説明

梁貫通孔補強装置及び梁構造

【課題】鋼材によって梁貫通孔周辺の補強を確保しつつ、耐火被覆となる被りを容易に形成することが可能であると共に、梁貫通孔周辺へのコンクリートの充填性や梁鉄筋組への良好な施工作業性、品質の高い接合性能、部品としての汎用性向上を達成することが可能であって、梁主筋の座屈防止性能と梁貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止性能も向上することが可能な梁貫通孔補強装置及び梁構造を提供する。
【解決手段】コンクリートCが流通する隙間Yを有すると共に上下方向斜め向き内縁部8aを有し、梁貫通孔5を成形する型枠9を、被り厚を隔てて包囲するための鋼製環状補強部材6と、環状補強部材の斜め向き内縁部にスライド自在に係止されるスライド係止内縁7a及び少なくともいずれかの上下梁主筋3,4にそれぞれ係止するための梁側係止内縁7bを有する環状の座屈拘束筋7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材によって梁貫通孔周辺の補強を確保しつつ、耐火被覆となる被りを容易に形成することが可能であると共に、梁貫通孔周辺へのコンクリートの充填性や梁鉄筋組への良好な施工作業性、品質の高い接合性能、部品としての汎用性向上を達成することが可能であって、梁主筋の座屈防止性能と梁貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止性能も向上することが可能な梁貫通孔補強装置及び梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の梁には、配管等を配設するために、梁幅方向に梁貫通孔が形成される。この梁貫通孔やその周囲を補強する技術として、例えば特許文献1〜特許文献3が知られている。
【0003】
特許文献1の「鉄筋コンクリート梁における開口部回りの補強構造」は、上端主筋及び下端主筋とせん断補強筋が配筋された鉄筋コンクリート造の梁に形成される開口部の回りに複数本の斜め筋を配筋する場合において、斜め筋を2本で一組とし、互いに交差させて配筋する。斜め筋の両端にフックを形成し、一方のフックを上端主筋に係合させ、他方のフックを下端主筋に係合させる。一組の斜め筋を梁の材軸に直交する鉛直断面上の中心を含む鉛直面の両側に配置し、その鉛直面の片側につき、開口部を挟んで両側に配置するようにしている。また追加的に、開口部外周にリング筋や縦筋を配筋している。
【0004】
特許文献2の「コンクリート構造体の貫通孔補強金物」は、中空筒体状でステンレス製の耐蝕金属製スリーブと、この外側に溶接接続された補強筋とからなる。補強筋は、耐蝕金属製スリーブの外周面に、その径方向外方に向かって放射状に配筋されたロッド筋と、ロッド筋間に耐蝕金属製スリーブの周方向に沿って掛け渡された環状筋と、これらが軸方向に沿って3重に並設されて、これらの間を連結接続させる横筋とから構成されている。
【0005】
特許文献3の「開口を有する鉄筋コンクリート梁の補強構造、補強方法、梁構造」は、開口を有する鉄筋コンクリート梁の補強構造を、開口の内側に鋼管が嵌挿され、鉄筋コンクリート梁のせん断補強筋が鋼管の外周面に接合されている構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−183311号公報
【特許文献2】特開平7−62793号公報
【特許文献3】特開2007−51533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、リング筋は、開口部の両端側にそれぞれ設けてあるだけなので、リング筋間に位置する開口部上方及び下方のコンクリートが早期に破壊してしまうおそれがある。また、座屈補強に関わる縦筋及び斜め筋についても、開口部の両端側において、直線状の鉄筋の各端部を、リング筋や梁主筋に係止しているだけなので、梁の曲げ変形時に梁主筋に作用する大きな圧縮力(座屈させる力)を十分に負担することができない。
