説明

樹脂枠材、建具、及び樹脂枠材の製造方法

【課題】防火性及び断熱性が良好な樹脂枠材、建具、及び樹脂枠材の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂に強化繊維を分散させた成形材料を押出成形することにより形成される樹脂枠材としての下枠(20)であって、強化繊維は、その径方向の断面が非円形形状であり、かつ、その長さ方向が成形材料の押出方向に沿って配向されている。下枠(20)は、強化繊維がガラス繊維(60)であり、ガラス繊維(60)に対する塩化ビニル系樹脂の質量比((塩化ビニル系樹脂)/(ガラス繊維(60)))が2.3以上19以下であることが望ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂枠材、建具、及び樹脂枠材の製造方法に関し、所謂樹脂窓等に用いられる樹脂枠材、この樹脂枠材を備えた建具、及び樹脂枠材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、窓枠等に用いられる枠材として、樹脂枠材が知られている(特許文献1,2参照)。特許文献1,2に記載の樹脂枠材は、ポリ塩化ビニル系樹脂とガラス繊維とを含む成形材料を押出成形することにより得られる。また、特許文献1に記載の樹脂枠材においては、ガラス繊維が樹脂枠材の長手方向に延びるように配向している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−138885号公報
【特許文献2】特開2000−328844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載の樹脂枠材においては、耐候性や剛性を向上させる点については開示されているが、防火性については、具体的に開示されていない。
さらに、特許文献1,2に記載の樹脂枠材において、ガラス繊維として、その径方向の断面が円形形状であるものを用いた場合、断熱性は比較的良好であるものの、防火性が不十分であった。従って、このような樹脂枠材は、比較的容易に溶融したり、消失するので、高い防火性が求められている窓枠などに用いることが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、防火性及び断熱性が良好な樹脂枠材、建具、及び樹脂枠材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塩化ビニル系樹脂に、強化繊維を分散させた成形材料を押出成形することにより形成される樹脂枠材であって、前記強化繊維は、その径方向の断面が非円形形状であり、かつ、その長さ方向が前記成形材料の押出方向に沿って配向していることを特徴とする。
【0007】
このような本発明では、径方向の断面が円形形状の強化繊維を用いる場合と比較して、径方向の断面が非円形形状の強化繊維を用いているため、防火性に優れる。そのため、本発明では、強化繊維の含有量が少ない場合でも、良好な防火性を発揮できる。
ここで、強化繊維は、塩化ビニル系樹脂よりも熱伝導率が高いため、樹脂枠材において、強化繊維の含有量が多くなると、断熱性が低下する。また、強化繊維の含有量が多い場合、硬脆くなるため、耐衝撃性も低下する。
これに対して、本発明では、強化繊維の含有量を少なくできるので、防火性に加えて、断熱性と耐衝撃性も良好に発揮できる。
本発明の樹脂枠材としては、建物開口部に固定される窓枠、方立、無目等、障子の框材、桟材が挙げられる。
【0008】
本発明において、前記強化繊維は、ガラス繊維であり、前記ガラス繊維に対する前記塩化ビニル系樹脂の質量比((前記塩化ビニル系樹脂)/(前記ガラス繊維))が2.3以上19以下であることが望ましい。
このような本発明では、質量比を19以下とすることにより、ガラス繊維の含有量を比較的多くして、良好な防火性を得ることができる。また、質量比を2.3以上とすることにより、ガラス繊維の含有量を比較的少なくして、断熱性と耐衝撃性を良好に発揮できる。
【0009】
本発明において、前記質量比が2.3以上9以下であることが望ましく、2.3以上4以下であることがより望ましい。
このような本発明では、質量比を2.3以上9以下、特に、2.3以上4以下とすることにより、さらに防火性に優れた樹脂枠材とすることができる。
【0010】
本発明において、前記ガラス繊維は、その径方向の断面における最短径に対する最長径の異形比((前記最長径)/(前記最短径))が1.5以上5以下であることが望ましい。
このような本発明では、異形比を1.5以上にすることにより、さらに樹脂枠材の耐衝撃性が向上する。一方、異形比を5以下にすることにより、扁平化を抑制でき、耐荷重性に優れる。
