説明

構造物の内部のひび割れの検出方法

【課題】構造物の内部に発生したひび割れを検出するとともに、そのひび割れの変化を精密にかつリアルタイムで検出でき、かつ、構造物に与える損傷を少なくする。
【解決手段】壁部12においてひび割れ24が生じるであろうひび割れの方向に対して交差する方向からハンマードリル2などを用いて削孔穴26を削孔し、削孔穴26の奥部に金属製のパイプ28を挿入して奥部に固定する。削孔穴26の内周に軸状の検出部30を挿通しその先端をパイプ28の孔に挿入する。検出部30が削孔穴26の壁面22に位置する部分を壁面22に対して移動不能に固定する。検出部30に接続された検出回路32により壁面22とパイプ28が固定されたブロック14の部分との削孔穴26の削孔方向に沿った相対的変位を計測する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造物の内部に発生するひび割れの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石、レンガ、コンクリートブロックなどのブロックの間に漆喰やモルタルなどの目地材が充填されて構成された構造物がある。
このような構造物においては、外力によって目地にひび割れが発生する場合がある。
このようなひび割れのうち、構造物の外面に臨む目地の箇所に発生したひび割れは目視観察によって確認が可能であるが、構造物の内側で発生したひび割れについては目視観察が不可能である。
したがって、このような目視観察ができないひび割れについては、超音波を構造物内部に送信して反射してきた超音波を受信することでひび割れ箇所を検知する方法(例えば特許文献1参照)、あるいは、打音法、電磁レーダー法といった非破壊検査方法でひび割れ箇所を特定している。しかしながら、このような非破壊検査方法ではひび割れの寸法をmm単位で計測したり、あるいは、リアルタイムでひび割れの変化を検出することは難しい。
また、構造物に直径100mm程度の円形コアを削孔し、削孔穴の部分から構造物内部の状況を観察するとともに、削孔して得たサンプルとしての円形コアの強度により構造物の耐力を推定したり、削孔片を成分分析する方法も知られているが、この方法では、構造物に損傷を与えることから削孔穴の補修が必要となる。
また、構造物の外面箇所にその位置や変位を検出する位置センサや変位計を設置し、構造物の変位(動き)を常時計測する方法も提案されているが、この方法では構造物全体の変位を捉えるに留まっている。
また、構造物内部のひずみ(長さ変化)を計測するセンサ(ひずみゲージ)を構造物内部に埋め込み、構造物内部のひずみを計測する方法もあるが、この方法ではセンサが構造物に埋め込まれてしまうため、計測箇所毎にセンサが必要となるためコストが嵩んでしまうという不利がある。
【特許文献1】特開平8−178903号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、上述した非破壊検査方法ではひび割れの変化を精密にかつリアルタイムで検出する上で不利があり、サンプルとしての円形コアを削孔する方法では構造物に損傷を与える点で不利があり、位置センサや変位計を用いる方法ではひび割れの検出ができない点で不利がある。
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、構造物の内部に発生したひび割れを検出するとともに、そのひび割れの変化を精密にかつリアルタイムで検出でき、かつ、構造物に与える損傷が少なくて済み、コストを抑制する上で有利な構造物の内部のひび割れ検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上述の目的を達成するため、本発明は、構造物の内部のひび割れの検出方法であって、
予測されるひび割れ箇所におけるひび割れの方向に対して交差する方向から前記予測されるひび割れ箇所を貫通するように削孔穴を削孔し、前記削孔穴の奥部に金属製のパイプを固定し、前記削孔穴の内周に軸状の検出部を挿通しその先端を前記パイプの孔に挿入し、前記削孔穴が開口する前記構造体の表面に、該表面に位置する前記検出部の部分を固定しておき、前記検出部に対する前記パイプの前記削孔穴の削孔方向に沿った相対的位置に応じて変化する変化量を前記検出部を介して検出し、前記検出部で検出された前記変化量から前記構造体の表面と前記金属製のパイプが固定された構造体の部分との前記削孔穴の削孔方向に沿った相対的変位を計測することでひび割れを検出するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
