説明

検出板、検出装置及び検出方法

【課題】油分及び界面活性剤の検出装置に配したときに、その検出装置を小型で安価で携行可能に構成せしめるとともに、水中の油分及び界面活性剤を迅速かつ高感度に検出可能とする検出板、該検出板を有する検出装置、及び該検出装置を用いた検出方法を提供すること。
【解決手段】本発明の検出板は、油分及び界面活性剤の少なくともいずれかを検体として検出する電場を形成する検出電場形成層と、前記検体を含む水から前記検体を捕捉する捕捉層と、がこの順で配され、前記捕捉層は、前記水が接する側の面に前記検体を捕捉する捕捉用凹部が形成されているとともに、前記水が接する側の面に撥水処理が施されてなり、大気圧下で前記捕捉用凹部が形成された面に前記水を滴下したとき、前記捕捉用凹部内の全体に前記水中の水分が浸入しないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波モードや表面プラズモン共鳴を利用して、水中に含まれる油分及び界面活性剤を検体として検出可能とする検出板、該検出板を有する検出装置、及び該検出装置を用いた検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、環境汚染や飲料水確保の観点から、水中への油分の混入が問題となっている。油分は、人々の健康を害するだけでなく、浄水場では、濾過フィルタの目詰まりの原因ともなるため、その検出は迅速性を必要とする重要な管理項目の1つとなっている。
現在、水中における油分の混入の検出は、公定法となっているノルマルヘキサン抽出法が用いられることが多いが、この手法は、水中から油分を抽出する処理に時間と手間が掛かり迅速性に劣るという問題点がある。ガスクロマトグラフィを用いた高精度な測定手法もあるが、この場合、高い検出感度が得られるものの、装置が高価でかつ大型であるため、装置を携行することができず、よって被検体(汚染水)を現場で採取し、これらの装置の設置場所に輸送しなければならないという問題点がある。油分汚染を検出する装置として油膜検知器なども市販されているが、油膜検知器は、水面に油膜が張るほどの重度の汚染でなければ検出できない。また、油分と同様に、界面活性剤の水中への混入も迅速な検出を必要とする重要な管理項目となっている。
【0003】
携行が可能な程度に小さく、液体中に含まれる油分の測定が可能なセンサーとして、表面プラズモン共鳴(SPR;Surface Plasmon Resonance)を用いるセンサーが知られている(例えば、非特許文献1〜7参照)。この表面プラズモン共鳴を用いたセンサーは、一般的にSPRセンサーと呼ばれ、NTTアドバンステクノロジ株式会社や株式会社オプトクエスト、などの企業から販売されている。
【0004】
図1に、クレッチマン配置と呼ばれる最もポピュラーなSPRセンサー200の構成例を示す。このSPRセンサー200は、透明基板201上に金や銀などの金属を蒸着して金属薄膜層202を形成し、透明基板201の金属薄膜層202を形成した面と反対側の面に光学プリズム203を密着させた構造からなり、光源204から照射されるレーザー光を偏光板205にてp偏光に偏光し、光学プリズム203を通して透明基板201に照射する。入射光210Aは、全反射となる条件で入射する。入射光210Aの金属の表面側に染み出すエバネセント波によって、ある入射角度で表面プラズモン共鳴が発現する。入射角度θは、光学系を駆動させて適宜変更する。表面プラズモン共鳴が起こると、エバネセント波は表面プラズモンによって吸収されるので、この入射角付近では反射光の強度が著しく減少する。表面プラズモン共鳴が発現する条件は、金属薄膜層202表面近傍の誘電率によって変化することから、金属薄膜層202の表面上に被検出試料が結合したり吸着したり接近して誘電率に変化が生じると、入射光210Aの反射特性に変化が生じる。よって、金属薄膜層202から反射される反射光210Bの強度変化を光検出器206によりモニターすることによって、被検出試料を検出することができる。
【0005】
また、SPRセンサーにおいて、光学系を簡素化し、小型化を実現した系として、波長分解型測定法が報告されている(例えば、非特許文献6、7参照)。図2に、非特許文献6の報告に係る光学系のSPRセンサー300の概要を示す。入射光310Aは、光源301から光ファイバ302Aを介して光学プリズム303の手前まで導かれ、コリメートレンズ304によって平行光にされ、偏光板305にてp偏光にされた後に、光学プリズム303に入射される。この入射光310Aは、光学プリズム303上に密着する形で配された透明基板306上の金属薄膜層307に照射され、金属薄膜層307から反射される反射光310Bとして、集光レンズ308を通じて光ファイバ302Bで光検出器309まで導かれる。ここで光検出器309は、分光器309Aを備えており、反射光310Bの反射スペクトルを観測する。このSPRセンサー300は、前述のSPRセンサー200と同様に、金属薄膜層307表面近傍で誘電率の変化が生じると、反射スペクトルに変化が生じ、誘電率変化を検知できる一方で、前述のSPRセンサー200と異なり、光学系を駆動させて入射光310Aの金属薄膜層に対する入射角度を変更することなく、反射光310Bを波長分解して測定に供する、つまりスペクトルを測定するため、光学系を簡素にし、装置を小型化できる利点を有する。
【0006】
SPRセンサーとよく似た構造を持ち、やはりセンサーの検出面における、物質の吸着や誘電率の変化を検出するセンサーとして、光導波モードセンサーがある(非特許文献1、2、8〜19、及び特許文献1〜6参照)。この光導波モードセンサーは、SPRセンサーで用いることができる全ての光学系と同等の光学系を使用することが可能であることが知られている。
【0007】
図3に、クレッチマン配置と類似の配置を用いた光導波モードセンサー400を示す。光導波モードセンサー400は、透明基板401aと、その上に被覆した金属層又は半導体層で構成される薄膜層401bと、更にこの薄膜層401b上に形成される光導波路層401cとからなる検出板401を用いる。この検出板401の光導波路層401cが形成されている面とは反対側の面に屈折率調節オイルを介して光学プリズム402が密着される。光源403から照射され、偏光板404にて偏光された光は、光学プリズム402を通して検出板401に照射される。入射光410Aは、検出板401に対して全反射となる条件で入射する。ある特定の入射角度θにおいて、入射光410Aが光導波路内を伝搬する光導波モード(漏洩モード、又はリーキーモードとも呼ばれる)と結合すると、光導波モードが励起され、この入射角近傍で光の反射光強度が大きく変化する。このような光導波モードの励起条件は、光導波路層401c表面近傍の誘電率によって変化することから、光導波路層401cの表面において物質の吸着や接近、離脱、変質が生じると、反射光410Bの強度に変化が現れる。この変化を光検出器405により観測することにより、光導波路層401c表面における物質の吸着や接近、離脱、変質といった現象を検出することができる。
【0008】
また、図4に、図2に示したSPRセンサー300の光学系を光導波モードセンサーに適用した場合の概要を示す。該図4に示す光照射手段は、光源501と、光ファイバ502Aと、コリメートレンズ503と偏光板504で構成されている。光源501からの光は、光ファイバ502Aに入射され、光学プリズム505に入射しやすい位置に導かれる。光ファイバ502Aの先に配置されたコリメートレンズ503により、光ファイバ502Aからの出射光は、平行光となるように設定される。また、この出射光は、偏光板504にて所望の偏光状態に偏光された後に、光学プリズム505に入射される。光学プリズム505に入射された光は、検出板506で反射され、反射光として光学プリズム505から出射された後、集光レンズ507により集光されて光ファイバ502Bに取り込まれ、分光器508及び光検出器509にて、反射強度又は反射スペクトルを観測可能とされる。検出板506は、透明基板506a上に、金属層又は半導体層で構成される薄膜層506bと、光導波路層506cとがこの順で配されたもので構成され、検出板506の光導波路層506cが配される面と反対側の面に光学プリズム505が光学的に密着されて配される。このような構造を有する光導波モードセンサー500により、入射光が検出板506で反射された後の特性、例えば反射光スペクトルを観測すると、入射光のある特定波長帯域の光が、検出板506の表面に形成された光導波路層506c内及びその近傍を局在的に伝搬する光導波モードを励起する条件を満たし、この波長帯域で反射強度が著しく変化する現象が生じる。この光導波モード励起条件は、検出板506の光導波路層506c表面近傍の誘電率によって変化するため、光導波路層506c表面近傍の誘電率に変化があると、反射スペクトルが変化する。これにより、反射スペクトルの変化又はある特定波長帯域の反射光強度の変化を観測することで、光導波路層506c表面近傍において誘電率変化を引き起こしている原因、例えば、物質の吸着や接近、離脱、変質を光検出器509で検出することができる。
また、光導波モードセンサーでは、光導波路層にナノ孔を形成し検出面の表面積を増大させると、検出感度が飛躍的に向上することがこれまでに報告されている。(例えば、特許文献4、5、非特許文献10〜13参照)
【0009】
