説明

木部材の接合構造

【課題】木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる木部材の接合構造を提供する。
【解決手段】柱31と梁32等の木部材の接合構造であって、軸部11のほぼ中間に軸部11の外周より突出し、柱31と梁32にかかるせん断力を受けるプレート部12を有するせん断耐力金具10と、柱31と梁32を連結するアンカーボルト20とを柱31と梁32の接合部分に埋設した。これにより、柱31と梁32等の木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金具を用いた柱と梁や、柱と柱、大梁と小梁等の各種木部材同士の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
柱や梁などの木部材の仕口部は、木部材が支圧に弱いため、めり込みで耐力が低下する現象が見られる。特にせん断方向の力が作用すると、アンカーボルトの引張およびせん断耐力が十分な場合であっても、木部材の軸直角方向のめり込み強度が弱いためにアンカーボルトによる支圧の影響で容易に木部材にめり込みが生じ、曲げとせん断が同時にアンカーボルトに作用することになり、耐力が低下する。そのため、この耐力を稼ぐためアンカーボルトの断面を大きくする方法もあったが、この場合、アンカーボルトの断面を大きくせざるを得ず、コストがかかると共に、大きな孔を木部材の断面に対し直角方向に長く開ける必要が生じ、加工的にも強度的にも問題があった。
【0003】
そこで、アンカーボルトの他に金具を用いる木部材同士の接合構造が各種提案され、かかる接合構造として、例えば、上部筒体と下部筒体との間に鍔状の板部材が設けられた継手部材金物を土台と柱との接合部分に使用したり(例えば、特許文献1参照。)や、アンカーボルトの他にベースプレートと、ほぞ部材等を使用して補強して木部材同士を接合する構造がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−129022号公報
【特許文献2】実用新案登録第3008178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の特許文献1,2に記載された木部材の接合構造は、継手部材金物やほぞ部材を、木部材同士を接合する際のいわゆる“ほぞ”として使用しており、木部材同士の接合部分にせん断力が作用した際に十分に対抗できないという問題がある。特に、最近は、在来工法や2×4以外に、木質(木造)ラーメン工法と呼ばれる長い木部材を柱や梁として用いる工法が用いられるようになり、木部材同士の接合部分に大きなせん断力が作用する傾向にある。また、前述の特許文献2では、ベースプレートと、ほぞ部材が別部材からなり、せん断力に対する抵抗力が不十分になっていた。
【0006】
そこで、本発明は、木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる木部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明に係る木部材の接合構造は、金具により柱や梁などの木部材同士を接合する木部材の接合構造であって、軸部のほぼ中間に軸部外周より突出し、接合する木部材間にかかるせん断力を受けるプレート部を有するせん断耐力金具と、木部材同士を連結するアンカーボルトとを、木部材の接合部分に埋設したことを特徴とする。この構造によると、木部材同士の接合部分にかかるせん断力を、アンカーボルトやせん断耐力金具の軸部だけでなく、せん断耐力金具のプレート部でも受けることが可能となるので、木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる。
また、請求項2記載の発明に係る木部材の接合構造は、請求項1記載の木部材の接合構造において、前記せん断耐力金具のプレート部は、軸部を基準として鉛直方向に上部より下部の方が長いことを特徴とする。この構造によると、例えば、柱と梁とを接合する場合、柱側面にはせん断耐力金具のプレート部により横方向からの圧縮力がかかることになり、柱側面は横圧縮に弱いが、柱側面に対する支圧面積が大きくなることにより、柱側面におけるめり込み(凹み)や破損等を防止できる。
また、請求項3記載の発明に係る木部材の接合構造は、請求項1または請求項2記載の木部材の接合構造において、前記せん断耐力金具の軸部は、その中心を貫通する貫通孔が形成されており、その貫通孔にアンカーボルトを貫通させ、かつ、そのアンカーボルトの両端部を接合部分の各木部材の中に突出させることを特徴とする。この構造によると、せん断耐力金具とアンカーボルトが同軸上に配置されるので、金具とアンカーボルトを用いた接合に必要な穴開けや溝開け部分を少なくすることができ、その点で施工性が向上する。
また、請求項4記載の発明に係る木部材の接合構造は、請求項3記載の木部材の接合構造において、前記アンカーボルトのうち前記せん断耐力金具の軸部中に収まる部分では、中央部に近付くに従って徐々に径を小さくすることを特徴とする。この構造によると、アンカーボルトにおける径の大きい両端部は、せん断耐力金具の軸部の両端部から突出して接合すべき各木部材の中に埋設されて定着するので、定着力が低下することはなく、また、アンカーボルトの中央部で断面積が減少したことによるせん断耐力の低下は、せん断耐力金具の軸部とプレート部が補うことができる。そのため、定着力およびせん断耐力を確保した上で、木部材同士の接合部分における靭性を確保して、建物の変形能力を向上できる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の木部材の接合構造によれば、軸部のほぼ中間に軸部外周より突出し、接合する木部材間にかかるせん断力を受けるプレート部を有するせん断耐力金具と、木部材同士を連結するアンカーボルトとを、木部材同士の接合部分に埋設したので、木部材同士の接合部分にかかるせん断力をアンカーボルトやせん断耐力金具の軸部だけでなく、せん断耐力金具のプレート部でも受けることになり、木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施形態1の木部材の接合構造にて使用するせん断耐力金具を示す斜視図である。
【図2】実施形態1の木部材の接合構造を示す図である。
【図3】木部材同士の接合部分にせん断力が作用した場合におけるせん断力分布図、である。
【図4】せん断耐力金具の変形例を示す斜視図である。
【図5】実施形態2の木部材の接合構造にて使用するせん断耐力金具を示す斜視図である。
【図6】実施形態2の木部材の接合構造を示す図である。
【図7】実施形態2の木部材の接合構造のさらに他の例を示す断面図である。
【図8】本発明に係る木部材の接合構造による各種の接合例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態1.
