説明

植物栽培設備

【課題】大規模なものであっても、空気環境の不均一性を防いで植物の生育に適した環境とできる植物栽培設備を提供する。
【解決手段】植物栽培設備1では、室内に、上下方向に複数段の栽培棚11を設置した多段式栽培棚10が平面に複数並べられ、多段式栽培棚10の間の空間を、交互に、空気調整された空気が下部から流れ込み上方に移動する、上部が閉じられたコールドアイル20aと、コールドアイル20aから多段式栽培棚10を通過して流れ込んだ空気が上方へ移動し、上部に設けた排気口5aから排気されるホットアイル20bとして構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工照明装置と空調設備を用いて植物を栽培する植物栽培設備に関する。
【背景技術】
【0002】
人工照明装置と空調設備を用いて栽培環境を調整することにより植物を栽培する設備が、植物工場などとして従来知られている。このように人工照明で植物を栽培する場合には、照明装置を使用した栽培棚が多く利用されている。
【0003】
このような植物栽培設備の例を図4に示す。図4の植物栽培設備200では、室内に栽培棚100が鉛直方向や水平方向に複数配置される。栽培棚100では、照明装置103が栽培ベッド107の上方に配置される。照明装置103は、光源として蛍光管111を有する。栽培ベッド107には植物体109が配置されてこれが栽培される。
【0004】
また、こうした栽培棚100に対しては、空気調整された空気が植物体109と照明装置103の間を通過するように設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−225420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
植物体109と照明装置103の間を流れる気流は、照明装置103等により発生する熱を奪って移動する。このため、従来の栽培設備においては、気流の下流側に位置する植物体109付近ではより気温が高くなる傾向にある。
【0007】
室内に照明装置103のついた栽培棚100を上下左右に複数台設置すると、気流の上流側と下流側の温度差が大きくなりやすい。このような空気環境の不均一性は照明からの発熱だけでなく、空調に伴う空気の流れも大きく関与している。温度や気流などの空気環境の不均一性は植物の成長や品質に影響を与えることから、栽培室内の環境は可能な限り均一であることが望ましい。
特に、多くの植物を栽培する場合では、栽培空間は大きくなり、照明装置も多くなる。供給された空気は、排気されるまでの間に照明の発熱の影響を受ける時間や経路が長いほど温度が上昇するため、このような場合では温度の不均一性は顕著になる。
【0008】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、大規模なものであっても、空気環境の不均一性を防いで植物の生育に適した環境とできる植物栽培設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達するための第1の発明は、上下方向に複数段の栽培棚を設置した多段式栽培棚を、平面に複数並べ、前記多段式栽培棚の間の空間を、交互に、空気調整された空気が流れ込む第1の空間と、前記第1の空間から前記多段式栽培棚を通過して流れ込んだ空気が排気される第2の空間として構成されることを特徴とする植物栽培設備である。
【0010】
前記栽培棚の前記第2の空間側に、開閉自在な開閉扉が設けられ、前記開閉扉に開口が設けられることが望ましい。
また、前記第1の空間では前記空気調整された空気が下部から流れ込むとともに前記第2の空間では前記空気が上部で排気されることも望ましい。
また、前記多段式栽培棚の最下段に給気チャンバーが設けられ、前記給気チャンバーから、前記第1の空間側に空気調整された空気が吹き出されることも望ましい。
さらに、前記第1の空間の、前記多段式栽培棚が設けられた箇所以外の側部が、上下に伸縮可能な吊りカーテンを用いて閉じられることも望ましい。
【0011】
以上の構成により、栽培棚の両側の空間を、それぞれ、空調空気が供給される第1の空間、および第1の空間からの空気が栽培棚を通過して流れ込み、これが排気される第2の空間として構成するので、栽培棚の照明の熱を拾った空気が、別の栽培棚の植物体に影響することなく排気される。このように、空気が通過する経路が短く、経路中の栽培棚も少ないので、栽培室の規模が大きくなった場合でも、温度の不均一性が抑制され、植物体への影響も小さくすることができる。気温を均一としつつ栽培室の規模を大きくすることができるので、大量生産を行う場合には、小規模の栽培室を多く建設する場合より、建設コストが低減される。
