説明

植物における環境ストレスの要因のスクリーニング方法、及び、それに用いるスクリーニングキット。

【課題】環境ストレス、特に生物ストレス及び/又は無生物ストレスに対する誘導性を示す遺伝子群を用い、その発現プロファイルを解析することで植物に対する環境ストレスの要因のスクリーニング及びシグナル伝達機構を解析方法、並びに、その為の各種キットを提供すること。
【解決手段】(i)環境ストレスに晒された植物における表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(ii)環境ストレスの負荷により特異的に発現する遺伝子を選択し、(iii)選択された遺伝子の発現プロファイルを求めることを含む、環境ストレスの要因のスクリーニング方法、該スクリーニング方法を用いた、植物における環境ストレスに対するシグナル伝達機構の解析方法、及び、これら方法に使用できるキット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
植物に対する環境ストレスの要因のスクリーニング方法、より具体的には、該要因による発現誘導経路(シグナル伝達経路)又はシグナル物質を特定することを含む該スクリーニング方法、及び植物における環境ストレスに対するシグナル伝達機構の解析方法、並びにそれらの方法に使用し得るキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の配列決定プロジェクトによって、数種の生物について大量のゲノム配列及びcDNA配列が決定されており、植物モデルであるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)では、ゲノム配列とcDNA配列が決定されている(Lin, X. et al., (1999) Nature 402, 761-768.; Mayer, K. et al., (1999) Nature 402, 769-777.; Arabidopsis genome Initiative. (2000) Nature 408, 796-815.; Seki, M. et al., (2002) Science 296, 141.)。
【0003】
EST(expressed sequence tag)プロジェクトも、発現遺伝子の解析に大いに貢献している(Hofte, H. et al., (1993) Plant J. 4, 1051-1061.; Newman, T. et al., (1994) Plant Physiol. 106, 1241-1255.; Cooke, R. et al., (1996) Plant J. 9, 101-124.; Asamizu, E. et al., (2000) DNA Res. 7, 175-180.)。
【0004】
近年、ゲノムスケールの遺伝子発現を分析するのにマイクロアレイ(DNAチップ)技術が有用な手段となっている(Schena, M. et al., (1995) Science 270, 467-470.; Eisen, M. B. and Brown, P. O. (1999) Methods Enzymol. 303, 179-205.)。このDNAチップを用いる技術は、cDNA配列をスライドグラス上に1000遺伝子/cm2以上の密度で配列させるものである。このように配列させたcDNA配列を、異なる細胞型又は組織型のRNAサンプルから調製した2色蛍光標識cDNAプローブ対に同時にハイブリダイズさせることで、遺伝子発現を直接かつ大量に比較分析することが可能となる。この技術は、最初、48個のシロイヌナズナ遺伝子を根及び苗条におけるディファレンシャル発現について分析することで実証された(Schena, M. et al., (1995) Science 270, 467-470.)。さらに、マイクロアレイは、熱ショック及びプロテインキナーゼC活性化に応答する新規な遺伝子を同定するため、ヒトcDNAライブラリーからランダムに採取した1000個のクローンを調査するのに使用されている(Schena, M. et al., (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 10614-10619.)。一方、このDNAチップを用いる方法によって、各種の誘導条件下における炎症性疾患関連遺伝子の発現プロファイルの分析が行われている(Heller, R. A. et al., (1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 2150-2155.)。さらに、マイクロアレイを用いて、6000個を超えるコード配列からなる酵母ゲノムの動的発現についても分析が行われている(DeRisi, J. L. et al., (1997) Science 278, 680-686.; Wodicka, L. et al., (1997) Nature Biotechnol.15, 1359-1367.)。
【0005】
近年、植物分野においてもマイクロアレイ分析に対して報告がなされている(Schena, M. et al., (1995) Science 270, 467-470.; Ruan, Y. et al., (1998) Plant J. 15, 821-833.)。例えば、シロイヌナズナの約7,000個の完全長cDNAを有するマイクロアレイを用いて、生物ストレス及び/又は無生物ストレスに対する植物の応答についてもマイクロアレイにより網羅的な遺伝子の発現解析が行われ、得られた発現プロファイルがデータベース化されている(Wan, J. et al. (2002) Funct. Integr. Genomics. 2, 259-273.; Seki, M. et al. (2001) Plant Cell 13, 61-72.; Seki, M. (2002) Plant J. 31, 279-292.; Narusaka, Y. et al. (2003) Plant Cell Physiol. 44, 377-387.; Oono, Y. et al. (2003) Plant J. 34, 868-887.; Narusaka, Y. et al. (2004) Mol. Plant-Microbe Interact. 17, 749-762.; Narusaka, Y. et al. (2004) Plant Mol. Biol. 55, 327-342.)。
