説明

核酸抽出装置

【課題】小型化を図った集磁構造を用いて磁性ビーズを効率よく収集することができる、核酸抽出装置を提供する。
【解決手段】カオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを捕捉する、同極同士が隣り合う複数の磁石からなる磁力体と、磁力体を覆う磁力体カバーを有する。同極同士が隣り合うことで、磁力体近傍の磁力線密度を大きくすることができ、小型でも磁力を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞,細菌,ウイルス等を含む試料から、磁性ビーズまたは磁化可能なビーズを用いて核酸(DNAもしくはRNA)やタンパク質等の生物学的分子に対して、抽出,分離,精製等に関連する各種処理を実行する核酸抽出装置の集磁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
血液,血漿,組織片などの生物学的試料から核酸などの生物学的分子を分離もしくは精製することは、生物学,生化学,医学などの生命現象の研究だけでなく、診断や農作物の品種改良,食品検査といった産業において検査物質を得るための基本的で重要な操作である。特に核酸の検査はDNAやRNAを増幅できるPCR(Polymerasechain reaction)法が普及しているため、PCR法で増幅可能な精製された核酸を分離,精製する要求は高まっている。さらにPCR法の他にも、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法,SDA(strand displacement amplification)法,3SR(self-sustained sequence replication)法,TMA(transcription-mediated amplification)法,Qbeta replicase amplification法,LAMP(loop-mediated isothermal amplification)法など様々な核酸増幅法が開発されたことから、核酸検査の応用範囲は広がってきており、生物学的試料から核酸を分離,精製する要求はますます高まっていくと考えられている。
【0003】
生物学的試料からDNAやRNAなどの核酸を分離,精製する方法として、フェノール/クロロホルム抽出法が知られている。しかしこの方法は有害な有機溶剤の使用や煩雑な操作から作業者の負担が大きいものであった。そこで、上記問題点を解決するためにカオトロピック剤の存在下でシリカやガラス繊維などと核酸が結合する性質を利用した方法(例えば非特許文献1)が提案され、核酸抽出を行う自動装置も開発された(例えば特許文献1)。
【0004】
自動装置で通常実施されている核酸分離,精製の流れは以下の(1)〜(6)の通りである。(1)カオトロピック剤や界面活性剤を含む溶液によって細胞を破砕し、溶液中に核酸を溶出させる。(2)シリカを表面にコーティングした磁性ビーズ(磁性シリカ粒子)を溶液に加え、混合することにより、粒子表面に核酸を吸着させる。(3)反応容器の外部から磁石を接近させ、磁性ビーズを反応容器に捕捉しつつ、タンパク質などの不要物を含む溶液をポンプなどを使用して除去する。(4)反応容器に洗浄液を加え、不要物を溶液中へ移動させる。(5)再び反応容器の外部から磁石を接近させ、磁性ビーズを反応容器に捕捉しつつ、不要物を含む溶液を除去する。(6)洗浄液除去後、磁性ビーズを減菌水または低塩濃度のバッファーを加え、磁性ビーズ表面から核酸を溶離させる。
【0005】
上記(1)から(6)の工程での問題点は、ポンプなどに接続された液体吸引ラインにより細胞破砕に用いられる溶液や洗浄液を完全に除去することが難しいことである。細胞破砕に用いられる溶液に含まれるカオトロピック剤や界面活性剤,洗浄液に含まれるエタノールやイソプロパノールなどの薬剤は、PCR法などの後に続く酵素反応を阻害する。そのため、なるべく除去することが望まれるが、排除後も同じ反応容器を使うため残存液が次の工程に持ち込まれてしまう問題があった。また、除去効率を上げようとするあまり磁性ビーズも排除してしまう問題がおこることもあった。
【0006】
この問題を解決する方法として、磁性ビーズを反応容器の外側に配置した磁石や、液体吸引のための管の外側に配置した磁石ではなく、カバーで覆われた集磁構造を反応容器の内側に配置させて磁性ビーズを捕捉し、磁性体を別の反応容器へ移動させ、磁力を遮断したり弱めたりすることで新しい反応容器へ磁性ビーズを移動させて、実質的に溶液の交換を行う方法(特許文献2)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−504195号公報
【特許文献2】特開2004−337137号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Boom,R.,Sol,C. J. A. Salimans,M. M. M.,Jansen,C. L.,Wertheimvan Dillien,P. M. E.,and van der Noordaa,J.,J. C1in. Microbiol.,28,495-503 (1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ランニングコスト低減の観点から、試薬はできる限り少ない容量で実現することが望まれている。これを実現するためには、反応容器を小型化する必要がある。すると、集磁構造を反応容器の内側に配置させる場合は集磁構造が小型にならざるを得ない。集磁構造の磁力は、一般に大きければ大きい程磁力が大きいことから、集磁構造の小型化は磁力の低下を招く。高スループットを実現するためには、小型の集磁構造でも磁性ビーズを効率良く収集することができるよう、磁力を強化しなければならない問題があった。
【0010】
本発明の目的は、小型化を図った集磁構造を用いて磁性ビーズを効率よく収集することができる、核酸抽出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する核酸抽出装置は、カオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを捕捉する、同極同士が隣り合う複数の磁石からなる磁力体と、磁力体を覆う磁力体カバーを有する。また、別の核酸抽出装置は、カオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを捕捉する磁力体と、磁力体を覆う磁力体カバーと、磁力体を支持する磁力体支持部を有し、該磁力支持部は窪みを有する磁性体から成り、前記該窪みに前記磁力体を支持する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る集磁構造体及びこれを使用した核酸抽出装置により、磁石近傍の磁力線密度を大きくし、磁性ビーズの捕捉を効率的に実施でき、核酸やタンパク質といった生物学的分子を効率的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明を適用した集磁構造及び集磁構造を有するノズルに着脱する磁性体棒の平面図である。
【図2】磁力線の分布を模式的に示す図である。
【図3】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図4】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図5】本発明を適用した集磁構造及び集磁構造を有するノズルに着脱する磁性体棒の平面図である。
