説明

椅子用カバー

【課題】既存の椅子に被せるだけで椅子の形状に大きな変化をもたらし、椅子の機能性とデザイン性を高めることのできる椅子用カバーを提供する。
【解決手段】椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部2と、椅子の座面を覆う座面覆部3とが、一体に構成される。背当て覆部2は、袋状に形成され、椅子の背もたれに対して、上部よりすっぽりと被せるように構成される。背当て覆部2の全体形状は、座面側から上部側に向かって、徐々に幅の広がった逆台形状である。座面覆部3は、椅子の座面上に当接する部分であって背当て覆部2と連続して設けられた座面本体部31と、この座面本体部の左右に設けられ座面裏側に回って座面を包み込む左右固定部32a,32bと、座面前方に突出して設けられ座面の前部を包み込む前固定部33と、座面後方から座面を包み込む後固定部34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子に被せるだけで、椅子の機能性やデザイン性を大きく変化させる椅子用カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存の椅子に対して、カバーを被せることにより、椅子に機能や装飾等のデザインを付加して使用する椅子用カバーが複数提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、1枚の布地の裏面に、合成樹脂等からなる滑り止め部材を複数施すとともに、左右端部に面ファスナー等の取付部材を設け、この布地を、椅子の背もたれ部分に2つ折りにして被せ、面ファスナーで固定する椅子用カバーが開示されている。この椅子用カバーによれば、滑り止め部材が椅子の背もたれ部分に当接して滑り止め効果を発揮するとともに、面ファスナーによる取り付けで椅子への着脱を容易にしている。
【0004】
特許文献2には、既存の椅子の背もたれ部分に被せるカバーの左右側方の下部に、長方形状のストールを取り付けた椅子用カバーが開示されている。この文献は、椅子用カバーにストールを付加することで防寒や保温を可能としたものであり、椅子用カバーに他の機能を付加した例を示すものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−247029号公報
【特許文献2】特開2005−226205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、従来の椅子用カバーは、既存の椅子に、滑り止め機能や着脱の容易機能を付加したり、防寒又は保温機能を付加したものであった。すなわち、基本的には、既存の椅子の形状や機能を生かしつつ、付属的に他の機能を付加するものに過ぎず、いずれも既存の椅子の形状を超えて、椅子の機能やデザインに大きな変更をもたらすものではなかった。
【0007】
そのため、例えば、既存の椅子の機能やデザインに満足できない場合や、飽きてしまった場合、椅子用カバーの変更によってはデザインや機能の大きな変更は期待できないという課題があった。一方で、椅子用カバーについては、上述した特許文献以外でも従来より数多く提案されており、椅子用カバーによって既存の椅子の機能やデザインの変更を望む潜在的な需要は高い。
【0008】
本発明は、以上のような従来技術の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、既存の椅子に被せるだけで椅子の形状に大きな変化をもたらし、椅子の機能性とデザイン性を高めることのできる椅子用カバーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、椅子の座面を覆う座面覆部と、椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部とを備えた椅子用カバーであって、前記座面覆部と前記背当て覆部とは、一体に構成され、前記背当て覆部は、袋状に形成されるとともに、椅子の背もたれ部分の高さより高く縦長に形成され、さらに長辺方向の両側部に、自在に屈曲変形可能で変更後の形状を維持するパイプ状又は棒状の形状維持部材を備えることを特徴とする。
【0010】
以上の態様では、椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部が、背もたれ部分の高さより高く構成されるため、既存の椅子の背もたれが低く形成されるような場合であっても、背もたれの高い椅子に変更することが可能となる。このとき、背当て覆部の両側部には、形状維持部材が設けられているため、背当て覆部の高さが椅子の背もたれの高さを超える場合でも、背当て部の形状は、背もたれの立ち上がり方向に維持される。
【0011】
