説明

植物育成方法および育成装置

【課題】 発光スペクトルを変えることなく、光の輝度及びパルス周期をゆらぎ制御し、連続光あるいはパルス光でより効率良く植物を生育させることができる植物育成方法及び育成装置を提供する。
【解決手段】 植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光の輝度にゆらぎ成分を与える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法および育成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、屋内での植物育成用人口光源として、蛍光ランプあるいは高圧放電灯等の高輝度ランプが用いられているが、これらの光源は発光のエネルギー効率が悪く、また、ランプ点灯時における発熱防止のため空調設備の併用が必要であり、更に植物の育成に無関係な波長域の放射により無駄なエネルギーの消費が行われる等の欠点が指摘されていた。
【0003】これらの光源の問題点を解決するものとしてLED(発光ダイオード)が有用的であると考えられていたが、植物の育成に必要である青色光を放射するLEDがなかったため、植物育成用光源としての実用化はほとんど進まなかった。
【0004】1993年に高輝度の青色光を放射するLEDの開発に成功し,LEDによる植物育成の試みが始まった。青色LEDと赤色LEDを適当な割合で混合した光源を作成することによって、いろいろな植物の正常な形態での育成の可能性が示唆された(園芸学会誌64別1(1995):390−391)。
【0005】更に、周期100μs以下、デューティ比50%、消費電力100W/m2 でLEDをパルス点灯させると、連続光を比較して約20%の生育促進効果が認められた(日本植物工場学会平成7年度大会、学術講演要旨集:17−2)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、発光スペクトルを変えることなく、光の輝度及びパルス周期を電気的に制御できる特性に注目し、連続光或いはパルス光でより効率良く植物を生育させることができる植物育成方法及び育成装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明の方法は、植物に人工光を照射して植物の成長を促進する植物育成方法において、前記人工光の輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする。
【0008】また、本発明の方法は、植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光は時系列的に連続する連続光であり、この連続光の輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする。
【0009】また、本発明の方法は、植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光は時系列的に断続するパルス光であり、このパルス光の周期および/または輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする。ここで、前記ゆらぎ成分は、パルス光の非発光周期に付与してもよく、或いは、パルス光の発光周期に付与してもよい。
【0010】また、本発明の装置は、植物に人口光を照射する発光ダイオードと、この発光源に駆動電流を供給する駆動手段と、前記駆動電流にゆらぎ成分を混入させる制御信号を前記駆動手段に与える制御手段とを備えたことを特徴とする。ここで、前記発光ダイオードは、具体的には、複数の赤色発光ダイオード、複数の緑色発光ダイオードおよび複数の青色発光ダイオードを含む発光ダイオード群から成る。前記発光ダイオードに駆動電流を供給する際に、前記駆動電流を時系列的に連続する電流として、制御手段は前記駆動電流の振幅にゆらぎ成分を与えるようにしてもよく、また、別の態様では、前記駆動電流を時系列的に断続するパルス電流とし、制御手段は前記パルス電流のオフデューティの周期またはオンデューティの周期にゆらぎ成分を与えるようにしてもよい。
【0011】以上の本発明に係る植物育成方法および育成装置によれば、少ない照射量で植物内成分の糖質、ビタミン類等の栄養成分を調節して生長促進を図ることができ、また消費電力の軽減を達成することができる。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、図面に基づいて本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0013】(I)原理一般に、植物体に人口光を照射すると、植物の葉に電圧(葉面電位)が発生し、この葉面電位による植物内のイオン電流量と植物の成長とが関係していることは知られている。この場合に、照射する人口光に「ゆらぎ成分」を与えることにより、照射光がより自然光に近づくこととなり、ゆらぎ成分を付加した結果、植物内の電位が高電位となってイオン電流が増加し、植物の生長が促進されることが確認された。
