説明

樹脂組成物、その製造方法、成形品およびその製造方法

【課題】工業的規模での生産性が高く、かつ、成形性、耐ドローダウン性に優れた樹脂組成物および耐熱性、耐衝撃性等の機械的強度、表面外観性に優れた成形品およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】 末端にカルボキシ基を樹脂中25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、カルボキシ基と反応する官能基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記エポキシ基を有するポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法、当該樹脂組成物を用いた成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物およびその成形品、特に、ブロー中空成形品および該成形品用材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品としてエンジンルーム内のダクト類をブロー中空成形によって製造する方法が普及してきており、現在、主としてポリアミド系材料が使用されているが、ポリアミド系材料では耐熱性が不十分であるために、耐熱性が高く、しかも耐薬品性、耐衝撃性も兼備したブロー中空成形用材料が求められている。
【0003】
一方、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(Polyarylene Sulfide、以下、「PAS樹脂」と略称する)は耐熱性、耐薬品性、難燃性および電気特性などがすぐれたエンジニアリングプラスチックであり、電気・電子部品、自動車部品および精密機械部品などの用途に対し、その需要はますます高まりつつある。
【0004】
PAS樹脂を用いたブロー中空成形用材料は古くから種々試みられているものの、PAS樹脂を成形加工する際、その溶融流動性が非常に大きいことから、通常の押出ブロー成型、すなわちパリソンを押出してそれをブロー成形する方法では、パリソンのドローダウンが非常に大きく、偏肉の少ない容器に成形することが極めて困難であるという問題点があった。このため、ほとんどが射出成形法に限られ、PPS樹脂の成形品は小型のものが大部分で、たとえばブロー成形などによるボトルおよびタンクなどの大型部品への応用はあまりなされていないのが実情であった。
【0005】
PAS樹脂のブロー成形への応用例として、PAS樹脂とエポキシ基含有オレフィン系共重合体とを溶融混練して得られる樹脂組成物が知られている(特許文献1)。しかしながら該PAS樹脂は、溶融粘度は高いものの末端カルボキシ基の割合が多く、低分子量成分を多く含むPAS樹脂であった。このため、ブロー中空成形を行う際の耐ドローダウン性や偏肉性といった組成物の成形性に改良の余地があるだけでなく、特に、PAS樹脂の低分子量成分とエポキシ基含有オレフィン系共重合体との反応物の割合が高くなるため、機械的強度、特に耐冷熱衝撃性にも改良の余地があり、自動車エンジン周りなど、より過酷な環境下で使用されるに至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−236930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明が解決しようとする課題は、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を用いて、機械的強度、特に耐冷熱衝撃性に優れた成形品、および当該成形品を提供するための優れた成形性を有する樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記の課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、特定の末端カルボキシ基を有するポリアリ−レンサルフィッド樹脂を、カルボキシ基と反応性を有する官能基(エポキシ基を除く)を有するポリオレフィンと組み合わせることで、耐冷熱衝撃性等の機械的強度に優れた成形品および当該成形品を提供するための成形性に優れた成形品用のポリアリ−レンサルフィッド樹脂組成物及びその製造方法が得られることを見出し本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【0009】
【化1】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記エポキシ基を有するポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法に関する。
また本発明は、末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基、または上記の構造式(1)、構造式(2)(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記ポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合して得られる樹脂組成物に関する。
また本発明は、末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、ポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記ポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合して得られる樹脂組成物に関する。
また本発明は、前記樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする成形品に関する。
また本発明は、前記樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ポリアリ−レンサルフィッドを用いて、耐冷熱衝撃性等の機械的強度に優れた中空成形品、特にブロー中空成形品、および当該成形品を提供するための成形性に優れた樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の樹脂組成物の製造方法は、末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【0012】
【化2】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記ポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合することを特徴とする。
【0013】
本発明に用いるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)は、末端にカルボキシ基を該樹脂中25〜45(μmol/g)の割合で含有する。末端カルボキシ基が25(μmol/g)未満では、ポリオレフィン(B)との反応性が不十分なものとなり、耐冷熱衝撃性などの機械的強度など目的とする効果を奏することができず、一方、45(μmol/g)を超えると、ポリオレフィンとの反応性が過剰となり、溶融混練時にゲル化しやすくなり、また、溶融粘度が過剰となる結果、パリソンの押出安定性が低下し、偏肉のない均一な成形品が得にくくなる。
【0014】
また、該ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)は、その溶融粘度がブロー成形に適した範囲のものが好ましく用いられ、通常300℃、剪断速度10sec−1における溶融粘度が1,000〜3,000ポイズ、より好ましくは1500〜3000ポイズの高分子量タイプのものを用いることが好ましい。溶融粘度が1000ポイズ未満では、ドローダウンが起こりやすくなり、一方、3000ポイズを超えると、パリソンの押出安定性が低下し、偏肉のない均一な成形品が得にくくなる。
さらに、該ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)は、非ニュートン指数が0.90〜1.15の範囲であり、いわゆるリニア型構造を有する。非ニュートン指数が1.15を超えると分岐度が多く、末端カルボキシ基の割合を適切な範囲に調整することができなくなる。
このように本発明に用いるポリアリ−レンサルフィッド樹脂は、PAS樹脂自体がブロー中空成形に特に適した高い溶融粘度を有することに加え、リニア型構造の中でも非ニュートン指数が0.90〜1.15の分岐度の低い直鎖構造を有するものであるため、末端カルボキシ基の割合を抑えることができ、ポリオレフィン(B)と反応して溶融混練物の溶融粘度が過度に高くなることを防ぎ、偏肉のない優れた成形性を発揮することができ、ブロー中空成形品の機械的強度、とくに耐冷熱衝撃性を改善することができる。さらにポリオレフィン(B)との相溶性が改善し、成形性と耐冷熱衝撃性が一層良好となることから、樹脂(A)中のアルカリ金属塩が樹脂中20μmol/g以下の割合のものを用いることが好ましい。