【0006】
陸生植物は、化学物質、乾燥、低温、熱、機械的な摂動、創傷及び病原体の感染といった様々な環境ストレスに曝される。これら環境ストレスに植物が曝されると、特定の遺伝子発現といった生化学的、生理学的及び分子的な反応が誘導され、環境ストレスに対する応用性及び順応性を示すことが知られている。このような反応は、植物細胞内における刺激の認識及びシグナル伝達の結果として進行する。しかしながら、このメカニズムの詳細については未だ解明されていないのが現状である。
【0007】
また、植物に対する微生物の感染による病害(生物ストレス)は、植物にとって致命的になりうる重大なストレスの一つである。植物は動物のような免疫系などの感染防御のために特殊化した細胞・組織を有しないが、微生物等の病原体の侵入に際して感染の拡大を抑制して生体を防御するために、病原体を非自己として認識して起こる過敏感反応に代表されるような誘導性の防御応答によって、感染部位の周辺に抗菌性の化学的環境と物理的障壁を形成して抵抗する植物特有の機構を有している。一方、病原体は宿主である植物を認識して胞子発芽、付着器及び侵入菌糸の形成、宿主内への侵入、伸展を行う。
【0008】
特に、黒すす病菌(Alternaria brassicicola)は、アブラナ科植物を宿主とする腐生性の糸状菌であり、感染した植物に“黒いすす”をまぶしたような病斑を形成する。シロイヌナズナのエコタイプ(生態型)であるコロンビアは、黒すす病菌に対して抵抗性である。Alternaria brassicicolaをコロンビアに接種すると、接種48時間から72時間後に過敏感細胞死様の病斑を形成する。この現象は植物特有の抵抗反応として知られており、病原菌の侵入に対し、植物が自ら積極的に細胞(組織)を殺すことで、病原菌の感染の拡大を阻止する、植物におけるアポトーシスとして注目されている。この病原体の感染から過敏感細胞死に至るまでの作用機序に関する防御シグナル伝達にはジャスモン酸がシグナル物質として関与していることが知られている(Penninckx, I. A. et al. (1998) Plant Cell 10, 2103-2113.; Thomma, B. P. H. J. et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 15107-15111.)。このように、病原体の攻撃に対して、植物はシグナル物質を介して感染緊急シグナルを全身的に発信し、感染部位だけでなく未感染組織に防御態勢を誘導する。植物の生物ストレスに対する防御反応の発現誘導には、ジャスモン酸以外にサリチル酸、エチレン及び活性酸素がシグナル物質として同定されている。
【非特許文献1】Penninckx, I. A. et al. (1998) Plant Cell 10, 2103-2113.; Thomma, B. P. H. J. et al. (1998) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 95, 15107-15111.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記(Seki et al. Plant J. 31, 279-292 (2002)等)のような、これまでに各種ストレスに対する植物の応答についても網羅的な遺伝子の発現解析に用いられてきたマイクロアレイはあくまで汎用のグローバルアレイであり、病害ストレスに対して発現誘導される遺伝子であるにも拘らず含まれていないものがあったり、それに含まれている遺伝子の3分の一から4分の一の数の遺伝子はその機能が未同定であったりして、特に、各種の環境ストレス、特に、病害ストレス等の要因のスクリーニング、又は、発現誘導経路若しくはシグナル伝達機構を解析を行うには解析能力が不十分であった。
【0010】
従って、本発明は上記課題を解決し、環境ストレス、特に生物ストレス及び/又は無生物ストレスに対する誘導性を示す遺伝子群を用い、その発現プロファイルを解析することで植物に対する環境ストレスの要因のスクリーニング及びシグナル伝達機構を解析方法、並びに、その為の各種キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者による研究の結果、環境ストレスに晒された植物において、発現量が有意に増大する特定の種類の遺伝子からなる遺伝子群を見出し、それらの発現プロファイルを解析することによって、環境ストレスの要因のスクリーニングが実施可能であることが確認された。本発明は係る研究成果に基づき完成された。
【0012】
即ち、本発明は以下の各態様に係る。
1.(i)環境ストレスに晒された植物における表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(ii)それらの遺伝子発現プロファイルを求めることを含む、環境ストレスの要因のスクリーニング方法。
2.更に、(iii)植物の環境ストレスに対する防御反応におけるシグナル物質として既知の物質を作用させた植物において、(ii)と同様に表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログの発現量を測定し、(iv)それらの遺伝子発現プロファイルを求め、(v)得られた遺伝子発現プロファイルを統合解析して該要因による発現誘導経路を解析し又はシグナル物質を特定する、ことを含む、上記1記載のスクリーニング方法。
3.使用する遺伝子群が、表3〜表4に記載された219種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る、上記1又は2に記載のスクリーニング方法。
4.(i)環境ストレスに晒された植物における表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(ii)環境ストレスの負荷により特異的に発現する遺伝子を選択し、(iii)選択された遺伝子の発現プロファイルを求めることを含む、環境ストレスの要因のスクリーニング方法。
