説明

植物栽培用害虫侵入防止ハウス

【課題】 換気扇を備えた植物栽培用ハウスにおいて、農業害虫等の侵入を低減できる、農業害虫等の侵入防止機能を有する植物栽培用ハウスを提供する。
【解決手段】 前記ハウス内と前記ハウスの外部との境界部に設置された、吸気用換気扇(i)の1個ないし複数個の運転による風量の調整により、前記外部の気圧に対して前記ハウス内を正圧化するか、あるいは、吸気用換気扇(i)と排気用換気扇(e)の複数個の同時運転による風量バランスの調整により、前記外部の気圧に対して前記ハウス内の気圧を総合して正圧化し、かつ、前記ハウス内の換気が行われることによって前記ハウス内の気温がほぼ外部の気温並みに維持されてる、植物栽培用害虫侵入防止ハウスを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は植物栽培用ハウスに関し、農業害虫や衛生害虫などの侵入防止機能を有する植物栽培用ハウスに係わる発明である。
【背景技術】
【0002】
栽培する農作物や草木類などの害虫による被害は、露地栽培ならびにハウス栽培ともに、深刻な問題である。
植物栽培用ハウスにおいても、窓部の防虫ネットは害虫の侵入防止の観点からも完全とはいえず、さらに植物栽培用ハウスは、鉄骨や硬質合成樹脂などによる躯体に、軟質あるいは硬質シ−ト材などで覆った如き簡易なハウジングの構造であるので、一般的に前記ハウジングの随所に隙間のある構造にならざるを得ない。
したがって、植物のハウス栽培においても、前記隙間などから農業害虫などが侵入し、特に飛翔性害虫や小型の農業害虫の被害を蒙ることになる。
【0003】
次に、害虫の侵入の防止機能を有する植物栽培用ハウスに係わる文献の例を示す。
【特許文献1】特開2003−339253
【特許文献2】特開2003−210049
【特許文献3】特開平6−121625
なお、引用文献からの引用文およびその説明は、前記引用文の表現をそのまま用いるものとする。
【0004】
「特許文献1」は、無用な害虫の侵入防止、寒冷時の保温、風雨による雨水浸入防止効果に優れ、しかも通気性、透湿性が十分に確保されている農業用ハウス被覆材に関する開示である。
「特許文献1」の段落番号「0008」に、「・・農業ハウス被覆材は、熱可塑性樹脂で形成されたフィルムからなり、全光線透過率が30%以下であり、該フィルムの1方向に伸びる幹フィブリルと前記幹フィブリル間を連結する枝フィブリルとからなる3次元網状組織により形成される微細孔を有し、前記枝フィブリルの形成密度が前記幹フィブリルの形成密度より高いことを特徴とする。」と開示されている。
【0005】
また、「特許文献1」の段落番号「0012」に、「・・バブルポイント法(ASTM F316−86)により求めた前記微細孔の平均微孔直径d(μm)と、水銀注入法(JIS K1150)により求めた前記微細孔の平均微孔半径r(μm)とが下記式1.20<=2r/d<=1.70を満たすものであることが望ましい。」と開示されている。
また、「特許文献1」の段落番号「0017」に、「・・農業用ハウス被覆材は、ガ−レ−値(通気度)が10〜1000秒/100molであることが好ましい。」と開示されている。
つまり、「特許文献1」は、無用な害虫の侵入防止、寒冷時の保温などの効果があるところの、微細孔を有する熱可塑性樹脂フィルムによる農業用ハウス被覆材の構造に関する開示である。
【0006】
「特許文献2」は、無用な害虫の侵入防止、寒冷時の保温、風雨からの保護等の他に、通気性が十分に確保され、しかも光の利用効率が高く、光の透過も小さな農業用ハウス被覆材に関する開示である。
「特許文献2」の段落番号「0007」に、「ポリオレフィン系熱可塑性樹脂にて形成されたフィルムからなり、微細孔を有する多孔性であり、全光線透過率が30%以下であることを特徴とする。」と開示されている。
また、「特許文献2」の段落番号「0008」に、「・・前記微細孔は、平均微孔直径dが0.06〜3μmであることが好ましい。」と開示されている。
つまり、「特許文献2」は、無用な害虫の侵入防止、寒冷時の保温などの効果があるところの、微細孔を有するポリオレフィン系熱可塑性樹脂フィルムによる業用ハウス被覆材の構造に関する開示である。
【0007】
「特許文献3」は、農業用のハウス、トンネル等の施設における、通気性確保のための施設の横部を開放しなくてもよい、通気性施設園芸用被覆材に関する開示である。
「特許文献3」の段落番号「0006」に、「・・透明合成繊維からなる糸条により構成された編目状シートに、該糸条より低い融点を有しか高周波融着性を有する透明合成樹脂を付着させ、孔の径が0.1mm以上で、孔の面積が0.01〜1.0mmの範囲にある通気孔を編目状に形成してなることを特徴とする。」と開示されている。
つまり、「特許文献3」は通気性が良好で散乱光が多く、害虫の侵入を阻止できるなどの効果のある通気性施設園芸用被覆材の構造に関する開示である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
わが国の主要な栽培植物の害虫の種類は、農業害虫といわれる、葉、茎、果実を食害するニカメイチュウ、トヨウガ、コガネムシなど、また吸汁の害あるいは病源を伝えるウンカ、ヨコバイ、アブラムシなど、さらに営巣の害を与えるアリ、ハチなどである。
また、コナジラミ類、アザミウマ類、ダニ類などの比較的小型の農業害虫の被害も報告されている。
また、作業者にとっても衛生害虫である蚊や、人に危害を与えるハチなども脅威にほかならず、本発明ではこれら害虫を総称して、農業害虫等と称するものとする。
露地栽培法においては、前記農業害虫等の被害を直接的に受けるが、ハウス栽培においても前記害虫等の侵入を受けて被害を蒙ることがある。
【0009】
