説明

構造粘性物質の軟化点測定方法および測定装置

【目的】 実機プラントにおける構造粘性物質の品質変化にも十分対応でき、プロセス計として実施可能な、その軟化点を測定すること。
【構成】 構造粘性物質(以下ピッチを例とする)の軟化点は溶融ピッチを全体的に均一に冷却する過程で定電流を印加して得られる発熱部のピッチ中における温度θ1とピッチ温度θ2の同一時刻での差△θを求め、その値をピッチ温度θ2に対してプロットすると、図3の一点鎖線で示される曲線が得られる。この曲線の温度微分曲線を求めると図3の実線で示されるように変曲点が得られる。この温度微分曲線の極値より求める変曲点は、従来のメトラ軟化点法およびJIS法により測定したピッチの軟化点と一次の相関関係が成り立つ。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はピッチ類等の構造粘性物質の軟化点の測定方法と測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】構造粘性物質の代表例であるピッチ類、例えばバインダーピッチはアルミ電極、製鋼黒鉛電極の製造工程において、ピッチコークス、ニードルコークスなどの骨材を混合成形するためのバインダーとして用いられる。そして、ピッチの軟化点温度は骨材とバインダーの混合成形のための操作温度でもある。このため、バインダーピッチ製造時におけるピッチの軟化点は最も重要な物性として管理する必要がある。従来、このような軟化点の測定方法は、例えば、JIS法(JIS K 2425 環球法)が主に用いられている。その他の方法として、JIS法とのバイアスを補正したメトラ軟化点測定法による測定も行われている。これら従来のピッチの軟化点の測定方法は、いずれも固化したピッチを水、グリセリンあるいは空気浴中で所定の昇温速度で加熱して、固化ピッチが軟化溶融して落下した温度を軟化点として測定する方法である。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来のピッチ軟化点測定方法は測定作業が煩雑であり、また人手による測定方法であるため、ピッチを経時的に、しかも連続的に処理する装置に用いるプロセス計としては採用できない欠点があった。そこで、人手を必要としないプロセス計として、プロセス粘度計により粘度を測定し、粘度との相関関係から軟化点を測定する方法が知られている。しかし、ピッチのようなチクソトロピーの性質のある構造粘性を伴うものは、得られるデータのバラツキが大きく、工程管理用として不充分であるため、未だプロセス計として十分採用し得るピッチ等の構造粘性物質の軟化点の測定方法について報告例がない。本発明は、上記従来技術における測定の煩雑さを解消し、実機プラントにおけるピッチ類等の構造粘性物質の品質変化にも十分対応でき、プロセス計として実施可能な、その軟化点の測定方法と測定装置を提供することを目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は次の構成によって達成される。すなわち、測定容器に溶融した構造粘性物質の試料の所定量をサンプリングし、該試料の全体を均一に冷却し、冷却過程において、試料温度と所定の定電流に制御される発熱手段の該試料中での発熱温度との差の変化から得られる温度微分曲線に基づき変曲点温度を算出し、予め求めた前記試料の軟化点と変曲点温度の相関関係から、該試料の軟化点を求める構造粘性物質の軟化点測定方法、または、溶融した構造粘性物質の試料を導入する試料部および該試料部の試料を均一に冷却する冷却部と冷却を均一に行わせるための緩衝部から成る測定容器と、該測定容器の試料部に導入された試料の試料温度測温手段と、前記試料部導入試料に熱を与えるための所定の定電流に制御される発熱手段と、該発熱手段の該試料中での発熱温度計測手段と、試料温度測温手段と発熱温度計測手段によりそれぞれ測定された試料の冷却過程における各温度の温度差算出手段と、該温度差算出手段により算出された温度差の試料温度に対する曲線から変曲点を算出するための変曲点算出手段とを備えた構造粘性物質の軟化点測定装置である。