5.更に、(iv)植物の環境ストレスに対する防御反応におけるシグナル物質として既知の物質を作用させた植物において(i)と同様に上記1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(v)少なくとも(ii)で選択された遺伝子を含む任意の数の遺伝子を選択して、(vi)選択された遺伝子の発現プロファイルを求め、(vii)得られた遺伝子発現プロファイルを統合解析して該要因による発現誘導経路を解析し又はシグナル物質を特定する、ことを含む、請求項4記載のスクリーニング方法。
6.シグナル物質が、サリチル酸、ジャスモン酸、及びエチレンから成る群から選択される化合物である、上記1〜5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
7.環境ストレスが生物ストレスである、上記1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
8.生物ストレスの要因が病原体である、上記7に記載のスクリーニング方法。
9.環境ストレスが無生物ストレスである、上記1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
10.無生物ストレスの要因が化合物質である、上記9記載のスクリーニング方法。
11.遺伝子の発現量を測定するに際して、グローバルノーマライゼーションにより測定値の正規化を行うことを特徴とする、上記1〜10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
12.遺伝子の発現量を測定するに際して、外部標準を使用することにより測定値の正規化を行うことを特徴とする、上記1〜10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
13.外部標準としてλコントロール鋳型DNA断片を使用する、上記12記載のスクリーニング方法。
14.表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログ成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、上記1又は2記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
15.表3〜表4に記載された219種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、上記1又は2記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
16.表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、上記3又は4記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
17.ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドが標識されていることを特徴とする、上記14〜16の何れか一項に記載のキット。
18. 上記1〜13のいずれか一項に記載のスクリーニング方法を用いた、植物における環境ストレスに対するシグナル伝達機構の解析方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、環境ストレス、特に生物ストレス及び/又は無生物ストレスに対する誘導性を示す特定の遺伝子から構成される遺伝子群の発現量から得られる発現プロファイルにより、環境ストレスの要因を遺伝子レベルでスクリーニングすることが出来る。特に、本発明によれば、環境ストレス、例えば、plant activator等の化学物質に対する応答又は誘導経路において、シグナル物質等として関与する化合物を同定し、更にそれによって、環境ストレスに対する遺伝子の発現誘導経路又はシグナル伝達機構を解析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に示す表1〜表2に記載された195種類の遺伝子はシロイヌナズナ由来であり、サリチル酸、ジャスモン酸、及びエチレンに晒された場合に、グローバルノーマライゼーションによる正規化を行った結果、該化学物質の少なくとも一つに対して、5倍以上の発現量を示した(シグナル値はカットしない)ものである。
【0015】
又、表3〜表4に記載された219種類の遺伝子も同様にシロイヌナズナ由来であり、サリチル酸、ジャスモン酸、及びエチレンに晒された場合に、λコントロール鋳型DNA断片を外部標準として使用して正規化(ノーマライザーション)を行った結果、該化学物質の少なくとも一つに対して、〔ストレス負荷時の発現量〕/〔ストレスがない時の発現量〕で10倍以上の発現量を示した(シグナル値はカットしない)ものである。
【0016】
更に、表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子もシロイヌナズナ由来であり、この中には、上記195種類又は219種類の遺伝子が含まれる。因みに、この1180種類の遺伝子は、生物ストレス及び/又は無生物ストレスに対する植物の網羅的な遺伝子の発現解析し使用されている従来のマイクロアレイに含まれる遺伝子セットと比較して、環境ストレスによってより強く発現誘導される遺伝子のみから構成され、特に、既知の化合物処理により発現誘導される遺伝子(例えば、SA(サリチル酸)経路、ET(エチレン)/JA(ジャスモン酸)経路、ET経路、ABA(アブシジン酸)経路、ROS(活性酸素種)経路等)を含んでいる点で大きく異なる。更に、使用されている遺伝子の中で機能未知の遺伝子の数が非常に少ない等の点が特徴である。その結果、本願発明の特有の効果を奏功し得たのである。因みに、表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子の中には、上記のシロイヌナズナの約7,000個の完全長cDNAを有するマイクロアレイには含まれていない可能性のある遺伝子が約293個ある。
