植物の照明装置
【課題】大光量の光源を必要とせずに安価な設備で照明することができ、しかも栽培ハウスからの照明光の漏れを防止することのできる植物用の照明装置を提供する。
【解決手段】植物を植えた培地の上に直接配設する線状発光体30を備え、この線状発光体30は、透明な線状基体31と、この線状基体31に長手方向に沿って埋設された複数の発光ダイオードLED1…,LED2…とを有し、発光ダイオードダイオードLED1…,LED2…から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射する。
【解決手段】植物を植えた培地の上に直接配設する線状発光体30を備え、この線状発光体30は、透明な線状基体31と、この線状基体31に長手方向に沿って埋設された複数の発光ダイオードLED1…,LED2…とを有し、発光ダイオードダイオードLED1…,LED2…から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物に下から上に向けて光を照射する照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物栽培においては人工照明による光照射が多く用いられている。主な目的は日長延長と光合成に必要とされる光の照射である。
【0003】
前者の例としては、キクやイチゴなどへの電照栽培を上げることができる。キク(秋菊)は、秋になって日照時間が短くなると花芽が付き開花する性質がある。そこで、花芽ができる前の時期に白熱灯などで電照し、人工的に日照時間を長くすることで開花時期を遅らせ、キクの需要が最も多い正月から春の彼岸までの間に花を出荷できるようにしている(非特許文献1参照)。
【0004】
またイチゴでは、冬季の低温短日で休眠に入る性質を持つため、これを防ぐために白熱灯などにより夜の時間を短くして、冬季の生育を維持することが行われている。
【0005】
一方、光合成に必要とされる光の照射は補光とも言われ、冬季など日照の少ない時期に高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプなどで光を照射する栽培方法が一部で行われている。また、最近の完全人工光型植物工場では、蛍光灯などの人工照明下でレタスなどが栽培されるようになっている。
【0006】
さらに最近では、植物に及ぼす光の効果として、花芽の分化、茎の伸長や肥大、葉の展開、病害抵抗性などに赤色光、青色光、緑色光、紫外線など様々な単色光の効果が明らかになりつつあり(非特許文献2〜4参照)、その一部は植物栽培に利用され始めており、今後は目的に応じて様々な光照射を使い分けることが更に多くなることが予想される。
【0007】
さらには、植物への直接的な作用だけではなく、害虫防除のために光照射が用いられることも多くなっている。例えば、オオタバコやハスモンヨトウなど夜蛾の防除を目的として黄色光や緑色光が照射されている。
【0008】
これは、夜蛾類に黄色光や緑色光を照射すると夜であるにもかかわらず、昼と勘違いして産卵行動などが抑制されることに基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】渡辺一郎、関山哲雄監修、よくわかる農業の電気利用、社団法人農業電化協会、2002年
【非特許文献2】神頭武嗣、農業と園芸、誠文堂新光社、2010年5月号、29乃至32頁
【非特許文献3】石田豊ら、緑色光照射で植物の病害抵抗を引き出す、ブレインテクノニュース、農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター、2009年、134号、16乃至20頁
【非特許文献4】後藤英司監修、アグリフォトニクス−LEDを利用した植物工場をめざして、シーエムシー出版、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり植物栽培における光照射は、生育促進、開花調整および病害虫防除など様々な目的で利用されている。
【0011】
しかしながら、従来の光照射は植物の上部からの照射が一般的であり、高所から栽培ハウス内全体を照射するため大光量の光源とこの光源を固定するための器具などが必要となり、このため設備コストが高くなるという問題があった。また、高所から栽培ハウス内全体を照明するため、栽培ハウスの被覆フィルムを通してや栽培ハウスの屋根と側壁部との間の隙間などから照明光が漏れやすく、周辺住民からの苦情が寄せられるなどの問題がある。
【0012】