【図6】磁力線の分布を模式的に示す図である。
【図7】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図8】本発明を適用した集磁構造の偏心を示す平面図である。
【図9】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図10】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図11】本発明を適用した集磁構造を示す平面図である。
【図12】本発明を適用した核酸抽出装置の一例を模式的に示す斜視図である。
【図13】核酸抽出装置に使用される反応容器の斜視図である。
【図14】反応容器の上面図である。
【図15】反応容器の断面図である。
【図16】核酸抽出装置におけるノズルの平面図である。
【図17】ノズルに着脱するディスポーザブルチップの平面図である。
【図18】ノズルに着脱する磁性体棒カバーの平面図である。
【図19】核酸抽出装置におけるカバー着脱機構と反応容器とを示す斜視図である。
【図20】本発明を適用した核酸抽出方法において反応容器に各種液体を分注する段階を示す反応容器の断面図である。
【図21】本発明を適用した核酸抽出方法において反応容器に磁性ビーズを分注する段階を示す反応容器の断面図である。
【図22】本発明を適用した核酸抽出方法において磁性ビーズを捕捉する段階を示す反応容器の断面図である。
【図23】本発明を適用した核酸抽出方法において磁性ビーズを移動する段階を示す反応容器の断面図である。
【図24】本発明を適用した核酸抽出方法において捕捉した磁性ビーズを取り外す段階を示す反応容器の断面図である。
【図25】本発明を適用した核酸抽出方法において捕捉した磁性ビーズを取り外す段階のノズルとカバー着脱機構を示す要部斜視図である。
【図26】本発明を適用した核酸抽出方法において磁性ビーズを捕捉する段階を示す反応容器の断面図である。
【図27】本発明を適用した核酸抽出方法において磁性ビーズを溶離液に移動する段階を示す反応容器の断面図である。
【図28】本発明を適用した核酸抽出方法において磁性ビーズを溶離液に浸漬する段階を示す反応容器の断面図である。
【図29】本発明を適用した核酸抽出方法において溶離液中の磁性ビーズを回収する段階を示す反応容器の断面図である。
【図30】本発明を適用した集磁構造を用いて磁性ビーズの捕捉実験を行った結果を示すグラフである。
【図31】本発明を適用した磁性体棒カバーの外径と反応部内径の比による液面変化を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る集磁構造及びこれを用いた核酸抽出装置,核酸抽出方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
反応容器内部で動作するカバーに覆われた集磁構造を、複数の磁石の同極同士(N極とN極あるいはS極とS極)が隣り合うように磁石支持体に固定した集磁構造体を先端部に取り付けたものとする。このような集磁構造とすることで、磁性ビーズの集磁に寄与する磁力線を、隣り合う磁石の磁極外周近傍に集中させることができ、集磁構造体の体積増加を最小限に留めつつ、大きい磁力を発生させることが可能となる(第1の集磁構造)。
【0016】
反応容器内部で動作するカバーに覆われた集磁構造を、磁石のN極あるいはS極どちらかの極を、窪みを有する円柱状あるいは多角柱状の磁性体からなる磁石支持体に固定し、窪みを有する磁石支持体の開口側の端面を、磁石の固定面とは反対側の極に近接させた集磁構造体を先端部に取り付けたものとする(第2の集磁構造)。このような集磁構造とすることで、磁性ビーズの集磁に寄与する磁力線を磁石支持体開口側に集中させることができ、集磁構造体の体積増加を最小限に留めつつ、磁力を3〜5倍に強化することが可能となる。
【0017】
上記集磁構造体を先端部に取り付けた磁性チップ及び磁性チップの外周を覆う磁性チップカバーによって反応容器の複数の反応部の間で磁性ビーズを移動させると共に、磁性チップ,磁性チップカバー及び反応容器の複数の反応部に対して溶液を分注する分注チップが着脱可能なノズルを有するノズル機構を組み合わせることで、磁性ビーズのロスなく核酸抽出工程で用いる薬剤の残存量を低減させ、かつコンタミネーションを低減できる核酸抽出装置を実現することが可能となる。以下、具体的に説明する。
【0018】
〔第1の集磁構造〕
図1は、本発明を適用した集磁構造の実施形態を示す平面図である。集磁構造42は、磁性体棒41の先端に形成されており、複数の円柱状の磁石44a・44b・44c及びこれらの磁石44a・44b・44cを離間した状態で保持する磁石支持体45とで構成される。複数の磁石44a・44b・44cは円柱長手方向(磁性体棒41の長手方向)にその磁極を有しており、その同極同士(N極とN極あるいはS極とS極)が隣り合うように磁石支持体45に固定されている。
【0019】
図1では磁石が3個(一番上の磁石44a,中央の磁石44b,一番下の磁石44c)固定された例が示されているが、磁石の数は複数であればよく、3個に限定されるものではない。一番上の磁石44aの上面側の極44dがS極の場合、下面側の極44eはN極となるため、中央の磁石44bは上面側の極44fがN極となるように配置(つまり下面側の極44gがS極となる)し、一番下の磁石44cは上面側の極44hがS極となるように配置(つまり下面側の極44iがN極となる)される。この結果、一番上の磁石44aと中央の磁石44bの間ではN極同士が隣り合い、中央の磁石44bと一番下の磁石44cの間ではS極同士が隣り合うことになる。磁石支持体45は非磁性体であり、複数の磁石が反発力によって移動しないようにしっかりと磁石(図1では3つの磁石44a,44b,44c)を固定することができる。このような集磁構造とすることで、磁性ビーズの集磁に寄与する磁力線を、隣り合う磁石の磁極外周近傍46に集中させることができ、集磁構造体の体積増加を最小限に留めつつ、大きい磁力を発生させることが可能となる。
【0020】
図2(a)は、磁石44単独での磁力線の分布を、図2(b)は本発明の集磁構造における磁力線の分布を一番上の磁石44aの上面側の極44dがS極である場合について模式的に示したものである。磁石44が同じ材料,同じ大きさであれば、磁石から出る磁力線の本数は同じである。図2(a)の場合は、磁力線が空間に広く伸びるため、広範囲に渡って磁力の影響を及ぼすことが可能であるが、それに伴って磁束密度が小さくなるため、磁力は小さくなってしまう。一方、図2(b)の場合は、隣り合う磁石の磁極外周近傍46に集中させることができ、磁力の影響が及ぶ範囲は図2(a)の場合に比べて狭くなるものの、磁力の影響が及ぶ範囲において磁束密度を大きく、すなわち磁力を大きくすることが可能となる。本発明の集磁構造は、後に詳述する反応容器内の限られた領域で用いられるため、限られた範囲に磁力線を集中させる図2(b)の磁力線分布の方が効率良く磁性ビーズを回収することが可能となる。
【0021】
図1では、磁石44及び磁石支持体45の断面が円形である例を示したが、磁石44及び磁石支持体45の断面は多角形でも構わない。また、図1では磁石44及び磁石支持体45の断面が相似形の場合を示したが、必ずしも相似形に限定されるものではない。
