説明

椅子の肘掛け装置

【課題】 パッド部材の平面形状を、前後方向に幅の異なる例えば細長い台形状としたときにおける、幅の広い部分が過度に撓み易くなるのを防止し、もって、パッド部材が肘当て基板から外れ易くなったり、着座者がパッド部材に肘を置いたときの感触が、広幅部分と狭幅部分とで異なり、違和感を与えたりするのを防止しうるようにした、肘掛け時の感触がよい椅子の肘掛け装置を提供する。
【解決手段】 肘当て基板の上面にパッド部材を装着してなる椅子の肘掛け装置において、パッド部材4を、平面形状が、前後方向の一端から他端にかけて横幅が漸次増大する細長い台形状をなすとともに、硬質の芯材5と、その上面を覆う軟質の表装材6とにより形成し、かつ、芯材5に、多数の小孔15を、一端から他端にかけて、開口率が漸次減少する配置をもって設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肘当て基板の上面にパッド部材を装着してなる椅子の肘掛け装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の椅子の肘掛け装置として、パッド部材を、前後方向に長い長方形とした硬質合成樹脂材料からなる芯材と、その上面を覆う軟質合成樹脂材料からなる表装材とにより形成するとともに、芯材に、前後方向に長い長円形または楕円形とした多数の小孔を設けたものがある(例えば、特許文献1参照)。
この従来の肘掛け装置においては、芯材における多数の小孔は、左右方向に等間隔に、かつ前後方向を向く複数の列状として、整然として設けられ、また表装材の厚さは、ほぼ均一としてあるので、パッド部材は、どの部位においても、ほぼ均一に撓むようになっている。
【特許文献1】特開2005−131238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、パッド部材を、その幅が前方または後方に向かって、漸次拡開する平面視細長台形状とした場合、上述した従来のもののように、多数の小孔の配置を、整然とした複数の列状とし、パッド部材の可撓性を均質化すると、幅の広い部分が、幅の狭い部分に比して、大きく撓んで、肘当て基板から外れ易くなり、また着座者がパッド部材に肘を置いたときの感触が、前部と後部とで異なり、違和感を与えるおそれがある。
【0004】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題点に鑑み、パッド部材の平面形状を、前後方向に幅の異なる例えば細長い台形状としたときにおける、幅の広い部分が過度に撓み易くなるのを防止し、もって、パッド部材が肘当て基板から外れ易くなったり、着座者がパッド部材に肘を置いたときの感触が、広幅部分と狭幅部分とで異なり、違和感を与えたりするのを防止しうるようにした、肘掛け時の感触がよい椅子の肘掛け装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)肘当て基板の上面にパッド部材を装着してなる椅子の肘掛け装置において、前記パッド部材を、平面形状が、前後方向の一端から他端にかけて横幅が漸次増大する細長い台形状をなすとともに、硬質の芯材と、その上面を覆う軟質の表装材とにより形成し、かつ、前記芯材に、多数の小孔を、前記一端から他端にかけて、開口率が漸次減少する配置をもって設ける。
【0006】
(2)上記(1)項において、芯材における多数の小孔の配置を、芯材の一端から他端にかけて、漸次密から粗となるようにする。
【0007】
(3)上記(1)または(2)項において、各小孔の開口面積を、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とする。
【0008】
(4)上記(1)〜(3)項のいずれかにおいて、各小孔を、前後方向に長い長円形または楕円形とし、その長さを、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とする。
【0009】
(5)上記(1)〜(4)項のいずれかにおいて、小孔の配置を、ほぼ芯材の長手方向を向く複数の列状とするとともに、互いに隣接する列同士の間隔が、芯材の一端から他端にかけて漸次拡開するようにする。
【0010】
(6)上記(5)項において、互いに隣接する列における各小孔の配置を、千鳥状とする。
【0011】
(7)上記(1)〜(6)項のいずれかにおいて、各小孔内に、表装材の一部を進入させる。
【0012】
(8)上記(1)〜(7)項のいずれかにおいて、各小孔を、少なくとも一部が下方に向かって拡開する形状とし、この拡開部分に表装材を進入させる。
【0013】
