説明

検出器、形状測定装置、及び形状測定方法

【課題】触針を被測定物の表面形状に追従させた高精度の測定を迅速に達成することができる形状測定装置用の検出器を提供すること。
【解決手段】推力ポート28に制御エアが供給された場合、段差部39の応力発生面39aに対して制御エアが作用する。つまり、推力ポート28からの制御エアによって、ロッド部材3に対して根元側の+Z方向に押し出す推力すなわち浮上力が与えられる。この際、ロッド部材3のワークWに対する押圧力Fと、ロッド部材3の質量mとをバランスさせているので、ロッド部材3のワークW表面に対する追従性が良くなり、高精度で表面形状を測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズその他の光学素子の表面形状等を測定するための形状測定装置用の検出器と、かかる検出器を利用した形状測定装置及び方法とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ミラー面やレンズ面を有する光学素子について3次元形状(立体形状)を測定するための技術として、様々な技術が提案されてきた。例えば、被測定物の表面に対して触針を直接接触させて、その変位量を測定する接触式測定方法がある(特許文献1参照)。また、被測定物の表面にレーザ光線等を入射させて、その反射光を受光することにより表面の凹凸を測定する非接触式測定方法も提案されている(特許文献2参照)。前者の接触式測定方法は、触針を被測定物に直接接触させるので、被測定物の表面物性に依存しない。このため、接触式測定方法は、多様な被測定物に対して正確な計測が可能である。
【特許文献1】特開平5−209741号公報
【特許文献2】特許3046635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記接触式測定方式においては、触針を被測定物に直接接触させて走査を行うので、触針を被測定物の表面形状に追従させる必要があり、形状測定の速度向上が容易でない。
【0004】
そこで、本発明は、触針を被測定物の表面形状に追従させた高精度の測定を迅速に達成することができる形状測定装置用の検出器を提供することを目的とする。
【0005】
また、本発明は、上記検出器を組み込んだ形状測定装置と、上記検出器を利用した形状測定方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、第1の発明に係る形状測定装置用の検出器は、被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する。そして、本検出器は、前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8 … (1)
を満足する。
【0007】
上記形状測定装置用の検出器では、接触子の被測定物に対する押圧力Fと、接触子の質量mとをバランスさせて、それらの比の平方根が一定範囲内に収まるようにしているので、接触子の被測定物の表面形状に対する追従性が良くなり、被測定物の表面に機械加工等に起因してうねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。なお、値√(F/m)を下限以上とすることで、接触子が相対的に重くなって応答性が悪くなることを防止でき、値√(F/m)を上限以下とすることで、接触子が相対的に軽くなって安定性が低下することを防止できる。
【0008】
本発明の具体的な態様又は観点では、上記検出器において、被測定物の表面に、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、当該うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
10×10−6<A<50×10−6 … (2)
を満足する。この場合、スカラップハイトAを下限程度以上に設定することができ、高精度で表面加工された被測定物を高精度で測定できる。なお、スカラップハイトAを上記のように定めることで、10×10−6〜50×10−6mmの凹凸に相当するうねりを対象として、被測定物の表面形状に対する接触子の追従性を良好にすることができ計測精度を高めることができる。
【0009】
本発明の別の態様では、被測定物の表面に形成されたうねりの周期が、前記接触子が所定の速度で移動する場合に、80〜400Hzである。この場合、320〜400Hzの凹凸に相当するうねりを対象として、被測定物の表面形状に対する接触子の追従性を良好にすることができ計測精度を高めることができる。
【0010】
本発明のさらに別の態様では、以下の条件式
100<F<500 … (3)
0.3<m<198 … (4)