【0015】
本発明に用いるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)は、例えば以下の方法によって製造することができる。すなわち、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)及び有機酸アルカリ金属塩(c)を、前記固形のアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物(b)の合計1モルに対し、前記有機酸アルカリ金属塩(c)が0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用い、かつ反応系内に現存する水分量が、前記非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下となる条件下に反応させて粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を製造し、次いで、脱イオン処理することにより得られる。
【0016】
上記の反応系内の有機酸アルカリ金属塩(c)の存在割合は、反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満であるが、特に0.04〜0.4モルの範囲であることが副反応抑制の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
前記有機酸アルカリ金属塩(c)は反応性が良好である点から脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)が好ましく、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸、ε−カプロラクタム、N−メチル−ε−カプロラクタム等の脂肪族環状アミド化合物の開環物のアルカリ金属塩がより好ましく、特にN−メチル−2−ピロリドンの加水分解物のアルカリ金属塩が反応性の点から好ましい。また、これらのアルカリ金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩として用いることが好ましく、特にナトリウム塩が好ましい。
【0017】
前記非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、NMP、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン;ベンゾニトリル等のニトリル;メチルフェニルケトン等のケトン及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0018】
本発明に用いるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)の、より具体的な製造工程としては、下記の工程1〜4を経る方法が挙げられる。
工程1:非加水分解性有機溶媒の存在下、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)とを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリー(I)を製造する工程、
工程2:スラリー(I)を製造した後、更に非プロトン性極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、
工程3:次いで、工程2の脱水工程を経て得られたスラリー(I)中で、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程、
工程4:工程3で得られた重合物(粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂)を脱イオン処理する工程、を必須の製造工程とすることを特徴とする。
【0019】
工程1は、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)と、非加水分解性有機溶媒とを脱水させながら反応させて、スラリー(I)を製造する工程である。
【0020】
工程1で用いる含水アルカリ金属硫化物は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%、特に35〜65質量%であることが好ましい。
【0021】
一方、含水アルカリ金属水硫化物は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%であることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0022】
また、前記アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが工程1の脱水処理が容易である点から好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物(b)1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0023】
工程1の脱水処理を行う方法は、更に具体的には以下の方法が挙げられる。
(方法1−A)加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物、更に必要に応じて前記アルカリ金属水硫化物又はアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
(方法1−B)加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ水硫化物、及びアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、この仕込みとほぼ同時に含水アルカリ金属硫化物を生成させた後、前記含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する方法。
【0024】
上記方法1−A及び方法1−Bは、共沸留出した水と非加水分解性有機溶媒とをデカンターで分離し、非加水分解性有機溶媒のみを反応系内に戻すか、共沸留出した量に相当する量の非加水分解性有機溶媒を追加仕込みするか、あるいは、共沸留去する量以上の非加水分解性有機溶媒を予め過剰に仕込んでおいてもよい。
【0025】
また、脱水初期段階の反応系内は、有機層/水層との2層になっているが、脱水が進行するとともに無水アルカリ金属硫化物が微粒子状となって析出し、非加水分解性有機溶媒中に均一に分散する。さらに、反応系内の加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)のほぼ全てが加水分解するまで継続して脱水処理を行う。
工程1における脱水処理後の反応系内の全水分量は極力少ない方が好ましく、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.1モルを超え、0.99モル以下となる範囲、特に0.6〜0.96モルとなる範囲であって、かつ、反応系内に現存する水分量が反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.03〜0.11モルとなる割合であることが好ましい。ここで、「反応系内に現存する水分量」とは、反応系内の全水分量のうち、前記化合物(c1)の加水分解に消費された水分を除く水、即ち、結晶水、HO等として現に反応系内に存在する水分(以下、これらを「結晶水等」という。)の総量をいう。
【0026】
工程1における前記脂肪族系環状化合物(c1)の仕込み量は、含水アルカリ金属水硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法1−B)1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用いることが好ましい。特に、かかる効果が顕著なものとなる点から含水アルカリ金属水硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ金属水硫化物(方法1−B)1モルに対して0.04〜0.4モルとなる割合で用いることが好ましい。