【0008】
また、直線状の斜め筋は、その両端部をそれぞれリング筋及び梁主筋に係止した上で、所定の角度で斜め方向に取り付けられるが、これら各種鉄筋の寸法誤差や施工誤差に左右されて、各斜め筋それぞれを、設計通りに所定の傾斜角度で配筋することができず、満足な補強性能が得られなかったり、性能にバラツキが生じてしまうおそれがある。殊に、梁の曲げ変形では、構造上、正の曲げモーメント及び負の曲げモーメント双方に対して同一性能を発揮させる必要があり、上下一対の斜め筋は、必ず同じ角度で配筋しなければならないが、上記施工誤差等により、確実な補強性能を得ることが難しかった。
【0009】
アンカー筋により応力伝達を保証するとしても、これによって配筋作業性が悪化すると共に、配筋が過密となって、コンクリートの充填性が懸念される。さらに、開口部の両側では、スターラップ筋が梁主筋に巻回されていることから、斜め筋の端部を梁幅方向最外側の梁主筋に係止することが難しく、従って補強に関わるリング筋等を、スターラップ筋よりも梁幅方向内方に配筋せざるを得ず、施工性及び補強性能共に、問題があった。
【0010】
特許文献2では、スリーブにロッド筋を突き合わせ溶接する構造であるため、接合強度が弱く、梁の曲げ変形に伴うスリーブの変形や梁主筋からの力によって、溶接部分で破断してしまい、梁主筋の座屈を防止できないおそれがあった。
【0011】
特許文献3では、せん断補強筋は、他の梁鉄筋組で取り囲まれた位置での現場溶接となるため、また部分的に上向き溶接箇所が存在するため、溶接作業が煩雑であり、溶接品質の確保が難しいという課題があった。
【0012】
そしてまた、特許文献2及び3いずれにあっても、スリーブ等と鉄筋やせん断補強筋とを溶接によって接合するものであるため、スリーブ等や鉄筋等の仕様を、様々な梁せいや種々の孔径の梁貫通孔に応じて、個別に決定し準備しておく必要があり、汎用性に乏しいという問題があった。スリーブ等や鉄筋等を個々の部品として考えると、汎用性が必要であった。
【0013】
具体的には、スリーブ等は、梁貫通孔の型枠材を兼ねるため、形成する梁貫通孔の内径毎に複数のものを作製しておく必要がある。梁幅も無数であるため、梁幅に応じたスリーブ等を切り出すために、長尺な管材をあらかじめ工場等の広大な保管スペースに在庫として確保しておかなければならない。スリーブ等に接合する鉄筋等についても、梁貫通孔は梁せい方向で、その位置が種々に設定されるものであり、梁貫通孔の孔径も梁せいも様々であることから、長さの異なるものを各種用意しておく必要があった。
【0014】
スリーブ等の梁型枠内部への設置作業性の面からすると、特許文献2のスリーブは、予め各種鉄筋を接合しておいて、その全体を梁鉄筋組内に組み込み、その後、梁主筋やせん断補強筋などの各種梁鉄筋と接合しなければならないため、スリーブ側の鉄筋と梁鉄筋組とが複雑に錯綜し、その作業は煩雑で、効率が良くなかった。スリーブを単体で扱うようにし、スリーブを設置した後に、鉄筋をスリーブと梁鉄筋組の両方に接合していくことも考えられるが、そのようにしても配筋の錯綜状態に変わりはなく、スリーブの設置作業は煩雑なものであった。梁貫通孔を複数形成する梁の場合には、その煩雑さや施工効率の悪さはさらに顕著なものとなる。
【0015】
また、特許文献2及び3いずれにあっても、スリーブ等に鉄筋やせん断補強筋を予め接合した上で、梁鉄筋組へ持ち込むようにする場合、鉄筋を取り付けた鋼管が重量物であるために、重機が必要であり、施工コストが嵩むと共に、施工性が良くなかった。
【0016】