を満足する。ここで、接触子の押圧力Fを上記下限以上とすることで被測定物の表面における接触子の応答精度を高めることができ、接触子の押圧力Fを上記上限以下することで接触子が被測定物に作用して測定精度を劣化させることを防止できる。つまり、被測定物の表面が接触子によって変形したり傷が形成されたりする可能性を低減できる。また、接触子の質量mを上記下限以上とすることで被測定物の表面凹部における接触子の変位速度を高めることができ、接触子の質量mを上記上限以下とすることで接触子が被測定物に沿って追従しないことを防止できる。
【0011】
本発明のさらに別の態様では、
8.99<√(F/m) … (5)
である。この場合、接触子をより高速で移動させても接触子の応答性を確保できるので、比較的大面積の被測定物を測定する際に良好な結果が得られる。
【0012】
本発明のさらに別の態様では、被測定物の表面に、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、当該うねりのスカラップハイトをAとした場合に、以下の条件式
20×10−6<A<50×10−6 … (6)
を満足する。スカラップハイトAを上記のように定めることで、20×10−6〜50×10−6mmの凹凸に相当するうねりを対象として、被測定物の表面形状に対する接触子の追従性を良好にすることができ計測精度を高めることができる。
【0013】
本発明のさらに別の態様では、被測定物の表面に形成されたうねりの周期が、前記接触子が所定の速度で移動する場合に、320〜400Hzである。この場合、320〜400Hzの凹凸に相当するうねりを対象として、被測定物の表面形状に対する接触子の追従性を良好にすることができ計測精度を高めることができる。
【0014】
本発明のさらに別の態様では、以下の条件式
300<F<500 … (7)
0.9<m<6.2 … (8)
を満足する。ここで、接触子の押圧力Fを上記下限以上とすることで被測定物の表面における接触子の応答精度を高めることができ、接触子の押圧力Fを上記上限以下することで接触子が被測定物に作用して測定精度を劣化させることを防止できる。また、接触子の質量mを上記下限以上とすることで被測定物の表面凹部における接触子の変位速度を高めることができ、接触子の質量mを上記上限以下とすることで接触子が被測定物に沿って追従しないことを防止できる。
【0015】
第2の発明に係る形状測定装置用の検出器は、被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する。そして、被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕、うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8 … (1)
10×10−6<A<50×10−6 … (2)
を満足する。
【0016】
上記形状測定装置用の検出器では、接触子の被測定物に対する押圧力Fと、接触子の質量mとをバランスさせて、それらの比の平方根が一定範囲内に収まるようにしているので、接触子の被測定物の表面形状に対する追従性が良くなり、被測定物の表面に機械加工等に起因して10×10−6〜50×10−6mmの凹凸に相当する比較的小さなうねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。なお、値√(F/m)を下限以上とすることで、接触子が相対的に重くなって応答性が悪くなることを防止でき、値√(F/m)を上限以下とすることで、接触子が相対的に軽くなって安定性が低下することを防止できる。
【0017】
第3の発明に係る形状測定装置用の検出器は、被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する。そして、被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕、うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
8.99<√(F/m)<40.8 … (9)
20×10−6<A<50×10−6 … (10)
を満足する。
【0018】
上記形状測定装置用の検出器では、接触子の被測定物に対する押圧力Fと、接触子の質量mとをバランスさせて、それらの比の平方根が一定範囲内に収まるようにしているので、比較的高速で接触子を走査する場合であっても、接触子の被測定物の表面形状に対する追従性が良くなり、被測定物の表面に機械加工等に起因して20×10−6〜50×10−6mmの凹凸に相当するうねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。なお、値√(F/m)を下限以上とすることで、接触子が相対的に重くなって応答性が悪くなることを防止でき、値√(F/m)を上限以下とすることで、接触子が相対的に軽くなって安定性が低下することを防止できる。