そのため、検出部で検出された変化量から構造体の表面と金属製のパイプが固定された構造体の部分との削孔穴の削孔方向に沿った相対的変位を計測することによって、建造物の内部に発生したひび割れを検出するとともに、そのひび割れの変化を精密にかつリアルタイムで検出でき、かつ、削孔穴の直径は、金属製のパイプとパイプの内周に挿通される検出部が挿入できる寸法で済むため、従来のように円形コアを削孔する方法と異なり構造物に与える損傷を少ないものとすることができる。
また、従来のセンサを構造物に埋め込んで構造物のひずみを計測する場合と違って、検出部が構造物に埋め込まれないため、1つの削孔穴での計測が終わったら検出部を取り外して別の削孔穴に検出部を運んで計測を行うことができることから、検出部の数が少なくて済みコストを抑制する上で有利となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
予測されるひび割れ箇所におけるひび割れの方向に対して交差する方向から前記予測されるひび割れ箇所を貫通するように削孔した削孔穴の奥部に金属製のパイプを固定し、削孔穴が開口する前記構造体の表面に、該表面に位置する検出部の部分を固定し、検出部で検出された変化量から構造体の表面と前記金属製のパイプが固定された構造体の部分との削孔穴の削孔方向に沿った相対的変位を計測してひび割れを検出することによって上記目的を実現した。
【実施例1】
【0007】
次に本発明の実施例1について図面を参照して説明する。
図1は本発明方法が適用される構造物であるトンネルの壁部構造の説明図、図2は図1の要部拡大図、図3は図2のAA線断面図である。
図4は構造物に削孔穴を削孔する工程を示す説明図、図5(A)、(B)は構造物に形成された削孔穴の説明図、図6は構造物に形成された削孔穴にパイプを挿入固定した状態を示す説明図、図7は削孔穴に検知部を固定した状態を示す説明図、図8は検知部による検知動作の説明図、図9は検知部および検出回路の構成を示す説明図、図10は検出回路の一部を示す回路図、図11は検出部および検出回路の動作を説明する信号波形図である。
【0008】
まず、本発明方法が適用される構造物であるトンネルの壁部の構造について説明する。
図1、図2に示すように、トンネル10の壁部12(特許請求の範囲の構造体に相当)は、レンガ、コンクリートブロックあるいは石などからなる多数のブロック14によって構成された複数のブロック列16A、16Bが目地18を介して積層されて構成されている。なお、図1、図2では説明の便宜上2つのブロック列のみを描いている。
具体的には、トンネル10の内部空間20を区画する壁面22(特許請求の範囲の構造体の表面に相当)が、第1のブロック列16Aにより形成され、第2のブロック列16Bは第1のブロック列16Aの外側に目地18を介して設けられている。
このように構成されたトンネル10の壁部12は、経年変化による付着力低下あるいは外力などによって各ブロック列16A、16Bの間に介在する目地18に沿ってひび割れ24が発生する場合がある。
【0009】
次に、本実施例のひび割れ検出方法について説明する。
先ず、図4、図5(A)に示すように、壁部12において予測されるひび割れ箇所25におけるひび割れの方向に対して交差する方向から前記予測されるひび割れ箇所25を貫通するようにハンマードリル2などを用いて削孔穴26を削孔する。本実施例では削孔穴26は壁面22に対して直交する方向に形成される。
削孔穴26は、壁部12の壁面22(表面)に位置するブロック列16Aのブロック14を貫通して壁部12の内部に位置するブロック列16Bのブロック14に至るように形成されている。
本実施例では、削孔穴26の内径は、例えば5mm以上、20mm以下である。
また、本実施例では、予測されるひび割れ箇所25は目地18の部分である。
例えば、第1のブロック列と第2ブロック列の間の目地18のひび割れ24を検出する場合には、図7(A)に示すように、第1のブロック列と第2ブロック列の間の目地18を貫通するように形成する。
また、第2のブロック列と第3ブロック列の間の目地18のひび割れ24を検出する場合には、図7(B)に示すように、第2のブロック列と第3ブロック列の間の目地18を貫通するように形成する。
なお、削孔穴26を削孔する壁部12の箇所は、従来公知の非破壊検査方法によってひび割れの存在が判明した壁部12の箇所であってもよいし、あるいは、このような非破壊検査方法によってひび割れがまだ発生していないことが判明した壁部12の箇所であってもよい。
