説明

樹脂製チューブの継ぎ手構造

【課題】継ぎ手本体、チューブ、袋ナットに生じる熱変形や振動に強く、継ぎ手本体とチューブとの強固な締結を維持し、たとえ袋ナットの螺着に緩みが生じた際においても袋ナットの回転をねじの途中で抑えることができ、樹脂製チューブ同士あるいは流体機器とチューブとの接続と取り外しが可能な樹脂製チューブの継ぎ手構造を提供する。
【解決手段】樹脂製チューブ10の拡径端部11を継ぎ手本体20に嵌着し、袋ナット50の内ねじ部55を継ぎ手本体の外ねじ部25に螺着して緊締するようにした継ぎ手構造1Aにおいて、互いに螺着する継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部とのねじ形状を断面形状が5ないし13の頂点を有する多角形からなる多角形状部23として形成し、外ねじ部の中心から多角形までの最長距離を外ねじ部の中心から多角形までの最短距離の1.001〜1.07倍の長さとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製チューブの継ぎ手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造の分野において、シリコンウエハーの洗浄等にフッ酸水やアンモニア水等の各種薬液、超純水が用いられる。流量計等の機器類をはじめ薬液等を供給するチューブは、高清浄度が維持でき、耐食性に優れたフッ素樹脂から形成される。そのため、チューブ同士、あるいは機器とチューブとを接続する継ぎ手構造にも同様の理由からフッ素樹脂が用いられる。
【0003】
図11に示すように、この種の継ぎ手構造1Sは、樹脂製チューブ100の拡径端部111を継ぎ手本体120に装着し袋ナット150により螺着して緊締する構造である。具体的には、樹脂製チューブ100の拡径端部111内に継ぎ手本体120の筒部121が挿入される。袋ナット150を継ぎ手本体120に螺着することにより、袋ナットの内鍔部151が樹脂製チューブの拡径端部111を継ぎ手本体の端部121に押し当てる。図示の符号125は継ぎ手本体の外ねじ部、155は袋ナットの内ねじ部である。
【0004】
その後、樹脂製チューブと継ぎ手本体との密着性を向上させるために、圧接リングにより樹脂製チューブの拡径部分を押圧した継ぎ手構造が提案された(例えば、特許文献1参照)。また、継ぎ手本体に樹脂製チューブの拡径端部が挿入される差込溝部が形成された継ぎ手構造(例えば、特許文献2参照)、樹脂製チューブの拡径端部が係止爪を備えたコレット部により押圧される継ぎ手構造(例えば、特許文献3参照)も提案されている。
【0005】
現在、ウエハー洗浄効率の改善、薬剤の溶解度調整から高温水、水蒸気等の高温、高圧の流体圧送が増えつつある。そのため、チューブや継ぎ手構造等は高温流体に曝露される過酷な使用にも耐えなければならない。ところが、PTFE等の軟質のフッ素樹脂は切削加工には向くものの線膨張係数が大きく、高温流体の流入時の加熱、同流体の流入停止時の冷却に晒されるうちにチューブの末端、継ぎ手本体または袋ナットの変形を助長する。このような変形はクリープ(creep)と称される。
【0006】
一般に、図11のとおり、継ぎ手本体、チューブ、袋ナットは面接触となるため、袋ナットを螺着する際、袋ナットとチューブとの摩擦により、チューブも袋ナットに引き寄せられて同じ向きに回りやすい。これは共回りと称される。共回りによりチューブに捻れの力が蓄積されると、前記の熱による影響に加えて薬液等の流体の供給とその停止に伴う振動がチューブに加わった場合、捻れを解消するべくチューブは元に戻ろうとする。これは、袋ナットのねじ締めに緩みを生じさせる原因となっていた。さらに、継ぎ手本体及び袋ナットは共に樹脂製であることから、金属製の継ぎ手構造と比べて粘性や弾性が大きくなる。その分、袋ナットの締結強さが劣る問題点もある。
【0007】
前記の各特許文献に開示の継ぎ手構造によって、袋ナットと継ぎ手本体との締結を維持しチューブ同士、あるいは機器とチューブとの接続に一定の効果を上げている。しかしながら、既存のねじの構造を採用しているため、前述のクリープや共回り等の理由により、いったん袋ナットの螺着に緩みが生じた際には、袋ナットの回転をねじの途中で抑えることが困難であった。このため、締結の緩みによりチューブの接続部位に隙間が生じる問題を完全には解消することができなかった。
【0008】
この場合、樹脂製のチューブ同士、あるいは機器とチューブとを融着により接続してチューブの脱離を防ぐ手法もある。しかし、チューブや機器類を交換しようとすれば、管路や機器類をその都度破壊しなければならず、かえって使い勝手が悪くなる。そこで、部材の熱変形(クリープ)や振動にも強く、強固な締結を維持し、接続と取り外しが可能な継ぎ手構造が切望されている。
【特許文献1】特開平10−252968号公報
【特許文献2】特開2001−248768号公報
【特許文献3】特許第3947971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、継ぎ手本体、樹脂製チューブ、袋ナットに生じる熱変形や振動に強く、継ぎ手本体とチューブとの強固な締結を維持し、たとえ袋ナットの螺着に緩みが生じた際においても袋ナットの回転をねじの途中で抑えることができる樹脂製チューブ同士あるいは流体機器とチューブとの接続と取り外しが可能な樹脂製チューブの継ぎ手構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、請求項1の発明は、樹脂製チューブの拡径端部を継ぎ手本体に嵌着し、袋ナットの内ねじ部を前記継ぎ手本体の外ねじ部に螺着して緊締するようにした継ぎ手構造において、互いに螺着する前記継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部とのねじ形状を、多角形状部として形成したことを特徴とする樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【0011】
