説明

染着剤組成物及びコーティング剤組成物

染色、印刷、ペインティング、コーティング等の処理工程数を大幅に減らすことができ、且つ、対象物への機能性化合物の固着性及び堅牢度が良好で対象物の風合いを損ねない水性の染着剤組成物及び水性のコーティング剤組成物を提供する。水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と、カチオン系水溶性ポリマーとを混合して水性のコーティング剤組成物とする。水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と、カチオン系水溶性ポリマーとを混合した後に染料、顔料、薬剤、防臭剤、香料等の機能性化合物を混合して染色、印刷、ペインティング又はコーティング用染着剤組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、染色、印刷、ペインティング、コーティング等に用いることができる水性の染着剤組成物及び水性のコーティング剤組成物に関する。
【背景技術】
色剤として染料や顔料を用いる染色の分野においては、染色すべき繊維の種類に応じて直接染料、反応染料、酸性染料、分散染料、顔料などが使い分けられているが、何れの場合も染色工程の後に数多くの後処理工程を必要としており、多くの労力を要しているとともに、大量の水を消費する問題、加熱・蒸熱等のため多量のエネルギーを消費する問題、廃液処理のための設備費及び経費の増大等の問題を生じている。
例えば、直接染料や反応染料を用いる浸染方式の染色法においては、被染物の堅牢度(湿潤堅牢度、耐光堅牢度、耐塩素堅牢度等)を向上させるために、カチオン系の染料固着剤が一般に用いられているが、何れも被染物を直接染料又は反応染料で染色した後に、被染物を染料固着剤の水溶液中に浸漬させることによって被染物への染料固着を行っているため、全体として数多くの処理工程が必要となる。
また、酸性染料で羊毛、絹、ナイロン等を染色するときは、湿潤堅牢度を向上させるための後処理としてタンニン処理等が必要であるため、全体として数多くの処理工程が必要となる。
さらに、色剤として顔料を含む捺染用インク等においては、アクリル系のエマルジョンがのり材若しくはバインダーとして用いられることがあるが、これらのインクを被染物に染着させた後、蒸熱その他の後処理によって顔料を被染物に固着させる必要があるため、全体として数多くの処理工程が必要となる。
一方、毛糸や羊毛等においてはその風合いを良くするための仕上げ処理剤、あるいはピリング防止用処理剤としてアクリル系共重合体エマルジョンが広く用いられているが、これら処理剤によるコーティング膜の固着性に優れた従来の仕上げ処理剤は、毛糸や羊毛製品等の風合いを損ねるという欠点があり、また、毛糸や羊毛製品等の風合いを保つことができる仕上げ処理剤は、固着性が悪いという欠点を有している。
染料を繊維に染着させる前に染料と染料固着剤とを混合すると、染料と染料固着剤とが結合して凝集が起こり、その結果、染料はもはや繊維には染着し得なくなるため、染色剤やインクとして用いることができない。また、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤に染料を混ぜたもので染色しても、満足な湿潤堅牢度を得ることができない。
したがって、本発明の目的は、染色、印刷、ペインティング、コーティング等の処理工程数を大幅に減らすことができ、且つ、対象物への機能性化合物の固着性及び堅牢度が良好な染着剤組成物及び水性のコーティング剤組成物を提洪することにある。
また、本発明の目的は、コーティング処理の工程数を大幅に減らすことができ、且つ、毛糸や羊毛製品への固着性及び堅牢度が良好で毛糸や羊毛製品の風合いを損ねることなく毛玉の発生を抑えることができる水性のコーティング剤組成物を提供することにある。
【発明の開示】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合したものに、染料を混ぜると、驚くべきことに、非常に堅牢で染着性の良い水性の染着剤組成物が得られることを見い出した。