【0022】
さらに、図1は隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が非磁性体である磁石支持体45と同じ材料で充填された例を示したが、図3(a)に示すように隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が空隙47であっても、図3(b)に示すように隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が磁石支持体45とは異なる材料である非磁性体48であっても、あるいは図3(c)に示すように隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が磁性体49であってもかまわない。
【0023】
図2(c)は隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が空隙47である場合の磁力線の分布を一番上の磁石44aの上面側の極44dがS極である場合について模式的に示したものである。磁力線の分布は図2(b)と似たものとなる。また、隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が磁石支持体45とは異なる材料である非磁性体48の場合も、磁力線の分布は図2(b)と似たものとなる。
【0024】
図2(d)は隣り合う3つの磁石44a,44b,44cの間が磁性体49である場合の磁力線の分布を一番上の磁石44aの上面側の極44dがS極である場合について模式的に示したものである。この場合、磁性体49は誘導磁化により、上側磁性体の上面49a及び下面49bはS極、上側磁性体の側面49cはN極、下側磁性体の上面49d及び下面49eはN極、下側磁性体の側面49fはS極に磁化されるため、磁性ビーズの回収に寄与する集磁構造42の外側における磁束線分布はやはり図2(b)と似たものとなる。
【0025】
なお、反応部の溶液高さが極めて小さい場合には、集磁構造42を液面高さよりも低くする必要性から、磁性体棒カバー51の先端と集磁構造42をできる限り近づける必要が生じる。磁性体棒カバー51の先端が曲率を有する場合は、その曲率に応じて、図4に示すように3つの磁石44a,44b,44cのそれぞれの径d1,d2,d3を、磁性体棒カバー51の先端に向かうにつれてd1>d2>d3となるように小さくすることで、磁性体棒カバー51の先端と集磁構造42を近づけることが可能となる。
【0026】
〔第2の集磁構造〕
図5は、本発明を適用した別の集磁構造の実施形態を示す平面図である。集磁構造142は、磁石144の先端に形成されており、円柱状の磁石144及び磁石支持体145とで構成される。磁石支持体145は開口部145b,内壁145c,底面145aで構成される窪みを有する磁性体であり、その内部に磁石144が格納される。磁石支持体145の窪み内径145eは磁石144の直径144eよりも大きく、磁石側面144cと磁石支持体の窪み内壁145cの間には空隙146が形成される。磁石144は円柱長手方向にその磁極を有しており、その磁石支持体底面側の極144aは磁石支持体の窪み底面145aに固着される。なお、磁石144のもう一方の極である磁石支持体開口側の極144bは、その端部144dが、磁石支持体145の開口部内壁端部145dに近接するように、磁石144の長さ144fを設計しておく。もちろん、磁石144の長さを基準にして磁石支持体145の窪みの深さを合わせ込んでも構わない。このような構造にすることで、磁石支持体開口部145bの極が磁石支持体底面側の極144aと同極になり、磁力線を磁石支持体の窪み開口部145bに集中させることができ、磁力を3〜5倍に強化することが可能となる。
【0027】
図6(a)は、磁石144単独での磁力線の分布を、図6(b)は本発明の第2の集磁構造における磁力線の分布を磁石の磁石支持体底面側の極144aがS極、磁石の磁石支持体開口側の極144bがN極である場合について模式的に示したものである。磁石144が同じ材料,同じ大きさであれば、磁石から出る磁力線の本数は同じである。図6(a)の場合は、磁力線が空間に広く伸びるため、広範囲に渡って磁力の影響を及ぼすことが可能であるが、それに伴って磁束密度が小さくなるため、磁力は小さくなってしまう。一方、図6(b)の場合は、磁石支持体の窪み開口部145bに磁力線を集中させることができ、磁力の影響が及ぶ範囲は図6(a)の場合に比べて狭くなるものの、影響が及ぶ範囲において磁束密度を大きく、すなわち磁力を大きくすることが可能となる。本発明の集磁構造は、後に詳述する反応容器内の限られた領域で用いられるため、限られた範囲に磁力線を集中させる図6(b)の磁力線分布の方が効率良く磁性ビーズを回収することが可能となる。
【0028】
図5では、磁石144及び磁石支持体145の断面が円形である例を示したが、磁石144及び磁石支持体145の断面は多角形でも構わない。一例として、図7に磁石144及び磁石支持体145の断面が方形である例を示した。また、図5及び図7は磁石144及び磁石支持体145の断面が相似形である場合を示したが、必ずしも相似形に限定されるものではない。
【0029】
ところで、磁石支持体145の内部に空隙146を介して磁石144を格納する場合、図8に示すように、磁石144と磁石支持体145が同心状には配列せず、磁石144が偏心して磁石支持体145に接触し、空隙146が場所によって不均一になってしまう場合がある。
【0030】
図6(c)は本発明の集磁構造において、磁石144が偏心した場合の磁力線の分布を、磁石の磁石支持体底面側の極144aがS極、磁石の磁石支持体開口側の極144bがN極である場合について模式的に示したものである。図6(b)のように、磁石に偏心が無い場合と比較すると、空隙が大きくなった部位146aでは磁力線の空間への広がりが大きくなり、磁束密度が小さくなる。しかし、図6(a)の磁石144単独の場合よりも磁束密度は大きいため、磁性ビーズの回収効率を高めることができる。
【0031】
一方、空隙が小さい部位146bでは磁束密度が大きくなるものの、磁力線の空間への広がりが小さくなり、ほとんど磁性ビーズの回収に寄与できなくなる恐れがある。一般に、磁石144や磁石支持体145などの機械加工部品は、面取りと呼ばれる端部切除処理が施されるため、図8に示すように端部を拡大すると、磁石の磁石支持体開口側端部144d及び磁石支持体の窪み開口部内壁端部145dにはそれぞれの切除部144g,145gがあり、磁石の磁石支持体開口側端部144dと磁石支持体の窪み開口部内壁端部145dは直接接触しない。磁石の磁石支持体開口側端部144d及び磁石支持体の窪み開口部内壁端部145dの切除部144g,145gを大きくすれば、磁石144が偏心しても磁力線をある程度近傍の空間に広げることができる。したがって、空隙の小さい部位146bでも、切除部を設けることで磁性ビーズの回収効率を高めることが可能となる。図8では磁石の磁石支持体開口側端部144d及び磁石支持体の窪み開口部内壁端部145dを45度の角度で直線状に切除した例を示したが、切除部の形状はこれに限定されるものではない。
【0032】