この発明の目的は、大光量の光源を必要とせずに安価な設備で照明することができ、しかも栽培ハウスからの照明光の漏れを防止することのできる植物用の照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、植物を植えた培地の上に直接配置する発光体を備え、この発光体から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、培地の上に直接配設された発光体によって下から植物の葉の裏側に向けて光を照射するものであるから、発光体を取り付ける器具は不要となり、しかも小さな光量で葉を近接照射することができるので設備が安価なものとなる。さらに、下から葉の裏側を照射するものであるから、光が葉で遮光されることになり、このため栽培ハウスからの照明光の漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る照明装置の概略構成を示した外観図である。
【図2】図1に示す照明装置の構成を示したブロック図である。
【図3】図1の照明装置の線状発光体を示した平面図である。
【図4】図3の線状発光体の断面図である。
【図5】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した説明図である。
【図6】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した斜視図である。
【図6A】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した断面図である。
【図7】イチゴを栽培する圃場の上方に線状発光体を配置した状態を示した説明図である。
【図8】第2実施例の照明装置の構成を示したブロック図である。
【図9】他の例の照明装置の構成を示したブロック図である。
【図10】線状発光体の仕様を示した表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明に係る植物の照明装置の実施の形態である実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0017】
[第1実施例]
図1および図2に示す植物の照明装置10は、制御部20とロープ状の線状発光体(発光体)30とを備えている。なお、Pは電源プラグである。
【0018】
制御部20は、交流電源Eの交流電圧を全波整流して直流電圧に平滑する整流回路21と、後述する複数の発光ダイオード(光源)LED1,LED2の点灯や消灯を制御する制御回路22,23とを有している。
【0019】
制御部20には、図示しない操作キーが設けられており、この操作キーの操作によって、発光ダイオードLED1,LED2で照射する時間帯や照射間隔などを設定することができるようになっている。
【0020】
線状発光体30は、図3および図4に示すように、透明な塩化ビニルなどからなる柔軟性を有する線状基体31と、この線状基体31に埋設された3本の導線32〜34と、複数の発光ダイオードLED1…,LED2…とを有している。
【0021】
発光ダイオードLED1…,LED2…は、上面31aに向かって発光するように線状基体31に埋設されている。
【0022】
線状基体31は、断面形状が長方形で長さが約30mの長尺状に形成され、その上面31aが粗面となっており、発光ダイオードLED1…,LED2…が発光した光がその上面31aで散乱して照射角度が広がるようになっている。
【0023】
導線32,34はプラス用の電源ラインであり、導線33はマイナス用の電源ラインである。
【0024】
複数の発光ダイオードLED1…は発光ダイオード群LED1a,LED1b…に分けられており、複数の発光ダイオードLED2…は発光ダイオード群LED2a,LED2b…に分けられている。
【0025】
発光ダイオード群LED1aは、所定数のLED1を直列接続したものであり、この直列接続された発光ダイオード群LED1aの一端にあるLED1のアノード端子(図示せず)が導線32に接続され、その他端にあるLED1のカソード端子(図示せず)が導線33に接続されている。また、複数のLED1は等間隔に線状基体31に埋設されている。間隔は数センチあってもよく、植物に一様に光りが当たれば数10cmぐらいの間隔があってもよい。
【0026】
ここでは、数cmから数10cmの間隔で発光ダイオードが点状に配列されたものも線状発光体に含める。つまり、複数の点光源を線状の基体に取り付けて一体化したものも線状発光体の一つであると定義する。
【0027】
発光ダイオード群LED1b…も発光ダイオード群LED1aと同様なのでその説明は省略する。
【0028】
発光ダイオード群LED2aは、所定数のLED2を直列接続したものであり、この直列接続された発光ダイオード群LED2aの一端にあるLED2のアノード端子(図示せず)が導線34に接続され、その他端にあるLED2のカソード端子(図示せず)が導線33に接続されている。また、複数のLED2は等間隔に線状基体31に埋設されている。発光ダイオード群LED2b…も発光ダイオード群LED2aと同様なのでその説明は省略する。