この染料を含む染着剤組成物で染色をすると、染着剤組成物が水性であるにもかかわらず、染料のにじみがほとんど生じず、また、染着剤組成物の水分が蒸発した状態では、被染物の風合いが損なわれることがなく、発色性が良好で、且つ、十分な湿潤堅牢度を有するものとなる。したがって、染着剤組成物で染色した被染物は通常はそのまま乾燥させるだけで、染色工程を完了させることができる。
また、本発明者は、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合したものに、顔料を混ぜると、同様に、非常に堅牢で染着性の良い水性の染着剤組成物が得られることを見い出した。この顔料を含む染着剤組成物は、単に水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と顔料とを混合しただけの染着剤組成物と比較すると、被染物の繊維に対する顔料の固着性が大幅に向上する。
また、この顔料を含む染着剤組成物で染色を行うと、染着剤組成物が水性であるにもかかわらず、色のにじみがほとんど生じず、染着剤組成物の水分が蒸発した状態では、被染物の風合いが損なわれることがなく、発色性が良好で、且つ、十分な湿潤堅牢度を有するものとなる。したがって、この顔料を含む染着剤組成物で染色した被染物もまた、通常はそのまま乾燥させるだけで、染色工程を完了させることができる。
さらに、上記染料又は顔料を含む染着剤組成物は、繊維の種類についての制限がなく、どのような繊維構造物に対しても強固に染着させることができる。また、紙、木、石、ガラス、プラスチック等の表面にも容易に且つ強固に染着可能である。
さらに、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合したものは、相手部材への吸着性が良好であり、さらに、水分が蒸発すると柔軟性、透明性、光沢性及び撥水性に優れたポリマー樹脂の皮膜を形成するので、コーティング剤として好適であり、特に、毛糸や羊毛製品等に対する毛玉防止用コーティング剤として有効であることを見い出した。
また、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合したものに、染料や顔料とともに、或いは、染料や顔料を省略して他の機能性化合物、例えば、薬剤、香料、防臭剤等を混合することにより、これら機能性化合物の効能を発揮できる染着剤組成物が得られることを見い出した。
かくして、本発明によれば、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と、カチオン系水溶性ポリマーと、染料、顔料、薬剤、防臭剤、香料等の機能性化合物とを含み、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合した後に機能性化合物を混合してなる染色、印刷、ペインティング又はコーティング用染着剤組成物が提供される。
好ましくは、前記染着剤組成物における前記コーティング剤組成物における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、前記樹脂分が重合モノマー成分としてアクリル系モノマー及び酢酸ビニルモノマーを含む。
また好ましくは、前記染着剤組成物における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、前記樹脂分が重合モノマー成分としてエチレン及び酢酸ビニルモノマーを含む。
また好ましくは、前記染着剤組成物における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の粒子荷電がアニオン性である。
また好ましくは、前記染着剤組成物における前記機能性化合物が水系媒体中においてアニオン性である。
また好ましくは、前記染着剤組成物における前記カチオン系水溶性ポリマーは、一般式が、
CH=CH−CH−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、或いは、モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなる。
前記カチオン系水溶性ポリマーとしては、特開平2−80681号公報に実施例として示されるポリカチオン水溶液、特に、式(1)又は(2)の分子構造を有するポリカチオン水溶液を好適に用いることができる。

