構造物の温熱快適性能評価方法、プログラムおよびシステム
【課題】試作機等の実験設備を用いることなく、構造物の温熱快適性能を評価する。
【解決手段】(i)第1部品等に関する物性値と、(ii)少なくとも構造物内における放射熱伝達量と、透光部材を透過して構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、建造物に到達する日射量、構造物内における対流熱伝達量、構造物内における湿度、および/または測定装置の体温調節機能のうちの少なくとも何れか一つとに基づいて、測定装置の表面からの熱損失量、測定装置の温度、および/または測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、この算出結果を用いて測定装置の温熱指標を算出するステップとを有する。
【解決手段】(i)第1部品等に関する物性値と、(ii)少なくとも構造物内における放射熱伝達量と、透光部材を透過して構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、建造物に到達する日射量、構造物内における対流熱伝達量、構造物内における湿度、および/または測定装置の体温調節機能のうちの少なくとも何れか一つとに基づいて、測定装置の表面からの熱損失量、測定装置の温度、および/または測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、この算出結果を用いて測定装置の温熱指標を算出するステップとを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の温熱快適性能評価方法、人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援方法、プログラムおよびシステムに関し、特に構造物(自動車、列車、船舶、航空機、宇宙船または建築物等)に使用される透光部材(窓ガラス、アトリウムの外壁として使用されるガラス板、有機樹脂板、または有機樹脂膜等)、および構造物を構成する各部品(壁材、床材等)の熱物性並びに各部品の形状に基づいて、構造物の温熱快適性を評価する方法、構造物の設計を支援する方法、プログラムおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車や建築物内の温熱環境は、窓ガラスを透過して入射する日射の影響を受けて大きく変化することが知られている。そのため、このような日射の影響を抑制すべく、各ガラスメーカからは熱線反射ガラス、熱線吸収ガラスおよび複層ガラス等種々の商品が提供されている。
【0003】
これらのガラスの性能は、JIS R 3106に規定されている日射透過率や日射熱取得率等の断熱性能に基づいて判断されるのが一般的である。ところが、ガラス自体の物理的特性のみで断熱特性を評価したのでは、実際に人体が感じる温熱感覚を知ることは困難であり、このような問題を解決すべく人体発熱を考慮したサーマルマネキン(人間の温熱特性を再現するダミー人形)を使って人体の部位別(例えば頭部、胸部、腕、脚等)の放熱量等を実測し、温熱感覚を調べることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−155052号公報(第1−7頁)
【特許文献2】特開平10−239161号公報(第1−8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなサーマルマネキンを用いたとしても、車体を構成する各部品(窓ガラス、シート等)が乗員に与える熱的影響を個々に調べることは容易にできず、従来は窓ガラスを透過した日射、各部品からの放射および対流の全てを総合した影響について調べられるにすぎなかった。そのため、各部品の寄与を定量的に把握することが難しく、従来においては、車室内の温熱快適性を最適にする各部品の材料(物性、形状)を選択することが困難であった。
【0006】
また、サーマルマネキンを使うことで各部品の熱的影響について調べることができたとしても、居室内や車室内の温熱環境を評価するために居室や車体の試作機を必要とするため、容易に実施できるものではなかった。さらに、サーマルマネキンは、人間の体温調節機能を再現するために多数のセンサおよび発熱体を備え、非常に高価な装置である。なお、特許文献1には板ガラスの選定方法が開示され、特許文献2には温熱環境をシミュレーションする技術が開示されているが、何れも人体の正確な形状を考慮してシミュレーションを行うことについては何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、試作機等の実験設備が不要とし、かつ容易に実施可能とする、構造物の温熱快適性能評価方法、人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援方法、プログラムおよびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価する方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、前記第1部品に使用される材料の候補、前記第2部品に使用される材料の候補、・・・、前記第n部品に使用される材料の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、読み出された前記物性値、および前記空間領域モデルから求められる、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能の何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出するステップと、前記算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を前記演算手段により算出するステップとを有することを特徴とする構造物の温熱快適性能評価方法を提供する。
【0009】
また、本発明の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップであることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかであることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記測定装置は、発熱装置を内蔵していることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、
前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、
前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップとを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の設計支援方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、前記第1部品に関する物性値の候補、前記第2部品に関する物性値の候補、・・・、前記第n部品に関する物性値の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、前記組み合わせと、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出し、その算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を演算手段により算出するステップと、算出された前記温熱指標と所定の最適値を対比するステップと 前記温熱指標が所定の最適値に最も近い前記物性値の組み合わせを演算手段により選択するステップとを有することを特徴とする人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法を提供する。
【0017】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかであることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記測定装置は、発熱装置を内蔵していることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンであることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップとを含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記透光部材の物性を、日射透過率、日射吸収率、放射率、および熱貫流率の組み合わせによって規定することが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標は、等価温度、標準新有効温度、予測平均申告、またはこの標準新有効温度を変形して作成された快適性能を示す指標の何れかであることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記構造物は、空調冷暖房設備、放射冷暖房設備、換気設備、および湿度調整設備から選択される少なくとも1つを有し、前記温熱指標は、前記選択された設備を考慮して算出されることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の温熱性能を評価するためのプログラムであって、前記評価方法に係るステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価プログラムを提供する。
【0028】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価するシステムであって、前述記載の温熱快適性能評価方法を用いることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価システムを提供する。
【0029】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の設計を支援するためのプログラムであって、前記の態様の何れかに記載のステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援プログラムを提供する。
【0030】
また、本発明は、請求項13〜20の何れか1項に記載の構造物の設計支援方法を用いることを特徴とする人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援システムを提供する。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したとおり本発明は、居室や車室内に設置された人体形状を模した測定装置の温熱指標を数値シミュレーションにより求めることで、最適な温熱快適性を実現する各部品の物性値を知ることができる。特に、サーマルマネキンの体温調節の計算が、(α)サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱手段の発熱量を調整することで実施される、(β)発熱手段の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)サーマルマネキンの皮膚層の温度と皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることにより、65MNモデル等の高度な体温調節モデルよりも簡易に体温調節機能をシミュレーションできる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の一つの実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の一つの実施の形態を示すブロック図である。同図に示す温熱快適性能評価装置10は、ワークステーション等の計算機システムで構成され、その外部には、HDD(Hard Disk Drive )、光ディスク装置または光磁気ディスク装置等の外部記憶装置21と、キーボードやマウス等の操作部22と、CRT(Cathode Ray Tube)、液晶ディスプレイまたはPDP(Plasma Display Panel)等の表示装置23とが接続されている。
【0033】
また、温熱快適性能評価装置10は、中央処理部11とRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶部12と、入出力インターフェースとして機能するI/F13、14および15と、バス16とを内部に備えている。バス16は温熱快適性能評価装置10内の各部と接続されており、したがって各部はバス16を介してアドレス信号、データ信号および各種の制御信号を送受信する。
【0034】
中央処理部11は演算機能および制御機能を備えたCPU(Central Processing Unit )等の装置であり、数値シミュレーションのプログラムを外部記憶装置21から読み出し、記憶部12を作業領域として実行する。したがって、中央処理部11は数値シミュレーションを実施するための演算部11a、評価部11bおよび選択部11cをハードウェア的にまたはソフトウェア的に実現するものである。
【0035】
また、I/F13には操作部22が接続され、ユーザによる操作はこの操作部22を介して中央処理部11へ送信される。I/F14には種々のデータ(例えば構造物および人体等の形状データ、解析条件に関するデータ、車体を構成する各部品(ボデー、シート、インストルメントパネル、リアパネル、トーボード、センターコンソール等)に使用可能な材料および形状(物性値で規定する)、並びにガラス品種に関するデータ等)からなるデータベースを記憶保持した外部記憶装置21が接続されている。
【0036】
外部記憶装置21からのデータの読み出しおよび外部記憶装置21へのデータの書き込みは、中央処理部11の制御によって行われる。I/F15には表示装置23が接続され、この表示装置23には操作部22によって入力された情報や可視化されたシミュレーション結果が表示される。
【0037】
このように温熱快適性能評価装置10は、外部記憶装置21から構造物および人体の数値モデルに関する形状データを読み出し、このデータを使って居室内や車室内の温熱シミュレーションを行う。シミュレーション結果は外部記憶装置21に記憶保持されるとともに、表示装置23に可視化された映像が表示される。したがって、このような映像を参照することにより、建築物や車両に取り付けられた窓ガラス等の透光部材の快適性能を評価できる。例えば車室内における温熱環境の評価は以下のようにして行われる。
【0038】
図2は、車室内の温熱環境を評価する一例を示した部分破断斜視図である。同図は車室(右ハンドル、5人乗りのセダン・タイプ)およびその搭乗者を複数の表面要素で構成した形状モデルを示す。車室内の前方には二つに分離したシートが設置され、後方には3人が着座可能な一体型のシートが設置されている。各シートには合計4人の搭乗者が着座し、そのうちの運転席に着座している搭乗者はハンドルを握った形状を模擬している。