【0029】
発光ダイオードLED1は例えば白色光を発光し、発光ダイオードLED2は例えば緑色光を発光する。
【0030】
発光ダイオード群LED1a,LED1b…の長さと発光ダイオード群LED2a,LED2b…の長さはほぼ同一に設定され、図3に示すように、各発光ダイオードLED1と各発光ダイオードLED2とが交互に配列された状態となっている。そして、線状基体31は例えば0.83mおきにカット位置Cが設定され、そのカット位置Cで切断することにより、線状発光体30は所望の長さにして使用することができるようになっている。
【0031】
そして、切断した線状発光体30の後端には図1に示すようにエンドキャップKを装着して、その後端で線状発光体30の導線32,34と導線33とが短絡してしまうのを防止する。また、線状発光体30の先端にはコネクタNを接続して、線状発光体30の導線32〜34と制御回路22,23の出力端子(図示せず)とを接続する。なお、制御回路22,23の出力端子のマイナスラインは共通とされている。
[使用方法]
図5および図6において、50は栽培ハウス内のイチゴを栽培する圃場であり、この圃場50の土壌(培地)52にイチゴ51が2列に植えられている。
【0032】
先ず、線状発光体30をその上面31aを上にして土壌52の上に直接はわせて配設する。ここでは、イチゴ51が2列に植えられているので、その中間位置に配設する。なお、線状発光体30の長さは、圃場50の長さに合わせてカット位置Cからカットして所定の長さに設定してある。
【0033】
次に、照明装置10の電源プラグPを栽培ハウス内に設けたコンセント(図示せず)に接続し、制御部20の操作キーを操作して発光ダイオードLED1,LED2で照射する時間帯と照射間隔を設定し、図示しないスタートスイッチを押す。
【0034】
そして、発光ダイオードLED1の設定した時間帯になると、複数の発光ダイオードLED1…が線状基体31の上面31aに向かって白色光を発光し、この白色光が線状基体31の上面31aで散乱し照射角度が広がるとともに上に向かって照射していき、イチゴ51の葉51Aの裏側を照射する。この葉51Aの裏面の照射により、葉51Aの光合成は活発に行われることになる。このため、白色光による日長延長は効率よく行えることになる。
【0035】
そして、その時間帯が過ぎれば、複数の発光ダイオードLED1…は自動的に消灯される。
【0036】
発光ダイオードLED2の設定した時間帯になると、複数の発光ダイオードLED2…が線状基体31の上面31aに向かって緑色光を発光し、この緑色光が線状基体31の上面31aで散乱し照射角度が広がるとともに上に向かって照射していき、イチゴ51の葉51Aの裏側を照射する。この緑色光の照射によりイチゴ51の病害抵抗性の向上により病害を抑制できるようになる。
【0037】
ここで、線状発光体30から葉の裏に向けて照射する光の角度は、葉の裏に照射できればよいので水平の角度以上であればよい。
【0038】
ところで、図7は線状発光体30を圃場50の上方に取り付けた場合を示すものであり、この場合(ケース1)と、図6に示す場合(ケース2)とで光の漏れを比較すると、例えばイチゴ51から横方向に2m離れた場所で照度を測定した結果、ケース1では500ルックスであり、ケース2では100ルックスであった。これは、下から上に向けて光を葉51Aを照射すると、その光が葉51Aによって遮られるためである。
【0039】
また、イチゴ51の中で最も活性が高く光り感受性も高いと考えられているクラウン部(イチゴ株の中心部)付近の照度を測定した結果、ケース1では葉51Aにより光が遮られるため500ルックスに止まったのに対して、ケース2では4000ルックスに達した。
【0040】
ケース1およびケース2に使用される線状発光体30の仕様を図10の表1に示す。なお、ここで使用される発光ダイオードは緑色光を発光する発光ダイオードLED2である。
【0041】
上述のように、白色光や緑色光を下から上に向けて葉51Aを照射しているので、その光が葉51Aによって遮られることになり、このため栽培ハウスから外へ白色光や緑色光が漏れてしまうのを防止することができる。また、下から上に向けて光を葉51Aに向けて照射するので、葉51Aに近い位置から照射することができ、このため大光量の光源が不要となる。
【0042】
また、線状発光体30を土壌52の上に直接はわせればよいので、線状発光体30を保持する器具は不要となり、また、線状発光体30は樹脂製の線状基体31に複数の発光ダイオードLED1…,LED2…を埋設したものであるから、防水性に優れるとともに照明装置10の設備のコストは安価なものとなる。
