説明

栄養組成物および消化管機能低下予防・改善用組成物

【課題】低下した消化管機能を改善し、液状栄養剤の投与に伴う下痢、胃食道逆流および誤嚥の予防・改善に有効な栄養組成物、および消化管機能低下予防・改善用組成物の提供。
【解決手段】グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする栄養組成物および消化管機能低下予防・改善用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化器官機能を改善し、液状栄養剤などの投与時に発症する下痢や胃食道逆流・誤嚥の発生頻度を低下させる栄養組成物、および消化管機能低下予防・改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな手術をした患者や消化能力が低下している高齢者は、食物を吸収可能な状態まで消化できないため充分な栄養を取ることができず、それが病気に対する抵抗力や回復力を落とす原因となる。液状栄養剤はそういった患者の栄養保持・管理に用いられ、特に経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用される。経管で投与される液状栄養剤は経腸栄養剤と呼ばれているが、これは鼻腔チューブ、胃ろうまたは腸ろうより、胃、十二指腸または空腸に投与される。症状に応じ、可能な患者には経口摂取することもある。
【0003】
液状栄養剤、中でも経腸栄養剤は手術後の患者の栄養保持に必須である。経腸栄養剤は消化態栄養素や成分栄養素を配合し液状で供せられるが、摂取により副作用として下痢や胃食道逆流・誤嚥の発生率が高く、患者自身のQOLおよび臨床現場従事者にとって問題になっている。勿論、当該栄養剤を経口投与した場合にも副作用として下痢などの発症が見られる。
【0004】
液状栄養剤の副作用である下痢は、手術前後の絶食や手術侵襲による消化管生理機能の低下はもちろんのこと、術後の経中心静脈栄養施行などによる長期間の消化管からの栄養不摂取、手術前後の絶食による消化管生理機能の低下が原因と考えられている。また老人など加齢により消化吸収能が著しく低下している患者や消化吸収能が未熟な乳幼児においても認められる。
【0005】
液状栄養剤のもう1つの大きな問題点は胃食道逆流である。液状栄養剤を経管栄養や胃ろうより胃内投与する際に、仰臥位をとっている患者では食道へ逆流した胃内容物が気管や肺に侵入し、誤嚥性肺炎を発症することがある。誤嚥性肺炎は病者にとって致命的になることもしばしばあるため、患者の命を預かる医療現場従事者にとっても極めて脅威であり、誤嚥の原因となる胃食道逆流の防止・予防が望まれている。
【0006】
液状栄養剤の投与に起因するこれらの副作用については、これまで有効な対策が見出されておらず、液状栄養剤の変更、減量や中止、あるいは症状に応じた治療薬の投与などが行われてきた。
【0007】
また、ラクトースによって惹起される下痢については、RNAを形成する核酸であるアデニル酸、グアニル酸、ウリジル酸、シチジル酸およびイノシン酸の5種類の核酸をスタンダードダイエットに配合して与えることによって抑制されるとする報告がされているが(R.ノートンら(R. Norton et al)、「ブラジリアン・ジャーナル・オブ・メディカル・アンド・バイオロジカル・リサーチ(Brazilian Journal of Medical and Biological Research)」、2001年、34巻、P.195−202参照)、該報告は、ラクトースという特定の成分に起因する下痢症状の抑制に、5種類の核酸の同時投与が消化管粘膜炎症の回復に作用しているかもしれないという可能性を示しているに過ぎず、その内の1種類でも欠いたとき、即ち、RNAを形成しないような場合にまで奏効することの示唆はない。また、栄養組成物や液状栄養剤に関する記載もない。
【0008】
さらに、グルタミン酸を含有する経腸栄養剤としては、効率的に吸収されエネルギー源として有効な、24〜147mM(0.36〜2.1w/v%)の遊離グルタミン酸を含有する液状製剤(特開平7−330583号公報参照)や、9.0〜17重量%(総アミノ酸組成物中)のグルタミン酸を含む遊離アミノ酸からなる、障害のある胃腸管機能の治療用組成物(特表2003−530411号公報参照)が知られている。しかし、両者ともに、用いられているのは遊離グルタミン酸であり、グルタミン酸塩については何の示唆もない。またこれらの文献は、グルタミン酸がエネルギー源、栄養源として配合されている経腸栄養剤を示しているに過ぎず、グルタミン酸が経腸栄養剤投与によって発生する下痢などの副作用を抑制することの示唆はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、低下した消化管機能を改善し、液状栄養剤の投与に伴う下痢、胃食道逆流および誤嚥の予防・改善に有効な栄養組成物、および消化管機能低下予防・改善用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、下記の発明を完成させた。本発明は、以下の内容を包含する。
(1)グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする栄養組成物。
(2)用時において液状である、(1)に記載の栄養組成物。