【0039】
また、車室の前部にはフロントガラス、側部にはサイドガラス(前サイドガラスおよび後サイドガラス)、後部にはリアガラスが設置されている。窓ガラスが受けた日射はガラスの物性値(すなわち日射透過率、日射吸収率、放射率、熱貫流率)に応じて減衰してから車室内に入射する。入射した光は車室内の各部品を温めるため、室内温度を上昇させる要因となる。
【0040】
一方、搭乗者と車室内の各部品の表面は複数の表面要素に分割され、搭乗者と車室内の部品との間の空間領域は図示しない複数の立体要素に分割されている。本実施の形態では、双一次形式で表される四辺形の表面要素を用い、六面体の立体要素を用いている。これらの表面要素および立体要素を使うことにより、車室内に入射する日射、放射、および空間領域における温度気流性状についての数値シミュレーションを行う。
【0041】
また、車室内は窓ガラスから入る日射によって熱的に不均一な環境となっている。車室内には図示しない空調冷暖房設備(エアコン)が設置され、空気の吹き出し口/吸い込み口の位置、吹き出し温度、吹き出し/吸い込み風量、吹き出し/吸い込み方向、および空気の絶対湿度(または相対湿度)等を任意に設定することができる。これら空調冷暖房設備に関するデータは、各部品の物性値同様に図1の外部記憶装置21内に登録されている。
【0042】
なお、空調冷暖房設備の他に、放射冷暖房設備、換気設備または湿度調整設備等を任意に設置するようにしてもよい。また、このシミュレーションで使用される解析条件は表1に示すとおりである。車体の所在地およびシミュレーションの日時から太陽の位置を理論的に算出できるため、窓から車室内へ差し込む日射の照射角度を設定できる。
【0043】
【表1】
【0044】
図3は、車体を構成する各部品を示す部分破断斜視図である。同図(a)は車体の前方からフロントガラスを見下ろすように眺めており、ボデーにはフロントガラスとサイドガラス(フロント、リア)が設置されている。フロントガラスの上縁から車体後方にかけては天井が設けられ、車体の後方にはリアガラスが設置されている。また、同図(b)は車体の後方から車室内を眺めた様子を示し、図示しないシャーシ上に前席および後席のシート、リアパネル、トーボード、インストルメントパネル、前パネル、センターコンソール等の各部品が設置されている。
【0045】
図4は、表2に示すタイプI、タイプIIのガラス品種を用いた場合の車室内に入射する直達日射の分布を示す説明図である。同図(a)はタイプIのガラス品種を用いた場合を示し、同図(b)はタイプIIのガラス品種を用いた場合を示す。図中の日射分布強弱は白黒の濃淡で表されている(すなわち、白いほど日射受熱量が多く、黒いほど日射受熱量が少ないことを示す)。運転席の乗員を見てわかるように、車室内に到達する直達日射量はタイプIIの方が少なく、タイプIIの方が断熱性能が優れているといえる。
【0046】
【表2】
【0047】
また、車室を構成する部品は少なくとも透光部材を含むn(nは2以上の自然数)個の部品で構成され、各部品に使用される材料の物性値は表2のガラス品種同様に図1の外部記憶装置21に格納されている。各部品に使用可能な物性値は表3(a)に示すようにマトリクス状に表すことができ、例えば部品Pの場合、物性値M00,M10,M20,M30,M40およびM50の何れかが選択される。
【0048】
すなわち、各部品には、少なくとも一つの物性値M**(=M00,M01,・・・,M10,・・・)が登録されており、各物性値は実際に部品に使用される材料の候補と対応する。例えばインストルメントパネルであればプラスチック材料等の種類、シートであれば繊維や皮革等の種類と対応する。また、物性値M**は、日射透過率、日射吸収率、放射率、熱貫流率、および部品の形状データ(CADデータ)等から選択される少なくとも一つを含む。
【0049】
したがって、部品毎に物性値M**を選択するとともに、各部品の物性値M**の組み合わせを一以上作成する(表3(b))。そして、各組み合わせについて、人体が感じる温熱指標(後述のSET*、等価温度またはTSV等)を算出し、その結果を比較することにより、表3(c)に示すような最適な温熱快適性を与える物性値の組み合わせを導くことができる。ここでは「0」に最も近い結果を最適としている。
【0050】
なお、物性値だけでなく、空調冷暖房設備等に関するデータを考慮して温熱指標を算出すれば、空調冷暖房設備等を備えた構造物の最適設計を行うことができる。この場合も物性値の場合同様に、図1の外部記憶装置21から空調設備に関するデータを読み出し、読み出したデータを加味して温熱指標を算出する。また、各部品の種々の形状データを表3同様に作成することにより、最適な温熱快適性を与える各部品の形状の組み合わせを選択できるようになる。
【0051】
【表3】
【0052】
次に、本発明で新たに提案する、日射を考慮した人体温熱モデルの概要について説明する。
図5は、人体温熱モデルを示す説明図であり、これに基づいて作られた温熱環境評価用の人形がいわゆるサーマルマネキンである。本発明で使用するサーマルマネキンは、いわゆる数値サーマルマネキンと呼ばれるものであり、計算機シミュレーションのみで人体の温熱感覚を再現する。
【0053】
ところで、従来から人体の体温調節モデルとしては、いくつか提案されている。その中でも代表的なものとして、ギャッギ等による2ノードモデル(文献(A.P.Gagge,A.P.Fobelets' and L.G.Berglund:A Standard Predictive Index of Human Response to the Thermal Environment,ASHRAE Transactions,Vol.92,pp.709-731,1986.) を参照)や田辺等による65MNモデル(文献(S.Tanabe, et al.:EVALUATION OF THERMAL COMFORT USING COMBINEDMULTI-NODE THERMOREGULATION (65MN) AND RADIATION MODELS AND COMPUTATIONAL FLUID DYNAMICS (CFD), Energy & Buildings - Special Issue, 2002.4)がある。
【0054】
しかしながら、これらは何れも人体形状について充分に考慮されておらず、例えば2ノードモデルにおいてはコア層とそれを取り巻くシェル層とで人体を模擬している。そのため、頭や手足等の部位に当たる日射についてシミュレーションすることはできない。65MNモデルは人体の構成を2ノードモデルよりも詳細に模擬し、すなわち頭、胸、脚等計16部位に分類するとともに、各部位の表面積や重量について規定しているが、各部位の形状については充分に考慮されていない。そのため、この65MNモデルを用いたとしても形状が明らかでないことから、各部位と壁や窓との間の形態係数が算出できず、人体に当たる日射分布を正確に把握することは難しい。
【0055】
一方、人体形状を考慮したシミュレーションもいくつか提案されているが、人体の温熱感覚を正確にシミュレートするための人体周りの境界条件(日射、熱放射)については十分に検討されていない(文献(G. Fronzes, et al.:Athebes, a car thermal behavior simulation software, ATA-Ingegneria Automotoristica, Marzo, Vol.49, No.3, 1996.))。
【0056】
したがって、車室内等日射の影響が大きい環境下で、温熱感覚を正確にシミュレートすることは困難である。そこで、本発明においては、人体形状を模擬したモデル(以下、人体形状モデルという)と、人体の体温調節を模擬したモデル(以下、体温調節モデルという)とを組み合わせることにより、上述の問題を解消し、日射の影響が大きい環境においても人体の体温調節機能を正確にシミュレートできるようにした。
【0057】
以上の観点から、図5に示す人体温熱モデル(サーマルマネキン)30を人体形状モデル31と体温調節モデル32との組み合わせで構成し、その詳細を図6,7に示す。図6(a)は、図5に記載されている人体形状モデルの各部位の大雑把な分類を示す正面図であり、図6(b)、(c)はそれぞれ人体形状モデルの詳細(表面要素)を示す正面図および側面図である。
【0058】
また、図6(a)に示す人体は、ヘッド(頭部)31−1、チェスト(胸部)31−2、バック(背中)31−3、ペルビス(腰)31−4、L−ショルダ(左肩)31−5、R−ショルダ(右肩)31−6、L−アーム(左上腕)31−7、R−アーム(右上腕)31−8、L−ハンド(左手)31−9、R−ハンド(右手)31−10、L−サイ(左大腿)31−11、R−サイ(右大腿)31−12、L−レッグ(左下腿)31−13、R−レッグ(右下腿)31−14、L−フット(左足)31−15、およびR−フット(右足)31−16の計16部位に分類されている。ただし、人体部位の分類は、16部位に限られるものではなく、適宜変更されるものである。
【0059】
各部位は体温調節機能を簡略的にシミュレートするため、発熱装置を内蔵した皮膚層で構成され(部位によっては着衣層を有する)、図7に示す体温調節モデルが各部位個別に組み込まれている。なお、各部位の表面積および質量は、表4に示すとおりである。
【0060】
【表4】
【0061】
また、図6(b)、(c)に示すように各部位の表面は、複数の表面要素で分割され、人体に到達する日射量、人体表面から放射される放熱量、および皮膚温等の計算は表面要素毎に行われる。
【0062】
ここで、各部位に組み込まれる体温調節モデルについて説明する。
図7は、人体の各部位に組み込まれる体温調節モデルを示すブロック図である。同図に示す体温調節モデル32は、16個の部位(第k部位34は、発熱装置34d−1および温度センサ34d−2を内蔵した皮膚層34dと、着衣層34eからなる)で構成されている。発熱装置34d−1の発熱量はパーソナルコンピュータ34d−3により行われる。ここで各層間における熱輸送に注目すると以下のとおりである。皮膚層34dにおいては、温度センサ34d−2によって測定された温度に基づいて、発熱装置34d−1の発熱量を制御することで皮膚温の制御が行われる。着衣層34eおよび皮膚層34dの間においては、熱伝導による熱輸送が行われるとともに、両層間に空気層が存在する場合もあるためシミュレーションにあたっては、対流、放射および/または湿度のうちの少なくとも何れか一つによる熱輸送を考慮する必要がある。なお、発熱手段は、皮膚層以外の層(例えば人体内部)に設置されていてもよい。
【0063】
また、着衣層34eは外部環境40に曝露していることから、対流および放射による熱輸送が行われる。外部環境40には太陽等の光源(もしくは人為的に設置されたランプの場合もある)41が存在するものと仮定し、光源41による日射(またはランプにより照射される光線)によって着衣層34eは温められる。着衣層34eの有無は表面要素単位で設定することができ、本実施の形態ではヘッド31−1、L−ハンド31−9およびR−ハンド31−10では皮膚層が露出し、着衣層は無いものとして計算を行っている。また、光源41から照射される光線の波長域は、図1の操作部22により適宜設定することができ、設定された値は外部記憶装置21に格納される。
【0064】
次に、窓ガラスの温熱快適性を数値シミュレーションによって評価し、この評価結果に基づいて窓ガラスとして最適なガラス品種、および最適な温熱環境を実現する部品の組み合わせを選択する手順について説明する。
【0065】
図8は、ガラス品種および各部品の物性値の選択手順について示したフローチャートである。まず、予め用意しておいた車体形状を示すCAD(Computer Aided Design)データおよび車室の内壁面を構成する複数の表面要素、人体形状を示すCADデータおよび人体の表面形状を示す複数の表面要素、車室を構成する各部品と人体との間の空間領域を分割する複数の立体要素、並びに窓ガラスに使用可能なガラス品種の候補(本実施の形態では表2に示したタイプI,IIを用いる)を図1の外部記憶装置21に格納する(ステップ101,102)。また、表3に示したような各部品の物性値を外部記憶装置21に格納する(ステップ103)。
【0066】
次いで、図1の演算部11aおよび評価部11bは、外部記憶装置21に格納されているガラス品種および物性値のデータを読み出すとともに、これらのデータの組み合わせを作成し、組み合わせ毎に、窓ガラスを透過する日射の計算と人体の体温調節モデルの計算と車室内の熱輸送計算(すなわち対流計算、放射計算、湿度計算等)とを連成して行い、人体が感じることが予想される温熱感覚を数値シミュレーションする(ステップ104)。なお、後述の図14に示す形態係数に応じて物性値を変え、シミュレーションしてもよい。
【0067】
その後、シミュレーションが完了する毎に全ての組み合わせについて温熱指標(等価温度、予測平均申告(PMV)、またはTSV等)を算出したかどうかを判定し(ステップ105)、算出していないようであればステップ104に戻る。全てのガラス品種および各部品の物性値の組み合わせについて算出した後、図1の選択部11cは各々のシミュレーション結果を比較し、最もよい結果となるガラス品種および各部品の物性値の組み合わせを選択する(ステップ106)。その結果、例えば表3(c)に示すような物性値の組み合わせが選択される。なお、車体(構造物)の温熱快適性を評価するだけであれば、上記ステップ105まで実施すればよいが、
ここで組み合わせの選択方法としては、中間期においては後述のTSVが「どちらでもない」となるものを選択し、夏においては「やや涼しく」なるものを選択し、冬においては「やや暖かく」なるものを選択する等が考えられるが、どのような結果を最適と判断するかはシミュレーションの実行者によって適宜決定される。したがって、予め最適値を設定しておき、この最適値に最も近いものを選択することが一つの方法として考えられる。
【0068】
また、温熱指標の優れたガラスをいくつかピックアップした後、それらの中で可視域の光線を最もよく通すものを選択すれば、温熱性能および透光性能の両方が優れたガラスを選択することができる。なお、各窓に使用するガラス品種の組み合わせは表2に示すものに限られず任意に設定できる。
【0069】
ここで、温熱感覚の数値シミュレーションについて、図9〜13を参照して詳細に説明する。
図9は、ステップ104の詳細を示すフローチャートである。本実施の形態では温熱感覚を示す指標として等価温度を算出してから(ステップ201)、等価温度を使ってTSVを算出する(ステップ202)。TSVは、実際に人体が感じる温熱感覚に対応づけられた指標であり、本実施の形態では表5に示す変換式に基づいて算出される。
【0070】