また、本発明によれば、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤にカチオン系水溶性ポリマーを混合してなるコーティング剤組成物が提供される。
また、本発明によれば、前記コーティング剤組成物における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が、水系媒体と樹脂分からなり、且つ、前記樹脂分が重合モノマー成分としてエチレン及び酢酸ビニルモノマーを含む。
また好ましくは、前記コーティング剤組成物における前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の粒子荷電がアニオン性である。
また好ましくは、前記コーティング剤組成物における前記機能性化合物が水系媒体中においてアニオン性である。
また好ましくは、前記コーティング剤組成物における前記カチオン系水溶開ポリマーは、一般式が、
CH=CH−CH−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、或いは、モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなる。
前記カチオン系水溶性ポリマーとしては、特開平2−80681号公報に実施例として示されるポリカチオン水溶液、特に、式(3)又は(4)の分子構造を有するポリカチオン水溶液を好適に用いることができる。

前記アクリル系水性エマルジョン型粘着剤は、水系媒体が45〜50重量%、樹脂分が50〜55重量%、粘度が6,000〜10,000mPa・s/30℃、平均粒子径が0.2〜0.5μmのものが好適であり、この水性エマルジョン型アクリル系粘着剤にカチオン系水溶性ポリマーを混合するときは、水性エマルジョン型アクリル系粘着剤を10〜50重量%、カチオン系水溶性ポリマーを50〜90重量%の割合で配合するのが好適である。水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとの混合物に染料、顔料、薬剤、防臭剤、香料等の機能性化合物を混合する場合、水系媒体に対し易溶性の機能性化合物にあっては適量の水系媒体に溶解させて水溶液とし、一方、水系媒体に対し不溶性の機能性化合物にあっては適量の水系媒体内に略均一に分散させた状態で水性エマルジョン型アクリル系粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとの混合物に混合させる。そして、その後、必要に応じて適量の水系媒体で希釈し、染色、印刷、ペインティング、コーティング等用の染着剤として用いることができる。
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤における樹脂成分は、特に限定はされないが、1種又は2種以上のアクリル系モノマーと酢酸ビニルモノマーとの共重合体、1種又は2種以上のアクリル系重合体若しくは共重合体と酢酸ビニル重合体との共重合体若しくは混合物が好適である。
前記共重合体は、特に限定はされないが、モノマー、乳化剤および水の系で乳化重合させて得るのが好ましい。
前記アクリル系モノマーとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル、アクリル酸オクタデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸オクタデシル、ヒドロキシメタクリル酸エチル等が例示される。
前記乳化剤としては、各種脂肪酸塩、高級アルコール硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル燐酸塩、アルキルフェニルポリオキシエチレン硫酸塩等から選択されるアニオン性界面活性剤を用いることができる。また、必要に応じて、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等から選択されるノニオン性界面活性剤を加えることができる。さらに、重合触媒としては、特に限定はされないが、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を選択することができる。さらに、重合時に必要に応じて、増粘剤、安定剤、防腐剤等の微量添加剤を加えることができる。
前記アクリル系水性エマルジョン粘着剤は、粘度が5,000〜20,000mPa・s/30℃、平均粒子径が0.1〜1μmのものが好ましい。また、ガラス転移温度が−20〜−60℃、最低造膜温度が−5〜5℃であることが好ましい。また、前記アクリル系粘着剤の水性エマルジョンは、pHを4〜8に調整することが好ましい。
前記染料としては、その種類は特に限定されないが、スルホン基、カルボキシル基等の酸性基を有する直接染料又は反応染料が好適である。また、前記顔料についても有機顔料、無機顔料等から任意に選択できるが、表面にアニオン基を付与して水中分散性をもたせたものやアニオン性界面活性剤を用いて水中分散性をもたせたものが好ましい。また、顔料はできるだけ粒子径が均一で且つ平均粒子径の小さいもの(0.2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下、さらに好ましくは0.08μm以下)が好ましい。しかし、顔料の平均粒径が0.02μmよりも小さいと十分な着色濃度が得られにくくなるため、0.02μm以上であることが好ましい。
さらに、前記水系媒体は、水又は水と水溶性化合物(例えば多価アルコール)から選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、水が約45重量%、樹脂分が約55重量%であり、樹脂分は重合成分としてはアクリル酸エステル及び酢酸ビニルを含む共重合体であり、粘度が8,000mPa・s/30℃、平均粒子径が0.2〜0.5μmであった。
使用したカチオン系水溶性ポリマーは、PH1.5〜3.5、比重約1.13/20℃、粘度約5mPa・s/20℃のポリカチオン水溶液であり、具体的には下記の分子構造を有する日東紡績株式会社製ポリカチオン水溶液(商品名:ダンフィックス−723)を使用した。

上記アクリル系水性エマルジョン粘着剤と上記ポリカチオン水溶液を重量比で約1:5の割合で略均一に混合した後、直接染料を適量の水で溶解した水溶液を略均一に混合して水性の染着剤組成物を得た。この染着剤組成物をさらに水で約10倍に希釈してインク液とした。
比較例1
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、実施例1と同一組成物であるが、カチオン系水溶性ポリマーは含まず、アクリル系水性エマルジョン粘着剤に直接染料を適量の水で溶解した水溶液を略均一に混合して水性の染着剤組成物を得た。この染着剤組成物をさらに水で約10倍に希釈してインク液とした。
上記実施例1のインク液と比較例1のインク液を用い、対象物として木綿繊維の織布、羊毛繊維の織物、ナイロン繊維の織物、アクリル繊維の織物、紙、ガラス板にそれぞれ筆で塗布(染色)した後、室温で自然乾燥させた。
対象物を木綿繊維の織布、羊毛繊維の織物、ナイロン繊維の織物、アクリル繊維の織物、紙及びガラス板としたときの各々において、実施例1のインク液と比較例1のインク液による染色の結果を以下の表に示す。