【0017】
尚、本発明方法の上記の各態様においては、各表に具体的に示した夫々の数の遺伝子以外の遺伝子の発現量を測定対象として含める可能性を何ら排除するものではない。対象植物によっては、更に特有の遺伝子の発現量を測定することにより、スクリーニングをより効率的又は精度良く行うことが出来る可能性はある。又、各態様に示した夫々の数の遺伝子からなる群から、例えば、ストレス負荷時の発現量の増加が比較的低い数個の遺伝子を発現量の測定対象からはずしても、実質的に本発明の効果を得られる可能性がある。
【0018】
尚、以上の各表に記載された各遺伝子はいずれも、シロイヌナズナ由来の完全長cDNAクローンであり、理化学研究所筑波研究所のバイオリソースセンターから入手可能である。理化学研究所のシロイヌナズナ完全長cDNAクローンカタログにおけるRIKENナンバー (RAFL name)、及び、かずさDNA研究所におけるシロイナズナ遺伝情報統合データベースである「KATANA」におけるAGIコード(AGI code)で特定される。尚、RAFLナンバー及びAGIコードに関する情報は、インターネット上のサイト「http://rarge.gsc.riken.go.jp/」、及び、http://www.kazusa.or.jp/katana/ から容易に検索・入手することが出来る。
【0019】
本発明方法の対象となる植物の種類に特に制限はなく、例えば、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)等のアブラナ科植物、トウモロコシ(Zeamays) 及びイネ(Oryza sativa)等のイネ科植物、タバコ(Nicotiana tabacum)等のナス科植物、並びに、ダイズ(Glycine max)等のマメ科等に属する植物(下記参照)をあげることが出来る。
【0020】
また、本発明において発現量を測定する遺伝子の取得源としては、植物体全体、又は、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子等)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束等)若しくは植物培養細胞等の植物体の任意の部分を使用することが出来る。当業者であれば、このような材料からの本発明方法を実施するキットの構成などに応じて、適宜、上記遺伝子の発現量を測定するための試料を公知の方法に基づき容易に調製することが出来る。
【0021】
従って、本発明方法で使用する遺伝子として、例えば、上記の各表に記載の遺伝子のパラログ、及び上記の各植物における同遺伝子に相同な遺伝子である各オーソログを挙げることが出来る。例えば、イネを対象として本発明方法を実施する際には、本発明方法で使用する遺伝子群に含まれる少なくとも一部の遺伝子に関して、イネが有するオーソログを使用することが出来る。このように、本発明で使用する遺伝子群は異なる複数の種由来の遺伝子から構成されていても良い。
【0022】
本発明において、環境ストレスには生物ストレス及び無生物ストレスが含まれる。より具体的には、生物ストレスは、カビ、細菌等の病原体が植物に感染することによって当該植物に対して負荷するストレスを意味する。一方、無生物ストレスは、化学物質、又は、低温度環境、高温度環境、乾燥環境、高塩濃度環境、若しくは高浸透圧環境等に植物を曝すことによって当該植物に対して負荷するストレスを意味する。
【0023】
従って、植物を環境ストレスに晒す具体的な方法及びその条件等は、環境ストレスの種類に応じて当業者が適宜選択することが出来る。例えば、化学物質又はカビなどの病原体により環境ストレスを負荷するには、それらを植物全体又はその適当な部位に適当量及び適当な時間で噴霧、塗布等の方法で適用することによって実施することが出来る。或いは、植物を適当な時間、上記の各環境下に置くこと等により、植物をそれぞれの環境によるストレスに晒すことが出来る。
【0024】
本発明において、遺伝子の発現とは、遺伝子自身がもつ情報をRNA又はタンパク質という機能を有する遺伝子産物を産生することである。従って、遺伝子の発現量は、遺伝子から転写されたmRNA、又は該mRNAから翻訳されたタンパク質の量を測定することによって行うことが出来る。本発明方法においてこのような環境ストレスに晒された植物において発現が顕著に誘導される遺伝子の発現量は、当業者に公知の任意の方法・手段で測定することが出来る。
【0025】
例えば、発現されたmRNA量の測定としては、DNAマイクロアレイ(又は、DNAチップ)、マクロアレイ、オリゴヌクレオチドマイクロアレイ、ノーザンブロッティング(ノーザンハイブリダイゼーション)、インサイチューハイブリダイゼーション、RNA分解酵素プロテクションアッセイ、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)及びリアルタイム定量PCR等を用いることが出来る。一方、タンパク質量の測定としては、ウェスタンブロッティング、ELISAアッセイ、タンパク質アレイ(プロテインチップ)、免疫組織染色、二次元電気泳動及びイーストツーハイブリッド(Yeast Two Hybrid)等を挙げることができる。本発明は既存の測定法により得られた発現量を統計的に処理することによって、高精度で環境ストレスの要因をスクリーニングすることができる。
【0026】
本発明方法は、特に、DNAマイクロアレイ又はDNAチップを用いたマイクロアレイ解析(Seki, M. et al. (2002) Plant J. 31, 279-292.; Narusaka, Y. et al. (2003) Plant Cell Physiol. 44, 377-387.; Narusaka, Y. et al. (2004) Mol. Plant Microbe Interact. 17, 749-762.; Narusaka, Y. et al. (2004) Plant Mol. Biol. 55, 327-342.)で実施することが好ましい。
【0027】
