植生の制御方法
【課題】外来植物の生育により在来植物が衰退している土地について、在来植物を優占植物とする植生への制御方法を提供する。
【解決手段】外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法であり、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量は、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする施用量が好ましい。
【解決手段】外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法であり、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量は、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする施用量が好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来植物の生育により在来植物が衰退している土地を、在来植物が優占する土地へと植生を制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国立公園内、河川敷、農耕地周辺、農耕地、耕作放棄地、道路法面等においては、外来植物が蔓延しており、そのため在来植物が衰退し、生物多様性の保全上、大きな問題となっている。
【0003】
外来植物の蔓延を防止するために、これまでは除草剤等による化学的防除や、刈り払いあるいは抜き取りなどの機械的防除を行うのが一般的であった。しかし、これらの手法を用いた場合、防除実施後に在来植物が回復せず、再び外来植物が蔓延する場合が多かった。
【0004】
外来性植物を駆除する工法としては、有機質資材を燻製した粉状又は粗粒の燻製炭、泥炭腐植土、ピートモス、ココピート、フミン酸及び炭、バーク堆肥、おが屑、稲わら、籾殻、ゼオライトにモル濃度で1.0〜18.0molL-1の硫酸、塩酸、酢酸、竹酢液、木酢液等をしみ込ませて製造し、当該有機質資材を用いた客土又は有機質資材と粗粒砂とを混合して得た客土から成る緑化基盤材を緑化基盤材吹付機で対象地盤に吹き付けることにより、セイタカアワダチソウ等の外来生物を駆除する工法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0005】
しかし前記方法は、緑化基盤材の製造が煩雑であり、該緑化基盤材を対象地盤に吹き付ける施工に多大な労力がかかり、かつ、施工後に追加手段を講じることが困難である。このため、広範な適用は困難であった。また、この施工法は、硫酸や塩酸などの強酸によって土壌を酸性化させることから、局部的に自然状態ではあり得ない強酸的環境になり、自然環境に対するリスクは高いと考えられた。このため、生物多様性の保全上、より汎用性が高く、かつよりきめ細かに対象地域の環境に配慮した植生制御法の開発が求められていた。
【0006】
本発明者は先に、人為的撹乱によって土壌酸性が矯正され、農作物の土壌酸性障害の発生が抑制された土地において多くの外来植物が蔓延していること、逆に従来からの強い土壌酸性が維持されている土地においては外来植物の侵入が起こりにくく在来植生が維持されていることを見出した(非特許文献1を参照。)。このため、一旦土壌酸性が矯正された耕作放棄地などにおいて外来植物が蔓延している場合、除草剤等により一時的に外来植物を枯死させても、近隣からの種子の飛散などにより、その後再び外来植物の侵入を許してしまうことが多いことが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−215285号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平舘俊太郎・他著「外来植物と在来植物の住み分け:これからの植生制御に向けて〜」関東雑草研究会報、19, 23-33.(2008. 9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、外来植物の生育により在来植物が衰退している土地について、在来植物が優占する土地へと植生を制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、セイタカアワダチソウ等の外来植物の生育により在来植物が衰退している土地にアルミニウムイオン及び/又は鉄イオンを土壌に処理することによって、セイタカアワダチソウ等の外来植物の生育が抑制され、在来植物が優占する土地へと植生を制御することが可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下の通りである。
<1> 本発明は、外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法である。
<2> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量は、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする施用量が好ましい。
<3> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバン、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<4> 更に本発明は、前記鉄(III)イオンの塩化合物が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<5> 更に本発明は、前記鉄(II)イオンの塩化合物が、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<6> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物が、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルのいずれか1以上に保持された形態で施用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施することにより、セイタカアワダチソウ等の外来植物が生育し在来植物が衰退している土地に対して、アルミニウムイオン及び/又は鉄イオンを土壌に処理することによって、土壌酸性を高めるとともに、該土壌酸性を長期にわたって維持し、外来植物の生育を抑制し、外来植物よりも在来植物が優占する土地へと植生を変えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、外来植物であるセイタカアワダチソウが繁茂している実施例1を実施する前の対象試験地の様子を示す(処理前、2009年8月17日)。
【図2】図2は、実施例1の土壌に対して塩化アルミニウムを添加した際に起こる置換酸度y1の変化を示す(室内実験結果)。
【図3】図3は、実施例1の現地試験圃場における被度の推移を示す。
【図4】図4は、実施例1の現地試験圃場における植物の平均出現種数の推移を示す。
【図5】図5は、実施例1の現地試験圃場における各植物種群の相対被度の推移を示す。
【図6】図6は、実施例1を実施後の現地試験圃場のチガヤが再生した様子を示す(処理約10ヵ月後、2010年6月22日、全量処理区)。
【図7】図7は、茨城県牛久市土壌に、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム粉末、硝酸鉄(III)9水和物、硫酸鉄(II)7水和物を添加した際におこる置換酸度y1の変化を示す。
【図8】図8は、山口県山口市土壌に、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)6水和物、塩化鉄(II)4水和物を添加した際におこる置換酸度y1の変化を示す。