【0014】図2に、光源としてLEDを用い、植物体(例えば、ウコギ科のカポック等)にゆらぎ成分を付加したLEDからの光を照射した場合、ゆらぎ成分を付加しない場合の葉面電位を測定し、その葉面電位の変化(葉面電位差)を示す。光照射条件を次のように設定して葉面電位の測定を行った。なお、測定系の構成は後述する植物育成装置とともに説明する。 測定条件は、次の通りである期間T1…LED=ON (点灯)、周期的ゆらぎ成分付加期間T2…LED=OFF(消灯)
期間T1…LED=ON (点灯)、周期的ゆらぎ成分なし図2からわかるように、ゆらぎ成分を付加した期間T1での葉面電位差δ1(約1.37mV)は、ゆらぎ成分を付加しない期間T3での葉面電位差δ2(約1.22mV)に対して明らかに高い値を示している。なお、図2R>2に示されるように、LEDのON、OFF時の葉面電位波形では、LEDがONになると、2分程度の過分極が生じた後、数mVの脱分極が生じ、5分程度で平衡値に達する。脱分極値は、LEDの輝度と相関関係がある。
【0015】このような実験を10回繰り返し、その値をランダマイズした図を図3に示す。この図3からわかるように、LEDにゆらぎ成分を付加した場合には、葉面電位差量δの値が高くなっている(平均値の差の検定結果において危険率5%で有意差有り)。このように、ゆらぎ成分を付加することにより、葉面電位の上昇、イオン電流の増加が可能であり、植物をより効率良く活性化し、生長促進を図ることができるのである。
【0016】(II)植物育成装置図1に、上記原理を応用した本発明に係る植物育成装置の実施の形態を示す。この植物育成装置は葉面電位の測定系を含んでいる。
【0017】図1において、シールドボックス10内には、育成対象である植物体12が配置されている。この植物体12に面して、光源となるLED基板14が配置されているいる。
【0018】LED基板14は、赤色LED、緑色LEDおよび青色LEDを含む高輝度型LED素子が多数(例えば、数100個)配置されて成る。このLED基板14と植物体12とは、光の照射効率上、相互に接近しているのが好ましい。この点に関し、従来の光源では発熱量が多く、植物への熱的影響が無視できなかったが、本実施の形態では温度上昇の少ないLEDを使用しているため、光源の発熱による植物体12への熱的影響を考慮しなくてよく、したがって光の照射効率の向上が可能である。以上のLED基板14は、コンピュータ16により制御される。
【0019】コンピュータ16としては、パーソナルコンピュータの使用が可能であり、メモリ内に格納された光照射制御ログラムにしたがって、LED基板14の輝度制御を行う。この輝度制御に当たっては、後述するように、1/f〜1/f2 のゆらぎ制御が行われる。
【0020】パソコン16からの制御出力信号(例えば、8ビット)は出力ポート18を介してD/A変換ボード20によりアナログ電圧信号(例えば、数ボルト)に変換され、変換されたアナログ電圧信号はV/I変換ボード22により駆動電流に変換されてLED基板14に供給される。
【0021】(III)ゆらぎ制御図3〜図8に本実施の形態によるゆらぎ成分が付加された各種の光波形を示す。これらのゆらぎ制御の光波形のうち、いずれを用いるかは、育成対象である植物体12の種類や育成態様(植物の大きさ、形状等)に合わせて適宜選択して採用する。ゆらぎ成分自体は1/f〜1/f2 のゆらぎ成分であり、その付加の態様として、照射光の種類には連続光とパルス光の2種類が考えられ、ゆらぎ成分の態様には図3〜図8に示すようなものがある。
【0022】図3に、照射光に連続光を用い、この連続光に輝度ゆらぎを付加する例を示す。この例では、連続光の振幅にゆらぎ成分に対応した変化が与えられてゆらぎ制御が行われる。実際には、図示するように時間幅t1の周期ごとに振幅値を変化させることにより、ゆらぎの付加が可能である。
【0023】図5は、照射光にパルス光を使用し、このパルス光の非発光周期にゆらぎ成分を付加する例を示している。すなわち、パルス光の波高値は一定であり、パルス光の発光時間幅t2は一定に維持され、非発光周期t3がゆらぎ成分に対応して変化するよう制御される。
【0024】図6は照射光にパルス光が使用され、このパルス光の発光周期にゆらぎ成分を付加する例を示す。すなわち、非発光時間幅t4は一定に設定されるが、パルス光の発光時間幅t4がゆらぎ成分に応じて変化するよう制御される。
【0025】図7は照射光にパルス光が使用され、パルス光に段階的な輝度ゆらぎが与えられる例を示す。すなわち、パルス光の発光時間t6が一定に設定されるとともに、パルス光の非発光時間幅t7も一定に設定され、発光輝度がゆらぎ成分に応じて段階的に変化するよう制御される。
【0026】図8は、パルス光が使用され、パルス光に段階的な輝度ゆらぎが与えられるとともに、パルス光の非発光周期にゆらぎ成分が与えられる例を示す。すなわち、パルス光の発光時間幅t8は一定に設定されるが、発光輝度が段階的に変化し、且つ、非発光時間幅t9 がゆらぎ成分に対応して変化するよう制御される。