請求項2の発明は、前記多角形状部の断面形状が5ないし13の頂点を有する多角形である請求項1に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【0012】
請求項3の発明は、前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最長距離(r2)が前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最短距離(r1)の1.001〜1.07倍の長さを有する請求項2に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【0013】
請求項4の発明は、前記継ぎ手本体及び前記袋ナットが共にフッ素樹脂から形成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【0014】
請求項5の発明は、前記継ぎ手本体には、前記外ねじ部を備えた筒部と、前記筒部の先端を膨出させた環状リップ部と、前記筒部の内側に前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される連結筒部と、前記筒部の内側であり前記連結円筒部の外周側に形成され前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される差込溝部とが設けられ、前記連結筒部には先端テーパ面部が設けられていると共に、前記先端テーパ面部又は前記連結筒部の外周の連結筒部外周面部には環状溝部が形成され、前記袋ナットには、前記継ぎ手本体との螺着時において前記樹脂製チューブの拡径端部を前記先端テーパ面部に圧締する内鍔部と、前記継ぎ手本体との螺着時において前記環状リップ部を前記樹脂製チューブの拡径端部に圧締することにより前記当該チューブの拡径端部を前記環状溝部側へ押圧する内テーパ面部が備えられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【0015】
請求項6の発明は、前記外ねじ部が、前記継ぎ手本体の前記多角形状部及び該多角形状部よりも先端側の円筒形状部に形成されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造に係る。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、樹脂製チューブの拡径端部を継ぎ手本体に嵌着し、袋ナットの内ねじ部を前記継ぎ手本体の外ねじ部に螺着して緊締するようにした継ぎ手構造において、互いに螺着する前記継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部とのねじ形状を、多角形状部として形成したため、継ぎ手本体、樹脂製チューブ、袋ナットに生じる熱変形や振動に強く、継ぎ手本体とチューブとの強固な締結を維持し、たとえ袋ナットの螺着に緩みが生じた際においても袋ナットの回転をねじの途中で抑えることができる樹脂製チューブ同士あるいは流体機器とチューブとの接続と取り外しが可能な樹脂製チューブの継ぎ手構造を実現することができる。
【0017】
請求項2の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、請求項1の発明において、前記多角形状部の断面形状が5ないし13の頂点を有する多角形であるため、袋ナットを螺着する際の内ねじ部の抵抗を軽減して袋ナットの回しにくさを解消すると共に、緊締にゆるみが生じた際の袋ナットの回転に対し内ねじ部から受ける抵抗を適度に残すことができる。
【0018】
請求項3の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、請求項2の発明において、前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最長距離(r2)が前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最短距離(r1)の1.001〜1.07倍の長さを有するため、継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部による螺合しやすさ、並びに緊締に緩みが生じた際の抵抗の双方を両立させることができる。
【0019】
請求項4の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記継ぎ手本体及び前記袋ナットが共にフッ素樹脂から形成されているため、多角形状部同士の螺着のような形状変形にも対応でき、しかも耐食性、耐薬品性に優れている。
【0020】
請求項5の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記継ぎ手本体には、前記外ねじ部を備えた筒部と、前記筒部の先端を膨出させた環状リップ部と、前記筒部の内側に前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される連結筒部と、前記筒部の内側であり前記連結円筒部の外周側に形成され前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される差込溝部とが設けられ、前記連結筒部には先端テーパ面部が設けられていると共に、前記先端テーパ面部又は前記連結筒部の外周の連結筒部外周面部には環状溝部が形成され、前記袋ナットには、前記継ぎ手本体との螺着時において前記樹脂製チューブの拡径端部を前記先端テーパ面部に圧締する内鍔部と、前記継ぎ手本体との螺着時において前記環状リップ部を前記樹脂製チューブの拡径端部に圧締することにより前記当該チューブの拡径端部を前記環状溝部側へ押圧する内テーパ面部が備えられているため、袋ナットの螺着時に、環状溝部の縁部に圧力が集中して高いシール性能を得ることができ、さらに、流体の温度変化に起因する樹脂製チューブの変形や共回りにより生じる捻れにも対応することができる。