また、前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩としては、該脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩又はセシウム塩が挙げられる。これらの有機酸アルカリ金属塩(c2)は、反応系内で液状となっていることが好ましい。
また、上記有機酸アルカリ金属塩(c2)のなかでも、反応性が良好である点から脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)が好ましく、脂肪族環状アミド化合物の開環物のアルカリ金属塩、特にNMPの加水分解物のアルカリ金属塩が反応性の点から好ましい。また、これらのアルカリ金属塩はリチウム塩、ナトリウムイオン塩として用いることが好ましい。
また、工程1において用いられる非加水分解性有機溶媒は、前記した通り、水に不活性な有機溶媒であればよく、例えば、汎用の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素等を用いることができるが、本発明では特に、工程3における反応に供されるポリハロ芳香族化合物(a)を有機溶媒として用いることが、次の工程3の反応ないし重合が良好となって生産効率が飛躍的に向上する点から好ましい。
【0027】
ここで用いられるポリハロ芳香族化合物(a)は、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0028】
非加水分解性有機溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、工程1で得られるスラリー(I)の流動性が良好となる量が好ましい。また、非加水分解性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物(a)を用いる場合には、工程2における反応性や重合性に優れる点から、含水アルカリ金属硫化物(方法1−A)又は含水アルカリ水硫化物(方法1−B)1モルに対して1モル当たり、0.2〜5.0モルの範囲が好ましく、特に0.3〜2.0モルの範囲が好ましい。ポリハロ芳香族化合物(a)は、その後のPAS樹脂の製造工程でそのまま使用でき、その後の粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂の製造工程で必要に応じて不足の場合は追加して使用してもよいし、過剰な場合は削減して使用してもよい。
【0029】
その他、ポリハロ芳香族化合物(a)の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p−ジクロルベンゼンと、4,4’−ジクロルベンゾフェノン又は4,4’−ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが耐熱性に優れたポリアリ−レンサルフィッドが得られるので特に好ましい。
【0030】
この工程2の脱水処理は、具体的には、工程1でスラリー(I)が形成された後、更に好ましくは、スラリー(I)内の結晶水等の存在量が反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.03〜0.11モルとなる割合となった後に、工程2として、反応系内に非プロトン性極性有機溶媒を加え脱水を行う。この際、加える非プロトン性極性有機溶媒の量は反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.5〜5モルとなる割合であることが非プロトン性極性有機溶媒を加えることで残留する結晶水等を効率的に溶液中に抽出させることができる点から好ましい。工程2における脱水処理は、通常、温度180〜220℃、ゲージ圧0.0〜0.1MPaの条件下、特に温度180〜200℃、ゲージ圧0.0〜0.05MPaの条件下で行うことが、脱水効率に優れ、かつ、重合を阻害する副反応の生成を抑制できる点から好ましい。具体的には、上記の温度・圧力条件下に非プロトン性極性有機溶媒と水との混合物を蒸留によって単離し、この混合蒸気をコンデンサーで凝縮、デカンター等で分離し、共沸留出したポリハロ芳香族化合物(a)を反応系内に戻す方法が挙げられる。ここで、工程3開始時に反応系内に現存する水分量は、反応系内の非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下であり、また、反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.02モル未満、より好ましくは0.01モル以下となる割合であり、これを上回る場合には、工程3の反応・重合工程で重合阻害となる副生成物の生成を生じることとなる。この点から、具体的には、工程3開始時の反応系内に現存する水分量は、反応系内の非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下であることが好ましい。
なお、工程2で加える非プロトン性極性有機溶媒としては、上記したものを用いることができ、これらの中でも、NMPが特に好ましい。
【0031】
次に、本発明における工程3は、工程2の脱水工程を経て得られたスラリー(I)中で、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、反応させて重合を行う工程である。
本発明では、このように固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)、及び前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)を、スラリー状態のままで、かつ、反応系内の水分量を限りなく低減させた状態で反応させることを特徴としている。本発明では、このように反応系内でスルフィド化剤を固形分とする不均一系反応を行うことにより、副反応が抑制されて粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂の高分子量化を図ることができる。
【0032】
上記反応において、有機酸アルカリ金属塩(c2)の存在割合は、反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満、特に0.04〜0.4モルであることが副反応抑制の効果が顕著なものとなる点から好ましい。
工程3の反応におけるポリハロ芳香族化合物(a)は、工程2において反応系内に添加してもよいが、前記したとおり、工程1において非加水分解性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物(a)を用いた場合には、そのまま工程2の反応を行うことができる。
また、前記アルカリ金属水硫化物(b)は工程3を経てスラリー(I)中に存在するものをそのまま用いて工程2の反応を行うことができる。
また、この工程3では、塩化リチウムや酢酸リチウムなどのリチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行ってもよい。
上記リチウム塩化合物は無水物又は含水物又は水溶液として用いることができる。
【0033】
工程3における反応系内のリチウムイオン量は、工程1で用いた含水アルカリ金属硫化物、及び、その後に加えたスルフィド化剤の合計モル数を1モルとした場合に、0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合であることが工程3における反応性の改善効果が顕著になる点から好ましく、特に有機酸アルカリ金属塩(c)の存在割合が反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して特に0.04〜0.4モルとなる割合であって、かつ、反応系内のリチウムイオン量が有機酸アルカリ金属塩(c)に対して、モル基準で1.8〜2.2モルとなる範囲であることが、粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂がより高分子量化する点から好ましい。
【0034】
工程3の任意の段階でアルカリ金属水硫化物(b)を別途添加してもよい。ここで使用し得るアルカリ金属水硫化物(b)は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム、又はこれらの水和物等が挙げられる。
【0035】
また、スラリーの固形分を構成するアルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物(b)、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えてもよい。
【0036】