温熱感覚は季節や地域による差異があることから、表5には日本(夏季)、日本(秋季)、米国、デンマークおよびシンガポールにおける回帰式を示す。このようなTSVと人体が感じる温熱感覚との対応は表6に示すとおりであり、「0」がどちらでもない、「1」がやや暖かい、「2」が暖かい、「3」が暑い、「−1」がやや涼しい、「−2」が涼しい、「−3」が寒いといった7段階で表記される。なお、回帰式の隣に人体の温熱感申告が中立となる温度(中立温度)を併記している。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
図10は、ステップ201の詳細を示すフローチャートである。まず、計算の準備作業としてステップ301からステップ304までを実施する。車室内およびサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割するとともに、車室の内壁とサーマルマネキンとの間の空間形状を複数の立体要素に分割する(ステップ301)。次いで、サーマルマネキンおよび居室の壁の全ての表面要素について形態係数を算出する(ステップ302)。形態係数は表面要素間での放射熱交換を決定づける無次元数のパラメータである。
【0074】
次いで、各表面要素に対して熱貫流率、放射率、日射吸収率および日射透過率等の熱的条件を割り当ててから(ステップ303)、サーマルマネキンの着衣量、車体の所在地(すなわち緯度、経度)、解析日時等表1に示した解析条件を設定する(ステップ304)。この解析条件は図1の操作部22により入力され、入力されたデータは外部記憶装置21に格納される。
【0075】
次いで、上記設定された緯度、経度および季節に基づいて、車体を基準とした太陽の方位角および仰角を算出し、車体が受ける日射の照射角度を演算部11aにより算出する。そこで、この照射角度と窓ガラスの物性値(表2)とに基づいて、人体に直接到達する各種日射量(直達日射量、天空日射量、地面反射日射量または内部拡散日射量の何れか一つ、またはこれらの任意の組み合わせ)を算出し(ステップ305)、この算出結果と着衣表面または皮膚表面の吸収率とに応じて日射吸収熱量を算出する。
【0076】
なお、文献1に記載されているように、日射には0.3〜2.5μmの波長域の光線が含まれるため、日射量の計算にあたっては波長域を考慮する必要がある。例えば0.3〜2.5μmの全波長域に渡って計算を行ってもよいし、任意に波長を選択して波長別に計算してもよい。その後、構造物内の熱移動計算と体温調節反応の計算との連成等を行った後(ステップ306〜308)、サーマルマネキンの皮膚表面における等価温度を算出する(ステップ309)。
【0077】
ここで、日射解析の詳細について説明する。透光部材で構成される空間は透過日射の影響を強く受けるため、人体快適性の予測精度は、熱源となる日射の熱取得分布がいかに正確に予測されるかに強く依存する。日射解析は温度気流解析と連成して行う必要はなく独立して行うことができ、上述したとおりサーマルマネキンの表面および空間内外壁表面に到達する直達日射、天空日射、地面による反射日射、さらに到達日射の内部での相互反射日射を計算し、温度気流連成解析のためのサーマルマネキンの表面および壁表面での日射取得熱量を算出する(図11)。なお、サーマルマネキンの内部温度を算出するようにしてもよい。
【0078】
解析手順は次のとおりであり、まず建物の所在位置、計算対象時刻を入力することにより太陽の位置を算出し、これを基に法線面直達日射量Idn、および水平面天空日射量Iskyを経験式により推定する。この法線面直達日射量、水平面天空日射量を基に、透光部材の日射透過率ti、反射率ρi等の壁体熱性能値、空間の構造部品、庇等の日射遮蔽物の幾何学形状を考慮して、各種到達日射量を算出する。
【0079】
次にサーマルマネキンの表面に到達する日射量の算出方法は、以下のとおりである。
1)直達日射量の算出:人体形状モデルの表面要素iに到達する直達日射量Idiは、法線面直達日射量Idn、途中交差する日射が透過する壁体(透光部材)の各々の日射透過率tjにより、式(1)で計算される。
【0080】
【数1】
【0081】
なお、透光部材の日射透過率、反射率には図12に示す入射角度特性がある。すなわち、透光部材に対する入射角度が大きくなると反射成分が増大し、透光部材の日射透過率が減少する。これを考慮しないと入射熱量に誤差が生じる。
【0082】
2)天空日射量の算出:人体形状モデルの表面要素iに到達する天空日射量Isiを水平面天空日射量Iskyおよび日射が透過する壁面(透光部材)を見込む形態係数によって計算する。
【0083】
【数2】
【0084】
ここで、Fijは表面要素i,j間の形態係数、βijは到達する日射が天空日射であるか否かを判定するフラグである。0.91は天空日射に対する透光部材(ガラス板)の日射透過率の入射角度特性を考慮した係数である。
【0085】
3)地面反射量の計算:地面による反射量は、地面の形状、反射率、指向性等の影響を受けるため、正確に算出することは難しい。本実施例では、天空日射量の算出方法と同様に、人体形状モデルの各表面要素に到達する地面反射日射量Igiを水平面全天日射量Iholと地面のアルベド(日射エネルギーの反射率)ρgを用いて算出する。
【0086】
【数3】
【0087】
ここに、γijは到達する日射が地面による反射であるか否かを判定するフラグ、hは太陽高度である。
【0088】
4)相互反射量の計算:人体形状モデルの表面要素に到達した日射は、人体形状モデルの表面の反射率に応じて相互反射が生じる。反射には拡散反射と鏡面反射、および両者を複合したものがある。本実施例では計算を単純化するため完全拡散を仮定する。この条件下で相互反射量は表面要素間の形態係数を用いるラジオシティ法により算出できる。
【0089】
【数4】
【0090】
5)サーマルマネキンの表面における日射吸収熱量の算出方法:人体形状モデルの表面要素毎に計算された直達日射量、天空日射量、地面反射量、相互拡散反射量をすべて人体形状モデルの表面における日射吸収熱量に換算する。人体形状モデルの表面における日射吸収熱量への換算方法は、それぞれ到達する日射熱量に人体形状モデルの表面要素iの日射吸収率aiを乗じて算出する。
【0091】
【数5】
【0092】
これを表6に示す壁面熱収支式の日射吸収熱量(サーマルマネキンの表面発熱量)として扱うことにより、温度と気流との連成解析に取り込むことが可能となる。また、温度気流連成解析終了時には、サーマルマネキンの表面発熱量とサーマルマネキンの周辺空気温度に応じた対流熱伝達量、サーマルマネキンの表面放射率に応じた放射熱伝達量、着衣内の総合熱伝達量と平衡することになる。
【0093】
次いで、サーマルマネキンと壁との間の空間領域における気温、流速および乱流等の空間物理量をCFD(Computational Fluid Dynamics)技術を利用して算出する(ステップ306)。すなわち、サーマルマネキンおよび壁の表面において各種の境界条件を設定し、上述の立体要素毎に空間領域における対流(自然対流および強制対流を含む)を数値シミュレーションして流速、圧力、温度、湿度等を算出する。
【0094】
熱的境界条件は予め図1の外部記憶装置21に記憶されている、室内部品表面および室外部品表面における日射に関する熱物性値(日射吸収率、日射透過率)、室内部品表面における熱放射に関する熱物性値(放射率)、部品同士の間の熱コンダクタンス、室外側の参照温度、および室内側壁表面の対流熱伝達率を読み出して利用する。
【0095】
CFDの具体的手法としては、例えば有限要素法、有限体積法または差分法等によるナビエ−ストークス方程式の数値解析を行い、特に本実施の形態では非等温場における標準k−εモデルを用いる。次いで、図7に示した体温調節モデルを利用してサーマルマネキンの体温調節反応を計算し(ステップ307)、人体形状モデルの各表面要素における皮膚温(または内部温度)が所定値に収束するまでステップ306および307を反復計算し(ステップ308)、ステップ309で等価温度を算出する。
【0096】
なお、CFD、放射および体温調節モデルの連成は表7に示す熱収支式を解くことにより求める。すなわち、車室の壁面で対流熱伝達量、放射熱伝達量、日射吸収熱量および室外側熱伝達量からなる熱収支式を解き、着衣表面で、1)対流場から放射場への接続、2)体温調節モデルの収束計算、3)放射場から対流場への接続について計算する。1)においては着衣表面温度Tiおよび放射熱伝達量Qri(net)を求め、2)においては体温調節モデルの計算を行って着衣表面温度Tiおよび皮膚温Trefを求め、3)においては室内側参照温度Tinおよび着衣表面温度Tiを求める。なお、湿度を考慮して上記計算をしてもよい。
【0097】
【表7】
【0098】
ここで2)における体温調節モデルの計算の詳細について述べると、表8に示すとおりである。熱平衡式を人体形状モデルの全ての表面要素で計算する。
【0099】
【表8】
【0100】
熱平衡式は、表8に示すように、顕熱放熱量をQsk、サーマルマネキンの内部温度を36.4℃、内部温度の設定位置から皮膚表面までの熱伝達率を1/0.054(W/m2k)とした式により成り立つ。したがって、サーマルマネキンの体温調節の計算は、サーマルマネキンの皮膚温Tskと顕熱放熱量Qskとの平衡を保つことにより実施される。このモデルでは、65MNモデルのように発汗や血流による熱輸送までシミュレーションする必要がなく、数理モデルの構築が簡単化するとともに、計算量を低減させることができる。なお、サーマルマネキンの体温調節をさらに簡略化すべく、サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱装置による発熱量を調整したり、発熱装置の発熱量を一定としたりしてもよいし、発汗や呼吸を考慮してもよい。
【0101】
以上のように一連の計算を図1の演算部11aで行ってから、ステップ309における等価温度を算出する。図13は、ステップ309の詳細を示すフローチャートである。まず、人体の部位別の物理量から、1)皮膚表面からの熱損失量、2)平均皮膚温を算出する(ステップ401)。最後に、ステップ402に示す式を解くことによりサーマルマネキンの皮膚表面における等価温度を算出することができる。
【0102】
なお、図13のフローでは全身における等価温度を算出するが、人体形状モデルの表面要素毎または部位毎に算出するようにしてもよい。その場合、人体形状モデルの表面要素毎または部位毎に熱損失量、および皮膚温(または内部温度)を求める。このように表面要素毎に皮膚温等を算出することにより、各部位内における温度分布を詳細にシミュレートでき、正確な温熱感覚を算出できる。これらのシミュレーション結果は、図1の評価部11bの制御によりグラフや表、静止画(皮膚温分布図等)、アニメーション等に加工されてから表示装置23に表示される。シミュレーションの実行者はこの表示に基づいて透光部材の温熱快適性能を判断することができる。
【実施例】
【0103】
次に、実施例について説明する。解析対象空間はRV(レクリエーショナル・ビークル)タイプの車体を想定し、運転席に1名を乗車させた場合のシミュレーション結果を示す。
【0104】
図14は、車体形状を示す。同図に示すように、車体50には乗員としてサーマルマネキン51が搭乗している。解析条件は真夏の冷房空調条件であり、8月31日、場所が東京、時刻が16:00、33℃の外気温の下、ほぼ西向きに40km/hrで走行している自動車内についてシミュレーションした。サーマルマネキン51は、標準的な夏服を着ているものと想定している。
【0105】
また、人工気象室内での屋外条件を再現するために、屋外での水平面全天日射量が同じとなるように36個の赤外線ランプを車体50の前方に設置し、これらのランプの光線を車体50に照射し、シミュレーションを実施した。
【0106】
表9にガラスのレイアウトを示す。標準条件となる全面グリーンガラスを想定した場合、および日射抑制機能を備えた高機能ガラスを想定した場合の2ケースについて検討した。表にはガラスの着色の種類、板厚、熱線反射膜の有無について記載されている。フロントガラスについては、合わせガラスを構成する2枚のガラス板のそれぞれについて記載されている。
【0107】
【表9】
【0108】
図15に高機能ガラスを想定した場合の車体および人体表面に吸収される日射熱量を示す。同図(a)に示す屋外条件で数値シミュレーションを行った場合、サーマルマネキンの胸部で最大約220w/m2の日射が吸収されていることがわかった。それに対して、同図(b)に示す人工気象室の条件で数値シミュレーションを行った場合、サーマルマネキンの胸部における最大日射吸収量は、約70w/m2となった。これは光源の波長特性およびガラスの分光透過特性の差により、同種類のガラスを使用していても光線の透過率の違いによって生じたものと思われる。
【0109】
図16に人体に吸収される日射熱量を示す。屋外条件では人体に吸収される日射熱量に関し、ガラスの差異により約15%の差が見られるが、人工気象室の条件ではその差は約65%と大きい。
【0110】
図17に空調負荷熱量を示す。屋外条件では空調負荷熱量に関し、ガラスの差異により約5%の差が見られるが、人工気象室の条件ではその差は約12%と大きい。
【0111】
最後に図18に運転席乗員の16代表部位および全身の等価温度を示す。図中の許容範囲に収まっていれば、ほぼ快適であることを示す。日射が到達する部位で約10〜15℃の差異が見られ、ガラスによる日射遮蔽は温熱感に大きな影響を与えることがわかる。屋外条件ではケース1または2のどちらのガラスを用いても許容範囲を超えていることがわかる。全身の等価温度を見ると約1〜3℃の差異が見られる。屋内条件で高機能ガラスを用いると許容範囲を少し下回り、やや涼しい側の温熱感となることがわかる。
【0112】
以上から明らかなように、サーマルマネキンによる測定を実施しなくても、図5に示した人体温熱モデル30を、計算機を使って数値シミュレーションすることにより、従来のサーマルマネキンを使用した場合と同等の結果が得られることが確認された。
【0113】
以上においては、透光部材としてガラス板の例にあげて説明したが、本発明の適用はこれに限られるものでなく、例えば有機樹脂板(ポリカーボネート板、アクリル板等)、有機ガラス、ビニルハウス等に用いられる有機樹脂膜にも適用できることは明らかである。また、人体の標準新有効温度としては、65MNSET*よりもさらに各部位の影響を詳細に評価して計算した標準有効温度を用いる等してもよい。
【0114】
また、以上では定常状態のシミュレーションについて説明したが、上記一連の手続を一定の時間ステップ毎に適用することにより、非定常状態のシミュレーションを実施できることは明らかである。例えば自動車に用いられるガラスの温熱快適性を評価するのであれば、時間ステップを数秒から数分程度とし、数分から数十分(もしくは数時間)程度にわたって計算することが考えられる。
【0115】