植物栽培用ハウスには、側面や間口面などに開口部を設けたオープン式の植物栽培用ハウス、4mmピッチ前後の目の粗い防鳥ネットを具備した窓部付き植物栽培用ハウス、または1mmピッチ程度の防虫ネットを具備した窓部付き植物栽培用ハウス、あるいは窓部のない無窓の植物栽培用ハウスとがある。
本発明は、ハウス内に外気を取入れるための窓付き植物栽培用ハウス、あるいは無窓植物栽培用ハウスを対象とするので、以降、植物栽培用ハウスとは、防虫ネットを具備した窓部付き植物栽培用ハウス、あるいは無窓の植物栽培用ハウスを指すものとする。
なお、前記窓付き植物栽培用ハウスの窓部に巻上げ式の遮蔽シ−トを設けて、寒冷季などの保温のために、必要に応じて前記窓を閉状態とすることができる植物栽培用ハウスもある。
【0010】
また、植物栽培用ハウスは、前記したように鋼製パイプや硬質合成樹脂製パイプなどによる躯体に、軟質あるいは硬質シ−ト材などを覆ってハウジング部を形成しているので、前記シ−ト材間の継ぎ目個所、あるいは前記躯体と前記シ−トの締結個所など、随所に隙間のある構造である。
前記「特許文献1〜3」に開示されている植物栽培用ハウスのハウジング部材の例は、部材自体としては何れも優れた性能であると思われる。
しかしながら、かような部材を使用しても、前記隙間あるいは防虫ネットを備えた窓部などから侵入する農業害虫等の侵入を防止することは至難であると云わねばならない。
【0011】
植物のハウス栽培は、元来温室栽培ともいわれていたように、栽培する植物が露地栽培では適さない低温の季節に、保温目的で使われていた。
例えば、わが国の温帯地でのイチゴ栽培は、露地栽培の場合には2〜3月植えで、5月前後の収穫が普通である。
ところが、わが国では12中旬〜1月にイチゴの需要が多いことから、9〜10月植えで、寒冷期に入る11〜12月に栽培する必要があることから、保温のためのハウス栽培が行われている。
なお、イチゴの場合は逆に、露地栽培では適さない夏季の高温時に、短日処理や保冷するためのハウス栽培も行われている。
【0012】
近年、農業害虫等の侵入防止作用の強化を行うことが行われていて、0.4mmピッチ程度の目の細かい防虫ネットを適用し、その代わり窓を大きくとる傾向にある。
しかしながら、植物栽培用ハウスの窓に前記するような目の細かい防虫ネットを適用した場合、窓を大きくとってもハウス内空気と外気との交換性が極めて不良となり、温暖季や暑中季にはハウス内の気温が著しく上昇する。
5〜6月で外気温が大凡25〜29℃程度のときに、前記植物栽培用ハウス内の気温は40〜50℃程度にもなることが知られている。
植物のハウス栽培において、ハウス内の気温が大凡33℃程度以上に上昇すると、植物の成長が止まると云われていて、一般的に前記ハウス内の気温を大凡30℃程度以下に保つように工夫することがその要件となっている。
【0013】
温暖季や暑中季において、植物栽培用ハウス内の気温を降下させるために、前記植物栽培用ハウスの外部との境界である壁面や天井部に、換気扇を設置することが行われている。
前記換気扇による換気は、窓付き植物栽培用ハウスにあっては、主として冷却効率の面から、前記植物栽培用ハウス内の空気を前記換気扇で外部に排気して外気圧に対し負圧とし、前記植物栽培用ハウスの主として防虫ネットを具備する窓から、外部の空気を取込む形式が殆どである。
また、無窓の植物栽培用ハウスにあっては、前記植物栽培用ハウス内の空気を前記換気扇で排気して外気圧に対し負圧とし、前記植物栽培用ハウスの特別に設けた吸気口からか、および/あるいは自然体の吸気で外の空気を取込む形式である。
また、植物栽培用ハウスを密閉して、壁面から水細霧と循環風を送り出す装置で、水の気化による熱吸収を利用して、ハウス内気温を外気温より8℃前後降下させている水細霧ファン法を採用している例もある。
【0014】
植物栽培用ハウスと外部との境界に換気扇を設置し、前記植物栽培用ハウス内から外部に排気する方法においては、前記植物栽培用ハウス内が負圧状態になり、外部から前記植物栽培用ハウス内へ向けて空気の流れが生る。
農業害虫等が前記空気の流れに乗って、前記植物栽培用ハウスのハウジング隙間などをすり抜けて、前記植物栽培用ハウス内に農業害虫等が侵入し易くなることにつながる。
また、比較的細かい1〜0.6mmピッチ程度の防虫ネットを具備した窓部では、トヨウガ、ヨコバイ、アリ、あるいはハチなど、比較的大型の農業害虫等は侵入を防ぐことができるが、小型の農業害虫等であるコナジラミ類、アザミウマ類、ダニ類などは前記空気の流れに乗って前記防虫ネットをすり抜けてしまう。
なお、飛翔性の農業害虫等でなくても、前記小型の農業害虫等が負圧状態の植物栽培用ハウス内に、空気の流れに乗って侵入することが知られている。
【0015】
窓部の防虫ネットをさらに細かい0.4〜0.2mmピッチ程度にしても、前記窓部からの侵入を防ぐことができても、前記植物栽培用ハウス内が負圧状態のもとでは、前記植物栽培用ハウスのハウジングの隙間などに発生する空気の流れに乗って農業害虫等が侵入してしまうので、前記防虫ネットを細かくすることが無意味になる。
また、前記植物栽培用ハウス内が外気圧と同レベルであっても、農業害虫等が前記植物栽培用ハウスのハウジングの隙間などをすり抜けて、前記植物栽培用ハウス内に侵入する。
かような現状から、前記ハウスのハウジングなどに隙間が多少存在しても、防虫ネットを具備した窓があっても、農業害虫等が侵入し得ない、植物栽培用ハウスの提供が当業者に望まれているところである。
【0016】
本発明は、換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウス、あるいは換気扇を備えた無窓の植物栽培用ハウスにおいて、上記従来の課題を考慮して、農業害虫等の侵入を極めて少なくできるところの、農業害虫等の侵入防止機能を有する、植物栽培用ハウスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者は前記目的を考慮して鋭意検討の結果、下記の考案に至った。