【図9】図9は、セイタカアワダチソウ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図10】図10は、コセンダングサ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図11】図11は、マルバフジバカマ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図12】図12は、オオマツヨイグサ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図13】図13は、イヌエビ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図14】図14は、クズ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図15】図15は、ヨモギ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法である。なお前記外来植物とは、明治時代以降に人為的に国内に導入された植物をいい、具体的にはセイタカアワダチソウ、コセンダングサ、マルバフジバカマ、オオマツヨイグサ、アレチウリ、イチビ、オランダガラシ、ショクヨウガヤツリ、シロツメクサ、セイヨウタンポポ、ハリビユ、ブタクサ、ホテイアオイ、ワルナスビ等を挙げることができる。以下、本発明について説明する。
【0014】
本発明は、アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを土壌に施用することにより、土壌に保持されているカルシウムイオン等の植物栄養塩類をイオン交換反応によってアルミニウムイオンあるいは鉄イオンと置き換えて溶脱させるとともに、下記の反応により土壌酸性を高めるものである。
【0015】
【化1】
【0016】
アルミニウムイオンおよび鉄イオンは、ほとんどの土壌において主成分となっていることから、またこれらの反応は降雨の多い地域の土壌中では自然に起こる反応でもあることから、本発明の方法は自然環境に対する安全性が高い手法であると言える。
【0017】
さらに、前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを施用した土壌は、自然状態おいて降雨によって塩基が洗い流された状態に近いため、その酸性状態は長期にわたって維持される。また、前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンは弱酸的性質を持つため、多量に施用しても土壌が強酸になりすぎる危険性は小さく、この点からも自然環境に対する安全性は高いと言える。
【0018】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物とは、アルミニウム塩、3価鉄塩、2価鉄塩、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0019】
前記アルミニウム塩とは、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバンなど、アルミニウムあるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0020】
前記3価鉄塩とは、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩など、鉄(III)あるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0021】
前記2価鉄塩とは、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩など、鉄(II)あるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0022】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを適当な担体に保持させた資材としては、前記アルミニウムイオン、鉄(III)イオン、あるいは鉄(II)イオンを、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルに保持させた資材などが挙げられる。1:1型層状ケイ酸塩粘土としては、ハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、アンティゴライト、クリソタイルを、2:1型層状ケイ酸塩粘土としては、バーミキュライト、スメクタイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、イライト、白雲母、黒雲母、パラゴナイト、フロゴパイト、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、クロライト、ドンバサイト、クーケライト、クリノクロアを挙げることができる。
【0023】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物を前記担体に保持させる方法としては、塩化合物を大量の水に溶解し担体と混合後沈殿部を採取する方法、塩化合物を少量の水に溶解させ担体に付着させる方法、適度な水分状態に保った担体に塩化合物粉末を添加する方法などを挙げることができる。
【0024】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物そのものあるいはこれらを適当な担体に保持させた資材は、粉末として土壌に施用することができるが、水溶液あるいは水懸濁液としても土壌に施用することができる。
【0025】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物そのものあるいはこれらを適当な担体に保持させた資材の施用量は、対象土壌に対する資材添加実験を実験室内にて予め実施しておき、対象土壌の目標とする置換酸度から施用量を求める。どの値を置換酸度の目標値として設定するかは、まずその地域の自然土壌あるいはその地域において従来から維持されてきた土壌についての文献情報あるいは実測データを収集し、これと大きくかけ離れない範囲内に設定することが生態系の保全上望ましいが、一般的には置換酸度y1が1〜50の範囲内が好ましく、5〜20の範囲内がより好ましい。また、該置換酸度をコントロールする対象土壌の深さは表層から20cm以内の範囲が好ましい。なお、置換酸度y1値とは、風乾土壌1kgあたりから1mol L―1塩化カリウム溶液によって抽出された酸の量をmmol数で表したものの半量に相当する。
【0026】
本発明の植生の制御方法を用いることにより、セイタカアワダチソウやオオマツヨイグサなどの外来植物の生育を衰退させ、チガヤやススキなどの在来植物を呼び戻す効果がある。
【0027】
対象とする土地は、例えば、旧畑地、旧樹園地、旧草地、旧水田などの耕作跡地、道路法面、畦畔、墓地、公園、建物の周辺の空き地、開墾地、森林、自然草地などを挙げることができる。
【0028】
本発明が提供する技術は、出芽前及び出芽直後の外来植物に対して特に優れた生長抑制作用を示す。したがって、防除対象の外来植物の発生時期あるいは発生直後に施用するか、防除対象の外来植物を一旦刈り取りその跡地に施用することが、本発明の有する効果を効率的に発現させる上から望ましい。
【0029】
しかし本発明の植生制御法は、外来植物の生育始期に限定されるものではなく、発生後一ヶ月以降の栄養生長期あるいは繁殖栄養期の外来植物の防除にも適用可能である。
【0030】