(9)上記(7)または(8)項において、各小孔内に進入した表装材の中央部に、下方に向かって開口する凹入部を設ける。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、次のような効果を奏することができる。
請求項1記載の発明によると、芯材に設けた多数の小孔の配置を、横幅が漸次増大する芯材の長手方向の一端から他端にかけて、開口率が漸次減少するようにしてあるので、芯材の幅の広い部分の剛性が、幅の狭い部分の剛性より高まる。
したがって、パッド部材の平面形状を細長い台形状としても、従来のように、幅の広い部分が過度に撓み易くなり、パッド部材が肘当て基板から外れ易くなったり、着座者がパッド部材に肘を置いたときの感触が、広幅部分と狭幅部分とで異なり、違和感を与えたりするのを防止することができ、肘掛け時の感触がよい椅子の肘掛け装置を提供することができる。
【0015】
請求項2記載の発明によると、芯材における多数の小孔の配置を、芯材の一端から他端にかけて、漸次密から粗となるようにすることによって、請求項3記載の発明によると、各小孔の開口面積を、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とすることによって、また、請求項4記載の発明によると、各小孔を、前後方向に長い長円形または楕円形とし、その長さを、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とすることによって、それぞれ簡単に、芯材の開口率を、一端から他端にかけて、漸次減少するようにすることができ、容易に製造することができる。
【0016】
請求項5記載の発明によると、小孔の配置を、ほぼ芯材の長手方向を向く複数の列状とするとともに、互いに隣接する列同士の間隔が、芯材の一端から他端にかけて漸次拡開するようにしてあるので、小孔をバランスよく芯材に配置することができ、狭幅部分から広幅部分にかけて、芯材の剛性をなめらかに高めることができ、剛性の変化による違和感をなくすことができる。
【0017】
請求項6記載の発明によると、各小孔を、長軸が各列の方向を向く長円形または楕円形とし、かつ互いに隣接する列における各小孔の配置を、千鳥状としてあるので、左右方向の撓みが均一になり、例えば格子状の配置とした場合のように、局部的に左右方向に撓みにくい部位が生じるといったおそれがない。
【0018】
請求項7記載の発明によると、各小孔内に、表装材の一部を進入させてあるので、表装材が心材から剥離するのを防止することができる。
【0019】
請求項8記載の発明によると、各小孔を、少なくとも一部が下方に向かって拡開する形状とし、この拡開部分に表装材を進入させてあるので、表装材が心材から、より剥離し難くなる。
【0020】
請求項9記載の発明によると、各小孔内に進入した表装材の中央部に、下方に向かって開口する凹入部を設けてあるので、表装材の材料費を低減することができるとともに、軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜図6に基づいて説明する。図1は、一実施形態の肘掛け装置の側面図、図2は、図1のII−II線切断部端面図、図3は、肘当て基板を斜め上方から見た斜視図、図4は、図3のIV−IV線切断部端面図、図5は、パッド部材を斜め下方より見た斜視図、図6は、図5のVI−VI線拡大縦断面図である。
【0022】
本実施形態の椅子の肘掛け装置(1)は、平面形状が、前端から後端にかけて、横幅が漸次増大するほぼ前後方向を向く細長台形をなす肘当て基板(2)の上面に、所要の空間(3)を形成して取り付けられるパッド部材(4)を備え、このパッド部材(4)は、適度に弾性変形可能な硬質合成樹脂材料製の板状の芯材(5)と、その表面を覆う軟質合成樹脂材料製の表装材(6)とにより形成されている。
【0023】
なお、肘当て基板(2)およびパッド部材(4)は、上記の形状を前後反転させて、後端から前端にかけて、横幅が漸次増大するほぼ前後方向を向く細長台形とすることもある。
【0024】
肘当て基板(2)の外周縁には、上向縁片(10)が設けられ、その内側には、上向凹溝(9)を介して、肘当て基板(2)と相似形をなす起立片(8)が設けられている。起立片(8)には、複数の係合孔(7)が設けられている。
【0025】
芯材(5)の下面外周縁よりやや内側には、上記起立片(8)に外嵌され、かつ内周面に上記係合孔(7)に係合する係合爪(11)が突設された下向片(12)が突設されている。下向片(12)の外周面と下面とは、上記表装材(6)により覆われており、下向片(12)の下面を覆う表装材(6)の下端部は、上記上向縁片(10)の上向凹溝(9)内に嵌合されている。
【0026】