また、本明細書において、ひび割れの検出とは、それまで発生していなかったひび割れを新たに検出することと、もともとあるひび割れの進展あるいは変位を検出することと、その他のひび割れに関する諸事項の検出を全て含むものである。
【0010】
次いで、図6に示すように、削孔穴26の奥部に金属製のパイプ28を挿入して奥部に固定する。本実施例では、パイプ28は壁部12の内部に位置するブロック列16Bのブロック14に固定される。
パイプ28の材料は、例えば、真鍮、アルミである。
パイプ28の削孔穴26の奥部への固定は、例えば、パイプ28の外径を削孔穴26の内径よりも僅かに小さい寸法で形成しパイプ28を削孔穴26の奥部に打ち込んで嵌合させることで行ってもよいし、パイプ28の外周面と削孔穴26の内周面との隙間を形成しこの隙間にモルタルなどの注入材あるいは接着剤を充填することで行ってもよい。
【0011】
次に、図6に示すように、削孔穴26の内周に軸状の検出部30を挿通しその先端をパイプ28の孔に挿脱可能に挿入する。
そして、図7に示すように、検出部30が削孔穴26の壁面22に位置する部分を壁面22に対して移動不能に固定する。
検出部30の外径は削孔孔26の内径よりも小さい寸法で形成されており、検出部30とパイプ28は、検出部30の軸方向に対して相対的に移動可能に構成されている。
また、検出部30の削孔穴26の壁面22に対する固定は、図7に示すように検出部30が削孔穴26の壁面22に位置する箇所に固定治具35を挿通しこの固定治具35により検出部30と壁面22とを固定することで行われている。
【0012】
図9に示すように、検出部30は、非磁性材料から形成された中空の軸状部材3001(図8)と、軸状部材3001の内部で軸状部材3001の中心軸を中心として巻回されたコイル3002とを備え、中空の軸状部材3001の外部には、コイル3002に接続する検出回路32が設けられている。
検出回路32は、駆動回路3202とデータ生成回路3204を備えている。
図10、図11に示すように、駆動回路3202は、コイル3002に例えば矩形波状のパルス電圧VPを印加することでコイル3002からパイプ28に磁界を与える。
コイル3002から出力される電圧検出信号VSは、図10に示すように抵抗RとコンデンサCと検波回路3204Aを含むデータ生成回路3204によって検出される。
図11(B)に示すように、矩形波状のパルス電圧VPは、コイル3002に供給されると、コイル3002のインダクタンスの影響を受け、これにより電圧検出信号VSはパルス電圧VPに比べてなまった波形となる。図11(B)において実線はパイプ28の全域にわたってコイル3002が挿入された状態の波形、破線はパイプ28からコイル3002から完全に抜けた状態の波形を示す。
この電圧検出信号VSの波形の勾配は、前記磁界によりパイプ28で誘起される渦電流の影響を受けて変化する変化量であり、その変化量は、コイル3002の中心軸方向におけるパイプ28の位置によって変化する。言い換えると、前記変化量は検出部30に対するパイプ28の削孔穴26の削孔方向に沿った相対的位置に応じて変化するものであり、壁面22とパイプ28が固定されたブロック14の部分との削孔穴26の削孔方向に沿った相対的変位によって変化する。
図11(B)に示すように、電圧検出信号VSの波形の勾配は、コイル3002に印加されたパルス電圧VPの立ち上がりから、電圧検出信号VSが所定のしきい値V1に到達するまでに要する時間T(T1、T2)で表すことができる。
したがって、前記所定のしきい値V1に到達するまでに要する時間Tによって、検出部30に対するパイプ28の削孔穴26の削孔方向に沿った相対的位置に応じて変化する変化量を表すことができ、本実施例では、データ生成回路3204によって前記時間T、すなわち変化量を検出し、この変化量に基づいて壁面22とパイプ28が固定されたブロック14の部分との削孔穴26の削孔方向に沿った相対的変位を計測する。
さらに、データ生成回路3206は、前記相対的変位を例えばデジタルデータからなる相対的変位データとして出力する。
データ生成回路3206から出力された相対的変位データは、例えば、従来公知のデータロガー34を用いて収集、記録する。
なお、検出部30としては、例えば、株式会社リベックスのパルスコーダLP―15、LP−20、LP−40などを採用することができる。
【0013】
