋違バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ19)、前述の式4、式5に基づき、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ20)。
なお、バネが圧縮筋違バネである場合の要素剛性マトリックス[ Ki ]は前記構面バネと同じ式となる。但し、圧縮筋違バネであるバネiは引張り方向の力には作用しないものとして応力ベクトル[ Fi ]tを算出する。
【0096】
ステップ21に進んだ場合は、自動的にバネiが引張筋違バネとなるので、引張筋違バネであるバネiの要素剛性マトリックス[ Ki ]tを決定して(ステップ21)、前述の式4、式5に基づき、バネiは圧縮方向には作用しないものとしてバネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出する(ステップ22)。
【0097】
以上のように、バネiに作用する応力ベクトル[ Fi ]tを算出すると、ステップ23に進み、バネ番号iがパラメータIDの最大値imaxに達したか否かが判断されて、バネ番号iがまだ最大値imaxに達していない場合は、ステップ24でバネ番号iを1つインクリメントしてステップ6に戻り、次のバネi+1の応力ベクトルを算出する。
【0098】
そして、全てのバネについて応力ベクトルを求めたらステップ23でバネ番号iがパラメータIDの最大値imaxに達したものと判断されて、ステップ25に進み、節点Aについての応力ベクトルの算出を開始する。ステップ25では、節点番号Aに節点番号の最小値(図示の場合は1)が代入され、前述の式6に示したように、ある節点Aに接続されている全てのバネに作用する応力ベクトルを加算することで節点Aに作用する応力ベクトル[ FA ]tを算出する(ステップ26)。
なお、節点番号は、解析データファイルの情報から前述のインターフェースプログラムにより自動的に付与される番号である。
【0099】
そして、前述の式7に示したように、算出された節点Aの応力ベクトルをNewmarkのβ法(平均加速度法 β=1/4)によって数値積分を行い、時刻tにおける加速度[ aA ]t、速度[ vA ]t、変位増分[ΔDA ]tをそれぞれ算出する(ステップ27〜29)。これらの各計算値を算出すると、ステップ30に進み、節点番号Aが最大値Amaxに達したか否かが判断されて、節点番号Aがまだ最大値Amaxに達していない場合は、ステップ31で節点番号Aを1つインクリメントしてステップ26に戻り、次の節点A+1の応力ベクトルなどの前記各計算値の算出を節点番号Aが最大値Amaxに達するまで繰り返す。
【0100】
以上のように、全ての節点について前記計算が終了すると、ステップ30で節点番号Aが最大値Amaxに達したものと判断されてステップ32に進み、時刻tが規定時間Tに達したか否かが判断され、規定時間Tに達していない場合は、ステップ33で時刻tを計算条件ファイルの2列目に規定された時間刻みΔt0だけインクリメントしてステップ5に戻り、次の時刻t+Δt0のときの外力を解析モデルに入力して前述の計算を繰り返す。そして、時刻tが規定時間Tに達した場合は、前述の各計算値から所定の計算により[基礎反力]、「各階水平力」、「地盤絶対変位」、「各階特定点の絶対変位」を求めて出力ファイルとして後述の軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(dataout.csv)に時刻歴データとして前記計算結果を出力して保存し(ステップ34)、計算を終了する。
なお、この規定時間Tは、前述の計算条件ファイルに入力された計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)で規定される。
【0101】
[出力ファイル]
次に、出力ファイルについて説明する。
前述のように、本実施例に係る計算プログラムは、出力ファイルとして軌跡ファイル(out.trj)、計算結果ファイル(detaout.csv)、解析継続ファイル(cont.mod)の3つファイル(表2参照)に計算結果等を出力する(図12、表2参照)。
【0102】
(軌跡ファイル)
軌跡ファイル(out.trj)は、解析モデルの各要素(部材や接合部)の座標の時刻歴データが本実施例に係る計算プログラムから出力されて保存されているファイルであり、前述のインターフェースプログラムで閲覧するためのファイルである。
【0103】
(計算結果ファイル)
計算結果ファイル(detaout.csv)は、[基礎反力]、「各階水平力」、「地盤絶対変位」、「各階絶対変位」の順番で数値が並んだCSVファイルであり、周期は前述の計算条件ファイル(default.ini)で指定した[計算回数×時間のインクリメント値(Δt0)]の逆数となっている。この「各階絶対変位」は、解析モデルの各階床の四隅の絶対変位が時刻歴で記録されている。
なお、1階層せん断力(ベースシア:base shearing force)=基礎反力、所定階iの層せん断力=i階以上の階の水平力の和、i階の相関変位=(i+1階の絶対変位)−(i階の絶対変位)として求めた。
【0104】
(解析継続ファイル)
解析継続ファイル(cont.mod)は、入力ファイルの解析モデルファイルに対応して、計算後の解析モデルの要素、バネに関する情報が入力されたファイルであり、このファイルを入力ファイルとして本実施例に係る計算プログラムでコンピュータに入力して再計算すると連続した倒壊シミュレーションが可能となる。
【0105】
以上のように、実施例に係る計算プログラム(calc.exe)によれば、軸組構法により建造された木造建築物を軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化して、これらのバネの種類に応じたパラメータ情報を予め入力しておいて、これらのパラメータ情報を用いて要素剛性マトリックスを決定して、バネに作用する応力ベクトルを算出するので、変形が進行した状態から倒壊に至るまでの軸組構法により建造された木造建築物の挙動を地震時の実際の建築物の挙動と一致するように精度よく計算・シミュレートすることができる。このため、地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができる。
【0106】
(効果の確認実験)
次に、前記作用効果を確認するために、各階平面図が図36に示すような寸法が7.28m×7.28m、高さが10.1mの3階建ての木造軸組構法住宅の実物大の振動台実験を行い、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである前述の計算プログラム(calc.exe)による解析結果との比較を行った。
【0107】
