説明

横編機用編針のバット構造

【課題】大きな負荷により傾くバットを積極的に折損させてニードルプレートの傷付きを未然に防止するとともに、バットが沈む際に小さな負荷により傾いてもニードルプレートの上縁への引掛かりや摩耗を確実に防止することができる横編機用編針のバット構造を提供する。
【解決手段】横編機の針床のニードルプレート3同士の間に形成した針溝に進退自在に収容される編針のニードルジャック22にバット22aを設け、このバット22aをニードルプレート3の上縁より浮沈自在に上方へ突出させている。ニードルプレート3の上縁に対応するバット22aの対応位置Xにおける進退方向中央部付近に、ニードルプレート3を当接により傷付けるような大きな負荷がバット22aに作用した際にバット22aの対応位置Xを積極的に折損させる脆弱部41を設けている。この脆弱部41の両側方に平坦部42がそれぞれ残存している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機に用いられる編針のバット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、編機の編針には、カムに係合するバットが突設されている。このバットは、丸編機においてはカムとの係合により針溝内で編針を進退方向に移動させるために用いられる。
【0003】
ところで、編機の編成上において編針のバットをカム溝に沿って移動させる際に、針溝を構成するニードルプレート側つまり横方向からの負荷がバットに作用し、当該バットが傾くことがある。このとき、横方向からの負荷が小さければ、バットの傾きも小さいためにニードルプレートに対し接触する程度で済むものの、負荷が大きければ、大きく傾いたバットがニードルプレートに当接し、ニードルプレートを傷付けるおそれがある。
【0004】
かかる点から、従来より、バットが横方向に大きく傾いた際に、バットを積極的に折損させてニードルプレートへの傷付きを未然に防止するようにしたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。このものでは、ニードルプレートの上縁に対応するバットの対応位置の進退方向両端にそれぞれ切込を有し、バットが大きく傾いてニードルプレートの上縁に当接した際に切込を起点にしてバットを積極的に折損させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実公平2−13512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、バットに横方向からの負荷が作用するのは丸編機に限られたものではなく、横編機においても同様の課題が存在する。横編機では、その編成上においてカムやプレッサーによりバットが浮沈する構造となっている。このため、バットの対応位置の進退方向両端に切込が設けられていると、バットが沈む際にニードルプレートの上縁に引掛かったり、ニードルプレートの上縁を摩耗させる恐れがある。これは、バットが沈む際に小さな負荷により傾いてニードルプレートの上縁に対し接触しているからであると考えられる。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、大きな負荷により傾くバットを積極的に折損させてニードルプレートの傷付きを未然に防止することができるとともに、バットが沈む際に小さな負荷により傾いてもニードルプレートの上縁への引掛かりや摩耗を確実に防止することができる横編機用編針のバット構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、横編機の針床にそれぞれ立設されたニードルプレート同士の間に針溝が形成され、この針溝に収容された編針を当該編針に設けられたバットによって進退移動させるようにした編針のバット構造を前提とし、前記バットを、前記各ニードルプレートの上縁より浮沈自在に上方へ突出させている。そして、前記各ニードルプレートの上縁に対応する前記バットの対応位置における進退方向中央部付近に、前記ニードルプレートを当接により傷付けるような大きな負荷が前記バットに作用した際に前記バットの対応位置を積極的に折損させる脆弱部を設ける。更に、前記脆弱部における前記バットの進退方向両側に、平坦部がそれぞれ残存していることを特徴としている。
【0009】
また、前記脆弱部は、前記バットの表裏面のうちの少なくとも一方において凹む凹溝を備えていることが好ましい。