本実施例によれば、壁面22とパイプ28が固定されたブロック14の部分との削孔穴26の削孔方向に沿った相対的変位を検出することで、トンネル10の内部に発生したひび割れ24を検出するとともに、そのひび割れの変化を精密にかつリアルタイムで検出できる。
また、壁部12に削孔する削孔穴26の直径は、金属製のパイプ28とパイプ28の内周に挿通される検出部30が挿入できる寸法(例えば5mm以上20mm以下)で済むため、従来のように円形コアを削孔する方法と異なり構造物に与える損傷を少ないものとすることができる。
したがって、トンネル10の延在方向に沿った多数箇所にパイプ28および検出部30を配置することで、トンネル10のひび割れ管理を簡単に正確に行うことが可能となる。
また、検出部30を固定治具35によって壁面22に移動不能に固定する場合には、削孔穴26毎に検出部30を設ける必要があるが、ひび割れ24の検出を行う間のみ検出部30を削孔穴26から挿入して壁面22に取り外し可能に固定し、検出が終了したならば検出部30を壁面22から取り外すようにしてもよい。このようにすれば、壁部12の複数箇所のひび割れ24を1つの検出部30によって検出することができ、コストを削減する上で有利となる。言い換えると、従来のセンサを構造物に埋め込んで構造物のひずみを計測する場合と違って、検出部30が構造物に対して取り外し可能であるため、1つの削孔穴26での計測が終わったら検出部30を取り外して別の削孔穴26に検出部30を運んで計測を行うことができることから、検出部30の数が少なくて済みコストを抑制する上で有利となる。
このように単一の検出部30を複数の削孔穴26に対して取り外し可能に固定する場合には、壁面22に対する検出部30の取り付け位置を記録しておき(予め決めておき)、検出部30を壁面22に取り付ける際に前記取り付け位置が再現できるようにしておく必要がある。
また、削孔穴26を削孔する壁部12の箇所は、従来公知の非破壊検査方法によってひび割れの存在が判明した箇所であってもよいし、あるいは、このような非破壊検査方法によってひび割れがまだ発生していないことが判明した箇所であってもよい。すなわち、ひび割れが発生していない健全な構造物の箇所に削孔穴26を削孔して検出部30によって相対的変位データを計測することで、それまで発生していなかったひび割れが新たに発生したことを検出するようにしてもよいことはもちろんである。
また、削孔孔26を削孔した際に、削孔穴26の内部を観察することで、ひび割れ24の状態やトンネル覆工の厚さ、背面地山の状態などを把握したり、壁部12から得られた削孔片を分析することで構造物内部(本実施例ではブロック14や目地18)の材料特性を把握できることは無論である。
【実施例2】
【0014】
次に実施例2について説明する。
実施例2は実施例1の変形例であり、実施例1では、壁部12が多数のブロック14によって構成された複数のブロック列16A、16Bが目地18を介して積層されて構成されているのに対し、実施例2では、壁部12が複数のコンクリート層が積層されて構成されている点である。
図12は実施例2における壁部12に削孔された削孔穴に検知部が固定された状態を示す説明図であり、以下実施例1と同様の部分または部材には同一の符号を付してその説明を省略する。
図12に示すように、トンネル10の壁部12は、コンクリート吹き付けによって形成された複数のコンクリート層40A、40Bが境界面42を介して積層されて構成されている。なお、図12では説明の便宜上2つのコンクリート層40A、40Bのみを描いている。
具体的には、トンネル10の内部空間20を区画する壁面22(特許請求の範囲の構造体の表面に相当)が、第1のコンクリート層40A(特許請求の範囲の構造物の表面に位置するコンクリート箇所に相当)により形成され、第2のコンクリート層40B(特許請求の範囲の構造物の内部に位置するコンクリート箇所に相当)は第1のコンクリート層40Aの外側に境界面42を介して設けられている。
このように構成されたトンネル10の壁部12は、経年変化による付着力低下あるいは外力などによって、各コンクリート層40A、40Bの間の境界面42に沿ってひび割れ24が発生する場合がある。
【0015】
実施例2においても実施例1と同様の手順で、予測されるひび割れ箇所25におけるひび割れの方向に対して交差する方向から前記予測されるひび割れ箇所25を貫通するようにハンマードリル2などを用いて削孔穴26を削孔する。本実施例では削孔穴26は壁面22に対して直交する方向に形成される。