また、本発明でいうところの透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜(ポリビニルブチラール等)とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、または有機樹脂板等構造物に採光のため取り付けられる部品全般を指し、完全な透明性を要するものではない。例えば熱線を吸収するために鉄やコバルト等が添加されて着色されていたり、熱線を反射させるために薄い金属膜がコーティングされていたりしていても構わない。
【0116】
また、透光部材の形状は一般的に平板や曲板を想定しているが、採光としての機能を有するのであればその他の形状であっても構わない。また、以上では簡単のため、空間領域における湿度を一定と仮定したが、上述の立体要素毎に湿度を解析するようにしてもよいことは明らかである。また、計算の簡単化のため、空間領域における温度気流性状が一定としてシミュレーションを実施してもよい。
【0117】
さらに、図2に示す車体の外観形状およびこの車体の周辺環境を考慮して、シミュレーションを行ってもよい。そうすることにより、車体の外観形状が搭乗者の温熱快適性に与える影響について正確に評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明したとおり本発明は、居室や車室内に設置された人体形状を模した測定装置の温熱指標を数値シミュレーションにより求めることで、最適な温熱快適性を実現する各部品の物性値を知ることができる。特に、サーマルマネキンの体温調節の計算が、(α)サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱手段の発熱量を調整することで実施される、(β)発熱手段の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)サーマルマネキンの皮膚層の温度と皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることにより、65MNモデル等の高度な体温調節モデルよりも簡易に体温調節機能をシミュレーションできる。
【0119】
すなわち、65MNモデルのように発汗や血流による熱輸送までシミュレーションする必要がなく、数理モデルの構築が簡単化するとともに、計算量を低減することができる。ただし、本発明は、65MNモデル等の高度な体温調節モデルを排除するものではなく、体温調節モデルは、使用するコンピュータの能力や必要とするシミュレーションの精度等に応じて適宜選択される。
【0120】
また、表面要素単位で皮膚温を算出し、サーマルマネキンの部位毎に温熱指標を算出することにより、車室内等の熱的に不均一な環境での構造物の最適設計を実現できる。
【0121】
また、透光部材の温熱快適性能評価を数値シミュレーションのみで実施でき、建築物や車体等の試作品を作る手間を省くことができる。すなわち、日射吸収率や放射率等のパラメータ値を変更するという簡単な操作だけで、様々な窓ガラスのバリエーションについて評価を行うことができる。また、試作機を作る必要がないことから、従来よりも短時間かつ低コストで上記透光部材の温熱快適性について評価を実施できる。
【0122】
また、本発明は、居室や車室形状に応じて最も優れた温熱快適性能を提供する透光部材の素材開発に利用することもできる。さらに、温熱指標という客観的な指標で透明板の温熱快適性能を表すため、建築メーカ、車体メーカ、空調メーカ、材料メーカおよび一般ユーザに対して、透光部材の温熱快適性能をわかりやすく説明でき、またインターネット等のネットワーク経由で、上記シミュレーションのプログラムを提供したり上記シミュレーションを実行したりすることにより、構造物の温熱快適性の評価および構造物の設計支援のための新たなサービスを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一つの実施の形態(温熱快適性能評価装置)を示すブロック図である。
【図2】窓ガラスの温熱快適性能を評価するための数値モデルを示す部分破断斜視図である。
【図3】(a)車体を構成する各部品(前方から眺めた様子)、(b)車体を構成する各部品(後方から眺めた様子)を示す部分破断斜視図である。
【図4】(a)タイプI、(b)タイプIIにおける直達日射の様子を示す部分破断斜視図である。
【図5】人体温熱モデルを示す説明図である。
【図6】(a)人体形状モデルの各部位の分類を示す正面図、(b)人体形状モデルの詳細(表面要素の構成)を示す正面図、および(c)人体形状モデルの詳細(表面要素の構成)を示す側面図である。
【図7】体温調節モデルを示すブロック図である。
【図8】窓ガラスおよび各部品の選択手順(メインルーチン)を示すフローチャートである。
【図9】ステップ104の詳細を示すフローチャートである。
【図10】ステップ201の詳細を示すフローチャートである。
【図11】各種の日射を示す説明図である。
【図12】入射角度と、透過率および反射率との関係を示すグラフである。
【図13】ステップ309の詳細を示すフローチャートである。
【図14】RV(レクリエーショナル・ビークル)タイプの自動車に乗員1名が搭乗した場合の解析空間およびサーマルマネキンの形状モデルを示す部分破断斜視図である。
【図15】(a)日射を用いたシミュレーション、(b)人工気象室を想定したシミュレーション結果を示す部分破断斜視図である。
【図16】サーマルマネキン全体が受ける日射吸収熱量を示すグラフである。
【図17】エアコンの空調負荷熱量を示すグラフである。
【図18】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0124】
10:温熱快適性能評価装置
11:中央処理部
11a:演算部
11b:評価部
11c:選択部
12:記憶部
13、14、15:インターフェース(I/F)
16:バス
21:外部記憶装置
22:操作部
23:表示装置
30:人体温熱モデル
31:人体形状モデル
31−1:ヘッド
31−2:チェスト
31−3:バック
31−4:ペルビス
31−5:L−ショルダ
31−6:R−ショルダ
31−7:L−アーム
31−8:R−アーム
31−9:L−ハンド
31−10:R−ハンド
31−11:L−サイ
31−12:R−サイ
31−13:L−レッグ
31−14:R−レッグ
31−15:L−フット
31−16:R−フット
32:体温調節モデル
34:第k部位
34d:皮膚層
34d−1:発熱装置
34d−2:温度センサ
34d−3:パーソナルコンピュータ
34e:着衣層
40:外部環境
41:光源
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の温熱快適性能評価方法、人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援方法、プログラムおよびシステムに関し、特に構造物(自動車、列車、船舶、航空機、宇宙船または建築物等)に使用される透光部材(窓ガラス、アトリウムの外壁として使用されるガラス板、有機樹脂板、または有機樹脂膜等)、および構造物を構成する各部品(壁材、床材等)の熱物性並びに各部品の形状に基づいて、構造物の温熱快適性を評価する方法、構造物の設計を支援する方法、プログラムおよびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自動車や建築物内の温熱環境は、窓ガラスを透過して入射する日射の影響を受けて大きく変化することが知られている。そのため、このような日射の影響を抑制すべく、各ガラスメーカからは熱線反射ガラス、熱線吸収ガラスおよび複層ガラス等種々の商品が提供されている。
【0003】
これらのガラスの性能は、JIS R 3106に規定されている日射透過率や日射熱取得率等の断熱性能に基づいて判断されるのが一般的である。ところが、ガラス自体の物理的特性のみで断熱特性を評価したのでは、実際に人体が感じる温熱感覚を知ることは困難であり、このような問題を解決すべく人体発熱を考慮したサーマルマネキン(人間の温熱特性を再現するダミー人形)を使って人体の部位別(例えば頭部、胸部、腕、脚等)の放熱量等を実測し、温熱感覚を調べることが試みられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−155052号公報(第1−7頁)
【特許文献2】特開平10−239161号公報(第1−8頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなサーマルマネキンを用いたとしても、車体を構成する各部品(窓ガラス、シート等)が乗員に与える熱的影響を個々に調べることは容易にできず、従来は窓ガラスを透過した日射、各部品からの放射および対流の全てを総合した影響について調べられるにすぎなかった。そのため、各部品の寄与を定量的に把握することが難しく、従来においては、車室内の温熱快適性を最適にする各部品の材料(物性、形状)を選択することが困難であった。
【0006】
また、サーマルマネキンを使うことで各部品の熱的影響について調べることができたとしても、居室内や車室内の温熱環境を評価するために居室や車体の試作機を必要とするため、容易に実施できるものではなかった。さらに、サーマルマネキンは、人間の体温調節機能を再現するために多数のセンサおよび発熱体を備え、非常に高価な装置である。なお、特許文献1には板ガラスの選定方法が開示され、特許文献2には温熱環境をシミュレーションする技術が開示されているが、何れも人体の正確な形状を考慮してシミュレーションを行うことについては何ら開示されていない。
【0007】
本発明は、このような課題を解決するためのものであり、試作機等の実験設備が不要とし、かつ容易に実施可能とする、構造物の温熱快適性能評価方法、人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援方法、プログラムおよびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の目的を達成するために本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価する方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、前記第1部品に使用される材料の候補、前記第2部品に使用される材料の候補、・・・、前記第n部品に使用される材料の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、読み出された前記物性値、および前記空間領域モデルから求められる、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能の何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出するステップと、前記算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を前記演算手段により算出するステップとを有することを特徴とする構造物の温熱快適性能評価方法を提供する。
【0009】
また、本発明の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップであることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかであることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記測定装置は、発熱装置を内蔵していることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンであることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることが好ましい。
【0014】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、
前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、
前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップとを含むことが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る構造物の温熱快適性能評価方法の一態様において、前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材であることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の設計支援方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、前記第1部品に関する物性値の候補、前記第2部品に関する物性値の候補、・・・、前記第n部品に関する物性値の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、前記組み合わせと、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出し、その算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を演算手段により算出するステップと、算出された前記温熱指標と所定の最適値を対比するステップと 前記温熱指標が所定の最適値に最も近い前記物性値の組み合わせを演算手段により選択するステップとを有することを特徴とする人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法を提供する。
【0017】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップであることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかであることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記測定装置は、発熱装置を内蔵していることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンであることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標を算出するステップは、前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップとを含むことが好ましい。
【0023】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材であることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記透光部材の物性を、日射透過率、日射吸収率、放射率、および熱貫流率の組み合わせによって規定することが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記温熱指標は、等価温度、標準新有効温度、予測平均申告、またはこの標準新有効温度を変形して作成された快適性能を示す指標の何れかであることが好ましい。