以上のように、磁石144と磁石支持体145が偏心しても本発明の効果は得られるものであるが、磁力を最も効率的に強化するためには空隙146が均一であることが望ましい。図9は、磁石144と磁石支持体145の偏心という課題を解決するために空隙146を非磁性体147で充填した集磁構造の実施形態である。非磁性体147は、中空円筒状のものを空隙に挿入しても構わないし、磁石144を磁石支持体145の内部に格納した後に液状の樹脂などを流し込んで固化させても構わない。このような構造にすることで、空隙の均一化が図れ、磁力を効率よく強化することが可能となる。
【0033】
また磁石144が極めて小さい場合には、窪みを有する円柱状あるいは多角柱状の磁性体からなる磁石支持体145を作成したり、その内部に磁石144を格納したりすることが困難になる場合がある。このような場合には、磁石支持体145を、図10に示すように板状の磁性体を折り曲げて作成しても構わないし、もっと簡単に、図11に示すように、折り曲げ箇所を2箇所としても構わない。磁石支持体145を図11のような形状にすれば、磁石144は磁石支持体145の側方から挿入して格納することが可能となり、より安価な集磁構造142を実現することができる。なお、図5に示す磁石支持体145は、断面が全周に渡って完全に閉じていないものでもよい。
【0034】
さて、本発明の集磁構造を有する核酸抽出装置は、図12に示すように、載置台1の一面における所定の位置に複数の反応容器2を取り付け、反応容器2を用いて生物学的試料に対して様々な処理を実施するものである。核酸抽出装置は、載置台1と、複数の試薬瓶を収容できる試薬ラック3と、処理対象の生物学的試料を充填した試料容器を収容できる検体ラック4と、複数の磁性体棒を収容した磁性体棒ラック5と、複数の磁性体棒カバーを収容したカバーラック6と、複数のディスポーザブルチップを収容したチップラック7と、廃棄物を捨てるための廃棄物用容器8と、載置台1の一面に対向する位置において移動自在に配置されたノズル機構9と、ノズル機構9の移動及び位置決めを制御する駆動制御装置10とを備えている。また、図示しないが、核酸抽出装置は、処理条件や生物学的試料に関する情報、その他の各種情報を入力するためのコンピュータを備えている。
【0035】
ここで、生物学的試料とは、特に限定されないが、ヒトを含む動物から採取された血液,血漿,血清,組織片,体液及び尿といった生体試料;動物細胞,植物細胞及び昆虫細胞といった細胞;細菌,真菌及び藻類等の微生物;ウイルス(ウイルス感染細胞を含む)を包含する意味である。また、生物学的試料とは、これら細胞,微生物及びウイルスを培養した培養液、これら細胞,微生物及びウイルスを懸濁した懸濁液を含む意味である。また、これら生物学的試料には、核酸抽出装置による分離抽出や精製の対象となる生物学的分子が含まれている。ここで、生物学的分子とは、DNAやRNA等の核酸,酵素や抗体等のタンパク質,ペプチド断片を意味する。なお、核酸抽出装置は、分離抽出や精製の対象を核酸やタンパク質,ペプチド断片に限定するものではなく、細胞や微生物が産生する化合物(有機化合物や低分子化合物を含む)を生物学的分子として分離抽出や精製の対象とすることができる。
【0036】
核酸抽出装置において反応容器2は、図13〜図15に示すように、全体が略箱型を呈しており、内部に各種試薬を分注するための複数の反応部2la〜2ldを有している。複数の反応部2la〜2ldは、所定の容積となるように窪み部として形成されている。なお、本例では、反応部21dは、反応部21a〜2lcの容積よりも小となるように、浅い窪み部として形成されている。なお、反応容器2において、反応部の数及び各反応部の容積は特に限定されず、生物学的試料に対する処理の内容に応じて適宜設定することができる。また、核酸抽出装置には、生物学的試料に対する処理の内容に応じて、反応部の数や各反応部の容積が異なる種類の反応容器2を取り付けることができる。
【0037】
また、反応容器2は、複数の反応部2la〜2ldにおける開口端の上方に、側壁によって固まれた空間部22を有している。すなわち、反応容器2は、四方の側壁と複数の反応部2la〜2ldの開口端が臨む一面とから構成される空間部22を有している。さらに、反応容器2は、ノズル機構9に取り付けられた磁性体棒カバーを着脱するためのカバー着脱機構23を備えている。
【0038】
カバー着脱機構23は、磁性体棒カバーを保持するための上部押さえ板24及び下部押さえ板25を有している。上部押さえ板24及び下部押さえ板25は、所定の間隔をもって互いに略平行に配置されている。また、上部押さえ板24及び下部押さえ板25には、複数の反応部2la〜2ldのそれぞれに対向し、磁性体棒カバーの外形寸法に合わせた形状の切り欠き部26が形成されている。切り欠き部26は、反応容器2を上方から見たときに反応部2la〜2ldの開口部の内方に臨む位置に端面が位置するように形成されている。
【0039】
核酸抽出装置においてノズル機構9は、図16に示すようなノズル31を1つあるいは複数備えている。ノズル機構9は、少なくとも反応容器2の数以上の数のノズル31を備えている。言い換えれば、核酸抽出装置において、ノズル31の個数以下の反応容器2を配設することができる。より具体的には、ノズル31は例えば8連〜12連程度までの並列化が可能である。ノズル31を並列化することで、単位時間当たりの処理能力(スループット)を向上させることが可能となる。
【0040】
ノズル31は、図示しないが、内部が筒状となっておりポンプ手段等の吸引・吐出駆動装置と接続されている。ノズル31は、最も小径の先端部32,先端部32よりも大径の中途部33を有している。
【0041】
ノズル31の先端部32には、図17に示すディスポーザブルチップ35及び図1に示す磁性体棒41を選択的に装着することができる。以下、説明の便宜上、図1に示す磁性体棒41を例に挙げて説明するが、図5に示す磁性体棒141でも良い。ディスポーザプルチップ35及び磁性体棒41は、それぞれ基端部の内径がノズル31の先端部32とほぼ同径となっており、また先端に向かって小径となるような形状となっている。よって、ディスポーザブルチップ35及び磁性体棒41は、基端部からノズル31の先端部32を挿入することでノズル31に嵌め込むことができる。
【0042】
また、ディスポーザブルチップ35は、基端部にフリンジ部36を有している。磁性体棒41は、先端に本発明の集磁構造42を有しており、基端部にフリンジ部43を有している。
【0043】
一方、ノズル31の中途部33には、図18に示す磁性体棒カバー51を装着することができる。磁性体棒カバー51は、基端部の内径がノズル31の中途部33とほぼ同径となっており、また先端に向かって小径となるような形状となっている。よって、磁性体棒カバー51は、基端部からノズル31の中途部を挿入することでノズル31に嵌め込むことができる。また、磁性体棒カバー51は、基端部にフリンジ部52を有している。
【0044】
なお、これらディスポーザブルチップ35,磁性体棒41(磁石44を除く部分)及び磁性体棒カバー51は、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネートなどの樹脂を使用して作製することができる。
【0045】
なお、ノズル機構9は、図示しないが、先端部32や中途部33に取り付けられたディスポーザブルチップ35,磁性体棒41及び磁性体棒カバー51を取り外すための取外し機構を備えていることが好ましい。取外し機構としては、例えば、ディスポーザブルチップ35のフリンジ部36,磁性体棒41のフリンジ部43及び磁性体棒カバー51のフリンジ部52を下方に押し下げる押圧部を採用することができる。
【0046】
