説明

椅子

【課題】カバー部材を簡単かつ迅速に取り付けることができるようにした椅子を提供する。
【解決手段】カバー部材13は、背板9の前面を覆う前カバー14と、前カバー14との間に袋状部を形成する裏打ち材15と、背板9の上部に被嵌される上部袋部16aを形成する後上部カバー16と、袋状部に収容されたクッションパッド20とを備え、裏打ち材15に、前カバー14、後上部カバー16、裏打ち材15、およびクッションパッド20を通過させることにより、それらを反転しうるようにした開口15aを設け、前カバー14、後上部カバー16、裏打ち材15の縫合しろがカバー部材13の内側に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背板と、背板の前面を覆うカバー部材とを備える椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
事務用椅子には、背板を合成樹脂の成形体により形成し、これをそのままの状態で椅子に取り付けたり、またはその前面をカバー部材により覆うことによって、同一仕様の製品であっても、カバーの有無や、カバーの色彩または模様の違いにより、多くの製品バリエーションを確保できるようにしたものがある。
【0003】
この種のものとしては、例えば特許文献1または2に記載されているようなものがある。
【0004】
特許文献1に記載されているものは、カバー部材が、背板(背シェル)の前面を覆う前カバーと、前カバーの上部に、前カバーとの間に下方が開口する上部袋部を形成するように取付けた後上部カバーと、前カバーの下部に硬質の芯材を有する被係合部とを備え、上部袋部に背板の上部を嵌合し、被係合部を背板の下部前面に設けた係合部に嵌合することにより、背板前面にカバー部材を取付けるようにしたものである。また、特許文献2にも、上記特許文献1と類似する取付構造が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許6499810号公報
【特許文献2】特開2003−225139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のような従来のものにおいては、背板にカバー部材の下部を取付けるための係合部を設けておく必要があり、カバーの有無を含む背板単体の意匠を設計する上で、上記係合部を避けたデザインを設計しなければならず、このため、デザイン上の制約が生ずる欠点がある。
【0007】
本発明は、従来の技術が有する上記のような問題に鑑み、係合部を設けることなく、カバー部材を簡単かつ迅速に取り付けることができるようにすることにより、背板の意匠設計を自由に行え、しかも、背板を、カバー部材装着用のものと、非装着用のものとに共通して使用することができるようにした椅子を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は次のようにして解決される。
(1)背板と、この背板の前面を覆うカバー部材とを備える椅子において、前記カバー部材は、背板の前面を覆う伸縮性の素材からなる前カバーと、前カバーの後面を覆うようにして前カバーの周縁部に縫着され、前カバーとの間に袋状部を形成する裏打ち材と、上縁と両側縁とが前カバーおよび裏打ち材の上部に逢着され、裏打ち材の上部との間に、下方に向かって開口し、背板の上部に被嵌される上部袋部を形成する後上部カバーと、前記袋状部に収容されたクッションパッドとを備え、前記裏打ち材に、前記前カバー、後上部カバー、裏打ち材、およびクッションパッドを通過させることにより、それらを反転しうるようにした開口を設け、さらに、前記前カバー、後上部カバー、裏打ち材の縫合しろを、カバー部材の内側に位置させる。
【0009】
このような構成によると、背板に係合部を設けることなく、カバー部材の取付が簡単かつ迅速にできるとともに、背板自体の造形の自由度が増し、多様な意匠設計が可能となる。
【0010】
また、各カバーにより、外観的な見栄えが向上するとともに、良好なクッション性も得られる。さらに、縫合部の周囲は、反転させられることにより、前後カバーの内側に隠されるため、外観がよくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、係合部を設けることなく、カバー部材を簡単かつ迅速に取り付けることができるようにすることにより、背板の意匠設計を自由に行え、しかも、背板を、カバー部材装着用のものと、非装着用のものとに共通して使用することができるようにした椅子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施形態を備える椅子の側面図である。