【0012】
また、栽培棚の第2の空間側に開口を有する開閉扉を設けた場合、これを閉じた状態では空気抵抗板として機能し、流通する風量を調整して植物栽培設備内の気流や温度の均一性を更に高めることができる。一方、植物体等のメンテナンスに際しては、これを開けば第2の空間側より植物体等のメンテナンスを行うことができる。排気を行う第2の空間からメンテナンスを行うことで、作業者の存在が栽培棚を通過する気流に影響を与えることがない。
また、第1の空間では空気が下部から流れ込むとともに第2の空間では空気が上部で排気されるようにすると、栽培棚の照明の熱を奪い高温となった空気が上方に移動しやすいことから、第1の空間の下部から第2の空間の上部へと効率よく空気を移動させることができる。
また、多段式栽培棚の下部を、第1の空間へ空気を供給する給気チャンバーとして構成することで、設備内の省スペース化を図ることができる。
さらに、上下に伸縮可能な吊りカーテンを用いて、第1の空間の、多段式栽培棚が設けられた箇所以外の側部を閉じることで、空気が多段式栽培棚以外の側部から排出されたり、あるいは側部から高温で粉塵を多く含んだ周囲の空気が流入することもなくなるので、空気環境の制御が容易になる。また、設備としても簡易で低コストである。さらに、多段式栽培棚の高さが異なる場合でも、これに合わせて側部を閉じることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、大規模なものであっても、空気環境の不均一性を防いで植物の生育に適した環境とできる植物栽培設備を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】植物栽培設備1の概略構成について示す図
【図2】植物栽培設備1の多段式栽培棚10の側面について示す図
【図3】開閉扉40の例を示す図
【図4】従来の植物栽培設備200の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の植物栽培設備等の実施形態について説明する。
まず、図1、図2を参照して、本実施形態の植物栽培設備1について説明する。
【0016】
図1は本実施形態の植物栽培設備1の概略構成を示す図である。図1(a)は垂直方向の概略構成であり、図1(b)は平面方向の概略構成である。図2は植物栽培設備1の多段式栽培棚10の側面を示す図である。図2(a)はコールドアイル20a側の側面(前面)であり、図2(b)はホットアイル20b側の側面(背面)である。
【0017】
図1に示すように、植物栽培設備1では、床部3、天井部5、壁部(不図示)等で囲まれる室内で、多段式栽培棚10が平面方向に複数列配置されて構成される。
【0018】
多段式栽培棚10の最下部は、周囲を囲まれた給気チャンバー13として構成され、その上方に栽培棚11が上下に複数段配置される。
隣り合う多段式栽培棚10の間の空間は、交互に、下部から流れ込んだ、多段式栽培棚10を通過する前の空気が上方へと流れるコールドアイル20a(第1の空間)、コールドアイル20aから多段式栽培棚10を通過して流れ込んだ空気が上方へ流れ排気されるホットアイル20b(第2の空間)として構成される。
【0019】
栽培棚11では、植物体30を配置した栽培ベッド31が下部に設置され、照明管等を光源とする照明装置33がその上方に配置される。
【0020】
栽培ベッド31は、本実施形態では養液を供給、排出しつつ植物体30の水耕を行う水耕栽培ベッドである。このため、植物栽培設備1には管路や養液タンク、循環ポンプ等による養液の循環機構(不図示)が設けられる。但し、栽培ベッド31は植物の種類等に応じて適切なものが用いられ、これに限ることはない。
【0021】
照明装置33は複数の照明管を備える。照明管は例えばLED等を光源とし、電源(不図示)による電力供給を受けて発光する。
なお、照明装置33は栽培棚11に対して上下移動可能に設けられていてもよく、これにより、植物の生育状況に合わせて上下させ植物体30の位置での照度を調整することができる。また、照明装置33を低い位置にして近接照射することにより植物体30の位置で照度を上昇させることができるので、照度上昇のための電力消費を低減できる。
【0022】
給気チャンバー13には、空気調整機により温度や湿度等の調整がなされた空調空気がファン等によりダクト(不図示)を介して供給される。給気チャンバー13からは、コールドアイル20a側へ空調空気が吹き出される。給気チャンバー13内には、吹き出す風量を長手方向(図1(a)の奥行き方向)に沿って一定とするための風量調整機構(不図示)等を必要に応じて設ける。風量調整機構としてはバッフル板など既知のものを適宜用いることができる。
【0023】