すなわち、図1に描く如き換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウス、あるいは換気扇を備えた無窓の植物栽培用ハウスにおいて、前記植物栽培用ハウス内と前記植物栽培用ハウスの外部との境界部に、図3に描く如き吸気用換気扇が1個ないし複数個設けられていて、前記吸気用換気扇の風量を調整することによって、前記植物栽培用ハウス内の気圧を、前記外部の気圧に対して正圧にすることを特徴とする、植物栽培用害虫侵入防止ハウスの発明に至った。
【0018】
加えて、前記植物栽培用ハウス内の気圧を、前記外部の気圧に対して気圧差として5Pa(パスカル)以上高く維持されていることを特徴とする、植物栽培用害虫侵入防止ハウスの発明である。
【0019】
さらに、図1に描く如き換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウス、あるいは換気扇を備えた無窓の植物栽培用ハウスにおいて、前記植物栽培用ハウス内と前記植物栽培用ハウスの前記外部との境界部に、図3に描く如き吸気用換気扇、および図4に描く如き排気用換気扇が、合計で複数個設けられていて、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の同時運転による、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の風量バランスの調整によって、前記植物栽培用ハウス内を前記外部の気圧に対して正圧とし、かつ、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の前記同時運転による前記植物栽培用ハウス内の換気が行われることによって、前記植物栽培用ハウス内の気温が、ほぼ前記外部の気温並みに維持されていることを特徴とする、植物栽培用害虫侵入防止ハウスの発明である。
【0020】
加えて、前記植物栽培用ハウス内を前記外部の気圧に対して、気圧差として5Pa以上高く維持され、かつ、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の前記同時運転による前記植物栽培用ハウス内の換気が行われることによって、前記植物栽培用ハウス内の気温が、ほぼ前記外部の気温並みに維持されていることを特徴とする、植物栽培用害虫侵入防止ハウスの発明である。
【発明の効果】
【0021】
(1) 植物栽培用ハウスの内側と外部との境界部に換気扇を設け、前記換気扇は前記ハウス内に向けて総合して吸気状態とし、外気圧に対して前記ハウス内が常に正圧になるように設定された害虫侵入防止機能を有する植物栽培用ハウスを提供し得た。
かような構造の植物栽培用ハウスは、前記ハウスの防虫ネットを備えた窓部や、前記ハウスのハウジング材の隙間部などから外部に向かう空気の流れが生じ、飛翔性の農業害虫等が前記空気の流れに逆らって、前記ハウス内に移動できない。
また、前記ハウジング材の隙間や防虫ネット付き窓部などに生息する、非飛翔性の農業害虫等も外に向かう前記空気の流れに逆らっては移動できない。
また、飛翔性、非飛翔性を含めて小型の農業害虫等の侵入防止に特徴的な効果がある点も、植物栽培用ハウスへの利用性が高いといい得る。
したがって、農業害虫等の侵入防止防止効果の高い植物栽培用ハウスとなる。
(2) 植物栽培用ハウス一棟に複数の換気扇、つまり吸気用換気扇および排気用換気扇による複数の換気扇を具備させることによって、吸気と排気の風量のバランスをとって、外気圧に対し前記ハウス内を正圧状態とし、かつ、外気を強制的にとり入れるができる。
したがって、外気温が高い夏季などに、外気温より僅かに高い程度の外気温並みの植物栽培用ハウス内気温に維持することができ、植物栽培に不適当な高気温になることを防ぐことができる。
(3) 植物栽培用ハウスの内部と前記ハウスの外部との境界部に、1個ないし複数個の換気扇が設けられているだけの簡単な構造であり、前記換気扇の風量などの設定のみで、害虫の侵入防止防止効果の高い植物栽培用ハウスとなる。
(4) 前記ハウスの防虫ネットを備えた窓部や前記ハウスの間隙部などで、飛翔性の農業害虫等が害虫が風力に逆らって移動できず、あるいは非飛翔性の農業害虫等が移動できなくなる程度の空気量を送る換気扇の消費エネルギは極めて小量であり、したがって電力消費量は少なく、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
発明の実施の形態を実施例にもとづき、図面を参照して説明する。
図1は、植物栽培用害虫侵入防止ハウスの斜視略図であり、複数の軸流式換気扇が設置されている例である。
図1において、植物栽培用ハウス(以降単に、ハウスとも称す)全体の斜視略図1、ハウス屋根部2、ハウス壁面3、出入口4、換気扇5、および防虫ネットを具備したハウス窓部6を描いていて、前記ハウス屋根部、前記ハウス壁面で前記ハウスのハウジング部を形成している。
複数の換気扇5は、前記ハウス内に向けて吸気、あるいは前記ハウス内から排気するような方向に設置されている。
窓部6の開口部には図示していないが、防虫ネットが具備され、窓部6の前記開口部には必要に応じて窓部6を遮蔽する巻上げ式などの遮蔽シ−トが設けられている。
【0023】
図2は、図1に描く複数の換気扇5の高さの位置における水平面である、X−X断面略図を描いている。
すなわち図2は、ハウス壁面3に設置された複数の換気扇5の水平面における各位置を描いている。
図2における前記ハウスの各位置における換気扇を、図1の入口部4のある間口部壁面の換気扇5から右回りで、おのおの5A(i)、5B(i)、5C(e)、5D(i)、5E(i)、5F(e)、5G(i)、および5H(e)と付番している。