本発明の資材は、外来植物を防除あるいは抑制する目的で、あるいは植生を制御する目的で、当該目的とする土地の土壌あるいは植物体に直接処理して使用する。施用量は、前記の算出方法により決定するが、具体的には、例えば置換酸度y1を5とするために塩化アルミニウムを50 mmol kg―1添加する必要がある土壌においては、土壌の比重が1.0であるならば、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241であることから、土壌の表層から深さ5cmまでを置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム6水和物の量は、
0.241(kg mol−1)×0.05(mol kg−1)×50(kg m―2)=0.6 kg m―2
より、0.6 kg m―2であると計算される。
【0031】
本発明の資材の施用量は、種々の因子、例えば、土壌の種類、土壌の管理履歴、目的とする植物、該植物の発生・生育状況、植物の発育傾向、天候、環境条件、施用方法、施用土地、施用時期等により変動する。目的に応じて、使用する資材の種類やその施用形態および施用量を適宜選択して使用する。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の内容を実施例によりさらに具体的に示すが、本発明は本実施例の記載に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1は、山口県山口市所在の耕作放棄地で行われた。該耕作放棄地は平成10年頃まで果樹園として利用されていた土地であり、実施例1の実施前は、外来植物であるセイタカアワダチソウが蔓延していた。実施前の状態を図1に示す。
【0033】
前記耕作放棄地について、土壌を採取し化学分析を実施した。その結果、かつての耕作や施肥あるいは土壌改良資材投入の影響等により、土壌pH(H2O中)は7.4、置換酸度y1は0.2であった。一方、前記耕作放棄地に隣接する林地には、クリやコナラ等の在来植物が生育していた。そこで該林地の未かく乱土壌についても、土壌を採取し化学分析を実施した。その結果、土壌pH(H2O中)は4.7、置換酸度y1は15であった。
【0034】
なお、置換酸度y1は下記の方法により測定した。風乾土10gを100mL容三角フラスコにとり、1 mol L―1 塩化カリウム溶液を25mL加えて24時間振とう後、ろ液を得た。ろ液について0.1 mol L―1 あるいは0.02 mol L―1 水酸化ナトリウム溶液で滴定し、その値から全抽出液の1/2を中和するのに要する水酸化ナトリウム溶液の容量を0.1 mol L―1 溶液のmL数に換算(土壌100gを供試した場合に換算)してy1値とした。この置換酸度y1は、土壌1kgあたりから1 mol L―1 塩化カリウム溶液によって抽出された酸の量をmmol数で表したものの半量に相当する。
【0035】
そこで、前記耕作放棄地の土壌に対して塩化アルミニウムを適宜添加し、その際に起こる置換酸度y1の変化を、室内実験により求めた。結果を図2に示す。図2の結果から、該土壌に対して塩化アルミニウムをおよそ50 mmol kg―1添加すると置換酸度y1はおよそ5になることが判明した。この土壌は比重がおよそ1.0であること、および塩化アルミニウム6水和物の分子量は241であることから、土壌の表層から深さ5cmまでを置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム6水和物の量は、
0.241(kg mol−1)×0.05(mol kg−1)×50(kg m―2)=0.6 kg m―2であると計算された(半量区)。また、該土壌を10cmの深さまで置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム量は、1.2kg m−2であると計算された(全量区)。
【0036】
そこで、前記耕作放棄地に生育している植物を2009年8月17日に一旦刈り取り、次いで2009年8月19日に該刈り取り後の耕作放棄地に対して、0.6kg/m2(半量区)、及び1.2kg/m2(全量区)の塩化アルミニウム粉末(和光純薬社製、特級試薬)を散布した。以後、2009年9月11日、2009年10月13日、2009年12月1日、2010年1月29日、2010年4月13日、2010年6月22日、2010年9月26日に植生調査を実施した。
【0037】
実施例1の現地試験圃場における被度の推移を図3に示す。なお図3における被度は、各植物ごとに地表面の被覆率(%)×高さ(m)を求め、これらを全ての出現植物について積算した値として求めた。図3の結果から、地面を覆う植物の被度は、資材の処理直後は低くなったが、半量区ではおよそ10ヵ月後に、全量区ではおよそ13ヵ月後に、無処理区と同程度まで回復したと言える。
【0038】
実施例1の現地試験圃場における植物の平均出現種数の推移を図4に示す。図4の結果から、出現種数は、資材の処理直後は少なくなったが、半量区・全量区ともにおよそ10ヵ月後に無処理区と同程度に回復し、13ヵ月後には無処理区よりも多くなった。
【0039】
また各植物種群の相対被度の推移を図5に示す。なお、図5における相対被度とは、調査地における全出現植物種の被度の合計に占める当該植物種群の被度の割合をパーセントで示したものである。図5より、処理約1年後において無処理区と比較すると、全量処理区ではセイタカアワダチソウの生育が顕著に抑えられて、その代わりに在来植物が多数出現した。その結果、植物の多様性が高くなり、より望ましい植生になったと考えられる。
【0040】
また塩化アルミニウム処理後のセイタカアワダチソウ(侵略的外来植物)の相対被度の変化(%)を表1に示す。なお相対被度は前記と同様に求めた。
【表1】
【0041】
表1の結果から、全量処理区ではセイタカアワダチソウの再生が1年間以上にわたってほぼ完全に抑えられた。
【0042】
また、処理後およそ10ヵ月(2010年6月22日)の植生の状態を図6に示す。図5、及び図6から、およそ1年後にはセイタカアワダチソウに代わって在来植物であるチガヤが優占種となった。
【0043】
このように、本発明によって、外来植物であるセイタカアワダチソウが優占する植物群落を、チガヤやススキといった在来植物が優占する多様度の高い植生群落に誘導することができた。本効果は、土壌の酸性化およびカルシウムイオンなど植物栄養陽イオンの交換・溶脱によるものと考えられる。
【0044】
本効果は、アルミニウムイオンを土壌に施用することにより、土壌に保持されているカルシウムイオン等の植物栄養塩類をイオン交換反応によってアルミニウムイオンと置き換えて溶脱させるとともに、下記の反応により土壌酸性を高めるものである。
【0045】
【化2】
【0046】
<実施例2>
前記の通り実施例1に示した土壌環境制御による植生制御効果は、土壌の酸性化およびカルシウムイオンなど植物栄養陽イオンの交換・溶脱によるものと考えられることから、このような効果は塩化アルミニウムに限られるものではなく、他のアルミニウム塩化合物、鉄(III)塩化合物、鉄(II)塩化合物、アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを適当な担体に保持させた資材等でも同様の効果が考えられる。
【0047】
そこで、これら塩化アルミニウム以外の資材が土壌酸性を高める効果について、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム粉末(多木化学社製)、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、塩化鉄(FeCl3)、硫酸鉄(FeSO4)、塩化鉄(FeCl2)を供試資材として、以下の方法で測定した。
【0048】
供試土壌として茨城県牛久市の火山灰土壌を用い、表2に示す供試資材及び添加量を、また実施例1で使用したものとは異なる山口県山口市の赤黄色土壌を用い、表3に示す供試資材及び添加量を、それぞれ添加し、24時間反応後、実施例1と同様の方法により置換酸度y1を測定した。添加した資材による茨城県牛久市の火山灰土壌の置換酸度y1の上昇効果を表2、図7に、山口県山口市の赤黄色土壌の置換酸度y1の上昇効果を表3、図8に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