【0005】また、本発明の構造粘性物質の軟化点測定時には測定容器にサンプリングされた溶融構造粘性物質の試料は冷却媒体により強制的に、しかも全体を均一に冷却されることが望ましい。本発明において、対象試料となる構造粘性物質とはピッチ類、インキ類、塗料類等であるが、その代表例はピッチ類である。例えばコールタール誘導体である軟ピッチ、水添ピッチ、バインダーピッチ、および石油系重質油の誘導体である石油系ピッチなどが対象試料の例である。測定容器内での試料の冷却は精度良く軟化点を測定するために、測定容器内の試料全体を均一に冷却する必要がある。測定容器内に供給される溶融ピッチの冷却方法としては自然冷却または強制冷却を採用できるが、好ましくは強制冷却による方法が用いられる。なぜなら、自然冷却は大気温度の影響があり、得られるデータに誤差が生じやすいからである。さらに、強制冷却の場合、冷却部と試料部との間に例えば空気層による緩衝部を設けることにより、冷媒の温度変化の影響を解消でき、より均一に冷却が可能である。また、本発明は硬化後の試料を溶融するため、この緩衝部に加熱媒体を供給することにより溶融を迅速に行えるものである。測定容器内に供給される冷媒は特に限定がないが、好ましくは一定温度にコントロールされた空気、水、温水または油などを用いる。
【0006】
【作用】本発明の構造粘性物質をピッチ類として例に説明すると、その軟化点測定方法は、従来技術における固化ピッチを所定の温度で加熱しながら測定する方法に対して、溶融ピッチを冷却しながら測定する方法で、従来とは全く逆の測定方法である。本発明の方法は、溶融ピッチの冷却過程で得られる温度変化から変曲点温度を求め、この変曲点温度と軟化点の間に一次の相関関係が成り立つとの知見に基づいてなされたものである。すなわち、測定容器に導入された溶融ピッチを全体的に均一に冷却する過程でピッチに、例えば定電流を用いた電熱抵抗体からなる発熱手段により、所定の定電流を与えた際の該電熱抵抗体の発熱部温度θ1とピッチ温度θ2の同一時刻での差△θ(△θ=θ1−θ2)を求め、その値をピッチ温度θ2に対してプロットすると、図3の一点鎖線で示される曲線が得られる。なお、発熱手段のピッチ内での前記発熱部の温度はピッチが冷却されるにつれて、その粘性が高まることにより、発熱部の温度がピッチ内に散逃する度合が低下し、ピッチ温度との差が大きくなる。
【0007】図3の一点鎖線で示される曲線の温度微分曲線を求めると図3の実線で示される曲線が得られる。なお、ここでの微分値は絶対値に換算して用いている。図3から分かるように、ピッチが冷却される過程において、ある特定の温度θ2において温度微分曲線は極値を示す。これは、図3の一点鎖線で示された曲線の変曲点に位置する。前述のように、本発明者らは、この温度微分曲線の極値より求められる変曲点温度は、従来のメトラ軟化点法およびJIS法により測定したピッチの軟化点と一次の相関関係が成り立つことを発見して本発明を完成するに至った。従って、上述のようにしてピッチを経時的に、連続処理するプロセスからサンプリングしたピッチの前記温度微分曲線の極値より求められる変曲点を測定し、計算して求めることにより、予め測定する試料について作成しておいた変曲点を示す温度とメトラ軟化点法、またはJIS法によるピッチの軟化点との検量線からサンプリングしたピッチの軟化点を求めることができる。
【0008】
【実施例】以下、本発明の一実施例について図面と共に具体的に説明する。本実施例は、測定装置、装置容器で試料を冷却すること、および冷却時の発熱装置の発熱部と構造粘性物質(ピッチ)温度との温度差変化より求めた変曲点温度を測定し、予め求めた検量線により軟化点を測定することから成っている。次に、軟化点の測定方法を具体的に説明する。図1に測定装置の構成図を示す。分析試料である溶融ピッチは生産ラインに接続したライン1から所定時間になると自動的に所定量が測定容器2の中央部に導入サンプリングされる。測定容器2は溶融試料の導入される試料部2a、該試料部2a内の試料を冷却するための冷却部2bおよび試料部2aと冷却部2bとの間に密閉した空気層からなる緩衝部2cが設けられている。緩衝部2cは冷媒の温度変化が直接試料部2aへ影響しないようにするためのものである。試料部2a内に導入された試料を冷却するために、冷却部2bにライン3から冷却媒体を供給し冷却を開始する。なお、このときバルブ14、15は閉じられていてライン16からの加熱媒体の緩衝部2cへの供給は停止しており、この時の緩衝部2cは空気層となっている。