工程3の反応及び重合を行う具体的方法は、工程1及び工程2を経て得られたスラリー(I)に、必要により、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)、非プロトン性極性有機溶媒、前記リチウム塩化合物を加え、180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応ないし重合させることが好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的に又は連続的に昇温しながら行うこともできる。
また、工程3におけるポリハロ芳香族化合物(a)の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量の粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を得られる点から好ましい。
工程3の反応ないし重合反応において、更に非プロトン性極性有機溶媒を加えてもよい。反応内に存在する非プロトン性極性有機溶媒の総使用量は、特に制限されるものではないが、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり0.6〜10モルとなる様に非プロトン性極性有機溶媒を追加することが好ましく、更にはPAS樹脂のより一層の高分子量化が可能となる点から2〜6モルの範囲が好ましい。また、反応容器の容積当たりの反応体濃度の増加という観点からは、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり1〜3モルの範囲が好ましい。
【0037】
また、工程3における反応ないし重合は、その初期においては、反応系内の水分量は実質的に無水状態となる。即ち、工程1における脱水工程で前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解に供された水は、スラリー中の固形分が消失した時点以後、該加水分解物が閉環反応され、反応系内に出現することになる。従って、本発明の工程3では前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリー中の水分量が0.2質量%以下となる範囲であることが、最終的に得られる粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂の高分子量化の点から好ましい。
【0038】
以上詳述した工程1〜3に用いられる装置は、先ず、工程1及び工程2では、脱水容器に撹拌装置、蒸気留出ライン、コンデンサー、デカンター、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置、及び加熱装置を備えた脱水装置が挙げられる。また、工程1・工程2の脱水処理及び工程3の反応ないし重合で使用する反応容器は、特に限定されるものではないが、接液部がチタン、クロム、ジルコニウム等で作られた反応容器を用いることが好ましい。
工程1及び工程2の脱水処理、及び工程3の反応ないし重合の各工程は、バッチ方式、回分方式あるいは連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、脱水工程及び重合工程何れにおいても、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。使用する不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等が挙げられ、中でも経済性及び取扱いの容易さの面から窒素が好ましい。
【0039】
工程4は、工程3で得られた粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を脱イオン処理する工程である。
重合工程により得られた粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を含む反応混合物の脱イオン処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、又は酸あるいは塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコールなどの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、あるいは、(2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール、エーテル、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、あるいは、(3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコールなどの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法等が挙げられる。
なお、上記(1)〜(3)に例示したような脱イオン処理方法において、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0040】
このようにして得られたポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)は、そのままブロー中空成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃〜270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてPAS樹脂の融点以上で、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)を溶融した状態で行ってもよいが、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0041】
次に、本発明で用いるポリオレフィン(B)は、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【0042】
【化3】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する。
これらの部分構造は、カルボキシ基と相溶性の良い官能基または反応性を有する官能基であるため、カルボキシ基を有するポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と溶融混練されることによって良好に相溶ないし反応する。その結果、本発明の成形品は機械的強度、特に優れた曲げ強度、高耐衝撃性、高い曲げ弾性率を奏することができる。
【0043】
前記カルボキシ基と相溶性ないし反応性を有するポリオレフィン(B)は、例えばα−オレフィンと前記官能基を有するビニル重合性化合物などの単量体との共重合で得ることができる。前記α−オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン−1等の炭素数2〜8のα−オレフィン等が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等のα,β−不飽和カルボン酸及びそのアルキルエステル、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、その他の炭素数4〜10の不飽和ジカルボン酸とそのモノ及びジエステル、その酸無水物等のα,β−不飽和ジカルボン酸及びその誘導体等が挙げられる。またアミノ基、イソシアナト基を有するポリオレフィンは、たとえば、上記のカルボン酸で変性されたポリオレフィンに、アルキレンジアミンやアルキレンジイソシアネートといった多価アミンや多価イソシアネートを反応させて得ることができる。アルキレンジアミンとしてはアルキレンジアミンとしては、エチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、エチレンジイソシアナト、ペンタメチレンジイソシアナト、ヘキサメチレンジイソシアナト等が挙げられる。
本発明に用いるポリオレフィン(B)としては、これらの中でも、その分子内にカルボキシ基、下記の構造式(1)または構造式(2)
【0044】
【化4】

(ただし、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基、または芳香環を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、エチレン−プロピレン共重合体、またはエチレン−ブテン共重合体が靭性や耐衝撃性の向上のため好ましい。α−オレフィンに対する、各単量体成分の変性割合は、特に制限されるものではないが、共重合体中の変性部位を各単量体質量に換算し、共重合体100質量に対する割合として0.1〜15質量部、中でも0.5〜10質量部の範囲が好ましい。