また茨城県牛久市土壌について、実施例1と同様、土壌の比重は1.0であるとして、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241,硝酸鉄(III)9水和物の分子量は404,硫酸鉄(II)7水和物の分子量は378,ポリ塩化アルミニウム粉末は340gでAl2O3が1 mol含まれているとして、置換酸度y1を5とするために必要なそれぞれの資材量を計算し、表4に示した。
【表4】
【0052】
また山口県山口市土壌について、実施例1と同様、土壌の比重は1.0であるとして、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241,塩化鉄(III)6水和物の分子量は270,塩化鉄(II)4水和物の分子量は199として、置換酸度y1を5とするために必要なそれぞれの資材量を計算し、表5に示した。
【表5】
【0053】
表2、表3、図7および図8より、茨城県牛久市の火山灰土壌および山口県山口市の赤黄色土壌を酸性化させる効果は、塩化アルミニウム同様、ポリ塩化アルミニウム粉末、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、塩化鉄(FeCl3)、硫酸鉄(FeSO4)、塩化鉄(FeCl2)にも認められ、その効果は塩化アルミニウムの2倍程度から1/2倍程度の範囲内にあった。これらの資材を利用して、表4あるいは表5の計算結果にもとづき、土壌表層5cmあるいは10cmに対して置換酸度y1を5とするために必要な資材量を施用すれば、実施例1に示した塩化アルミニウムと同等の植生制御効果を得ることが出来る。
【0054】
アルミニウムおよび鉄は、いずれも土壌を構成する主要元素であり、これらの土壌中における含有率は数%〜数十%を占める。このため、これらの元素を土壌に施用しても、土壌の元素組成が大きく変化することはない。また、自然土壌中でも、これらの元素が下記の反応によって土壌酸性を制御していることが知られている。
【0055】
【化3】
【0056】
したがって、アルミニウムあるいは鉄を土壌に施用して土壌酸性をコントロールする本発明は、自然環境に対する安全性が高いと言える。
【0057】
<実施例3>
酸性化資材の投入によって土壌の置換酸度y1が上昇し、これに伴って発揮される植生に対する制御効果については、セイタカアワダチソウおよびチガヤに限られるものではなく、他の多くの外来植物および在来植物に対しても有効であると考えられる。このことを確かめるため、植物の種類および土壌の種類を変えて室内栽培実験を行い、植物の成長と置換酸度y1の関係を調査した。
【0058】
外来植物として、セイタカアワダチソウ、コセンダングサ、マルバフジバカマ、及びオオマツヨイグサを、在来植物としてイヌビエ、クズ及びヨモギを供試した。調査は、日本の代表的な土壌6点(アロフェン質黒ぼく土、非アロフェン黒ぼく土、灰色沖積土壌、赤黄色土、赤褐色石灰質土、対照土(クレハ園芸用倍土))をそれぞれ50 mLずつ小型ポットにはかりとり、調査対象植物を播種した後、人工気象室内にて2週間生育させ、各植物体の根の長さ調査した。なお、各土壌の置換酸度y1は、アロフェン質黒ぼく土で0.3、非アロフェン黒ぼく土で13、灰色沖積土壌で0.4、赤黄色土で20、赤褐色石灰質土で0、対照土0であった。また、栽培実験は、1区3連制で実施した。
【0059】
植物生育実験の結果を図9〜15に示す。図では、植物の生育量を縦軸に、土壌の置換酸度y1を横軸に取り、セイタカアワダチソウの生育量は図9に、コセンダングサの生育量は図10に、マルバフジバカマの生育量は図11に、オオマツヨイグサの生育量は図12に、イヌビエの生育量は図13に、クズの生育量は図14に、ヨモギの生育量は図15に示した。
【0060】
図9に示す通り、土壌の置換酸度y1を上昇させることによって、外来植物であるセイタカアワダチソウの生育は顕著に抑制される。同様に、図10〜12に示す通り、コセンダングサ、マルバフジバカマ、オオマツヨイグサといった他の侵略的外来植物の生育も抑えることが出来る。
【0061】
これに対して、図13および図14に示す通り、イヌビエやクズといった在来植物は、土壌の置換酸度y1が上昇しても植物生育はほとんど抑制されないため、本技術によって土壌の置換酸度y1を上昇させることによって、上記に挙げたような外来植物を衰退させ、上記に挙げたような在来植物が優占する植物群落へと誘導することが出来ると考えられる。ただし、図15に示す通り、在来植物の中にはヨモギのように置換酸度の高い土壌では生育することが難しい植物もあることから、本技術によって誘導することが出来るのは、置換酸度が高くても正常な生育が可能な植物の群落であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、人為的撹乱を受け外来植物が蔓延している耕作放棄地、道路法面、河川敷、国立公園内などにおいて、自然環境に対して影響が少ない手法によって在来植生を復元・維持するものであり、環境保全、緑化の場面で幅広く利用することができる。特に法面緑化においては、施工後に外来植物の侵入が問題となることも多く、施工後の在来植物の維持・復元を可能にする本発明の利用場面は多い。
【0063】
これまで、緑化基盤材に酸性の資材を用いる工法なども開発されているが、従来の方法は施工に多大な労力がかかり、かつ、施工後に追加手段を講じることが困難である。このため、広範な適用は困難であった。これに対して本発明は、土壌に物理的な力を加えることなく土壌表面に散布することも可能であることから、既に外来植物が蔓延している土地に対してでも有効にかつ少ない労力で処理することができる。また、散布する酸性化資材の量は、自然土壌の酸性度を参考にして決めるため、言うなれば土壌環境を従来の酸性状態に回復させるものである。したがって、大規模な人為的攪乱を起こさない限り、土壌の化学的特性は長期間持続的に維持できると考えられる。このように、本発明は多様な場面に対して適用可能であり、かつ簡単に実施可能な、応用範囲の広い技術である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、外来植物の生育により在来植物が衰退している土地を、在来植物が優占する土地へと植生を制御する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
国立公園内、河川敷、農耕地周辺、農耕地、耕作放棄地、道路法面等においては、外来植物が蔓延しており、そのため在来植物が衰退し、生物多様性の保全上、大きな問題となっている。
【0003】
外来植物の蔓延を防止するために、これまでは除草剤等による化学的防除や、刈り払いあるいは抜き取りなどの機械的防除を行うのが一般的であった。しかし、これらの手法を用いた場合、防除実施後に在来植物が回復せず、再び外来植物が蔓延する場合が多かった。
【0004】
外来性植物を駆除する工法としては、有機質資材を燻製した粉状又は粗粒の燻製炭、泥炭腐植土、ピートモス、ココピート、フミン酸及び炭、バーク堆肥、おが屑、稲わら、籾殻、ゼオライトにモル濃度で1.0〜18.0molL-1の硫酸、塩酸、酢酸、竹酢液、木酢液等をしみ込ませて製造し、当該有機質資材を用いた客土又は有機質資材と粗粒砂とを混合して得た客土から成る緑化基盤材を緑化基盤材吹付機で対象地盤に吹き付けることにより、セイタカアワダチソウ等の外来生物を駆除する工法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【0005】
