説明

植物栽培装置

【課題】上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させていく植物栽培装置において、上記栽培トレイから養液を簡単に排出できるようにする。
【解決手段】養液が貯留される養液タンク3と、この養液タンク3から養液をポンプ51により汲み上げて上段の栽培トレイ2から順に下段の栽培トレイ2へと当該栽培トレイ2同士を連通する循環パイプ54を通して養液を循環させていく養液循環システム5と、上記栽培トレイ2に接続された排水パイプ61及びこの排水パイプ61から上記栽培トレイ2内の養液を排出する排水制御バルブ63を備えた排水システム6と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多段に設けられた栽培トレイを用いて植物を栽培する植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平面視において互いに重なるように高さ方向に多段配置された複数の栽培ベッドを配置し、レタスなどの野菜を生育させることができる波長特性を持たせた電球形蛍光ランプを使用する立体多段式植物栽培装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、栽培室内に、養液が貯留される栽培容器の底壁の下面に複数の照明器を取付けてなる栽培器ユニットを上下方向に所定間隔をもって多段に配置する一方、該養液を、養液タンクと各栽培器ユニットの各養液容器の間で循環させ、循環経路中に冷却ユニットを介設し、各養液容器からの還流養液を放熱冷却して各養液容器へ供給する水耕栽培装置が開示されている。
【0004】
上記のように栽培トレイを上下方向に多段に配置する植物栽培装置においては、養液タンク内の養液を各々の栽培トレイに供給していくことになるが、この養液供給の方法として、上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させていく方法がある。例えば、上記栽培トレイの底部に貫通させた循環パイプの上端を上記底部の上方に突き出して位置させるとともに、上記循環パイプの下端を下段側の栽培トレイの底部に位置させておき、上記上段側の栽培トレイ内で上記循環パイプの上端を越えて溢れる養液を当該循環パイプに通して上記下段側の栽培トレイに導く方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−245554号公報
【特許文献2】特開2009−034064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、或る栽培トレイで育成された植物を出荷して新たに次の植物を育成しようとするときなどには、清掃等のために当該栽培トレイ内から養液を一旦排出することが必要とされる。しかしながら、上記のように上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させていく場合、循環ポンプの停止やバルブの閉止を行ったとしても、上記循環パイプの上端を越えない養液が上記栽培トレイ内に残るため、この残留養液を例えばバケツ等で栽培トレイ内から排水する作業が必要になり、作業者の労働負担が大きくなるという問題がある。
【0007】
この発明は、上記の事情に鑑み、上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させていく植物栽培装置において、上記栽培トレイから養液を簡単に排出できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の植物栽培装置は、上記の課題を解決するために、植物を育成する栽培トレイを上下方向に多段に配置した植物栽培装置において、養液が貯留される養液タンクと、この養液タンクから養液をポンプにより汲み上げて上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと当該栽培トレイ同士を連通する循環パイプを通して養液を循環させていく養液循環システムと、上記栽培トレイに接続された排水パイプ及びこの排水パイプから上記栽培トレイ内の養液を排出する排水制御バルブを備えた排水システムと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記の構成であれば、上記栽培トレイに接続した上記排水パイプから上記栽培トレイ内の養液を排水できるので、上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させる構造を採用しつつ上記栽培トレイから養液を簡単に排出することができる。
【0010】