【0026】
また、本発明に係る人体温熱性能を考慮した構造物の設計支援方法の一態様において、前記構造物は、空調冷暖房設備、放射冷暖房設備、換気設備、および湿度調整設備から選択される少なくとも1つを有し、前記温熱指標は、前記選択された設備を考慮して算出されることが好ましい。
【0027】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の温熱性能を評価するためのプログラムであって、前記評価方法に係るステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価プログラムを提供する。
【0028】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価するシステムであって、前述記載の温熱快適性能評価方法を用いることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価システムを提供する。
【0029】
また、本発明は、第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の設計を支援するためのプログラムであって、前記の態様の何れかに記載のステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援プログラムを提供する。
【0030】
また、本発明は、請求項13〜20の何れか1項に記載の構造物の設計支援方法を用いることを特徴とする人体温熱快適性を考慮した構造物の設計支援システムを提供する。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したとおり本発明は、居室や車室内に設置された人体形状を模した測定装置の温熱指標を数値シミュレーションにより求めることで、最適な温熱快適性を実現する各部品の物性値を知ることができる。特に、サーマルマネキンの体温調節の計算が、(α)サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱手段の発熱量を調整することで実施される、(β)発熱手段の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)サーマルマネキンの皮膚層の温度と皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることにより、65MNモデル等の高度な体温調節モデルよりも簡易に体温調節機能をシミュレーションできる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の一つの実施の形態について図を用いて説明する。
図1は、本発明の一つの実施の形態を示すブロック図である。同図に示す温熱快適性能評価装置10は、ワークステーション等の計算機システムで構成され、その外部には、HDD(Hard Disk Drive )、光ディスク装置または光磁気ディスク装置等の外部記憶装置21と、キーボードやマウス等の操作部22と、CRT(Cathode Ray Tube)、液晶ディスプレイまたはPDP(Plasma Display Panel)等の表示装置23とが接続されている。
【0033】
また、温熱快適性能評価装置10は、中央処理部11とRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の記憶部12と、入出力インターフェースとして機能するI/F13、14および15と、バス16とを内部に備えている。バス16は温熱快適性能評価装置10内の各部と接続されており、したがって各部はバス16を介してアドレス信号、データ信号および各種の制御信号を送受信する。
【0034】
中央処理部11は演算機能および制御機能を備えたCPU(Central Processing Unit )等の装置であり、数値シミュレーションのプログラムを外部記憶装置21から読み出し、記憶部12を作業領域として実行する。したがって、中央処理部11は数値シミュレーションを実施するための演算部11a、評価部11bおよび選択部11cをハードウェア的にまたはソフトウェア的に実現するものである。
【0035】
また、I/F13には操作部22が接続され、ユーザによる操作はこの操作部22を介して中央処理部11へ送信される。I/F14には種々のデータ(例えば構造物および人体等の形状データ、解析条件に関するデータ、車体を構成する各部品(ボデー、シート、インストルメントパネル、リアパネル、トーボード、センターコンソール等)に使用可能な材料および形状(物性値で規定する)、並びにガラス品種に関するデータ等)からなるデータベースを記憶保持した外部記憶装置21が接続されている。
【0036】
外部記憶装置21からのデータの読み出しおよび外部記憶装置21へのデータの書き込みは、中央処理部11の制御によって行われる。I/F15には表示装置23が接続され、この表示装置23には操作部22によって入力された情報や可視化されたシミュレーション結果が表示される。
【0037】
このように温熱快適性能評価装置10は、外部記憶装置21から構造物および人体の数値モデルに関する形状データを読み出し、このデータを使って居室内や車室内の温熱シミュレーションを行う。シミュレーション結果は外部記憶装置21に記憶保持されるとともに、表示装置23に可視化された映像が表示される。したがって、このような映像を参照することにより、建築物や車両に取り付けられた窓ガラス等の透光部材の快適性能を評価できる。例えば車室内における温熱環境の評価は以下のようにして行われる。
【0038】
図2は、車室内の温熱環境を評価する一例を示した部分破断斜視図である。同図は車室(右ハンドル、5人乗りのセダン・タイプ)およびその搭乗者を複数の表面要素で構成した形状モデルを示す。車室内の前方には二つに分離したシートが設置され、後方には3人が着座可能な一体型のシートが設置されている。各シートには合計4人の搭乗者が着座し、そのうちの運転席に着座している搭乗者はハンドルを握った形状を模擬している。
【0039】
また、車室の前部にはフロントガラス、側部にはサイドガラス(前サイドガラスおよび後サイドガラス)、後部にはリアガラスが設置されている。窓ガラスが受けた日射はガラスの物性値(すなわち日射透過率、日射吸収率、放射率、熱貫流率)に応じて減衰してから車室内に入射する。入射した光は車室内の各部品を温めるため、室内温度を上昇させる要因となる。
【0040】
一方、搭乗者と車室内の各部品の表面は複数の表面要素に分割され、搭乗者と車室内の部品との間の空間領域は図示しない複数の立体要素に分割されている。本実施の形態では、双一次形式で表される四辺形の表面要素を用い、六面体の立体要素を用いている。これらの表面要素および立体要素を使うことにより、車室内に入射する日射、放射、および空間領域における温度気流性状についての数値シミュレーションを行う。
【0041】
また、車室内は窓ガラスから入る日射によって熱的に不均一な環境となっている。車室内には図示しない空調冷暖房設備(エアコン)が設置され、空気の吹き出し口/吸い込み口の位置、吹き出し温度、吹き出し/吸い込み風量、吹き出し/吸い込み方向、および空気の絶対湿度(または相対湿度)等を任意に設定することができる。これら空調冷暖房設備に関するデータは、各部品の物性値同様に図1の外部記憶装置21内に登録されている。
【0042】
なお、空調冷暖房設備の他に、放射冷暖房設備、換気設備または湿度調整設備等を任意に設置するようにしてもよい。また、このシミュレーションで使用される解析条件は表1に示すとおりである。車体の所在地およびシミュレーションの日時から太陽の位置を理論的に算出できるため、窓から車室内へ差し込む日射の照射角度を設定できる。
【0043】
【表1】
【0044】
図3は、車体を構成する各部品を示す部分破断斜視図である。同図(a)は車体の前方からフロントガラスを見下ろすように眺めており、ボデーにはフロントガラスとサイドガラス(フロント、リア)が設置されている。フロントガラスの上縁から車体後方にかけては天井が設けられ、車体の後方にはリアガラスが設置されている。また、同図(b)は車体の後方から車室内を眺めた様子を示し、図示しないシャーシ上に前席および後席のシート、リアパネル、トーボード、インストルメントパネル、前パネル、センターコンソール等の各部品が設置されている。
【0045】
図4は、表2に示すタイプI、タイプIIのガラス品種を用いた場合の車室内に入射する直達日射の分布を示す説明図である。同図(a)はタイプIのガラス品種を用いた場合を示し、同図(b)はタイプIIのガラス品種を用いた場合を示す。図中の日射分布強弱は白黒の濃淡で表されている(すなわち、白いほど日射受熱量が多く、黒いほど日射受熱量が少ないことを示す)。運転席の乗員を見てわかるように、車室内に到達する直達日射量はタイプIIの方が少なく、タイプIIの方が断熱性能が優れているといえる。
【0046】
【表2】
【0047】
また、車室を構成する部品は少なくとも透光部材を含むn(nは2以上の自然数)個の部品で構成され、各部品に使用される材料の物性値は表2のガラス品種同様に図1の外部記憶装置21に格納されている。各部品に使用可能な物性値は表3(a)に示すようにマトリクス状に表すことができ、例えば部品Pの場合、物性値M00,M10,M20,M30,M40およびM50の何れかが選択される。
【0048】
すなわち、各部品には、少なくとも一つの物性値M**(=M00,M01,・・・,M10,・・・)が登録されており、各物性値は実際に部品に使用される材料の候補と対応する。例えばインストルメントパネルであればプラスチック材料等の種類、シートであれば繊維や皮革等の種類と対応する。また、物性値M**は、日射透過率、日射吸収率、放射率、熱貫流率、および部品の形状データ(CADデータ)等から選択される少なくとも一つを含む。
【0049】
したがって、部品毎に物性値M**を選択するとともに、各部品の物性値M**の組み合わせを一以上作成する(表3(b))。そして、各組み合わせについて、人体が感じる温熱指標(後述のSET*、等価温度またはTSV等)を算出し、その結果を比較することにより、表3(c)に示すような最適な温熱快適性を与える物性値の組み合わせを導くことができる。ここでは「0」に最も近い結果を最適としている。
【0050】
なお、物性値だけでなく、空調冷暖房設備等に関するデータを考慮して温熱指標を算出すれば、空調冷暖房設備等を備えた構造物の最適設計を行うことができる。この場合も物性値の場合同様に、図1の外部記憶装置21から空調設備に関するデータを読み出し、読み出したデータを加味して温熱指標を算出する。また、各部品の種々の形状データを表3同様に作成することにより、最適な温熱快適性を与える各部品の形状の組み合わせを選択できるようになる。
【0051】
【表3】
【0052】
次に、本発明で新たに提案する、日射を考慮した人体温熱モデルの概要について説明する。
図5は、人体温熱モデルを示す説明図であり、これに基づいて作られた温熱環境評価用の人形がいわゆるサーマルマネキンである。本発明で使用するサーマルマネキンは、いわゆる数値サーマルマネキンと呼ばれるものであり、計算機シミュレーションのみで人体の温熱感覚を再現する。
【0053】
ところで、従来から人体の体温調節モデルとしては、いくつか提案されている。その中でも代表的なものとして、ギャッギ等による2ノードモデル(文献(A.P.Gagge,A.P.Fobelets' and L.G.Berglund:A Standard Predictive Index of Human Response to the Thermal Environment,ASHRAE Transactions,Vol.92,pp.709-731,1986.) を参照)や田辺等による65MNモデル(文献(S.Tanabe, et al.:EVALUATION OF THERMAL COMFORT USING COMBINEDMULTI-NODE THERMOREGULATION (65MN) AND RADIATION MODELS AND COMPUTATIONAL FLUID DYNAMICS (CFD), Energy & Buildings - Special Issue, 2002.4)がある。
【0054】
しかしながら、これらは何れも人体形状について充分に考慮されておらず、例えば2ノードモデルにおいてはコア層とそれを取り巻くシェル層とで人体を模擬している。そのため、頭や手足等の部位に当たる日射についてシミュレーションすることはできない。65MNモデルは人体の構成を2ノードモデルよりも詳細に模擬し、すなわち頭、胸、脚等計16部位に分類するとともに、各部位の表面積や重量について規定しているが、各部位の形状については充分に考慮されていない。そのため、この65MNモデルを用いたとしても形状が明らかでないことから、各部位と壁や窓との間の形態係数が算出できず、人体に当たる日射分布を正確に把握することは難しい。
【0055】
一方、人体形状を考慮したシミュレーションもいくつか提案されているが、人体の温熱感覚を正確にシミュレートするための人体周りの境界条件(日射、熱放射)については十分に検討されていない(文献(G. Fronzes, et al.:Athebes, a car thermal behavior simulation software, ATA-Ingegneria Automotoristica, Marzo, Vol.49, No.3, 1996.))。
【0056】
したがって、車室内等日射の影響が大きい環境下で、温熱感覚を正確にシミュレートすることは困難である。そこで、本発明においては、人体形状を模擬したモデル(以下、人体形状モデルという)と、人体の体温調節を模擬したモデル(以下、体温調節モデルという)とを組み合わせることにより、上述の問題を解消し、日射の影響が大きい環境においても人体の体温調節機能を正確にシミュレートできるようにした。
【0057】
以上の観点から、図5に示す人体温熱モデル(サーマルマネキン)30を人体形状モデル31と体温調節モデル32との組み合わせで構成し、その詳細を図6,7に示す。図6(a)は、図5に記載されている人体形状モデルの各部位の大雑把な分類を示す正面図であり、図6(b)、(c)はそれぞれ人体形状モデルの詳細(表面要素)を示す正面図および側面図である。
【0058】
また、図6(a)に示す人体は、ヘッド(頭部)31−1、チェスト(胸部)31−2、バック(背中)31−3、ペルビス(腰)31−4、L−ショルダ(左肩)31−5、R−ショルダ(右肩)31−6、L−アーム(左上腕)31−7、R−アーム(右上腕)31−8、L−ハンド(左手)31−9、R−ハンド(右手)31−10、L−サイ(左大腿)31−11、R−サイ(右大腿)31−12、L−レッグ(左下腿)31−13、R−レッグ(右下腿)31−14、L−フット(左足)31−15、およびR−フット(右足)31−16の計16部位に分類されている。ただし、人体部位の分類は、16部位に限られるものではなく、適宜変更されるものである。