従って、本発明のキットは、上記の各方法・手段に応じて、適当な構成をとることが出来る。例えば、本発明キットに含まれる遺伝子群の各遺伝子の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの長さは十数塩基対〜遺伝子全長とすることが出来、それらの具体的な塩基配列は、例えば、既に記載された各種のデータベースから容易に入手できる情報に基き、当業者が適宜、選択・設計し調製することが出来る。又、それらはDNAチップ又はノーザンブロッティングにおけるプロ−ブ、PCRにおけるプライマー等の形態で使用することが出来る。更に、必要に応じて、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは放射性物質、蛍光物質、色素等の適当な標識物質によって標識されていても良い。上記キットには、その構成・使用目的などに応じて、当業者に公知の他の要素又は成分、例えば、各種試薬、酵素、緩衝液、反応プレート(容器)等が含まれる。
【0028】
本発明における遺伝子の発現量をマイクロアレイ等を用いて測定する系では、2つのサンプルの遺伝子ごとのmRNA発現量を比較する。しかし、2つのサンプルより得られる蛍光強度の比は、蛍光色素の取り込み効率の違い、サンプル調製の違い、スライドガラスの条件などにより、必ずしもサンプルのmRNA比と一致しない。そこで、蛍光強度の比の補正(正規化:ノーマライゼーション)を行うことが好ましい。尚、1色蛍光による測定系も可能である。
【0029】
このような正規化の代表的な例として、以下のものを挙げることが出来る。
(1)グローバルノーマライゼーション(Global Normalization):条件の近いサンプル間ではmRNA全体の発現量はほとんど変わらないと考え、各遺伝子のシグナルのlog2比より、全遺伝子のlog2比の中央値を引くことにより補正する方法である。ゲノム上の全遺伝子について解析していることが必要である。
(2)内部標準(Internal control)によるノーマライゼーション:どの組織、処理条件でも発現量が変化しない遺伝子の値を一致させることにより全体を補正する方法。ただし、厳密にはこのような遺伝子は存在しない。
(3)外部標準(External Control)によるノーマライゼーション:
ラベリング前に、RNAサンプルに存在しないRNAを等量ずつ混合し、そのシグナル強度比を合わせることにより、全体を補正する方法。サンプル間でのmRNA全体の差が著しいものでも補正が可能。また、少数の遺伝子についても補正可能。尚、本発明のキットにおいては、各ブロック毎に外部標準を配置して、ブロック毎のノーマライゼーションが可能となるようにすることが好ましい。
【0030】
本発明では、生物ストレス及び/又は無生物ストレスによる植物の遺伝子の発現変動を解析する必要があり、これら処理は植物に甚大な影響を及ぼすことから、サンプル間でのmRNA全体の差が著しい。従って、本発明では外部標準(λコントロール鋳型DNA断片)によるノーマライゼーション、グローバルノーマライゼーション又は内部標準によるノーマライゼーション(αチューブリン遺伝子)を使用し、補正を行うことが好ましい。本発明ではこれら異なるノーマライゼーションによる解析が可能である。したがって各ノーマライゼーションで得られたデータを比較、参照し、総合的に判断することによって精度の高い結果を得ることが可能となる。
【0031】
本発明では、上記の各遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログの発現量を測定した後、それらの遺伝子発現プロファイルを求め、得られた遺伝子発現プロファイルを統合解析して該要因による発現誘導経路又はシグナル物質を特定することが出来る。この遺伝子発現プロファイルの統合解析は、具体的には、当業者に公知の各種クラスタリング解析により実施することが出来る。特に、階層クラスタリングにより、類似度の順位により階層的に要因をまとめることが好ましい。このようなクラスタリング解析は、例えば、GeneSpring及びAvadis等の市販ソフトや、フリーウェアのソフトを用いて行うことが出来るが、これらソフトの使用に限定されるものではない。
【0032】
尚、表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定する、本発明のスクリーニング方法において、「環境ストレスの負荷により特異的に発現する遺伝子」として特定の選択する基準は、環境ストレスの負荷の種類・程度、正規化の手段等に応じて、その都度、その基準を設定することが出来る。例えば、〔ストレス負荷時の発現量〕/〔ストレスがない時の発現量〕の値がλコントロール鋳型DNA断片と比較して、ある一定以上、例えば、5倍以上を示す遺伝子をこのような遺伝子として設定することが出来る。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
【表6】

【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
【表9】

【0042】
【表10】

【0043】
【表11】

【0044】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例の記載によって何ら限定して解釈されるものではない。又、特に記載のない場合には、以下の実施例は当業者に公知の標準的な方法で行われ、又、本明細書中に引用された文献の記載内容は本明細書の開示内容の一部を構成するものである。
【実施例1】
【0045】
本発明のマイクロアレイキットの作成
材料と方法
(1)Arabidopsis cDNAクローン
上記のマイクロアレイ実験から得られたストレス誘導性遺伝子として、表5〜表11に記載された1180個の遺伝子を選抜し、上記の理研バイオリソースセンター保有のArabidopsisの全長cDNAライブラリーより入手し、cDNAをマイクロアレイ作成に用いた。尚、ポジティブコントロール:薬剤誘導遺伝子(サリチル酸応答性遺伝子;PR-1)、ネガティブコントロール:ニコチン酸アセチルコリンレセプターのεサブユニット(nAChRE)遺伝子、及び、外部標準:λコントロール断片(82種類のDNA断片を含む:Takara社製、TX803)を使用した。