(3)前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、(1)または(2)に記載の栄養組成物。
(4)アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない(1)〜(3)のいずれかに記載の栄養組成物。
(5)アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%である(1)〜(4)のいずれかに記載の栄養組成物。
(6)消化管機能低下を予防および/または改善するためのものである、(1)〜(5)のいずれかに記載の栄養組成物。
(7)下痢発症および/または胃食道逆流を抑制させるためのものである(1)〜(6)のいずれかに記載の栄養組成物。
(8)胃ろうまたは腸ろうから投与されるものである、(1)〜(7)のいずれかに記載の栄養組成物。
(9)グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする、消化管機能低下予防・改善用組成物。
(10)用時において液状である、(9)に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(11)前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、(9)または(10)に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(12)イノシン酸、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない(9)〜(11)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(13)アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%である(9)〜(12)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(14)低下した消化管機能を予防および/または改善するためのものである(9)〜(13)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(15)下痢発症および/または胃食道逆流を抑制させるためのものである(9)〜(14)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(16)液状栄養剤の投与に先立って投与するためのものである(9)〜(15)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
(17)胃ろうまたは腸ろうから投与されるものである、(9)〜(16)のいずれかに記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【0011】
(18)グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%である組成物の有効量を投与することを含む消化管機能低下予防・改善方法。
(19)液状で投与することを特徴とする、(18)に記載の方法。
(20)前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、(18)または(19)に記載の方法。
(21)前記組成物がイノシン酸、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しないことを特徴とする、(18)〜(20)のいずれかに記載の方法。
(22)前記組成物に含まれるアデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%であることを特徴とする、(18)〜(21)のいずれかに記載の方法。
(23)低下した消化管機能を予防および/または改善することを特徴とする、(18)〜(22)のいずれかに記載の方法。
(24)下痢発症および/または胃食道逆流を抑制することを特徴とする、(18)〜(23)のいずれかに記載の方法。
(25)液状栄養剤の投与に先立って投与することを特徴とする、(18)〜(24)のいずれかに記載の方法。
(26)胃ろうまたは腸ろうから投与することを特徴とする、(18)〜(25)のいずれかに記載の方法。
(27)グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする消化管機能低下予防・改善用組成物を製造するためのグルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩の使用。
(28)前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、(27)に記載の使用。
(29)前記組成物がイノシン酸、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しないことを特徴とする、(27)または(28)に記載の使用。
(30)前記組成物に含まれるアデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%であることを特徴とする、(27)〜(29)のいずれかに記載の使用。
(31)前記組成物が低下した消化管機能を予防および/または改善するためのものである、(27)〜(30)のいずれかに記載の使用。