【0011】
本発明において、金属板材が前記成形材料の押出方向に沿って挿入されていることが望ましい。
このような本発明では、金属板材を挿入することにより、さらに耐衝撃性に優れた樹脂枠材とすることができる。
【0012】
本発明の建具は、上述の樹脂枠材と、この樹脂枠材により保持された面材とを備えることを特徴とする。
このような本発明では、上述の樹脂枠材を備えるため、防火性、断熱性、及び耐衝撃性が良好な建具とすることができる。
ここで、本発明の建具としては、開閉不能な嵌め殺し窓であってもよく、適宜な開閉形式を有したものであってもよい。開閉可能な建具としては、引違い窓、上げ下げ窓、縦、横辷出し窓、突出し窓、引違い窓、片引き窓などの各種開閉窓が挙げられる。
また、その他の本発明の建具としては、可動障子、固定障子、戸、扉等が挙げられる。
本発明の建具において、面材としては、耐熱強化ガラス等が挙げられる。
【0013】
本発明の樹脂枠材の製造方法は、塩化ビニル系樹脂に、径方向の断面が非円形形状の強化繊維を分散させて成形材料を調整する調整工程と、前記成形材料を押出成形し、前記強化繊維をその長さ方向が前記成形材料の押出方向に沿う状態に配向させる成形工程とを備え、前記強化繊維に対する前記塩化ビニル系樹脂の質量比((前記塩化ビニル系樹脂)/(前記強化繊維))が4以上19以下であることを特徴とする。
ここで、樹脂枠材において、強化繊維の含有量が多い場合、流動性が低下し、樹脂圧力が上昇する。そのため、所定形状に樹脂枠材を形成することが困難になる可能性がある。
これに対して、本発明では、上述したように、径方向の断面が円形形状の強化繊維を用いる場合と比較して、強化繊維の含有量を少なくできるので、流動性が良好となり、樹脂圧力の上昇を抑制できる。よって、本発明では、容易に所定形状の樹脂枠材を製造できる。
また、本発明では、径方向の断面が円形形状のガラス繊維を用いる場合と比較して、上述したように、防火性、断熱性、及び耐衝撃性が良好な樹脂枠材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態の建具を示す正面図。
【図2】前記第1実施形態の建具における樹脂枠材を示す断面図。
【図3】前記樹脂枠材における押出方向の断面を拡大して示す断面図。
【図4】前記樹脂枠材における押出方向と略直交する方向の断面を拡大して示す断面図。
【図5】本発明の第2実施形態の樹脂枠材を示す断面図。
【図6】本発明の樹脂枠材に用いられる強化繊維の変形例を示す断面図。
【図7】(A)比較例の樹脂枠材における押出方向の断面を拡大して示す断面図。(B)比較例の樹脂枠材における押出方向と略直交する方向の断面を拡大して示す断面図。
【図8】(A)実施例の樹脂枠材における押出方向の断面を拡大して示す断面図。(B)実施例の樹脂枠材における押出方向と略直交する方向の断面を拡大して示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
(建具の構成)
図1から図4には、本発明の第1実施形態の建具及び樹脂枠材が示されている。
図1および図2において、第1実施形態の建具としての窓1は、屋内空間と屋外空間とを仕切る嵌め殺し窓である。この窓1は、開口部の躯体Sに固定される窓枠10と、この窓枠10内部に嵌め込まれる面材としての複合ガラス10Aとを備える。
窓枠10は、それぞれ樹脂枠材としての下枠20、上枠30および左右の縦枠40を備え、接合金物50により下枠20、上枠30および左右の縦枠40を四周枠組みして構成されている。これら下枠20、上枠30および縦枠40は、長さ方向の断面が共通している。
【0016】
例えば、下枠20は、屋内側に設けられ、見付け方向内側(図2の上側)に延びる第1の保持部21と、屋外側に設けられた第2の保持部22とを備える。
このような第1の保持部21と第2の保持部22とは、複合ガラス10Aの下端の周囲に気密材51と押し縁52とセッティングブロック53とを配置した状態で、複合ガラス10Aの下端部を保持する。
上枠30および縦枠40も、下枠20と同様に、複合ガラス10Aの端部を保持する。なお、複合ガラス10Aは、例えば、耐熱強化ガラスである。
以下、図2から図4に基づいて下枠20を詳細に説明する。
【0017】
(樹脂枠材の構成)
図2から図4に示すように、下枠20は、塩化ビニル系樹脂と強化繊維としてのガラス繊維60とを含んでいる。この下枠20は、塩化ビニル系樹脂に、ガラス繊維を分散させた成形材料を押出成形することにより形成される。
【0018】