また、特許文献7に、SPRセンサーの金属薄膜層の表面に、親油性膜を被覆し、水中に含まれる油分を検出板表面に捕捉して、油分検出を行うセンサーが開示されている。しかし、この場合、水と油分では誘電率の差が小さく、油分を検出板表面で捉えても、高い検出感度が得られないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4581135号公報
【特許文献2】特許第4595072号公報
【特許文献3】特開2007−271596号公報
【特許文献4】特開2008− 46093号公報
【特許文献5】特開2009− 85714号公報
【特許文献6】国際公開第2010/ 87088号
【特許文献7】特開平10−38797号公報(特許第3447478号公報)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】W.Knoll,MRS Bulletin 16,pp.29-39(1991年)
【非特許文献2】W.Knoll,Annu.Rev.Phys.Chem.49,pp.569−638(1998年)
【非特許文献3】H.Kano and S.Kawata,Appl.Opt.33,pp.5166−5170(1994年)
【非特許文献4】C.Nylander,B.Liedberg,and T.Lind,Sensor.Actuat.3,pp.79−88(1982/83年)
【非特許文献5】K.Kambhampati,T.A.M.Jakob,J.W.Robertson,M.Cai,J.E.Pemberton,and W.Knoll,Langmuir 17,pp.1169−1175(2001年)
【非特許文献6】O.R.Bolduc,L.S.Live,and J.F.Masson,Talanta 77,pp.1680−1687(2009年)
【非特許文献7】I.Stammler,A.Brecht,and G.Gauglitz,Sensor.Actuat.B54,pp98−105(1999年)
【非特許文献8】M.Osterfeld,H.Franke,and C.Feger,Appl.Phys.Lett.62,pp.2310−2312(1993年)
【非特許文献9】E.F.Aust and W.Knoll,J.Appl.Phys.73,p.2705(1993年)
【非特許文献10】M.Fujimaki,C.Rockstuhl,X.Wang,K.Awazu,J.Tominaga,T.Ikeda,Y.Ohki,and T.Komatsubara,Microelectronic Engineering 84,pp.1685−1689(2007年)
【非特許文献11】K.Awazu,C.Rockstuhl,M.Fujimaki,N.Fukuda,J.Tominaga,T.Komatsubara,T.Ikeda,and Y.Ohki,Optics Express 15,pp.2592−2597(2007年)
【非特許文献12】K.H.A.Lau,L.S.Tan,K.Tamada,M.S.Sander,and W.Knoll,J.Phys.Chem.B108,pp.10812(2004年)
【非特許文献13】M.Fujimaki,C.Rockstuhl,X.Wang,K.Awazu,J.Tominaga,Y.Koganezawa,Y.Ohki,and T.Komatsubara,Optics Express 16,pp.6408−6416(2008年)
【非特許文献14】M.Fujimaki,C.Rockstuhl,X.Wang,K.Awazu,J.Tominaga,N.Fukuda,Y.Koganezawa,and Y.Ohki,Nanotechnology 19,pp.095503−1−095503−7(2008年)
【非特許文献15】M.Fujimaki,C.Rockstuhl,X.Wang,K.Awazu,J.Tominaga,T.Ikeda,Y.Koganezawa,and Y.Ohki,J.Microscopy 229,pp.320−326(2008年)
【非特許文献16】M.Fujimaki,K.Nomura,K.Sato,T.Kato,S.C.B.Gopinath,X.Wang,K.Awazu,andY.Ohki,Optics Express 18,pp.15732−15740(2010年)
【非特許文献17】R.P.Podgorsek,H.Franke,J.Woods,and S.Morrill,Sensor.Actuat.B51 pp.146−151(1998年)
【非特許文献18】J.J.Saarinen,S.M.Weiss,P.M.Fauchet,and J.E.Sipe,Opt.Express 13,pp.3754−3764(2005年)
【非特許文献19】G.Rong,A.Najmaie,J.E.Sipe,and S.M.Weiss,Biosens.Bioelectron.23,pp.1572−1576(2008年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、油分及び界面活性剤の検出装置に配したときに、その検出装置を小型で安価で携行可能に構成せしめるとともに、水中の油分及び界面活性剤を迅速かつ高感度に検出可能とする検出板、該検出板を有する検出装置、及び該検出装置を用いた油分及び界面活性剤の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 油分及び界面活性剤の少なくともいずれかを検体として検出する電場を形成する検出電場形成層と、前記検体を含む水から前記検体を捕捉する捕捉層と、がこの順で配され、前記捕捉層は、前記水が接する側の面に前記検体を捕捉する捕捉用凹部が形成されているとともに、前記水が接する側の面に撥水処理が施されてなり、大気圧下で前記捕捉用凹部が形成された面に前記水を滴下したとき、前記捕捉用凹部内の全体に前記水中の水分が浸入しないことを特徴とする検出板。
<2> 捕捉用凹部は、捕捉層に形成された孔としてなる前記<1>に記載の検出板。
<3> 捕捉用凹部は、検出板の検体を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるよう複数のピラーを配して形成される前記<1>に記載の検出板。
<4> ピラーの最長径が使用する光の波長の長さよりも短い前記<3>に記載の検出板。
<5> 捕捉用凹部は、表面ラフネスとして形成される前記<1>に記載の検出板。
<6> 捕捉用凹部の開口径が、使用する光の波長の長さよりも短い前記<1>から<5>のいずれかに記載の検出板。
<7> 捕捉用凹部の深さが5nm以上5μm以下である前記<1>から<6>のいずれかに記載の検出板。
<8> 捕捉用凹部は、検出板の検体を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるよう複数のビーズを配して形成される前記<1>に記載の検出板。
<9> 撥水処理として、捕捉用凹部が形成された面に親油基を有するシランカップリング剤を用いた表面処理又はフッ素コート剤を用いた表面処理がなされている前記<1>から<8>のいずれかに記載の検出板。
<10> 検出電場形成層は、表面プラズモン共鳴を発現する表面プラズモン励起層が配されて形成される前記<1>から<9>のいずれかに記載の検出板。
<11> 表面プラズモン励起層の形成材料が金、銀、銅、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含む前記<10>に記載の検出板。
<12> 検出電場形成層は、捕捉層が配される側から、透明材料で形成される光導波路層と金属材料又は半導体材料で形成される薄膜層とがこの順で配されて形成される前記<1>から<9>のいずれかに記載の検出板。
<13> 捕捉層が光導波路層の一部又は全部を兼ねる形で形成される前記<12>に記載の検出板。
<14> 前記<1>から<13>のいずれかに記載の検出板と、前記検出板の検出電場形成層が配される側の面に配される光学素子と、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、前記検出板から反射される反射光を検出する光検出手段と、を有し、前記検出板の捕捉用凹部内における検体の有無に応じて変化する前記反射光の特性の変化から前記検体を検出することを特徴とする検出装置。
<15> 前記<14>に記載の検出装置を用いて水に含まれる検体の存在を検出する検出方法であって、検出板の捕捉層が形成された面に対し、前記検体を含まない水を投与して、光照射手段から光学素子を介して前記検出板に光を照射する第1の光照射工程と、前記第1の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する第1の光検出工程と、前記検出板の前記捕捉層が形成された面に対し、前記検体を含む水を投与して前記検体を前記捕捉層の捕捉用凹部内に捕捉する捕捉工程と、前記捕捉工程後、前記検出板に光を照射する第2の光照射工程と、前記第2の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する第2の光検出工程と、を有し、前記第1の光検出工程と、前記第2の光検出工程とで検出される前記各反射光の特性の変化から前記検体を検出することを特徴とする検出方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、油分及び界面活性剤の検出装置に配したときに、その検出装置を小型で安価で携行可能に構成せしめるとともに、水中の油分及び界面活性剤を迅速かつ高感度に検出可能とする検出板、該検出板を有する検出装置、及び該検出装置を用いた油分及び界面活性剤の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来技術に係る表面プラズモン共鳴を用いたSPRセンサーの光学配置の一例を示す説明図である。