【0043】
線状発光体30は上から吊すものではないので、日中、線状発光体30やこれを保持する器具によって圃場50上に日陰ができてしまうこともない。
【0044】
さらに、線状発光体30は曲げることができるので、圃場50が曲がりくねっていてもその圃場50に沿ってはわせることができる。
[第2実施例]
図8に示す照明装置210は、制御部220とロープ状の線状発光体230とを有している。
【0045】
線状発光体230は、塩化ビニルなどからなる透明な線状基体231に発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を3列に埋設して構成したものである。発光ダイオードLED3は赤色光を発光し、発光ダイオードLED4は黄色光を発光する。
【0046】
制御部220は、発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を点灯制御する制御回路222〜224を有している。他は第1実施例と同様な構成なのでその説明は省略する。
【0047】
この第2実施例によれば、植物に対して病害抵抗性を高めることが知られている緑色光を発光するLED2に加えて、イチゴやキクなどで日長延長効果(電照効果)を発揮することが知られている赤色光を発光するLED3と、オオタバコガやハウスモンヨトウなど夜蛾に対して防除効果を発揮することが知られている黄色光を発光する発光ダイオードLED4とを設けたものであるから、目的に応じて発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を点灯させることができる。このため、目的に応じて照明装置を別途設ける必要がない。
[他の例]
図9は他の例の照明装置110を示す。この照明装置110は、制御部120とロープ状の線状発光体130とを有している。
【0048】
線状発光体130は、塩化ビニルなどからなる透明な線状基体131に発光ダイオードLED2…一列に埋設して構成したものである。他は第1実施例と同様な構成なのでその説明は省略する。
【0049】
上記実施例は、いずれも線状発光体30,130,230がロープ状に形成されて折り曲げ可能となっているが棒状であってもよい。
【0050】
また、線状発光体30,130,230は、いずれも発光ダイオードによって線状発光体30,130,230を構成しているが、これに限らず、例えば蛍光灯、冷陰極ランプ、白熱電球、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、ネオン管、レーザ、レーザダイオード、エレクトロルミネッセンス、ケミカルルミネッセンスなどで、線状発光体を構成できれば光源の種類は問わない。また、列の数も1〜3列のものに限らず何列あってもよい。
【0051】
上記実施例は、いずれも線状発光体30,130,230の光をイチゴに照射するようにしているが、これに限らず、例えばナス,キュウリ,トマトや菊などの植物を照明してもよく、また、線状発光体30,130,230に限らず互いに独立した点光源(発光体)で照射するようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施例はいずれも培地は土壌であるが、この土壌に限らず例えば養液栽培に使用するピートモスやロックウールなどの培地であってもよく、また水耕栽培に使用する発泡スチール製のパネルなどの培地であってもよい。
【0053】
この発明は、上記実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【符号の説明】
【0054】
10 照明装置
20 制御部
30 線状発光体
31 線状基体
50 圃場
51 イチゴ
52 土壌
LED1 発光ダイオード(光源)
LED2 発光ダイオード(光源)
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物に下から上に向けて光を照射する照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物栽培においては人工照明による光照射が多く用いられている。主な目的は日長延長と光合成に必要とされる光の照射である。
【0003】
前者の例としては、キクやイチゴなどへの電照栽培を上げることができる。キク(秋菊)は、秋になって日照時間が短くなると花芽が付き開花する性質がある。そこで、花芽ができる前の時期に白熱灯などで電照し、人工的に日照時間を長くすることで開花時期を遅らせ、キクの需要が最も多い正月から春の彼岸までの間に花を出荷できるようにしている(非特許文献1参照)。
【0004】