【図2】背板を外した状態の椅子分解斜視図である。
【図3】(a)、(b)は、それぞれ背板の正面図および側面図である。
【図4】カバー部材を背板に装着するときの状態を、斜め後ろから見た斜視図である。
【図5】カバー部材を背板に装着したときの上部の拡大縦断側面図である。
【図6】同じく、下部の拡大縦断側面図である。
【図7】同じく、中位部の拡大横断平面図である。
【図8】(a)、(b)、(c)は、カバー部材の組立手順を例示する斜視図である。
【図9】本発明の第2の実施形態におけるカバー部材を、斜め後ろから見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1〜図8は、本発明の椅子の第1の実施形態を示す。
図1および図2に示すように、椅子1は、先端にキャスタ2を備え、かつ放射状の配置とした5本の脚杆3と、全脚杆3の放射状の中心部に立設した脚柱4と、脚柱4の上端に設けた支基5と、支基5上に取り付けられた座板6と、支基5の両側面に取り付けられ、かつ座板6の左右両側方を通って起立する1対の肘掛7と、同じく支基5の両側面に取り付けられ、かつ後上方に延出した後、座板6の後方で所定の傾斜角をなして立上がり、かつ上端同士が連結部8aにより一体に連結された左右1対の背凭れフレーム8と、背凭れフレーム8に着脱可能に固定された背板9とを備えている。
【0014】
支基5は、座板6および肘掛7の高さ調整機能や、背板9に荷重が加わった場合におけるクッション調整機能および背板9の前後傾角度を調節するための機能などを備えている。
【0015】
背板9は、合成樹脂の成形体からなり、その前面は、図3(b)に示すように、椅子に座る人の標準体型の背面曲線に応じて、側面視においてやや下部が前方に突出するほぼく字形に形成されるとともに、平面視において、中央が後方へ凹入する形状に形成され、さらには、外周縁を除くほぼ全面に、図3(a)に示すように、多数の縦長の開口10が、所定の繰返しパターンで設けられている。
【0016】
背板9は、その後面における両側上下部に設けた連結部12を、背凭れフレーム8の前面における両側上下部に設けた被連結部11に連結することにより、背凭れフレーム8の前面に、着脱可能として取り付けられている。
この連結部12と被連結部11との連結構造は、本発明には直接関係しないので、詳細な説明は省略する。
【0017】
図4〜図7に示すように、背板9の前面を覆うカバー部材13は、背板9の前面を覆う伸縮性の素材からなる前カバー14と、前カバー14の後面を覆うとともに、周縁部が前カバー14の周縁部に逢着(その縫着部を符号Aをもって示す)された裏打ち材15と、裏打ち材15の上部背面を覆うようにして、上縁と両側縁とが上記縫着部Aの上部において、前カバー14および裏打ち材15に逢着され、裏打ち材15の上部との間に、下方に向かって開口する上部袋部16aを形成する後上部カバー16と、裏打ち材15の下部背面を覆うようにして、下縁と両側縁とが上記縫着部Aの下部において、前カバー14および裏打ち材15に逢着され、裏打ち材15の下部との間に、上方に向かって開口する下部袋部17aを形成する後下部カバー17とを備えている。
【0018】
後上部カバー16における裏打ち材15との対向面には、可撓性の補強プレート18が取り付けられ、後下部カバー17の上縁部には、左右方向に収縮する、ゴムひも19等からなる収縮性部材が取り付けられ、また前カバー14と裏打ち材15との間に形成された袋状部内には、クッションパッド20が配設されている。
【0019】
前カバー14、裏打ち材15、後上部カバー16、および後下部カバー17は、布地、人工または天然皮革などから構成される伸縮性のシート素材からなり、適宜の色彩、模様および肌触りなどの触感を得られる素材から選択するのが好ましい。
【0020】
補強プレート18は、背板9の背面上部の外形に沿ってカットされた合成樹脂製のシート、または薄板状のものとするのがよい。
【0021】
ゴムひも19は、平ゴムその他の収縮性部材と交換してもよい。
【0022】
クッションパッド20は、軽量軟質の発泡ウレタンなどの弾性および撓曲性に富んだ素材から構成されるものであり、予め背板9の前面形状に応じた曲面に成形されている。なお、このクッションパッド20および上記補強プレート18は、各カバー14、16、17および裏打ち材15の縫製しろを確保するため、それぞれの外形よりやや小さめに形成されている。