削孔穴26は、壁部12の壁面22(表面)に位置するコンクリート層40Aを貫通して壁部12の内部に位置するコンクリート層40Bに至るように形成されている。
例えば、第1のコンクリート層40Aと第2コンクリート層40Bの間の境界面42のひび割れ24を検出する場合には、第1のコンクリート層40Aと第2コンクリート層40Bの間の境界面42を貫通するように形成する。
次いで、実施例1と同様に、削孔穴26の奥部に金属製のパイプ28を挿入して奥部に固定し、削孔穴26の内周に軸状の検出部30を挿通しその先端をパイプ28の孔に挿入し、検出部30が削孔穴26の壁面22に位置する部分を壁面22に対して移動不能に固定する。
検出部30、検出回路32によるひび割れ24の検出は実施例1と同様である。
このような実施例2によっても実施例1と同様に、壁面22とパイプ28が固定されたコンクリート層40Bの部分との削孔穴26の削孔方向に沿った相対的変位を継続して検出することでひび割れ24の大きさの変化を精密に、かつ、リアルタイムに把握することが可能となる。
なお、構造物が例えばコンクリートの吹き付けあるいは打設で形成されている場合、実施例2のように境界面42があるか否かは問わずに本発明は無論適用される。
【実施例3】
【0016】
次に実施例3について説明する。
実施例3が実施例1、2と異なるのは、実施例1、2では、検出回路32から出力された相対的変位データをデータロガー34によって収集、記録したのに対して、実施例3では、1つあるいは複数の検出回路32から出力される相対的変位データをネットワークを介してリアルタイムに収集して記録するようにしている点である。
図13は実施例3における相対的変位データの収集を行うデータ収集システムの一例を示す説明図である。
図13に示すように、データ収集システム100は、複数の検出部30および検出回路32、サーバー102、インターフェース104、パーソナルコンピュータ106、携帯電話機108、ネットワーク110などを備えている。
複数のトンネルの構造物における予想される複数のひび割れ箇所に、複数の検出部30が配設され各検出部30には検出回路32が接続されている。
インターフェース104は、各検出回路32から出力される前記相対的変位データを例えばRS−232C、あるいは、USBなどの所定のインターフェースによりサーバー102に供給する。
【0017】
サーバー102は、インターフェース104を介して収集した前記相対的変位データを、各検出部30が設置された構造物の名称や検出部30の設置箇所と関連付けて格納し、データベースを構成している。
パーソナルコンピュータ106は、ネットワーク110に接続可能な端末装置を構成するものであって、公衆回線やインターネットを含むネットワーク110を介してサーバー102にアクセスし、サーバー102の前記データベースを閲覧したり、あるいは、データベースからデータを受け取ることができるように構成されている。
携帯電話機108も、ネットワーク110に接続可能な端末装置を構成するものであって、パーソナルコンピュータ106と同様に、携帯電話機108用の無線回線および携帯電話機108用のネットワークを含むネットワーク110を介してサーバー102にアクセスし、サーバー102の前記データベースを閲覧したり、あるいは、データベースからデータを受け取ることができるように構成されている。
また、端末装置としてはネットワーク110に接続可能なものであればよく、PDAやその他の携帯端末を用いることができる。
【0018】
また、サーバー102による前記相対的変位データの収集は、サーバー102が定期的に行ってもよいし、パーソナルコンピュータ106や携帯電話機108がネットワーク110を介してサーバー102にリクエストし、このリクエストに応じてサーバー102が行ってもよい。
また、パーソナルコンピュータ106や携帯電話機108がサーバー102にアクセスする代わりに、サーバー102が定期的に前記データベースのデータをネットワーク110を介してパーソナルコンピュータ106や携帯電話機108に配信するようにしてもよい。
このように、複数のトンネルの構造物における予想される複数のひび割れ箇所に設けられた複数の検出部30および検出回路32から出力される相対的変位データをネットワークを介してリアルタイムに収集して記録することで、複数のトンネル10のひび割れ管理を簡単に正確に行うことが可能となる。
【0019】
なお、実施例では、構造物がトンネル10の壁部12である場合について説明したが、本発明はトンネル10に限定されるものではなく、例えば、多数のブロック列が目地を介して積層された橋梁の高欄部分あるいは柱壁部におけるひび割れを検出する場合にも無論適用される。