【0010】
これに対し、前記脆弱部は、前記バットの表裏両面を貫通する貫通孔を備えていることが好ましい。
【0011】
更に、前記貫通孔を、前記バットの対応位置に沿って複数設けていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
以上、要するに、ニードルプレートの上縁に対応するバットの対応位置における進退方向中央部付近に設けた脆弱部を、大きな負荷がバットに作用した際に積極的に折損させることで、バットの当接によるニードルプレートの傷付きを確実に防止することができる。
しかも、脆弱部の進退方向両側に平坦部が残存していることで、バットが沈む際に小さな負荷により傾けば、脆弱部の両側の平坦部がニードルプレートの上縁に接触する。これにより、バットが沈む際に平坦部によりスムーズに案内され、ニードルプレートの上縁への引掛かりや摩耗を確実に防止することができる。
【0013】
また、バットの表裏面のうちの少なくとも一方において凹む凹溝、及び/又はバットの表裏両面を貫通する貫通孔を脆弱部に備えることで、バットに大きな負荷が作用した際のバットの積極的な折損を簡単な構成で確実に行うことができる。
【0014】
更に、貫通孔をバットの対応位置に沿って複数設けることで、バットに大きな負荷が作用した際のバットの積極的な折損を連鎖的に円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る横編機用編針のバット構造を用いた横編機の針溝をプレート溝の並設方向直後で切断した針床の縦断側面図である。
【図2】図1のニードルジャックの編成動作用バットをニードルプレート側から見た側面図である。
【図3】図2の編成動作用バットを歯口側から見た正面図である。
【図4】図2の編成動作用バットを脆弱部において切断した横断平面図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る図2相当図である。
【図6】図5の編成動作用バットを歯口側から見た正面図である。
【図7】図5の編成動作用バットを脆弱部において切断した横断平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の横編機の好適な実施の形態を図面と共に以下詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る横編機の針溝をプレート溝の並設方向直後で切断した針床の縦断側面図である。
【0018】
本発明の横編機は、針床1の長手方向(紙面手前奥方向)に並設された複数のプレート溝12と、この各プレート溝12にそれぞれ立設されたニードルプレート3と、編針2とを備えている。この編針2は、針床1の互いに隣接するニードルプレート3同士と針床1の上面10とで囲まれて形成された針溝11に一本ずつ配置されている。また、編針2は、図示しないヤーンフィーダから編糸が供給される歯口gに対して進退する進退移動可能な状態で針溝11内に収容されている。なお、図1では、ニードルプレート3の歯口g側(前端側)に設ける可動シンカーを省略している。
【0019】
編針2では、ニードル本体21の進退方向後部(以下、単に後部と称する)にニードルジャック22を係合させている。ニードルジャック22は、図示しないカムシステムの作用を受けるバットとしての編成動作用バット22a及び目移し動作用バット22bをそれぞれ備えている。ニードルジャック22の上方には、当該ニードルジャック22の後部に対し作用するセレクトジャック23が配置されている。セレクトジャック23は、バットとしての押圧バット23aを備えている。そして、各バット22a,22b,23aは、図示しないカムやプレッサーなどによる押圧力が作用すると、ニードルプレート3の上縁より針溝11内に沈み込むように浮沈自在に構成されている。
【0020】
セレクトジャック23には、その上方からセレクタ24が作用する。セレクタ24は、図示しない選針機構による選針作用を受ける位置決めのための前後のバット24a,24bの間に選針用バット24cを備えている。セレクタ24は、選針機構のアクチュエータが選針用バット24cを押圧しない状態か押圧する状態であるかによって、選択状態となるか否かが決定される。選択状態のセレクタ24は、針溝11内で浮上しており、後側のバット24bに選針用のカムが作用し得る状態となる。選針用バット24cが押圧されてセレクタ24が針溝11内に沈むと非選択状態となる。非選針状態のセレクタ24は、図示しない復帰機構により後端の復帰部24dを押上げることによって、針溝11内で浮上する状態に復帰する。
