説明

植物の育成方法

【課題】低コストで乾燥地帯での作物・樹木の生育を可能とする方法を提供する。
【解決手段】水密性シートによって形成される容器状物中に、土壌若しくは植物が発根・生育するための土壌に代わる媒体(以下土壌等と言う)と、植物が必要期間生存するための栄養分及び水分とを入れ、播種又は植樹後土壌等上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合して該容器状物からの水分の蒸散を防ぐことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は通常では生育の困難な環境において、草本類若しくは木本類の植物を育成するための技術に属するものである。
【背景技術】
【0002】
熱帯乾燥地・砂地等、植物の生育に必要な水分の乏しい環境において、作物の栽培・樹林による緑化を行う場合には、他所から用水を引くか、或いは植物の根が十分に成長して深部から吸水出来るようになるまでの間、保水材によって所要量の水分を保持するような手段(例えば特許文献1)を設けることが必要である。用水路の建設は抜本的な解決策ではあるが、もともと安定な水源の乏しい環境においてこの方法が可能な場合は寧ろ例外的であり、所要経費も大きい。保水材の使用は小単位の容器を使用するもので、コスト的に広範囲の植林には有利ではなく、保水量にも限界があって、自力での吸水が可能になるまで長期間を要する環境には適さないと思われる。他方、地球温暖化の大きな要因の一つである森林面積の減少を回復するため、大規模な植林を進めることは世界的の急務であり、失われた森林の回復に加えて、従来植林が困難であった砂漠地帯等に対しても緑化を進めることの重要性が増大しつつあり、更には大規模森林地帯を一気に形成することによって局地気候自体に変化をもたらし、該森林の持続性を確保するような方策が可能になれば、環境対策に大きな貢献が期待される。
【特許文献1】特開2000−32840
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明においては、上述の如き社会的ニーズに対応して、従来植生が困難であった環境において、低コストで大規模な植物育成、特に森林の形成を可能とする方法を開発する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
(1)水密性シートによって形成される容器状物中に、土壌若しくは植物が発根・生育するための土壌に代わる媒体(以下土壌等と言う)と、植物が必要期間生存するための栄養分及び水分とを入れ、播種又は植樹後土壌等上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合して該容器状物からの水分の蒸散を防ぐことを特徴とする植物の育成方法。
(2)(1)記載の容器状物が、自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地に水密性シートを敷いて形成されたものであり、播種又は植樹後シート上部の余剰部分を折り返して土壌等上面を被覆して必要箇所を接合するか、若しくは別の水密性シートで土壌等上面を被覆して必要箇所を接合することを特徴とする植物の育成方法。
(3)(1)記載の容器状物が、自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地の底面部分表面及び側壁部表面に、水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該底面部分表面及び該側壁部表面に水密性高分子膜を形成して作られるものであり、播種又は植樹後土壌等上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合するか、播種又は植樹後土壌等上面に水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該上面に水密性高分子膜を形成することを特徴とする植物の育成方法。
(4)(1)〜(3)記載の何れかの容器状物中に、有害微生物の増殖を防止する機能及び/又は植物の生育を助ける機能を有する薬剤及び/又は微生物を付加することを特徴とする植物の育成方法。
(5)(1)記載の水分中に、直径10μm以下の、長期間安定に存在する空気泡及び/又は酸素気泡及び/又はオゾン気泡を含むことを特徴とする植物の育成方法。
(6)(1)〜(3)記載の何れかの容器状物を形成する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、植物の生育に伴い十分に成長した根によって破砕若しくは貫通されるものであることを特徴とする植物の育成方法。
(7)(1)〜(3)記載の何れかの容器状物上面を被服する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、発芽した植物により破砕若しくは貫通されるものであることを特徴とする植物の育成方法。
(8)(1)〜(3)記載の何れかの容器状物を形成する水密性シート若しくは水密性高分子膜及び/又は上面を被服する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、土壌中生物又は紫外線等による経時劣化性を有する材料によって作られることを特徴とする植物の育成方法。