またイチゴでは、冬季の低温短日で休眠に入る性質を持つため、これを防ぐために白熱灯などにより夜の時間を短くして、冬季の生育を維持することが行われている。
【0005】
一方、光合成に必要とされる光の照射は補光とも言われ、冬季など日照の少ない時期に高圧ナトリウムランプやメタルハライドランプなどで光を照射する栽培方法が一部で行われている。また、最近の完全人工光型植物工場では、蛍光灯などの人工照明下でレタスなどが栽培されるようになっている。
【0006】
さらに最近では、植物に及ぼす光の効果として、花芽の分化、茎の伸長や肥大、葉の展開、病害抵抗性などに赤色光、青色光、緑色光、紫外線など様々な単色光の効果が明らかになりつつあり(非特許文献2〜4参照)、その一部は植物栽培に利用され始めており、今後は目的に応じて様々な光照射を使い分けることが更に多くなることが予想される。
【0007】
さらには、植物への直接的な作用だけではなく、害虫防除のために光照射が用いられることも多くなっている。例えば、オオタバコやハスモンヨトウなど夜蛾の防除を目的として黄色光や緑色光が照射されている。
【0008】
これは、夜蛾類に黄色光や緑色光を照射すると夜であるにもかかわらず、昼と勘違いして産卵行動などが抑制されることに基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】渡辺一郎、関山哲雄監修、よくわかる農業の電気利用、社団法人農業電化協会、2002年
【非特許文献2】神頭武嗣、農業と園芸、誠文堂新光社、2010年5月号、29乃至32頁
【非特許文献3】石田豊ら、緑色光照射で植物の病害抵抗を引き出す、ブレインテクノニュース、農業・食品産業技術総合研究機構・生物系特定産業技術研究支援センター、2009年、134号、16乃至20頁
【非特許文献4】後藤英司監修、アグリフォトニクス−LEDを利用した植物工場をめざして、シーエムシー出版、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり植物栽培における光照射は、生育促進、開花調整および病害虫防除など様々な目的で利用されている。
【0011】
しかしながら、従来の光照射は植物の上部からの照射が一般的であり、高所から栽培ハウス内全体を照射するため大光量の光源とこの光源を固定するための器具などが必要となり、このため設備コストが高くなるという問題があった。また、高所から栽培ハウス内全体を照明するため、栽培ハウスの被覆フィルムを通してや栽培ハウスの屋根と側壁部との間の隙間などから照明光が漏れやすく、周辺住民からの苦情が寄せられるなどの問題がある。
【0012】
この発明の目的は、大光量の光源を必要とせずに安価な設備で照明することができ、しかも栽培ハウスからの照明光の漏れを防止することのできる植物用の照明装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1の発明は、植物を植えた培地の上に直接配置する発光体を備え、この発光体から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、培地の上に直接配設された発光体によって下から植物の葉の裏側に向けて光を照射するものであるから、発光体を取り付ける器具は不要となり、しかも小さな光量で葉を近接照射することができるので設備が安価なものとなる。さらに、下から葉の裏側を照射するものであるから、光が葉で遮光されることになり、このため栽培ハウスからの照明光の漏れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明に係る照明装置の概略構成を示した外観図である。
【図2】図1に示す照明装置の構成を示したブロック図である。
【図3】図1の照明装置の線状発光体を示した平面図である。
【図4】図3の線状発光体の断面図である。
【図5】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した説明図である。
【図6】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した斜視図である。
【図6A】イチゴを栽培する圃場の土壌に線状発光体を載置した状態を示した断面図である。
【図7】イチゴを栽培する圃場の上方に線状発光体を配置した状態を示した説明図である。
【図8】第2実施例の照明装置の構成を示したブロック図である。
【図9】他の例の照明装置の構成を示したブロック図である。
【図10】線状発光体の仕様を示した表である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明に係る植物の照明装置の実施の形態である実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0017】