【図2】従来技術に係る表面プラズモン共鳴を用いたSPRセンサーの光学配置の他の例を示す説明図である。
【図3】従来技術に係る光導波モードセンサーの光学配置の一例を示す説明図である。
【図4】従来技術に係る光導波モードセンサーの光学配置の他の例を示す説明図である。
【図5】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の一例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の他の例を示す断面図である。
【図7(a)】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の他の例を示す断面図である。
【図7(b)】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の他の例を示す断面図である。
【図7(c)】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の他の例を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る検出装置に配される検出板の他の例を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例に係る検出装置の光学配置を示す説明図である。
【図10】実施例1における捕捉用凹部が形成された捕捉層の電子顕微鏡写真である。
【図11】実施例1における捕捉層の表面に水滴を滴下した際の写真である。
【図12】実施例1に係る検出装置を用いて観察した撥水処理前後の反射スペクトルである。
【図13】実施例1に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図14】実施例2に係る検出装置を用いて観察した撥水処理前後の反射スペクトルである。
【図15】実施例2に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図16】実施例3における捕捉用凹部が形成された捕捉層の電子顕微鏡写真である。
【図17】実施例3に係る検出装置を用いて観察した撥水処理前後の反射スペクトルである。
【図18】実施例3に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図19】実施例4に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図20】比較例1に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図21】比較例1における検出面表面に水滴を滴下した際の写真である。
【図22】比較例2に係る検出装置を用いて観察した撥水処理前後の反射スペクトルである。
【図23】比較例2における検出面表面に水滴を滴下した際の写真である。
【図24】比較例2に係る検出装置を用いて観察した油分を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【図25】実施例5に係る検出装置を用いて観察した界面活性剤を含む水の滴下前後の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(検出装置及び検出板)
本発明の検出装置は、本発明の検出板と、光学素子と、光照射手段と、光検出手段とを有し、必要に応じて、その他の部材を有してなる。
【0017】
<検出板>
前記検出板は、検出電場形成層と、捕捉層とがこの順で配され、必要に応じて、その他の層を有してなる。前記検出板は、油分及び界面活性剤を検体とする。
【0018】
−検出電場形成層−
前記検出電場形成層は、前記捕捉層付近に局在した前記検体を検出するために用いる電場(検出電場)を形成する層としてなる。ここでいう検出電場とは、表面プラズモン共鳴を励起した際に表面プラズモンの励起に伴って発生する表面に局在した電場や、光導波路内を光が伝搬する際に光導波路表面に染み出す伝搬光による電場を指す。これらの電場は、その電場内における誘電率の変化に敏感であり、例えば、この電場内に、物質が侵入して誘電率が変化すると、表面プラズモン共鳴の共鳴条件に変化が生じ、又は、光導波路内を伝搬する光のモードに変化が生じ、よって、これらの変化を観測することで、前記物質の侵入を検知できる。
前記検出電場形成層としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の表面プラズモン共鳴を利用するSPRセンサーに用いられる表面プラズモン励起層及び光導波路中を伝搬する光のモードを利用する光導波モードセンサーに用いられる光導波路層が挙げられる。例えば、前記クレッチマン配置及び前記波長分解測定に係るSPRセンサー(図1及び図2参照)における金属薄膜層、並びに、前記光導波モードセンサー(図3及び図4参照)における薄膜層と光導波路層とで構成された層などが挙げられる。
【0019】
ここで前記SPRセンサーに用いられる検出電場形成層(表面プラズモン励起層)の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、入射する光の波長において負の誘電率を有する金属材料が挙げられるが、金、銀、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含む金属材料が好ましい。
この金属材料で形成される金属層は、プリズムを介してある入射角度で光を受けると、表面側に染み出したエバネセント波が表面プラズモンの励起条件を満たし、前記金属層の表面に前記表面プラズモン共鳴を発現させる。
前記金属層の厚みとしては、金属材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域で表面プラズモンを励起する場合、前記金属層の厚さは数nm〜数十nmとなる。
【0020】
また、前記光導波モードセンサーに用いられる検出電場形成層としての薄膜層と光導波路層として用いられる材料としては、例えば薄膜層としては、金属又は半導体材料が挙げられ、光導波路層としては、誘電体材料などの透明材料が挙げられる。
前記薄膜層を形成する前記金属材料としては、特に制限はなく、例えば、一般に入手が可能で、安定な金属及びその合金などが挙げられるが、金、銀、銅、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含むことが好ましい。
前記薄膜層を形成する半導体材料としては、特に制限はなく、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の半導体材料又は既知の化合物半導体材料が挙げられるが、特にシリコンは安価で加工が容易であるため好ましい。
前記薄膜層の厚みとしては、前記表面プラズモン励起層の金属層と同様で、前記薄膜層の材料及び入射する光の波長によってその最適値が決定されるが、この値はフレネルの式を用いた計算から算出が可能であることが知られている。一般的に、近紫外域から近赤外域の波長帯の光を使用する場合、前記薄膜層の厚さは数nm〜数百nmとなる。
前記光導波路層の形成材料としては、光透過性の高い透明材料であれば特に制限はなく、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、アクリル樹脂等の樹脂材料、酸化チタン等の金属酸化物、窒化アルミニウム等の金属窒化物などが挙げられるが、作製が容易で、化学的安定性が高い酸化シリコンが好ましい。この場合、前記薄膜層を前記シリコンで形成すれば、前記シリコンの層の表面側を酸化させることで、簡便に形成することができる。
【0021】
また、これ以外にも、光導波路構造として検出電場形成層を持ち、前記検体の検出に利用可能な検出電場の形成が可能な層構造として、平板型光導波路、スラブ型光導波路、シリコンナノ細線を用いた光導波路構造、リングレゾネータータイプの光導波路構造、マッハツェンダータイプの光導波路構造などが挙げられる。
【0022】
−捕捉層−
前記捕捉層は、前記検体を含む水から前記検体を捕捉する機能を有し、前記検体を含む水と接する側の面に前記捕捉対象を捕捉する捕捉用凹部が形成されているとともに、前記捕捉用凹部が形成された面に撥水処理が施されてなる。
本発明は、前記捕捉層において、大気圧下で前記捕捉用凹部が形成された面に前記水を滴下したとき、前記捕捉用凹部内の全体に前記水中の水分が浸入しないことを技術の核とする。
即ち、本発明の前記検出装置の使用環境として一般的である大気圧下で、この捕捉層上に前記水が滴下されると、前記撥水処理によって前記水中の水分が弾かれ、前記捕捉用凹部内に前記水中の水分が浸入しないか、浸入したとしても前記捕捉用凹部内の全体には前記水中の水分が浸入しない一方で、前記水中の前記検体は、前記撥水処理された前記捕捉層表面に馴染むため、前記捕捉用凹部内に浸入する。