(9)(8)記載の経時劣化性を有する材料が、必要な水密性及び/又は耐久性を与える同種又は異種の生分解性プラスチックスの積層物であることを特徴とする植物の育成方法。
(10)(2)又は(3)記載の自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地を十分に大規模なものとし、適当な樹種の播種・植樹により一挙に大面積の樹林を形成し、気候変動等を含む局地の自然環境を変化せしめ、水分の供給を改善して乾燥地を緑化することを特徴とする植物の育成方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、従来植物の生育が困難とされた環境における作物育成・森林形成が可能となり、地域の生活・広範囲な自然環境の改善に大きな貢献が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
第1の実施の形態:第1の実施の形態は、(1)、(2)及び(4)〜(9)に述べたように、水密性シートによって箱型或いは円筒型等適宜の形状の容器状物を作り、通常は土地を掘削してその中に収め、掘削土・砂又は適宜の客土を加えた掘削土に、目的とする植物が必要期間生育出来るだけの栄養分と水分とを混合して該容器状物を満たし、満たされた土の上面に目的とする植物を播種又は植樹し、更にその上を水密性シートで覆い、必要箇所を接合して該容器状物からの水分の逃散を防ぐものである。
【0007】
容器状物を形成する水密性シートは、育成される植物が比較的短期間に目的を達し、根張りが容器状物内のみで終わるものに対しては、所要期間耐久性のあるものであればよく、特別の性質を必要としない。しかし、樹木のように地中深く根を伸ばし、吸水して持続的な生育を行うものに対しては、根が容器状物の外に伸長することを妨げないように、少なくも部分的には根によって貫通又は破砕されるものでなければならない。一例としては、容器状物の全部又は一部を生分解性プラスチックスで作り、根の到達時に脆化が進行しているよう材料の選定及びシートの構成(必要に応じ同種又は異種シートの複層化)を行う。また、容器状物の底部の必要部分に水分の漏出が起きぬ程度の微細孔加工を行ってもよい。
【0008】
容器状物上面を被覆する水密性シートは、播種を行う場合には、種子の発芽に際し、その伸長を妨げぬよう、少なくとも部分的には芽によって貫通若しくは破砕されるものでなければならない。一例としては、被覆シートの全部又は一部を生分解性プラスチックスもしくは所定の速度で紫外線劣化を起こすプラスチックスで作り、発芽時に脆化が進行しているよう材料の選定及びシートの構成(必要に応じ同種又は異種シートの複層化)を行う。また、被覆シートの必要部分に水分の逃散が起きぬ程度の微細孔加工を行ってもよい。植樹を行う場合には、植樹作業を可能にするため被覆シートの必要箇所に切り欠き若しくは切れ目を設ける。
【0009】
容器状物は予め適当な形状に加工されたものであることが必須では無く、掘削孔または自然の窪地等に、上述の容器状物と同等の性質を持つ水密性シートを敷き、該シートの上辺を必要な長さだけ掘削孔或いは窪地の上辺よりも余分に高く出すことによって形成してもよい。また、該シートの上辺を折り返して満たされた土・砂の上面を覆い、被覆シートに代えることも可能である。
【0010】
容器状物中には、土・砂、水分及び栄養分の他に、有害微生物の増殖防止及び/又は植物の生育補助のため、適宜の機能を有する薬剤及び/又は微生物を付加することが出来る。また、同様の目的で、水分中に直径10μm以下の、長期間安定に存在する空気泡及び/又は酸素気泡及び/又はオゾン気泡を含有させることが出来る。
【0011】
第2の実施形態:第2の実施形態は、(3)〜(9)に述べたように、自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地の底面部分表面及び側壁部表面に、水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該底面部分表面及び該側壁部表面に水密性高分子膜を形成して容器状物を作り、播種又は植樹後土壌等の上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合するか、播種又は植樹後土壌等上面に水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該上面に水密性高分子膜を形成して第1の実施形態で述べたと同様の植物の育成方法を実施するものであって、場合により第1の実施形態よりも高い経済性が期待される。播種又は植樹後土壌等の上面に水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該上面に水密性高分子膜を形成する方法は、第1の実施形態において、土壌等の上面を水密性シートで被覆する方法に全面的若しくは部分的に換えて実施することも出来る。
【0012】
