説明

植物病害防除剤および植物病害防除方法

【課題】植物の防御力を増強させる化合物を有効成分として含有してなる植物病害防除剤を提供する。
【解決手段】テルペノイド関連化合物、特にはスクラレオールを有効成分として含有する植物病害防除剤は、植物の防御力を高めて耐病性を誘導する植物病害防除効果を示し、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネばか苗病等の各種植物病害に対して有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物病害防除剤および植物病害防除方法に関する。より詳しくは、テルペノイド関連化合物が有する防御力を増強させる特性を利用した植物病害防除剤および植物病害防除方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウイルス、細菌、糸状菌等の病原微生物の感染によって引き起こされる作物の病気は、収量低下を招く原因のひとつであり、農業上の大きな問題となっている。このような病害を防ぐために生物学的防除、化学的防除、物理的防除等が実施されている。しかし、このような試みをもってしても防除が困難な病気が多数存在する。そのような難防除病害の一つが、青枯病である。
青枯病は、ナスやトマトなど200種以上の植物に感染、枯死させる細菌による植物病である。青枯病菌は地中深くに長期間生残し、適当な宿主植物が植えられると再び発生するため、いったん青枯病が発生した土地では、根絶することが難しいことから、農業上深刻な被害をもたらす病害である。
青枯病を防除する方法としては、臭化メチルによる土壌薫蒸、シュードモナス菌等を用いた生物的防除、連作の回避や罹病株の除去などの耕種的防除、抵抗性品種を台木として用いる接ぎ木法などが試みられているが、いずれも労力や防除効果などの面で解消すべき問題が多く残されている。
【0003】
このような問題を解消するための手段として考えられるのが防御力増強剤の使用である。防御力増強剤は、防御因子増強剤とも呼ばれ、植物が本来有する病気に対する防御力を高めて耐病性や耐菌性を誘導して、病害防除効果を示す薬剤である。当該薬剤の有効成分が天然由来であれば、環境への負荷が小さくて済むと考えられることから、当該薬剤を用いた防除法は環境保全型病害防除法として近年着目されている。
【0004】
青枯病に対する防御力増強剤としては、例えば、非特許文献1に記載された酵母抽出液を原料とする防御力増強剤が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】日植病報73:94−101(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、青枯病に対する防御力増強剤についての知見は極めて少なく、植物の生理活性を向上させ、さらに病害の防止効果を得るため、さらなる改良が必要である。
さらに、実際の農業現場では、複数の病気が併発するケースがあるため、防御力増強剤の特性としては一つの病気だけに特異的に防除効果を示すより複数の病気に防除効果を示すことが望ましい。そのためには、青枯病のみならず、複数の病気に対する防御力増強剤として有効な作用を有する化合物を探索することが重要である。
【0007】
かかる状況下、本発明の目的は、植物の防御力を増強させる化合物を有効成分として含有してなる植物病害防除剤および該化合物を利用した青枯病などの植物病害防除方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、青枯病菌に対して抵抗性反応が誘発された植物には青枯病に対する防御力を増強させる物質(防御力増強剤)が多量に生産されているという仮説に基づいて、防御力増強剤の探索を試み、抵抗性が誘発されたタバコより目的とする化合物の精製を行ったところ、スクラレオールが、青枯病に対して抗菌活性を有さないのにもかかわらず、青枯病防除作用を有することを見出した。
さらに、青枯病以外の病気に対するスクラレオールの防除作用の有無を調査したところ、スクラレオールが、青枯病以外の灰色かび病、イネ種子伝染性病害(イネ苗立枯細菌病、イネばか苗病、イネもみ枯細菌病)等の植物病害に対しても防除作用を有することを見出した。さらにスクラレオール以外のテルペノイド関連化合物にも同様の作用があることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> テルペノイド関連化合物を有効成分として含有する植物病害防除剤。
<2> テルペノイド関連化合物が、スクラレオールである前記<1>記載の植物病害防除剤。
<3> 植物病害が、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病又はイネばか苗病である前記<1>又は<2>に記載の植物病害防除剤。
<4> 対象植物にテルペノイド関連化合物を吸収させる植物病害防除方法。
<5> テルペノイド関連化合物が、スクラレオールである前記<4>記載の植物病害防除方法。
<6> 植物病害が、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病又はイネばか苗病である前記<4>又は<5>に記載の植物病害防除方法。