【0019】
本発明の具体的な態様では、前記接触子に設けられて検査光を反射する光検出面と、当該光検出面に検査光を照射するとともに反射光を検出する変位センサとをさらに備える。この場合、接触子の変位量を非接触でありながら高精度に計測することができ、この計測結果に基づいて、被検知体の表面の起伏等を高精度で測定することができる。
【0020】
本発明の形状測定装置は、上述の検出器と、被測定物を前記接触子に対し軸方向に垂直な方向に相対移動させる移動手段と、前記移動手段による被測定物の相対移動に際して被測定物の表面と前記接触子との接触によって生ずる前記接触子の軸方向の変位量を、前記変位センサの出力に基づいて算出し、被測定物の形状を測定する演算手段とを備える。
【0021】
上記形状測定装置では、移動手段によって被測定物を接触子に対して相対移動させつつ、演算手段によって変位センサの出力から接触子の変位量を算出するので、被測定物の表面形状を一連の処理として効率的に計測することができる。
【0022】
本発明の形状測定方法は、被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する。そして、本形状測定方法は、前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8 … (1)
を満足する。
【0023】
上記形状測定方法では、接触子の被測定物に対する押圧力Fと、接触子の質量mとをバランスさせて、それらの比の平方根が一定範囲内に収まるようにしているので、接触子の被測定物の表面形状に対する追従性が良くなり、被測定物の表面に機械加工等に起因してうねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態である形状測定装置用の検出器を、図面に基づき具体的に説明する。
【0025】
図1は、実施形態の検出器10の正面図であり、図2は、図1に示す検出器10の要部を説明する側方拡大断面図である。
【0026】
検出器10は、本体側のプローブ装置10Aと、プローブ装置10Aの可動部の変位を検出するレーザ干渉計10Bとを備える。ここで、プローブ装置10Aは、外枠体であるシリンダブロック2と、軸状部材であるロッド部材3と、支持体4とを備える。
【0027】
プローブ装置10Aにおいて、シリンダブロック2は、支持体4に固定されて安定した状態で支持されている。シリンダブロック2は、ロッド部材3をその軸方向が鉛直方向すなわちZ方向に延びるように保持する部分であり、図2に示すように中心にロッド挿通孔21を有している。ロッド挿通孔21は、断面略矩形状であって、シリンダブロック2が延びるべきZ方向に沿って延びている。このロッド挿通孔21は、Z方向に貫通しており、シリンダブロック2の上下両端面の中央部にて開口している。
【0028】
ロッド部材3は、被測定物或いは被検知体であるワークWの表面形状に追従して±Z方向に昇降する部分すなわち接触子であり、シリンダブロック2に設けたロッド挿通孔21に挿通されて、その軸方向であるZ方向に変位可能となっている。ロッド部材3の一端部である下端部31は、ロッド挿通孔21の下端面側の開口から下側に突出しており、ロッド部材3の上端部33は、ロッド挿通孔21の上端面側の開口から上側に突出している。なお、ロッド部材3は、四角柱状の軸状部材BDの上下方向に関する両端部31,33に、後述するプローブ本体35とミラー部材36とをそれぞれ設けたものである。軸状部材BDは、例えば低膨張係数で軽量なセラミック材料等によって一体的に形成される。
【0029】
ロッド部材3の下端部31から突起するプローブ本体35の先端には、ルビー、ダイヤモンド又は鋼材等からなる球状の接触部35aが固着されている。接触部35aは、被測定物であるワークWに接触するための接触体となっており、軸状部材BDとともにZ方向に変位可能となっている。このような接触部35aを設けることにより、プローブ本体35によってワークW表面が傷つけられる可能性を低減でき、かつ、プローブ本体35をワークW表面に安定して接触させることができる。なお、接触部35aは、プローブ本体35とともに交換可能になっている。つまり、プローブ本体35の上部には例えば雄ネジ35cが形成されており、下端部31の下部には例えば雌ネジ35dが形成されており、下端部31に対して複数種類のプローブ本体35を着脱可能に取り付けることができる。つまり、ワークWの形成材料や表面形状に応じて複数種類のプローブ本体35を使い分けることができ、接触部35aの材料や形状を適宜変更することができる。
【0030】