特許文献2のスリーブや特許文献3の鋼管は本来、梁型枠の内部に設置され、梁貫通孔成形用の型枠材として兼用されるものである。従って、スリーブ等は、梁幅方向に梁を横断するように設置される。梁施工時に、これらスリーブ等の周囲にコンクリートを打設するが、梁底側となるスリーブ等の下部には、コンクリートが回り込み難く、このため充填不良が生じやすい。充填不良のために空隙などが発生すると、梁貫通孔周りの強度性能に悪影響を及ぼすおそれがある。特に、特許文献2では、スリーブ周囲に多数の鉄筋が密に施されるため、梁貫通孔周りへのコンクリートの充填性がさらに懸念される。
【0017】
耐火建築物の場合、特許文献3では、鋼管が梁貫通孔内面に露出してしまうので、耐火被覆としての被りを別途設ける必要があり、このために施工工程が増え、またコストアップを招いてしまう。被りを形成するには例えば、梁型枠を脱型した後に、鋼管の内部に梁貫通孔形成用の型枠材を別途設置し、型枠材と鋼管との間に、コンクリートやグラウト等を充填して耐火被覆を形成することになるが、そのために作業工数が増加し、コストアップにもなってしまう。他方、鋼管に耐火鋼を用いたり、特許文献2のように、ステンレス製の耐蝕金属製スリーブを用いることで、耐火被覆は不要になるが、この種の材料は一般的な鋼材に比べて高価であり、コストアップを招いてしまう。
【0018】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、鋼材によって梁貫通孔周辺の補強を確保しつつ、耐火被覆となる被りを容易に形成することが可能であると共に、梁貫通孔周辺へのコンクリートの充填性や梁鉄筋組への良好な施工作業性、品質の高い接合性能、部品としての汎用性向上を達成することが可能であって、梁主筋の座屈防止性能と梁貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止性能も向上することが可能な梁貫通孔補強装置及び梁構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明にかかる梁貫通孔補強装置は、上下梁主筋間に梁幅方向に形成される梁貫通孔を補強する補強装置であって、コンクリートが流通する隙間を有すると共に上下方向斜め向き内縁部を有し、上記梁貫通孔を成形する型枠を、被り厚を隔てて包囲するための鋼製環状補強部材と、該環状補強部材の上記斜め向き内縁部にスライド自在に係止されるスライド係止内縁及び少なくともいずれかの上記上下梁主筋にそれぞれ係止するための梁側係止内縁を有する環状の座屈拘束筋とを備えたことを特徴とする。
【0020】
本発明にかかる梁構造は、上記梁貫通孔補強装置を、鉄筋コンクリート製や鉄骨鉄筋コンクリート製の梁の梁鉄筋組に組み込んで構築したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明にかかる梁貫通孔補強装置及び梁構造にあっては、鋼材によって梁貫通孔周辺の補強を確保しつつ、耐火被覆となる被りを容易に形成することができると共に、梁貫通孔周辺へのコンクリートの充填性や梁鉄筋組への良好な施工作業性、品質の高い接合性能、部品としての汎用性向上を達成することができ、梁主筋の座屈防止性能と梁貫通孔の上下に位置するコンクリートの圧壊防止性能も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る梁貫通孔補強装置の好適な一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の梁貫通孔補強装置を梁に組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る梁貫通孔補強装置に適用可能な座屈拘束筋の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明に係る梁貫通孔補強装置の座屈拘束筋と環状補強部材による誤差の吸収作用を説明する説明図である。