塩化ビニル系樹脂は、主鎖に塩化ビニル化合物単位又は塩素化塩化ビニル単位を有し、例えば塩化ビニルのホモポリマーである。
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル化合物単位又は塩素化塩化ビニル単位と、これ以外のビニル化合物単量体に由来する単量体単位とを有する共重合体でも良い。
このような共重合体としては、例えば、グラフト共重合体が挙げられる。グラフト共重合体としては、例えば、塩化ビニル化合物単位又は塩素化塩化ビニル単位が主鎖を構成し、これら以外のビニル化合物単量体に由来する単量体単位が側鎖を構成する重合体でも良く、塩化ビニル化合物単位又は塩素化塩化ビニル単位が側鎖を構成し、これら以外のビニル化合物単量体に由来する単量体単位が主鎖を構成する重合体でも良い。
【0019】
このようなグラフト共重合体としては、具体的には、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、塩素化ポリエチレン等が主鎖を構成し、塩化ビニル化合物単量体が側鎖を構成する重合体が挙げられる。
塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル化合物単位又は塩素化塩化ビニル単位の含有量が70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
塩化ビニル単位等の含有量を70質量%以上とすることにより、着火しにくくなる。
【0020】
塩化ビニル系樹脂は、さらに可塑剤を含有する硬質塩化ビニル系樹脂でもよい。硬質塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂の含有量が70質量%よりも大きく、かつ、可塑剤の含有量が30質量%以下である。
また、硬質塩化ビニル系樹脂は、塩素化塩化ビニル系樹脂を含有し、塩素含有量が60質量%以上70質量%以下であることが好ましい。塩素化塩化ビニル系樹脂を主体とすることにより、難燃性が高く、樹脂の分散性が良好で、平滑な表面を有する下枠20を得ることができる。
なお、硬質塩化ビニル系樹脂は、塩素化処理を施していない塩化ビニル系樹脂を含有していても良い。
【0021】
ここで、硬質塩化ビニル系樹脂の平均重合度(JIS K−6721)は、500以上1500以下が好ましい。平均重合度を500以上1500以下とすることにより、耐衝撃性が高く、成形時の溶融粘度が低くなり、良好に成形できる。
また、硬質塩化ビニル系樹脂のビカット軟化点温度(JIS A−5756)が80℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましい。ビカット軟化点温度を80℃以上とすることにより、高温雰囲気に曝された場合に変形しにくくすることができる
【0022】
塩化ビニル系樹脂の製造方法は、例えば塩化ビニルとビニル化合物との混合物を懸濁重合法、塊状重合法、微細懸濁重合法、又は乳化重合法等で重合する方法が挙げられる。
硬質塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル系樹脂と塩素化塩化ビニル系樹脂との混合物から得られ、このような混合物の製造方法は、気相状態、水中に懸濁した状態又は溶媒に溶解した状態で、塩化ビニル系樹脂の粉末を塩素化する方法が挙げられる(例えば特公昭36−888号公報及び特公昭45−30833号公報等参照)。
【0023】
(強化繊維)
図3に示すように、ガラス繊維60は、成形後の下枠20において、繊維の長さL1が300μm以上900μm以下であることが好ましく、500μm以上700μm以下であることがより好ましい。
ガラス繊維60の繊維の長さL1を長くすることにより、防火性及び寸法安定性に優れる。一方、ガラス繊維60の繊維の長さL1を短くすることにより、流動性に優れる。
このような繊維の長さL1は製造工程の混合条件と成形条件で調整できる。なお、押出成形時、ガラス繊維60の断面の非円形形状は変化しないが、繊維の長さL1は切断されて短くなる。
【0024】
ガラス繊維60は、その長さ方向が成形材料の押出方向、すなわち、下枠20の長さ方向に沿って配向している。このような配向は、成形時にガラス繊維60の側面が成形機の表面と平行になるため得られる。ガラス繊維60は、成形材料の押出方向に沿って配向しているため、側面で荷重を受けることができ、耐荷重性に優れる。
さらに、径方向にも若干の補強効果が現われるため、耐衝撃性がより高まるとともに、寸法変化の差異が小さくなる。そのためヒケが発生し難くなる。
【0025】