ロッド部材3の上端部33に固定された被測定部であるZミラー部材36の上面は、XY面内に延びる鏡面であり、ロッド部材3のZ方向の変位を検出するための光検出面すなわちZミラー36aとなっている。このZミラー36aは、上方に設けた変位センサすなわち光照射手段としてのレーザ干渉計10B(図1参照)からの検出光MLを反射するので、レーザ干渉計10Bでは、反射光RLに基づいてロッド部材3の変位量を算出することができる。
【0031】
ロッド部材3の側面3aには、鉛直上方の+Z方向に浮上力を作用させる部分として、段差部39が形成されている。この段差部39は、プローブ本体35側すなわち鉛直方向下方に面するように形成された応力発生面39aを有する。この応力発生面39aは、後に詳述するように、ロッド部材3の自重を少なくとも部分的に解消する鉛直方向上方の推力(浮上力)をロッド部材3にもたらす役割を果たす。段差部39によってロッド部材3に対して付与される鉛直方向上方の推力により、ロッド部材3の自重を相殺した中吊り状態にでき、さらに、ロッド部材3が鉛直方向下方に降下しようとする力を調節することができる。これにより、ロッド部材3下端の接触部35aをワークW表面に対して任意の力で接触させることができる。
【0032】
シリンダブロック2に形成されたロッド挿通孔21の内壁面21aにおける上側部分には、この内壁面21aに沿って多孔質体からなる上側軸受部材23が設けられている。また、ロッド挿通孔21の内壁面21aにおける下側部分には、この内壁面21aに沿って多孔質体からなる下側軸受部材24が設けられている。
【0033】
シリンダブロック2の外側面には給気ポート26が形成されている。この給気ポート26は、軸受け部である上側軸受部材23及び下側軸受部材24を介してロッド挿通孔21の内壁面21aに連通しており、エア供給源Pからの加圧エアが配管L1を介して直接的に供給される。結果的に、エア供給源Pからの加圧エアは、上側軸受部材23や下側軸受部材24を通り抜けて外表面に達し、ロッド部材3の側面3aに向けて噴出される。両軸受部材23,24から噴出された加圧エアの静圧により、ロッド部材3がシリンダブロック2のロッド挿通孔21に対して上下の適所にて非接触で支持される。つまり、両軸受部材23,24は、静圧スラスト軸受として機能している。
【0034】
上側軸受部材23と下側軸受部材24との間であって、ロッド部材3の段差部39の下側には、圧力作用室27が形成されている。この圧力作用室27は、ロッド挿通孔21にロッド部材3を挿通した場合に、ロッド挿通孔21の内壁面21aとロッド部材3の側面3aや応力発生面39aとの間に挟まれた半気密状態の空間となる。
【0035】
シリンダブロック2の外側面の中段上側には、推力ポート28が形成されている。この推力ポート28は、ロッド挿通孔21内壁側の圧力作用室27に連通しており、エア供給源Pからの加圧エアは、配管L2及び超精密レギュレータR2を介して圧力作用室27に供給される。推力ポート28への制御エアの供給圧力は、例えば配管L2の経路上に設けた圧力センサPSによって監視されており、圧力センサPSの検出結果は、軸方向浮上手段であり圧力制御弁を内蔵する超精密レギュレータR2にフィードバックされる。つまり、圧力作用室27の気圧は、超精密レギュレータR2によって高精度に調整可能であり、不図示の制御装置によって遠隔的に制御される。以上説明した圧力作用室27、推力ポート28、圧力センサPS、及び超精密レギュレータR2は、ロッド部材3に対して鉛直方向上方に付勢力を与える付勢手段として機能する。ここで、超精密レギュレータR2の圧力分解能は、例えば0.02〜0.10kPa程度に設定される。
【0036】
以上のような超精密レギュレータR2によって推力ポート28に制御エアが供給された場合、段差部39の応力発生面39aに対して制御エアが作用する。つまり、推力ポート28からの制御エアによって、ロッド部材3に対して根元側の+Z方向に押し出す推力すなわち浮上力が与えられる。ここで、段差部39の段差面積である応力発生面39aの面積は、加圧エアの圧力に対応して必要とする浮上力を生じさせることができるようになっているので、超精密レギュレータR2から供給される加圧エアの気圧を制御することによって、ロッド部材3の自重を解消するような鉛直方向上方の推力すなわち浮上力をロッド部材3に付与することができる。さらに、超精密レギュレータR2から供給される加圧エアの気圧値を調整することによって、段差部39によってロッド部材3に与えられる浮上力が変化するので、ロッド部材3下端の接触部35aをワークW表面に対して任意の押圧力で接触させることができる。
【0037】