また、形状維持部材は、自在に屈曲変形可能な部材、例えば、パイプ状のインターロックチューブや、ある程度広径の針金、又は針金と針金を覆う部材との組み合わせなどにより構成されるため、背当て覆部は、高さ方向の適当な位置において、高さ方向と直角な方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背当て部分を座面側に折り返せば、折り返した背当て覆部が厚みを増し、クッションの役割を果たすこととなる。一方で、背当て部分を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背当て覆部は、椅子に座る際には使用しない状態になり、通常の椅子の背もたれの高さを実現することができる。
【0012】
以上のような本発明によれば、既存の椅子に被せるだけで、既存の椅子の交換を要せずに、それまであった椅子の機能とデザインに大きな変化をもたらす斬新な椅子用カバーを提供することができる。
【0013】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記座面覆部は、椅子の座面上に当接する本体部と、この本体部の左右に設けられ座面裏側に回って座面裏側を包み込む左右固定部と、座面前側方向に突出して設けられ座面の前部を包み込む前固定部とからなり、前記左右固定部の左右端部には、左右固定部を相互に固定する固定部材を備え、前記左右固定部と前記前固定部とは、座面裏側において、座面を包み込んだ状態において固定されるものであることを特徴とする。
【0014】
以上の態様では、本体部と左右固定部及び前固定部とにより、椅子用カバーの座面を覆うことで、椅子用カバーを椅子に対して、確実に固定することができる。
【0015】
請求項3の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記背当て覆部は、自在に屈曲変形可能で変更後の形状を維持するパイプ状又は棒状の形状維持部材を、前記座面覆部側と反対の端部において短辺方向に向かって設けられたことを特徴とする。
【0016】
以上の態様では、背当て覆部の上端部に、形状維持部材を設けることにより、この部分における椅子用カバーの形状を維持することができる。また、ユーザが本発明の椅子用カバーを設置した椅子に腰掛けると、頭部が背当て覆部の上端付近に位置する。そこで、背当て覆部の上部の左右側方部を、例えば内側に折り曲げることで、ユーザの頭部の左右方向を覆うことができる。これにより、ユーザの視界を横方向から目隠しすることができ、前方に対するユーザの集中力を高めることができる。
【0017】
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記背当て覆部は、前記座面覆部側と反対の端部に向かって、徐々に幅広に形成されたことを特徴とする。
【0018】
以上の態様では、背当て覆部を、上部に向かって徐々に広く形成することで、上述した背当て覆部の上部左右側部を内側に折り曲げて使用する場合に、横方向からの目隠し効果がより高くなる。
【0019】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、前記形状維持部材は、前記背当て覆部の左右側部から、前記座面覆部の左右側部に至るまで延伸して設けられたことを特徴とする。
【0020】
以上の態様では、椅子の座面から背もたれに至る部分は、90°〜100°程度の角度で屈曲しているが、形状維持部材が、背当て覆部の左右側部から座面覆部左右側部に至るまで設けられたことで、椅子用カバーを、椅子の座面と背もたれ部分の屈曲に合わせて設置することができる。
【0021】
請求項6の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記形状維持部材を内蔵した肉厚の不織布により構成される内カバーと、この内カバーを覆う外カバーと、を重ねて構成されることを特徴とする。
【0022】
以上の態様では、椅子用カバーを肉厚の不織布により、ある程度硬質に形成された内カバー部分と、それを覆う外カバーとに分けて構成し、これらを重ねて設けることで、外カバー部分の素材等については、例えば、皮革素材、スエード素材や布地等、機能性よりもデザインを重視して選択することができるなど、椅子用カバー全体のデザインの自由度が高まる。
【0023】
請求項7の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記背当て覆部と前記座面覆部との境界部分には、帯状体が設けられたことを特徴とする。
【0024】
以上の態様では、背もたれと座面との境界部分において、帯状体を位置あわせし、この部分を帯状体によって締め付け固定することで、帯状体が位置決めの基準となって、背当て覆部の下端部位置の決定が容易になり、椅子に対する背当て覆部の被せ具合の調整が可能となる。
【0025】