図1は、本発明に係る実施形態1の木部材の接合構造にて使用するせん断耐力金具10を示す斜視図、図2は、実施形態1の木部材の接合構造を示す図であって、(a)はその接合部分の断面図、(b)はA−A線断面図である。この木部材の接合構造では、せん断耐力金具10と、木部材同士を連結する周知のアンカーボルト20とを使用する。せん断耐力金具10は、図1に示すように、断面がほぼ円形状で中実の軸部11と、軸部11のほぼ中間に軸部11の外周より突出し、接合する木部材同士間にかかるせん断力を受けるほぼ円形状のプレート部12とから構成され、実施形態1では、軸部11はプレート部12のほぼ中心を貫通している。アンカーボルト20は、周知のもので、全ネジボルトや異形鉄筋等の外周面にネジ山(ネジ溝)や節等が設けられたものを使用できるが、ここでは全ネジボルトにより説明する。そして、木部材として柱31と梁32を接合する場合、図2(a)、(b)に示すように、その接合部分の例えば4隅に4本のアンカーボルト20を埋設すると共に、その4本のアンカーボルト20の間に、せん断耐力金具10を埋設する。ここで、アンカーボルト20の定着は、エポキシ樹脂等の樹脂接着固定でも、あるいはアンカーボルト20が全ネジボルトである場合にはネジ山(ネジ溝)を利用したネジ込み式固定のどちらでも良いし、さらにはそれらを併用しても勿論良い。また、接合部分に使用するアンカーボルト20の本数も、4本に限らず、6本でも、2本でも良い。
【0011】
そのため、図3のせん断力分布図に示すように、梁32に上方からの外力Pが加わり、柱31と梁32の接合部分にせん断力が作用すると、せん断耐力金具10のプレート部12によって、柱31の側面31aや、梁32の端面32aに対し、それぞれ、軸部31から離れるに従い大きくなる支圧力p1,p2が作用することになる。これにより、従来であれば、アンカーボルト20やせん断耐力金具10の軸部11で受けていたせん断力を、この実施形態1では、軸部11と一体のプレート部12によっても受けるので、柱31と梁32等の木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる。特に、この実施形態1では、従来技術と異なり、ほぼ円形状のプレート部12を軸部11に一体化しているので、どの方向からせん断力を受けた場合でも、均一にせん断耐力を向上させることができると共に、円形状のプレート部12により柱31や梁32におけるプレート部12の接触部分が角部等により大きくめり込んだり、破損等することを防止できる。
【0012】
なお、実施形態1では、図1に示すようにほぼ円形状のプレート部12をほぼ円柱状の軸部11に一体化させたせん断耐力金具10により説明したが、本発明では、これに限定されず、図4(a)に示すせん断耐力金具10Aのようにほぼ長方形状のプレート部12aの中央に断面が長方形状の軸部11aを貫通させて一体化させたものでも良いし、図4(b)に示すせん断耐力金具10Bのようにほぼ正方形状のプレート部12bの中央に断面が十字状の軸部11bを貫通させて一体化させたものでも良い。また、図4(c)〜(e)に示すせん断耐力金具10C〜10Eのように軸部11c〜11eをそれぞれプレート部12c〜12eの中央より上方側を貫通させて、軸部11c〜11eより下側におけるプレート部12c〜12eの支圧面積を大きくすることもできる。図4(c)〜(e)に示すせん断耐力金具10C〜10Eの場合、軸部11c〜11eより下側におけるプレート部12c〜12eの支圧面積がその上側の支圧面積より大きくなるので、柱31の側面31a(図3参照。)におけるめり込み(凹み)や破損等をより効果的に防止できることになる。
【0013】
実施形態2.