また、各換気扇が動作した場合の発生風力の方向について、(i)は吸気(intake)用換気扇、(e)は排気(exhaust)用換気扇の別を略号で示している。
また、矢印7は各換気扇における空気の流れ方向を示している。
【0024】
図3は、吸気用換気扇スタックの断面方向における透視略図で、図2において(i)と付番した換気扇の例の略図である。
図3に描く如き、換気扇、換気扇収納部および防虫ネットなどからなる換気扇囲い部を、換気扇スタックと称する。
前記吸気用換気扇スタックは、前記ハウスの前記壁面の躯体11に固定されていて、図において躯体11を介して前記換気扇スタックの左側がハウス内、つまり矢印10の方向がハウス内であり、図では隠れている羽根車からなる軸流式の換気扇13前後の空気の流れは、矢印12方向である。
【0025】
換気扇スタックには、前ガード14、後ガ−ド15を備えた羽根車内在の換気扇13と、前記換気扇スタックの外側開口部、つまり図において右側には、粗破線で示す枠付き防鳥ネット16が設置され、前記スタックの内側開口部には、破線で示すの枠付き防虫ネット17が設置されている。
枠付きの防鳥ネット16、および枠付きの防虫ネット17は、前記スタックの両側開口に部分断面図で示し、枠付き両ネット部は、容易に交換できるようになっている。
粗破線で示す防鳥ネット自体は、例えば4mmピッチ程度の目の粗いネットで、外部からの鳥類や比較的大きな農業害虫等、木の葉など物体の侵入を阻止する役割である。
破線で示す防虫ネット自体は、織り目の細かいネットである必要があり、前記換気扇の風力で農業害虫等が侵入しない設計とする。
【0026】
図3に示す枠付き防鳥ネット16や、枠付き防虫ネット17は、換気扇の運転によって頻繁に目詰りすることが考えられるので、前記枠付防鳥ネットや前記枠付防虫ネットは、容易に交換可能にする必要がある。
例えば、図3の前記換気扇スタックの、左側開口部の部分断面部と右側開口部の部分断面部のネット上下枠部23、下枠部23に描く如き方式でもよい。
すなわち、前記ネット枠部を上部の逆凹型レ−ルの底部まで一杯に引上げると、下部レ−ルの浅い凹型レ−ル部から、下の枠が外れる仕組みである如き、引戸式雨戸や襖に見られるような嵌め込式固定法の採用は、容易に外すことができる簡易な方法の一つである。
【0027】
図4は、排気用換気扇スタックの断面方向における透視略図で、図2において(e)と付番した換気扇の例の略図である。
前記排気用換気扇スタックは、前記ハウスの前記壁面の躯体11に固定されていて、図において躯体11を介して前記換気扇スタックの左側がハウス内、つまり矢印21の方向がハウス内であり、図では隠れている羽根車からなる軸流式の換気扇13前後の空気の流れは矢印22方向である。
【0028】
前記排気用換気扇スタックは、図3に描く吸気用換気扇スタックを裏返して設置して、空気の流れを前記ハウスから外向きにしたのみでもよい。
しかしながら、ハウス内は農業害虫等が少なく、鳥類は居ないので、図3に描く防鳥ネット16は不要である場合が多いので、図4では防虫ネット17のみを備えた排気用換気扇ユスタックの例として描いている。
図4に示す排気用換気扇スタックについての、その他の要件は前記した図3における説明と同様である。
【0029】
図3および図4に示す防虫ネット17は、その織目が0.4〜0.2mmピッチ程度の密な防虫ネットとし、送風機の強い風力でも前記ハウス内に飛翔性害虫が、すり抜けて侵入しないようにする。
防虫ネットの材質は、PP(ポリプロピレン)樹脂、PE(ポリエチレン)樹脂などの熱可塑性合成樹脂製のモノフィラメント糸による織物ネットが適用できる。
織目が動かないように織物ネットの交差個所は、熱融着法などで固定してスリップ防止処理したものが望ましい。
また、糸同士の交差点が動き難い、絡み織り組織、あるいは編み組織による編織布を用いてもよい。
防虫ネットの材料は、真鍮、ステンレス鋼などの金属製線材による防虫ネットがさらに適合し、加えて織り目の交差個所をエポキシ接着剤などで固定したものが望ましく、剛性の高い金属製ネットは、換気扇の強い風力でも歪み難いので好ましい防虫ネットといえる。
【0030】
換気扇スタックおよびその近傍は換気扇の運転中、つまり前記換気扇の運転中の吸気、あるいは排気時に発生する乱気流に伴って、害虫が前記ハウス内に侵入することを完全に防ぐ必要がある。
植物栽培用ハウスの多くは簡易な組立て式のハウジングであるので、随所に空隙部があるのが普通であるが、換気扇スタックおよびその近傍には、換気扇の運転によって乱気流が発生しやすいので、少なくとも換気扇スタックの近傍には空隙部を作らないようにすることが肝要である。
【0031】
ところで、本発明の植物栽培用ハウス内を正圧にする機能は、建築基準法による換気方式のモデルでの説明が分かりやすい。
建築物における換気の方式には、自然換気方式と機械換気方式とがあり、前者は自然風力やハウス内外温度差利用などの方式であり、後者は送風機や換気扇などによって強制的に換気を行う方法である。
後者の強制的に換気を行う方法の例として、第1種換気方式である吸気と排気併用法、第2種換気方式である吸気法、および第3種換気方式である排気法とがある。
【0032】
図5は、本発明の植物栽培用ハウスの機能を説明するための前記機械換気方式のモデル略図である。
図5において、左図30は第1種換気方式、中図31は第2種換気方式、および右図32は第3種換気方式の各モデル略図である。
図5の左図30は前記第1種換気方式を示し、吸気送風機33によって室内34に外気を矢印35の方向から吸気すると共に、排気送風機36によって室内34から室外に矢印37方向に排気する。