<7> 対象植物が、ナス科、アブラナ科、イネ科又はウリ科である前記<4>から<6>のいずれかに記載の植物病害防除方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、植物の防御力を高めて耐病性を誘導する植物病害防除効果を示す薬剤および植物病害防除方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】水耕栽培したタバコに対するスクラレオールの立枯病防除効果を示す写真である。
【図2】土壌栽培したタバコに対するスクラレオールの立枯病防除効果を示す写真である。
【図3】土壌栽培したトマトに対するスクラレオールの青枯病防除効果を示す写真である。
【図4】スクラレオールを処理後のトマトにおける、青枯病菌接種後の日数と病徴指数の関係を示す図である。
【図5】土壌栽培したシロイヌナズナに対するスクラレオールの青枯病防除効果を示す写真である。
【図6】青枯病菌の増殖に対するスクラレオールの効果を示す写真である。
【図7】土壌中で栽培したタバコに対する(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの立枯病防除効果を示す図である。
【図8】青枯病菌の増殖に対する(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの効果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の植物病害防除剤は、テルペノイド関連化合物を有効成分として含有することを特徴とする。
本発明において、「テルペノイド関連化合物」とは、炭素数が5の倍数のC58を基本骨格とするイソプレンからなる化合物の総称である。具体的には、リモネン、メントール、リナロール、ピネン、ピレトリン、チモール、レオール等のモノテルペノイド、イポメアマロン、アブシジン酸、グアイアズレン、サントニン等のセスキテルペノイド、スクラレオール、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオール、ジベレリン、ステビオシド等のジテルペノイド、オフィオボリン、ゼラニファルネソール等のセスターテルペノイド、ヘデラゲニン、アミリン、リモニン等のトリテルペノイドが挙げられる。
この中でも、スクラレオール、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールが好ましく、より高い病害防除効果を有する点で、スクラレオールがより好ましい。
【0013】
なお、スクラレオール(sclareol,ラブダ-14-エン-8,13-ジオール)は、下記式(1)の構造を示す、ジテルペノイド化合物の一種であり、従来公知の方法により、抵抗性が誘発されたタバコ等の植物より単離精製することができる。
また、スクラレオールは公知の物質であり、市販されている(例えば、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)社)。このような分離精製を経ずとも、市販品を入手し、それを植物病害抵抗性検定に供することが可能である。
【0014】
【化1】

【0015】
本発明の植物病害防除剤の有効成分である、スクラレオールを始めとするテルペノイド関連化合物(溶媒和物なども包含)の特徴は、それ自体には全く、又は、ほとんど抗青枯病菌活性はないが、対象植物に処理すると青枯病を抑制できることにある。
なお、本発明において、「青枯病」とは、土壌病原細菌であるRalstonia solanacearumの感染によって引き起こされる病気を指す。また、本細菌がタバコにかかる場合、それによって起こる病気は「立枯病」という。さらに、「抗青枯病菌活性」とは、青枯病菌の代謝等に直接作用することで菌の増殖や生育を阻害する作用を意味する。
加えて、テルペノイド関連化合物(特にはスクラレオール)は、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネばか苗病等の各種植物病害に対しても防除作用を有することも特徴とする。
なお、本発明において、灰色かび病とは多種類の植物に病原性を有する糸状菌であるBotrytis cinereaの感染によって、イネ苗立枯細菌病とは病原細菌であるBurkholderia plantariiの感染によって、イネもみ枯細菌病とは病原細菌であるBurkholderia glumaeの感染によって、イネばか苗病とは病原糸状菌であるFusarium moniliformeの感染によって、それぞれ引き起こされる病気を指す。
【0016】
対象となる植物としては、青枯病菌(立枯病菌)、灰色かび病菌、イネ苗立枯細菌病菌、イネもみ枯細菌病菌、イネばか苗病菌等が感染する植物であれば特に限定はないが、例えば、ナス科、アブラナ科、イネ科、マメ科、ウリ科、ヒルガオ科、ユリ科、シソ科、キク科、サトイモ科、ショウガ科、セリ科、ヤマノイモ科、バラ科、ミカン科、ブドウ科、パイナップル科、バショウ科、フトモモ科、ヤナギ科、アカザ科、リンドウ科及びナデシコ科等に属する植物が挙げられる。
【0017】