前記捕捉用凹部には、前記検体が浸入する前に前記水で満たされていない空間、つまり誘電率が1に近い空間が存在している。この空間に前記検体が浸入するため、前記捕捉用凹部内で大きな誘電率の変化が生じ、その結果、高感度で前記検体の存在を検出することができる。
前記検出装置では、前記捕捉層で前記検体を捕らえて前記検体の存在を検出することから、前記検出板において、前記捕捉層が形成される面を検出面と呼ぶ。
【0023】
前記捕捉用凹部内に前記水が浸入しない空間が存在する状態は、以下の測定方法で確認することができる。
即ち、本発明の前記検出板の作製に際し、前記撥水処理前(前記撥水処理後である場合には、前記撥水処理前の状態に戻す)の前記検出面に対して大気圧下で純水を適量(1μL〜100mL程度)滴下した状態と、前記撥水処理後の前記検出面に対して、前記撥水処理前と同様に大気圧下で純水を適量滴下した状態との2つの状態における光信号の観測を行う。観測結果から、前記撥水処理前後のそれぞれの信号から得られる検出面での誘電率の値を算出する。前記捕捉用凹部内に前記水がない空間が存在すると、得られる誘電率が低くなる。よって、前記捕捉用凹部内に前記水が浸入しない空間が存在するかどうかは、この誘電率の差をもって確認することができる。
【0024】
前記捕捉層の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガラス材料、樹脂材料、半導体材料、金属材料などが挙げられる。
前記ガラス材料としては、耐薬品性が高く、安定的である観点から選択されるが、中でも非常に高い化学的安定性、物理的安定性を有するシリカガラスが好ましい。
また、前記樹脂材料としては、前記捕捉用凹部の形成が容易である観点から選択される。
なお、前記捕捉層としては、材料の選択により、前記検出電場形成層における前記光導波路層としての機能を付与することができ、この場合、前記捕捉層が、前記光導波モードを励起する光導波路層の一部又は全部を兼ねる形で形成することができる。
【0025】
前記捕捉用凹部としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、孔をあけて形成する場合、真円形、楕円形、多角形などの断面形状の孔を形成して凹部とすることができる。また、前記検出板の前記油分及び前記界面活性剤を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるように複数のピラー(柱状の構造物)を配して形成することもできる。また、ランダムに形成されたスクラッチ、表面凹凸、溝構造のような表面ラフネスを前記捕捉用凹部として利用してもよい。
【0026】
前記捕捉用凹部の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記捕捉層を溶かす溶液による化学エッチング方法又は反応性イオンエッチングのようなドライエッチング方法、研磨などの物理的加工方法が挙げられる。
前記捕捉用凹部として孔を形成する場合の最も一般的な形成方法としては、前記捕捉層の形成材料表面にレジストを塗布し、このレジストにリソグラフィーにてドットパターンを形成した後、前記化学エッチング方法又は前記ドライエッチング方法にて孔を形成する方法が挙げられる。
前記捕捉層自身をレジスト材料で形成した場合には、前記ドットパターンのリソグラフィーを行い、前記レジスト材料を現像した時点で、前記捕捉用凹部が得られる。
前述のような孔を形成する場合、孔の径は深さ方向に均一の大きさである必要はなく、深くなるにつれて、径が大きくなってもよいし、小さくなってもよい。しかし、孔の径を深さ方向に均一に形成すると、孔を最も密に形成でき、その結果、孔の内部容積の合計量、つまり前記検体を捕捉できる量を大きくできる為、前記孔は孔径が深さ方向に均一な孔とすることが好ましい。
【0027】
一般に、前記リソグラフィーを用いた孔の形成は、規則的なパターンを形成するのに好適であるが、前記捕捉用凹部として用いる場合、孔の配置としては、特に制限はなく、規則的であっても規則的でなくともよい。
ランダムな配置の孔の形成方法としては、特に制限はないが、前記捕捉層の材料に対してイオン注入する方法と、イオン注入後に化学エッチングする方法の組み合わせが非常に有効である。
高エネルギーでイオンを加速して、酸化シリコンや酸化チタン、高分子化合物や有機物薄膜、ガラス材料、透明な伝導体材料などに注入すると、前記イオンが通過した部分が化学的に選択エッチング可能となる。例えば、前記酸化シリコンや前記酸化チタンにMeVオーダーで前記イオンを加速して注入した後、フッ化水素酸やホウフッ化水素酸の溶液又は蒸気でエッチングを行うと、前記イオンが照射された部分が、前記イオンが照射されていない部分に比べ効率的にエッチングされ、非常に微細な直径を持つ前記捕捉用凹部の形成が可能となる。
【0028】
前記捕捉用凹部としてピラーを形成する場合も、前記孔の形成と同様に、リソグラフィーとエッチングを組み合わせた手法などが適応可能である。スクラッチや表面凹凸、溝構造などを前記捕捉用凹部として利用する場合、やはり、リソグラフィーとエッチングを組み合わせた手法で形成が可能であるが、ランダムな凹凸を形成する場合は、単に前記捕捉層を目の細かい研磨剤を用いて研磨したり、島状に物質を堆積させる手法を用いることによって簡単に形成することができる。
【0029】
また、前記捕捉用凹部の形成方法として、前記検出板の前記検体を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるよう複数のビーズを配して形成する方法が挙げられる。
例えば、シリカビーズやポリスチレンビーズなどのビーズを前記検出板の前記検体を含む水が接する側の面に塗工すると、前記ビーズを密に配置することができ、前記ビーズと前記各ビーズ間の間隔をもって、前記捕捉用凹部を有する前記捕捉層を形成することができる。
【0030】
前記捕捉用凹部として孔を形成する場合、その開口径としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記開口径が大きくなりすぎると、前記検体の検出のために入射した光の散乱が生じてしまうおそれがあることから、前記検出に使用する光の波長以下が好ましい。また、前記開口径が大きいと、撥水処理を行っても、前記捕捉用凹部の全体に水が入り込んでしまうことを防げなくなってしまう恐れがある。よって、前記開口径は、撥水処理によって前記捕捉用凹部内の全体に水が侵入しないようにできる程度に小さくする必要がある。前記開口径が小さくなりすぎると、前記検体が捕捉用凹部に浸入しないため、10nm以上であることが好ましい。
なお、前記開口径とは、その開口平面において最も長くなる位置の径を示す。
【0031】
前記孔の深さとしては、前記検出面に前記水を滴下した際、前記孔内に前記水で満たされない空間が確保できるような深さであればよい。
この条件を満たす前記孔の深さとしては、前記撥水処理された前記検出面における撥水の程度や前記孔の開口径に依存するが、前記捕捉層の厚みが許す範囲内で、深ければ深い程好しく、5nmよりも深いことが好ましく、20nm以上がさらに好ましい。
【0032】
前記捕捉用凹部として前記ピラーを形成する場合、その最長径としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記最長径が大きくなりすぎると、やはり前記検体の検出のために入射した光の散乱が生じてしまうおそれがあることから、前記検出に使用する光の波長以下が好ましい。また、前記最長径が小さくなりすぎると、ピラーの強度が著しく低くなることから、10nm以上であることが好ましい。なお、前記最長径とは、そのピラーが最も太くなる位置の径を示す。
またこの場合、隣接するピラー間が前記捕捉用凹部となるので、この隣接するピラー間の間隔の最も広い部分が前記開口径に相当する。よって、前記孔形成時と同様に、この場合も前記開口径は10nm以上が好ましく、使用する波長以下が好ましい。また、前記開口径は、撥水処理によって前記捕捉用凹部内の全体に前記水が侵入しないようにできる程度に小さくする必要がある。
【0033】
前記ピラーの高さとしては、前記検出面に前記水を滴下した際、前記捕捉用凹部内に前記水で満たされない空間が確保できるような高さであればよい。
この条件を満たす前記ピラーの高さとしては、前記撥水処理された前記検出面における撥水の程度や前記ピラーの径や配置間隔に依存するが、前記捕捉層の厚みが許す範囲内で、高ければ高い程好しく、5nmよりも高いことが好ましく、20nm以上がさらに好ましい。
【0034】
前記捕捉用凹部として前記表面ラフネスを形成する場合、その表面ラフネスを構成する構造の大きさとしては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記構造が大きくなりすぎると、前記検体の検出のために入射した光の散乱が生じてしまうおそれがある。この場合、表面ラフネスによって形成される前記捕捉用凹部の間隔の最も広い部分が前記開口径に相当する。よって、この場合も前記開口径は10nm以上が好ましく、使用する波長以下が好ましい。また、前記開口径は、撥水処理によって前記捕捉用凹部内の全体に水が侵入しないようにできる程度に小さくする必要がある。
【0035】