[第1実施例]
図1および図2に示す植物の照明装置10は、制御部20とロープ状の線状発光体(発光体)30とを備えている。なお、Pは電源プラグである。
【0018】
制御部20は、交流電源Eの交流電圧を全波整流して直流電圧に平滑する整流回路21と、後述する複数の発光ダイオード(光源)LED1,LED2の点灯や消灯を制御する制御回路22,23とを有している。
【0019】
制御部20には、図示しない操作キーが設けられており、この操作キーの操作によって、発光ダイオードLED1,LED2で照射する時間帯や照射間隔などを設定することができるようになっている。
【0020】
線状発光体30は、図3および図4に示すように、透明な塩化ビニルなどからなる柔軟性を有する線状基体31と、この線状基体31に埋設された3本の導線32〜34と、複数の発光ダイオードLED1…,LED2…とを有している。
【0021】
発光ダイオードLED1…,LED2…は、上面31aに向かって発光するように線状基体31に埋設されている。
【0022】
線状基体31は、断面形状が長方形で長さが約30mの長尺状に形成され、その上面31aが粗面となっており、発光ダイオードLED1…,LED2…が発光した光がその上面31aで散乱して照射角度が広がるようになっている。
【0023】
導線32,34はプラス用の電源ラインであり、導線33はマイナス用の電源ラインである。
【0024】
複数の発光ダイオードLED1…は発光ダイオード群LED1a,LED1b…に分けられており、複数の発光ダイオードLED2…は発光ダイオード群LED2a,LED2b…に分けられている。
【0025】
発光ダイオード群LED1aは、所定数のLED1を直列接続したものであり、この直列接続された発光ダイオード群LED1aの一端にあるLED1のアノード端子(図示せず)が導線32に接続され、その他端にあるLED1のカソード端子(図示せず)が導線33に接続されている。また、複数のLED1は等間隔に線状基体31に埋設されている。間隔は数センチあってもよく、植物に一様に光りが当たれば数10cmぐらいの間隔があってもよい。
【0026】
ここでは、数cmから数10cmの間隔で発光ダイオードが点状に配列されたものも線状発光体に含める。つまり、複数の点光源を線状の基体に取り付けて一体化したものも線状発光体の一つであると定義する。
【0027】
発光ダイオード群LED1b…も発光ダイオード群LED1aと同様なのでその説明は省略する。
【0028】
発光ダイオード群LED2aは、所定数のLED2を直列接続したものであり、この直列接続された発光ダイオード群LED2aの一端にあるLED2のアノード端子(図示せず)が導線34に接続され、その他端にあるLED2のカソード端子(図示せず)が導線33に接続されている。また、複数のLED2は等間隔に線状基体31に埋設されている。発光ダイオード群LED2b…も発光ダイオード群LED2aと同様なのでその説明は省略する。
【0029】
発光ダイオードLED1は例えば白色光を発光し、発光ダイオードLED2は例えば緑色光を発光する。
【0030】
発光ダイオード群LED1a,LED1b…の長さと発光ダイオード群LED2a,LED2b…の長さはほぼ同一に設定され、図3に示すように、各発光ダイオードLED1と各発光ダイオードLED2とが交互に配列された状態となっている。そして、線状基体31は例えば0.83mおきにカット位置Cが設定され、そのカット位置Cで切断することにより、線状発光体30は所望の長さにして使用することができるようになっている。
【0031】
そして、切断した線状発光体30の後端には図1に示すようにエンドキャップKを装着して、その後端で線状発光体30の導線32,34と導線33とが短絡してしまうのを防止する。また、線状発光体30の先端にはコネクタNを接続して、線状発光体30の導線32〜34と制御回路22,23の出力端子(図示せず)とを接続する。なお、制御回路22,23の出力端子のマイナスラインは共通とされている。
[使用方法]
図5および図6において、50は栽培ハウス内のイチゴを栽培する圃場であり、この圃場50の土壌(培地)52にイチゴ51が2列に植えられている。
【0032】
先ず、線状発光体30をその上面31aを上にして土壌52の上に直接はわせて配設する。ここでは、イチゴ51が2列に植えられているので、その中間位置に配設する。なお、線状発光体30の長さは、圃場50の長さに合わせてカット位置Cからカットして所定の長さに設定してある。
【0033】
次に、照明装置10の電源プラグPを栽培ハウス内に設けたコンセント(図示せず)に接続し、制御部20の操作キーを操作して発光ダイオードLED1,LED2で照射する時間帯と照射間隔を設定し、図示しないスタートスイッチを押す。