本発明の植物病害防除剤において、テルペノイド関連化合物は塩として含有されていてもよく、その塩の形態としては、特に制限はないが、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、金属塩(アルミニウム塩、鉄塩、亜鉛塩、銅塩、ニッケル塩など)、無機塩(酢酸塩、アンモニウム塩など)、有機アミン塩(ジベンジルアミン塩、グルコサミン塩、エチレンジアミン塩、ジエチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、ジエタノールアミン塩、テトラメチルアンモニア塩など)、アミノ酸塩(グリシン塩、リジン塩、アルギニン塩、オルニチン塩、アスパラギン塩など)などが挙げられる。
【0018】
本発明の植物病害防除剤を農園芸用防除剤として使用する場合には、その目的に応じて有効成分であるテルペノイド関連化合物を適当な剤型で用いることができる。通常は有効成分であるテルペノイド関連化合物を不活性な液体または固体の担体で希釈し、必要に応じて界面活性剤、その他をこれに加え、粉剤、水和剤、乳剤、粒剤等の製剤形態で使用できる。有効成分であるテルペノイド関連化合物の配合割合は必要に応じ適宜選ばれるが、粉剤及び粒剤とする場合は0.1〜20%(重量)、また、乳剤及び水和剤とする場合は5〜80%(重量)が適当である。
【0019】
好適な担体としては、例えばタルク、ベントナイト、クレー、カオリン、珪藻土、ホワイトカーボン、バーミキュライト、消石灰、珪砂、硫安、尿素等の固体担体、イソプロピルアルコール、キシレン、シクロヘキサノン、メチルナフタレン等の液体担体等が挙げられる。
好適な界面活性剤及び分散剤としては、例えばジナフチルメタンスルホン酸塩、アルコール硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ポリオキシエチレングリコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノアルキレート等が挙げられる。
好適な補助剤としてはカルボキシメチルセルロース等が挙げられる。
【0020】
本発明の植物病害防除剤は、これらの製剤をそのまま、あるいは希釈して茎葉散布、種子処理、土壌施用、水面施用または育苗箱施用等により使用することができる。これらの施用量は、使用される化合物の種類、対象病害、発生傾向、被害の程度、環境条件、使用する剤型などによって変動する。例えば粉剤及び粒剤のようにそのまま使用する場合には、有効成分換算で10アール当り0.1g〜5kg、好ましくは1g〜1kgの範囲から適宜選ぶのがよい。また、乳剤及び水和剤のように液状で使用する場合には、有効成分換算で0.1ppm〜10,000ppm、好ましくは10〜3,000ppmの範囲から適宜選ぶのがよい。
【0021】
さらに、本発明の植物病害防除剤はその病害防除活性を阻害しない範囲で、必要に応じて殺虫剤、他の殺菌剤、除草剤、植物生長調節剤、肥料、他の公知の植物活性剤、成長促進剤等の任意の成分と混合してもよい。好適な剤としては、ダコニール1000、テクリードCフロアブル、ベンレート水和剤、プロボーズ顆粒水和剤、フルピカフロアブル、アグロスリン乳剤、アドマイヤー乳剤等があげられる。
【0022】
本発明の植物病害防除剤は、有効成分であるテルペノイド関連化合物を溶媒に溶解させたものであり、溶媒としては、含有されるテルペノイド関連化合物の溶解、分散を阻害せず、対象となる植物に悪影響を及ぼさない溶媒を使用すればよく、メタノールやエタノールなどが適宜使用される。通常、前述の溶媒で溶解したテルペノイド関連化合物液を水で希釈して使用する。
【0023】
本発明の植物病害防除剤に含まれるテルペノイド関連化合物の濃度は、病害防除活性が発現すればよく特に限定はなく、テルペノイド関連化合物の種類、植物病害防除効果と散布量との兼ね合い等を勘案して適宜決定され、通常、50〜500μM程度であり、75〜400μMが好ましい。
なお、テルペノイド関連化合物の濃度が低すぎると、病害防除効果が十分でない場合があり、高すぎると黄化葉等の問題が生じるおそれがある。
好適なテルペノイド関連化合物であるスクラレオールの場合にはその濃度が、50μM以上であると十分な病害防除効果が得られ、75μMで顕著な病害防除効果(特に青枯病防除効果)が得られ、100μM以上でより顕著な病害防除効果(特に青枯病防除効果)が得られる。
【0024】
本発明の植物病害防除方法は、対象植物にテルペノイド関連化合物を吸収させることを特徴とする。具体的には、対象植物の根に上記本発明の植物病害防除剤を浸漬処理させる方法が挙げられる。すなわち、通常の土壌栽培や水耕栽培の方法が挙げられる。
【0025】
本発明の植物病害防除方法は、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病又はイネばか苗病等の各種植物病害に対して有効である。特に青枯病や立枯病に対して好適に適用される。
【0026】
対象となる植物としては、上述の青枯病菌(立枯病菌)、灰色かび病菌、イネ苗立枯細菌病菌、イネもみ枯細菌病菌、イネばか苗病菌等が感染する植物が挙げられる。