【0027】次に、再び図1を参照して、葉面電位測定系について説明する。LED基板14からの照射光の植物体12への影響は、照射によって発生する葉面電位を測定することにより評価されることは先に述べた通りである。この葉面電位の測定検出について、図1に示す植物体12の葉の拡大図Aを用いて以下説明する。
【0028】葉24の主葉脈26には、葉面電位検出用のプローブである皿電極(Ag−Acl)28(+側)、30(−側)が配置されている。なお、植物体12の葉面電位を測定する際には、外部からの磁界や電界等の影響によるノイズを除去するために、植物体12を電磁・静電シールドボックス10内に収容して葉面電位を測定し、シールドボックス10は内部の温度・湿度が常に一定になるように管理される。
【0029】LED基板14からの光の照射により、植物体12の葉面電位が変化すると、皿電極28、30での検出電位は好感度・低ノイズ型の差動増幅器32により増幅され、その増幅検出電位はA/D変換ボード34によりディジタル値に変換された後、入力ポート36を介してコンピュータ16に入力される。
【0030】コンピュータ16は、この入力信号に基づいて、LED基板14からの照射による植物体の影響を分析評価し、その測定結果を外部に表示し、また、LED基板14からの光の照射量のフィードバック制御、あるいはLED基板14と植物体12との相対距離を一定に保つようフィードバック制御を行う。
【0031】必要な場合には、LED基板14の高さ位置を植物体12の成長に合わせて自動調整するようにすることができる。この自動高さ調整は、例えば、LED基板14にフォトトランジスタ等の光センサを設け、LEDの葉面での反射光を光センサによって検出し、検出光が所定の値になるようにLED基板14を適当な駆動手段(モータ、流体圧シリンダ等)により制御するように構成する。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、植物育成用発光源からの光の輝度および/または周期にゆらぎを付加しており、植物への照射量が同じであったとしてもゆらぎを付加しない場合と比較して植物を効率的に育成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る植物育成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】LEDからの光にゆらぎ成分を付加した場合とゆらぎ成分を付加しない場合との葉面電位波形を示すグラフ図である。
【図3】LEDからの光にゆらぎ成分を付加した場合とゆらぎ成分を付加しない場合との葉面電位変化量を示すグラフ図である。
【図4】連続光に段階的な輝度ゆらぎを与えた光波形図である。
【図5】パルス光の非発光周期にゆらぎ成分を与えた光波形図である。
【図6】パルス光の発光周期にゆらぎ成分を与えた光波形図である。
【図7】パルス光に段階的な輝度ゆらぎを与えた光波形図である。
【図8】パルス光に段階的な輝度ゆらぎを与えるとともに、該パルス光の非発光周期にゆらぎ成分を与えた光波形図である。
【符号の説明】
10 シールドボックス
12 植物体
14 LED基板
16 コンピュータ
24 葉
26 主葉脈
28 +皿電極
30 −皿電極
δ1、δ2 葉面電位差

【特許請求の範囲】
【請求項1】 植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光の輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする植物育成方法。
【請求項2】 植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光は時系列的に連続する連続光であり、この連続光の輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする植物育成方法。
【請求項3】 植物に人工光を照射して植物の生長を促進する植物育成方法において、前記人工光は時系列的に断続するパルス光であり、このパルス光の周期および/または輝度にゆらぎ成分を与えることを特徴とする植物育成方法。
【請求項4】 植物に人口光を照射する発光ダイオードと、この発光源に駆動電流を供給する駆動手段と、前記駆動電流にゆらぎ成分を混入させる制御信号を前記駆動手段に与える制御手段とを備えたことを特徴とする植物育成装置。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開平9−275779
【公開日】平成9年(1997)10月28日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−119764
【出願日】平成8年(1996)4月17日
【出願人】(000000192)岩崎電気株式会社 (533)