【0034】
そして、発光ダイオードLED1の設定した時間帯になると、複数の発光ダイオードLED1…が線状基体31の上面31aに向かって白色光を発光し、この白色光が線状基体31の上面31aで散乱し照射角度が広がるとともに上に向かって照射していき、イチゴ51の葉51Aの裏側を照射する。この葉51Aの裏面の照射により、葉51Aの光合成は活発に行われることになる。このため、白色光による日長延長は効率よく行えることになる。
【0035】
そして、その時間帯が過ぎれば、複数の発光ダイオードLED1…は自動的に消灯される。
【0036】
発光ダイオードLED2の設定した時間帯になると、複数の発光ダイオードLED2…が線状基体31の上面31aに向かって緑色光を発光し、この緑色光が線状基体31の上面31aで散乱し照射角度が広がるとともに上に向かって照射していき、イチゴ51の葉51Aの裏側を照射する。この緑色光の照射によりイチゴ51の病害抵抗性の向上により病害を抑制できるようになる。
【0037】
ここで、線状発光体30から葉の裏に向けて照射する光の角度は、葉の裏に照射できればよいので水平の角度以上であればよい。
【0038】
ところで、図7は線状発光体30を圃場50の上方に取り付けた場合を示すものであり、この場合(ケース1)と、図6に示す場合(ケース2)とで光の漏れを比較すると、例えばイチゴ51から横方向に2m離れた場所で照度を測定した結果、ケース1では500ルックスであり、ケース2では100ルックスであった。これは、下から上に向けて光を葉51Aを照射すると、その光が葉51Aによって遮られるためである。
【0039】
また、イチゴ51の中で最も活性が高く光り感受性も高いと考えられているクラウン部(イチゴ株の中心部)付近の照度を測定した結果、ケース1では葉51Aにより光が遮られるため500ルックスに止まったのに対して、ケース2では4000ルックスに達した。
【0040】
ケース1およびケース2に使用される線状発光体30の仕様を図10の表1に示す。なお、ここで使用される発光ダイオードは緑色光を発光する発光ダイオードLED2である。
【0041】
上述のように、白色光や緑色光を下から上に向けて葉51Aを照射しているので、その光が葉51Aによって遮られることになり、このため栽培ハウスから外へ白色光や緑色光が漏れてしまうのを防止することができる。また、下から上に向けて光を葉51Aに向けて照射するので、葉51Aに近い位置から照射することができ、このため大光量の光源が不要となる。
【0042】
また、線状発光体30を土壌52の上に直接はわせればよいので、線状発光体30を保持する器具は不要となり、また、線状発光体30は樹脂製の線状基体31に複数の発光ダイオードLED1…,LED2…を埋設したものであるから、防水性に優れるとともに照明装置10の設備のコストは安価なものとなる。
【0043】
線状発光体30は上から吊すものではないので、日中、線状発光体30やこれを保持する器具によって圃場50上に日陰ができてしまうこともない。
【0044】
さらに、線状発光体30は曲げることができるので、圃場50が曲がりくねっていてもその圃場50に沿ってはわせることができる。
[第2実施例]
図8に示す照明装置210は、制御部220とロープ状の線状発光体230とを有している。
【0045】
線状発光体230は、塩化ビニルなどからなる透明な線状基体231に発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を3列に埋設して構成したものである。発光ダイオードLED3は赤色光を発光し、発光ダイオードLED4は黄色光を発光する。
【0046】
制御部220は、発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を点灯制御する制御回路222〜224を有している。他は第1実施例と同様な構成なのでその説明は省略する。
【0047】
この第2実施例によれば、植物に対して病害抵抗性を高めることが知られている緑色光を発光するLED2に加えて、イチゴやキクなどで日長延長効果(電照効果)を発揮することが知られている赤色光を発光するLED3と、オオタバコガやハウスモンヨトウなど夜蛾に対して防除効果を発揮することが知られている黄色光を発光する発光ダイオードLED4とを設けたものであるから、目的に応じて発光ダイオードLED2…,LED3…,LED4…を点灯させることができる。このため、目的に応じて照明装置を別途設ける必要がない。
[他の例]
図9は他の例の照明装置110を示す。この照明装置110は、制御部120とロープ状の線状発光体130とを有している。
【0048】
線状発光体130は、塩化ビニルなどからなる透明な線状基体131に発光ダイオードLED2…一列に埋設して構成したものである。他は第1実施例と同様な構成なのでその説明は省略する。