図1に戻って、プローブ装置10Aの上方に配置されたレーザ干渉計10Bは、図示を省略するが、レーザ光源、干渉用光学系、センサ等からなる公知の構造を有している。レーザ干渉計10Bからのレーザ光すなわち検出光MLは、ロッド部材3の上端部に設けられたZミラー部材36のZミラー36aに向けて照射されるようになっており、Zミラー36aからの戻り光である反射光RLは、レーザ干渉計10Bの方向に反射されてレーザ干渉計10Bで検出されるようになっている。レーザ干渉計10Bでは、反射光RLの位相変化に基づいてロッド部材3のZ方向の変位量を算出することができる。
【0038】
この検出器10では、エア供給源Pから供給される加圧エアによって、ロッド部材3が、ロッド挿通孔21内の軸受部材23,24に対して非接触で支持される。また、エア供給源Pから推力ポート28を介して圧力作用室27に供給される制御エアによって、ロッド部材3に対して鉛直方向上方すなわち+Z方向に任意の浮上力(推力)が付与される。結果的に、ロッド部材3は、シリンダブロック2内でほとんど浮いた状態で−Z方向にわずかに付勢された状態となる。この状態で、ワークWの表面にロッド部材3の下端に設けた接触部35aを接触させ、プローブ装置10AをワークWに対してXY面内で相対的に走査させることにより、ロッド部材3は、ワークWの表面形状に沿って±Z方向に変位する。プローブ装置10AのXY走査に際しては、圧力作用室27に供給する制御エアの調整により、ワークWの表面に対する接触部35aの接触圧すなわち押圧力が適正値で一定となるように制御される。そして、プローブ装置10AのXY走査と並行して、レーザ干渉計10Bからのレーザ光がZミラー36aに向けて照射され、ロッド部材3のZ方向の変位量が算出される。このZ変位量に基づいてワークWの立体形状が計測される。
なお、シリンダブロック2の例えば上端部には、差動センサ(不図示)が設けられている。この差動センサは、シリンダブロック2中の基準位置からロッド部材3が変位した方向を検出するためのものである。これにより、シリンダブロック2中でロッド部材3が上昇した場合、例えばH信号が出力され、これに応じてシリンダブロック2全体を不図示の機構によって緩やかに上昇させることができ、ロッド部材3を基準位置に戻すことが可能になる。逆に、シリンダブロック2中でロッド部材3が降下した場合、例えばL信号が出力され、これに応じてシリンダブロック2を不図示の機構によって緩やかに上昇させてロッド部材3を基準位置に戻すことが可能になる。つまり、シリンダブロック2に対するロッド部材3の位置を略一定に保ちつつプローブ装置10Aを全体として±Z方向に昇降させることができる。
【0039】
以下、接触部35aに付与する押圧力等の設定について説明する。ワークWが高精度のレンズ等である場合、形状計測のドリフトを低減する観点や、スループット向上の観点から、計測時間を短くする必要があり、実用上は、10〜20分程度以内に計測を完了することが望まれる。一方で、高速処理のためXY走査を速くした場合、ロッド部材3や接触部35aがワークWの表面形状に十分追従しなくなり、或いはワークWの表面にダメージを与える。このため、接触部35aの走査速度を例えば2〜10mm/s程度にすることで、ドリフトを低減しつつ測定の信頼性を確保できることが分かっている。
【0040】
以上のような走査速度2〜10mm/sは、ワークWの表面形状が比較的平坦であることを前提としているが、実際のワークWの表面には、うねりと呼ばれる周期的な微細パターンが形成されている。つまり、振動切削等の機械加工によって形成されたワークW、或いは振動切削等の機械加工によって形成された金型によって成形されたワークWの表面には、一定周期のうねりが形成される。このようなうねりは、例えばスカラップハイトと呼ばれる段差や振幅として表現することができ、このようなうねりに追従可能な接触部35aによって計測を行う必要がある。
【0041】
ワークWの表面に形成されるうねりの距離周期すなわちピッチは、25μm程度であり、接触部35aの走査速度を2〜10mm/sとした場合、接触部35aを走査した場合の振動数は、80〜400Hz程度となる。つまり、接触部35aとこれを支持するロッド部材3とを含めた接触子は、80〜400Hzの追従周波数を有する必要がある。なお、ワークWの表面に形成されるうねりのうち計測の対象となるスカラップハイトA〔mm〕は、通常の用途では、例えば
10×10−6<A<50×10−6 … (2)
の範囲に設定される。つまり、接触部35a及びロッド部材3からなる接触子は、スカラップハイトAに対応する振幅で振動する必要がある。
【0042】
以上から明らかなように、接触部35a及びロッド部材3からなる接触子は、一種の振動子であり、接触子のワークW表面に対する押圧力をF〔gmm/s〕、接触子の質量をm〔g〕とした場合、その追従周波数fは、一般に
f=(1/2π)×√〔F/(m×A)〕 … (11)