前記表面ラフネスの深さ、つまり表面ラフネスを構成する構造によって形成される凹部の深さ、としては、前記検出面に前記水を滴下した際、前記孔内に前記水で満たされない空間が確保できるような深さであればよい。
この条件を満たす前記表面ラフネスの深さとしては、前記撥水処理された前記検出面における撥水の程度や前記凹部の幅に依存するが、前記捕捉層の厚みが許す範囲内で、深ければ深い程好しく、5nmよりも深いことが好ましく、20nm以上がさらに好ましい。
【0036】
前記捕捉層の厚みとしては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、薄すぎると前記検体を捕捉できる量が少なくなり、また、前記検出面に前記水を滴下した際、前記捕捉用凹部内に形成される前記水で満たされない空間が小さくなってしまうことから、5nmよりも厚いことが好ましい。
また、前記表面プラズモン共鳴及び前記光導波モードのいずれの場合も、前記検出電場形成層表面から500nm程度までしか検出電場が形成されないため、これ以上前記捕捉層を厚くしても感度の向上は望めないことから、前記捕捉層の厚みとしては、500nm以下で十分である。しかし、前記光導波モードを用いる場合で、前記捕捉層が前記光導波路層の一部又は全部を兼ねる形で形成される場合、前記捕捉層自身が前記光導波路層として機能するため、前記の厚みの上限に関する制限がなくなる。しかしながらこの場合でも、前記捕捉層を厚くしすぎると製造コスト上好ましくないため、前記捕捉層の厚みとしては5μm以下が好ましい。
【0037】
前記撥水処理を行う方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の撥水処理、親油処理、疏水処理が挙げられるが、安定性に優れる観点から、親油性を有する化合物を前記検出面に表面修飾させる方法が好ましい。
前記表面修飾させる方法としては、特に制限はなく、親油基の種類や目的に応じて適宜選択することができるが、簡便に導入可能な観点から、親油基を有するシランカップリング剤を用いた表面処理方法や、撥水性のフッ素コート剤を用いた表面処理方法が好ましい。
【0038】
−その他の層−
前記その他の層としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、透明基板、接着層等が挙げられる。
【0039】
前記透明基板は、前記検出電場形成層の前記捕捉層が配される面と反対側の面に配される。この透明基板は、この上に前記検出電場形成層と前記捕捉層とを形成するのに用いられる。
前記透明基板は、これらの層が形成されている面と反対側の面がマッチングオイル等により前記光学素子に密着される。
ただし、前記透明基板を配するか否かは、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光学素子として光学プリズムを用いる場合、この光学プリズムに前記透明基板の役割を付与することができる。
前記透明基板の形成材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、シリカガラス(含む熱酸化シリコン)等のガラス材料、プラスチック材料、セラミックス材料、絶縁物等の透明な誘電体材料、ITO等の透明伝導体材料などが挙げられる。
【0040】
前記接着層は、前記検出電場形成層における前記金属薄膜層と前記透明基板との間又は前記透明基板を用いない場合には、前記金属薄膜層と前記光学プリズムとの間に配される。即ち、前記金属薄膜層は、ガラス材料からなる前記透明基板又は前記光学プリズムとの密着性が低くなることがあるため、前記ガラス材料との密着性を向上させるのに前記接着層を用いることができる。
前記接着層の形成材料としては、例えば、Crなどが挙げられる。
【0041】
前記検出板の具体的な構成例を図面に基づき説明する。
前記表面プラズモン共鳴を利用する場合の前記検出板、即ち、前記SPRセンサーに用いられる前記検出板の一実施形態を図5に示す。
この場合、該図5に示すように、検出板10は、透明基板11上に、金属薄膜層12(検出電場形成層17)と、捕捉層13とがこの順に配されてなり、捕捉層13には、複数の捕捉用凹部14が形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される。
【0042】
また、前記光導波モードを利用する場合の前記検出板、即ち、前記光導波モードセンサーに用いられる前記検出板の一実施形態を図6に示す。
この場合、該図6に示すように、検出板20は、透明基板21上に、金属又は半導体材料で形成される薄膜層22と、光導波路層25と、捕捉層23とがこの順に配されてなり、捕捉層23には、複数の捕捉用凹部24が形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される。この例では、薄膜層22と光導波路層25とで、検出電場形成層27が構成される。
【0043】
前記光導波路層自身に前記捕捉用凹部を形成してその表面を撥水処理し、これを前記捕捉層としてもよい。この時、前記捕捉用凹部としては、前記光導波路層を貫通していてもよいし、前記光導波路層を貫通せず表面側にのみ形成されていてもよい。このように前記捕捉層を前記光導波モード検出板における前記光導波路層と一体化させて構成すると、前記捕捉層を別途形成するより製造プロセスが簡易になり好ましい。この場合の前記捕捉層の一実施形態を図7(a)に示す。
即ち、該図7(a)に示ように、検出板30は、透明基板31上に、金属又は半導体材料で形成される薄膜層32と、前記光導波路層としても機能する捕捉層33とがこの順で配されてなり、捕捉層33には、該捕捉層33を貫通する状態の捕捉用凹部34が複数形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される。この例では、薄膜層32と前記光導波路層としても機能する捕捉層33とで、検出電場形成層37が構成される。
【0044】
図7(a)に示す検出板30において、捕捉用凹部34を捕捉層33に貫通させない状態で形成した前記検出板の一実施形態を図7(b)に示す。
即ち、該図7(b)に示すように、検出板40は、透明基板41上に、金属又は半導体材料で形成される薄膜層42と、前記光導波路層としても機能する捕捉層43とがこの順で配されてなり、捕捉層43には、該捕捉層43を貫通しない状態の捕捉用凹部44が複数形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される。この例では、薄膜層42と前記光導波路層としても機能する捕捉層43とで、検出電場形成層47が構成される。
【0045】
また、図7(a)に示す検出板30において、捕捉用凹部34が捕捉層33を貫通せず、その孔の形状が孔の深さ方向に向けて段々細くなる円錐型とした前記検出板の一実施形態を図7(c)に示す。
即ち、該図7(c)に示すように、検出板50は、透明基板51上に、金属又は半導体材料で形成される薄膜層52と、前記光導波路層としても機能する捕捉層53とがこの順で配されてなり、捕捉層53には、該捕捉層53を貫通せず、孔の深さ方向に向けて段々と細くなる円錐型の形状からなる捕捉用凹部54が複数形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される。この例では、薄膜層52と前記光導波路層としても機能する捕捉層53とで、検出電場形成層57が構成される。
【0046】
<光学素子>
前記光学素子は、前記検出板の前記検出電場形成層が配される側の面に配される。
前記光学素子は、前記光照射手段から照射される光を前記検出板に導き、その反射光を前記光検出手段に導く機能を有する。
【0047】
前記光学素子としては、前記機能を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記光学プリズム、回折格子、シリンドリカルレンズなどが挙げられる。
前記光学プリズムの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、三角形プリズム、台形プリズム、半円柱プリズム、半球プリズムが挙げられる。
前記光学プリズムの形成材料としては、光透過性が高い材料であれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記検出板との界面における光の反射や屈折を抑える観点から、前記検出板が前記透明基板を有する場合、前記透明基板を構成する材料と同じ材料か又は同等の屈折率を持つ材料が好ましく、例えば、シリカガラス等のガラス材料が好ましい。
【0048】
前記検出板に前記光学素子を配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記検出板と前記光学素子との間に、屈折率調節オイルや屈折率調節ポリマーシートで満たし、これらが光学的に連続となるように密着させて配する方法が好ましい。
また、前記検出板と前記光学プリズムとは、より簡便に光学的な連続性が得られる観点から、一体的に形成されていてもよい。
この場合、前記検出板の前記透明基板を研磨して、プリズム形状にすることで形成することができる。
【0049】