上記栽培トレイに上記養液を上から供給する循環パイプは当該栽培トレイの一方の縁の側に設けられ、当該栽培トレイから上記養液を下側に導く循環パイプは当該栽培トレイの他方の縁の側に設けられているとともに、上記栽培トレイに対して個別に設けた上記排水制御バルブにより、排水対象となる任意の一つまたは複数の栽培トレイを選択できるようにしてもよい。ここで、上記栽培トレイに上記養液を上から供給する循環パイプと上記養液を下側に導く循環パイプとが近接して位置していると、上からの新しい養液が栽培トレイ内で満遍なく行き渡る前に下側に導かれるおそれがある。上記構成であれば、上記栽培トレイに上記養液を上から供給する循環パイプと上記養液を下側に導く循環パイプとが離れて位置することになり、上からの新しい養液が栽培トレイ内で満遍なく行き渡った後に下側に導かれる。また、排水対象となる任意の一つまたは複数の栽培トレイを選択できるので、任意の栽培トレイにおいて例えば育成された植物を出荷して新たに次の植物を育成するために清掃等するときでも、当該栽培トレイ内に残留する養液をバケツ等で排水する作業を不要にできる。
【0011】
上記の植物栽培装置において、上記養液タンクの液面変位を検出して水または養液を自動的に上記養液タンクに補給するようにしてもよい。これによれば、作業者が目視で上記養液タンクの液面変化を見て手動操作で養液を補給する作業を不要にできる。
【0012】
上記の植物栽培装置において、上記ポンプにより上記養液タンクから汲み上げた養液を上記排水システムの排水経路を経由させて排水する排水処理が行えるようにしてもよい。これによれば、上記養液タンク内の養液の排出にも上記養液循環のポンプを用いるので、専用の排水ポンプを用意するのに比べて低コストを実現しつつ排水の作業負担を軽減することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと養液を循環させる構造を採用しつつ上記栽培トレイから養液を簡単に排出できる等の諸効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物栽培装置を示した斜視図である。
【図2】図1の植物栽培装置において養液循環時の養液の流れを示した斜視図である。
【図3】図1の植物栽培装置において全養液排出時の養液の流れを示した斜視図である。
【図4】図1の植物栽培装置において任意の栽培トレイにおける養液排出時の養液の流れを示した斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、この発明の実施形態に係る植物栽培装置を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明に係る植物栽培装置は、下記の実施形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0016】
図1はこの発明の実施形態に係る植物栽培装置1の概略構成を示した斜視図であるが、栽培トレイ2を載せ置くための棚構造部分、植物に光を与える照明装置、上記栽培トレイ2内に配置される水耕ベッドなどは図示を省略している。また、この植物栽培装置1は空調設備等が配備された栽培ルーム内に配置され、また、この栽培ルームの隣室には前室が設けられる。
【0017】
上記植物栽培装置1においては上記栽培トレイ2が上下方向に多段に配置されている。図1に示した例では4枚の栽培トレイ2を上下多段に配置した構成部分を2組備えているが、このような組み合わせに限定されるものではない。
【0018】
養液が貯留される養液タンク3内には、この養液或いは水が自動給水装置4により自動供給されるようにしている。上記自動給水装置4は、養液タンク3内に配置されるフロート41と、このフロート41の上下動作により開閉動作を行うバルブ42と、このバルブ42に接続されたパイプ43とからなる。上記パイプ43は上記前室に設けられている蛇口に接続される。
【0019】
また、上記養液タンク3の上縁近傍にはオーバーフロー用配管31の一端側が設けられており、上記養液タンク3の上縁から養液が溢れ出る前に上記養液が上記オーバーフロー用配管31の一端側から排出されるようにしている。上記オーバーフロー用配管31を通って溢れ出る養液は排出口11に排出される。
【0020】
上記養液タンク3内の養液は養液循環システム5のポンプ51により汲み上げられて循環主パイプ52に供給されるようになっている。上記循環主パイプ52の上端部は、最上段に位置する栽培トレイ2よりも上方に位置している。また、上記循環主パイプ52の上端部には、左右に水平分岐する循環分岐パイプ53が連通されている。そして、各循環分岐パイプ53には循環制御バルブ56が取り付けられている。また、各循環分岐パイプ53の端部には循環パイプ54が下方に向けられて接続されている。各循環パイプ54の下端部は左右の栽培トレイ2の縁側の底部に位置し、上記下端部に形成されている養液供給口は上記栽培トレイ2の中央側に向けられている。
【0021】