で与えられる。ここで、押圧力Fは、g値に10×10〔mm/s〕を掛けて得られるものである。以上の式(11)に基づいて、A=10nm〜50nm、f=80〜400Hzを前提として、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8 … (1)
を満足するように、接触部35aに付与する押圧力Fと、接触部35a及びロッド部材3の質量mとを設定するならば、押圧力Fと、質量mとをバランスさせているので、接触部35aのワークW表面に対する追従性が良くなり、ワークW表面に上記うねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。なお、値√(F/m)を下限以上とすることで、接触子が相対的に重くなって応答性が悪くなることを防止でき、値√(F/m)を上限以下とすることで、接触子が相対的に軽くなって安定性が低下することを防止できる。
【0043】
具体的実施例において、押圧力Fは、以下の条件式
100<F<500 … (3)
を満足するような範囲、すなわち10mgf〜50mgfの範囲とした。この際、接触部35a及びロッド部材3を合わせた質量mは、以下の条件式
0.3<m<198 … (4)
を満足するような範囲、すなわち0.3g〜198gの範囲とした。
【0044】
以上は、ワークWの表面積があまり大きくない場合であったが、ワークWの表面積が比較的大きくなると、多少追従性を犠牲にしても走査速度を速くする必要がある。このため、接触部35aの走査速度を例えば8〜10mm/s程度にすることで、ドリフトを低減しつつ測定精度を確保する。
【0045】
この場合も、ワークWの表面に形成されるうねりの距離周期すなわちピッチが25μm程度であるとすると、走査速度を8〜10mm/sとした場合、接触部35aを走査した場合の振動数は、320〜400Hz程度となる。つまり、接触部35aとこれを支持するロッド部材3とを含めた接触子は、320〜400Hzの追従周波数を有する必要がある。なお、ワークWの表面に形成されるうねりのうち計測の対象となるスカラップハイトA〔mm〕は、以下の条件式
20×10−6<A<50×10−6 … (6)
の範囲に設定される。ここでは、走査速度を重視する観点からスカラップハイトAの検出下限を緩くして10nmから20nmに増加させている。この場合、接触部35a及びロッド部材3からなる接触子は、スカラップハイトA=20〜50nmに対応する振幅で振動する必要がある。
【0046】
ここで、上記式(11)に基づいて、A=20nm〜50nm、f=320〜400Hzを前提として、以下の条件式
8.99<√(F/m)<40.8 … (9)
を満足するように、接触部35aに付与する押圧力Fと、接触部35a及びロッド部材3の質量mとを設定するならば、押圧力Fと、質量mとをバランスさせているので、接触部35aのワークW表面に対する追従性が良くなり、ワークW表面に上記うねりが形成されている場合であっても、高精度で表面形状を測定することができる。なお、値√(F/m)を下限以上とすることで、接触子が相対的に重くなって応答性が悪くなることを確実に防止でき、値√(F/m)を上限以下とすることで、接触子が相対的に軽くなって安定性が低下することを防止できる。
【0047】
具体的実施例において、押圧力Fは、以下の条件式
300<F<500 … (7)
を満足するような範囲、すなわち30mgf〜50mgfの範囲とした。この際、接触部35a及びロッド部材3を合わせた質量mは、以下の条件式
0.9<m<6.2 … (8)
を満足するような範囲、すなわち0.9g〜6.2gの範囲とした。
【0048】
図3(a)及び3(b)は、図1に示す検出器10を変位両検出手段として組み込んだ形状測定装置100の構造を説明する正面図及び側面図である。この形状測定装置100は、定盤81上に、XYステージ装置82と、Z駆動装置84とを固定した構造を有する。XYステージ装置82やZ駆動装置84等の動作は、演算手段としての制御装置99によって制御されている。
【0049】
XYステージ装置82は、移動手段であり、制御装置99の制御下で図示を省略する駆動制御部に駆動されて動作する。XYステージ装置82は、このXYステージ装置82の上部に設けた載置台82a上に着脱可能に固定された測定用治具HDを、XY面内で2次元的に任意の位置に滑らかに移動させることができる。測定用治具HDの位置は、載置台82aに設けたXミラー部材83aとYミラー部材83bとを利用して検出される。すなわち、Xミラー部材83aに対向して定盤81上に取り付けたレーザ干渉計83dを利用して載置台82aのX軸方向の位置が分かる。また、Yミラー部材83bに対向して定盤81上に取り付けたレーザ干渉計83eを利用して載置台82aのY軸方向の位置が分かる。
【0050】