前記検出板と前記光学プリズムとが一体的に形成される例を図8に示す。この例に係る検出板60は、シリカガラス基板を光学プリズム状に加工して形成された光学プリズム66上に、前記光導波モードセンサー用の前記検出板における前記薄膜層62として、シリコン層を配し、その上に、前記光導波路層としても機能する捕捉層63が配される。なお、この図では、捕捉層63に、該捕捉層63を貫通しているが孔の深さ方向に向けて段々と細くなる円錐型の形状からなる捕捉用凹部64が複数形成されるとともに、その表面(検出面)に撥水処理が施されて構成される例を示しているが、捕捉用凹部64の形状としては、適宜選択することができる。また、この例では、薄膜層62と前記光導波路層としても機能する捕捉層63とで、検出電場形成層67が構成される。
【0050】
前記光導波モードを利用する前記検出板の前記透明基板としてシリカガラス基板を選択し、前記薄膜層としてシリコン層を選択し、前記光導波路層として酸化シリコン層を選択し、前記光学素子として前記光学プリズムを選択し、前記波長分解型の反射光スペクトルを観察可能として前記検出装置を構成したとき、前記光学プリズムは、前記光照射手段から照射される光が入射される入射面と、前記検出板に密着される密着面とのなす角の角度が大きくとも43°以下であることが好ましい。このような角度であると、前記検体を高感度に検出することができる。ただし、プリズムの角αの角度が30°より小さくなると、入射光が前記検出板の表面で全反射条件を満たさなくなる、つまり、前記検出板の検出面への光の入射角度が臨界角より小さくなってしまう場合がある。
【0051】
<光照射手段>
前記光照射手段は、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射することとしてなる。
【0052】
前記光照射手段の構成としては、前記光学素子を介して前記検出板に光を照射可能である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、レーザー、白色ランプ、LEDなどの光源、前記光源から照射される光をコリメート光とするコリメータ、前記コリメート光を偏光する偏光板、前記光源から照射される光を前記コリメータに導く光ファイバ、前記光源からの光を集光して前記光学プリズムに入射させる集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
【0053】
<光検出手段>
前記光検出手段は、前記検出板から反射される反射光を検出することとしてなる。
【0054】
前記光検出手段の構成としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記反射光を検出するCCD、フォトダイオード、光電子増倍管などの光検出器、前記反射光を前記光検出器に導く光ファイバ、前記反射光を集光して前記光検出器に導く集光レンズなど、公知の光学部材から適宜選択して構成することができる。
また、前記波長分解型測定法を用いる場合、前記光検出手段として、分光器と光検出器とを備えることにより、反射光のスペクトルを測定するか、ある特定波長領域における反射光強度を測定する。
【0055】
なお、前記検出装置の光学配置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記クレッチマン配置及び前記波長分解測定に係るSPRセンサー(図1及び図2参照)、並びに、前記光導波モードセンサー(図3及び図4参照)の各光学系から構成することができるが、小型で高感度の検出装置を実現する観点から、前記光導波モードを利用した前記光導波モードセンサーの光学系から構成されることが好ましい。このようにして構成される前記検出装置は、前記検出板の前記捕捉用凹部内における前記検体の有無に応じて変化する前記反射光の特性の変化から前記検体を検出することができる。
【0056】
<その他の部材>
前記その他の部材としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記検出板の検出面に前記検体を含む水(被検体)を案内する案内部などが挙げられる。
前記案内部の構成としては、前記被検体を前記捕捉層に案内可能である限り特に制限はなく、例えば、前記被検体を注入する注入口と、前記注入された被検体を前記捕捉層の面上に案内する案内路とを有して構成される。
【0057】
なお、前記油分としては、例えば、鉱物油や植物油が挙げられ、また、前記界面活性剤としては、例えば、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤などが挙げられる。前記検出装置は、これらの油分及び界面活性剤の少なくともいずれかの混入が疑われる水を被検体とすることができ、例えば、飲料水、工業用水、河川水、湖水、海水、ダム貯留水、雨水、工場等からの排水などの水質調査に広く用いることができる。
【0058】
(検出方法)
本発明の検出方法は、本発明の前記検出装置を用いて前記水に含まれる前記検体の存在を検出する方法であって、第1の光照射工程と、第1の光検出工程と、捕捉工程と、第2の光照射工程と、第2の光検出工程とを有し、必要に応じて、その他の工程を有してなる。
【0059】
<第1の光照射工程>
前記第1の光照射工程は、前記光照射手段から前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する工程である。この工程は、前記検出板の検出面に対し、レファレンスとなる前記検体を含まない水を投与した状態で行われる。
前記第1の光照射工程における光照射方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記検出装置で説明した前記光照射手段を用いて行うことができる。
また、前記検出板としては、前記捕捉層を有する限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記検出板を用いることができる。
【0060】
<第1の光検出工程>
前記第1の光検出工程は、前記第1の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する工程である。
前記第1の光検出工程における光検出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記光検出装置で説明した前記光検出手段を用いて行うことができる。
【0061】
<捕捉工程>
前記捕捉工程は、前記検出板の検出面に対し、前記検体の混入が疑われる水を投与して前記水に含まれる前記検体を前記捕捉層の前記捕捉用凹部内に捕捉する工程である。この工程は、検出に十分な量の前記検体を捕捉するため、前記水を投入後、数秒から数十分待って行ってもよい。
【0062】
<第2の光照射工程>
前記第2の光照射工程は、前記捕捉工程後、前記検出板に光を照射する工程である。
前記第2の光照射工程における光照射方法としては、前記第1の光照射工程における光照射方法と同じ方法を用いることができる。
【0063】
<第2の光検出工程>
前記第2の光検出工程は、前記第2の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する。
前記第2の光検出工程における光検出方法としては、前記第1の検出工程における光検出方法と同じ方法を用いることができる。
【0064】
なお、前記検出方法に用いる前記検出装置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記クレッチマン配置及び前記波長分解測定に係るSPRセンサー(図1及び図2参照)、並びに、前記光導波モードセンサー(図3及び図4参照)の各光学系からなる検出装置を用いて実施することができるが、小型で高感度の検出装置を用いて実施する観点から、前記光導波モードを利用した前記光導波モードセンサーの光学系が好ましい。
【0065】
このような工程を有する前記検出方法は、前記第1の光検出工程と、前記第2の光検出工程とで検出される前記各反射光の特性の変化に基づき、前記検体を検出可能とされる。
前記第1の光照射工程及び前記第1の光検出工程は、少なくとも、前記捕捉工程の前に実施され、前記第2の光照射工程及び前記第2の光検出工程は、前記捕捉工程の後に実施されることが必要であるが、これらの工程で行われる前記光照射及び前記光検出を断続的に行う必要はなく、実際の検出においては、前記第1の光照射工程及び前記第1の光検出工程、並びに、前記第2の光照射工程及び前記第2の光検出工程における、前記光照射及び前記光検出を連続的に実施することとしてもよい。即ち、前記光照射及び前記光検出は、ある一定時間、常時行うことができ、その一定時間内に、前記捕捉工程を実施することとしてもよい。
【実施例】
【0066】
(実施例1)
図9に示す構成で、実施例1における検出装置100を作製した。
この検出装置100においては、タングステンハロゲンランプ光101から照射される光を、光ファイバ102Aを介してコリメートレンズ103、偏光板104の順で導入し、s偏光の平行光にした後、光学プリズム105に照射するように構成した。光学プリズム105には、マッチングオイルを介して検出板106を光学的に密着させた。
【0067】
また、検出装置100は、光学プリズム105の光入射面aを介して検出板106に照射された光を検出板106の表面で反射させ、光学プリズム105の光出射面bから出射させた後、集光レンズ107及び光ファイバ102Bを介して、分光器108に導き、光検出器109(CCDアレイ)によりスペクトルが観測されるように作製した。本実施例では、光学プリズム105として、2つの底角の角度αがいずれも38°の台形プリズムを用いた。