【図5】本発明に係る梁貫通孔補強装置の座屈拘束筋と環状補強部材によって得られる、梁せいに対する汎用性を説明する説明図である。
【図6】本発明に係る梁貫通孔補強装置の変形例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る梁貫通孔補強装置及び梁構造の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1〜図5に示すように、本実施形態に係る梁貫通孔補強装置1は主に、鉄筋コンクリート梁2や鉄骨鉄筋コンクリート梁の上下梁主筋3,4間に梁幅方向へ形成される梁貫通孔5を補強するための環状補強部材6と、上下の梁主筋3,4の座屈を抑制するために、これら梁主筋3,4に生じる圧縮力を負担する座屈拘束筋7とから構成される。本実施形態に係る梁貫通孔補強装置1は、梁2の端部に設置しても良いし、梁2の中央部に設置しても良い。
【0024】
環状補強部材6は、複数本のリング状鉄筋8のセットから成る。環状補強部材6は、リング状鉄筋8を梁幅方向へ横並びに配列することで、リング状鉄筋8相互間に形成される隙間Yを有して、ほぼ中空筒状の形態に構成される。本実施形態では、環状補強部材6は、複数のリング状鉄筋8の配列により、梁幅方向の両側面側間に亘る形態とされる。図示例にあっては、各リング状鉄筋8は円形状であるが、多角形状であっても良い。
【0025】
リング状鉄筋8には、上下梁主筋3,4に面する環状補強部材6の上部位置及び下部位置に対応して、上下方向斜め向き内縁部8aが設定される。円形状のリング状鉄筋8の場合には、円形の最頂部から左右におおよそ斜め向きに下がる弧状部の内縁部が斜め向き内縁部8aとなる。多角形状のリング状鉄筋の場合には、いずれかの角部から左右に斜め向きに下がる辺部の内縁部が斜め向き内縁部となる。リング状鉄筋8の内周側に斜め向き内縁部8aが形成されていれば良く、外周側の形態は問われない。
【0026】
環状補強部材6には、隣接するリング状鉄筋8同士の間に隙間Yが形成される。図示例にあっては、複数の隙間Yが形成されていて、これら隙間Yは、環状補強部材6内外へコンクリートCを流通させる流通部となる。各隙間Yの梁幅方向の寸法は、コンクリートCの流通性を勘案して、適宜に設定すればよい。
【0027】
リング状鉄筋8の配列によって構成される環状補強部材6の内方には、施工時、梁貫通孔5を成形する型枠9が設置される。環状補強部材6、すなわちリング状鉄筋8は、型枠9を、耐火被覆となる被り厚を隔てて包囲する内径寸法で形成される。環状補強部材6と型枠9の軸心が一致する場合には、リング状鉄筋8内部、ひいては環状補強部材6内部に均一な被り厚でコンクリートCによる耐火被覆が形成される。軸心が上下方向若しくは左右方向に不一致となる場合には、リング状鉄筋8と型枠9の最小間隙箇所に必要被り厚が確保されて、耐火被覆が形成される。
【0028】
環状補強部材6には、上下梁主筋3,4それぞれに対応させて、少なくとも2つの環状の座屈拘束筋(鉄筋)7が設けられる。環状補強部材6のリング状鉄筋8と座屈拘束筋7とは、環と環を繋いだ構造であって、一方の周方向に沿って他方を回すことができるように組み付けられる。図示例にあっては、座屈拘束筋7は環状補強部材6に、上下梁主筋3,4それぞれに対して2つずつで、4つ組み付けられているが、さらに多数の座屈拘束筋7を取り付けても良い。
【0029】
座屈拘束筋7は、上下梁主筋3,4それぞれに対して環状補強部材6を連結するもので、これら上下梁主筋3,4に面する環状補強部材6の上部位置及び下部位置に配設される。座屈拘束筋7は、上下1つずつの場合には、上部及び下部の中央位置に、上下2つずつの場合には、当該中央位置を挟んで振り分けて配置される。座屈拘束筋7は、環状補強部材6や上下梁主筋3,4に係止される上部及び下部の内縁部分がスライド係止内縁7a及び梁側係止内縁7bとして、水平方向に真っ直ぐに形成される。