また、実施例では、ひび割れを検出する箇所として、多数のブロック列が目地を介して積層された構造物におけるブロックとブロックとの間の目地の部分である場合について、あるいは、コンクリートが吹き付けあるいは打設されることによって構成されている構造物の内部の場合についてそれぞれ説明したが、ひび割れを検出する箇所はこれに限定されるものではない。
すなわち、構造物が多数のブロック列が目地を介して積層されたブロック積みである場合には、ひび割れを検出する箇所として、実施例1で挙げたようにブロックとブロックの層間箇所の他に、例えば、ブロックと表面保護工の層間箇所、あるいは、ブロックと補修・補強工(もともとブロック積みの構造物であるが補修や補強あるいは表面を保護する目的でレンガ表面に施された層)との層間箇所などが挙げられる。
また、構造物がコンクリートの吹き付けあるいは打設で構成されている場合には、ひび割れを検出する箇所として、実施例2で挙げたように一体化したコンクリートの内部の箇所の他に、例えば、吹き付けあるいは打設で構成されているコンクリートの部分とこのコンクリートの部分に後から施工された別のコンクリートとの層間箇所、あるいは、吹き付けあるいは打設で構成されているコンクリートの部分とこのコンクリートの部分に後から施工された表面保護工、補修・補強工法による層との層間箇所などが挙げられる。
そして、本発明によれば、例えば上述した各箇所について、それぞれ新たなひび割れの検出、もともとあるひび割れの進展の検出の双方を行うことができることはもちろんである。
また、実施例では、検出部30はコイル3002を有し、コイル3002にパルス電圧を印加することでコイル3002からパイプ28に磁界を与えるとともに、この磁界によりパイプ28で誘起される渦電流の影響を受けて変化するコイル3002から得られる電圧検出信号の波形の勾配を変化量として検出する場合について説明した。
しかしながら、前記変化量はコイル3002から得られる電圧検出信号の波形の勾配に限定されるものではなく、検出部30に対するパイプ28の削孔穴26の削孔方向に沿った相対的位置に応じて変化する変化量であればよく、実施例で述べた検出部30および検出回路32の原理に限定されるものではなく、従来公知の様々な方式、原理が採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1における構造物であるトンネルの壁部構造の説明図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2のAA線断面図である。
【図4】構造物に削孔穴を削孔する工程を示す説明図である。
【図5】(A)、(B)は構造物に形成された削孔穴の説明図である。
【図6】構造物に形成された削孔穴にパイプを挿入固定した状態を示す説明図である。
【図7】削孔穴に検知部を固定した状態を示す説明図である。
【図8】検知部による検知動作の説明図である。
【図9】検知部および検出回路の構成を示す説明図である。
【図10】検出回路の一部を示す回路図である。
【図11】検出部および検出回路の動作を説明する信号波形図である。
【図12】実施例2における壁部12に削孔された削孔穴に検知部が固定された状態を示す説明図である。
【図13】実施例3における相対的変位データの収集を行うデータ収集システムの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
10……トンネル
12……壁部
14……ブロック
18……目地
22……壁面
24……ひび割れ
26……削孔穴
28……パイプ
30……検出部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の内部のひび割れの検出方法であって、
予測されるひび割れ箇所におけるひび割れの方向に対して交差する方向から前記予測されるひび割れ箇所を貫通するように削孔穴を削孔し、前記削孔穴の奥部に金属製のパイプを固定し、前記削孔穴の内周に軸状の検出部を挿通しその先端を前記パイプの孔に挿入し、前記削孔穴が開口する前記構造体の表面に、該表面に位置する前記検出部の部分を固定しておき、
前記検出部に対する前記パイプの前記削孔穴の削孔方向に沿った相対的位置に応じて変化する変化量を前記検出部を介して検出し、
前記検出部で検出された前記変化量から前記構造体の表面と前記金属製のパイプが固定された構造体の部分との前記削孔穴の削孔方向に沿った相対的変位を計測することでひび割れを検出するようにした、