(32)前期組成物が下痢発症および/または胃食道逆流を抑制させるためのものである、(27)〜(31)のいずれかに記載の使用。
(33)前記組成物が液状栄養剤の投与に先立って投与するためのものである、(27)〜(32)のいずれかに記載の使用。
(34)前記組成物が胃ろうまたは腸ろうから投与されるものである、(27)〜(33)のいずれかに記載の使用。
(35)グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする組成物、および該組成物の消化管機能低下予防・改善への使用に関する説明を記載した記載物を含む商業的パッケージ。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は実施例1の結果を示す。
【図2】図2は実施例2の結果を示す。
【図3】図3は実施例3の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の栄養組成物は、低下した消化管機能を改善し、液状栄養剤の投与に伴って起こる副作用としての下痢発症頻度を低下させ、胃食道逆流を予防・改善するためのものである。本発明の栄養組成物であれば、手術前後の経腸栄養摂取不可期にも投与可能であり、消化管機能を維持することができる。
【0014】
本発明における栄養組成物とは、消化態栄養素や成分栄養素を配合した栄養組成物であり、通常、大きな手術をした患者や消化能力が低下している高齢者などの栄養保持に使用されるものである。
【0015】
本発明に関してグルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩のうち、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸およびそれらの塩はいわゆるうま味物質といわれているものである。
【0016】
うま味は塩味、甘味、酸味、苦味とともに基本5味の一つで特有の呈味があり、添加することにより食品の風味、味を調える働きがある。天然のうま味物質の例としてはアミノ酸系うま味物質であるグルタミン酸、並びに核酸系うま味物質であるイノシン酸およびグアニル酸などの塩類が挙げられる。本来うま味物質は調味料として食品の味を調え風味を増すものであるが、栄養組成物に配合することによって、副作用である下痢を顕著に軽減させることができ、低下した消化管生理機能を急速に賦活せしめることが可能である。
【0017】
「うま味物質」とは前記基本4味の甘味、塩味、酸味、苦味とは明らかに区別出来る「うま味」を呈する物質を示す。歴史的には1908年に東京大学の池田菊苗教授が昆布のだし汁からグルタミン酸を発見した際、グルタミン酸の味を表現するのに甘い、塩辛い、すっぱい、苦いというどの表現にも当てはまらない独特の味として「うま味」という用語を用いたことに始まる。現在「うま味」は甘味、塩味、酸味、苦味の4基本味を組み合わせても作り出せない独立した味要素であるとして認識され、「umami」は国際用語として認識されている。
【0018】
うま味物質にはアミノ酸系うま味物質と核酸系うま味物質とがある。アミノ酸系うま味物質としてはグルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate, MSG)、グルタミン酸カリウムをはじめとするグルタミン酸塩、トリコミン酸塩、イボテン酸塩、β−ヒドロキシ−L−グルタミン酸塩、L−ホモシステイン酸塩、L−アスパラギン酸塩などの各塩がある。一方核酸系うま味物質としては5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム、5’−キサンチル酸ナトリウム、5’−アデニル酸ナトリウム、デオキシ5’−アデニル酸ナトリウム、2−メチルチオ−5’−イノシン酸ナトリウム、N’−メチル−2−メチルチオ−5’−イノシン酸ナトリウムなどの塩が存在する。
【0019】
一方、核酸は5炭糖、リン酸および塩基からなる物質で、アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸、シチジル酸、ウリジル酸およびキサンチル酸などがある。このうち、アデニル酸、グアニル酸、イノシン酸、キサンチル酸は核酸系うま味物質であることは上記のとおり知られている。うま味物質ではないが、シチジル酸およびウリジル酸にも、液状栄養剤によって引き起こされる下痢を抑制する働きがあることが予測される。
【0020】
本発明の栄養組成物はグルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有する。5’−ヌクレオチドとしては、好ましくはアデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸およびキサンチル酸が挙げられる(ただし、好ましくはアデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない)。より好ましくは、本発明の栄養組成物はグルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸およびキサンチル酸の各塩を少なくとも1種含有する。それらの塩としては、特にナトリウム塩が好ましい。ただし、グルタミン酸のみを含む場合、その含量は投与時の遊離グルタミン酸の濃度として0.0013〜1.3w/v%、好ましくは0.44〜0.88w/v%である。