【0021】
ニードル本体21の進退方向前端部(以下、単に前端部と称する)にはフック21aが設けられている。フック21aは、べら21bによって開閉される。ニードル本体21のフック21aから少し後退した位置には、羽根21cが設けられている。なお、編針2としては、このようなべら針に限定されることはなく、スライダでフックを開閉させる複合針も適用可能である。
【0022】
ニードルプレート3の前端部及び後部には、係合溝33及び係合孔34がそれぞれ設けられている。ニードルプレート3は、当該ニードルプレート3の並設方向に延びる鋼帯35及びワイヤ36が係合溝33及び係合孔34にそれぞれ嵌め込まれて位置決めされている。そして、ニードル本体21とほぼ接するスペーサ37は、ニードルプレート3の前端部の鋼帯35及びワイヤ36と係合して位置決めされている。また、ニードルジャック22、セレクトジャック23及びセレクタ24は、ニードルプレート3の後部の鋼帯35及びワイヤ36によって位置決めされ、針溝11から外れないようにしている。
【0023】
図2はニードルジャック22の編成動作用バット22aをニードルプレート3側から見た側面図、図3は編成動作用バット22aを歯口g側から見た正面図、図4は編成動作用バット22aを脆弱部において切断した横断平面図である。
【0024】
この図2〜図4に示すように、ニードルプレート3の上縁に対応するニードルジャック22及びセレクトジャック23の各バット22a,22b,23a(同一構成となるので、図2〜図4において編成動作用バット22aについてのみ説明する)の対応位置Xにおける進退方向中央部付近には、脆弱部41が設けられている。この脆弱部41は、編成動作用バット22aの表裏両面の対応位置X上における進退方向両端(図2では左右両端)に平坦部42がそれぞれ残存した状態で、その両平坦部42,42間に位置している。この平坦部42は、脆弱部41を設けるに当たって当該脆弱部41の加工が施されずに残存している未加工部位のことである。
【0025】
脆弱部41は、ニードルプレート3を当接により傷付けるような大きな負荷が編成動作用バット22aに作用した際に当該バット22aの対応位置Xを積極的に折損させるように構成されている。具体的には、脆弱部41は、編成動作用バット22aの表裏両面を貫通する5個の貫通孔43を備えている。各貫通孔43は、それぞれほぼ均一な大きさの略真円形状を呈し、編成動作用バット22aの対応位置Xに沿って等間隔で並設されている。これにより、脆弱部41を構成する5個の貫通孔43が編成動作用バット22aの対応位置Xに沿って一列に並設されることになり、編成動作用バット22aに大きな負荷が作用した際の当該バット22aの積極的な折損を連鎖的に円滑に行うことができる。なお、貫通孔43としては、対応位置X上に並設した5個の略真円形状のものに限らず、5個未満の略円形状のものであってもよいのはもちろんのこと、対応位置X上に長径を沿わせた単一又は複数の略楕円形状や略菱形形状のものであってもよい。
【0026】
各貫通孔43は、編糸の糸くずの侵入を規制する孔径、例えば0.5mm程度の孔径に設定されている。なお、孔径を大きく設定する場合には、ニードルジャック22の材料よりも軽量な材料、例えば合成樹脂などにより閉塞されていてもよい。この場合には、貫通孔43の閉塞による重量増加を抑えることが可能となるとともに、貫通孔43への糸くずの侵入を確実に防止することが可能となる。
【0027】
次に、本発明の第2の実施の形態を図5〜図7に基づいて説明する。
図5はニードルジャック22の編成動作用バット22aをニードルプレート3側から見た側面図、図6は編成動作用バット22aを歯口g側から見た正面図、図7は編成動作用バット22aを脆弱部において切断した横断平面図である。なお、脆弱部を除くその他の構成は、第1の実施の形態と同じであるので、脆弱部の構成についてのみ説明する。
【0028】