【0046】
(2)cDNAの増幅
cDNAライブラリー作成用ベクターとして、λZAPIII (Carninci et al. 1996) を用いた。ライブラリー用のベクターに挿入されたcDNAを、cDNAの両側のベクターの配列と相補的なプライマーを用いてPCR法により増幅した。
プライマーの配列は以下の通りである。
FL forward: 5’-CGCCAGGGTTTTCCCAGTCACGA
FL reverse: 5’-AGCGGATAACAATTTCACACAGGA
50μlのPCR混合液(0.25 mM dNTP, 0.2 uM PCRプライマー, 1 X Ex Taqバッファー, 1.25 U Ex Taqポリメラーゼ(Takara社製))に、テンプレートとしてプラスミド(20-50ng)を加えた。PCRは、最初に95℃で3分反応させた後、95℃で30秒、60℃で1分及び72℃で3分のサイクルを35サイクル、最後に72℃で3分の条件で行った。PCR産物をイソプロパノール沈殿させた後、20μlの滅菌超純水に溶解した。1%アガロースゲルを用いた電気泳動により、得られたDNAの質とPCRの増幅効率を確認した。
【0047】
(3)cDNAマイクロアレイの作成
8μlのPCR産物と等量のspotting solution(Telechem International社製)を混合し、384穴のマイクロタイタープレートに移した後、マイクロアレイスタンプマシンSpot Array (Perkin elmer製)を使って、200nlのPCR産物(100-300 ng/μl)をロードし、スーパーアルデヒドスライドガラス(Telechem社製)の上に280μmの間隔で1nlずつスポットした。12時間以上湿度30%以下のデシケーター内に放置後、UVクロスリンカーを用いて200 mj/cm2 を照射し、DNAの固定を行った。
その後、スライドラックにスライドグラスを移し、0.2 % SDS溶液中で2分間激しく撹拌を2回繰り返した後、2分間超純水で激しく撹拌を2回繰り返した。続いて、沸騰水に2分間つけ、室温で5分間放置した。次に、1 g の水素化ほう素ナトリウムを300 ml のリン酸バッファーで溶かし、90 mlの95-100%エタノールを加え混合したブロッキング溶液に、スライドラックごと移し、シェーカーで5分間ゆっくり振とうした。スライドラックを0.2% SDSで1分間を3回、その後超純水で1分間手でゆっくり振とうさせ、洗浄した。ブロッキングが終了したスライドグラスを濃縮真空乾燥機(Tomy社製)で20分間乾燥し、使用するまでデシケーター内に保存した。
【実施例2】
【0048】
マイクロアレイを用いるスクリーニング
(1)植物材料とRNAの単離
植物材料として、土(ダイオ化成社製)に播種し、24時間の明暗サイクルを明時間12時間及び暗時間12時間として4週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。薬剤ストレス処理にはサリチル酸、エテフォン、メチルジャスモン酸、plant activator(BTH; バイオン:シンジェンタ社)などを使用した。各種薬剤を上述したように培養したシロイヌナズナに噴霧することで行った。処理後、22℃で明時間12時間及び暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、2、5、10及び24時間後にサンプリングした。サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、TRIZOL Reagent (Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出した。続いて、Oligotex-dT30 <Super> mRNA purification kit(Takara社製)を用いてtotal RNAからmRNAを抽出した。また、様々な処理は、ほぼ同時刻(午前9時〜午前10時の間)に開始した。
【0049】
(2)プローブの蛍光標識
Cy3 dUTP又はCy5 dUTP (Amersham Pharmacia社製)の存在下でそれぞれのmRNAサンプルの逆転写を行った。逆転写反応のバッファー(10μl)組成は表12の通りである。
【0050】
【表12】

【0051】
42℃で70分の反応を行った後、5 μlの1 N NaOHと12.5 μlの0.1 M EDTAを加え、65℃で1時間処理し、さらに12.5 μl 1 M Tris-HCl (pH 7.5)を加えたのち、2つのサンプル(Cy3でラベルしたもの及びCy5でラベルしたもの)を混ぜ、Microcon 30 micro concentrator (Amicon) に移し、100 μl のTEバッファーを加えた後バッファー量が10-20 μlになるまで遠心し、流出液を捨てた。さらに250 μlのTEバッファーを加え、遠心する操作を2回繰り返し、ラベリングの完了したサンプルを遠心によって回収し、滅菌水で11.96μlにした。得られたプローブに1.64μlの2 μg/μl 酵母tRNA、3.4μlの20 x SSC及び3μlの2 % SDSを加えた。さらに、サンプルを99℃で2分間熱変成処理し、室温に5分以上放置後ハイブリダイゼーションに用いた。
【0052】
(3)マイクロアレイハイブリダイゼーション及びスキャニング
プローブ溶液をアレイの端におき、カバーガラスをかぶせた後、スライドガラスをハイブリダイゼーション用カセット(Telechem International社製)に移し、10-15 μlの蒸留水を加え密封した後、65℃の恒温槽中で12-16時間処理した。スライドガラスを取り出し、スライドラックに移し、溶液1(2 X SSC, 0.03 % SDS)中でカバーガラスをはずし、ラックを上下に振って2分洗浄後、溶液2(1 X SSC)に移し2分間洗浄した。さらにラックを溶液3(0.06 X SSC)に移して2分間洗浄し、遠心(1000 rpm, 2 min)にかけて乾燥させた。
【0053】