この中でも、本発明の病害防除方法は、ナス科の植物である、クコ、ハシリドコロ、ホオズキ、ナス、ジャガイモ、トマト、トウガラシ、タバコ、チョウセンアサガオ、ツクバネアサガオや、アブラナ科の植物であるシロイヌナズナ、アブラナ、キャベツ、ブロッコリー、ハクサイ、ダイコン、ワサビに、ウリ科の植物であるキュウリ、スイカ、カボチャ、メロンに、イネ科の植物であるイネ、ムギ、トウモロコシに対して効果的である。この中でも、トマト、タバコ、シロイヌナズナ、イネ、キュウリに対して特に効果的である。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
<スクラレオールの分離精製>
以下の手順で、抵抗性が誘発されたタバコよりスクラレオールを分離精製した。
立枯病菌8266株を接種し2日間培養した新鮮重10kgのタバコ葉を40Lの80%アセトン中で4℃で24時間浸漬抽出した。抽出物をろ過し、ろ液を濃縮後に得られた水層を塩酸でpH3に調整し、等量の酢酸エチルで3回抽出した。抽出後の酢酸エチル層を等量の5%炭酸水素ナトリウムで2回抽出し、抽出後の酢酸エチル層を回収した。回収した酢酸エチル層を予めシリカゲル(Wakogel C-200;和光化学株式会社)を充填したガラスカラム(3cm内径×50cm長)に添加し、10%酢酸エチルを含むヘキサンをカラム内に流した。溶出した画分を回収し濃縮後、C18 Sep-Pak Vacカートリッジ(Waters)に添加、20%蒸留水を含むメタノールで溶出した。溶出液を回収し濃縮後、高速液体クロマトグラフィーにより分離した。分離条件は、CAPCELL PAK C18カラム(10mm内径×15cm長;Shiseido)を用い、60分間のアセトニトリル濃度の25%から100%のリニアグラジェントを流速6mL/分である。この条件下で保持時間55〜60分に溶出される画分を回収し濃縮後、再び高速液体クロマトグラフィーにより分離した。分離条件は、CAPCELL PAK C18カラム(4.6mm内径×25cm長;Shiseido)を用い、90%アセトニトリル、流速6mL/分であり、本条件下で保持時間11.1分に現れるピーク画分にスクラレオールが含まれる。
【0029】
スクラレオールの植物病害の抑制効果を確認するため、以下の実施例1〜7の実験を行った。
【0030】
実施例1
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得た。
次いで、予め養液中で水耕栽培した4週齢のタバコ苗(サムスンNN)に対して、養液に上記のごとく得られた薬剤をスクラレオールが100μMになるように添加し、2日間水耕栽培した。その後、苗の根に、1mLあたり108個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコ苗に対して立枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図1に、立枯病菌接種7日後のタバコ苗の写真を示す。図中の白線は2cmの長さであることを示す。スクラレオールを養液に注入することで立枯病の発生を抑えることができた。
【0031】
実施例2
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したタバコ苗(品種名:サムスンNN)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり108個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコ苗に対して立枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図2に、立枯病菌接種7日後のタバコ植物の写真を示す。図中の白線は10cmの長さであることを示す。スクラレオールは土壌栽培したタバコの立枯病の発生に対しても防除効果を示した。
【0032】
実施例3
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度50、75、100μMになるよう希釈した。次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したトマト植物(品種名:ポンデローザ)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり108個のコロニーを形成するのに等しい量の青枯病菌8107株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したトマト植物に対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図3に、スクラレオール濃度100μMの薬剤を使用した青枯病菌接種6日後のトマト植物の写真を示す。図中の白線は10cmの長さであることを示す。
また、図4に各スクラレオール濃度の薬剤を使用した場合の青枯病菌接種後の日数と、病徴指数の関係を示す。なお、病徴指数(発病指数)とは、病気によって引き起こされる被害の程度を意味する。すなわち、数値が高いほど病気の被害がひどいことを意味する。
75μM以上の濃度で養液もしくは土壌に直接投与することで青枯病の発生を顕著に抑えることができた。