核酸抽出装置において試薬ラック3は、複数の試薬瓶を収容できる箱形を呈している。試薬ラック3には、生物学的試料に対して実施する具体的な処理内容によって異なる試薬瓶を収容することができる。例えば、生物学的試料から核酸成分を抽出する処理を実施する場合には、カオトロピック剤を含有する溶液の試薬瓶,洗浄液の試薬瓶,溶離液の試薬瓶等を試薬ラック3に収容することができる。また試薬ラック3には、同種の試薬瓶がノズル機構9に備わった複数のノズル31の数と同数収容されていてもよい。この場合、同種の試薬瓶は、複数のノズル31の間隔と合致するように配置される。
【0047】
核酸抽出装置において検体ラック4は、異なる又は同一の生物学的試料を充填した複数の検体チューブを収容できる箱形を呈している。検体ラック4には、複数の検体チューブが複数のノズル31の間隔と合致するように配置される。
【0048】
核酸抽出装置において磁性体棒ラック5は、図1に示した複数の磁性体棒41を収容する複数の開口部を有している。この開口部は、磁性体棒41の外径よりやや大であり、且つフリンジ部43よりやや小となる径を有している。また、これら複数の開口部は、複数のノズル31の間隔と合致するように配置されている。すなわち、複数の開口部の中心間隔が複数のノズル31の先端部の中心間隔と略等しくなるよう、ノズルと同数又はその倍数の開口部が並列し、複数段にわたってこれら開口部の列が形成されている。
【0049】
核酸抽出装置においてカバーラック6は、図18に示した複数の磁性体棒カバー51を収容する複数の開口部を有している。この開口部は、磁性体棒カバー51の外径よりやや大であり、且つフリンジ部52よりやや小となる径を有している。また、これら複数の開口部は、複数のノズル31の間隔と合致するように配置されている。すなわち、複数の開口部の中心間隔が複数のノズル31の先端部の中心間隔と略等しくなるよう、ノズルと同数又はその倍数の開口部が並列し、複数段にわたってこれら開口部の列が形成されている。
【0050】
核酸抽出装置においてチップラック7は、図17に示した複数のディスポーザブルチップ35を収容する複数の開口部を有している。この開口部は、ディスポーザブルチップ35の外径よりやや大であり、且つフリンジ部36よりやや小となる径を有している。また、これら複数の開口部は、複数のノズル31の間隔と合致するように配置されている。すなわち、複数の開口部の中心間隔が複数のノズル31の先端部の中心間隔と略等しくなるよう、ノズルと同数又はその倍数の開口部が並列し、複数段にわたってこれら開口部の列が形成されている。
【0051】
核酸抽出装置において廃棄物用容器8は、使用済みのディスポーザブルチップ35,磁性体棒41及び磁性体棒カバー51や、処理後の生物学的試料,洗浄液等を廃棄する容器であり箱形を呈している。なお、廃棄物用容器8は、図示しないが、ノズル31の先端部32や中途部33に取り付けられたディスポーザブルチップ35、及び磁性体棒カバー51を取り外すための取外し機構を備えていることが好ましい。取外し機構としては、例えば、ディスポーザブルチップ35のフリンジ部36及び磁性体棒カバー51のフリンジ部52に当接し、ノズル31を上方に駆動することでこれらフリンジ部36及び52を下方に押し下げる押圧板を採用することができる。なお、取外し機構は、ノズル機構9及び廃棄物用容器8のうちいずれか一方に備わっていればよい。
【0052】
核酸抽出装置において駆動制御装置10は、図示しないが、モータ等の動力源、動力源からの動力を伝達するギア機構及びアーム等からなる駆動機構と、上述したノズル機構9を図12中のX軸,Y軸及びZ軸に沿って移動及びZ軸を中心として回動させる制御信号を当該駆動機構に出力する制御基板とを備えている。なお、制御基板には、図示しないコンピュータで操作者が設定した各種条件が入力される。
【0053】
ところで、本発明は、上述した構成の核酸抽出装置に限定されるものではない。上述した核酸抽出装置は、カバー着脱機構23を有する反応容器2を載置台1に取り付ける構成であった。しかしながら、核酸抽出装置は、反応容器2を取り付ける位置にカバー脱着機構23を備えてもよい。すなわち、核酸抽出装置がカバー着脱機構23を有する構成であってもよい。具体的には、図19に示すように、核酸抽出装置は、載置台1の一面における反応容器2を取り付ける位置に、カバー脱着機構23を備えるカバー保持部61を備えている。カバー保持部61は、断面L字状の一対の側面62と、一対の側面62により所定の高さに位置するカバー脱着機構23とから構成されている。カバー保持部61は、図示しないが、載置台1に対して着脱自在となるような機構を有していても良い。また、カバー保持部61を有する核酸抽出装置においては、カバー脱着機構23を有しない以外は同様な構成を有する反応容器2を使用する。また、核酸抽出装置は、複数の反応容器2を取り付ける場合、各反応容器2に対応する複数のカバー保持部61を備えることとなる。
【0054】
また、カバー保持部61は、カバー脱着機構23を上下方向(図12に示したZ軸方向)に移動,位置決めできるように構成しても良い。この場合、一対の側面62の互いに対向する面に、上下方向に平行な複数の凹溝を形成し、凹溝に沿ってカバー脱着機構23を上下方向に移動させることができる。また、この場合、カバー脱着機構23を一対の側面62に固定するため、ピン等の固定手段を有していることが好ましい。
【0055】
以上のように構成された核酸抽出装置は、生物学的試料に対する様々な処理を実施することができる。以下では、生物学的試料から核酸成分を抽出する処理を実施する形態を例として核酸抽出装置を説明する。具体的には、核酸抽出装置は、核酸及びその他の不純物を含有する試料にカオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを混合し、当該磁性ビーズの表面へ核酸を吸着させ、核酸を吸着した磁性ビーズを分離し、洗浄した後に磁性ビーズから核酸を溶離する核酸抽出を実施する。
【0056】
より具体的には、先ず、図20に示すように、反応部21aに処理対象の生物学的試料とカオトロピック剤や界面活性剤を含む溶液、反応部21b及び21cに洗浄液、反応部21dに溶離液を分注する。これら溶液を反応部21a〜2ldに分注する際には、ノズル機構9のノズル31にディスポーザブルチップ35を取り付ける。ディスポーザブルチップ35をノズル31に取り付けるには、先ず、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を、チップラック7に収容されたディスポーザブルチップ35の基端部の中心とノズル31の先端部32とが正確に対向する位置に移動させる(X軸及びY軸方向の移動)。次に、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を下方(Z軸)に移動させることによって、ノズル31の先端部32にディスポーザブルチップ35を取り付けることができる。以上の一連の動作により、ノズル機構9が有する複数のノズル31の全てにディスポーザブルチップ35を取り付けることができる。
【0057】
そして、ディスポーザブルチップ35を取り付けた状態で、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を試薬ラック3の上方に移動し、試薬瓶の内部にディスポーザブルチップ35の先端を挿入し、図示しないポンプ手段等の吸引・吐出駆動装置により所定量の溶液を吸引する。このとき、所定の試薬瓶をノズル31の数と同数準備して試薬ラックに並列させることで、複数のディスポーザブルチップ35の全てに同時に溶液を吸引することができる。