しかし前記方法は、緑化基盤材の製造が煩雑であり、該緑化基盤材を対象地盤に吹き付ける施工に多大な労力がかかり、かつ、施工後に追加手段を講じることが困難である。このため、広範な適用は困難であった。また、この施工法は、硫酸や塩酸などの強酸によって土壌を酸性化させることから、局部的に自然状態ではあり得ない強酸的環境になり、自然環境に対するリスクは高いと考えられた。このため、生物多様性の保全上、より汎用性が高く、かつよりきめ細かに対象地域の環境に配慮した植生制御法の開発が求められていた。
【0006】
本発明者は先に、人為的撹乱によって土壌酸性が矯正され、農作物の土壌酸性障害の発生が抑制された土地において多くの外来植物が蔓延していること、逆に従来からの強い土壌酸性が維持されている土地においては外来植物の侵入が起こりにくく在来植生が維持されていることを見出した(非特許文献1を参照。)。このため、一旦土壌酸性が矯正された耕作放棄地などにおいて外来植物が蔓延している場合、除草剤等により一時的に外来植物を枯死させても、近隣からの種子の飛散などにより、その後再び外来植物の侵入を許してしまうことが多いことが明らかになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−215285号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】平舘俊太郎・他著「外来植物と在来植物の住み分け:これからの植生制御に向けて〜」関東雑草研究会報、19, 23-33.(2008. 9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、外来植物の生育により在来植物が衰退している土地について、在来植物が優占する土地へと植生を制御する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、セイタカアワダチソウ等の外来植物の生育により在来植物が衰退している土地にアルミニウムイオン及び/又は鉄イオンを土壌に処理することによって、セイタカアワダチソウ等の外来植物の生育が抑制され、在来植物が優占する土地へと植生を制御することが可能であることを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は以下の通りである。
<1> 本発明は、外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法である。
<2> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量は、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする施用量が好ましい。
<3> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバン、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<4> 更に本発明は、前記鉄(III)イオンの塩化合物が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<5> 更に本発明は、前記鉄(II)イオンの塩化合物が、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
<6> 更に本発明は、前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物が、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルのいずれか1以上に保持された形態で施用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明を実施することにより、セイタカアワダチソウ等の外来植物が生育し在来植物が衰退している土地に対して、アルミニウムイオン及び/又は鉄イオンを土壌に処理することによって、土壌酸性を高めるとともに、該土壌酸性を長期にわたって維持し、外来植物の生育を抑制し、外来植物よりも在来植物が優占する土地へと植生を変えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、外来植物であるセイタカアワダチソウが繁茂している実施例1を実施する前の対象試験地の様子を示す(処理前、2009年8月17日)。
【図2】図2は、実施例1の土壌に対して塩化アルミニウムを添加した際に起こる置換酸度y1の変化を示す(室内実験結果)。
【図3】図3は、実施例1の現地試験圃場における被度の推移を示す。
【図4】図4は、実施例1の現地試験圃場における植物の平均出現種数の推移を示す。
【図5】図5は、実施例1の現地試験圃場における各植物種群の相対被度の推移を示す。
【図6】図6は、実施例1を実施後の現地試験圃場のチガヤが再生した様子を示す(処理約10ヵ月後、2010年6月22日、全量処理区)。
【図7】図7は、茨城県牛久市土壌に、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム粉末、硝酸鉄(III)9水和物、硫酸鉄(II)7水和物を添加した際におこる置換酸度y1の変化を示す。
【図8】図8は、山口県山口市土壌に、塩化アルミニウム、塩化鉄(III)6水和物、塩化鉄(II)4水和物を添加した際におこる置換酸度y1の変化を示す。
【図9】図9は、セイタカアワダチソウ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図10】図10は、コセンダングサ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図11】図11は、マルバフジバカマ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図12】図12は、オオマツヨイグサ(外来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図13】図13は、イヌエビ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図14】図14は、クズ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【図15】図15は、ヨモギ(在来植物)の生育量と置換酸度y1の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法である。なお前記外来植物とは、明治時代以降に人為的に国内に導入された植物をいい、具体的にはセイタカアワダチソウ、コセンダングサ、マルバフジバカマ、オオマツヨイグサ、アレチウリ、イチビ、オランダガラシ、ショクヨウガヤツリ、シロツメクサ、セイヨウタンポポ、ハリビユ、ブタクサ、ホテイアオイ、ワルナスビ等を挙げることができる。以下、本発明について説明する。
【0014】
本発明は、アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを土壌に施用することにより、土壌に保持されているカルシウムイオン等の植物栄養塩類をイオン交換反応によってアルミニウムイオンあるいは鉄イオンと置き換えて溶脱させるとともに、下記の反応により土壌酸性を高めるものである。
【0015】
【化1】
【0016】
アルミニウムイオンおよび鉄イオンは、ほとんどの土壌において主成分となっていることから、またこれらの反応は降雨の多い地域の土壌中では自然に起こる反応でもあることから、本発明の方法は自然環境に対する安全性が高い手法であると言える。
【0017】
さらに、前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを施用した土壌は、自然状態おいて降雨によって塩基が洗い流された状態に近いため、その酸性状態は長期にわたって維持される。また、前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンは弱酸的性質を持つため、多量に施用しても土壌が強酸になりすぎる危険性は小さく、この点からも自然環境に対する安全性は高いと言える。