また、椅子の座面と背もたれの境界部分の幅に対して、背当て覆部の幅が過大な場合でも、この帯状体により当該境界部分に対して背当て覆部を固定することができるので、サイズ調整が可能となる。さらに、帯状体を、椅子用カバーの全体の配色や装飾に対して、例えば、色相やトーンの異なる色彩を用いることで、椅子用カバーを被せた椅子のデザインのアクセントとすることが可能で、椅子用カバーを装着することによるデザイン変化の一翼を担うことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のような本発明によれば、既存の椅子に被せるだけで椅子の形状に大きな変化をもたらし、椅子の機能性とデザイン性を高めることのできる椅子用カバーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの構成を示す斜視図(a)及び底面図(b)。
【図2】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの内カバーの構成を示す展開図(a)〜(d)。
【図3】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの内カバーの構成を示す斜視図。
【図4】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの外カバーの構成を示す展開図(a)〜(e)。
【図5】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの外カバーの構成を示す斜視図。
【図6】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの使用パターンを示す斜視図(a)〜(c)。
【図7】本発明の実施の形態に係る椅子用カバーの使用状態を示すイメージ図。
【図8】本発明の他の実施の形態に係る椅子用カバーの構成を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態(以下、本実施形態という。)について、図面を参照しながら説明する。
【0029】
[1.本実施形態]
[1−1.構成]
本実施形態の椅子用カバー1は、図1に示すように、椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部2と、椅子の座面を覆う座面覆部3とが、一体に構成される。以下、背当て覆部2と座面覆部3とを分けて説明する。なお、図1では、椅子を想像線(2点鎖線)で示すことで、本実施形態の椅子用カバー1を椅子に被せた状態を表している。
【0030】
(1)背当て覆部の構成
背当て覆部2は、袋状に形成され、椅子の背もたれに対して、上部よりすっぽりと被せるように構成される。背当て覆部2の全体形状は、座面側から上部側に向かって、徐々に幅の広がった逆台形状である。ここで、説明の便宜上、図1に破線でその領域を示すように、背当て覆部2の中央に位置する長方形領域を背当て本体部21と呼び、背当て本体部21の左右に略三角形状で設けられた領域を背当て翼部22と呼ぶ。
【0031】
背当て覆部2の大きさは、椅子用カバー1を用いる椅子の背もたれの大きさに依拠して設定される。背当て覆部2における背当て本体部21の横幅は、概ね椅子の背もたれ部分に相当するサイズで形成される。例えば、背当て覆部2と座面覆部3との境界付近の幅が、400〜450mm程度であるとすると、背当て覆部2の背当て本体部21の幅は、当該境界付近の幅と同様400〜450mm程度で形成することが考えられる。また、背当て翼部22の上端部の幅は、本体部21から左右各100mm程度延伸し、背当て覆部2の上端部全体として600〜700mm程度に広げて構成することが考えられる。なお、この数字は、あくまでも最適な実施形態の想定を容易にするために目安として提示するものである。
【0032】
背当て覆部2の縦方向の長さは椅子の背もたれの1.5倍から2倍程度、高く構成される。この背当て覆部2の縦の長さについては、座高値の平均を算出の基準とすると良い。すなわち、日本人の高校3年生の男子の座高平均が92cm程度、同女子が85cm程度であることから、これを基準にして座面覆部3との接続部分からの縦方向の長さを85cm〜95cm程度とすると良い。
【0033】
背当て覆部2の左右両側部及び上端部には、自在に屈曲変形可能にして変更後の形状を維持する形状維持部材4が内蔵されている。形状維持部材4は、背当て覆部2の左右両側の縁(背当て翼部22の縁)に沿って上下方向に設けられる左右形状維持部材4aと、背当て覆部2の上端縁部に、当該上端縁部の輪郭に沿って左右方向に設けられている上部形状維持部材4bとに分けられる。
【0034】