芯材(5)は、適度の弾性を有する、例えばポリプロピレン、ポリエチレン等により、また表装材(41)は、柔軟性と弾性を有する、例えばポリウレタンまたはポリエステル系のエラストマにより、それぞれ形成するのが好ましい。
【0027】
上記芯材(5)の下向片(12)における係合爪(11)のない部分は薄く形成されている。このため、肘当て基板(2)とパッド部材(4)との結合強度を低下させることなく、材料の削減と軽量化を図ることができる。
【0028】
肘当て基板(2)の起立片(8)における係合孔(7)、およびそれに係合する芯材(5)の係合爪(11)は、水平方向に長いものとしてあり、それによって、肘当て基板(2)と芯材(5)との結合強度を高めてある。
【0029】
肘当て基板(2)の後部の左右方向の中央には、図示しない肘掛け支柱の上端に設けられた支持軸が嵌合する上下方向の孔あきボス(13)が形成され、かつ孔あきボス(13)を中心として、肘当て基板(2)の底壁には、放射状の上向リブ(14)が設けられている。
【0030】
図2に示すように、上向リブ(14)の上端は、常時は、芯材(5)の下面から離間しているが、肘掛け時に、パッド部材(4)が下方に弾性撓曲したとき、芯材(5)が当接して、パッド部材(4)のそれ以上の下方への撓曲を阻止するようになっている。
【0031】
芯材(5)の上面には、芯材(5)の可撓性を高めるための前後方向を向く多数の小孔(15)の列が、隣接するもの同士の間隔が、芯材(5)の前部から後部にかけて漸次大となるようにして、換言すれば、狭幅の前端部から広幅の後端部にかけて、漸次密から粗となる配置で設けられている。
このように、芯材(5)における多数の小孔(15)の配置を、芯材(5)の前部から後部にかけて、漸次密から粗となるようにすることによって、芯材(5)の開口率を、前部から後部にかけて、漸次減少させている。
【0032】
各小孔(15)は、長軸がほぼ前後方向を向く長円形または楕円形とし、かつ互いに隣接する列における各小孔(15)の配置は、千鳥状とするのが好ましい。
【0033】
図6に示すように、各小孔(15)の前後の端面は、下方に向かって拡開する形状とし、この拡開部分に、軟質の表装材(6)の一部を挿入させることにより、表装材(6)が心材(5)から剥離するのを防止しうるようにしてある。
【0034】
また、各小孔(15)内に挿入されている表装材(6)の中央部に、下方に向かって拡開する凹入部(16)を設けることにより、表装材(6)の材料費を低減することができるとともに、軽量化を図ることができるようにしてある。
【0035】
この凹入部(16)は、芯材(5)と表装材(6)とをインサート成形する際に、図6に2点鎖線で示すように、上面に凹入部(16)形成用の多数の突部(17)を設けた下型(18)上に芯材(5)を載置し、芯材(5)の上面に、表装材(6)形成用の合成樹脂材料を導き、その一部を、芯材(5)の小孔(15)の内面と、下型(18)の突部(17)の表面との間の空間内に充填させることにより、簡単に形成することができる。
なお、小孔(15)内全体に、表装材(6)の一部を充填させてもよい。
【0036】
本実施形態の肘掛け装置は、上記のような構成としてあるので、肘当て基板(2)とパッド部材(4)との取り付けに、ねじを使う必要がなく、部品点数を少なくすることができ、組立性が向上する。
【0037】
また、肘当て基板(2)とパッド部材(4)との内方に形成される空間部の角部に、パッド部材(4)の弾性変形の妨げとなるボス部や雌ねじ部といったねじ取付けのための局部的な剛体部分をなくすことができるため、パッド部材(4)を、ほぼ全域にわたって、均一に弾性変形しうるようにすることができる。
【0038】
さらに、芯材(5)に設けた多数の小孔(15)の配置を、横幅が漸次増大する芯材(5)の長手方向の一端から他端にかけて、漸次密から粗となるようにすることにより、芯材(5)の開口率を、一端から他端にかけて、漸次減少するようにしてあるので、芯材(5)の幅の広い部分の剛性が、幅の狭い部分の剛性より高まる。
したがって、パッド部材(4)の平面形状を細長い台形状としても、従来のように、幅の広い部分が過度に撓み易くなり、パッド部材(4)が肘当て基板(2)から外れ易くなったり、着座者がパッド部材(4)に肘を置いたときの感触が、広幅部分と狭幅部分とで異なり、違和感を与えたりするのを防止することができ、肘掛け時の感触がよい椅子の肘掛け装置(1)を提供することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態を図面により詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものでなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、設計変更等が可能である。