図2,4に示すように、ガラス繊維60は、成形材料の押出方向と略直交する方向、すなわち、径方向の断面が非円形状(異形)である。非円形状としては、例えば、長円が好ましい。
このようなガラス繊維60は、異形比(径方向の断面積の最長径L2と最短径L3との比率)が1.5以上5以下であることが好ましく、2以上4以下であることより好ましい。
異形比を1.5以上とすることにより、耐衝撃性が向上する。一方、異形比を5以下とすることにより、扁平化を抑制でき、耐荷重性に優れる。
【0026】
ガラス繊維60の最短径L3は5μm以上12μm以下であることが好ましい。最短径L3を5μm以上とすることにより、適度な大きさとなり、製造時に破断したり、破損することを抑制できる。従って、低コストで安定して品質を確保でき、実用性が高くなる。
一方、最短径L3を12μm以下とすることにより、ガラス繊維60を適度に細くでき、成形材料中で良好に分散する。これにより、下枠20に強度ムラが発生することを防止できる。
【0027】
また、ガラス繊維60は、その最長径L2の方向が押出方向と略直交する方向、且つ下枠20の板厚方向と略直交する方向に沿って配向していることが好ましい。最長径L2の方向を下枠20の板厚方向と略直交する方向に沿って配向させることにより、防火性を向上させることができる。防火性が向上する要因としては、ガラス繊維60が配向していることにより、火炎に対してガラス繊維60の隙間が少なく、壁のように作用するためと推定している。
【0028】
ガラス繊維60に対する塩化ビニル系樹脂の質量比((塩化ビニル系樹脂)/(ガラス繊維60))が2.3以上19以下であることが好ましい。
質量比を19以下とすることにより、ガラス繊維60の含有量を比較的多くして、良好な防火性を得ることができる。また、質量比を2.3以上とすることにより、ガラス繊維60の含有量を比較的少なくして、断熱性と耐衝撃性を良好に発揮できる。
断熱性としては、具体的には、熱貫流率を1.9W/(m・K)程度以下とすることができる。
そして、質量比が2.3以上9以下であることがより好ましく、2.3以上4以下であることがさらに好ましい。このような質量比にすることにより、さらに防火性に優れた下枠20とすることができる。
なお、質量比が4以上19以下でもよい。この場合、さらに、耐衝撃性に優れた下枠20とすることができるとともに、成形材料の流動性が高くなり、容易に所定形状の下枠20に成形できる。例えば、下枠20の表面や内部にリブ部を精度良く形成することができる。
【0029】
また、ガラス繊維60は、塩化ビニル系樹脂がアミド結合を含む場合、塩化ビニル系樹脂との接着性、接合性を考慮して、表面処理剤で処理することが好ましい。
このような表面処理剤は、シランカップリング剤、サイジング剤などが挙げられる。
シランカップリング剤は、片末端にエポキシ基又はアミノ基等を有することが好ましい。
サイジング剤は、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系等が好ましい。
これらシランカップリング剤及びサイジング剤は、塩化ビニル系樹脂の物性に応じて選択される。例えば、上述のシランカップリング剤は、エポキシ基又はアミノ基が塩化ビニル系樹脂のアミド結合に作用して耐衝撃性を向上させることができる。
また、成形材料には、以下の材料が添加されていても良い。具体的には、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、シラスバルーン等の充填材や軽量化材、難燃剤、熱安定剤、滑剤等が含まれていてもよい。
なお、強化繊維は、ガラス繊維60のほか、炭素繊維などの無機繊維や、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アラミド繊維などの有機繊維でもよい。
【0030】
(樹脂枠材の製造方法)
第1実施形態の下枠20の製造方法は、調整工程と、成形工程とを備えた押出成形である。
調整工程は、塩化ビニル系樹脂と、ガラス繊維60とを混合して成形材料を調整する。成形材料は、具体的には、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ヘンシェルミキサー、ロール等の装置を用いて調整する。
成形工程は、成形材料を押出成形により、ガラス繊維60をその長さ方向が押出方向に沿う状態に配向させる。押出成形は、二軸押出成形が好ましい。ただし、一軸押出成形でもよい。
このような製造方法により、上述した下枠20を得ることができる。
【0031】
第1実施形態では、以下の効果が得られる。