Z駆動装置84は、フレーム85上に昇降機構86を固定したものであり、昇降機構86は、フレーム85上部に固定されZ方向に延びる支持軸86aと、支持軸86aに支持されてZ軸方向に移動する昇降部材86bと、昇降部材86bを昇降させる昇降駆動装置86cと、昇降部材86bに支持されたプローブ装置10Aとを備える。
【0051】
昇降機構86において、昇降部材86bは、支持軸86aに非接触に支持されて滑らかに昇降運動する。昇降部材86bは、前方下部に図1で説明したプローブ装置10Aを保持しており、プローブ装置10Aに設けたプローブ本体35の昇降運動に伴って滑らかに昇降する。なお、プローブ装置10Aは、図2で説明したように、給気ポート26にエア供給源Pから制御エアの供給を受けており、ロッド部材3を非接触で静圧支持しつつZ軸に可動な状態に保つ。また、プローブ装置10Aは、推力ポート28にエア供給源Pから制御エアの供給を受けており、超精密レギュレータR2によって昇降する力の調整が可能である。以上により、ロッド部材3先端に設けた接触部35aをワークWの表面に一定の力で押し付けるこことができる。つまり、測定用治具HDに固定された光学素子すなわちワークWの表面が昇降・変位しても、プローブ本体35の先端をワークWの表面に対して低負荷で接した状態に維持できる。また、昇降駆動装置86cは、プローブ装置10Aに内蔵した差動センサの検出結果に基づいてフィードバックをかけつつ昇降部材86bとともにプローブ装置10Aを昇降させる。これにより、ロッド部材3の先端に一定の低負荷を掛けた状態でロッド部材3を広範囲に亘って昇降させることができる。よって、ロッド部材3すなわちプローブ本体35を上記のように一定の負荷をかけた状態で昇降させつつ、XYステージ装置82を適宜動作させて測定用治具HDに載置したワークWをXY面内で2次元的に走査するように移動させるならば、プローブ本体35の先端を測定用治具HDに載置したワークWの光学面に沿って2次元的に移動させることができる。つまり、レーザ干渉計83d,83eを利用して得た載置台82aのXY座標と、レーザ干渉計10Bを利用して得たプローブ本体35のZ座標とを、制御装置99で対応付けつつ必要な演算処理を適宜行うことにより、ワークWの光学面の3次元的な表面形状を測定することができる。
【0052】
なお、プローブ本体35の先端位置の変位(Z座標の変化)は、プローブ本体35とともに昇降するロッド部材3の上端に設けたZミラー部材36を利用して検出される。すなわち、Zミラー部材36に対向してフレーム85上に取り付けたレーザ干渉計10Bを利用して、検出光MLをZミラー部材36に照射させつつ反射光RLを検出させることにより、プローブ本体35下端すなわちワークWの表面のZ軸方向の位置が間接的に分かる。
【0053】
以上実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態限定されるものではない。例えば、ロッド部材3に形成する段差部39や応力発生面39aの個数や形状は、適宜変更することができる。
【0054】
また、上側軸受部材23や下側軸受部材24の配置や個数も、被測定物や測定条件等に応じて適宜変更することができる。
【0055】
また、ワークWを定盤81側に固定し、XYステージ装置82やZ駆動装置84によって、検出器10を3次元的に移動させつつ、ロッド部材3を変位させることによってワークW表面の形状を測定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る変位量検出器の側面図である。
【図2】図1の変位量検出器に組み込まれるプローブ装置の側方断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、それぞれ図1に示すプローブ装置を組み込んだ形状測定装置の構造を説明する正面図及び側面図である。
【符号の説明】
【0057】
2…シリンダブロック、 3…ロッド部材、 3a…側面、 4…支持部材、 10…検出器、 10A…プローブ装置、 10B…レーザ干渉計、 21…ロッド挿通孔、 23,24…軸受部材、 26…給気ポート、 27…圧力作用室、 28…推力ポート、 31…下端部、 35…プローブ本体、 36…ミラー部材、 36a…ミラー、 39…段差部、 39a…応力発生面、 82…XYステージ装置、 82a…載置台、 83a,83b…ミラー部材、 83d,83e…レーザ干渉計、 84…Z駆動装置、 86…昇降機構、 99…制御装置、 BD…軸状部材、 HD…測定用治具、 L1,L2…配管、 ML…検出光、 RL…反射光、 P…エア供給源、 PS…圧力センサ、 R2…超精密レギュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する形状測定装置用の検出器であって、