【0018】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物とは、アルミニウム塩、3価鉄塩、2価鉄塩、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
【0019】
前記アルミニウム塩とは、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバンなど、アルミニウムあるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0020】
前記3価鉄塩とは、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩など、鉄(III)あるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0021】
前記2価鉄塩とは、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩など、鉄(II)あるいはその水酸化物の塩化合物あるいはこれらの混合物をいう。
【0022】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを適当な担体に保持させた資材としては、前記アルミニウムイオン、鉄(III)イオン、あるいは鉄(II)イオンを、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルに保持させた資材などが挙げられる。1:1型層状ケイ酸塩粘土としては、ハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、アンティゴライト、クリソタイルを、2:1型層状ケイ酸塩粘土としては、バーミキュライト、スメクタイト、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、イライト、白雲母、黒雲母、パラゴナイト、フロゴパイト、レピドライト、マーガライト、クリントナイト、クロライト、ドンバサイト、クーケライト、クリノクロアを挙げることができる。
【0023】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物を前記担体に保持させる方法としては、塩化合物を大量の水に溶解し担体と混合後沈殿部を採取する方法、塩化合物を少量の水に溶解させ担体に付着させる方法、適度な水分状態に保った担体に塩化合物粉末を添加する方法などを挙げることができる。
【0024】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物そのものあるいはこれらを適当な担体に保持させた資材は、粉末として土壌に施用することができるが、水溶液あるいは水懸濁液としても土壌に施用することができる。
【0025】
前記アルミニウムイオンあるいは鉄イオンの塩化合物そのものあるいはこれらを適当な担体に保持させた資材の施用量は、対象土壌に対する資材添加実験を実験室内にて予め実施しておき、対象土壌の目標とする置換酸度から施用量を求める。どの値を置換酸度の目標値として設定するかは、まずその地域の自然土壌あるいはその地域において従来から維持されてきた土壌についての文献情報あるいは実測データを収集し、これと大きくかけ離れない範囲内に設定することが生態系の保全上望ましいが、一般的には置換酸度y1が1〜50の範囲内が好ましく、5〜20の範囲内がより好ましい。また、該置換酸度をコントロールする対象土壌の深さは表層から20cm以内の範囲が好ましい。なお、置換酸度y1値とは、風乾土壌1kgあたりから1mol L―1塩化カリウム溶液によって抽出された酸の量をmmol数で表したものの半量に相当する。
【0026】
本発明の植生の制御方法を用いることにより、セイタカアワダチソウやオオマツヨイグサなどの外来植物の生育を衰退させ、チガヤやススキなどの在来植物を呼び戻す効果がある。
【0027】
対象とする土地は、例えば、旧畑地、旧樹園地、旧草地、旧水田などの耕作跡地、道路法面、畦畔、墓地、公園、建物の周辺の空き地、開墾地、森林、自然草地などを挙げることができる。
【0028】
本発明が提供する技術は、出芽前及び出芽直後の外来植物に対して特に優れた生長抑制作用を示す。したがって、防除対象の外来植物の発生時期あるいは発生直後に施用するか、防除対象の外来植物を一旦刈り取りその跡地に施用することが、本発明の有する効果を効率的に発現させる上から望ましい。
【0029】
しかし本発明の植生制御法は、外来植物の生育始期に限定されるものではなく、発生後一ヶ月以降の栄養生長期あるいは繁殖栄養期の外来植物の防除にも適用可能である。
【0030】
本発明の資材は、外来植物を防除あるいは抑制する目的で、あるいは植生を制御する目的で、当該目的とする土地の土壌あるいは植物体に直接処理して使用する。施用量は、前記の算出方法により決定するが、具体的には、例えば置換酸度y1を5とするために塩化アルミニウムを50 mmol kg―1添加する必要がある土壌においては、土壌の比重が1.0であるならば、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241であることから、土壌の表層から深さ5cmまでを置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム6水和物の量は、
0.241(kg mol−1)×0.05(mol kg−1)×50(kg m―2)=0.6 kg m―2
より、0.6 kg m―2であると計算される。
【0031】
本発明の資材の施用量は、種々の因子、例えば、土壌の種類、土壌の管理履歴、目的とする植物、該植物の発生・生育状況、植物の発育傾向、天候、環境条件、施用方法、施用土地、施用時期等により変動する。目的に応じて、使用する資材の種類やその施用形態および施用量を適宜選択して使用する。
【実施例】
【0032】
以下に、本発明の内容を実施例によりさらに具体的に示すが、本発明は本実施例の記載に限定されるものではない。
<実施例1>
実施例1は、山口県山口市所在の耕作放棄地で行われた。該耕作放棄地は平成10年頃まで果樹園として利用されていた土地であり、実施例1の実施前は、外来植物であるセイタカアワダチソウが蔓延していた。実施前の状態を図1に示す。
【0033】
前記耕作放棄地について、土壌を採取し化学分析を実施した。その結果、かつての耕作や施肥あるいは土壌改良資材投入の影響等により、土壌pH(H2O中)は7.4、置換酸度y1は0.2であった。一方、前記耕作放棄地に隣接する林地には、クリやコナラ等の在来植物が生育していた。そこで該林地の未かく乱土壌についても、土壌を採取し化学分析を実施した。その結果、土壌pH(H2O中)は4.7、置換酸度y1は15であった。
【0034】
なお、置換酸度y1は下記の方法により測定した。風乾土10gを100mL容三角フラスコにとり、1 mol L―1 塩化カリウム溶液を25mL加えて24時間振とう後、ろ液を得た。ろ液について0.1 mol L―1 あるいは0.02 mol L―1 水酸化ナトリウム溶液で滴定し、その値から全抽出液の1/2を中和するのに要する水酸化ナトリウム溶液の容量を0.1 mol L―1 溶液のmL数に換算(土壌100gを供試した場合に換算)してy1値とした。この置換酸度y1は、土壌1kgあたりから1 mol L―1 塩化カリウム溶液によって抽出された酸の量をmmol数で表したものの半量に相当する。
【0035】