ここで、インク液塗布時における色のにじみ具合については、色のにじみがほとんどない状態を○、多少色のにじみができる状態を△、色が大きくにじむ状態を×とした。また、湿潤堅牢度については、自然乾燥後に洗濯機で5分間水洗いしたときの色落ちがほとんどない状態を○、多少色落ちが生じる状態を△、大きく色落ちする状態を×とした。また、乾燥した染着面の色の鮮明性、光沢、撥水性、風合いについても、良好を○、不良を×とした。また、乾燥した皮膜の白濁状態については、白濁がない状態を○、白濁がある状態を×とした。
上記比較結果から、実施例1の染料系インク液が総合的に極めて優れていることが確認された。
【実施例2】
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、水が約45重量%、樹脂分が約55重量%であり、樹脂分は樹脂分は重合成分としてはアクリル酸エステル及び酢酸ビニルを含む共重合体であり、粘度が8,000mPa・s/30℃、平均粒子径が0.2〜0.5μmであった。
使用したカチオン系水溶性ポリマーは、PH1.5〜3.5、比重約1.13/20℃、粘度約5mPa・s/20℃のポリカチオン水溶液であり、具体的には日東紡績株式会社製ポリカチオン水溶液(商品名:ダンフィックス−723)を使用した。
上記アクリル系水性エマルジョン粘着剤と上記ポリカチオン水溶液を重量比で約1:5の割合で略均一に混合した後、この混合液に対し、顔料粉末を適量の水に分散させてなる顔料液を略均一に混合して水性の染着剤組成物を得た。この染着剤組成物をさらに水で約10倍に希釈してインク液とした。
比較例2
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、実施例2と同一組成物であるが、このアクリル系水性エマルジョン粘着剤に対し、顔料粉末を適量の水に分散させてなる顔料液を略均一に混合して水性の染着剤組成物を得た。この染着剤組成物をさらに水で約10倍に希釈してインク液とした。
上記実施例2のインク液と比較例2のインク液を用い、対象物として木綿繊維の織布、羊毛繊維の織物、ナイロン繊維の織物、アクリル繊維の織物、紙、ガラス板にそれぞれ筆で塗布(染色)した後、室温で自然乾燥させた。
対象物を木綿繊維の織布、羊毛繊維の織物、ナイロン繊維の織物、アクリル繊維の織物、紙及びガラス板としたときの各々において、実施例2のインク液と比較例2のインク液による染色の結果を以下の表に示す。

ここで、インク液塗布時における色のにじみ具合については、色のにじみがほとんどない状態を○、多少色のにじみができる状態を△、色が大きくにじむ状態を×とした。また、湿潤堅牢度については、自然乾燥後に洗濯機で5分間水洗いしたときの色落ちがほとんどない状態を○、多少色落ちが生じる状態を△、大きく色落ちする状態を×とした。また、乾燥した染着面の色の鮮明性、光沢、撥水性、風合いについても、良好を○、不良を×とした。また、乾燥した皮膜の白濁状態については、白濁がない状態を○、白濁がある状態を×とした。
上記比較結果から、実施例2の顔料系インク液が総合的に極めて優れていることが確認された。
【実施例3】
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、水が約45重量%、樹脂分が約55重量%であり、樹脂分は重合成分としてはアクリル酸エステル及び酢酸ビニルを含む共重合体であり、粘度が8,000mPa・s/30℃、平均粒子径が0.2〜0.5μmであった。
使用したカチオン系水溶性ポリマーは、PH1.5〜3.5、比重約1.13/20℃、粘度約5mPa・s/20℃のポリカチオン水溶液であり、具体的には日東紡績株式会社製ポリカチオン水溶液(商品名:ダンフィックス−723)を使用した。
上記アクリル系水性エマルジョン粘着剤と上記ポリカチオン水溶液を重量比で約1:5の割合で略均一に混合した後、この混合液をさらに水で約100倍に希釈してコーティング液とした。
比較例3
使用したアクリル系水性エマルジョン粘着剤は、実施例2と同一組成物であるが、このアクリル系水性エマルジョン粘着剤をさらに水で約100倍に希釈してコーティング液とした。
上記実施例3のコーティング液と比較例3のコーティング液を用い、これらのコーティング液に羊毛繊維の織物を浸漬した後、室温で自然乾燥させた。
実施例3のコーティング液と比較例3のコーティング液による皮膜形成の結果を以下の表3に示す。