【0033】
実施例4
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。
次いで、予め約2カ月間土壌中で栽培したシロイヌナズナ苗(品種名:コロンビア)に対して、土壌に上記のごとく希釈した薬剤を注ぎ、2日間引き続き土壌栽培した。
その後、植物体の根に、1mLあたり108個のコロニーを形成するのに等しい量の青枯病菌RS1000株を接種し、数日間観察を行った。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したシロイヌナズナ植物に対して青枯病菌を接種し、同様の観察を行った。
図5に、青枯病菌接種7日後のシロイヌナズナ苗の写真を示す。
スクラレオールは土壌栽培したシロイヌナズナの青枯病の発生に対しても防除効果を示した。
【0034】
実施例5
<青枯病菌への抗菌活性>
スクラレオールの青枯病菌への抗菌活性の有無を確認するために以下の実験を行った。
100μMスクラレオールもしくは対照として0.1%メタノールを含む寒天培地に青枯菌8225株を接種、培養した。接種後1日目の写真。
図6に接種後1日目の写真を示す。両者には明確な差は確認できず、スクラレオール自体は青枯病菌に対する抗菌活性を示さなかった。
【0035】
実施例6
<キュウリ灰色かび病に対する防除効果>
青枯病以外の病気に対するスクラレオールの防除効果を調べるために、以下の実験を行った。
まず、適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が、100mMの薬剤を得、水によって最終濃度100μMになるよう希釈した。次いで、予め肥料土壌を添加した5.5cmプラスチックポット中で育てた子葉期のキュウリ(品種:相模半白)に対して、100μMスクラレオールもしくは対照区として水のみを1ポットあたり10mLの割合で土壌中に灌注した。
スクラレオール灌注2日目に、灰色かび病菌(Botrytis cinerea 26-1株)の胞子を滅菌水で8倍希釈したPDB培地に懸濁し、胞子懸濁液(展着剤非加用、1mLあたり1×105胞子)を作製し、得られた胞子懸濁液をハンドスプレーヤーで上記植物体全体に噴霧接種し、20℃の湿室内で調査時まで管理した。
接種4日後に、子葉における発病程度を以下の基準に従って指数調査し、発病度及び防除価を算出した。
調査基準: 0:発病なし
1:病斑面積5%未満
2:病斑面積5%以上25%未満
3:病斑面積25%以上50%未満
4:病斑面積50%以上
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×4)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100

表1にキュウリ灰色かび病に対するスクラレオールの防除価を示す。なお、防除価の数値が高いほど防除効果が高いことを示す。すなわち、防除価0は全く防除できず病気が発生したこと、防除価100は病気を完全に防除できたことを示す。スクラレオールは、完全ではないが中程度の防除効果を示した。
【0036】
実施例7
<イネ種子伝染性病害に対する防除効果>
青枯病以外の病気に対するスクラレオールの防除効果を調べるために、以下の実験を行った。
適量のスクラレオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、スクラレオールの濃度が100mMの薬剤を得、水によって100、200、400μMの濃度になるように希釈した。
次いで、イネ苗立枯細菌病感染籾「コシヒカリ」、イネもみ枯細菌病感染籾「コシヒカリ」、イネばか苗病感染籾「短銀坊主」をプラスチックポットに入れ、体積比で2倍量の水を加え、籾を完全に浸漬させ、15℃で5日間培養した。ポット中の水を捨て、体積比で等量の上記希釈スクラレオールもしくは対照区として水のみをポットに新たに注入し、発芽を促すために30℃に移し、24時間培養した。次いで、ポットから籾をとりだし、宇部培土に播種し、30℃で引き続き培養した。培養後、葉が出た苗について下記(1)〜(3)の調査を行った。
(1)イネ苗立枯細菌病
イネ苗立枯細菌病に関しては、各区の全苗について下記病徴指数(発病指数)に従って調査し、発病度及び発病苗率を求め、発病度から防除価を算出した。
(病徴指数)
0:健全
1:第3葉白化苗
2:第2葉白化苗
3:第1葉白化苗
4:出芽枯死苗
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×4)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100

(2)イネもみ枯細菌病
イネもみ枯細菌病に関しては、各区の全苗について下記病徴指数(発病指数)に従って調査し、発病度及び発病苗率を求め、発病度から防除価を算出した。
(病徴指数)
0:健全
1:第2葉の白化、強い矮化
2:第2葉の白化、第2葉抽出不良
3:枯死あるいは枯死寸前
発病度=Σ(程度別発病葉数×指数)×100/(調査葉数×3)
防除価=100−(処理区の発病度/無処理区の発病度)×100

(3)イネばか苗病