したがって、前記第1種換気方式の場合は、吸気送風機33と排気送風機34の風量バランスによって、室内34を正圧あるいは負圧の何れにも設定できる。
【0033】
図5の中図31は前記第2種換気方式を示し、吸気送風機38によって室内39に外気を矢印40の方向から吸気し、排気は単なる開口部である排気口41から矢印42方向に自然体で排気される。
したがって、前記第2種換気方式の場合は、吸気送風機38からの強制的吸気のみであるので、室内39は正圧となる。
図5の右図32は前記第3種換気方式を示し、排気送風機43によって室内44から矢印45方向に排気するのみであって、吸気は単なる開口部である吸気口45から矢印46方向に自然体で吸気される。
したがって、前記第3種換気方式の場合は、排気送風機43からの強制的排気のみであるので、室内44は負圧となる。
なお、左図30の(+−)符号46は正圧にも負圧にもできること、中図31の(+)符号47は正圧のみであること、右図の(−)符号48は負圧のみであることをおのおの示している。
【0034】
本発明の植物栽培用害虫侵入防止ハウスにおける害虫侵入防止作用は、前記ハウスの外気に対し正圧状態、つまり前記ハウス外部の気圧より、前記ハウス内の気圧が高く維持されることにある。
この状態が維持されれば、前記ハウス内外の気圧差に伴う前記ハウスから外部向きの空気の流れが生じ、図1に描く防虫ネットを備えた窓部6、および前記ハウスのハウジング材などの間隙部などから前記ハウス外部へ流出空気が生じる。
したがって、飛翔性農業害虫等が前記流出空気に逆らって飛翔できないので、前記ハウス内に侵入し得ない。
また、前記ハウスのハウジングの隙間などに生息する非飛翔性農業害虫等も前記流出空気に逆らって、前記ハウス内に移動し得ない。
【0035】
次に、本発明の植物栽培用害虫侵入防止ハウスにおける二つのタイプについて説明する。
前記二つのタイプの一方は、図5の中図31に示す第2法適用ハウスである。
植物栽培用ハウスは本来、植物の露地栽培に適さない寒冷期に、保温や加温によって栽培可能にするか、あるいは植物の露地栽培に適す季節においても、保温によって植物の栽培速度を促進するなどの目的の施設である。
したがって前記ハウス内は温室内と同じで、外気温に対し高温になる方向であるが、ハウス内気温が植物の栽培に適する気温を越えない限り、ハウス内に対し吸気のみで、外部気圧に対し正圧とすることができる。
【0036】
これによって、前記ハウスの防虫ネットを備えた窓部、および前記ハウスのハウジング材などの間隙部から前記ハウス外部へ流出空気が生じ、飛翔性農業害虫や非飛翔性農業害虫が前記流出空気に逆らって前記ハウス内に移動し得ない。
この場合は、吸気用換気扇1個でも前記ハウス内を外気圧に対し正圧にすることが可能である。
【0037】
前記二つのタイプの他方は、図5の左図30に示す第1法適用ハウスである。
すなわち、図2に描くように、ハウスに対し吸気用換気扇、および排気用換気扇を複数個設置し、前記複数個の換気扇の風量バランスによって、外部の気圧に対してハウス内を正圧とし、かつ外気も十分に取り入れ、前記ハウス内気温をほぼ外気温並みに維持することが可能な方式である。
【0038】
一般的に、ハウス内気温が30℃以上になると、前記ハウス内の栽培植物の成長が止まると云われている。
また、一般的に図1に描く防虫ネットを具備した窓部の、前記防虫ネットは防虫効果を上げるため、0.4mmピッチ程度の細かいメッシュとしている例が多い。
かように細かいメッシュであると、窓部の面積をかなり大きくとっても、前記窓を通した換気が殆ど行われない。
このようなハウスにおいては、晩春季、夏季、暑中季あるいは早秋季など、例えば外気温が大凡25〜30℃のときに、ハウス内気温が大凡40〜50℃程度になることが知られていて、このような高気温になると、植物の栽培が不可能になる。
【0039】
従来から外気温が温暖時や高温時に、外気温なみのハウス内温度に維持するために、機械換気方式の換気装置である換気扇などが使われてきた。
その方式は殆どの場合換気効率の面から、図5の右図32に描く前記第3法モデル適用方式により、排気送風機43による排気を行ってきた。
この前記第3法モデル適用方式は、外気圧に対し前記ハウス内が負圧となる方式で、この方式で換気を強制的に行ってきたものである。
この前記第3法モデル適用方式は、前記ハウス内外の気圧差に伴って、外からハウス内に向かう空気の流れが生じ、図1に描く防虫ネットを具備した窓部6、および/あるいは前記ハウスのハウジング材などの間隙部などから前記ハウス内部へ空気が流入し、これに乗って、農業害虫等がハウス内に侵入することになる欠陥があった。
【0040】
前記第1法モデル適用方式による正圧法では、ハウスにおいて吸気用換気扇、および排気用換気扇を複数個設置し、前記複数個の換気扇の風量バランスによって、外気温並みのハウス内気温に維持して、かつ、前記ウス内を所定の正圧とすることができる。
かようにすることによって、前記ハウスの防虫ネットを備えた窓部、および/あるいは前記ハウスのハウジング材などの間隙部から前記ハウス外部へ流出空気が生じ、飛翔性害虫が前記流出空気に逆らって前記ハウス内に侵入し得ない。
また、前記ハウスのハウジングの隙間などに生息する非飛翔性農業害虫等も前記流出空気に逆らって、前記ハウス内に移動し得ない。
【0041】
図1に描くような、間口6m、奥行50m、平均高2.5mの実験用に作った植物栽培用ハウスの壁面に、軸流式の換気扇を具備した換気扇ユニット8個を、図2に示す如く壁面に設置した。
前記ハウスで、前記ハウス内外気圧差と、前記ハウスに侵入した農業害虫等との関係を検討した。
検討は、農業害虫などの多い10月中旬の涼しい日を選んで、図2に示す吸気用換気扇5A(i)と5E(i)のみを運転して、連続式サイクロコンバ−タで周波数を変更する方法で、軸流式換気扇の回転数によって風量を変更し、外気圧に対する前記ハウス内の気圧差を変更して行った。