【0058】
その後、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を反応容器2の上方に移動し、ディスポーザブルチップ35の先端を所定の反応部21a〜2ld上に位置決めする。この状態で吸引・吐出駆動装置が作動し、ディスポーザブルチップ35に吸引した溶液を所定の反応部21a〜2ld内に分注することができる。溶液を分注し終わると、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を廃棄物用容器8の上方に移動し、ノズル機構9又は廃棄物用容器8に取り付けられた取外し機構を作動させて、使用済みのディスポーザブルチップ35を廃棄する。
【0059】
以上の一連の動作は、洗浄液や溶離夜,カオトロピック剤や界面活性剤を含む溶液を分注する際に共通する動作である。なお、生物学的試料の分注については、検体ラック4に収容された検体チューブから所定量の生物学的試料を吸引する以外は、以上の一連の動作により実施される。また、洗浄液,溶離液,生物学的試料及びカオトロピック剤や界面活性剤を含む溶液を分注する際には、それぞれ異なるディスポーザブルチップ35が使用される。
【0060】
次に、図21に示すように、処理対象の生物学的試料が分注された反応部21aに対して、シリカコーティングされた磁性ビーズ55を分注する。なお、磁性ビーズ55は、予め反応部21aに分注されていても良いし、磁性ビーズを分散した溶液を上述したノズル機構9の動作と同様にして、反応部21aに分注しても良い。また、図20に示した段階で生物学的試料を分注したが、生物学的試料は磁性ビーズ55とともに或いは順次この段階で分注されても良い。
【0061】
ここで、磁性ビーズ55とは、例えば、バイオテクノロジーの分野で従来使用されている磁性体としての特徴を有するビーズであれば如何なる材質,形状及び粒径のものを使用することができる。また、核酸抽出装置において核酸抽出処理を実施する場合は、核酸吸着能を有する磁性ビーズ55を使用する。核酸吸着能は、磁性体からなるビーズの表面をシリカコーティングすることによって付与することができる。
【0062】
この段階では、反応部21aにカオトロピック剤が存在するため、生物学的試料に含まれていた核酸成分がシリカコーティングされた磁性ビーズ55の表面に吸着する。また、この段階では、反応部21aの内部を攪拌しても良い。反応部21aの内部を攪拌するには、例えば、反応容器2の外部から磁界を周期的に印加することで磁性ビーズ55を内部で移動させる方法、又は、ノズル31にディスポーザブルチップ35や磁性体棒カバー51を取り付け、駆動制御装置10でノズル機構9を制御してノズル31に取り付けたディスポーザプルチップ35や磁性体棒カバー51を反応部21a内部で回転若しくは揺動させる方法を使用することができる。
【0063】
次に、図22に示すように、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51をノズル31に取り付け、反応部21a内の磁性ビーズ55を磁性体棒カバー51の先端部に捕捉する。この段階において、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51をノズル31に取り付けるには、上述した駆動制御装置10でノズル機構9を制御してノズル31にディスポーザブルチップ35を取り付ける動作と同様である。また、磁性体棒カバー51は、磁性体棒41をノズル31の先端部32に取り付けた後、ノズル31の中途部33に取り付ける。また、この段階では、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51の先端部を反応部21a内において回動,揺動若しくは上下動させることで、磁性体棒カバー51の先端部に磁性ビーズ55を確実に捕捉することができる。磁性体棒41及び磁性体棒カバー51の先端部を反応部21a内において回動,揺動若しくは上下動させるには、駆動制御装置10でノズル機構9を制御することで実施できる。
【0064】
次に、図23に示すように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御し、磁性ビーズ55を捕捉した状態で、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51の先端部を反応部21aから反応部21bに移動させる。このとき、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51は、カバー着脱機構23に接触しないよう空間部22内部を移動することとなる。
【0065】
次に、図24に示すように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御し、カバー着脱機構23を利用して、磁性ビーズ55を磁性体棒カバー51の先端部から取り外す。磁性ビーズ55を捕捉した状態で磁性体棒カバー51を反応部21bに挿入する工程から、磁性ビーズ55を磁性体棒カバー51の先端部から取り外す動作を図25(a)〜(d)に示す。
【0066】
先ず、図25(a)に示すように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御し、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51を取り付けたノズル31の先端を反応部21b内部に挿入する(Z軸の下方向)。
【0067】
次に、図25(b)に示すように、磁性体棒41及び磁性体棒カバー51を取り付けたノズル31の先端を反応部21b内部から引き上げる(Z軸の上方向)。
【0068】
次に、図25(c)に示すように、磁性体棒カバー51のフリンジ部52がカバー着脱機構23の上部押さえ板24及び下部押さえ板25の間に位置するまでノズル31を引き上げ、切り欠き部26に磁性体棒カバー51を嵌め込むように移動させる(Y軸方向)。この移動により、磁性体棒カバー51のフリンジ部52は、上部押さえ板24及び下部押さえ板25の間に挿入されるとともに係止されることとなる。なお、切り欠き部26は、反応容器2を上方から見たときに反応部21a〜21dの開口部の内方に臨む位置に端面が位置するように形成されている。したがって、切り欠き部26に磁性体棒カバー51を嵌め込む動作において、磁性体棒カバー51の周面が反応部21bの側面に接触せず、安定して嵌め込むことができる。
【0069】
次に、図25(d)に示すように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御し、ノズル31を更に上方に引き上げる(Z軸の上方向)。この引き上げ動作により、ノズル31に取り付けられた磁性体棒カバー51のフリンジ部52上面が上部押さえ板24により係止され、ノズル31から磁性体棒カバー51のみが離間することとなる。ノズル31に取り付けられた磁性体棒41は、ノズル31とともに上方に引き上げられるため、磁性体棒カバー51の先端に捕捉された磁性ビーズは先端から外れ、反応部21bの底面へと沈降していく(図24)。このように、カバー着脱機構23を使用することによって、上記磁性体棒カバー51の先端部が反応部21a〜21dに挿入された状態で、ノズル31から磁性体棒カバー51を取り外すとともに磁性体棒カバー51を保持することができる。