さらに、本発明に使用されるポリオレフィン(B)は、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を混練する温度で、溶融し、混合分散可能であることが好ましい。その点から、融点が300℃以下であり、室温でゴム弾性を有するエラストマがより好ましい。
本発明に使用されるポリオレフィン(B)は、とりわけ、耐熱性、混合の容易さ、耐氷結性向上の点を考慮した場合、ガラス転移点が−40℃以下のものを用いると、極低温でもゴム弾性を有するため好ましい。前記ガラス転移点は、耐氷結性向上の点では低いほど好ましいが、通常−180〜−40℃の範囲のものが好ましく、−150〜−40℃の範囲のものが特に好ましい。このようなガラス転移点が−40℃以下のポリオレフィンを用いる場合、その使用量はエラストマ全体の0.1〜99.9質量%の範囲で調整しながら用いることができる。
【0045】
ポリオレフィン(B)には、本発明の効果を損わない範囲で、前記した各種のモノマー成分に加え、他のオレフィン系モノマー、たとえばアクリロニトリル、スチレン、酢酸ビニルおよびビニルエーテルなどを共重合させてもよい。さらに前記ポリオレフィンと、その他のポリオレフィン(B’)とを併用することもできる。
【0046】
その他のポリオレフィン(B’)としては、カルボキシ基と反応する官能基を有していないオレフィン系重合体であることが望ましく、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ1−ブテン、ポリ1−ペンテン、ポリメチルペンテンなどの単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体などが用いられる。これらのなかでも、エチレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0047】
エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンおよび炭素数3〜20を有する少なくとも1種以上のα−オレフィンを構成成分とする共重合体である。上記の炭素数3〜20のα−オレフィンとして、具体的にはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数6から12であるα−オレフィンを用いた共重合体が機械強度の向上、改質効果の一層の向上が見られるためより好ましい。
本発明においてポリオレフィン(B’)を用いる場合は、前記ポリオレフィン(B)およびポリオレフィン(B’)の使用比率は、質量比で(B)/(B’)=99/1〜50/50の範囲である。前記ポリオレフィン(B’)は、いわゆる未変性ポリオレフィンであって、カルボキシ基との反応性を有していないことから粘度調整剤としての役割を果たす。このため、本発明の樹脂組成物のメルトフローレート(g/10分)が後述する範囲内に収まるように、ポリオレフィン(B)および(B’)の比率を調整しながら用いることで、樹脂組成物の溶融混練時のゲル化を抑えつつ、成形性、耐ドローダウン性および押出安定性を向上させることができる。
本発明で用いるポリオレフィンの溶融粘度は特に制限されるものではないが、メルトフトーレイト(温度190℃、荷重2.16kg)による測定で1〜20ポイズの範囲のものが好ましい。
【0048】
本発明で用いるポリオレフィン(B)の配合割合は、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して5〜30質量部、より好ましくは7〜20質量部の範囲であり、この範囲の配合割合を採用することによって成形性に優れ、特に、成形時パリソンのドローダウンが起こりにくくなり良好なブロー成形性を示し、かつ耐熱、耐薬品性のすぐれたブロー中空成形品を得ることが可能になる。ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)の配合量が95質量%を越えるとブロー成形性が低下するため好ましくなく、一方、70質量%未満になると耐熱性や耐薬品性が損われるため好ましくない。
【0049】
また、本発明により得られた樹脂組成物は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材を含有していてもよい。
充填材としては、本発明の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることができ、例えば、粒状、繊維状などさまざまな形状の充填材等が挙げられる。
具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等の繊維状の充填材が使用できる。また硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。
本発明で用いる充填剤は必須成分ではないが、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂100質量部に対して0質量部より多く、通常は10質量部以上、50質量部以下を加えることによって、強度、剛性、耐熱性、放熱性および寸法安定性など、加える充填剤の目的に応じて各種性能を向上させることができる。
【0050】
また、本発明の樹脂組成物には、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有させることができ、また用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、あるいは、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマ、カップリング剤、その他必要に応じて、充填剤などの添加剤を配合した樹脂組成物として使用してもよい。
これらの添加剤の使用量、使用方法は、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本発明の効果を損なわない範囲で用いればよい。例えば、カップリング剤は、添加剤として単独で用いることもできるし、予め充填剤に予備処理された上で用いられてもよい。このようなカップリング剤としてはシラン系、チタン系などのカップリング剤が用いられる。さらに、このうちカルボキシ基と反応する官能基(例えばエポキシ基、イソシアナト基、アミノ基や水酸基)を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。カップリング剤の使用量は、ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(B)100質量部に対して0.01〜1.0質量部、より好ましくは0.1〜0.4質量部の範囲である。
【0051】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に制限なく、原料のポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、前記ポリオレフィン(B)とを粉末、ベレット、細片など様々な形態でリボンブレンター、ヘンシェルミキサー、Vブレンターなどに投入してドライブレンドした後、バンバリーミキサーミキシングロール、単軸または2軸の押出機およびニーターなどを用いて溶融混練する方法などが挙げられる。なかでも十分な混練力を有する単軸または2軸の押出機を用いて溶融混練する方法が代表的である。
【0052】
この様にして得られた本発明の樹脂組成物は、成形性、耐ドローダウン性および押出安定性に優れ、各種成形に用いることができるが、特にブロー中空成形品用樹脂組成物としてブロー中空成形品に好適に用いることができる。以下、本発明の樹脂組成物を用いたブロー中空成形方法およびブロー中空成形品について説明する。
本発明の樹脂組成物は、例えば、シリンダー温度330℃、オリフィス系1mmのメルトインデクサーに樹脂組成物ペレットを投入し、10kgの荷重を掛け、5分間の予熱後にメルトフローレート(g/10分)を測定した場合に、20g/10分以下、好ましくは15g/10分以下のものがブロー中空成形性に適した好ましい耐ドローダウン性を示す。さらに耐ドローダウン性及び押出安定性に優れることから、3〜10g/10分の範囲が好ましく、3〜6g/10分の範囲が最も好ましい。20g/10分以上であると、成形品肉厚のばらつきが顕著となり好ましくなく、逆に3以下ではゲル物となる傾向にあり好ましくない。
【0053】
上記のようにして調製された本発明の樹脂組成物は通常公知のブロー成形法、すなわち基本的には樹脂組成物を押出機に供給し、溶融押出しをしてパリソンを成形せしめ、その後目的とする2〜3次元的中空成形体とすることによって得られる。通常公知のブロー成形法の代表例としてはダイレクトブロー法、アキエームレーターブロー法および多次元ブロー法などを挙げることができ、また他材料との組合せにおいて用いられる多層ブロー成形法やエクスチェンジブロー成形法などを適用することももちろん可能である。