かようにして、ハウス内外の気圧差と農業害虫等の侵入数との関係を検討した結果、前記ハウス内が外気圧に対し正圧であれば、農業害虫等の侵入が低減することが分かった。
また、前記外部気圧より気圧差が大凡5Pa程度以上高く維持されていれば、農業害虫等の侵入が著しく低減することが分かった。
【0042】
前記ハウスの内部と前記植物栽培用ハウスの外部との境界部に、吸気用換気扇および排気用換気扇を、おのおの1個ないし複数個設ける。
しかして、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の風量バランスによって、前記外部気圧に対し前記ハウス内を正圧として、かつ、前記ハウス内の換気が十分行われるようにすることによって、農業害虫等のハウス内への侵入が低減し、前記ハウス内気温も外部気温に対してさほど高くならないことが分かった。
また、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の風量バランスによって、前記外部気圧に対し前記ハウス内を大凡5Pa程度以上高く維持し、かつ、前記ハウス内の換気が十分行われるようにすることによって、農業害虫等のハウス内への侵入が著しく低減し、前記ハウス内気温もほぼ外部気温並みになることが分かった。
なお、本発明においては、前記ハウス内の気温が外気温より数度高い程度である状態を外気温並みと称している。
【0043】
本発明の植物栽培用害虫侵入防止ハウスに使用する換気扇は、軸流式の送風機以外でも適用でき、遠心式である多翼式(シロッコファン)、ラジアル式、あるいはタ−ボ式などの送風機も適用できる。
かような送風機の使用においても、空気が通過する面には、ハウスの内側に防虫ネットと、外側に防鳥虫ネットを備え、発生する乱気流に伴って害虫が前記ハウス内に侵入することを完全に防ぐ必要がある。
また、本発明の植物栽培用害虫侵入防止ハウスにおいて、例えば前記ハウス内への吸気用の送風には多翼式、ラジアル式、あるいはタ−ボ式送風機を用い、排気用には軸流式送風機を用いるなど、送風形式の異なる送風機を適用することもできる。
【実施例1】
【0044】
図1に描く如き、間口6m、奥行50m、平均高2.5mの実験用の植物栽培用ハウスの壁面に、羽根車の回転径が3ft(915mm)の軸流式の換気扇を具備した換気扇5を図2に描く如く前記ハウスの壁面に設置した。
換気扇は8個設置し、外の気圧に対し前記ハウス内を正圧とする検討とし、図2に示す吸気用換気扇5A(i)と5E(i)を運転した。
比較用に、換気扇を使わない場合、および外の気圧に対し前記ハウス内を負圧とする場合も検討に加え、負圧とする場合は、図2に示す排気用換気扇5C(e)と5H(e)を、運転した。
【0045】
使用換気扇は、三相200V8極仕様のモ−タを使用した、軸流式の羽根車直結型換気扇である。
前記換気扇の風量にほぼ比例関係にある回転数(rpm)を任意に設定するために、2個の吸気用換気扇共用の連続式サイクロコンバ−タ方式周波数変換器を各換気扇共通の電力回路に挿入して、前記各換気扇の回転数を変更できるようにした。
また、2個の排気用換気扇共用の前記同様の周波数変換器を電力回路に挿入して、前記各換気扇の回転数を変更できるようにした。
【0046】
前記植物栽培用ハウスに設置した飛来昆虫捕虫器は、オプトクリンV;OC−105(イカリ消毒株式会社製)を用い、その仕様は波長420nm以下の紫外線を含む光線を放射する誘虫用蛍光灯20W1灯式で、その誘虫用蛍光灯の下部に粘着性捕虫紙が取り付けられている構造である。
前記大きさの植物栽培用ハウス内の場合、前記飛来昆虫捕虫器4個の使用で、侵入した害虫の殆どが夜間に捕捉されることが、プレテストの結果分かった。
したがって、夜間を経過した朝に前記捕虫器4個に捕捉された農業害虫等をカウントすれば、前記ハウスへの侵入害虫のほぼ全数であることが分かった。
【0047】
前記ハウス内外気圧差と、前記ハウスへの農業害虫等の侵入数との関係の検討は、次のように行った。
すなわち、前記ハウス内に前記飛来昆虫捕虫器を設置し、朝から連続48時間(2日間)に前記飛来昆虫捕虫器に捕獲された農業害虫の数と、ハウス内の正圧状態との関係を検討した。
また、前記ハウス内にはトマト、ナス、ニガウリなどを通常通り栽培した状態として、植物害虫の多い10月中旬の涼しい日を選んで検討を行った。
この検討結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1において、テストNo.欄はテスト番号を示し、使用換気扇欄は図2における換気扇番号を示す。
風量については、各共通の換気扇の電力回路に誘導式電力計を挿入し、消費電力から換気扇回転数を推定し、定格運転時の風量から計算で求めた。
風量欄は、符号(+)は吸気風量、(−)は排気風量を示す。
気圧差欄は、前記ハウス外部気圧に対する前記ハウス内の気圧差の実測値であり、測定装置は計測水を用いた精密液柱微圧マノメーターを使用して、前記ハウス内外の気圧差を測定したもので、数値は正圧は(+)、負圧は(−)とした。
ハウス内気温欄は、評価期間の時刻12時と20時の各日間の平均気温であり、ハウス外気温は同時刻の気温で、測定方法はハウス内と同様とした。
【0050】
ハウス内への侵入害虫の数は、前記飛来昆虫捕虫器の害虫捕捉数で示した。
なお、前記ハウス内への侵入した農業害虫等は、ヨウガ、コガネムシ、ヨコバイ、カ、テントウムシ、コナジラミ類、アザミウマ類、およびダニ類などであった。
表1によると、外部に対し前記ハウス内が正圧の場合のNo.1〜5では、害虫捕捉数が0、1桁、あるいは2桁と少なく、負圧の場合のNo.6、7は害虫捕捉数が3桁となっていてかなり多く、換気扇を使わないNo.8が次いで多いという結果であった。