この形状維持部材4は、パイプ状で自在に屈曲変形可能にして変更後の形状を維持する性状を有する。形状維持部材4の材料の例としては、インターロックチューブ、ケーシングチューブ、セミインターチューブ、ベンドロックチューブ、セミロックチューブなどの光ファイバや電線又はケーブル等を保護する保護チューブを転用することが考えられる。また、形状維持部材4として、針金や、針金を樹脂で覆ってある程度の強度と太さを持たせたものなどが考えられるほか、これらと同様の作用を奏する部材であれば、上記のものに限定されず用いることができる。なお、左右形状維持部材4aは、上部形状維持部材4bよりも高い強度が要求されるため、左右形状維持部材4aには径が太めの部材を用い、上部形状維持部材4bには径の細めの部材を用いるのが好ましい。ただし、これは最適な構成をいうものであり、他の態様として左右形状維持部材4aと上部形状維持部材4bとを分割して設けずに、同強度の一本の形状維持部材4により構成することも可能である。
【0035】
また、図1に示すように、左右形状維持部材4aを、背当て覆部2の左右側部から、座面覆部3の左右側部に至るまで延伸して設ける。すなわち、椅子の座面から背もたれに至る部分は、一般的に90°〜100°程度の角度で屈曲しているが、形状維持部材4を、背当て覆部2の左右側部から座面覆部3の左右側部に至る位置まで設けることで、椅子用カバー1を椅子の座面と背もたれ部分の屈曲に合わせて設置することができる。
【0036】
(2)座面覆部の構成
座面覆部3は、図1(a)に示すように、椅子の座面上に当接する部分であって背当て覆部2と連続して設けられた座面本体部31と、図1(b)に示すように、この座面本体部の左右に設けられ座面裏側に回って座面を包み込む左右固定部32a,32bと、座面前方に突出して設けられ座面の前部を包み込む前固定部33と、座面後方から座面を包み込む後固定部34とを備える。すなわち、座面覆部3は、座面本体部31で椅子の座面表側を覆いつつ、他の4つの固定部により、四方から座面の裏側を覆うように構成される。また、座面を固定する左右、前後4つの固定部31〜34には、それぞれ面ファスナー等の固定部材Fが設けられており、この固定部材Fにより、椅子の座面裏側において座面を包み込んだ状態で相互に固定するように構成される。
【0037】
(3)椅子用カバーの展開構成
背当て覆部2と、座面覆部3とからなる本実施形態の椅子用カバー1は、これを展開すると、図2,図3に示す、下地部分となる肉厚の不織布(ここでは、フェルト生地を用いる)により構成される内カバー11と、図4,図5に示す、この内カバー11を覆う外カバー12とから構成される。
【0038】
内カバーは、図2(a)〜(d)に示すように、a〜dの4つのピースから構成されている。ピースaは、椅子の表側に当接する部分であり、ピースbは、椅子の裏側を構成する部分である。ピースaとピースbとは、同図に破線で示す部分で縫製や接着により結合され、背当て部分の袋状を形成する。また、ピースaとピースbとの間には、ミシン目に沿って形状維持部材4を挿入する。一方、ピースcとピースdとは、ピースaの座面に当接する部分である裏面に、図に破線で示す部分において縫製等して結合される。ピースa〜dを結合した様子を図3の斜視図に示す。
【0039】
一方、外カバー12は、一般的にソファや椅子などの家具に用いられるデザイン性や座り心地を考慮した生地から選択的に用いる。例えば、スエードなどの天然又は人工皮革や、綿、レーヨン、ポリエステル、ナイロン等が考えられる。外カバー12は、図4(a)〜(e)に示すように、e〜iの全5ピースから構成される。
【0040】
図4(a)に示すように、ピースeは、ピースa同様、椅子の表側に当接する部分であり、同図(b)に示すように、ピースfは、ピースbと同様、椅子の裏側を構成する部分である。ピースeの座面覆部3側の先端の固定部材Fが2つ設けられた部分は、上述した前固定部33を構成する部分である。同図(c)に示すように、ピースgは、ピースfの下方部分に取り付けられるとともに、椅子の座面裏側にまわって、上述の後固定部34を構成する部分である。
【0041】
同図(d)及び(e)に示すように、ピースhとピースiとは、ピースcとdと同様、ピースeの座面に当接する部分の裏面に、図に破線で示す部分において縫製等により結合される。ピースhとピースiとは、先端に面ファスナー等からなる固定部材Fを備えており、上述した左右固定部32a,32bを構成する部分である。ピースe〜iを結合した様子を図5の斜視図に示す。
【0042】
以上説明した内カバー11(図4参照)に対して、外カバー12(図5参照)を被せることにより、本実施形態の椅子用カバー1が構成される。内カバー11は、外カバー12の内側にすっぽり収まるように固定される。なお、内カバー11及び外カバー12の各ピースは、縫製や貼り合わせ、圧着等の公知の手法により相互に固定される。
【0043】
[1−2.作用効果]
以上の構成からなる本実施形態の椅子用カバー1の作用について説明する。
(1)椅子への取り付け方法