上記実施形態では、芯材(5)における多数の小孔(15)の配置を、芯材(5)の一端から他端にかけて、漸次密から粗となるようにすることによって、芯材(5)の開口率を、一端から他端にかけて、漸次減少させているが、例えば、前後方向に長い長円形または楕円形とした各小孔(15)の長さを、芯材(5)の一端から他端にかけて、漸次小とすることにより、芯材(5)の開口率を、一端から他端にかけて、漸次減少するようにしたり、図7に示すように、各小孔(20)を円形とするとともに、その直径、すなわち開口面積を、芯材(5)の一端から他端にかけて、漸次小とすることにより、芯材(5)の開口率、すなわち平均開口面積を、一端から他端にかけて、漸次減少するようにしたりすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態の肘掛け装置の側面図である。
【図2】図1のII−II線切断部端面図である。
【図3】肘当て基板を斜め上方から見た斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線切断部端面図である。
【図5】パッド部材を斜め下方より見た斜視図である。
【図6】図5のVI−VI線拡大縦断面図である。
【図7】芯材の変形例の底面図である。
【符号の説明】
【0041】
(1)肘掛け装置
(2)肘当て基板
(3)空間
(4)パッド部材
(5)芯材
(6)表装材
(7)係合孔
(8)起立片
(9)上向凹溝
(10)上向縁片
(11)係合爪
(12)下向片
(13)孔あきボス
(14)上向リブ
(15)小孔
(16)凹入部
(17)突部
(18)下型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肘当て基板の上面にパッド部材を装着してなる椅子の肘掛け装置において、
前記パッド部材を、平面形状が、前後方向の一端から他端にかけて横幅が漸次増大する細長い台形状をなすとともに、硬質の芯材と、その上面を覆う軟質の表装材とにより形成し、かつ、前記芯材に、多数の小孔を、前記一端から他端にかけて、開口率が漸次減少する配置をもって設けたことを特徴とする椅子の肘掛け装置。
【請求項2】
芯材における多数の小孔の配置を、芯材の一端から他端にかけて、漸次密から粗となるようにした請求項1記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項3】
各小孔の開口面積を、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とした請求項1または2記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項4】
各小孔を、前後方向に長い長円形または楕円形とし、その長さを、芯材の一端から他端にかけて、漸次小とした請求項1〜3のいずれかに記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項5】
小孔の配置を、ほぼ芯材の長手方向を向く複数の列状とするとともに、互いに隣接する列同士の間隔が、芯材の一端から他端にかけて漸次拡開するようにした請求項1〜4のいずれかに記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項6】
互いに隣接する列における各小孔の配置を、千鳥状とした請求項5記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項7】
各小孔内に、表装材の一部を進入させた請求項1〜6のいずれかに記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項8】
各小孔を、少なくとも一部が下方に向かって拡開する形状とし、この拡開部分に表装材を進入させた請求項1〜7のいずれかに記載の椅子の肘掛け装置。
【請求項9】
各小孔内に進入した表装材の中央部に、下方に向かって開口する凹入部を設けた請求項7または8記載の椅子の肘掛け装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−282922(P2007−282922A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−114905(P2006−114905)
【出願日】平成18年4月18日(2006.4.18)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)