【0054】
この様にして得られた本発明のブロー成形品は、優れた成形性有し、かつポリアリ−レンサルフィッドが本来有する耐熱性、寸法安定性、耐薬品性、耐衝撃性、耐冷熱衝撃性等の機械的強度等の優れた諸性能も具備しているので、ボトル、タンク、ダクトなど中空成型品として薬液用容器、空調ダクト、自動車など内燃機関や燃料電池から排出される高温ガス用ダクトおよびパイプなどに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0055】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0056】
[カルボキシ基およびアルカリ金属塩の定量方法]
ポリアリ−レンサルフィッド(A)に含まれるカルボキシル基(a1)とそのアルカリ金属塩(a2)の量は以下の方法によって測定した。
(前処理)まず、前処理として実施例、比較例で得たポリアリ−レンサルフィッドをジメチルイミダゾリジノン(DMI)中で不活性雰囲気下、210℃で一旦溶解した後、冷却して再度ポリアリ−レンサルフィッドを析出させた。次いで、得られたスラリーをイオン交換水で何度もよく洗浄、ろ過した後、一旦塩酸でpH2.5以下に調整し、再度イオン交換水で何度も洗浄を繰り返す。得られたケーキは熱風乾燥機中で120℃で乾燥した。これをサンプル(0)とし、また前処理を行わないものをサンプル(1)とした。
【0057】
次に、各実施例及び比較例で使用したポリアリ−レンサルフィッドをプレス機でディスク状にプレスし、顕微FT−IR装置で測定を行った。次に、得られた吸収のうち2666cm−1の吸収に対する1705cm−1の吸収の相対強度を求めた。別途、p−クロロフェニル酢酸をポリアリ−レンサルフィッド中に所定量混合し、同様な操作によって得られた吸収曲線における2666cm−1の吸収強度に対する1705cm−1の吸収強度の相対強度のプロットにより得られた検量線より得られた数値を、該ポリアリ−レンサルフィッド中に含まれるカルボキシ基量とした。
次に、作成した検量線をもとに、測定サンプル中のカルボキシル基及びそのアルカリ金属塩の含有量を求めた。
【0058】
ただし、サンプル(0)のカルボキシ基量を(a0)μmol/gとし、サンプル(1)のカルボキシ基量を(a1)μmol/gとしたときに、カルボキシ基のアルカリ金属塩の含有量(a2)μmol/gは次式により求めた。
(a2)=(a0)−(a1) 〔μmol/g〕
[非ニュートン指数の測定]
キャピログラフを用いて300℃、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。N値が1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0059】
【数1】

[ただし、SRは剪断速度(秒−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm)、そしてKは定数を示す。]
【0060】
[溶融粘度V6の測定方法]
島津製作所製のフローテスター(CFT−500C型)を用いて、温度300℃、剪断速度10sec−1荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後に測定した。
【0061】
[融点]
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製「PYRIS Diamond DSC」)を用い、示差走査熱量計による分析法(DSC法;JIS K−7121に準拠)に基づく最大吸熱ピークを示す温度を融点として測定した。
【0062】
(実施例1)
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブに、p−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP4.560kg(46モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水26.794kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp−DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp−DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.089kg(0.9モル)であったことから、仕込んだNMPの98%(45.1モル)がSMABに加水分解されていることを示す。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.196モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水NaSに変わる場合の理論脱水量は27.921gであることから、オートクレーブ内の残水量1127g(62.6モル)の内、812g(45.1モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの315g(17.5モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示している。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.076モルであった。
【0063】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP45.203kg(456モル)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.038モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は273g(15.2モル)であった。
【0064】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は42g(2.3モル)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.196モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.50MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3リットルの温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(P−1)151gを得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は約1,200ポイズであった。非ニュートン指数は0.99であった。カルボキシ基の含有量は44μmol/g、アルカリ金属塩は9.6μmol/gであった。
【0065】
(実施例2)
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP3.420kg(34.5モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp−DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp−DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.079kg(0.8モル)であったことから、仕込んだNMPの98モル%(33.7モル)がNMPの開環体(4−(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水NaSに変わる場合の理論脱水量は27.921gであることから、オートクレーブ内の残水量878g(48.8モル)の内、609g(33.8モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの269g(14.9モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.065モルであった。
【0066】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP46.343kg(467.5モル)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は228g(12.7モル)であった。