すなわち、図5に示すように、脆弱部51は、編成動作用バット22aの対応位置X上における進退方向中央部付近に設けられている。この脆弱部51は、編成動作用バット22aの表裏両面の対応位置X上における進退方向両端(図5では左右両端)に平坦部52がそれぞれ残存した状態で、その両平坦部52,52間に位置している。そして、脆弱部51は、編成動作用バット22aの表裏両面の両平坦部52,52間において対応位置X上に長径を沿わせるように凹設された略楕円形状の凹溝53を備えている。これにより、大きな負荷が編成動作用バット22aに対し表裏両方向のいずれから作用しても、積極的に折損させることができる。なお、凹溝53としては、単一の略楕円形状のものに限らず、対応位置上において列をなす複数の略楕円形状、略真円形状、又は略菱形形状のものであってもよい。
【0029】
凹溝53は、図6に示すように、その短径方向が断面略円弧状に形成されているとともに、図7に示すように、長径方向の両端部も断面略円弧状に形成されている。具体的には、凹溝53の長径方向両端部は、平坦部52に近づくに従い深さが浅くなって平坦部52にそれぞれ両端が収束している。なお、凹溝53は、編成動作用バット22aの表裏両面に必ずしも必要でなく、深さなどを考慮して表裏両方向のいずれから大きな負荷が作用しても積極的に折損させ得るものであれば、表裏両面の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0030】
第1及び第2の実施の形態では、いずれにおいても、ニードルプレート3の上縁に対応する各バット22a,22b,23aの対応位置Xにおける進退方向中央部付近に設けた脆弱部41,51が、大きな負荷が当該バット22a,22b,23aに作用した際に積極的に折損するので、当該バット22a,22b,23aの当接によるニードルプレート3の傷付きを簡単な構成で確実に防止することができる。
【0031】
また、各バット22a,22b,23aの表裏両面の対応位置X上における進退方向両端(脆弱部41,51の両側方)に平坦部42,52が残存しているので、当該バット22a,22b,23aがニードルプレート3の上縁に接触した際に両平坦部42,52により案内されて、ニードルプレート3の上縁への引掛かりや摩耗を確実に防止することができる。
【0032】
しかも、ニードルジャック22及びセレクトジャック23のプレス成形時に、0.5mm程度の孔径の各貫通孔43や凹溝53であれば、プレス成形と同時に編成動作用バット22aに成形することも可能であり、脆弱部41,51を非常に簡単かつ安価に構成することができる。
【0033】
なお、前記各実施の形態では、脆弱部41を5個の貫通孔43により構成したり、脆弱部51を凹溝53により構成したが、脆弱部が貫通孔と凹溝とで構成されていてもよい。この場合には、凹溝の深さと貫通孔の孔径又は個数とを選定した上で脆弱部を構成する必要がある。
【符号の説明】
【0034】
1 針床
11 針溝
2 編針
22a 編成動作用バット
22b 目移し動作用バット
23a 押圧バット
3 ニードルプレート
41 脆弱部
43 貫通孔
51 脆弱部
53 凹溝
X 対応位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床にそれぞれ立設されたニードルプレート同士の間に針溝が形成され、この針溝に収容された編針を当該編針に設けられたバットによって進退移動させるようにした横編機用編針のバット構造において、
前記バットは、前記各ニードルプレートの上縁より浮沈自在に上方へ突出しており、
前記各ニードルプレートの上縁に対応する前記バットの対応位置における進退方向中央部付近には、前記ニードルプレートを当接により傷付けるような大きな負荷が前記バットに作用した際に前記バットの対応位置を積極的に折損させる脆弱部が設けられているとともに、前記脆弱部における前記バットの進退方向両側には、平坦部がそれぞれ残存していることを特徴とする横編機用編針のバット構造。
【請求項2】
前記脆弱部は、前記バットの表裏面のうちの少なくとも一方において凹む凹溝を備えている請求項1に記載の横編機用編針のバット構造。
【請求項3】
前記脆弱部は、前記バットの表裏両面を貫通する貫通孔を備えている請求項1に記載の横編機用編針のバット構造。
【請求項4】
前記貫通孔は、前記バットの対応位置に沿って複数設けられている請求項3に記載の横編機用編針のバット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53385(P2013−53385A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191683(P2011−191683)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】