本実施形態において用いる椅子Cは、例えば、脚部が角型の鋼管で形成され、座面及び背もたれがブナ成形合板で形成され、座面高さが床から420mm、座面幅420mm、座面奥行き580mm、背もたれ上端部高さが床から785mmであるとする(図1参照)。このような椅子Cの形状に合わせて、椅子用カバー1を用意する。
【0044】
このような椅子Cに対して、まず、椅子用カバー1の背当て覆部2を、椅子の背もたれ部分を包み込むように被せる。このとき、背当て覆部2は、袋状に形成されているので、椅子Cの背もたれ部分を、すっぽりと覆うこととなる(図1(a)参照)。
【0045】
背当て覆部2を、椅子Cの背もたれ部分に装着した後、椅子Cの背もたれと座面との接続部分のカーブに合わせ、椅子用カバー1の形状維持部材4を屈曲させる。これにより、椅子用カバー1の背当て覆部2の下端部が位置決めされ、背当て覆部2の背もたれに対する被せ具合が調整される。
【0046】
次に、座面覆部3を、椅子Cの座面に対して固定する。まず、座面覆部3の本体部31を、椅子Cの座面に当接させる(図1(a)参照)。この状態では、座面覆部3の左右固定部32a,32b、前固定部33及び後固定部34が、未だ固定されず、座面前後及び左右方向に垂れ下がった状態となる(図5の状態)。なお、このとき、椅子用カバー1は、図3に示す内カバー11に、図5に示す外カバー12がすっぽり被った状態となっており、内カバー11のピースc及びピースdが、左右固定部32a,32bの内側において垂れ下がった状態となっている。
【0047】
これを前提に、以下、固定部の折り畳み手順について説明すると、まず、内カバーのcとdを、固定部材Fに合わせて固定する(図3参照)。続いて、前固定部33と後固定部34の先端に設けられた固定部材F(例えば、雄側の面ファスナー)を、内カバーに設けられた固定部材F(例えば、雌側の面ファスナー)に合わせて固定する。その後、左右固定部32a,32bを、前後固定部33と後固定部34の上から被せるようにして閉じて、左右固定部32の固定部材Fを合わせる(ここまで、図5参照)。
これにより、図1(a)に示すように、座面覆部3が、座面を表裏から包み込むようにして固定される。
【0048】
(2)使用パターン
以上のようにして既存の椅子Cに対して装着される本実施形態の椅子用カバー1については、以下のような使用パターンが考えられる。
【0049】
(2−1)使用パターン1(背もたれ延伸)
使用パターン1は、図6(a)に示すように、背当て覆部2を、立てた状態で使用する場合である。
このパターンでは、椅子Cにおいて、使用者の背中の半分程度の高さしかなかった背もたれを、使用者の頭部を覆う位置にまで伸ばすことが可能となる。そして、このとき、背当て覆部2の左右両側部には、形状維持部材4が挿入されているため、椅子用カバー1においては延伸された背もたれが直立状態に保たれる。また、椅子用カバー1の内カバーには、ある程度の硬度のあるフェルト素材等の不織布が使用されているので、形状維持部材4の応力と相俟って、使用者が椅子の背もたれに頭部を預けた場合であっても、背当て覆部2が、頭部をしっかり受け止め、使用者の頭部を後方へ逸らすことがない。
【0050】
なお、一見すると、内カバー11の強度と形状維持部材4の強度程度では、使用者の重量を保持するに不十分であると考えられるが、一般に椅子の背もたれに対して使用者の重量が最も掛かる部分は、使用者の肩甲骨下部当たりであり、この部分は、椅子Cの元々の構成要素である背もたれの上端部にて保持される。そして、使用者が背もたれに大きく寄りかかったとしても、この使用者の肩甲骨より上部の肩、首や頭部が、この肩甲骨部分より大きく後ろに反れることはない(図7のイメージ図参照)。したがって、椅子用カバー1の背もたれに掛かる重量は、使用者の頭部の重み程度であり、この程度の重量であれば、内カバー11の強度並びに形状維持部材4の強度によって十分に支持することが可能である。
【0051】
(2−2)使用パターン2(目隠し作用)
使用パターン2は、図6(b)に示すように、使用パターン1に改良を加えた態様であり、ユーザの集中力に配慮した使用パターンである。
すなわち、背当て覆部2の背当て本体部21から左右方向に突出した背当て翼部22部分を内側に折り曲げて使用する。このとき、背当て覆部2の上端縁部には、輪郭に沿って、形状維持部材4が挿入されているため、この背当て翼部22の内側への折り曲げ状態を維持することが可能となる。これにより、図7に示すように、背当て覆部2により、使用者の頭部の左右方向を覆うことができる。したがって、背当て覆部2により、ユーザの視界を横方向から目隠しすることができ、前方に対するユーザの集中力を高めることができる。
【0052】
(2−3)使用パターン3(背もたれクッション効果)
使用パターン3は、図6(c)に示すように、背当て覆部2を、前方である座面側に倒して使用するパターンである。