(1)下枠20、上枠30、縦枠40、40により形成された窓枠10は、各枠に異形のガラス繊維60を含むため、断面が円形形状のガラス繊維を含む場合と比較して、防火性に優れる。そのため、ガラス繊維60の含有量を少なくして、断熱性と耐衝撃性を向上させることができる。
(2)ガラス繊維60と塩化ビニル系樹脂との質量比を2.3以上19以下とすることにより、下枠20などは、確実に、防火性、断熱性、及び耐衝撃性が良好となる。
(3)質量比を2.3以上9以下、特に、2.3以上4以下とすることにより、下枠20などは、さらに防火性に優れる。
【0032】
(4)ガラス繊維60の異形比を1.5以上5以下とすることにより、さらに下枠20などは、耐衝撃性に優れるとともに、扁平化を抑制でき、耐荷重性に優れる。
(5)窓1は、下枠20、上枠30、縦枠40、40を備えるため、防火性、断熱性、及び耐衝撃性を良好にできる。
(6)調整工程では異形の下枠20、上枠30、縦枠40、40の成形に備え、ガラス繊維60と塩化ビニル系樹脂とを混合して成形材料を調整し、成形工程ではガラス繊維60をその長さ方向が成形材料の押出方向に沿う状態に配向させるので、防火性、断熱性、及び耐衝撃性が良好な各枠を製造することができる。また、径方向の断面が円形形状のガラス繊維を用いる場合と比較して、成形材料が良好に流動するので、容易に所定形状の樹脂枠材を形成できる。
【0033】
〔第2実施形態〕
図5に本発明の第2実施形態が示される。
(樹脂枠材の構成)
図5において、第2実施形態の下枠20には、第1の金属板材71と第2の金属板材72とが挿入されている。
第1の金属板材71は、第1の保持部21の保持面部23と、この保持面部23に連続し躯体Sに固定される第1個底片部24とに折れ曲って挿入されている。
一方、第2の金属板材72は、第2の保持部22のリブ状部25と、このリブ状部25に連続した見込み面部26と、見込み面部26に連続し躯体Sに固定される第2固定片部27とに折れ曲って挿入されている。第1の金属板材71,第2の金属板材72は、下枠20の全長に亘って挿入されている。
【0034】
(樹脂枠材の製造方法)
第2実施形態の下枠20の製造方法は、調整工程と、挿入工程と、成形工程とを備えたインサート押出成形である。
調整工程は、上述したように、塩化ビニル系樹脂と、ガラス繊維60とを上述の質量比で混合して成形材料を調整する。挿入工程は、押出成形金型内において、所定形状に加工された第1の金属板材71と第2の金属板材72とを成形材料に挿入する。成形工程は、第1の金属板材71,第2の金属板材72と成形材料とを一体に押出成形して、第1の金属板材71,第2の金属板材72を挿入した下枠20を形成する。
第2実施形態では、上述の第1実施形態の効果に加えて、以下の効果が得られる。
(7)窓1の、下枠20、上枠30、縦枠40、40の各枠には第1の金属板材71,第2の金属板材72が挿入されているので、下枠20などの耐衝撃性を向上させることができる。
【0035】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。
例えば、前記各実施形態においては、建具として、嵌め殺し窓を例示したが、本発明の建具は適宜な開閉形式を有した窓や出入り口であってもよい。
そして、前記第1実施形態では、ガラス繊維の径方向の断面の形状として、長円が好ましいと説明したが、図6(A)に示すようなまゆ形や、(B)に示すような楕円などでもよい。断面形状がまゆ形や楕円の場合、異形比は、例えば、2である。
また、前記第2実施形態では、窓枠の下枠、上枠および左右の縦枠の全ての枠材に金属板材を挿入した構成を説明したが、建具の設置状況によっては、四周の枠材から適宜に選択した一または複数の枠材に金属板材を挿入してもよい。なお、金属板材等の枚数は、1枚でも良く3枚以上でもよい。
また、金属板材には、亜鉛メッキ等などのメッキ処理が施されていてもよい。例えば、金属板材に亜鉛メッキを処理することにより、成形材料との接着性を高めることができる。これによって、成形材料と金属板材とを加熱によって剥がれにくくすることができるので、防火性をさらに高めることができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
〔実施例及び比較例〕
以下の試料1から8の成形材料を用いて樹脂枠材を成形し、この樹脂枠材を用いて窓を作製した。作製した窓の防火性及び断熱性と、樹脂枠材の耐衝撃性と、成形時の樹脂圧力とを比較した。ここで、試料1から4が比較例であり、試料5から8が本発明の実施例である。
【0037】
(試料1)