【0030】
スライド係止内縁7aは、リング状鉄筋8(環状補強部材6)の斜め向き内縁部8aに配置され、当該斜め向き内縁部8aに沿ってスライド自在に係止される。また、梁側係止内縁7bは、上端梁主筋3に対してはその上方から、下端梁主筋4に対してはその下方から係止され、梁上下主筋3,4を環状補強部材6に連結するようになっている。環状補強部材6に係止されるスライド係止内縁7aと、上下梁主筋3,4に係止される梁側係止内縁7bとが上下に向かい合う配置であって、これにより、上下梁主筋3,4間で上下方向縦向きとされる座屈拘束筋7で環状補強部材6と上下梁主筋3,4とが連結される。上部及び下部を繋ぐ縦向き部分の形態は問わない。
【0031】
図示例にあっては、長方形状の座屈拘束筋7が示されている。この座屈拘束筋7は、一本の鉄筋を長方形状に屈曲加工し、接続端末同士を、ネジ形式や楔で連結する形式のカプラー10で接続することにより、環状に形成される。座屈拘束筋7の環状形態は、この他に、図3に示すように、長方形状の三辺を形成するコ字状の第1鉄筋11と、残りの一辺を形成する真っ直ぐな第2鉄筋12の接続端末同士を、カプラー10により2箇所で接続したり、その他種々の態様で形成することができる。
【0032】
座屈拘束筋7は、カプラー10を外して、接続端末を開放することにより、その内方にリング状鉄筋8が組み付けられる。座屈拘束筋7への梁主筋3,4の組み付けについては、接続端末を外して組み付けるようにしても、あるいは環状形態とした座屈拘束筋7の内方へ挿通して組み付けるようにしても良い。
【0033】
図示例にあっては、座屈拘束筋7は、梁幅方向に、すべてのリング状鉄筋8及びすべての梁主筋3,4を係止している。しかしながら、複数のリング状鉄筋8から成る環状補強部材6と座屈拘束筋7のセット、すなわち単体の梁貫通孔補強装置1を複数、梁幅方向に配列するようにしても良い。言い換えれば、梁幅が長い場合などには、梁幅方向へ横並びに配列した複数の座屈拘束筋7に振り分けて、リング状鉄筋8及び梁主筋3,4を係止するようにしても良い。また、一部の梁主筋3,4には、座屈拘束筋7を係止しないようにしても良い。
【0034】
座屈拘束筋7を環状補強部材6の上下それぞれに複数配設する場合には、梁2のスターラップ筋13の間隔よりも狭めた間隔で配置することが好ましく、このようにすることで、梁主筋3,4の座屈抑制効果を向上することができる。
【0035】
以上のように構成された梁貫通孔補強装置1は、鉄筋コンクリート梁2や鉄骨鉄筋コンクリート梁を構築するための梁型枠内に挿入され、座屈拘束筋7が梁鉄筋組の上下梁主筋3,4に係止されて位置決めされると共に、梁貫通孔5を成形する型枠9が環状補強部材6内方に設置されて、この状態で梁型枠内に打設されるコンクリートC中に埋設されて梁構造を構成する。
【0036】
次に、本実施形態に係る梁貫通孔補強装置及び梁構造の作用について説明する。梁貫通孔補強装置1は、上下梁主筋3,4を含む梁鉄筋組を施した梁型枠内に設置する。設置する際には、座屈拘束筋7を先に環状補強部材6に取り付けておく第1方法と、座屈拘束筋7を先に上下梁主筋3,4に取り付けておく第2方法がある。
【0037】
第1方法では、環状補強部材6を係止した座屈拘束筋7のカプラー10を未接続状態とした梁貫通孔補強装置1を、上下梁主筋3,4とスターラップ筋13で囲まれた空所に挿入し、次いで座屈拘束筋7を上下梁主筋3,4に係止し、その後、座屈拘束筋7をカプラー10で閉鎖するようにする。あるいは、環状補強部材6を係止した座屈拘束筋7のカプラー10を接続状態とした梁貫通孔補強装置1を所定位置に設置し、上下梁主筋3,4を座屈拘束筋7へ挿通するようにする。