【0049】
上記実施例は、いずれも線状発光体30,130,230がロープ状に形成されて折り曲げ可能となっているが棒状であってもよい。
【0050】
また、線状発光体30,130,230は、いずれも発光ダイオードによって線状発光体30,130,230を構成しているが、これに限らず、例えば蛍光灯、冷陰極ランプ、白熱電球、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、ネオン管、レーザ、レーザダイオード、エレクトロルミネッセンス、ケミカルルミネッセンスなどで、線状発光体を構成できれば光源の種類は問わない。また、列の数も1〜3列のものに限らず何列あってもよい。
【0051】
上記実施例は、いずれも線状発光体30,130,230の光をイチゴに照射するようにしているが、これに限らず、例えばナス,キュウリ,トマトや菊などの植物を照明してもよく、また、線状発光体30,130,230に限らず互いに独立した点光源(発光体)で照射するようにしてもよい。
【0052】
また、上記実施例はいずれも培地は土壌であるが、この土壌に限らず例えば養液栽培に使用するピートモスやロックウールなどの培地であってもよく、また水耕栽培に使用する発泡スチール製のパネルなどの培地であってもよい。
【0053】
この発明は、上記実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【符号の説明】
【0054】
10 照明装置
20 制御部
30 線状発光体
31 線状基体
50 圃場
51 イチゴ
52 土壌
LED1 発光ダイオード(光源)
LED2 発光ダイオード(光源)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を植えた培地の上に直接配置する発光体を備え、この発光体から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射することを特徴とする植物の照明装置。
【請求項2】
前記発光体は、線状に形成されるとともに前記培地上にはわせて配置する線状発光体であることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記線状発光体は、透明な線状基体と、この線状基体に長手方向に沿って埋設された複数の光源とを有することを特徴とする請求項2に記載の植物の照明装置。
【請求項4】
前記複数の光源は、発光する光の波長が異なる数種類の光源からなることを特徴とする請求項3に記載の植物の照明装置。
【請求項5】
前記複数の光源は、発光する光の波長別に点灯・消灯を行うようにしたことを特徴とする請求項4に記載の植物の照明装置。
【請求項6】
前記光源は発光ダイオードであることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1つに記載の植物の照明装置。
【請求項1】
植物を植えた培地の上に直接配置する発光体を備え、この発光体から発光する光を下から前記植物の葉の裏側に向けて照射することを特徴とする植物の照明装置。
【請求項2】
前記発光体は、線状に形成されるとともに前記培地上にはわせて配置する線状発光体であることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記線状発光体は、透明な線状基体と、この線状基体に長手方向に沿って埋設された複数の光源とを有することを特徴とする請求項2に記載の植物の照明装置。
【請求項4】
前記複数の光源は、発光する光の波長が異なる数種類の光源からなることを特徴とする請求項3に記載の植物の照明装置。
【請求項5】
前記複数の光源は、発光する光の波長別に点灯・消灯を行うようにしたことを特徴とする請求項4に記載の植物の照明装置。
【請求項6】
前記光源は発光ダイオードであることを特徴とする請求項3ないし請求項5のいずれか1つに記載の植物の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6A】
【図8】
【図9】
【図10】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−19715(P2012−19715A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158832(P2010−158832)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】
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