【0070】
以上のように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御するだけで、反応部21a内の磁性ビーズ55を反応部21bへと移動させることができる。この動作では、反応部21aからの溶液の抜き取りといった工程が不要であり、非常に簡便に磁性ビーズ55を移動できる。
【0071】
なお、図24に示した状態で、磁性ビーズ55は、反応部21bに分注された洗浄液により洗浄することができ、生物学的試料に由来するタンパク質等の不純物を磁性ビーズ55の表面から除去することができる。この段階で、洗浄効果をより高めるため反応部21b内部の洗浄液を攪拌しても良い。反応部21bの内部を攪拌するには、例えば、反応容器2の外部から磁界を周期的に印加することで磁性ビーズ55を内部で移動させる方法、又は、ノズル31に取り付けられた磁性体棒41を取り外した後、カバー着脱機構23に保持された磁性体棒カバー51をノズル31に再び装着し、磁性体棒カバー51を反応部21b内部で回転若しくは揺動させる方法を使用することができる。なお、磁性体棒カバー51をノズル31に取り付ける動作は、図25(a)〜(d)に示した一連の動作の逆の動作を実施すればよい。
【0072】
次に、図26に示すように、反応部21bにて洗浄された磁性ビーズ55を再び磁性体棒カバー51の先端に捕捉する。この段階は、図22に示した段階と同様に、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御することで実施できる。
【0073】
次に、磁性体棒カバー51の先端に捕捉した磁性ビーズ55を反応部21cにおいて2回目の洗浄を実施し(図示せず)、図27に示すように、磁性体棒カバー51の先端に捕捉された磁性ビーズ55を溶離液が分注された反応部21dへ移動させる。この段階は、図23に示した段階と同様に、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御することで実施できる。
【0074】
次に、図28に示すように、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御し、カバー着脱機構23を利用して、磁性ビーズ55を磁性体棒カバー51の先端部から取り外す。この段階は、図25に示した段階と同様に、駆動制御装置10によってノズル機構9を駆動制御することで実施できる。この段階では、磁性ビーズ55の表面に吸着した核酸成分を溶離液中に溶離させることができる。
【0075】
最後に、図29に示すように、溶離液中の磁性ビーズ55を、図26に示した段階と同様に、磁性ビーズ40を再び磁性体棒カバー51の先端に捕捉する。そして、駆動制御装置10による制御によりノズル機構9を廃棄物用容器8の上方に移動し、ノズル機構9又は廃棄物用容器8に取り付けられた取外し機構を作動させて、先端に磁性ビーズ55を捕捉した状態で磁性体棒カバー51を廃棄する。
【0076】
以上で説明したように、核酸抽出装置を用いた核酸抽出方法では、磁性ビーズ55を磁性体棒カバー51の先端に捕捉して各反応部21a〜2ldへと移動させている。チップを用いて磁性ビーズ55を含む溶液から不要な溶液を吸引したり、必要な溶液を吐出する従来の方法では、不要な溶液を吸引する際に磁性ビーズも一緒に吸引してしまう結果、磁性ビーズをロスしてしまうといった問題があった。しかし、上述した核酸抽出装置を用いた核酸抽出方法では、磁性ビーズ55のロスといった問題が生ずることなく、抽出効率の高い核酸抽出処理を実現することができる。
【0077】
さて、隣り合う磁石の同極同士が隣接するように、つまり磁石が反発しあうように磁石支持体45に複数の磁石44を固定した本発明の集磁構造42を先端部に持つ磁性体棒41で磁性ビーズ55の捕捉を行った場合と、隣り合う磁石の異なる極が隣接する、つまり磁石が引きつけ合うように磁石支持体45に複数の磁石44を固定した集磁構造を先端部に持つ磁性体棒41で磁性ビーズ55の捕捉を行った場合の、磁性ビーズ55の捕捉の効率を比較した結果を図30に示す。東洋紡社製の核酸抽出試薬を用い、カオトロピック剤を含む核酸抽出試薬1ミリリットル中に、核酸抽出に用いる磁性ビーズ50マイクロリットルを加えて、本発明による核酸抽出装置を用いて磁性ビーズの捕捉実験を行った。溶液の濁度(波長600nmでの吸光度)を測定し、磁性ビーズを加える前の溶液の濁度と捕捉実施前の濁度とを基準として磁性ビーズの残存率を算出した。グラフ中、丸のプロットが本発明の隣り合う磁石の同極同士が隣接するように固定した集磁構造を用いた結果であり、四角のプロットが隣り合う磁石の異なる極が隣接するように固定した集磁構造を用いた結果である。同極同士が隣接するように固定した集磁構造が25秒程度の集磁時間で溶液中の磁性ビーズをほとんど捕捉できているのに対し、異なる極同士が隣接するように固定した集磁構造は、同じ集磁時間では半分程度しか磁性ビーズを捕捉できていない。
【0078】
核酸抽出処理で使用する試薬量は高々数ミリリットルであるため、反応容器2の反応部21a〜21dもせいぜい内径10mm程度と限られた大きさになる。それ故、反応部に挿入される磁性体棒カバー51や、磁性体棒カバー内で使用する磁性体棒41はそれよりも小さな径にならざるを得ず、結果として磁石44の大きさも限られたものになる。また、溶液中の磁性ビーズを捕捉することから、集磁構造42は溶液高さよりも低くする必要がある。このような制限によって磁石は小さなものを使用せざるを得ないが、本発明による核酸抽出装置では小さな磁石であっても配置方法で磁性ビーズの捕捉効率を向上させることができる。
【0079】
さらに、核酸抽出装置では反応部21a〜21dの内部を攪拌して、磁性ビーズと核酸成分の吸着効率や、不要成分の洗浄効率を高めることができる。攪拌を効果的に行うために、図31(a),図31(b)に示すように、反応部21a(21c〜21dも同様)の内径y1と磁性体棒カバー51の外径xの比が、x/y1>0.5となるようにすることで、磁性体棒カバーを反応部21aに挿入する前の液面高さz0と、磁性体棒カバーを反応部21aに挿入した後の液面高さz1の変化を大きくすることができ、攪拌を効果的に行うことができる。これは、駆動制御装置10でノズル機構9を制御してノズル31に取り付けた磁性体棒カバー51を反応部21a〜21dに出し入れするだけで溶液面が上下し、結果として反応部21a〜21d内部の溶液を攪拌できるためである。一方、図31(c),図31(d)に示すように、反応部21a(21c〜21dも同様)の内径y2と磁性体棒カバー51の外径xの比が、x/y2≦0.5の場合は、磁性体棒カバーを反応部21aに挿入する前の液面高さz0と、磁性体棒カバーを反応部21aに挿入した後の液面高さz2の変化が小さく、駆動制御装置10でノズル機構9を制御してノズル31に取り付けた磁性体棒カバー51を反応部21a〜21dに出し入れするだけでは溶液をじゅうぶん攪拌することができない。この場合は、駆動制御装置10によってノズル機構9に攪拌のための制御を付加しなければならないことになる。以上のように、反応部21a(21c〜21dも同様)の内径y2と磁性体棒カバー51の外径xの比を工夫することで、駆動制御を簡便にでき、かつ処理速度を上げることが可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 載置台