【0068】
検出板106は、厚さ1.2mmの透明基板(シリカガラス製)106a上に、厚さ220nmの単結晶Si層からなる薄膜層106bを形成し、その上に厚さ440nmの熱酸化シリコン層を形成し、この熱酸化シリコン層の表面にイオン注入とエッチングを組み合わせる手法により、複数の捕捉用凹部を形成して作製した。
具体的には、イオン注入プロセスでは、前記熱酸化シリコン層の上面から垂直に137MeVで加速した金イオンを1cm当たり1×1010個照射した。その後、5%に希釈したHF溶液に、これを2分間浸し化学エッチングすることで、イオン照射部を選択的に取り除き、前記捕捉用凹部を形成し、検出板106を作製することとした。
【0069】
前記捕捉用凹部形成後、親油基を有するシランカップリング剤であるdimethyldichlorosilaneを用いて前記捕捉用凹部が形成された面に撥水処理を行い、捕捉層106cを形成した。なお、この捕捉層106cは、前記光導波路層と一体的に形成されており、光導波路層としても機能する。
【0070】
捕捉層106c表面の電子顕微鏡写真を図10に示す。この図10では、前記捕捉用凹部を構成する微細な孔を多数確認することができる。前記捕捉用凹部の直径は、約70nmであった。孔の深さは観測できなかったが、過去の文献(下記参考文献1)によれば、孔は円錐型であると考えられる。
図11は、捕捉層106c表面に水滴を滴下した際の写真である。撥水効果によって、水滴が球に近い状態になっていることが確認できる。また、この時の接触角は115.8°であった。
参考文献1:K.Awazu,S.ishii,K.Shima,S.Roorda,J.L.Brebner,Phys.Rev.B 62,pp.3689(2000年)
【0071】
図12に、撥水処理前の検出板106の表面が空気の状態(A)、撥水処理前の検出板106の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(B)、及び、撥水処理後の検出板106の表面が空気の状態(C)、撥水処理後の検出板106の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(D)において、検出装置100にて反射スペクトルを観測した結果を示す。
(A)と(C)でのスペクトルを比較すると、撥水処理前後でチップ表面が空気の場合、大きな反射スペクトルの違いはない。(C)のスペクトルが若干長波長側にシフトしているが、これは撥水処理によって、検出板106の表面に撥水層が形成され、その結果、検出板106表面で誘電率が上昇したことによる。
一方、(B)と(D)でのスペクトルを比べると、撥水処理によって、観測されるディップ位置が短波長側にシフトしていることが観測される。これは、撥水処理によって、捕捉用凹部内に水が入りにくくなり、捕捉用凹部内に水で満たされない空間ができ、その結果、検出板106表面での平均誘電率が下がったためである。
この(B)と(D)で見られるスペクトルの変化、つまり撥水効果を検出面に付与したときに見られるディップ位置の短波長シフトにより、捕捉用凹部内に水で満たされない空間が形成されたことを確認することができる。
【0072】
検出する油分にはキャノーラ油(昭和産業(株)製)を用いた。被検体となる水溶液中の油分の濃度は、水質汚濁防止法排水での基準値(動植物油30mg/L)以下である2mg/Lとした。また、この時、被検体としての水中に油が溶けるように、2.5ppmの界面活性剤(東京化成工業(株)製、Tween20)を混ぜた。
【0073】
図13に、実施例1に係る検出装置100により測定された、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後10分経過後の反射スペクトルとを示す。
該図から分かるように、油分を含む水を滴下後時間が経つとディップ位置が長波長側にシフトするのが分かる。このシフトは、油分が徐々に捕捉層106cに捕捉され、その結果、捕捉層での誘電率が上昇したことによって発生したものである。
このように、実施例1に係る検出装置100によって、水質汚濁防止法で定められている基準以下の濃度を10分以内で検出することが可能であることが分かる。
【0074】
(実施例2)
実施例1に係る検出装置において、2つの底角の角度αがいずれも38°の台形プリズムに代え、2つの底角の角度αがいずれも32°の台形プリズムを配したこと以外は、実施例1と同様の構成にして、実施例2に係る検出装置を作製した。
【0075】
図14に、実施例2に係る検出装置に対し、撥水処理前の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(B)、及び、撥水処理後の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(D)で、反射光の反射スペクトルを観測した結果を示す。
該図に示す通り、実施例1と同様、(B)と(D)でのスペクトルを比べると、撥水処理によって、観測されるディップ位置が短波長側にシフトしていることが観測され、捕捉用凹部内に水で満たされない空間が形成されていることが確認できる。
【0076】
実施例2に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後5分及び10分経過後に測定した反射スペクトルとを図15に示す。
該図から分かるように、油分を含む水を滴下後、時間が経つにつれてディップ位置が長波長側にシフトし、水質汚濁防止法で定められている基準以下の濃度を数分で検出することが可能であることが分かる。また、この時得られたシフト量は、実施例1に係る検出装置を用いて測定した場合より大きかった。つまり、プリズムの低角の角度を小さくするとより高い感度が得られることが分かる。
【0077】
(実施例3)
実施例1に係る検出装置において、捕捉用凹部の形成方法を以下の方法に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る検出装置を作製した。
即ち、本実施例では、イオン注入プロセスで捕捉層の上面から垂直に137MeVで加速した金イオンを1cm当たり1×1010個照射した後、20%に希釈したHF溶液による蒸気に検出板を30分間曝し化学エッチングすることで、イオン照射部を選択的に取り除き、捕捉用凹部を形成した。エッチング中、検出板はHF溶液に浸らないように、HF溶液面の近くに保持した。また、HF溶液の温度は19℃、検出板の温度は30℃としてエッチングを行った。
【0078】
図16に前記方法で捕捉用凹部を形成した捕捉層106c表面の電子顕微鏡写真を示す。
形成された捕捉用凹部の開口径は、約15nmであった。孔の深さは観測できなかったが、過去の文献(非特許文献10)によれば、孔は実施例1の場合と異なり、真っ直ぐ深く形成され、光導波路層を貫通し、HFでエッチングされない単結晶Si層からなる薄膜層の表面で止まっていると考えられる。
【0079】
図17に、実施例3に係る検出装置に対し、撥水処理前の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(B)、及び、撥水処理後の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(D)で、反射光の反射スペクトルを観測した結果を示す。
該図に示す通り、実施例1と同様、(B)と(D)でのスペクトルを比べると撥水処理によって、観測されるディップ位置が短波長側にシフトしていることが観測され、捕捉用凹部内に水で満たされない空間が形成されていることが確認できる。
【0080】
実施例3に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後10分経過後に測定した反射スペクトルとを図18に示す。
該図から分かるように、油分を含む水を滴下後、時間が経つにつれてディップ位置が長波長側にシフトし、水質汚濁防止法で定められている基準以下の濃度を数分で検出することが可能であることが分かる。
【0081】
(実施例4)
実施例1に係る検出装置において、撥水処理の方法を以下の方法に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る検出装置を作製した。
即ち、前記HFエッチングにより前記捕捉用凹部形成後、リンス洗浄及び乾燥を行い、親油基を有するシランカップリング剤であるDodecyltrichlorosilaneを用いて前記捕捉用凹部が形成された面の撥水処理を行った。
【0082】
実施例4に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後10分経過後に測定した反射スペクトルとを図19に示す。
該図から分かるように、油分を含む水を滴下後時間が経つにつれてディップ位置が長波長側にシフトし、水質汚濁防止法で定められている基準以下の濃度を数分で検出することが可能であることが分かる。また、この時得られたシフト量は、実施例1に係る検出装置を用いて測定した場合より大きかった。撥水処理方法によって、撥水の度合いを変化させ、感度を上げることが可能であることが分かる。
【0083】
(比較例1)