前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8
を満足することを特徴とする検出器。
【請求項2】
被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、当該うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
10×10−6<A<50×10−6
を満足することを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項3】
被測定物の表面に形成されたうねりの周期は、前記接触子が所定の速度で移動する場合に、80〜400Hzであることを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項4】
以下の条件式
100<F<500
0.3<m<198
を満足することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項記載の検出器。
【請求項5】
8.99<√(F/m)
であることを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項6】
被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、当該うねりのスカラップハイトをAとした場合に、以下の条件式
20×10−6<A<50×10−6
を満足することを特徴とする請求項5記載の検出器。
【請求項7】
被測定物の表面に形成されたうねりの周期は、前記接触子が所定の速度で移動する場合に、320〜400Hzであることを特徴とする請求項6記載の検出器。
【請求項8】
以下の条件式
300<F<500
0.9<m<6.2
を満足することを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項記載の検出器。
【請求項9】
被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する形状測定装置用の検出器であって、
被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、
前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕、うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8
10×10−6<A<50×10−6
を満足することを特徴とする検出器。
【請求項10】
被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する形状測定装置用の検出器であって、
被測定物の表面には、表面加工に付随して周期的なうねりが形成されており、
前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕、うねりのスカラップハイトをA〔mm〕とした場合に、以下の条件式
8.99<√(F/m)<40.8
20×10−6<A<50×10−6
を満足することを特徴とする検出器。
【請求項11】
前記接触子に設けられて検査光を反射する光検出面と、当該光検出面に検査光を照射するとともに反射光を検出する変位センサとをさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項記載の検出器。
【請求項12】
請求項11記載の検出器と、
被測定物を前記接触子に対し軸方向に垂直な方向に相対移動させる移動手段と、
前記移動手段による被測定物の相対移動に際して被測定物の表面と前記接触子との接触によって生ずる前記接触子の軸方向の変位量を、前記変位センサの出力に基づいて算出し、被測定物の形状を測定する演算手段と
を備える形状測定装置。
【請求項13】
被測定物の表面に接触する接触子と、当該接触子を被測定物の表面に接触させながら相対走査させることにより前記接触子の軸方向の位置を測定して被測定物の表面形状を測定する形状測定方法であって、
前記接触子の被測定物に対する押圧力をF〔gmm/s〕、前記接触子の質量をm〔g〕とした場合に、以下の条件式
1.59<√(F/m)<40.8
を満足することを特徴とする形状測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−271368(P2007−271368A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95308(P2006−95308)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】