イネばか苗病に関しては、各区の全苗について健全苗数、又はばか苗病発病苗数を調査し、ばか苗病発病苗率から防除価を算出した。
【0037】
表1にイネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネばか苗病に対するスクラレオールの防除価を示す。なお、防除価の数値が高いほど防除効果が高いことを示す。すなわち、防除価0は全く防除できず病気が発生したこと、防除価100は病気を完全に防除できたことを示す。スクラレオールは、上記3つの病害に対して高程度の防除効果を示した。
【0038】
【表1】

【0039】
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの植物病害の抑制効果を確認するため、以下の実施例8、9の実験を行った。
【0040】
実施例8
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールはタバコより精製した。精製法は非特許文献(The Plant Cell, Volume 15, Page: 863-873 DOI: 10.1105/tpc.010231)に記載の方法に準じた。
適量の(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールを、メタノールに添加して均一になるまで攪拌することにより、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの濃度が100mMの薬剤を得た。
次いで、予め約1カ月間土壌中で栽培したタバコ(品種名:サムスンNN)に対して、養液に上記のごとく得られた薬剤を(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールが100μMになるように添加し、2日間水耕栽培した。その後、タバコ植物体の根に、1mLあたり108個のコロニーを形成するのに等しい量の立枯病菌8225株を接種した。接種1週間目に茎を回収し、乳鉢を用いて適当量の滅菌蒸留水中で摩砕後、摩砕液を適当量の滅菌蒸留水で希釈した。希釈液を50ppmのテトラゾリウムクロライドを含むCPG培地(1%バクトペプトン、0.05%グルコース、0.001%カザミノ酸、0.9%寒天)上に拡げ、30℃で2〜3日間培養し、中心部がピンク状のコロニーを計測した。また、対照として、薬剤を未添加であるが0.1%のメタノールを含む養液によって、同様に処理したタバコに対して立枯病菌を接種し、同様の検定を行った。
図7に、立枯病菌接種7日後の立枯病菌の増殖の程度を示す。(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオール処理したタバコでは、立枯病菌の増殖が抑制されていることが判明した。
【0041】
実施例9
<立枯病菌への抗菌活性>
(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールの青枯病菌への抗菌活性の有無を確認するために以下の実験を行った。
100μM(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオールもしくは対照として0.1%メタノールを含む寒天培地に立枯病菌8225株を接種、培養した。
図8に接種後1日目の写真を示す。両者には明確な差は確認できず、(11E,13E)-ラブダ-11,13-ジエン-8α,15-ジオール自体は立枯病菌に対する抗菌活性を示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病、イネばか苗病等の各種植物病害を防除し、健全な作物を栽培するための農業資材としての防除剤の有効な素材として利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルペノイド関連化合物を有効成分として含有することを特徴とする植物病害防除剤。
【請求項2】
テルペノイド関連化合物が、スクラレオールである請求項1記載の植物病害防除剤。
【請求項3】
植物病害が、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病又はイネばか苗病である請求項1又は2に記載の植物病害防除剤。
【請求項4】
対象植物にテルペノイド関連化合物を吸収させることを特徴とする植物病害防除方法。
【請求項5】
テルペノイド関連化合物が、スクラレオールである請求項4記載の植物病害防除方法。
【請求項6】
植物病害が、青枯病、立枯病、灰色かび病、イネ苗立枯細菌病、イネもみ枯細菌病又はイネばか苗病である請求項4又は5に記載の植物病害防除方法。
【請求項7】
対象植物が、ナス科、アブラナ科、イネ科又はウリ科である請求項4から6のいずれかに記載の植物病害防除方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−246447(P2011−246447A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93289(P2011−93289)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】