【0059】
各部位は体温調節機能を簡略的にシミュレートするため、発熱装置を内蔵した皮膚層で構成され(部位によっては着衣層を有する)、図7に示す体温調節モデルが各部位個別に組み込まれている。なお、各部位の表面積および質量は、表4に示すとおりである。
【0060】
【表4】
【0061】
また、図6(b)、(c)に示すように各部位の表面は、複数の表面要素で分割され、人体に到達する日射量、人体表面から放射される放熱量、および皮膚温等の計算は表面要素毎に行われる。
【0062】
ここで、各部位に組み込まれる体温調節モデルについて説明する。
図7は、人体の各部位に組み込まれる体温調節モデルを示すブロック図である。同図に示す体温調節モデル32は、16個の部位(第k部位34は、発熱装置34d−1および温度センサ34d−2を内蔵した皮膚層34dと、着衣層34eからなる)で構成されている。発熱装置34d−1の発熱量はパーソナルコンピュータ34d−3により行われる。ここで各層間における熱輸送に注目すると以下のとおりである。皮膚層34dにおいては、温度センサ34d−2によって測定された温度に基づいて、発熱装置34d−1の発熱量を制御することで皮膚温の制御が行われる。着衣層34eおよび皮膚層34dの間においては、熱伝導による熱輸送が行われるとともに、両層間に空気層が存在する場合もあるためシミュレーションにあたっては、対流、放射および/または湿度のうちの少なくとも何れか一つによる熱輸送を考慮する必要がある。なお、発熱手段は、皮膚層以外の層(例えば人体内部)に設置されていてもよい。
【0063】
また、着衣層34eは外部環境40に曝露していることから、対流および放射による熱輸送が行われる。外部環境40には太陽等の光源(もしくは人為的に設置されたランプの場合もある)41が存在するものと仮定し、光源41による日射(またはランプにより照射される光線)によって着衣層34eは温められる。着衣層34eの有無は表面要素単位で設定することができ、本実施の形態ではヘッド31−1、L−ハンド31−9およびR−ハンド31−10では皮膚層が露出し、着衣層は無いものとして計算を行っている。また、光源41から照射される光線の波長域は、図1の操作部22により適宜設定することができ、設定された値は外部記憶装置21に格納される。
【0064】
次に、窓ガラスの温熱快適性を数値シミュレーションによって評価し、この評価結果に基づいて窓ガラスとして最適なガラス品種、および最適な温熱環境を実現する部品の組み合わせを選択する手順について説明する。
【0065】
図8は、ガラス品種および各部品の物性値の選択手順について示したフローチャートである。まず、予め用意しておいた車体形状を示すCAD(Computer Aided Design)データおよび車室の内壁面を構成する複数の表面要素、人体形状を示すCADデータおよび人体の表面形状を示す複数の表面要素、車室を構成する各部品と人体との間の空間領域を分割する複数の立体要素、並びに窓ガラスに使用可能なガラス品種の候補(本実施の形態では表2に示したタイプI,IIを用いる)を図1の外部記憶装置21に格納する(ステップ101,102)。また、表3に示したような各部品の物性値を外部記憶装置21に格納する(ステップ103)。
【0066】
次いで、図1の演算部11aおよび評価部11bは、外部記憶装置21に格納されているガラス品種および物性値のデータを読み出すとともに、これらのデータの組み合わせを作成し、組み合わせ毎に、窓ガラスを透過する日射の計算と人体の体温調節モデルの計算と車室内の熱輸送計算(すなわち対流計算、放射計算、湿度計算等)とを連成して行い、人体が感じることが予想される温熱感覚を数値シミュレーションする(ステップ104)。なお、後述の図14に示す形態係数に応じて物性値を変え、シミュレーションしてもよい。
【0067】
その後、シミュレーションが完了する毎に全ての組み合わせについて温熱指標(等価温度、予測平均申告(PMV)、またはTSV等)を算出したかどうかを判定し(ステップ105)、算出していないようであればステップ104に戻る。全てのガラス品種および各部品の物性値の組み合わせについて算出した後、図1の選択部11cは各々のシミュレーション結果を比較し、最もよい結果となるガラス品種および各部品の物性値の組み合わせを選択する(ステップ106)。その結果、例えば表3(c)に示すような物性値の組み合わせが選択される。なお、車体(構造物)の温熱快適性を評価するだけであれば、上記ステップ105まで実施すればよいが、
ここで組み合わせの選択方法としては、中間期においては後述のTSVが「どちらでもない」となるものを選択し、夏においては「やや涼しく」なるものを選択し、冬においては「やや暖かく」なるものを選択する等が考えられるが、どのような結果を最適と判断するかはシミュレーションの実行者によって適宜決定される。したがって、予め最適値を設定しておき、この最適値に最も近いものを選択することが一つの方法として考えられる。
【0068】
また、温熱指標の優れたガラスをいくつかピックアップした後、それらの中で可視域の光線を最もよく通すものを選択すれば、温熱性能および透光性能の両方が優れたガラスを選択することができる。なお、各窓に使用するガラス品種の組み合わせは表2に示すものに限られず任意に設定できる。
【0069】
ここで、温熱感覚の数値シミュレーションについて、図9〜13を参照して詳細に説明する。
図9は、ステップ104の詳細を示すフローチャートである。本実施の形態では温熱感覚を示す指標として等価温度を算出してから(ステップ201)、等価温度を使ってTSVを算出する(ステップ202)。TSVは、実際に人体が感じる温熱感覚に対応づけられた指標であり、本実施の形態では表5に示す変換式に基づいて算出される。
【0070】
温熱感覚は季節や地域による差異があることから、表5には日本(夏季)、日本(秋季)、米国、デンマークおよびシンガポールにおける回帰式を示す。このようなTSVと人体が感じる温熱感覚との対応は表6に示すとおりであり、「0」がどちらでもない、「1」がやや暖かい、「2」が暖かい、「3」が暑い、「−1」がやや涼しい、「−2」が涼しい、「−3」が寒いといった7段階で表記される。なお、回帰式の隣に人体の温熱感申告が中立となる温度(中立温度)を併記している。
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
図10は、ステップ201の詳細を示すフローチャートである。まず、計算の準備作業としてステップ301からステップ304までを実施する。車室内およびサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割するとともに、車室の内壁とサーマルマネキンとの間の空間形状を複数の立体要素に分割する(ステップ301)。次いで、サーマルマネキンおよび居室の壁の全ての表面要素について形態係数を算出する(ステップ302)。形態係数は表面要素間での放射熱交換を決定づける無次元数のパラメータである。
【0074】
次いで、各表面要素に対して熱貫流率、放射率、日射吸収率および日射透過率等の熱的条件を割り当ててから(ステップ303)、サーマルマネキンの着衣量、車体の所在地(すなわち緯度、経度)、解析日時等表1に示した解析条件を設定する(ステップ304)。この解析条件は図1の操作部22により入力され、入力されたデータは外部記憶装置21に格納される。
【0075】
次いで、上記設定された緯度、経度および季節に基づいて、車体を基準とした太陽の方位角および仰角を算出し、車体が受ける日射の照射角度を演算部11aにより算出する。そこで、この照射角度と窓ガラスの物性値(表2)とに基づいて、人体に直接到達する各種日射量(直達日射量、天空日射量、地面反射日射量または内部拡散日射量の何れか一つ、またはこれらの任意の組み合わせ)を算出し(ステップ305)、この算出結果と着衣表面または皮膚表面の吸収率とに応じて日射吸収熱量を算出する。
【0076】
なお、文献1に記載されているように、日射には0.3〜2.5μmの波長域の光線が含まれるため、日射量の計算にあたっては波長域を考慮する必要がある。例えば0.3〜2.5μmの全波長域に渡って計算を行ってもよいし、任意に波長を選択して波長別に計算してもよい。その後、構造物内の熱移動計算と体温調節反応の計算との連成等を行った後(ステップ306〜308)、サーマルマネキンの皮膚表面における等価温度を算出する(ステップ309)。
【0077】
ここで、日射解析の詳細について説明する。透光部材で構成される空間は透過日射の影響を強く受けるため、人体快適性の予測精度は、熱源となる日射の熱取得分布がいかに正確に予測されるかに強く依存する。日射解析は温度気流解析と連成して行う必要はなく独立して行うことができ、上述したとおりサーマルマネキンの表面および空間内外壁表面に到達する直達日射、天空日射、地面による反射日射、さらに到達日射の内部での相互反射日射を計算し、温度気流連成解析のためのサーマルマネキンの表面および壁表面での日射取得熱量を算出する(図11)。なお、サーマルマネキンの内部温度を算出するようにしてもよい。
【0078】
解析手順は次のとおりであり、まず建物の所在位置、計算対象時刻を入力することにより太陽の位置を算出し、これを基に法線面直達日射量Idn、および水平面天空日射量Iskyを経験式により推定する。この法線面直達日射量、水平面天空日射量を基に、透光部材の日射透過率ti、反射率ρi等の壁体熱性能値、空間の構造部品、庇等の日射遮蔽物の幾何学形状を考慮して、各種到達日射量を算出する。
【0079】
次にサーマルマネキンの表面に到達する日射量の算出方法は、以下のとおりである。
1)直達日射量の算出:人体形状モデルの表面要素iに到達する直達日射量Idiは、法線面直達日射量Idn、途中交差する日射が透過する壁体(透光部材)の各々の日射透過率tjにより、式(1)で計算される。
【0080】
【数1】
【0081】
なお、透光部材の日射透過率、反射率には図12に示す入射角度特性がある。すなわち、透光部材に対する入射角度が大きくなると反射成分が増大し、透光部材の日射透過率が減少する。これを考慮しないと入射熱量に誤差が生じる。
【0082】
2)天空日射量の算出:人体形状モデルの表面要素iに到達する天空日射量Isiを水平面天空日射量Iskyおよび日射が透過する壁面(透光部材)を見込む形態係数によって計算する。
【0083】
【数2】
【0084】
ここで、Fijは表面要素i,j間の形態係数、βijは到達する日射が天空日射であるか否かを判定するフラグである。0.91は天空日射に対する透光部材(ガラス板)の日射透過率の入射角度特性を考慮した係数である。
【0085】
3)地面反射量の計算:地面による反射量は、地面の形状、反射率、指向性等の影響を受けるため、正確に算出することは難しい。本実施例では、天空日射量の算出方法と同様に、人体形状モデルの各表面要素に到達する地面反射日射量Igiを水平面全天日射量Iholと地面のアルベド(日射エネルギーの反射率)ρgを用いて算出する。
【0086】
【数3】
【0087】
ここに、γijは到達する日射が地面による反射であるか否かを判定するフラグ、hは太陽高度である。
【0088】
4)相互反射量の計算:人体形状モデルの表面要素に到達した日射は、人体形状モデルの表面の反射率に応じて相互反射が生じる。反射には拡散反射と鏡面反射、および両者を複合したものがある。本実施例では計算を単純化するため完全拡散を仮定する。この条件下で相互反射量は表面要素間の形態係数を用いるラジオシティ法により算出できる。
【0089】
【数4】
【0090】
5)サーマルマネキンの表面における日射吸収熱量の算出方法:人体形状モデルの表面要素毎に計算された直達日射量、天空日射量、地面反射量、相互拡散反射量をすべて人体形状モデルの表面における日射吸収熱量に換算する。人体形状モデルの表面における日射吸収熱量への換算方法は、それぞれ到達する日射熱量に人体形状モデルの表面要素iの日射吸収率aiを乗じて算出する。
【0091】
【数5】
【0092】
これを表6に示す壁面熱収支式の日射吸収熱量(サーマルマネキンの表面発熱量)として扱うことにより、温度と気流との連成解析に取り込むことが可能となる。また、温度気流連成解析終了時には、サーマルマネキンの表面発熱量とサーマルマネキンの周辺空気温度に応じた対流熱伝達量、サーマルマネキンの表面放射率に応じた放射熱伝達量、着衣内の総合熱伝達量と平衡することになる。
【0093】
次いで、サーマルマネキンと壁との間の空間領域における気温、流速および乱流等の空間物理量をCFD(Computational Fluid Dynamics)技術を利用して算出する(ステップ306)。すなわち、サーマルマネキンおよび壁の表面において各種の境界条件を設定し、上述の立体要素毎に空間領域における対流(自然対流および強制対流を含む)を数値シミュレーションして流速、圧力、温度、湿度等を算出する。
【0094】
熱的境界条件は予め図1の外部記憶装置21に記憶されている、室内部品表面および室外部品表面における日射に関する熱物性値(日射吸収率、日射透過率)、室内部品表面における熱放射に関する熱物性値(放射率)、部品同士の間の熱コンダクタンス、室外側の参照温度、および室内側壁表面の対流熱伝達率を読み出して利用する。
【0095】
CFDの具体的手法としては、例えば有限要素法、有限体積法または差分法等によるナビエ−ストークス方程式の数値解析を行い、特に本実施の形態では非等温場における標準k−εモデルを用いる。次いで、図7に示した体温調節モデルを利用してサーマルマネキンの体温調節反応を計算し(ステップ307)、人体形状モデルの各表面要素における皮膚温(または内部温度)が所定値に収束するまでステップ306および307を反復計算し(ステップ308)、ステップ309で等価温度を算出する。
【0096】
なお、CFD、放射および体温調節モデルの連成は表7に示す熱収支式を解くことにより求める。すなわち、車室の壁面で対流熱伝達量、放射熱伝達量、日射吸収熱量および室外側熱伝達量からなる熱収支式を解き、着衣表面で、1)対流場から放射場への接続、2)体温調節モデルの収束計算、3)放射場から対流場への接続について計算する。1)においては着衣表面温度Tiおよび放射熱伝達量Qri(net)を求め、2)においては体温調節モデルの計算を行って着衣表面温度Tiおよび皮膚温Trefを求め、3)においては室内側参照温度Tinおよび着衣表面温度Tiを求める。なお、湿度を考慮して上記計算をしてもよい。
【0097】
【表7】
【0098】
ここで2)における体温調節モデルの計算の詳細について述べると、表8に示すとおりである。熱平衡式を人体形状モデルの全ての表面要素で計算する。
【0099】
【表8】
【0100】