上記最上段の栽培トレイ2以外の下段側の栽培トレイ2に養液を供給する他の循環パイプ54も、その下端部に上記養液供給口を有するが、その上端部は上記循環分岐パイプ53に接続されているのではなく、上段側の栽培トレイ2の底部に接続されている。そして、このように上記栽培トレイ2の底部に連通された循環パイプ54の上端部は、当該栽培トレイ2の底部よりも上側に突き出て位置している。一方、最下段に位置する栽培トレイ2の底部には養液戻しパイプ55が接続されている。この養液戻しパイプ55の上端部は、上記循環パイプ54と同様に上記栽培トレイ2の底部よりも上側に突き出ているが、下端部は上記養液タンク3内に位置している。
【0022】
上下に隣り合う栽培トレイ2同士においては、上記循環パイプ54の配置関係は互い違いにされている。また、最下段に位置する栽培トレイ2においては、上記養液戻しパイプ55が上記循環パイプ54の配置位とは反対側の縁部に設けられている。すなわち、上記栽培トレイ2に上記養液を上から供給する上記循環パイプ54は、当該栽培トレイ2の一方の縁の側に設けられ、当該栽培トレイ2から上記養液を下側に導く上記循環パイプ54や上記養液戻しパイプ55は、当該栽培トレイ2の他方の縁の側に設けられている。ここで、上記栽培トレイ2に上記養液を上から供給する循環パイプ54と上記養液を下側に導く循環パイプ54や上記養液戻しパイプ55とが近接して位置していると、上からの新しい養液が栽培トレイ2内で満遍なく行き渡る前に下側に導かれるおそれがある。上記のごとく構成すれば、上記栽培トレイ2に上記養液を上から供給する循環パイプ54と上記養液を下側に導く循環パイプ54や上記養液戻しパイプ55とが離れて位置することになり、上からの新しい養液が栽培トレイ内で満遍なく行き渡った後に下側に導かれる。
【0023】
また、各栽培トレイ2の底部であって上記循環パイプ54の養液供給口が位置する側には、排水システム6における排水パイプ61の上端部が接続されている。各排水パイプ61の上端部の上面は各栽培トレイ2の底部とほぼ面一に設定される。上記排水パイプ61は排水集約パイプ62に連通されており、この排水集約パイプ62の出口端は排水口11に向けられている。
【0024】
各排水パイプ61には排水制御バルブ63が設けられている。この排水制御バルブ63を開操作すると、対応する栽培トレイ2内に残留している養液が排水パイプ61を通って排水されることになる。
【0025】
また、上記排水集約パイプ62には直接排水パイプ64の出口端が接続されている。そして、この直接排水パイプ64の入口端は上記循環主パイプ52の下部側に接続されている。また、上記直接排水パイプ64には、直接排水制御バルブ65が接続されている。
【0026】
図2は上記植物栽培装置1において養液循環時の養液の流れを示した斜視図である。この養液循環状態では、上記循環制御バルブ56が開状態とされるとともに上記ポンプ51の電源がオンされ、上記養液タンク3内の養液が上記循環主パイプ52及び上記循環分岐パイプ53を通り、上記循環パイプ54を経て最上段の栽培トレイ2に供給される。上記最上段の栽培トレイ2に供給された養液は、この栽培トレイ2内で満たされて水嵩を増していき、当該栽培トレイ2の底部に連通されている循環パイプ54の上端部を越えて溢れて下段の栽培トレイ2へと導かれる。同様の動作が下段側の栽培トレイ2でも行われ、養液は順次に下段側の栽培トレイ2へと導かれていくことになる。
【0027】
そして、上記養液は、最下段の栽培トレイ2へと導かれ、上記養液戻しパイプ55の上端部を越えて溢れた後に上記養液タンク3内へと戻ることになる。この養液循環状態において上記養液タンク3内の養液が減少すると、上記自動給水装置4のフロート41が降下するので、この自動給水装置4のバルブ42が開状態となってパイプ43から新たな養液が補給される。一方、上記自動給水装置4によって上記養液タンク3内に養液が供給されて所定水位になると、上記フロート41の上昇により上記バルブ42が閉状態となり、上記パイプ43からの養液供給が停止される。なお、上記の所定水位は上記オーバーフロー用配管31の一端側の位置よりも低くされる。
【0028】
図3は上記植物栽培装置1において全養液排水時の養液の流れを示した斜視図である。この全養液排水状態では全ての排水制御バルブ63が開状態とされ、全ての栽培トレイ2内の養液が排水パイプ61及び上記排水集約パイプ62を通って上記排水口11へと排出される。さらに、この全養液排水状態においては、上記直接排水制御バルブ65も開状態とされるとともに養液循環用の上記ポンプ51の電源もオンされ、上記養液タンク3内の養液が上記直接排水パイプ64を通って上記排水口11へと排出される。このように、養液循環用の上記ポンプ51を用いて上記養液タンク3内の養液を排出するので、別途排水のために専用の排水ポンプを用意するのに比べて低コストを実現しつつ排水の作業負担を軽減することができる。
【0029】