背当て覆部2の左右両側部には、形状維持部材4が挿入されているため、背当て覆部2は、高さ方向の適当な位置において、横方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背当て覆部22を椅子Cの座面側に折り返せば、折り返した背当て覆部2は、形状維持部材4による適度な伸縮性により、クッション効果を奏する。
【0053】
以上のような使用パターン3では、従前の合板と鋼管からなる通常の椅子Cに対して、本実施形態の椅子用カバー1を用いることで、椅子の形状を変化させクッション性を高めるという機能的な変化をもたらすのみならず、ソファのような重厚感あるデザインを再現することもでき、デザイン性も極めて高い。
【0054】
(2−4)使用パターン4(通常の椅子としての使用)
使用パターン4は、図6(d)に示すように、背当て覆部2を、後方である座面側と反対の方向に倒して使用するパターンである。
背当て覆部2を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背当て覆部2は、椅子Cに座る際には使用しない状態となり、通常の椅子Cの背もたれの高さを実現することができる。
【0055】
以上のような使用パターン4では、従前の合板と鋼管からなる通常の椅子Cに対して、本実施形態の椅子用カバー1を用いることで、椅子の形状を変化させて機能的な変化をもたらすのみならず、折り返された背当て覆部2により、背もたれに重厚感を与えることができ、椅子用カバー1を被せるだけという簡易な手法によりデザイン性や形態の大きな変更を可能とする。
【0056】
(3)効果
以上のような本発明によれば、既存の椅子に被せるだけで、椅子の交換を要せずに、それまであった椅子の機能とデザインに大きな変化をもたらす斬新な椅子用カバー1を提供することができる。
【0057】
すなわち、椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部2が、背もたれ部分の高さより高く構成されるため、既存の椅子の背もたれが低く形成されるような場合であっても、背もたれの高い椅子に変更することが可能となる。このとき、背当て覆部2の両側部には、形状維持部材4が設けられているため、背当て覆部2の高さが椅子の背もたれの高さを超える場合でも、背当て部の形状は、背もたれの立ち上がり方向に維持される。
【0058】
また、形状維持部材4は、自在に屈曲変形可能な部材、例えば、パイプ状のインターロックチューブ、ある程度広径の針金、又は針金と針金を覆う部材との組み合わせなどにより構成されるため、背当て覆部2は、高さ方向の適当な位置において、高さ方向と直角な方向を折り目として折り曲げることが可能である。この場合、背当て部分を座面側に折り返せば、折り返した背当て覆部2が、クッションの役割を果たすこととなる。一方で、背当て部分を座面側と反対の側に折り返せば、折り返した背当て覆部2は、椅子Cに座る際には使用しないようになり、通常の椅子Cの背もたれの高さを実現することができる。
【0059】
また、本体部と左右固定部と前部とにより、椅子用カバー1の座面を覆うことで、椅子用カバー1を椅子Cに対して、確実に固定することができる。
【0060】
さらに、背当て覆部2の上端部に、形状維持部材4を設けることにより、この部分における椅子用カバー1の形状を維持することができる。また、ユーザが本発明の椅子用カバー1が設置された椅子Cに腰掛けると、頭部が背当て覆部2の上端付近に位置する。そこで、背当て覆部2の上部左右側部を、例えば内側に折り曲げることで、ユーザの頭部の左右方向を覆うことができ、ユーザの視界を横方向から目隠しすることができ、前方に対するユーザの集中力を高めることができる(図7参照)。
【0061】
また、背当て覆部2を、上部に向かって徐々に広く形成することで、上述した背当て覆部2の上部左右側部を内側に折り曲げて使用する場合に、横方向からの目隠し効果がより高くなる。
【0062】
また、椅子Cの座面から背もたれに至る部分は、90°〜100°程度の角度で屈曲しているが、形状維持部材4が、背当て覆部2の左右側部から座面覆部3左右側部に至るまで設けられたことで、椅子用カバー1を、椅子Cの座面と背もたれ部分の屈曲に合わせて設置することができる。
【0063】
椅子用カバー1を肉厚の不織布によりある程度硬質にした下地部分と、それを覆う表地部分とに分けて構成し、これを一体に設けることで、表地部分の素材等については、例えば、皮革素材、スエード素材や布地など、機能性よりもデザインを重視して選択することができるので、椅子用カバー1全体のデザインの自由度が高まる。
【0064】
[3.他の実施形態]
本発明は上記実施形態において示した態様に限定されるものではなく、例えば、以下のような実施形態も包含するものである。