【0067】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は41g(2.3モル)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.147モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.40MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3リットルの温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(P−2)151gを得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は約1,800ポイズであった。非ニュートン指数は1.02であった。カルボキシ基の含有量は38μmol/g、アルカリ金属塩は4.8μmol/gであった。
【0068】
(実施例3)
[工程1]
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、「p−DCB」と略記する。)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、オートクレーブを密閉した。脱水時に共沸により留出したp−DCBはデカンターで分離して、随時オートクレーブ内に戻した。脱水終了後のオートクレーブ内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がp−DCB中に分散した状態であった。この組成物中のNMP含有量は0.069kg(0.7モル)であったことから、仕込んだNMPの97モル%(22.3モル)がNMPの開環体(4−(メチルアミノ)酪酸)のナトリウム塩(以下、「SMAB」と略記する。)に加水分解されていることが示された。オートクレーブ内のSMAB量は、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。仕込んだNaSHとNaOHが全量、無水NaSに変わる場合の理論脱水量は27.921kgであることから、オートクレーブ内の残水量621g(34.5モル)の内、401g(22.3モル)はNMPとNaOHとの加水分解反応に消費されて、水としてオートクレーブ内に存在せず、残りの220g(12.2モル)は水、あるいは結晶水の形でオートクレーブ内に残留していることを示していた。オートクレーブ内の水分量はオートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.053モルであった。
【0069】
[工程2]
上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。オートクレーブ内の水分量は、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.025モルであった。ゲージ圧が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したp−DCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、p−DCBはオートクレーブへ戻した。留出水量は179g(9.9モル)であった。
【0070】
[工程3]
工程3開始時のオートクレーブ内水分量は41g(2.3モル)で、工程2で仕込んだNMP1モル当たり0.005モルで、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.010モルであった。オートクレーブ内のSMAB量は工程1と同じく、オートクレーブ中に存在する硫黄原子1モル当たり0.097モルであった。次いで、内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。内温200℃時点のゲージ圧は0.03MPaで、最終ゲージ圧は0.30MPaであった。冷却後、得られたスラリーの内、650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3リットルの温水と、酢酸を加え、pH4.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状のPPS樹脂(P−3)151gを得た。このポリマーの300℃における溶融粘度は約2,100ポイズであった。非ニュートン指数は1.01であった。カルボキシ基の含有量は31μmol/g、アルカリ金属塩は3.0μmol/gであった。
【0071】
(比較例1)
オートクレーブに硫化ナトリウム3.20Kg(25モル、結晶水40%を含む)、水酸化ナトリウム4g、酢酸ナトリウム三水和物1.36Kg(約10モル)およびN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略称する)7.9Kgを仕込み、撹拌しながら徐々に205℃まで昇温し、水1.36Kgを含む留出水約1.5リットルを除去した。
【0072】
残留混合物に1,4−ジクロルベンゼン3.75Kg(25.5モル)およびNMP2Kgを加え、265℃で3時間加熱した。反応生成物を70℃の温水で5回洗浄し、80℃で24時間減圧乾燥して、溶融粘度約1,700ポイズ(300℃、剪断速度10sec −1)の粉末状PPS樹脂約2Kgを得た。得られた粉末状PPS樹脂約2kgを、90℃に加熱されたpH4の酢酸水溶液20リットル中に投入し、約30分間攪拌し続けたのち濾過し、ろ液のpHが7になるまでの約90℃の脱イオン水で洗浄し、120℃で24時間減圧乾燥して粉末状PPS樹脂(P−4)を得た。当該樹脂のカルボキシ基の含有量は50μmol/gであった。
【0073】
実施例4〜15および比較例3〜5[PAS樹脂組成物のペレットの製造方法]
ポリアリ−レンサルフィッド樹脂100質量部に対し、シランカップリング剤0.4質量部、ポリオレフィンを表1〜3に記載した配合で混合した後、2軸押出機に投入し、また、サイドフィダーからガラス繊維(繊維径10μm、長さ3mmのガラス繊維チョップドストランド)をポリアリ−レンサルフィッド樹脂組成物100質量部に対し20質量部の割合で供給しながら、設定温度310℃で溶融混練してポリアリ−レンサルフィッド樹脂組成物のペレット得た。
【0074】
次いで、このポリアリ−レンサルフィッド樹脂組成物のペレットを用いて各種試験を行った。
[溶融粘度]
シリンダー温度330℃、オリフィス系1mmのメルトインデクサーに樹脂組成物ペレットを投入し、10kgの荷重を掛け、5分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0075】
[耐ドローダウン性/押出安定性]
前記溶融粘度をブロー成形時の耐ドローダウン性および押出安定性の指標とし、3〜10g/10分のものを「良好」(耐ドローダウン性および押出安定性が伴に良好)、3g/10分未満のものを「不良」(押出安定性が不良)、20g/10分を超えるものを「不良」(耐ドローダウン性が不良)と評価した。
【0076】
[均一性]
樹脂組成物ペレットを、45mmφ押出機を具備するブロー成形機に供給し、シリンダー温度290℃で押出を行い、外径30mm、肉厚4mmのパリソンを成形した後、金型内で空気を吹込み、高さ250mm、外径50mm、肉厚約2〜3mmの円筒型容器を成形した。この成形品胴部の上部(上端から30mm)および下部(下端から30mm)の任意の各5ケ所の厚みを測定し、その均一性を以下の基準で判定した。
上部平均厚みと下部平均厚みの差が0.2mm以内のものを「◎」
上記厚みの差が0.2を超え0.5mm以内のものを「○」
上記厚みの差が0.5mmを越え1.0mm以内のものを「△」
上記厚みの差が1.0mmを超えるものを「×」。
【0077】
[耐冷熱衝撃性]
金属(S55C)製ブロックを1mm厚みの樹脂層でくるむ形状の成形品を作成して、気相にて「1サイクル;−40℃/30分〜140℃/30分」の冷熱サイクル試験を実施し、PPS外層にクラックが発生するサイクル数で評価した。
【0078】
判定は以下の基準で行った。
10サイクル未満で剥離発生…ランク「IV」
10以上〜50サイクル未満で剥離発生…ランク「III」
50以上〜100サイクル未満でクラック発生…ランク「II」
100サイクル以上…ランク「I」
【0079】
[耐衝撃性]
耐衝撃性は引張り試験用ダンベル試験片を用いて行った。樹脂組成物ペレットを射出成形機に供給し、シリンダー温度300℃、金型温度140℃で引張り試験用ダンベル試験片を成形し、中央部分を長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの棒状に切り出したものを試験片とし、シャルピー衝撃試験を行い衝撃強度(kJ/mm)の測定を行った。
【0080】
[耐熱性]