ここで、湿潤堅牢度については、自然乾燥後に洗濯機で5分間水洗いしたときの皮膜落ちがほとんどない状態を○、多少皮膜落ちが生じる状態を△、大きく皮膜落ちする状態を×とした。また、乾燥したコーティング面光沢、撥水性、風合いについても、良好を○、不良を×とした。また、乾燥した皮膜の白濁状態については、白濁がない状態を○、白濁がある状態を×とした。毛玉形成については、コーティング後の皮膜面をすり合わせたときに、毛玉ができない状態を○、毛玉ができる状態を×とした。
上記比較結果から、実施例3のコーティング液が、アクリル系水性エマルジョン粘着剤のみからなるコーティング液と比べて良好な毛玉防止効果を示すことが確認された。
なお、上記実施例1〜3におけるアクリル系水性エマルジョン粘着剤とポリカチオン水溶液との混合比を約1:1〜1:10に変えた場合においても、上記実施例1〜3とほぼ同様の結果が得られた。上記実施例1〜3におけるインク液又はコーティング液の水による希釈度を上記100倍から200〜500倍に変更した場合であっても、上記実施例1〜3とほぼ同様の結果が得られることがわかった。
さらに、上記アクリル系水性エマルジョン粘着剤と上記ポリカチオン水溶液とを重量比で約1:5の割合で略均一に混合した後、この混合液に対し、水性の香料、防臭剤、薬剤等を適量均一に混合して水性のコーティング剤組成物とし、このコーティング剤組成物をさらに水で約100倍に希釈して得たコーティング液を各種繊維の織物に塗布し、室温で自然乾燥させたところ、織物への固着性の良好なコーティング皮膜が得られ、且つ、このコーティング皮膜から香料、防臭剤、薬剤等の機能性化合物の効果が発揮され得ることが確認された。
さらに、上記実施例1〜3の変形例として、樹脂分がアクリル・酢酸ビニル重合体である水性エマルジョン型アクリル系粘着剤に代えて、樹脂分がエチレン・酢酸ビニル共重合体である水性エマルジョン型アクリル系粘着剤を使用した場合、対象物の風合い及び湿潤堅牢度が多少低下するが、本発明の所期目的を達成し得る染着剤組成物又はコーティング剤組成物が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
以上の説明から明らかなように、本発明によれば、染色、印刷、ペインティング、コーティング等の処理工程数を大幅に減らすことができ、且つ、対象物への機能性化合物の固着性及び堅牢度が良好で対象物の風合いを損ねない染着剤組成物及び水性のコーティング剤組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、コーティング処理の工程数を大幅に減らすことができ、且つ、毛糸や羊毛製品への固着性及び堅牢度が良好で毛糸や羊毛製品の風合いを損ねることなく毛玉の発生を抑えることができる水性のコーティング剤組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性エマルジョン型アクリル系粘着剤と、カチオン系水溶性ポリマーと、染料、顔料、薬剤、防臭剤、香料等の機能性化合物とを含み、水性エマルジョン型粘着剤とカチオン系水溶性ポリマーとを混合した後に機能性化合物を混合してなる染色、印刷、ペインティング又はコーティング用染着剤組成物。
【請求項2】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、樹脂分が重合モノマー成分としてアクリル系モノマー及び酢酸ビニルモノマーを含むことを特徴とする請求項1記載の染着剤組成物。
【請求項3】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、樹脂分が重合モノマー成分としてエチレン及び酢酸ビニルモノマーを含むことを特徴とする請求項1記載の染着剤組成物。
【請求項4】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の粒子荷電がアニオン性である請求項1に記載の染着剤組成物。
【請求項5】
前記機能性化合物が水系媒体中においてアニオン性である請求項1に記載の染着剤組成物。
【請求項6】
前記カチオン系水溶性ポリマーは、一般式が、
CH=CH−CH−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、或いは、モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなることを特徴とする請求項1記載の染着剤組成物。
【請求項7】
水性エマルジョン型アクリル系粘着剤にカチオン系水溶性ポリマーを混合してなるコーティング剤組成物。
【請求項8】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、樹脂分が重合モノマー成分としてアクリル系モノマー及び酢酸ビニルモノマーを含むことを特徴とする請求項7記載のコーティング剤組成物。
【請求項9】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤が水系媒体と樹脂分からなり、且つ、樹脂分が重合モノマー成分としてエチレン及び酢酸ビニルモノマーを含むことを特徴とする請求項1記載のコーティング剤組成物。
【請求項10】
前記水性エマルジョン型アクリル系粘着剤の粒子荷電がアニオン性である請求項7に記載のコーティング剤組成物。
【請求項11】
前記カチオン系水溶性ポリマーは、一般式が、
CH=CH−CH−NHR
(式中Rは水素又は炭素数1〜18のアルキル基、置換アルキル基、アラルキル基、シクロアルキル基を表す)
で示されるモノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体、或いは、モノアリルアミン誘導体又はその塩の重合体と、それらと共重合可能な不飽和二重結合を持つモノマーとの共重合体からなることを特徴とする請求項7記載のコーティング剤組成物。

【国際公開番号】WO2004/085553
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504114(P2005−504114)
【国際出願番号】PCT/JP2004/004283
【国際出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【出願人】(598143871)株式会社デンエンチョウフ・ロマン (4)
【Fターム(参考)】