【0009】測定容器2内での溶融ピッチ試料の冷却は精度良く軟化点を測定するために、試料部2a内の試料全体を均一に冷却する必要があるが、本実施例では強制冷却を採用した。一定温度にコントロールされた空気、水、温水、油のいずれかを冷却媒体として用いることができる。このようにすることにより、溶融ピッチ試料を導入後に測定容器2内に冷却媒体を供給することで、試料全体を均一に冷却することができ、また、測定の時間の短縮が図れる。
【0010】次に、発熱機能と自らの発熱温度を計測する機能を有する発熱装置兼発熱計測センサー4(例えば特開平1−44838号に示すセンサー)を測定容器2の試料部2a内の導入ピッチのほぼ中央部に差し込み、定電流供給装置6から一定電流を通じながら、導入ピッチの冷却過程における前記センサー4の温度を測定する。さらに、試料部2a内の汎用されている測温センサー5により導入ピッチの冷却過程におけるピッチ温度を測定する。これらの温度測定結果を経時的にデータ処理装置7に出力する。データ処理装置7でのデータ処理により、図2に示す温度対時間曲線を得ることができた。
【0011】図2において、温度θ1は発熱装置兼発熱計測センサー4の温度(発熱部温度)の経時変化を表し、温度θ2は測温センサー5の温度(ピッチ温度)の経時変化を表す。同一時刻での発熱部温度θ1とピッチ温度θ2の温度差△θ(△θ=θ1−θ2)を求め、その値をピッチ温度θ2に対してプロットすると、図3の一点鎖線で示される曲線が得られる。この曲線の温度微分曲線を求めると図3の実線で示される曲線が得られる。図3から分かるように、ピッチが冷却される過程において、ある特定の温度θ2において温度微分曲線は極値を示す。このような処理をデータ処理装置7で行うことにより容易に温度差△θの曲線から変曲点を求めることができる。
【0012】データ処理装置7には図4に記載したように、ピッチ試料の冷却過程における発熱装置兼発熱計測センサー(発熱温度測定手段)4により測定された発熱部の温度θ1と測温センサー(測温手段)5により測定されたピッチ温度θ2との間の温度差△θを算出する算出手段と、該温度差算出手段により算出された温度差△θと測温センサー5で測定されたピッチ温度θ2との関係に基づき前記温度差△θのピッチ温度θ2に対する微分曲線での極値から変曲点を算出するための変曲点算出手段とが内蔵されている。
【0013】こうして、ピッチを経時的に、連続処理する各種プロセスからサンプリングしたピッチの前記温度差△θの変化の微分曲線の極値を測定し、計算して変曲点を求めることにより、予め測定する試料について作成しておいた変曲点を示す温度とメトラ軟化点法またはJIS法によるピッチの軟化点との検量線(図6参照)からサンプリングしたピッチの軟化点を求めることができる。なお、検量線はピッチ類の種類によって、複数個のものを使い分ける方が良く、予めこれら複数の検量線を組み合わせた相関式を作成し、データ処理装置7にインプットしておくとより幅広い測定が可能である。
【0014】また、ピッチ軟化点の測定後の測定容器2の空気層であった緩衝部2cにはライン16から加熱媒体を供給し、ピッチを溶融温度まで加熱する。こうして、ライン1から新しい溶融ピッチを測定容器2内の試料部2aに導入することで、測定済みのピッチを容易に測定容器2から排出することができる。また、本測定装置はプログラマブルコントローラ8で各ライン1、3、16の自動弁10〜15、定電流供給装置6、データ処理装置7など、装置全体の制御を行っており、前述の試料ピッチのサンプリング、冷却、測定、および加熱、排出までプロセス軟化点計として連続自動測定することができる。