そこで、前記耕作放棄地の土壌に対して塩化アルミニウムを適宜添加し、その際に起こる置換酸度y1の変化を、室内実験により求めた。結果を図2に示す。図2の結果から、該土壌に対して塩化アルミニウムをおよそ50 mmol kg―1添加すると置換酸度y1はおよそ5になることが判明した。この土壌は比重がおよそ1.0であること、および塩化アルミニウム6水和物の分子量は241であることから、土壌の表層から深さ5cmまでを置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム6水和物の量は、
0.241(kg mol−1)×0.05(mol kg−1)×50(kg m―2)=0.6 kg m―2であると計算された(半量区)。また、該土壌を10cmの深さまで置換酸度y1を5とするために必要な塩化アルミニウム量は、1.2kg m−2であると計算された(全量区)。
【0036】
そこで、前記耕作放棄地に生育している植物を2009年8月17日に一旦刈り取り、次いで2009年8月19日に該刈り取り後の耕作放棄地に対して、0.6kg/m2(半量区)、及び1.2kg/m2(全量区)の塩化アルミニウム粉末(和光純薬社製、特級試薬)を散布した。以後、2009年9月11日、2009年10月13日、2009年12月1日、2010年1月29日、2010年4月13日、2010年6月22日、2010年9月26日に植生調査を実施した。
【0037】
実施例1の現地試験圃場における被度の推移を図3に示す。なお図3における被度は、各植物ごとに地表面の被覆率(%)×高さ(m)を求め、これらを全ての出現植物について積算した値として求めた。図3の結果から、地面を覆う植物の被度は、資材の処理直後は低くなったが、半量区ではおよそ10ヵ月後に、全量区ではおよそ13ヵ月後に、無処理区と同程度まで回復したと言える。
【0038】
実施例1の現地試験圃場における植物の平均出現種数の推移を図4に示す。図4の結果から、出現種数は、資材の処理直後は少なくなったが、半量区・全量区ともにおよそ10ヵ月後に無処理区と同程度に回復し、13ヵ月後には無処理区よりも多くなった。
【0039】
また各植物種群の相対被度の推移を図5に示す。なお、図5における相対被度とは、調査地における全出現植物種の被度の合計に占める当該植物種群の被度の割合をパーセントで示したものである。図5より、処理約1年後において無処理区と比較すると、全量処理区ではセイタカアワダチソウの生育が顕著に抑えられて、その代わりに在来植物が多数出現した。その結果、植物の多様性が高くなり、より望ましい植生になったと考えられる。
【0040】
また塩化アルミニウム処理後のセイタカアワダチソウ(侵略的外来植物)の相対被度の変化(%)を表1に示す。なお相対被度は前記と同様に求めた。
【表1】
【0041】
表1の結果から、全量処理区ではセイタカアワダチソウの再生が1年間以上にわたってほぼ完全に抑えられた。
【0042】
また、処理後およそ10ヵ月(2010年6月22日)の植生の状態を図6に示す。図5、及び図6から、およそ1年後にはセイタカアワダチソウに代わって在来植物であるチガヤが優占種となった。
【0043】
このように、本発明によって、外来植物であるセイタカアワダチソウが優占する植物群落を、チガヤやススキといった在来植物が優占する多様度の高い植生群落に誘導することができた。本効果は、土壌の酸性化およびカルシウムイオンなど植物栄養陽イオンの交換・溶脱によるものと考えられる。
【0044】
本効果は、アルミニウムイオンを土壌に施用することにより、土壌に保持されているカルシウムイオン等の植物栄養塩類をイオン交換反応によってアルミニウムイオンと置き換えて溶脱させるとともに、下記の反応により土壌酸性を高めるものである。
【0045】
【化2】
【0046】
<実施例2>
前記の通り実施例1に示した土壌環境制御による植生制御効果は、土壌の酸性化およびカルシウムイオンなど植物栄養陽イオンの交換・溶脱によるものと考えられることから、このような効果は塩化アルミニウムに限られるものではなく、他のアルミニウム塩化合物、鉄(III)塩化合物、鉄(II)塩化合物、アルミニウムイオンあるいは鉄イオンを適当な担体に保持させた資材等でも同様の効果が考えられる。
【0047】
そこで、これら塩化アルミニウム以外の資材が土壌酸性を高める効果について、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム粉末(多木化学社製)、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、塩化鉄(FeCl3)、硫酸鉄(FeSO4)、塩化鉄(FeCl2)を供試資材として、以下の方法で測定した。
【0048】
供試土壌として茨城県牛久市の火山灰土壌を用い、表2に示す供試資材及び添加量を、また実施例1で使用したものとは異なる山口県山口市の赤黄色土壌を用い、表3に示す供試資材及び添加量を、それぞれ添加し、24時間反応後、実施例1と同様の方法により置換酸度y1を測定した。添加した資材による茨城県牛久市の火山灰土壌の置換酸度y1の上昇効果を表2、図7に、山口県山口市の赤黄色土壌の置換酸度y1の上昇効果を表3、図8に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
また茨城県牛久市土壌について、実施例1と同様、土壌の比重は1.0であるとして、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241,硝酸鉄(III)9水和物の分子量は404,硫酸鉄(II)7水和物の分子量は378,ポリ塩化アルミニウム粉末は340gでAl2O3が1 mol含まれているとして、置換酸度y1を5とするために必要なそれぞれの資材量を計算し、表4に示した。
【表4】
【0052】
また山口県山口市土壌について、実施例1と同様、土壌の比重は1.0であるとして、塩化アルミニウム6水和物の分子量は241,塩化鉄(III)6水和物の分子量は270,塩化鉄(II)4水和物の分子量は199として、置換酸度y1を5とするために必要なそれぞれの資材量を計算し、表5に示した。
【表5】
【0053】
表2、表3、図7および図8より、茨城県牛久市の火山灰土壌および山口県山口市の赤黄色土壌を酸性化させる効果は、塩化アルミニウム同様、ポリ塩化アルミニウム粉末、硝酸鉄(Fe(NO3)3)、塩化鉄(FeCl3)、硫酸鉄(FeSO4)、塩化鉄(FeCl2)にも認められ、その効果は塩化アルミニウムの2倍程度から1/2倍程度の範囲内にあった。これらの資材を利用して、表4あるいは表5の計算結果にもとづき、土壌表層5cmあるいは10cmに対して置換酸度y1を5とするために必要な資材量を施用すれば、実施例1に示した塩化アルミニウムと同等の植生制御効果を得ることが出来る。
【0054】
アルミニウムおよび鉄は、いずれも土壌を構成する主要元素であり、これらの土壌中における含有率は数%〜数十%を占める。このため、これらの元素を土壌に施用しても、土壌の元素組成が大きく変化することはない。また、自然土壌中でも、これらの元素が下記の反応によって土壌酸性を制御していることが知られている。
【0055】
【化3】
【0056】
したがって、アルミニウムあるいは鉄を土壌に施用して土壌酸性をコントロールする本発明は、自然環境に対する安全性が高いと言える。
【0057】
<実施例3>
酸性化資材の投入によって土壌の置換酸度y1が上昇し、これに伴って発揮される植生に対する制御効果については、セイタカアワダチソウおよびチガヤに限られるものではなく、他の多くの外来植物および在来植物に対しても有効であると考えられる。このことを確かめるため、植物の種類および土壌の種類を変えて室内栽培実験を行い、植物の成長と置換酸度y1の関係を調査した。
【0058】