図2(a)に示すように、多段式栽培棚10の下部の給気チャンバー13の、コールドアイル20a側の側面には、空気吹き出し用の孔部が複数形成され、当該孔部を介して空気がコールドアイル20aへと供給される。これらの孔部を覆うフィルターなどを取り付け、空気の清浄化を図ることもできる。
【0024】
多段式栽培棚10の上方の天井部5からは、上下に伸縮可能な吊りカーテンである垂直カーテン17a、17bが吊り下げられる。
垂直カーテン17aは、多段式栽培棚10の長手方向に沿って設けられ、その下端部が、多段式栽培棚10の上面のコールドアイル20a側の側部に達する。垂直カーテン17aは、多段式栽培棚10の高さに合わせて、下端部が多段式栽培棚10の上面に達するように伸縮される。多段式栽培棚10の上面は、照明装置33等に電力を供給するためのケーブル(不図示)を配置するケーブル配置空間として用いることもできる。
また、垂直カーテン17bは、コールドアイル20aの長手方向の端部で、多段式栽培棚10の間を塞ぐように設けられ、図2に示すように、下端部が床部3に達する。
これにより、コールドアイル20aの側部は、多段式栽培棚10の側面にあたる箇所を除いて、垂直カーテン17a、17bにより閉じられる。
【0025】
コールドアイル20aの上部は天井部5等により閉じられる。一方、ホットアイル20bの天井部5には、ホットアイル20bから排気を行うための排気口5aが設けられる。排気口5aには排気用のファン等が設けられ、排出された空気は排気口5aと連続するダクト等(不図示)を介して前述の空気調整機に送られる。
【0026】
植物栽培設備1内で、給気チャンバー13からコールドアイル20aに吹き出された空調空気は、上方へ移動し、多段式栽培棚10の前面から背面を通ってホットアイル20bへと流れる。これにより、栽培棚11の照明装置33からの熱が奪われてホットアイル20bへと運ばれる。
照明装置33の熱を奪ってホットアイル20bへ流れ込んだ空気は、上方へ移動しホットアイル20bの天井部5に設けた排気口5aから排出される。
【0027】
ここで、栽培棚11のホットアイル20b側の側面(背面)では、図3に示すように、空気流通用の開口が複数形成された開閉扉40を設けてもよい。
【0028】
開閉扉40は、例えばスライド式で横方向に開閉可能な扉である。図3の開閉扉40は、図の矢印Aの方向にスライドさせて閉じることができ、閉じた状態では開閉扉40が空気抵抗板として機能することにより、流通する風量を調整して植物栽培設備1内の気流や温度の均一性を更に高めることができる。
【0029】
一方、植物体30等のメンテナンスに際しては、開閉扉40を矢印Aと逆方向にスライドさせ開いて、ホットアイル20b側より植物体30等のメンテナンスを行うことができる。ホットアイル20b側よりメンテナンスを行うことで、作業者の存在が栽培棚11を通過する気流に影響を与えることがない。また、スライド式の開閉扉を用いるので、扉を開けてのメンテナンス作業も容易になる。開閉扉40は上下にスライドし開閉可能なものであってもよい。
【0030】
なお、開閉扉40は、これに限らず、例えば上部や側部を栽培棚11にヒンジ接続し、上下あるいは左右に開くようにしてもよい。また、栽培棚11では上部に熱を持った空気が滞留しやすい傾向にあるので、開閉扉40の開口率は上部でより大きく、下部でより小さくしてもよい。
【0031】
この他、栽培棚11における空気の流通を促進するための送風装置等を栽培棚11に設け、栽培棚11でコールドアイル20a側からホットアイル側20bに向かって送風してもよい。これにより、熱をもった空気が植物体30の近傍に滞留することを確実に防ぐことができる。
【0032】
以上のように、本実施形態の植物栽培設備1によれば、多段式栽培棚10の両側の空間を、それぞれ、空調空気が下方から流れ込み上方へ移動するコールドアイル20a、およびコールドアイル20aからの空気が多段式栽培棚10を通過して流れ込み、これが上方に排気されるホットアイル20bとして構成するので、栽培棚11の照明の熱を拾った空気が、別の栽培棚11の植物体30に影響することなく排気される。このように、空気が通過する経路が短く、経路中の栽培棚も少ないので、栽培室の規模が大きくなった場合でも、温度の不均一性が抑制され、植物体に与える影響も小さくすることができる。温度を均一としつつ栽培室の規模を大きくすることができるので、大量生産を行う場合には、小規模の栽培室を多く建設する場合より、建設コストが低減される。また、栽培棚11の照明の熱を奪い高温となった空気は上方へ移動しやすいので、コールドアイル20aの下部からホットアイル20bの上部へと空気を効率よく移動させることができる。
【0033】