【0038】
第2方法では、カプラー10を未接続状態とした座屈拘束筋7を予め梁上下主筋3,4に係止しておき、複数のリング状鉄筋8から成る環状補強部材6を、上下梁主筋3,4とスターラップ筋13で囲まれた空所に挿入すると共に、座屈拘束筋7に係止し、その後座屈拘束筋7をカプラー10で閉止するようにする。
【0039】
このようにして、梁貫通孔補強装置1のセットが完了したら、環状補強部材6内方に、梁貫通孔5を成形する型枠9を納める。これにより、梁貫通孔補強装置1が完成されると共に、梁型枠内への設置が完了する。
【0040】
本実施形態に係る梁貫通孔補強装置1は主に、環状補強部材6と、当該環状補強部材6及び上下梁主筋3,4に係止する環状座屈拘束筋7だけという極めて簡略な構成であって、その設置も、上下梁主筋3,4とスターラップ筋13で囲まれた空所に挿入するだけであり、極めて容易に設置作業を行うことができる。また、座屈拘束筋7を、スターラップ筋13と干渉することのない上下方向に向かって配して上下梁主筋3,4に係止し、環状補強部材6についても、座屈拘束筋7に係止しつつ、空所である梁幅方向に配列するだけであり、接続箇所はカプラー10のみであって、当該組立作業も極めて簡便に実施することができる。
【0041】
この際、リング状鉄筋8(環状補強部材6)の斜め向き内縁部8aに対し、座屈拘束筋7のスライド係止内縁7aがスライド自在であるので、図4に示すように、部材製作上の誤差若しくは施工上の誤差のために、環状補強部材6と梁主筋3,4との間で寸法誤差(L1〜L2)が生じても、環状補強部材6の上下方向への斜め向き内縁部8aに沿って座屈拘束筋7のスライド係止内縁7aをスライド移動させることで、当該誤差を吸収して、適切に梁貫通孔補強装置1を組み付けることができる。
【0042】
またこの作用は、図5に示すように、高い梁せい(図中、L3で略示する)であっても、また低い梁せい(図中、L4で略示する)であっても、斜め向き内縁部8aの形成範囲でスライド係止内縁7aをスライドさせることで、梁せいに関わらず同じ梁貫通孔補強装置1を用いることができ、環状補強部材6及び座屈拘束筋7の部品としての汎用性を向上することができる。
【0043】
また、環状補強部材6は、梁貫通孔5の型枠9を兼ねないので、汎用性の効く口径のものを用意しておけば、各種孔径の梁貫通孔5の補強に利用することができる。さらに、リング状鉄筋8の数を増減変更するだけで、環状補強部材6の梁幅方向寸法を汎用性良好に調整することができる。
【0044】
また、溶接接合と異なり、係止構造によれば、均質な補強構造を確保することができる。また、すべて鉄筋7,8で梁貫通孔補強装置1を構成することができ、鋼管などを用いる場合に比べて、軽量であり、人力によって容易に施工することができる。
【0045】
梁貫通孔補強装置1の設置後、梁型枠が完成したら、梁型枠内に梁貫通孔補強装置1の上方からコンクリートCを打設する。コンクリートCは、環状補強部材6周囲に充填されると共に、隙間Yから環状補強部材6内外に流通する。環状補強部材6内方へ流れ込むコンクリートCは、型枠9と環状補強部材6との間に、耐火被覆となる被りを形成する。このように、梁型枠にコンクリートCを打設することによって、一挙に被りを形成することができる。
【0046】
また特に、環状補強部材6の隙間Yから下方へ流出するコンクリートCは、上方から見て陰となる型枠9下方にも、十分に行き渡り、これにより空隙発生を防止して、環状補強部材6周りのコンクリート充填性も向上することができる。
【0047】
梁型枠内に打設するコンクリートCは、梁鉄筋組周りにも充填され、これにより、鉄筋コンクリート造等の梁2を構築することができる。梁2の完成後に、型枠を撤去して、梁貫通孔5を形成する。