また、表1に示されるように、外気温の前記平均値が19℃程度以下の場合、換気扇運転の場合で正圧の場合は、前記ハウス内が外気温より数度高く、負圧の場合は外気温との差が前記正圧の場合より小さく、換気扇の運転なしの場合は外気温より7℃弱程度高くなることが分かった。
また、前記ハウス内の外に対する気圧差と害虫捕捉数との関係については、外部の気圧に対し前記ハウス内が5Pa以上の気圧差があると害虫捕捉数、つまり前記ハウスへの侵入する農業害虫などが顕著に少なくなることが分かった。
【実施例2】
【0051】
夏季など外気温が高い季節では実施例1の如き吸気用換気扇の運転のみの場合に、外気温より、ハウス内の気温がかなり高くなり、ハウス内が植物栽培に不適当な高気温になることがある。
そこで、図5の左図30に示す第1法適用モデル適用のハウスにおける検討を行った。
すなわち、図2に描くように、ハウスに対し吸気用換気扇(i)、および排気用換気扇(e)を複数個設置し、前記複数個の換気扇の風量バランスによって外部の気圧に対してハウス内を正圧とし、かつ外気も十分に取り入れ、前記ハウス内気温を外気並みにすることが可能か否かについての検討を行った。
【0052】
実施例1と同じ実験用の植物栽培用ハウスで、換気扇の仕様は実施例1と同様で、図2に示す8個の換気扇を運転し、前記ハウス内外の気圧差、気温、および害虫捕捉数の検討を行った。
すなわち、使用した吸気用換気扇は、図2における換気扇5A(i)、5B(i)、5D(i)、5E(i)および5G(i)であり、前記吸気用換気扇共通の連続式サイクロコンバ−タを電力回路に挿入して、回転数を変更できるようにした。
また、使用した排気用換気扇は、図2における換気扇5C(e)、F(e)および5H(e)であり、前記排気用換気扇共通の連続式サイクロコンバ−タを電力回路に挿入して、回転数を変更できるようにした。
【0053】
風量は、吸気用換気扇5個および排気用換気扇3個別に、各共通の換気扇の電力回路に誘導式電力計を挿入し、消費電力から換気扇回転数を推定し、定格運転時の風量から計算で求めた。
その他の条件は、実施例1と同様とした。
実験は、農業害虫等が多く、気温の高い8月下旬の暑中季に検討を行ったものである。
この検討結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

【0055】
表2において、テストNo.欄はテスト番号を示し、吸気扇(i)とある欄は、図2における換気扇5A(i)、5B(i)、5D(i)、5E(i)および5G(i)の同時運転であり、風量は合計風量で示した。
また、排気扇(e)とある欄は、図2における換気扇5C(e)、F(e)および5H(e)の同時運転であり、風量は同じく合計風量で示した。
風量の(−)符号は排気風量が勝っていて(+)符号は吸気風量が勝っていることを示している。
気圧差欄は、前記ハウス外部気圧に対する前記ハウス内の気圧差の実測値であり、測定装置は実施例1で使用した計測水を用いた精密液柱微圧マノメーターを使用して、前記ハウス内外の気圧差を測定したもので、数値は正圧は(+)、負圧は(−)とした。
ハウス内気温欄は、評価期間の時刻12時と20時の各日間の平均気温であり、ハウス外気温は同時刻の気温で、測定方法はハウス内と同様とした。
【0056】
表2によると、No.11の換気扇を全く運転しない場合は、外部の気温に対し前記ハウス内の気温が10.5℃も高くなり、ハウス内気温が植物栽培に不適当な36℃を上回り、害虫捕捉数も3桁と多かった。
また、排気用換気扇のみ運転の場合のNo.12は、前記ハウス内気温は外気温に比較してほぼ外気温並みとなるが、ハウス内が負圧となって、害虫捕捉数は3桁と多くなった。
また、前記排気用換気扇の運転に、吸気用換気扇を同時運転した場合のNo.13は、前記排気用換気扇の風量が勝って、ハウス内が負圧になり、前記ハウス外部からの空気の流れが作用して、前記ハウス内気温がほぼ外気温並みでになるものの、害虫捕捉数は3桁で多かった。
【0057】
また、前記排気用換気扇の運転に加えて、吸気用換気扇の風量を増加して、ハウス内が正圧となったNo.14の場合は、前記ハウス内気温がさほど上がらずに、害虫捕捉数は2桁で減少した。
また、外部気圧に対して正圧で、吸気用換気扇の風量を増加したNo.15〜16は、害虫捕捉数が1桁となってさらに減少し、特にNo.15において、外部気圧に対しハウス内気圧が5Pa高いと、害虫捕捉数が顕著に減少することが分かった。
また、さらに吸気用換気扇の風量を増加したNo.17、18は、害虫捕捉数が0となった。
また、換気扇を備えた無窓植物栽培用ハウスの実験として、防虫ネットが具備された窓部の開口部を、巻上げ式遮蔽シ−トで遮蔽した場合について検討を加えた。
No.14、15、および17の条件と同条件で検討の結果、前記窓部の開口部を巻上げ式遮蔽シートで遮蔽した場合は、防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウスにおける結果と、ほぼ同様であった。
【0058】
以上の結果と、実施例1の結果を考え合わせると、換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウスにおいて、前記換気扇の運転によって、外部の気圧に対して前記ハウス内を負圧にした場合は、農業害虫等の侵入が換気扇を使用しない場合よりかなり多いことが分かった。
また、前記換気扇の運転によって、外部の気圧に対して総合的に正圧にした場合は、農業害虫等の侵入がかなり減少することが分かり、さらに外部の気圧に対して5Pa以上高く維持すると、農業害虫等の侵入が顕著に減少することが分かった。
【業上の利用可能性】
【0059】