図4は、上記植物栽培装置1において上から2番目の左側の栽培トレイ2についてだけ養液排水を行う場合の養液の流れを示した斜視図である。この場合においては、上から2番目の左側の栽培トレイ2用の排水制御バルブ63だけが開状態とされる。このように、各栽培トレイ2に個別に排水制御バルブ63を設けたので、任意の1個または複数個の栽培トレイ2において例えば育成された植物を出荷して新たに次の植物を育成するために清掃等するときでも、当該栽培トレイ2内に残留する養液をバケツ等で排水する作業を不要にできる。
【0030】
なお、上記バルブ(循環制御バルブ54、排水制御バルブ63、直接排水制御バルブ65)としては、手動操作されるボールバルブ等を用いることができるが、これに限るものではない。例えば、ソレノイド等からなる電動操作バルブを用い、操作盤上での操作によって任意のバルブを遠隔から開閉操作することもできる。また、上記排水制御バルブ63等をパイプの水平箇所に配置したが、パイプの垂直箇所に配置してもよい。また、上記排水口11を複数設けて上記排水集約パイプ62による集約箇所を減らすようにしてもよい。また、上記排水集約パイプ62の先端部にホースを設け、このホースの先端を上記排水口11に接続してもよい。また、上記養液タンク3の縁部に貫通穴を形成し、この貫通穴に継手を固定し、この継手を介して上記養液タンク3の内側に上記自動給水装置4を配置し、上記養液タンク3の外側に上記前室の蛇口に接続されるホースを連結してもよい。また、上記排水パイプ61による養液の排出の効率性を考慮し、棚上で勾配を持たせて上記栽培トレイ2を配置してもよい。
【0031】
また、上記循環パイプ54及び養液戻しパイプ55において、上記栽培トレイ2の底部よりも上側に突き出て位置している部分が着脱自在に設けられていてもよい。このような構造であれば、任意の栽培トレイ2において上記突き出て位置している部分を離脱させ、当該栽培トレイ2から養液を循環パイプ54や養液戻しパイプ55を用いて回収することができる。上記着脱は、ねじ締め構造やテーパ形状等により行える。また、上記の例では、上記循環パイプ54及び養液戻しパイプ55は上記栽培トレイ2の底部に接続したが、これに限らず、上記栽培トレイ2の側板に連通口を形成し、この連通口に上記循環パイプ54や養液戻しパイプ55を接続してもよい。上記排水パイプ61についても、上記栽培トレイ2の側板の下縁に形成した連通口に接続するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0032】
1 植物栽培装置
2 栽培トレイ
3 養液タンク
4 自動給水装置
41 フロート
5 養液循環システム
51 ポンプ
52 循環主パイプ
54 循環パイプ
56 循環制御バルブ
6 排水システム
61 排水パイプ
62 排水集約パイプ
63 排水制御バルブ
64 直接排水パイプ
65 直接排水制御バルブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を育成する栽培トレイを上下方向に多段に配置した植物栽培装置において、養液が貯留される養液タンクと、この養液タンクから養液をポンプにより汲み上げて上段の栽培トレイから順に下段の栽培トレイへと当該栽培トレイ同士を連通する循環パイプを通して養液を循環させていく養液循環システムと、上記栽培トレイに接続された排水パイプ及びこの排水パイプから上記栽培トレイ内の養液を排出する排水制御バルブを備えた排水システムと、を備えたことを特徴とする植物栽培装置。
【請求項2】
請求項1に記載の植物栽培装置において、上記栽培トレイに上記養液を上から供給する循環パイプは当該栽培トレイの一方の縁の側に設けられ、当該栽培トレイから上記養液を下側に導く循環パイプは当該栽培トレイの他方の縁の側に設けられているとともに、上記栽培トレイに対して個別に設けた上記排水制御バルブにより、排水対象となる任意の一つまたは複数の栽培トレイを選択できるようにしたことを特徴とする植物栽培装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の植物栽培装置において、上記養液タンクの液面変位を検出して水または養液を自動的に上記養液タンクに補給するようにしたことを特徴とする植物栽培装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の植物栽培装置において、上記ポンプにより上記養液タンクから汲み上げた養液を上記排水システムの排水経路を経由させて排水する排水処理が行えるようにしたことを特徴とする植物栽培装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−111039(P2013−111039A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261690(P2011−261690)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】