しかし、それらとほぼ同形として、縫着部Aにおいて他の部材とともに逢着して実施することもできる。
【0023】
図4に示すように、カバー部材13は、前カバー14が背板9の前面を覆うようにして、上部袋部16aを背板9の上部に、かつ下部袋部17aを背板9の下部に、それぞれ被嵌させることにより、背板9に簡単かつ迅速に装着することができる。
【0024】
裏打ち材15の下部における後下部カバー17により覆われる部分には、横長の開口15aが設けられている。
この開口15aを設けることにより、図8に示すような製造方法が可能となる。
すなわち、図8(a)に示すように、前カバー14と裏打ち材15との間に、後上部カバー16および後下部カバー17を上下に離間させて挟み、かつ前カバー14の外側面に、クッションパッド20を、必要に応じて接着剤等により接着して配設し、図8(b)に示すように、前カバー14と裏打ち材15と後上部カバー16と後下部カバー17との外周縁(クッションパッド20の外周縁も含めてもよい)を縫着し、その後、図8(c)に示すように、それらを、開口15aを通して表裏反転させる。
【0025】
すると、図5〜図7に示すように、縫合部Aの縫合しろが、反転させられることにより、すべてカバー部材13の内側に配設させられて、外部に露呈することがなく、美麗な外観のカバー部材13を製造することができる。
【0026】
図9は、本発明の第2の実施形態を示す。なお、第1の実施形態におけるのと同一の部材には同一の符号を付し、異なる部材にのみ異なる符号を付して、説明する。
この例では、前カバー14の左右両側部を後方に折り返して、折り返し部21を設け、この折り返し部21と裏打ち材15(クッションパッド20と裏打ち材15とを省略する場合は、前カバー14)との間に、上下方向を向く可撓性の補強プレート22を取り付けてある。
【0027】
こうすることによって、カバー部材13を、背板9に装着したとき、両側部の補強プレート22により、前カバー14が左右方向に収縮するのを防止することができ、前カバー14に張りを与えることができる。
【0028】
本発明は、上記の実施形態のみに制限されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で、変形した態様での実施が可能である。
例えば、クッションパッド20を必要としないときは、クッションパッド20と裏打ち材15とを省略して実施することもできる。
【符号の説明】
【0029】
1 椅子
2 キャスタ
3 脚杆
4 脚柱
5 支基
6 座板
7 肘掛
8 背凭れフレーム
9 背板
10 開口
11 被連結部
12 連結部
13 カバー部材
14 前カバー
15 裏打ち材
15a開口
16 後上部カバー
16a上部袋部
17 後下部カバー
17a下部袋部
18 補強プレート
19 ゴムひも(収縮性部材)
20 クッションパッド
21 折り返し部
22 補強プレート
A 縫着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
背板と、この背板の前面を覆うカバー部材とを備える椅子において、
前記カバー部材は、
背板の前面を覆う伸縮性の素材からなる前カバーと、
前カバーの後面を覆うようにして前カバーの周縁部に縫着され、前カバーとの間に袋状部を形成する裏打ち材と、
上縁と両側縁とが前カバーおよび裏打ち材の上部に逢着され、裏打ち材の上部との間に、下方に向かって開口し、背板の上部に被嵌される上部袋部を形成する後上部カバーと、
前記袋状部に収容されたクッションパッドとを備え、
前記裏打ち材に、前記前カバー、後上部カバー、裏打ち材、およびクッションパッドを通過させることにより、それらを反転しうるようにした開口を設け、さらに、前記前カバー、後上部カバー、裏打ち材の縫合しろを、カバー部材の内側に位置させたことを特徴とする椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−148148(P2012−148148A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110196(P2012−110196)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2006−306674(P2006−306674)の分割
【原出願日】平成18年11月13日(2006.11.13)
【出願人】(000000561)株式会社岡村製作所 (1,415)
【Fターム(参考)】