例えば、図8に示すように、背当て覆部2と座面覆部3との間、背もたれと座面との境界部分に、締結及び弛緩が可能な帯状体Bを設けることも可能である。これにより、背もたれと座面との境界部分において、帯状体Bを位置合わせをし、この部分を帯状体Bによって締め付け固定することで、帯状体Bが位置決めの基準となって、背当て覆部2下端部位置の決定が容易になり、背当て覆部2の被せ具合の調整が容易になる。
【0065】
また、椅子の座面と背もたれの境界部分の幅に対して、背当て覆部2の幅が過大な場合でも、この帯状体Bにより当該境界部分に対して背当て覆部2を締め付けることができるので、サイズ調整が可能となる。さらに、帯状体Bを、椅子用カバーの全体の配色や装飾に対して、例えば、色相やトーンの異なる色彩を用いることで、椅子用カバーを被せた椅子のデザインのアクセントとすることが可能である。なお、帯状体Bとしては、上述の背当て覆部と座面覆部3との境界部分を締め付けることのできるものであれば、いずれのものを用いることもできる。例えば、帯状体Bを、ゴムバンドによって構成することも可能であるし、締まり具合の調整ができるベルトや帯紐によって構成することも可能である。
【0066】
なお、この背当て覆部2の被せ具合を調整する位置決めは、形状維持部材4又は上述の帯状体Bによる、椅子の背もたれと座面の境界部分における場合だけでなく、背もたれの上端部において行うことも考えられる。すなわち、図8に想像線で示すように、背当て覆部2を椅子の背もたれに被せた場合に背もたれの上端部が到達する位置を、予め椅子の背もたれの高さに応じて想定し、背当て覆部2の内カバー11において、当該想定位置を横方向に縫い合わせた縫製部Sを設ける。または、背当て覆部2の袋状を成す部分の上端部をこの縫製部Sを設けた位置としておくことで、背当て覆部2が椅子の背もたれに対してその位置より深く被らないようにすることができる。
【符号の説明】
【0067】
1…椅子用カバー
11…内カバー
12…外カバー
2…背当て覆部
21…背当て本体部
22…背当て翼部
3…座面覆部
31…本体部
32a,32b…左右固定部
33…前固定部
34…後固定部
4,4a,4b…形状維持部材
B…帯状体
C…椅子
F…固定部材
S…縫製部
a〜i…ピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
椅子の座面を覆う座面覆部と、椅子の背もたれ部分を覆う背当て覆部とを備えた椅子用カバーであって、
前記座面覆部と前記背当て覆部とは、一体に構成され、
前記背当て覆部は、袋状に形成されるとともに、椅子の背もたれ部分の高さより高く縦長に形成され、さらに長辺方向の両側部に、自在に屈曲変形可能で変更後の形状を維持するパイプ状又は棒状の形状維持部材を備えることを特徴とする椅子用カバー。
【請求項2】
前記座面覆部は、椅子の座面上に当接する本体部と、この本体部の左右に設けられ座面裏側に回って座面裏側を包み込む左右固定部と、座面前側方向に突出して設けられ座面の前部を包み込む前固定部とからなり、
前記左右固定部の左右端部には、左右固定部を相互に固定する固定部材を備え、前記左右固定部と前記前固定部とは、座面裏側において、座面を包み込んだ状態において固定されるものであることを特徴とする請求項1記載の椅子用カバー。
【請求項3】
前記背当て覆部は、自在に屈曲変形可能で変更後の形状を維持するパイプ状又は棒状の形状維持部材を、前記座面覆部側と反対の端部において短辺方向に向かって設けられたことを特徴とする請求項1又は2記載の椅子用カバー。
【請求項4】
前記背当て覆部は、前記座面覆部側と反対の端部に向かって、徐々に幅広に形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の椅子用カバー。
【請求項5】
前記形状維持部材は、前記背当て覆部の側部から、前記座面覆部の側部に至るまで延伸して設けられたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の椅子用カバー。
【請求項6】
前記形状維持部材を内蔵した肉厚の不織布により構成される内カバーと、この内カバーを覆う外カバーと、を重ねて構成されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の椅子用カバー。
【請求項7】
前記背当て覆部と前記座面覆部との境界部分には、帯状体が設けられたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の椅子用カバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−100745(P2012−100745A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249610(P2010−249610)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)