第3の実施形態:第3の実施形態は、(10)に述べたように、大規模な地域に対して第1又は第2の実施形態で述べたと同様の植物の育成方法を実施し、一挙に大面積の樹林を形成し、結果として気候変動を含む局地の自然環境を変化させ、降雨量・土地保水力の増大を齎して、砂漠等の厳しい環境において永続的な緑化を行うものである。砂漠等、土地深部においても水分が期待出来ず、他所からの灌漑もコスト・地勢の面から困難な環境においては、これまで緑化を計画することは出来なかった。しかし、本発明によれば極めて広い範囲にわたって一挙に森林を形成することが出来るため、砂漠のように全く樹木の生育が困難な地域の周辺にまず大森林を造成し、局地気候を変化させて降雨量の増大を図り、逐次森林を砂漠地帯に拡大することによって、従来不可能とされてきた地域に緑化を進めることが出来る。また、局地気候を変化させるに足る期間森林を維持し得る保水が確保出来れば、完全な砂漠地帯においても直接造林を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0013】
本発明は低コストで従来植物の生育が困難とされてきた環境での作物・樹木の育成を可能とするものであり、更に、大規模な森林形成により局地気候の変動・降雨量の増大を齎し、砂漠地帯の緑化を可能ならしめるものであって、温暖化対策・地域環境の改善に広範囲な利用が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水密性シートによって形成される容器状物中に、土壌若しくは植物が発根・生育するための土壌に代わる媒体(以下土壌等と言う)と、植物が必要期間生存するための栄養分及び水分とを入れ、播種又は植樹後土壌等上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合して該容器状物からの水分の蒸散を防ぐことを特徴とする植物の育成方法。
【請求項2】
請求項1記載の容器状物が、自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地に水密性シートを敷いて形成されたものであり、播種又は植樹後シート上部の余剰部分を折り返して土壌等上面を被覆して必要箇所を接合するか、若しくは別の水密性シートで土壌等上面を被覆して必要箇所を接合することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項3】
請求項1記載の容器状物が、自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地の底面部分表面及び側壁部表面に、水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該底面部分表面及び該側壁部表面に水密性高分子膜を形成して作られるものであり、播種又は植樹後土壌等上面を水密性シートで覆い、必要に応じて該シートと該容器状物とを適宜の方法で接合するか、播種又は植樹後土壌等上面に水性エマルション等の形態の高分子材料を含む液状物を噴霧し、該上面に水密性高分子膜を形成することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の何れかの容器状物中に、有害微生物の増殖を防止する機能及び/又は植物の生育を助ける機能を有する薬剤及び/又は微生物を付加することを特徴とする植物の育成方法。
【請求項5】
請求項1記載の水分中に、直径10μm以下の、長期間安定に存在する空気泡及び/又は酸素気泡及び/又はオゾン気泡を含むことを特徴とする植物の育成方法。
【請求項6】
請求項1〜3記載の何れかの容器状物を形成する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、植物の生育に伴い十分に成長した根によって破砕若しくは貫通されるものであることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項3記載の何れかの容器状物上面を被服する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、発芽した植物により破砕若しくは貫通されるものであることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項3記載の何れかの容器状物を形成する水密性シート若しくは水密性高分子膜及び/又は上面を被服する水密性シート若しくは水密性高分子膜の少なくとも一部が、土壌中生物又は紫外線等による経時劣化性を有する材料によって作られることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項9】
請求項8記載の経時劣化性を有する材料が、必要な水密性及び/又は耐久性を与える同種又は異種の生分解性プラスチックスの積層物であることを特徴とする植物の育成方法。
【請求項10】
請求項2又は請求項3記載の自然の地形及び/又は人為的な掘削によって形成された凹状地を十分に大規模なものとし、適当な樹種の播種・植樹により一挙に大面積の樹林を形成し、気候変動等を含む局地の自然環境を変化せしめ、水分の供給を改善して乾燥地を緑化することを特徴とする植物の育成方法。

【公開番号】特開2009−11303(P2009−11303A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201294(P2007−201294)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000100757)アイシーエス株式会社 (26)
【出願人】(501326724)
【Fターム(参考)】