2 反応容器
3 試薬ラック
4 検体ラック
5 磁性体棒ラック
6 カバーラック
7 チップラック
8 廃棄物用容器
9 ノズル機構
10 駆動制御装置
21a〜21d 反応部
22 空間部
23 カバー着脱機構
24 上部押さえ板
25 下部押さえ板
26 切り欠き部
31 ノズル
32 先端部
33 中途部
35 ディスポーザブルチップ
36,43,52 フリンジ部
41,141 磁性体棒
42,142 集磁構造
44,144 磁石
44a 一番上の磁石
44b 中央の磁石
44c 一番下の磁石
44d 一番上の磁石の上面側の極
44e 一番上の磁石の下面側の極
44f 中央の磁石の上面側の極
44g 中央の磁石の下面側の極
44h 一番下の磁石の上面側の極
44i 一番下の磁石の下面側の極
45,145 磁石支持体
46 隣り合う磁石の磁極外周近傍
47 隣り合う磁石間の空隙
48 隣り合う磁石間の非磁性体
49 隣り合う磁石間の磁性体
49a 上側磁性体の上面
49b 上側磁性体の下面
49c 上側磁性体の側面
49d 下側磁性体の上面
49e 下側磁性体の下面
49f 下側磁性体の側面
51 磁性体棒カバー
55 磁性ビーズ
61 カバー保持部
62 側面
144a 磁石の磁石支持体底面側の極
144b 磁石の磁石支持体開口側の極
144c 磁石側面
144d 磁石の磁石支持体開口側端部
144e 磁石直径
144f 磁石長さ
144g 磁石の磁石支持体開口側端部切除部
145a 磁石支持体の窪み底面
145b 磁石支持体の窪み開口部
145c 磁石支持体の窪み内壁
145d 磁石支持体の窪み開口部内壁端部
145e 磁石支持体の窪み内径
145g 磁石支持体の窪み開口部内壁端部切除部
146 空隙
146a 空隙が大きい部位
146b 空隙が小さい部位
147 非磁性体
x 磁性体棒カバー外径
y1,y2 反応部内径
z0,z1,z2 液面高さ
d1 一番上の磁石の外径
d2 中央の磁石の外径
d3 一番下の磁石の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを捕捉する複数の磁力体と、これらの磁力体を覆う磁力体カバーを有することを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体は、磁力体の磁極の同極同士が隣接するように、各々空隙を介して向かい合う構造であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体は、磁力体の磁極の同極同士が隣接するように、各々非磁性体を介して向かい合うように固定化された構造であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体は、磁力体の磁極の同極同士が隣接するように、各々磁性体を介して向かい合うように固定化された構造であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体は円形または多角形の断面を有する棒状の磁石であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項6】
請求項5に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体の断面が全て相似形であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項7】
請求項6に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体の断面積が、一方から他方に向かうにつれてその断面積が増加していることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項8】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
複数の磁力体が、反応容器の内容積よりも小さい体積で構成されていることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項9】
請求項1に記載の核酸抽出装置において、
反応容器の内径と、磁力体カバーの外径の比が外径/内径>0.5の関係であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項10】
カオトロピック剤存在下でシリカコーティングされた磁性ビーズを捕捉する磁力体と、磁力体を覆う磁力体カバーと、磁力体を支持する磁力体支持部を有し、該磁力支持部は窪みを有する磁性体から成り、前記該窪みに前記磁力体を支持することを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体の一方の極が前記磁力体支持部の前記窪み底部に固定されており、もう一方の極は前記磁力体支持部の前記窪みの開口側端面に近接していることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項12】
請求項11に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体の側壁と、前記磁力体支持部の前記窪みの内壁との間に空隙を有することを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体支持部の開口側端面に近接する前記磁力体の端面が切除されていることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項14】
請求項11に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体支持部の開口側端面が切除されていることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項15】
請求項12に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体の側壁と、前記磁力体支持部の前記窪みの内壁との間に非磁性体を有することを特徴とする核酸抽出装置
【請求項16】
請求項10に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体の断面及び前記磁力体支持部の断面が相似形であることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項17】
請求項10に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体支持部の側壁が全周に渡って完全に閉じてはいないことを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項18】
請求項10に記載の核酸抽出装置において、
前記磁力体支持部が、反応容器の内容積よりも小さい体積で構成されていることを特徴とする核酸抽出装置。
【請求項19】
請求項10に記載の核酸抽出装置において、
反応容器の内径と、磁力体カバーの外径の比が外径/内径>0.5の関係であることを特徴とする核酸抽出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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