なお、コールドアイル20aで上部から空調空気を供給し、ホットアイル20bで下部から排気を行うことも可能である。例えば、コールドアイル20aでは天井部5に設けた吹出口から空調空気を吹き出し、ホットアイル20bでは床部3に設けた排気口から排気する。あるいは、コールドアイル20aの上部で空調空気を供給するともにホットアイル20bの上部から排気を行ったり、コールドアイル20aの下部で空調空気を供給するともにホットアイル20bの下部から排気を行うことも可能である。
給気、排気の位置も前述したものに限ることはなく、例えば、コールドアイル20aでの給気は、給気チャンバー13や天井部5の吹出口以外に、例えば床下に給気チャンバーを設け、床部3に設けた吹出口から空調空気の吹き出しを行ってもよい。ホットアイル20aでの排気についても、天井部5の排気口5aや床部3の排気口から行う以外に、例えば多段式栽培棚10の間の側部から行うこともできる。
【0034】
また、栽培棚11のホットアイル20b側の背面に開口を設けた開閉扉40を取り付ける場合、開閉扉40を閉じた状態では、流通する風量が調整されて植物栽培設備1内の気流や温度の均一性を更に高めることができる。一方、これを開くことによりホットアイル20b側よりメンテナンスを行うことができるので、作業者の存在が栽培棚11を通過する気流に影響を与えることがない。
また、多段式栽培棚10の最下部を、コールドアイル20aへ空気を供給する給気チャンバー13として構成することで、設備内の省スペース化を図ることができる。
さらに、上下に伸縮可能な垂直カーテン17a、17bを用いて、コールドアイル20aの、多段式栽培棚10が設けられた箇所以外の側部を閉じることで、空気が多段式栽培棚10以外の側部から排出されたり、あるいは側部から高温で粉塵を多く含んだ周囲の空気が流入することもなく、空気環境の制御が容易になる。また、上下に伸縮可能な吊りカーテンを用いるので、多段式栽培棚10の高さに合わせて調節しコールドアイル20aの空間を閉じることができ、設備としても簡易で低コストである。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る植物栽培設備等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0036】
1、200………植物栽培設備
5………天井部
5a………排気口
10………多段式栽培棚
11………栽培棚
13………給気チャンバー
17a、17b………垂直カーテン
20a………コールドアイル
20b………ホットアイル
40………開閉扉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に複数段の栽培棚を設置した多段式栽培棚を、平面に複数並べ、
前記多段式栽培棚の間の空間を、交互に、
空気調整された空気が流れ込む第1の空間と、
前記第1の空間から前記多段式栽培棚を通過して流れ込んだ空気が排気される第2の空間として構成することを特徴とする植物栽培設備。
【請求項2】
前記栽培棚の前記第2の空間側に、開閉自在な開閉扉が設けられ、前記開閉扉に開口が設けられることを特徴とする請求項1記載の植物栽培設備。
【請求項3】
前記第1の空間では前記空気調整された空気が下部から流れ込むとともに、前記第2の空間では前記空気が上部で排気されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の植物栽培設備。
【請求項4】
前記多段式栽培棚の最下段に給気チャンバーが設けられ、前記給気チャンバーから、前記第1の空間側に空気調整された空気が吹き出されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の植物栽培設備。
【請求項5】
前記第1の空間の、前記多段式栽培棚が設けられた箇所以外の側部が、上下に伸縮可能な吊りカーテンを用いて閉じられることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の植物栽培設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−217392(P2012−217392A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86923(P2011−86923)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、経済産業省、戦略的技術開発委託研究(植物機能を活用した高度モノ作り基盤技術開発/植物利用高付加価値物質製造基盤技術開発に係るもの)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】