実施例1に係る検出装置において、撥水処理を行わない検出板を配したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る検出装置を作製した。なお、この比較例1においては、撥水処理を行っていないので、撥水処理前後のスペクトルの差に関するデータはない。
【0084】
比較例1に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後10分経過後に測定した反射スペクトルとを図20に示す。
該図から分かるように、ディップ位置は殆ど変化せず、検出ができていないことが分かる。このことから、高感度化には撥水処理が重要であることが分かる。図21は比較例1で使用した検出板表面に水滴を滴下した際の写真である。撥水効果が殆どないことが確認できる。この時の接触角は52.3°であった。
【0085】
(比較例2)
実施例1に係る検出装置において、捕捉用凹部を形成しない検出板を配したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る検出装置を作製した。
【0086】
図22に、比較例2に係る検出装置に対し、撥水処理前の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(B)、及び、撥水処理後の検出板の検出面上に大気圧下で純水を150μL滴下した状態(D)で、反射光の反射スペクトルを観測した結果を示す。
該図から分かるように、図12、図14、図17の場合と異なり、撥水処理前後で反射スペクトルに差がないことが分かる。図23は比較例2で使用した検出板表面に水滴を滴下した際の写真である。撥水効果によって、水滴が球に近い状態になっていることが確認できる。また、この時の接触角は101.7°であった。
【0087】
比較例2に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、油分を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、油分を含む水を滴下後10分経過後に測定した反射スペクトルとを図24に示す。
該図から分かるように、ディップ位置は殆ど変化せず、検出ができていないことが分かる。このことから、高感度化には捕捉用凹部の形成が重要であることが分かる。
【0088】
(実施例5)
実施例1に係る検出装置において、捕捉用凹部の形成方法を以下の方法に代えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る検出装置を作製した。
即ち、本実施例では、イオン注入プロセスで捕捉層の上面から垂直に60MeVで加速した銀イオンを1cm当たり1×1010個照射した後、5%に希釈したHF溶液に検出板を2分間浸し化学エッチングすることで、イオン照射部を選択的に取り除き、前記捕捉用凹部を形成した。
【0089】
実施例5では、検体として、界面活性剤(東京化成工業(株)製、Tween20)を用いた。水溶液中のTween20の濃度は、1ppmとした。
実施例5に係る検出装置を用いて、実施例1と同様の方法により測定した、前記検体を含まない水を滴下後の反射スペクトルと、前記検体を含む水を滴下後10分経過後に測定した反射スペクトルとを図25に示す。
該図から分かるように、前記検体を含む水を滴下後時間が経つにつれてディップ位置が長波長側にシフトし、界面活性剤を数分で検出することが可能であることが分かる。
【符号の説明】
【0090】
10、20、30、40、50、60、106 検出板
11、21、31、41、51、106a、201、306、401a、506a 透明基板
12、202、307 金属薄膜層
13、23、33、43、53、63、106c 捕捉層
14、24、34、44、54、64 捕捉用凹部
17、27、37、47、57、67 検出電場形成層
22、32、42、52、62、106b、401b、506b 薄膜層
25、401c、506c 光導波路層
66、105、203、303、402、505 光学プリズム
100 検出装置
101 タングステンハロゲンランプ光
102A、102B、302A、302B、502A、502B 光ファイバ
103、304、503 コリメートレンズ
104、205、305、404、504 偏光板
107、308、507 集光レンズ
108、309A、508 分光器
200、300 SPRセンサー
204、301、403、501 光源
109、206、309、405、509 光検出器
210A、310A、410A 入射光
210B、310B、410B 反射光
400、500 光導波モードセンサー
401、506 検出板
a 光入射面
b 光出射面
α 角度
θ 入射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油分及び界面活性剤の少なくともいずれかを検体として検出する電場を形成する検出電場形成層と、
前記検体を含む水から前記検体を捕捉する捕捉層と、がこの順で配され、
前記捕捉層は、前記水が接する側の面に前記検体を捕捉する捕捉用凹部が形成されているとともに、前記水が接する側の面に撥水処理が施されてなり、
大気圧下で前記捕捉用凹部が形成された面に前記水を滴下したとき、前記捕捉用凹部内の全体に前記水中の水分が浸入しないことを特徴とする検出板。
【請求項2】
捕捉用凹部は、捕捉層に形成された孔としてなる請求項1に記載の検出板。
【請求項3】
捕捉用凹部は、検出板の検体を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるよう複数のピラーを配して形成される請求項1に記載の検出板。
【請求項4】
ピラーの最長径が使用する光の波長の長さよりも短い請求項3に記載の検出板。
【請求項5】
捕捉用凹部は、表面ラフネスとして形成される請求項1に記載の検出板。
【請求項6】
捕捉用凹部の開口径が、使用する光の波長の長さよりも短い請求項1から5のいずれかに記載の検出板。
【請求項7】
捕捉用凹部の深さが5nm以上5μm以下である請求項1から6のいずれかに記載の検出板。
【請求項8】
捕捉用凹部は、検出板の検体を含む水が接する側の面に、その間隔が凹部となるよう複数のビーズを配して形成される請求項1に記載の検出板。
【請求項9】
撥水処理として、捕捉用凹部が形成された面に親油基を有するシランカップリング剤を用いた表面処理又はフッ素コート剤を用いた表面処理がなされている請求項1から8のいずれかに記載の検出板。
【請求項10】
検出電場形成層は、表面プラズモン共鳴を発現する表面プラズモン励起層が配されて形成される請求項1から9のいずれかに記載の検出板。
【請求項11】
表面プラズモン励起層の形成材料が金、銀、銅、プラチナ及びアルミニウムの少なくともいずれかを含む請求項10に記載の検出板。
【請求項12】
検出電場形成層は、捕捉層が配される側から、透明材料で形成される光導波路層と金属材料又は半導体材料で形成される薄膜層とがこの順で配されて形成される請求項1から9のいずれかに記載の検出板。
【請求項13】
捕捉層が光導波路層の一部又は全部を兼ねる形で形成される請求項12に記載の検出板。
【請求項14】
請求項1から13のいずれかに記載の検出板と、
前記検出板の検出電場形成層が配される側の面に配される光学素子と、
前記光学素子を介して前記検出板に光を照射する光照射手段と、
前記検出板から反射される反射光を検出する光検出手段と、を有し、
前記検出板の捕捉用凹部内における検体の有無に応じて変化する前記反射光の特性の変化から前記検体を検出することを特徴とする検出装置。
【請求項15】
請求項14に記載の検出装置を用いて水に含まれる検体の存在を検出する検出方法であって、
前記検出板の捕捉層が形成された面に対し、前記検体を含まない水を投与して、光照射手段から光学素子を介して前記検出板に光を照射する第1の光照射工程と、
前記第1の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する第1の光検出工程と、
前記検出板の前記捕捉層が形成された面に対し、前記検体を含む水を投与して前記検体を前記捕捉層の捕捉用凹部内に捕捉する捕捉工程と、
前記捕捉工程後、前記検出板に光を照射する第2の光照射工程と、
前記第2の光照射工程に基づき、前記検出板から反射される反射光を検出する第2の光検出工程と、を有し、
前記第1の光検出工程と、前記第2の光検出工程とで検出される前記各反射光の特性の変化から前記検体を検出することを特徴とする検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7(a)】
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【図7(b)】
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【図7(c)】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2013−47661(P2013−47661A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37193(P2012−37193)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000103736)オプテックス株式会社 (116)
【出願人】(503113050)株式会社テクノサイエンス (3)
【Fターム(参考)】