【0021】
また、本発明において、各成分の配合は1種類のみでもよく、また、2種類以上を組み合わせて配合してもよい。2種類以上の組み合わせとしては、グルタミン酸またはその塩と核酸系成分またはそれらの塩の1種類〜5種類を組み合わせて、あるいは2種類〜5種類の核酸またはそれらの塩を組み合わせて配合する(ただし、好ましくはアデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない)。
【0022】
本発明の栄養組成物は、グルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩以外に配合する栄養源としては何ら限定されることはなく、各種アミノ酸、ペプチド、蛋白質、糖質、ビタミン、脂質、ミネラルなど従来から用いられるものが使用できる。栄養源以外の成分としては、既知の組成物を用いることができる。
【0023】
本発明の栄養組成物は通常、液状の形態(特に経腸栄養剤)で、手術後患者や消化能力の低下している高齢者などの栄養保持・管理に用いられる。本発明の栄養組成物は用時において液状または液状としうるものであれ、通常、病者が経口的食事摂取が困難な場合の経管栄養補給に使用される。経腸栄養剤の種類には未消化態蛋白を主成分とするもの、蛋白を加水分解した半消化態蛋白を主成分とするもの、消化態栄養素や成分栄養素を配合したものがある。それぞれ病者の病態および消化吸収障害の程度によって使い分けられる。
【0024】
本発明の栄養組成物は、手術前後の栄養管理、腸内の清浄化を要する疾患、消化管異常病態下(縫合不全、短腸症候群、各種消化管痩など)、消化管特殊疾患時(クローン病、潰瘍性大腸炎、消化不全症候群、膵疾患、蛋白漏出性腸症など)、高カロリー輸液の適応困難(広範囲熱傷など)時の栄養管理、消化能力の低下している高齢者、消化吸収能が未熟な乳幼児などに用いられる。
【0025】
また、本発明の栄養組成物は消化管機能障害のない、胃ろうおよび腸ろう患者にも使用される。例えば、消化器病以外の疾患である脳血管障害や脳梗塞患者、パーキンソン病、痴呆患者など経口摂取が困難な患者にも胃ろうおよび腸ろうを介した液状栄養剤投与が行われており、それらの患者への使用も本発明に含まれる。
【0026】
本発明の栄養組成物の投与形態は特に限定されず、固形、粉末、液状、ゼリー状などの形態で投与し得るが、用時において液状で投与するのが好ましい。また投与手段においても、経腸投与、経胃投与および経口投与のいずれも用いられ得る。経腸投与または経胃投与の場合、鼻腔チューブ、胃ろうまたは腸ろうより、胃、十二指腸または空腸に投与される。症状に応じ、可能な患者には経口摂取させることもある。手術後や病態からの消化吸収機能の回復に伴い、経腸摂取か経口摂取かを適宜決定する。さらに、本発明の栄養組成物は、栄養管理のための液状栄養剤としてのみならず、患者の水分補給のための補給水に添加することにより、患者へ投与することもできる。この場合もゼリー状などの粘性を有する形態でも使用できる。
【0027】
本発明の栄養組成物は、例えば液状であれば、経腸投与、経胃投与、経口投与により成人1日当たり400〜3000mL望ましくは800〜1200mL投与される。グルタミン酸の用量については、患者に供する液状製剤の状態で、投与経路を問わずグルタミン酸ナトリウムを遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%(モル濃度として0.09mM〜90mM)を含有することが好ましい。0.0013w/v%未満であれば効果を奏せず、また1.3w/v%より高いと呈味性を損なうので好ましくない。より好ましくは0.44〜0.88w/v%(30mM〜60mM)含有することが好ましい。同様に核酸は遊離酸として0.0035〜0.41w/v%(0.1〜10mM)含有することが望ましい。0.0035w/v%未満であれば効果を奏せず、また0.41w/v%より高いと呈味性を損なうので好ましくない。より好ましくは0.035〜0.35w/v%(1〜10mM)含有することが望ましい。グルタミン酸ナトリウムと核酸ナトリウムを配合する場合、その配合比は呈味性を損なわない範囲の1:0〜0.1が望ましい。
【0028】
本発明の栄養組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造される。例えば、グルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を、粉末および液状の経腸栄養剤に予め配合して供する方法のほか、既存の経腸栄養剤に用時添加するために用いる粉末製剤、液状製剤として供する。また、本発明の栄養組成物は、通常の経腸栄養剤投与に先立って投与することによって、通常の経腸栄養剤投与によって発症する下痢などの消化管機能障害を抑制することができる。この場合の処方においては、本発明における規定成分のほか、経腸液剤調製に必要な最小限の成分構成とすることができる。別投与する栄養組成物として用いる場合、グルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩以外に配合する成分としては特に限定はしないが、炭水化物、アミノ酸、ビタミン、無機質などが用いられる。
【0029】