【0048】
このようにして構築された梁構造では、環状補強部材6がせん断力に抵抗して梁貫通孔5を補強することができ、せん断耐力を増強することができる。また、梁幅方向で梁2の両側面側間に亘る長さ寸法の環状補強部材6と、当該環状補強部材6に設けた座屈拘束筋7と、上下梁主筋3,4とによるコンファインド効果により、梁貫通孔5上下のコンクリートCを拘束することができ、さらに、座屈拘束筋7により、環状補強部材6に反力をとって、圧縮側の梁主筋3,4の座屈も効果的に抑制することができるので、梁端部であれ、梁中央部であれ、梁2の靭性を向上できて、梁2が脆性的に破壊することを適切に防止することができる。
【0049】
以上説明したように本発明に係る梁貫通孔補強装置1は、コンクリートCが流通する隙間Yを有すると共に上下方向斜め向き内縁部8aを有し、梁貫通孔5を成形する型枠9を、被り厚を隔てて包囲するための鋼製環状補強部材6と、環状補強部材6の斜め向き内縁部8aにスライド自在に係止されるスライド係止内縁7a及び少なくともいずれかの上下梁主筋3,4にそれぞれ係止するための梁側係止内縁7bを有する環状の座屈拘束筋7とを備えて構成し、このような梁貫通孔補強装置1を、鉄筋コンクリート製や鉄骨鉄筋コンクリート製の梁2の梁鉄筋組に組み込んで梁構造を構築するようにしたので、ステンレス材等に比して安価な鉄筋によって梁貫通孔5周辺の補強を確保しつつ、耐火被覆となる被りを容易に形成することができると共に、梁貫通孔5周辺へのコンクリートCの充填性や、取付の融通性や配筋作業の錯綜防止、軽量化によって得られる梁鉄筋組への良好な施工作業性、品質の高い接合性能、部品としての汎用性向上を達成することができ、また、梁主筋3,4の座屈防止性能と梁貫通孔5の上下に位置するコンクリートCの圧壊防止性能も向上することができる。
【0050】
図6には、上記実施形態の変形例が示されている。環状補強部材6について、複数のリング状鉄筋8を配列して構成することに代えて、複数のリング状鉄筋8を一連に連続させた形態のスパイラル鉄筋14により構成してもよい。この場合には、座屈拘束筋7は、溶接などにより完全に閉塞した形態とし、スパイラル筋14の一端から他端に向けて挿通して組み付けるようにしてもよい。
【0051】
このような変形例によれば、カプラー10による接続作業を行う必要がなくなり、さらに施工性を向上することができる。このような変形例にあっても、上記実施形態と同様の作用効果を奏することはもちろんである。
【符号の説明】
【0052】
1 梁貫通孔補強装置
2 梁
3,4 上下梁主筋
5 梁貫通孔
6 鋼製環状補強部材
7 環状座屈拘束筋
7a スライド係止内縁
7b 梁側係止内縁
8a 上下方向斜め向き内縁部
9 型枠
13 スターラップ筋
C コンクリート
Y 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下梁主筋間に梁幅方向に形成される梁貫通孔を補強する補強装置であって、
コンクリートが流通する隙間を有すると共に上下方向斜め向き内縁部を有し、上記梁貫通孔を成形する型枠を、被り厚を隔てて包囲するための鋼製環状補強部材と、
該環状補強部材の上記斜め向き内縁部にスライド自在に係止されるスライド係止内縁及び少なくともいずれかの上記上下梁主筋にそれぞれ係止するための梁側係止内縁を有する環状の座屈拘束筋とを備えたことを特徴とする梁貫通孔補強装置。
【請求項2】
請求項1に記載の梁貫通孔補強装置を、鉄筋コンクリート製や鉄骨鉄筋コンクリート製の梁の梁鉄筋組に組み込んで構築したことを特徴とする梁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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