マイクロアレイ解析システム(ScanArray Lite; PerkinElmer社製)を用いて1ピクセルあたり10μmの解像度でマイクロアレイをスキャンした。マイクロアレイのスポット解析用プログラムとして、ScanArray Express version 3.0 (PerkinElmer社製)を用いた。
【0054】
本実施例において、〔ストレス負荷時の発現量〕/〔ストレスがない時の発現量〕の値がλコントロール鋳型DNA断片と比較して5倍以上を示すものを化合物の負荷によって特異的に発現する遺伝子と認定した。本実施例においては、化合物の負荷時において特異的に発現する遺伝子を解析した。その結果、クラスタリングにより、サリチル酸、エチレン、ジャスモン酸が異なるクラスターに分類されることが示された(図1)。
【0055】
また、plant activator(BTH; バイオン:シンジェンタ社)によってBTH処理5時間後で遺伝子発現数は最大となり、このとき64個の遺伝子が特異的に発現した。これら遺伝子群をサリチル酸、エテフォン、メチルジャスモン酸処理した植物から得られたマイクロアレイデータと統合解析した結果を図2にまとめる。
【0056】
図2から判るように、化合物処理によって特異的に発現する遺伝子はサリチル酸によっても強く誘導されることが明らかとなった。尚、該化合物はサリチル酸経路を活性化する化合物であることが明らかにされている。以上のことから、本発明方法によって、環境ストレスの要因を遺伝子レベルでスクリーニングすることが出来ることが確認された。
【実施例3】
【0057】
また、グローバルノーマライゼーションにより正規化を行った結果、サリチル酸、エチレン、ジャスモン酸処理のいずれかで5倍以上の発現を示した遺伝子(表1〜表2に記載された195種類の遺伝子) を選抜し、実施例2と同様の方法でスクリーニングを行ったところ、実施例2と同様の結果が得られた(図1)。
【実施例4】
【0058】
更に、外部標準により正規化を行った結果、サリチル酸、エチレン、ジャスモン酸処理のいずれかで10倍以上の発現を示した遺伝子(表3〜表4に記載された219種類の遺伝子)を選抜し、実施例2と同様の方法でスクリーニングを行ったところ、実施例2と同様の結果が得られた(図1)。
【0059】
[比較例1]
しかしながら、サリチル酸、エチレン、ジャスモン酸処理のいずれかで10倍以上の発現を示した遺伝子(76種類の遺伝子)を選抜し、実施例2と同様の方法でスクリーニングを行った場合(グローバルノーマライゼーションにより正規化)には、クラスタリングによりサリチル酸、エチレン、ジャスモン酸を異なるクラスターに分類することができなかった。したがって、1180個の遺伝子の中から必要以上に絞り込んだ遺伝子群を使用して解析することは不可能であることが明らかとなった。
【0060】
[比較例2]
グローバルマイクロアレイ(アジレント22K オリゴアレイ)によるスクリーニング
更に比較の為に、シロイヌナズナの約21,500個(22K)のオリゴDNAを有するマイクロアレイ(アジレント社)を用いて、以下のようにシグナル物質及び化合物に対して応答性を示す遺伝子の解析を試みた。実験に用いたシロイヌナズナは、土(ダイオ化成社製)に播種し、24時間の明暗サイクルを明時間12時間及び暗時間12時間として4週間栽培したシロイヌナズナ(生態型:コロンビア)を用いた。薬剤処理にはサリチル酸、エテフォン、メチルジャスモン酸及びplant activator(BTH; バイオン:シンジェンタ社) を使用した。各種薬剤を上述したように培養したシロイヌナズナに噴霧することで行った。処理後、22℃で明時間12時間及び暗時間12時間のサイクル条件下で静置し、5、10及び24時間後にサンプリングした。サンプリングした植物体は液体窒素で凍結し、TRIZOL Reagent (Invitrogen社製)を用いてtotal RNAを抽出した。また、様々な処理はほぼ同時刻(午前9時〜午前10時の間)に開始した。
【0061】
本比較例において、グローバルノーマライゼーションによる正規化を行った結果、5倍以上の発現量を示した(シグナル値はカットしない)ものを化合物の負荷によって特異的に発現する遺伝子と認定した。本例においては、化合物の負荷時において特異的に発現する遺伝子を解析した。
【0062】
その結果、化合物(BTH)によって252個の遺伝子が特異的に発現した。これら遺伝子群をサリチル酸、エテフォン、メチルジャスモン酸処理した植物から得られたマイクロアレイデータと統合解析した。その結果、化合物処理によって特異的に発現する遺伝子はサリチル酸及びエチレンによっても強く誘導されることが明らかとなった。(図2)
【0063】
以上、本比較例によると、化合物(BTH)に対するシロイヌナズナの防御シグナルはサリチル酸及びエチレン経路によると推察されたが、該化合物はサリチル酸経路を活性化する化合物であることが明らかにされている。このように、従来のアレイはノーマライゼーションがカスタムで設定できないこともあり、本発明のような全mRNA量が変動する解析には不向きであることが判明した。
【0064】
一方、上記実施例で示されたように、本発明で構築したアレイを使用し、外部標準によるノーマライゼーションで正規化することによって、環境ストレスの要因のスクリーニングが可能となった。さらに、グローバルノーマライゼーションによる正規化でも同様の結果が得られ、異なるノーマライゼーションによる解析が可能であることが明らかとなった。したがって本発明で構築したアレイを使用し、各補正で得られたデータを比較、参照し、総合的に判断することによって精度の高い結果を得ることが可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
植物が、化学物質、乾燥、低温、熱、機械的な摂動、創傷及び病原体の感染といった様々な環境ストレスに曝されたときに、物細胞内における刺激の認識及びシグナル伝達の結果として、様々な生化学的、生理学的及び分子的な反応が誘導される。本発明は、これらのメカニズムの詳細については解明する手段・方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子(左)、表1〜表2に記載された195種類の遺伝子(右下)、及び、表3〜表4に記載された219種類の遺伝子(右上)を用いたクラスタリングの結果を示す。