また、本発明における消化管機能低下予防・改善用組成物は、消化管機能低下、特に液状栄養剤の投与時に引き起こされる下痢の発症を予防および/または改善する効果を有する。当該組成物は、医薬および食品の態様としても調製することができる。それらは自体公知の形態、例えば、錠剤状、カプセル状、粉末状、液状、散剤状などの形態に調製され、これらの形態とするに必要な自体既知成分を配分することができる。当該組成物におけるグルタミン酸、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の摂取量は、上記と同様の量である。
【0030】
当該組成物は単独で投与されても、また、例えば経腸栄養剤などと併用して投与されてもよい。栄養剤を併用して投与する場合、その投与経路、投与剤形は同一であっても、異なっていてもよく、また各々を投与するタイミングも、同一であっても別々であってもよい。併用する栄養剤の種類や効果によって適宜決定する。特に、別途投与する経腸栄養剤によって引き起こされる下痢、胃食道逆流・誤嚥および消化管機能低下を改善するためには、当該組成物を、通常、経腸栄養剤の投与に先立つこと数日〜直前に投与することが好ましい。
【0031】
本発明の組成物の投与対象は特に限定されず、ヒトをはじめサル、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ、イヌ、ウマ、ウシ等種々の哺乳動物における消化管機能低下予防・改善などに有用である。
【0032】
本発明の組成物とその用途への使用に関する説明を記載した記載物を含むパッケージにおいて、記載物としては、用途・効能や投与方法などに関する説明事項を記載したいわゆる能書などが挙げられる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
方法
常法に従い、ペントバルビタール麻酔下において雄性ラット(体重270g前後)の胃に成分栄養剤投与用のカテーテルを挿入する手術を施し、1週間の術後回復期間を設けた。飼育は通常のラット用飼料と水道水を与え、自由に摂取させた。回復確認後、3晩絶食させ消化管機能の低下を引き起こした。これは外科手術患者の手術前日、当日、翌日の絶食のスケジュールを模倣した。
試験当日、ラットを3群に分類し1匹ごとに観察用ケージに移し、以下に示す成分栄養剤の投与による下痢発症を観察した。まず、表1に示す組成を有する成分栄養剤1袋(80g)を300ccの水に溶解し、1kcal/ccとなるように調製したものを成分栄養剤1とした。成分栄養剤1を投与した群を対照として、さらにグルタミン酸ナトリウム(MSG)を1.0w/v%(遊離グルタミン酸として0.88w/v%)添加した成分栄養剤2を投与した群、塩化ナトリウム0.35w/v%を添加した成分栄養剤3を投与した群の3群を比較検討した。各試験成分栄養剤は胃に挿入したカテーテルを通じ電動ポンプを使用して投与した。10:30AMより投与開始し7mL/hrで1時間ごとに4回間欠投与した。各試験成分栄養剤はラット1匹あたり計28mL投与した。投与開始から翌朝10:30AMまで便状を観察し、症状の重篤度により1.正常便または便無し、2.軟便(形状保持)、3.泥状便(形状無し)、4.水様便の4段階にランク付けした。
【0035】
【表1】

【0036】
結果
図1に示す通り、無添加群では12例中12例でランク4の水様便が観察された。一方、グルタミン酸ナトリウム添加群では13例中4例でランク1の正常便または便無し、1例でランク2の軟便、2例でランク3の泥状便が観察された。また塩化ナトリウム添加群では11例中1例でランク1、6例でランク3が観察された。クラスカル・ワーリスの検定を行ったところ、グルタミン酸ナトリウム添加群に有意な改善効果が認められた(p < 0.05)。
【0037】
(実施例2)
方法
方法は実施例1に準じた。実施例1と同様の成分栄養剤1を投与した群を対照として、さらにグルタミン酸ナトリウム(MSG)を0.50w/v%(遊離グルタミン酸として0.44w/v%)添加した成分栄養剤4を投与した群、イノシン酸ナトリウム(IMP)を0.20w/v%(遊離イノシン酸として0.17w/v%)添加した成分栄養剤5を投与した群の3群を比較検討した。各試験成分栄養剤は胃に挿入したカテーテルを通じ電動ポンプを使用して投与した。実験法は実施例1と同様に行った。
【0038】
結果
図2に示す通り、無添加群では12例中11例でランク4の水様便が観察された。グルタミン酸ナトリウム添加群では13例中1例でランク1の正常便または便無し、1例でランク2の軟便、2例でランク3の泥状便が観察された。ところがイノシン酸ナトリウム添加群では11例中4例でランク1、1例でランク2、1例でランク3が観察された。クラスカル・ワーリスの検定を行ったところ、イノシン酸ナトリウム添加群に有意な改善効果が認められた(p < 0.05)。
【0039】
(実施例3)
方法
方法は実施例1に準じた。別表に示す組成を有する成分栄養剤1を投与した群を対象として、さらにグアニル酸ナトリウム(GMP)を0.04w/v%(遊離グアニル酸として0.036w/v%)添加した成分栄養剤6を投与した群、0.20w/v%(遊離グアニル酸として0.18w/v%)添加した成分栄養剤7を投与した群の3群を比較検討した。各試験成分栄養剤は胃に挿入したカテーテルを通じ電動ポンプを使用して投与した。実験法は実施例1と同様に行った。
【0040】
結果