外来植物として、セイタカアワダチソウ、コセンダングサ、マルバフジバカマ、及びオオマツヨイグサを、在来植物としてイヌビエ、クズ及びヨモギを供試した。調査は、日本の代表的な土壌6点(アロフェン質黒ぼく土、非アロフェン黒ぼく土、灰色沖積土壌、赤黄色土、赤褐色石灰質土、対照土(クレハ園芸用倍土))をそれぞれ50 mLずつ小型ポットにはかりとり、調査対象植物を播種した後、人工気象室内にて2週間生育させ、各植物体の根の長さ調査した。なお、各土壌の置換酸度y1は、アロフェン質黒ぼく土で0.3、非アロフェン黒ぼく土で13、灰色沖積土壌で0.4、赤黄色土で20、赤褐色石灰質土で0、対照土0であった。また、栽培実験は、1区3連制で実施した。
【0059】
植物生育実験の結果を図9〜15に示す。図では、植物の生育量を縦軸に、土壌の置換酸度y1を横軸に取り、セイタカアワダチソウの生育量は図9に、コセンダングサの生育量は図10に、マルバフジバカマの生育量は図11に、オオマツヨイグサの生育量は図12に、イヌビエの生育量は図13に、クズの生育量は図14に、ヨモギの生育量は図15に示した。
【0060】
図9に示す通り、土壌の置換酸度y1を上昇させることによって、外来植物であるセイタカアワダチソウの生育は顕著に抑制される。同様に、図10〜12に示す通り、コセンダングサ、マルバフジバカマ、オオマツヨイグサといった他の侵略的外来植物の生育も抑えることが出来る。
【0061】
これに対して、図13および図14に示す通り、イヌビエやクズといった在来植物は、土壌の置換酸度y1が上昇しても植物生育はほとんど抑制されないため、本技術によって土壌の置換酸度y1を上昇させることによって、上記に挙げたような外来植物を衰退させ、上記に挙げたような在来植物が優占する植物群落へと誘導することが出来ると考えられる。ただし、図15に示す通り、在来植物の中にはヨモギのように置換酸度の高い土壌では生育することが難しい植物もあることから、本技術によって誘導することが出来るのは、置換酸度が高くても正常な生育が可能な植物の群落であると言える。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、人為的撹乱を受け外来植物が蔓延している耕作放棄地、道路法面、河川敷、国立公園内などにおいて、自然環境に対して影響が少ない手法によって在来植生を復元・維持するものであり、環境保全、緑化の場面で幅広く利用することができる。特に法面緑化においては、施工後に外来植物の侵入が問題となることも多く、施工後の在来植物の維持・復元を可能にする本発明の利用場面は多い。
【0063】
これまで、緑化基盤材に酸性の資材を用いる工法なども開発されているが、従来の方法は施工に多大な労力がかかり、かつ、施工後に追加手段を講じることが困難である。このため、広範な適用は困難であった。これに対して本発明は、土壌に物理的な力を加えることなく土壌表面に散布することも可能であることから、既に外来植物が蔓延している土地に対してでも有効にかつ少ない労力で処理することができる。また、散布する酸性化資材の量は、自然土壌の酸性度を参考にして決めるため、言うなれば土壌環境を従来の酸性状態に回復させるものである。したがって、大規模な人為的攪乱を起こさない限り、土壌の化学的特性は長期間持続的に維持できると考えられる。このように、本発明は多様な場面に対して適用可能であり、かつ簡単に実施可能な、応用範囲の広い技術である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法。
【請求項2】
前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量が、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする請求項1に記載の植生の制御方法。
【請求項3】
前記アルミニウムイオンの塩化合物が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバン、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項4】
前記鉄(III)イオンの塩化合物が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項5】
前記鉄(II)イオンの塩化合物が、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項6】
前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物が、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルのいずれか1以上に保持された形態で施用される請求項1ないしに請求項5に記載の植生の制御方法。
【請求項1】
外来植物により優占されている土地を在来植物が優占する土地へ植生を制御する方法において、アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物を土壌に施用することを特徴とする植生の制御方法。
【請求項2】
前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物の土壌への施用量が、対象土壌の表層から深さ20cm以内の範囲において、置換酸度y1を1〜50とする請求項1に記載の植生の制御方法。
【請求項3】
前記アルミニウムイオンの塩化合物が、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ヒドロキシアルミニウム塩化物塩、ヒドロキシアルミニウム硫酸塩、ヒドロキシアルミニウム硝酸塩、ミョウバン、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項4】
前記鉄(III)イオンの塩化合物が、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、水酸化鉄(III)塩化物塩、水酸化鉄(III)硫酸塩、水酸化鉄(III)硝酸塩、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項5】
前記鉄(II)イオンの塩化合物が、塩化鉄(II)、硫酸鉄(II)、硝酸鉄(II)、水酸化鉄(II)塩化物塩、水酸化鉄(II)硫酸塩、水酸化鉄(II)硝酸塩、あるいはこれらの混合物である請求項1又は請求項2に記載の植生の制御方法。
【請求項6】
前記アルミニウムイオンの塩化合物、及び/又は鉄(III)イオンの塩化合物、及び/又は鉄(II)イオンの塩化合物が、1:1型層状ケイ酸塩粘土、2:1型層状ケイ酸塩粘土、ゼオライト、シリカゲルのいずれか1以上に保持された形態で施用される請求項1ないしに請求項5に記載の植生の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−179016(P2012−179016A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44614(P2011−44614)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月7日 社団法人日本土壌肥料学会発行の「日本土壌肥料学会 講演要旨集 第56集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、環境省、環境研究総合推進費事業(D−1001)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年9月7日 社団法人日本土壌肥料学会発行の「日本土壌肥料学会 講演要旨集 第56集」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、環境省、環境研究総合推進費事業(D−1001)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】
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