解析用の重量は、木造軸組構法住宅全体をクレーンで吊った際に計測した重量に、各部材の重量の拾いによって算出した各層の重量比率を乗じることによって算出し、各質点に配分した。ちなみに、2階重量が99.1kN、3階重量が97.5kN、小屋部分重量が67.3kNであった。
【0108】
入力地震波は、兵庫県南部地震の際に神戸海洋気象台で観測された図37に示す加速度応答スペクトルの地震波(JMA Kobe)を150%で入力した。なお、モデル化にあたっては、数値積分は10-5秒ごとの平均積分法とし、粘性減衰は瞬間剛性比例型5%とした。
【0109】
図38に振動台実験で記録された前記木造軸組構法住宅の1Fの層間変位の時刻歴と前述の計算プログラムによる時刻歴応答解析とを比較して示した。太線が振動台実験であり、細線が前述の計算プログラムによる解析結果である。図38に示すように、実物大の振動台実験と解析モデルのシミュレーション結果とは略一致しており、本発明の実施例に係る木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムである前述の計算プログラムにより地震時における3階建ての前記木造軸組構法住宅の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析を地震時の実際の挙動と一致するよう高精度に行うことができたといえる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、
入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、 個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有することを特徴とする木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項2】
前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、
このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項3】
前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項4】
前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、
これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項5】
前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、
前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項1】
地震時における木造建築物の倒壊に至るまでの時刻歴応答解析をコンピュータに実行させるための木造建築物の倒壊シミュレーションプログラムであって、
入力ファイルに保存された、複数の節点と複数種類のバネとを組み合わせて前記木造建築物をモデル化した解析モデルの情報及び地震時の時刻歴応答解析の前提条件に基づき、 個別要素法を用いて、前記解析モデルのバネの種類に応じた要素剛性マトリックスにより各バネに作用する応力を算出するステップと、各節点に接続された全てのバネに作用する応力を加算するステップと、を有することを特徴とする木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項2】
前記解析モデルのバネの種類は、軸組の弾塑性バネ、接合部の弾塑性バネ、接合部の弾塑性回転バネ、鉛直構面及び水平構面のトラスバネ、圧縮筋違バネ、引張筋違バネに分けてモデル化され、前記入力ファイルには、モデル化されたバネの種類に応じたパラメータ情報が入力されており、
このパラメータ情報を用いて前記要素剛性マトリックスを決定するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項1に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項3】
前記解析モデルの基礎反力、各階水平力、地盤絶対変位、各階絶対変位の各計算値を前記入力ファイルの前記前提条件に規定された時間刻み毎に算出して時刻歴データとして出力ファイルに出力することをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項1又は2に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項4】
前記入力ファイルには、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報が保存された解析モデルファイルと、前記解析モデルの前記バネの種類に応じたパラメータ情報が保存されたパラメータファイルと、地震波などの前記解析モデルに与える外力の条件が保存された外力条件ファイルと、計算回数や前記時間刻みなどの計算条件が保存された計算条件ファイルと、が含まれており、
これらのファイルから、前記解析モデルの要素及び前記バネに関する情報、前記パラメータ情報、前記外力の条件、前記計算条件を入力するステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【請求項5】
前記出力ファイルには、前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データが保存されている軌跡ファイルと、前記各計算値の時刻歴データが保存された計算結果ファイルと、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報が保存された解析継続ファイルと、が含まれており、
前記解析モデルの各要素の座標の時刻歴データ、前記各計算値の時刻歴データ、計算後の解析モデルの要素及びバネに関する情報を出力させるステップをコンピュータに実行させることを特徴とする請求項3又は4に記載の木造建築物の倒壊シミュレーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図17】
【図22】
【図23】
【図36】
【図37】
【図38】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図17】
【図22】
【図23】
【図36】
【図37】
【図38】
【公開番号】特開2012−83813(P2012−83813A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227157(P2010−227157)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(501267357)独立行政法人建築研究所 (28)
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