図3に示す通り、無添加群では14例中13例でランク4の水様便が、1例でランク2の軟便が観察された。グアニル酸ナトリウム0.04w/v%添加群では13例中3例でランク1の正常便または便無し、1例でランク2の軟便、9例でランク4の水様便が観察された。グアニル酸ナトリウム0.20w/v%添加群でも13例中3例でランク1の正常便または便無し、1例でランク2の軟便、9例でランク4の水様便が観察され、添加による下痢症状の改善効果が認められたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、従来問題とされてきた、消化能力の低下を改善し、液状栄養剤投与時の下痢の発症頻度を著しく低下させ、胃食道逆流を予防・改善する栄養組成物および消化管機能低下予防・改善用組成物に関するものである。これにより患者の健康管理およびQOLを改善することが可能となる。
【0042】
本出願は、日本で出願された特願2004−189515を基礎としており、それらの内容は本明細書に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする栄養組成物。
【請求項2】
使用時において液状である、請求項1に記載の栄養組成物。
【請求項3】
前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、請求項1または2に記載の栄養組成物。
【請求項4】
アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない請求項1〜3のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項5】
アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項6】
消化管機能低下を予防および/または改善するためのものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項7】
下痢発症および/または胃食道逆流を抑制させるためのものである請求項1〜6のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項8】
胃ろうまたは腸ろうから投与されるものである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の栄養組成物。
【請求項9】
グルタミン酸、5’−ヌクレオチドおよびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種を含有し、かつグルタミン酸のみを含む場合その投与時の含量が遊離グルタミン酸として0.0013〜1.3w/v%であることを特徴とする、消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項10】
用時において液状である、請求項9に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項11】
前記の5’−ヌクレオチドが、アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸および/またはキサンチル酸である、請求項9または10に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項12】
イノシン酸、アデニル酸、グアニル酸、シチジル酸およびウリジル酸を同時に含有しない請求項9〜11のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項13】
アデニル酸、イノシン酸、グアニル酸、シチジル酸、ウリジル酸、キサンチル酸およびそれらの塩の合計含量が遊離酸として0.0035〜0.41w/v%である請求項9〜12のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項14】
低下した消化管機能を予防および/または改善するためのものである請求項9〜13のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項15】
下痢発症および/または胃食道逆流を抑制させるためのものである請求項9〜14のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項16】
液状栄養剤の投与に先立って投与するためのものである請求項9〜15のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。
【請求項17】
胃ろうまたは腸ろうから投与されるものである、請求項9〜16のいずれか1項に記載の消化管機能低下予防・改善用組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−167108(P2012−167108A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−101794(P2012−101794)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【分割の表示】特願2006−528774(P2006−528774)の分割
【原出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】