ことを特徴とする構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項2】
前記検出部はコイルを有し、前記コイルにパルス電圧を印加することで該コイルから前記パイプに磁界を与えるとともに、前記磁界により前記パイプで誘起される渦電流の影響を受けて変化する前記コイルから得られる電圧検出信号の波形の勾配を前記変化量として検出することを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項3】
前記検出部は、非磁性材料から形成された中空の軸状部材と、前記軸状部材の内部で軸状部材の中心軸を中心として巻回されたコイルとで構成され、前記コイルにパルス電圧を印加することで該コイルから前記パイプに磁界を与えるとともに、前記磁界により前記パイプで誘起される渦電流の影響を受けて変化する前記コイルから得られる電圧検出信号の波形の勾配を前記変化量として検出し、この検出は、前記削孔穴の外部で前記コイルに接続された検出回路で行われることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項4】
前記削孔穴は、前記構造体の表面に対して直交する方向に形成されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項5】
前記構造物は多数のブロック列が目地を介して積層されたトンネルの壁部あるいは橋梁の高欄部分あるいは柱壁部であり、前記削孔穴は、前記構造物の表面に位置するブロック列のブロックを貫通して前記構造物の内部に位置するブロック列のブロックに至るように形成され、前記パイプは前記構造物の内部に位置するブロック列のブロックに固定されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項6】
前記構造物はコンクリートで構成されており、前記削孔穴は、前記構造物の表面に位置するコンクリート箇所を貫通して前記構造物の内部に位置するコンクリート箇所に至るように形成され、前記パイプは前記構造物の内部に位置するコンクリート箇所に固定されていることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項7】
前記構造物はコンクリートが吹き付けあるいは打設されることによって構成されていることを特徴とする請求項7記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項8】
前記削孔穴が開口する前記構造体の表面への前記検出部の部分の固定は、取り外し可能になされることを特徴とする請求項1乃至8に何れか1項記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項9】
前記検出部で検出された前記変化量から前記相対的変位を計測し、前記計測された相対的変位のデータをサーバーに収集しておき、前記サーバーと端末装置とをネットワークを介して接続するとともに、前記サーバーに収集された前記相対的変位のデータを前記端末装置から前記ネットワークを介してアクセスすることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項10】
前記検出部で検出された前記変化量から前記相対的変位を計測し、前記計測された相対的変位のデータをサーバーに収集しておき、前記サーバーと端末装置とをネットワークを介して接続するとともに、前記サーバーに収集された前記相対的変位のデータを前記サーバーから前記ネットワークを介して前記端末装置に配信することを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。
【請求項11】
前記ひび割れの検出は、それまで発生していなかったひび割れを新たに検出し、あるいは、もともとあるひび割れの進展あるいは変位を検出することであることを特徴とする請求項1記載の構造物の内部のひび割れの検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−153505(P2006−153505A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340881(P2004−340881)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】