植物栽培用ハウスの外部との境界部に換気扇を設け、前記換気扇は総合的に前記ハウス内に向けて吸気状態が勝って、外気圧に対し前記ハウスの内の気圧が正圧で、常に高く維持されるように設定された害虫侵入防止機能を有する植物栽培用ハウスを提供し得た。
かような構造の前記ハウスは、前記ハウスの防虫ネットを備えた窓部、あるいは前記ハウスのハウジングの隙間部などにおいて、前記ハウス内から外部に向かう風力が生じ、飛翔性の農業害虫等が風力に逆らって飛翔できず、したがって害虫の侵入防止防止効果が高く、農作物用や鑑賞用植物用などの植物栽培用ハウスへの利用性が高い。
また、飛翔性、非飛翔性を含めて小型の農業害虫等の侵入防止に特徴的な効果がある点も植物栽培用ハウスへの利用性が高い。
【0060】
前記ハウスのハウジングの間隙部や窓部などで、害虫が風力に逆らって飛翔できなくなる程度の空気を送る換気扇の消費電力は少なく、前記消費電力を含めた維持のための費用は極めて低い。
また、一棟の植物栽培用ハウスに複数の換気扇を具備させることによって、吸気と排気のバランスをとって、総合的に吸気状態、すなわちハウス内を外気圧に対し正圧状態に維持することができる。
したがって、前記ハウス内を外部より正圧状態を維持し、かつ、通風や換気を行って外気温並みハウス内気温に維持することができる。
以上、本発明は植物栽培用ハウスばかりでなく、蚊などの飛翔性の衛生害虫の侵入を防止する必要のある住宅や施設などにも援用でき、産業界に資するところが大きい。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】植物栽培用害虫侵入防止ハウスの斜視略図
【図2】図1における換気扇の高さ位置であるX−X水平断面部の略図
【図3】吸気用換気扇スタック部の断面方向の透視略図
【図4】排気用換気扇スタック部の断面方向の透視略図
【図5】機械換気方式の概念モデル略図
【符号の説明】
【0062】
1 植物栽培用ハウス全体の斜視略図
2 ハウスの屋根部
3 ハウスの壁面部
4 出入口
5 換気扇部
5A(i)、5B(i)、5D(i)、5E(i)、5G(i) 吸気用換気扇
5C(e)、5F(e)、5H(e) 排気用換気扇
6 防虫ネットを具備したハウスの窓部
7 矢印;各換気扇による空気の流れの方向
10 矢印;ハウス躯体を介して示すハウス内方向
11 ハウス躯体
12 矢印;換気扇による空気の流れ方向
13 換気扇
14 前ガ−ド
15 後ガ−ド
16 枠付き防鳥ネット
17 枠付き防虫ネット
21 矢印;ハウスの躯体を介して示すハウス内方向
22 矢印;換気扇による空気の流れ方向
30 左図;第1種換気方式
31 中図;第2種換気方式
32 右図;第3種換気方式
33 吸気送風機
34 室内
35 矢印;空気の流れ方向
36 排気送風機
37 矢印;空気の流れ方向
38 吸気送風機
39 室内
40 矢印;空気の流れ方向
41 排気口
42 矢印;空気の流れ方向
43 排気送風機
44 室内
45 矢印;空気の流れ方向
46 吸気口
47 矢印;空気の流れ方向
48 正圧と負圧を示すプラス、マイナス符号
49 正圧を示すプラス符号
50 負圧を示すマイナス符号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウス、あるいは換気扇を備えた無窓の植物栽培用ハウスにおいて、
前記植物栽培用ハウス内と前記植物栽培用ハウスの外部との境界部に、吸気用換気扇が1個ないし複数個設けられていて、
前記吸気用換気扇の風量を調整することによって、
前記植物栽培用ハウス内の気圧を、前記外部の気圧に対して正圧とすることを特徴とする、
植物栽培用害虫侵入防止ハウス。
【請求項2】
前記植物栽培用ハウス内の気圧を、前記外部の気圧に対して気圧差として5Pa以上高く維持されていることを特徴とする、
請求項1に記載する植物栽培用害虫侵入防止ハウス。
【請求項3】
換気扇を備えた防虫ネット付き窓を有する植物栽培用ハウス、あるいは換気扇を備えた無窓の植物栽培用ハウスにおいて、
前記植物栽培用ハウス内と前記植物栽培用ハウスの前記外部との境界部に、吸気用換気扇および排気用換気扇が、合計で複数個設けられていて、
前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の同時運転による、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の風量バランスの調整によって、
前記植物栽培用ハウス内を前記外部の気圧に対して正圧とし、
かつ、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の前記同時運転による前記植物栽培用ハウス内の換気が行われることによって、
前記植物栽培用ハウス内の気温が、ほぼ前記外部の気温並みに維持されていることを特徴とする、
植物栽培用害虫侵入防止ハウス。
【請求項4】
前記植物栽培用ハウス内の気圧を、前記外部の気圧に対して気圧差として5Pa以上高く維持され、
かつ、前記吸気用換気扇および前記排気用換気扇の前記同時運転による前記植物栽培用ハウス内の換気が行われることによって、
前記植物栽培用ハウス内の気温が、ほぼ前記外部の気温並みに維持されていることを特徴とする、
請求項3に記載する植物栽培用害虫侵入防止ハウス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−5823(P2008−5823A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−205351(P2006−205351)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(597073014)ロータリー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】