次に実施形態2について説明する。図5は、本発明に係る実施形態2の木部材の接合構造にて使用するせん断耐力金具10Fを示す斜視図、図6は、そのせん断耐力金具10Fを使用した実施形態2の木部材の接合構造を示す図であって、(a)はその接合部分の断面図、(b)はB−B線断面図である。図5に示すように、このせん断耐力金具10Fは、ほぼ円筒状で,アンカーボルト20が貫通できるように貫通孔13fが形成された軸部11fと、軸部11fのほぼ中間に軸部11fの外周より突出し、接合する木部材同士間にかかるせん断力を受けるほぼ円形状のプレート部12fとから構成される。
【0014】
そのため、柱31と梁32を接合する場合には、図6(a),(b)に示すように、アンカーボルト20を、それぞれ、せん断耐力金具10Fの軸部11fの貫通孔13fを貫通させて埋設する。その際、アンカーボルト20の両端部は、軸部11fの両側から突出して、接合すべき柱31と梁32の中に埋設される。なお、実施形態2の場合、アンカーボルト20の中央部がせん断耐力金具10Fの軸部11f内に収まるので、柱31と梁32との定着力を考慮して、実施形態1のアンカーボルト20よりも軸部11fの分だけ長いものを使用すると良い。
【0015】
従って、このせん断耐力金具10Fを使用した実施形態2の木部材の接合構造によれば、実施形態1の木部材の接合構造と同様に、柱31と梁32等の木部材同士の接合部分におけるせん断耐力を向上させることができる。また、この木部材の接合構造によれば、せん断耐力金具10Fとアンカーボルト20が同軸上に配置されるので、せん断耐力金具10Fとアンカーボルト20を用いた接合に必要な穴開けや溝開け部分を少なくすることができ、その点で施工性が向上する。
【0016】
なお、近年では、木部材同士の接合部分に大きなせん断力がかかった際に、靭性、すなわち接合部分のアンカーボルトが破断せずに延びたり曲がって、建物は変形するものの、接合していた木部材同士が分離されない能力が要求されることがある。そのため、例えば、図7に示すアンカーボルト21のように、アンカーボルト21のうちせん断耐力金具10Fの軸部11f中に収まる部分では、中央部に近付くに従って徐々に径が小さく、すなわち断面積が小さくなるように削る等して、両端部の曲げ強度より中央部の曲げ強度の方を小さくする。この場合、アンカーボルト21は、せん断耐力金具10Fの軸部11の貫通孔13fを貫通して木部材に埋設され、アンカーボルト21における径の大きい両端部は、せん断耐力金具10Fの軸部11fの両端部から突出し、柱31および梁32に定着するので、柱31および梁32に対する定着力が低下することはない。また、アンカーボルト21の中央部で断面積が減少したことによるせん断耐力の低下は、せん断耐力金具10Fの軸部11fとプレート部12fが補うことができる。そのため、図7に示すようなアンカーボルト21を使用した場合でも、柱31および梁32に対する定着力およびせん断耐力を確保した上で、木部材同士の接合部分における靭性を確保して、建物の変形能力を向上できる。
【0017】
なお、前記実施形態1,2の木部材の接合構造では、柱31と梁32との接合に適用して説明したが、本発明では、これに限定されず、図8(a)に示すように土台33を介した柱31と基礎34の接合部分に本構造を適用したり、図8(b)に示すように柱31同士の接合部分、さらには図示しないが梁と梁などの継手部に本構造を適用したり、さらには図8(c)に示すように梁(大梁)32と子梁35との接合部分に本構造を適用したり、要は、木部材同士の接合部分(仕口部、継手部)であれば本構造を適用できる。
【符号の説明】
【0018】
10,10A〜10F…せん断耐力金具、11,11a〜11f…軸部、12,12a〜12f…プレート部、13f…貫通孔、20,21…アンカーボルト、31…柱、32…梁(大梁)、33…土台、34…基礎、35…小梁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金具により柱や梁などの木部材同士を接合する木部材の接合構造であって、
軸部のほぼ中間に軸部外周より突出し、接合する木部材間にかかるせん断力を受けるプレート部を有するせん断耐力金具と、木部材同士を連結するアンカーボルトとを、木部材の接合部分に埋設したことを特徴とする木部材の接合構造。
【請求項2】
請求項1記載の木部材の接合構造において、
前記せん断耐力金具のプレート部は、軸部を基準として鉛直方向に上部より下部の方が長いことを特徴とする木部材の接合構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の木部材の接合構造において、
前記せん断耐力金具の軸部は、その中心を貫通する貫通孔が形成されており、その貫通孔にアンカーボルトを貫通させ、かつ、そのアンカーボルトの両端部を接合部分の各木部材の中に突出させることを特徴とする木部材の接合構造。
【請求項4】
請求項3記載の木部材の接合構造において、
前記アンカーボルトのうち前記せん断耐力金具の軸部中に収まる部分では、中央部に近付くに従って徐々に径を小さくすることを特徴とする木部材の接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−113000(P2013−113000A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260150(P2011−260150)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】