【図2】plant activator(BTH; バイオン:シンジェンタ社)による負荷によって特異的に発現した64個の遺伝子群をサリチル酸、エテフォン、メチルジャスモン酸処理した植物から得られたマイクロアレイデータと統合解析した結果(上)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)環境ストレスに晒された植物における表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(ii)それらの遺伝子発現プロファイルを求めることを含む、環境ストレスの要因のスクリーニング方法。
【請求項2】
更に、(iii)植物の環境ストレスに対する防御反応におけるシグナル物質として既知の物質を作用させた植物において、(ii)と同様に表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログの発現量を測定し、(iv)それらの遺伝子発現プロファイルを求め、(v)得られた遺伝子発現プロファイルを統合解析して該要因による発現誘導経路を解析し又はシグナル物質を特定する、ことを含む、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
使用する遺伝子群が、表3〜表4に記載された219種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
(i)環境ストレスに晒された植物における表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(ii)環境ストレスの負荷により特異的に発現する遺伝子を選択し、(iii)選択された遺伝子の発現プロファイルを求めることを含む、環境ストレスの要因のスクリーニング方法。
【請求項5】
更に、(iv)植物の環境ストレスに対する防御反応におけるシグナル物質として既知の物質を作用させた植物において(i)と同様に上記1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の発現量を測定し、(v)少なくとも(ii)で選択された遺伝子を含む任意の数の遺伝子を選択して、(vi)選択された遺伝子の発現プロファイルを求め、(vii)得られた遺伝子発現プロファイルを統合解析して該要因による発現誘導経路を解析し又はシグナル物質を特定する、ことを含む、請求項4記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
シグナル物質が、サリチル酸、ジャスモン酸、及びエチレンから成る群から選択される化合物である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
環境ストレスが生物ストレスである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
生物ストレスの要因が病原体である、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
環境ストレスが無生物ストレスである、請求項1〜6のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
無生物ストレスの要因が化合物質である、請求項9記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
遺伝子の発現量を測定するに際して、グローバルノーマライゼーションにより測定値の正規化を行うことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
遺伝子の発現量を測定するに際して、外部標準を使用することにより測定値の正規化を行うことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
外部標準としてλコントロール鋳型DNA断片を使用する、請求項12記載のスクリーニング方法。
【請求項14】
表1〜表2に記載された195種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログ成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、請求項1又は2記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
【請求項15】
表3〜表4に記載された219種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、請求項1又は2記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
【請求項16】
表5〜表11に記載された1180種類の遺伝子又はそれらのオーソログ若しくはパラログから成る遺伝子群の少なくとも一部の塩基配列から成るポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、請求項3又は4記載のスクリーニング方法に使用できるキット。
【請求項17】
ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドが標識されていることを特徴とする、請求項14〜16の何れか一項に記載のキット。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか一項に記載のスクリーニング方法を用いた、植物における環境ストレスに対するシグナル伝達機構の解析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−68495(P2007−68495A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−261471(P2005−261471)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【出願人】(505340917)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】