試料1の成形材料は、塩化ビニル系樹脂(耐熱性樹脂)からなる。この塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル樹脂(平均重合度1000)100質量部、ジオクチルスズ安定剤1.5質量部、ステアリン酸カルシウム0.5質量部、パラフィンワックス0.1質量部、酸化チタン4質量部、炭酸カルシウム5質量部、ステアリン酸亜鉛0.5質量部、アクリル系加工助剤0.1質量部を、ヘンシェルミキサーにてブレンドすることにより得た。
試料1の塩化ビニル系樹脂をコニカル二軸押出成形機を使用して、図2に示すような形状になるように押出成形し、樹脂枠材を作製した。樹脂枠材における窓のコーナー部に対応する端部を切断し、切断された4本の樹脂枠材と、2層の耐熱強化ガラスとを用いて、図1に示すような窓を作製した。
なお、耐熱強化ガラスと樹脂枠材との間には必要に応じて、防火シール剤や膨張性黒鉛を使用して、隙間を埋めるようにした。
【0038】
(試料2から8)
試料1の塩化ビニル系樹脂に表1に示す添加量でガラス繊維(強化繊維)を添加して試料2から8の成形材料を作製した以外は、試料1と同様に、樹脂枠材及び窓を作製した。試料2から4の成形材料には、ガラス繊維として、以下に示すガラス繊維Aを用いて樹脂枠材を成形した。得られた樹脂枠材を観察した結果、図7(A)、(B)に示すように、ガラス繊維Aは、その長さ方向がほぼ成形材料の押出方向に沿って配向され、かつ、その径方向の断面形状が円形形状であった。なお、成形後のガラス繊維Aの繊維の長さL1を表1に示す。
一方、試料5から8の成形材料には、ガラス繊維として、以下に示すガラス繊維Bを用いて樹脂枠材を成形した。得られた樹脂枠材を観察した結果、図8(A)、(B)に示すように、ガラス繊維Bは、その長さ方向が成形材料の押出方向に沿って配向され、かつ、その径方向の断面形状が非円形形状であった。なお、成形後のガラス繊維Bの繊維の長さL1を表1に示す。
【0039】
(ガラス繊維A)
径方向の断面形状:円形形状
繊維の直径 :10μm
繊維の長さ :3mm
異形比 :1
(ガラス繊維B)
径方向の断面形状 :非円形形状(長円形)
繊維の直径(最短径):8μm
繊維の長さ :3mm
異形比 :4
【0040】
(防火性)
試料1から8を用いて作製した窓について、防火試験炉を用いて耐火試験を行った(ISO834準拠)。
具体的には、非加熱面側へ10秒よりも長く継続して火炎が噴出するまでの時間を計測した。計測した時間は分単位で概数とした。耐火試験は30分まで行い、10秒よりも長く継続して火炎の噴出がなかった場合は30分以上とした。
防火性は、以下のように四段階にランク分けして評価した。試料1から8の耐火試験の評価結果を表2に示す。なお、耐火試験は20分以上であれば、実用上問題ないレベルであり、時間が長い程、防火性が優れている。
【0041】
(防火性のランク)
ランク1(表2に◎で示す):30分以上
ランク2(表2に○で示す):24分以上30分未満
ランク3(表2に△で示す):20分以上24分未満
ランク4(表2に×で示す):20分未満
【0042】
(断熱性)
試料1から8を用いて作製した窓について、断熱性試験(JIS A4710「建具の断熱性試験方法」準拠)を行い、熱貫流率を測定し、窓の断熱性を評価した。
断熱性は、熱貫流率が2.33W/(m・K)以下の場合好ましく、値が小さい程優れると評価した。
試料1から8の熱貫流率を表2に示す。
【0043】
(耐衝撃性)
試料1から8を用いて作製した樹脂枠材について、耐衝撃性試験(JIS K5600−5−3「落球式衝撃試験方法」に準拠)を行い、樹脂枠材の耐衝撃性を評価した。
具体的には、500gの錘を50cmの高さから樹脂枠材に対して落下させて、樹脂枠材の耐衝撃性を評価した。
耐衝撃性は、以下のように三段階にランク分けして評価した。試料1から8の耐衝撃性試験の評価結果を表2に示す。
なお、「○」、「◎」であれば、実用上問題ないレベルである。
【0044】
(耐衝撃性のランク)
ランク1(表2に◎で示す):錘が当たった部分にワレやヒビが見られない。
ランク2(表2に○で示す):錘が当たった部分に3mm未満のヒビが見られる
ランク3(表2に×で示す):錘が当たった部分に3mm以上の大きなヒビやワレが見られる。
【0045】
(樹脂圧力)
コニカル二軸押出成形機で試料1の成形材料を用いて樹脂枠材を複数成形し、樹脂圧力の平均値を算出した。樹脂圧力は、樹脂圧センサーにより、二軸押出成形機の押出機から押出成形金型に流入する溶融樹脂の樹脂圧力を検知することで、測定した。
試料2から8の成形材料を用い、試料1と同様に、各試料について樹脂圧力の平均値を算出した。
そして、試料1の平均値を100として、試料2から8の樹脂圧力の平均値より相対平均値をそれぞれ算出した。