【0015】次に、上記測定装置により実際の各種ピッチの軟化点の測定手順とその結果を示す。メトラ法により測定した軟化点が、表1に示す軟化点(82.8℃〜133.8℃)を有する4種類の溶融バインダーピッチA〜Dについて、図1に示す装置を用いて測定した。該溶融バインダーピッチA〜Dは200℃の均一温度になるように調整した後、図5に示す条件下でそれぞれ冷却した。上述のようにして求めた変曲点温度を表1と図5に示す。
【0016】
【表1】


【0017】このバインダーピッチA〜Dのメトラ法による軟化点と、本発明法により得られた変曲点温度の関係を図6に示す。図6に示す結果は式y=(−6.21)+(0.91x)
x:変曲点温度(℃)、y:軟化点温度(℃)
により表される。このようにして、メトラ法による軟化点と本発明の測定方法および装置により求めた変曲点温度の相関関係は0.99以上であり、高度の相関関係が得られた。
【0018】
【発明の効果】本発明によれば、ピッチのような構造粘性を伴う物質に対して、得られるデータのバラツキが少なく、実機プラントにおける工程管理用のプロセス計として充分に対応できる軟化点の測定方法と測定装置が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるピッチの軟化点測定装置の概念図である。
【図2】 図1のピッチの軟化点測定装置を用いた冷却過程でのピッチの発熱部温度とピッチ温度の経時変化を示す図である。
【図3】 図2のピッチの発熱部温度とピッチ温度の経時変化に基づき算出されるピッチ温度とピッチの発熱部温度の差の微分曲線から変曲点を求める図である。
【図4】 図1のピッチの軟化点測定装置のデータ処理装置の構成図である。
【図5】 図1のピッチの軟化点測定装置を用いて各種ピッチについて行った冷却温度の経時変化と算出変曲点を示す図である。
【図6】 図5の算出変曲点とメトラ法による軟化点との関係図である。
【符号の説明】
1…溶融ピッチサンプリングライン、2…測定容器、2a…試料部、2b…冷却部、2c…緩衝部、3…冷媒供給ライン、4…発熱装置兼発熱計測センサー、5…測温センサー、6…定電流供給装置、7…データ処理装置、8…プログラマブルコントローラ、16…加熱媒体供給ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 測定容器に溶融した構造粘性物質の試料の所定量をサンプリングし、該試料の全体を均一に冷却し、冷却過程において、試料温度と所定の定電流に制御される発熱手段の該試料中での発熱温度との差の変化から得られる温度微分曲線に基づき変曲点温度を算出し、予め求めた前記試料の軟化点と変曲点温度の相関関係から、該試料の軟化点を求めることを特徴とする構造粘性物質の軟化点測定方法。
【請求項2】 測定容器にサンプリングされた溶融構造粘性物質の試料は冷却媒体により強制的に、しかも全体を均一に冷却されることを特徴とする請求項1記載の構造粘性物質の軟化点測定方法。
【請求項3】 溶融した構造粘性物質の試料を導入する試料部および該試料部の試料を均一に冷却する冷却部と冷却を均一に行わせるための緩衝部から成る測定容器と、該測定容器の試料部に導入された試料の試料温度測温手段と、前記試料部導入試料に熱を与えるための所定の定電流に制御される発熱手段と、該発熱手段の該試料中での発熱温度計測手段と、試料温度測温手段と発熱温度計測手段によりそれぞれ測定された試料の冷却過程における各温度の温度差算出手段と、該温度差算出手段により算出された温度差の試料温度に対する曲線から変曲点を算出するための変曲点算出手段とを備えたことを特徴とする構造粘性物質の軟化点測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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