前記試験片を240℃のオーブンで3000時間加熱し、取り出した後の引張り強度を測定し、加熱しない試験片の引張り強度からの低下を保持率(%)で表した。この保持率が60%を超えるものを耐熱性良好、60%以下のものを耐熱性不良と判定した。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
PO−1;酸変性エチレン−ブテン共重合体、Tg=−65℃(三井化学社製 「タフマー MH7020」)
PO−2;酸変性エチレン−プロピレン共重合体、Tg=−50℃(三井化学社製 「タフマー MP0430」)
PO−3;エチレン−無水マレイン酸−アクリル酸エチル共重合体、Tg=−35℃(アトフィナ・ジャパン社製 「ボンダインAX8390」)
PO−4;未変性エチレン−ブテン共重合体、Tg=−52.8℃(三井化学社製 「タフマー A4085」)
【0085】
Si−1;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(日本ユニカー社製「A187」)
Si−2;2−(3,4エポキシシクロヘキシル)トリメトキシシラン(日本ユニカー社製「A1100」)
Si−3;N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製「A1120」)
Si−4;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(日本ユニカー社製「A1310」)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【化1】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)とを、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記ポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合することを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記樹脂組成物のメルトフローレート値(シリンダー温度330℃、オリフィス径1mmのメルトインデクサーに樹脂組成物ペレットを投入し、10kgの荷重を掛け、5分間の予熱後の測定値)が3〜20g/10分である請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)が、カルボキシ基のアルカリ金属塩を樹脂中2〜20〔μmol/g〕なる割合で有するポリアリ−レンサルフィッド樹脂である請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)及び有機酸アルカリ金属塩(c)を、前記固形のアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物(b)の合計1モルに対し、前記有機酸アルカリ金属塩(c)が0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用い、かつ反応系内に現存する水分量が、前記非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下となる条件下に反応させて粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を製造し、次いで、脱イオン処理することにより、末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)を製造し、次いで、得られたポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)を、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【化2】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)と溶融混練させる請求項1又は2記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)及び前記ポリオレフィン(B)に加え、充填材を、前記ポリアリ−レンサルフィッド(A)100質量部に対して0.1〜50質量部となる割合で含む請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)及び前記ポリオレフィン(B)に加え、シランカップリング剤を、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜1.0質量部となる割合で含む請求項1記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
末端にカルボキシ基を25〜45〔μmol/g〕なる割合で有し、非ニュートン指数が0.90〜1.15であり、かつ300℃で測定した溶融粘度が1,000ポイズ〜3,000ポイズの範囲にあるポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)と、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基または下記の構造式(1)、構造式(2)
【化3】

(但し、構造式(1)、構造式(2)中、Rは炭素原子数1〜8のアルキル基を表す。)で表される部分構造からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するポリオレフィン(B)を、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して前記ポリオレフィン(B)5〜30質量部となる割合で溶融混合して得られる樹脂組成物。
【請求項8】
前記樹脂組成物のメルトフローレート値(シリンダー温度330℃、オリフィス径1mmのメルトインデクサーに樹脂組成物ペレットを投入し、10kgの荷重を掛け、5分間の予熱後の測定値)が3〜20g/10分である請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)が、カルボキシ基のアルカリ金属塩を樹脂中2〜20〔μmol/g〕なる割合で有するポリアリ−レンサルフィッド樹脂である請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)が、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下で、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)及び有機酸アルカリ金属塩(c)を、前記固形のアルカリ金属硫化物及びアルカリ金属水硫化物(b)の合計1モルに対し、前記有機酸アルカリ金属塩(c)が0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用い、かつ反応系内に現存する水分量が、前記非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下となる条件下に反応させて粗ポリアリ−レンサルフィッド樹脂を製造し、次いで、脱イオン処理して得られたものである請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)及び前記ポリオレフィン(B)に加え、充填材を、前記ポリアリ−レンサルフィッド(A)100質量部に対して0.1〜50質量部となる割合で含む請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)及び前記ポリオレフィン(B)に加え、シランカップリング剤を、前記ポリアリ−レンサルフィッド樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜1.0質量部となる割合で含む請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形して得られることを特徴とする成形品。
【請求項14】
前記成形が、ブロー中空成形である請求項13記載の成形品。
【請求項15】
請求項7〜12のいずれか一項に記載の樹脂組成物を成形することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項16】
前記成形が、ブロー中空成形である請求項15記載の成形品の製造方法。

【公開番号】特開2013−112783(P2013−112783A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262085(P2011−262085)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】