熱平衡式は、表8に示すように、顕熱放熱量をQsk、サーマルマネキンの内部温度を36.4℃、内部温度の設定位置から皮膚表面までの熱伝達率を1/0.054(W/m2k)とした式により成り立つ。したがって、サーマルマネキンの体温調節の計算は、サーマルマネキンの皮膚温Tskと顕熱放熱量Qskとの平衡を保つことにより実施される。このモデルでは、65MNモデルのように発汗や血流による熱輸送までシミュレーションする必要がなく、数理モデルの構築が簡単化するとともに、計算量を低減させることができる。なお、サーマルマネキンの体温調節をさらに簡略化すべく、サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱装置による発熱量を調整したり、発熱装置の発熱量を一定としたりしてもよいし、発汗や呼吸を考慮してもよい。
【0101】
以上のように一連の計算を図1の演算部11aで行ってから、ステップ309における等価温度を算出する。図13は、ステップ309の詳細を示すフローチャートである。まず、人体の部位別の物理量から、1)皮膚表面からの熱損失量、2)平均皮膚温を算出する(ステップ401)。最後に、ステップ402に示す式を解くことによりサーマルマネキンの皮膚表面における等価温度を算出することができる。
【0102】
なお、図13のフローでは全身における等価温度を算出するが、人体形状モデルの表面要素毎または部位毎に算出するようにしてもよい。その場合、人体形状モデルの表面要素毎または部位毎に熱損失量、および皮膚温(または内部温度)を求める。このように表面要素毎に皮膚温等を算出することにより、各部位内における温度分布を詳細にシミュレートでき、正確な温熱感覚を算出できる。これらのシミュレーション結果は、図1の評価部11bの制御によりグラフや表、静止画(皮膚温分布図等)、アニメーション等に加工されてから表示装置23に表示される。シミュレーションの実行者はこの表示に基づいて透光部材の温熱快適性能を判断することができる。
【実施例】
【0103】
次に、実施例について説明する。解析対象空間はRV(レクリエーショナル・ビークル)タイプの車体を想定し、運転席に1名を乗車させた場合のシミュレーション結果を示す。
【0104】
図14は、車体形状を示す。同図に示すように、車体50には乗員としてサーマルマネキン51が搭乗している。解析条件は真夏の冷房空調条件であり、8月31日、場所が東京、時刻が16:00、33℃の外気温の下、ほぼ西向きに40km/hrで走行している自動車内についてシミュレーションした。サーマルマネキン51は、標準的な夏服を着ているものと想定している。
【0105】
また、人工気象室内での屋外条件を再現するために、屋外での水平面全天日射量が同じとなるように36個の赤外線ランプを車体50の前方に設置し、これらのランプの光線を車体50に照射し、シミュレーションを実施した。
【0106】
表9にガラスのレイアウトを示す。標準条件となる全面グリーンガラスを想定した場合、および日射抑制機能を備えた高機能ガラスを想定した場合の2ケースについて検討した。表にはガラスの着色の種類、板厚、熱線反射膜の有無について記載されている。フロントガラスについては、合わせガラスを構成する2枚のガラス板のそれぞれについて記載されている。
【0107】
【表9】
【0108】
図15に高機能ガラスを想定した場合の車体および人体表面に吸収される日射熱量を示す。同図(a)に示す屋外条件で数値シミュレーションを行った場合、サーマルマネキンの胸部で最大約220w/m2の日射が吸収されていることがわかった。それに対して、同図(b)に示す人工気象室の条件で数値シミュレーションを行った場合、サーマルマネキンの胸部における最大日射吸収量は、約70w/m2となった。これは光源の波長特性およびガラスの分光透過特性の差により、同種類のガラスを使用していても光線の透過率の違いによって生じたものと思われる。
【0109】
図16に人体に吸収される日射熱量を示す。屋外条件では人体に吸収される日射熱量に関し、ガラスの差異により約15%の差が見られるが、人工気象室の条件ではその差は約65%と大きい。
【0110】
図17に空調負荷熱量を示す。屋外条件では空調負荷熱量に関し、ガラスの差異により約5%の差が見られるが、人工気象室の条件ではその差は約12%と大きい。
【0111】
最後に図18に運転席乗員の16代表部位および全身の等価温度を示す。図中の許容範囲に収まっていれば、ほぼ快適であることを示す。日射が到達する部位で約10〜15℃の差異が見られ、ガラスによる日射遮蔽は温熱感に大きな影響を与えることがわかる。屋外条件ではケース1または2のどちらのガラスを用いても許容範囲を超えていることがわかる。全身の等価温度を見ると約1〜3℃の差異が見られる。屋内条件で高機能ガラスを用いると許容範囲を少し下回り、やや涼しい側の温熱感となることがわかる。
【0112】
以上から明らかなように、サーマルマネキンによる測定を実施しなくても、図5に示した人体温熱モデル30を、計算機を使って数値シミュレーションすることにより、従来のサーマルマネキンを使用した場合と同等の結果が得られることが確認された。
【0113】
以上においては、透光部材としてガラス板の例にあげて説明したが、本発明の適用はこれに限られるものでなく、例えば有機樹脂板(ポリカーボネート板、アクリル板等)、有機ガラス、ビニルハウス等に用いられる有機樹脂膜にも適用できることは明らかである。また、人体の標準新有効温度としては、65MNSET*よりもさらに各部位の影響を詳細に評価して計算した標準有効温度を用いる等してもよい。
【0114】
また、以上では定常状態のシミュレーションについて説明したが、上記一連の手続を一定の時間ステップ毎に適用することにより、非定常状態のシミュレーションを実施できることは明らかである。例えば自動車に用いられるガラスの温熱快適性を評価するのであれば、時間ステップを数秒から数分程度とし、数分から数十分(もしくは数時間)程度にわたって計算することが考えられる。
【0115】
また、本発明でいうところの透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜(ポリビニルブチラール等)とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、または有機樹脂板等構造物に採光のため取り付けられる部品全般を指し、完全な透明性を要するものではない。例えば熱線を吸収するために鉄やコバルト等が添加されて着色されていたり、熱線を反射させるために薄い金属膜がコーティングされていたりしていても構わない。
【0116】
また、透光部材の形状は一般的に平板や曲板を想定しているが、採光としての機能を有するのであればその他の形状であっても構わない。また、以上では簡単のため、空間領域における湿度を一定と仮定したが、上述の立体要素毎に湿度を解析するようにしてもよいことは明らかである。また、計算の簡単化のため、空間領域における温度気流性状が一定としてシミュレーションを実施してもよい。
【0117】
さらに、図2に示す車体の外観形状およびこの車体の周辺環境を考慮して、シミュレーションを行ってもよい。そうすることにより、車体の外観形状が搭乗者の温熱快適性に与える影響について正確に評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
以上説明したとおり本発明は、居室や車室内に設置された人体形状を模した測定装置の温熱指標を数値シミュレーションにより求めることで、最適な温熱快適性を実現する各部品の物性値を知ることができる。特に、サーマルマネキンの体温調節の計算が、(α)サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように発熱手段の発熱量を調整することで実施される、(β)発熱手段の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)サーマルマネキンの皮膚層の温度と皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施されることにより、65MNモデル等の高度な体温調節モデルよりも簡易に体温調節機能をシミュレーションできる。
【0119】
すなわち、65MNモデルのように発汗や血流による熱輸送までシミュレーションする必要がなく、数理モデルの構築が簡単化するとともに、計算量を低減することができる。ただし、本発明は、65MNモデル等の高度な体温調節モデルを排除するものではなく、体温調節モデルは、使用するコンピュータの能力や必要とするシミュレーションの精度等に応じて適宜選択される。
【0120】
また、表面要素単位で皮膚温を算出し、サーマルマネキンの部位毎に温熱指標を算出することにより、車室内等の熱的に不均一な環境での構造物の最適設計を実現できる。
【0121】
また、透光部材の温熱快適性能評価を数値シミュレーションのみで実施でき、建築物や車体等の試作品を作る手間を省くことができる。すなわち、日射吸収率や放射率等のパラメータ値を変更するという簡単な操作だけで、様々な窓ガラスのバリエーションについて評価を行うことができる。また、試作機を作る必要がないことから、従来よりも短時間かつ低コストで上記透光部材の温熱快適性について評価を実施できる。
【0122】
また、本発明は、居室や車室形状に応じて最も優れた温熱快適性能を提供する透光部材の素材開発に利用することもできる。さらに、温熱指標という客観的な指標で透明板の温熱快適性能を表すため、建築メーカ、車体メーカ、空調メーカ、材料メーカおよび一般ユーザに対して、透光部材の温熱快適性能をわかりやすく説明でき、またインターネット等のネットワーク経由で、上記シミュレーションのプログラムを提供したり上記シミュレーションを実行したりすることにより、構造物の温熱快適性の評価および構造物の設計支援のための新たなサービスを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明の一つの実施の形態(温熱快適性能評価装置)を示すブロック図である。
【図2】窓ガラスの温熱快適性能を評価するための数値モデルを示す部分破断斜視図である。
【図3】(a)車体を構成する各部品(前方から眺めた様子)、(b)車体を構成する各部品(後方から眺めた様子)を示す部分破断斜視図である。
【図4】(a)タイプI、(b)タイプIIにおける直達日射の様子を示す部分破断斜視図である。
【図5】人体温熱モデルを示す説明図である。
【図6】(a)人体形状モデルの各部位の分類を示す正面図、(b)人体形状モデルの詳細(表面要素の構成)を示す正面図、および(c)人体形状モデルの詳細(表面要素の構成)を示す側面図である。
【図7】体温調節モデルを示すブロック図である。
【図8】窓ガラスおよび各部品の選択手順(メインルーチン)を示すフローチャートである。
【図9】ステップ104の詳細を示すフローチャートである。
【図10】ステップ201の詳細を示すフローチャートである。
【図11】各種の日射を示す説明図である。
【図12】入射角度と、透過率および反射率との関係を示すグラフである。
【図13】ステップ309の詳細を示すフローチャートである。
【図14】RV(レクリエーショナル・ビークル)タイプの自動車に乗員1名が搭乗した場合の解析空間およびサーマルマネキンの形状モデルを示す部分破断斜視図である。
【図15】(a)日射を用いたシミュレーション、(b)人工気象室を想定したシミュレーション結果を示す部分破断斜視図である。
【図16】サーマルマネキン全体が受ける日射吸収熱量を示すグラフである。
【図17】エアコンの空調負荷熱量を示すグラフである。
【図18】実験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0124】
10:温熱快適性能評価装置
11:中央処理部
11a:演算部
11b:評価部
11c:選択部
12:記憶部
13、14、15:インターフェース(I/F)
16:バス
21:外部記憶装置
22:操作部
23:表示装置
30:人体温熱モデル
31:人体形状モデル
31−1:ヘッド
31−2:チェスト
31−3:バック
31−4:ペルビス
31−5:L−ショルダ
31−6:R−ショルダ
31−7:L−アーム
31−8:R−アーム
31−9:L−ハンド
31−10:R−ハンド
31−11:L−サイ
31−12:R−サイ
31−13:L−レッグ
31−14:R−レッグ
31−15:L−フット
31−16:R−フット
32:体温調節モデル
34:第k部位
34d:皮膚層
34d−1:発熱装置
34d−2:温度センサ
34d−3:パーソナルコンピュータ
34e:着衣層
40:外部環境
41:光源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価する方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、
前記第1部品に使用される材料の候補、前記第2部品に使用される材料の候補、・・・、前記第n部品に使用される材料の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと
外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、
読み出された前記物性値、および前記空間領域モデルから求められる、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能の何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出するステップと、
前記算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を前記演算手段により算出するステップとを有することを特徴とする構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項2】
前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、
少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップである請求項1に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項3】
前記温熱指標を算出するステップは、前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、または、前記建造物に到達する日射量の計算を含み、前記日射量は、直達日射量と天空日射量、地面反射日射量または相互反射日射量の何れか少なくとも一つとの組み合わせである請求項1または2に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項4】
前記天空日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素iに到達する天空日射量Isiを水平面天空日射量Iskyおよび日射が透過する壁面(透光部材)を見込む形態係数によって以下の式(2)で算出される請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