樹脂圧力は、以下のように四段階にランク分けして評価した。試料1から8の樹脂圧力の評価結果を表2に示す。
なお、試料2から8の相対平均値は、100付近が好ましく200を超えると、コニカル二軸押出成形機が壊れるなど問題が発生するおそれがある。
【0046】
(樹脂圧力のランク)
ランク1(表2に◎で示す):相対平均値が100以上140未満
ランク2(表2に○で示す):相対平均値が140以上160未満
ランク3(表2に△で示す):相対平均値が160以上180未満
ランク4(表2に×で示す):相対平均値が180以上
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
以上の実施例及び比較例によって以下の知見が得られた。
表2の結果から、ガラス繊維の添加量が同じである試料2と7、試料3と8とをそれぞれ比較すると、断面形状が円形形状のガラス繊維を用いた試料2,3と比べ、断面形状が非円形形状のガラス繊維を用いた試料7,8では、防火性、断熱性、耐衝撃性が良好な樹脂枠材とすることができることが分かった。また、試料5、6では、ガラス繊維の添加量が少ないため、断熱性及び耐衝撃性に優れることが分かった。そして、試料5,6では、ガラス繊維の添加量が少ないため、樹脂圧力が低く、流動性に優れており、容易に樹脂枠材を形成できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、所謂樹脂窓などの樹脂枠材、この樹脂枠材を備える建具、樹脂枠材の製造方法として利用できる。
【符号の説明】
【0051】
1…窓(建具)、10A…複合ガラス(面材)、20…下枠(樹脂枠材)、30…上枠(樹脂枠材)、40…縦枠(樹脂枠材)、60…ガラス繊維、71…金属板材、72…金属板材、L2…最長径、L3…最短径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂に、強化繊維を分散させた成形材料を押出成形することにより形成される樹脂枠材であって、
前記強化繊維は、その径方向の断面が非円形形状であり、かつ、その長さ方向が前記成形材料の押出方向に沿って配向されている
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂枠材において、
前記強化繊維は、ガラス繊維であり、
前記ガラス繊維に対する前記塩化ビニル系樹脂の質量比((前記塩化ビニル系樹脂)/(前記ガラス繊維))が2.3以上19以下である
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項3】
請求項2に記載の樹脂枠材において、
前記質量比が2.3以上9以下である
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項4】
請求項3に記載の樹脂枠材において、
前記質量比が2.3以上4以下である
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれかに記載の樹脂枠材において、
前記ガラス繊維は、その径方向の断面における最短径に対する最長径の異形比((前記最長径)/(前記最短径))が1.5以上5以下である
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の樹脂枠材において、
金属板材が前記成形材料の押出方向に沿って挿入されている
ことを特徴とする樹脂枠材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の樹脂枠材と、
この樹脂枠材により保持された面材とを備える
ことを特徴とする建具。
【請求項8】
塩化ビニル系樹脂に、径方向の断面が非円形形状の強化繊維を分散させて成形材料を調整する調整工程と、
前記成形材料を押出成形し、前記強化繊維をその長さ方向が前記成形材料の押出方向に沿う状態に配向させる成形工程とを備え、
前記強化繊維に対する前記塩化ビニル樹脂の質量比((前記塩化ビニル系樹脂)/(前記強化繊維))が4以上19以下である
ことを特徴とする樹脂枠材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−200894(P2012−200894A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−64857(P2011−64857)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000006828)YKK株式会社 (263)
【出願人】(390005267)YKK AP株式会社 (776)
【Fターム(参考)】