ここで、Fijは表面要素i,j間の形態係数、βijは到達する日射が天空日射であるか否かを判定するフラグである。入射角度係数は天空日射に対する透光部材(ガラス板)の日射透過率の入射角度特性を考慮した係数である。
【請求項5】
前記地面反射日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素に到達する地面反射日射量Igiを水平面全天日射量Iholと地面のアルベド(日射エネルギーの反射率)ρgを用いて以下の式(3)で算出される請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
ここに、γijは到達する日射が地面による反射であるか否かを判定するフラグ、hは太陽高度である。
【請求項6】
前記相互反射日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素に到達した日射は、人体形状モデルの表面の反射率に応じて相互反射を完全拡散と仮定したときに相互反射量は表面要素間の形態係数を用いるラジオシティ法により以下の式(4)で算出できる請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項7】
前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかである請求項1〜6の何れかに記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項8】
前記測定装置は、発熱装置を内蔵している請求項1〜7の何れか一項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項9】
前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンである請求項1〜8の何れか一項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項10】
前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施される請求項9に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項11】
前記温熱指標を算出するステップは、
前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、
前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、
前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、
前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、
前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップと
を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項12】
前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材である請求項1〜11の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項13】
前記構造物は、自動車、列車、船舶または航空機である請求項1〜12の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項14】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の温熱性能を評価するためのプログラムであって、前記請求項1〜13の何れか1項に記載のステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価プログラム。
【請求項15】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価するシステムであって、請求項1〜13の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法を用いることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価システム。
【請求項1】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価する方法であって、
前記構造物と人体形状を模した測定装置との間の空間領域から空間領域モデルを設定してインターフェースを介して入力するステップと、
前記第1部品に使用される材料の候補、前記第2部品に使用される材料の候補、・・・、前記第n部品に使用される材料の候補をそれぞれ一以上用意し、前記構造物の空間領域モデルに応じた構造物の部品をそれぞれ選択してインターフェースを介して入力するステップと
外部記憶装置に設けられたデータベースに格納された前記部品毎に用意された材料の候補の物性値を前記入力に従い読み出すステップと、
読み出された前記物性値、および前記空間領域モデルから求められる、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達量と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量、前記建造物に到達する日射量、前記構造物内における対流熱伝達量、前記構造物内における湿度、および/または前記測定装置の体温調節機能の何れかに基づいて、前記測定装置の表面からの熱損失量、前記測定装置の温度、および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを演算手段により算出するステップと、
前記算出結果を用いて前記測定装置の温熱指標を前記演算手段により算出するステップとを有することを特徴とする構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項2】
前記温熱指標を算出するステップは、前記データベースに格納されている前記物性値を前記部品毎に選択して読み出すステップと、これらの読み出された前記物性値の組み合わせを前記演算手段により一以上作成するステップと、
前記組み合わせのそれぞれについて、少なくとも前記構造物内における放射熱伝達の計算と、前記透光部材を透過して前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、前記建造物に到達する日射量の計算、前記構造物内における対流熱伝達の計算、前記構造物内における湿度の計算および/または前記測定装置の体温調節機能に関する計算のうちの少なくとも何れか一つとを前記演算手段により連成して行い、
少なくとも前記測定装置の表面からの熱損失量の算出と、前記測定装置の温度および/または前記測定装置の表面におけるぬれ率を算出し、その算出結果を用いて前記演算手段により前記測定装置の温熱指標を算出するステップである請求項1に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項3】
前記温熱指標を算出するステップは、前記構造物内の人体形状を模した測定装置に到達する日射量の計算、または、前記建造物に到達する日射量の計算を含み、前記日射量は、直達日射量と天空日射量、地面反射日射量または相互反射日射量の何れか少なくとも一つとの組み合わせである請求項1または2に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項4】
前記天空日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素iに到達する天空日射量Isiを水平面天空日射量Iskyおよび日射が透過する壁面(透光部材)を見込む形態係数によって以下の式(2)で算出される請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
ここで、Fijは表面要素i,j間の形態係数、βijは到達する日射が天空日射であるか否かを判定するフラグである。入射角度係数は天空日射に対する透光部材(ガラス板)の日射透過率の入射角度特性を考慮した係数である。
【請求項5】
前記地面反射日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素に到達する地面反射日射量Igiを水平面全天日射量Iholと地面のアルベド(日射エネルギーの反射率)ρgを用いて以下の式(3)で算出される請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
ここに、γijは到達する日射が地面による反射であるか否かを判定するフラグ、hは太陽高度である。
【請求項6】
前記相互反射日射量は、前記人体形状を模した測定装置の表面形状を複数の表面要素に分割したときの表面要素に到達した日射は、人体形状モデルの表面の反射率に応じて相互反射を完全拡散と仮定したときに相互反射量は表面要素間の形態係数を用いるラジオシティ法により以下の式(4)で算出できる請求項3に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項7】
前記物性値は、前記部品の材料に関する物性値、または前記部品の形状を示す値の何れかである請求項1〜6の何れかに記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項8】
前記測定装置は、発熱装置を内蔵している請求項1〜7の何れか一項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項9】
前記測定装置は、体温調節機能を備えたサーマルマネキンである請求項1〜8の何れか一項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項10】
前記サーマルマネキンの体温調節は、(α)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度が一定となるように前記発熱装置の発熱量を調整することで実施される、(β)前記発熱装置の発熱量を一定とすることで実施される、または(γ)前記サーマルマネキンの皮膚層の温度と前記サーマルマネキンの周囲環境に応じた前記皮膚層表面からの顕熱放熱量とを平衡させることで実施される請求項9に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項11】
前記温熱指標を算出するステップは、
前記構造物内の表面形状を複数の表面要素に分割して構造物形状モデルを作成し、前記構造物内のサーマルマネキンの表面形状を複数の表面要素に分割して人体形状モデルを作成し、前記構造物と前記サーマルマネキンとの間の空間領域を複数の立体要素に分割して空間領域モデルを作成するステップと、
前記人体形状モデルをサーマルマネキンの部位に対応した複数の部位に分類するとともに、前記サーマルマネキン内の産熱と前記サーマルマネキン外への放熱とをバランスさせる体温調節モデルを前記部位毎に組み込むステップと、
前記透光部材を透過して前記人体形状モデルおよび前記構造物に到達した日射、前記空間領域における対流、前記人体形状モデルからの放射、および前記構造物形状モデルからの放射によって輸送される熱量を、前記空間領域モデルを計算領域とした数値シミュレーションにより求め、このシミュレーション結果に基づいて前記空間領域における温度気流性状を算出するステップと、
前記温度気流性状、前記サーマルマネキン周辺の湿度、前記サーマルマネキンの着衣量および前記サーマルマネキンの活動量に基づいて前記体温調節モデルで数値シミュレーションすることにより、前記サーマルマネキンの皮膚表面からの熱損失量、前記サーマルマネキンの皮膚温、および/または前記サーマルマネキンの表面におけるぬれ率のうちの少なくとも何れか一つを算出するステップと、
前記熱損失量と、前記皮膚温、および/または前記ぬれ率を用いて、前記サーマルマネキンの皮膚表面における温熱指標を算出するステップと
を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項12】
前記透光部材は、単板のガラス板、複層ガラス、有機樹脂膜とこの有機樹脂膜を挟む複数のガラス板とで構成された合わせガラス、有機樹脂膜、有機樹脂板、および/または有機ガラスから選ばれる少なくとも何れか一以上で構成された部材である請求項1〜11の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項13】
前記構造物は、自動車、列車、船舶または航空機である請求項1〜12の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法。
【請求項14】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが採光のために取り付けられた透光部材である構造物の温熱性能を評価するためのプログラムであって、前記請求項1〜13の何れか1項に記載のステップをコンピュータに実現させるためのプログラムコードからなることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価プログラム。
【請求項15】
第1、第2、・・・、第n部品(nは2以上の自然数)で構成される構造物で、前記各部品の少なくとも何れか1つが内部に光を取り込むための透光部材である構造物の温熱快適性能を評価するシステムであって、請求項1〜13の何れか1項に記載の構造物の温熱快適性能評価方法を用いることを特徴とする構造物の温熱快適性能評価システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2010−160796(P2010−160796A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13192(P2010−13192)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2003−331918(P2003−331918)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【分割の表示】特願2003−331918(P2003−331918)の分割
【原出願日】平成15年9月24日(2003.9.24)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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