【0021】
請求項6の発明に係る樹脂製チューブの継ぎ手構造によると、請求項1ないし5のいずれかの発明において、前記外ねじ部が、前記継ぎ手本体の前記多角形状部及び該多角形状部よりも先端側の円筒形状部に形成されているため、袋ナットによる螺着の容易さとねじ締めのゆるみ止め性能の両方を併せ持つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例に係る継ぎ手構造の分解斜視図、図2は継ぎ手本体の外ねじ部の部分拡大図、図3は多角形状部の縦断面図、図4は継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の横断面模式図、図5は図1の継ぎ手構造の断面図、図6は継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の要部縦断面図、図7は継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の拡大断面図、図8は他の例の継ぎ手構造の部分斜視図、図9はさらに他の継ぎ手本体の部分断面図、図10は本発明に係る継ぎ手構造の別形態の横断面模式図である。
【0023】
図1の分解斜視図に示す第1実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Aにおいては、樹脂製チューブ10の拡径端部11は継ぎ手本体20に嵌着され、同時に樹脂製チューブ10は拡径端部11の背後から袋ナット50により継ぎ手本体20側に押し当てられる。そして、袋ナット50の内ねじ部55を継ぎ手本体20の外ねじ部25に螺着することによって緊締状態となる。第1実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Aは、2本の樹脂製チューブ10,10を連結する際に用いられる。
【0024】
樹脂製チューブ10は、主に耐食性、耐薬品性の高いフッ素樹脂等の可撓性材料からなる。その拡径端部11は、例えば、公知のフレアー加工機を用いチューブ末端の口径が広げられる。図示の継ぎ手本体20において、外ねじ部25は継ぎ手本体の長手方向を構成する筒部21の外周に設けられている。また、継ぎ手本体20の筒部21には、環状リップ部31、連結筒部32、差込溝部33、先端テーパ面部34、環状溝部35が形成されている。これらの詳細については図5等にて説明する。図中、符号51は内鍔部である。
【0025】
この発明の特徴として特に図示から理解されるように、互いに螺着する継ぎ手本体20の外ねじ部25と袋ナット50の内ねじ部55のねじ形状は、多角形状部23として形成されていることである。多角形状部23は、請求項2の発明に規定するように、外ねじ部25及び内ねじ部55は共に、その断面形状が5ないし13の頂点を有する多角形である。第1実施例の外ねじ部25及び内ねじ部55では、ねじ形状を六角形の多角形状部としている。
【0026】
図2の主要部図から分かるように、ねじ形状を六角形とする外ねじ部25が備えられた多角形状部23は、6の頂点22と6の辺部26から構成される。辺部26は、多角形状部23の中心から外方に向けて辺部の中央部27を円弧状に膨らませた湾曲形状に形成されている(多角形状部の破線箇所参照)。袋ナット50においても、内ねじ部55が備えられている多角形状部は6の頂点57と6の辺部56から構成される。内ねじ部55のねじ形状は、前記の外ねじ部25と螺着するように中心から外側へ湾曲した形状である。図示の外ねじ部、内ねじ部は共に三角ねじ(ねじの断面が三角形)である。むろん、この他に、台形ねじ、片台形ねじ、方形ねじとすることもできる。符号29は継ぎ手本体を流体が流通する貫通部である。
【0027】
図3は継ぎ手本体の外ねじ部が設けられている多角形状部断面の多角形の一例である(同図(a)ないし(d)参照)。これらの多角形は、前記のとおり、五角形(頂点数5)ないし十三角形(頂点数13)から選択される。頂点数が5未満となる場合、頂点部分の抵抗が大きくなりすぎて袋ナットを回しにくくなるため除外した。また、頂点数が14以上の場合も可能であるが、これ以上頂点数を多くすると多角形状部の断面は円に近似する。よって、本発明の特徴である緊締にゆるみが生じた際の袋ナットの回転に対し頂点部分から受ける抵抗が減殺されてしまう。
【0028】
さらに、請求項3の発明に規定するように、外ねじ部が備えられている多角形状部断面の多角形において、外ねじ部の中心Ctから当該多角形までの最長距離r2は、外ねじ部の中心Ctから同多角形状部断面の多角形までの最短距離r1の1.001〜1.07倍の長さに規定される。これは、継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部による螺合しやすさ、並びに緊締に緩みが生じた際の抵抗の双方を両立させるためである。最長距離r2の最短距離r1に対する倍率は、選択する多角形状部断面の多角形、継ぎ手構造の大きさ、継ぎ手構造に加わる振動や衝撃の程度、後述する樹脂の性質等により最適な倍率が規定される。
【0029】
図3(a)の断面図は、前掲図2に開示の断面形状六角形の多角形状部23を示す。図示の破線が基準となる六角形である。多角形状部の断面である多角形は頂点22と辺部26からなる。外ねじ部25を備える多角形状部23の中心Ctから当該多角形状部断面の多角形までの最長距離r2は、中心Ctから頂点22までの距離である。外ねじ部25の中心Ctから当該多角形までの最短距離r1は、中心Ctから辺部26で円弧状に膨らむ中央部27までの距離である。
【0030】
図3(b)の断面図は断面形状七角形の多角形状部23bを示す。この多角形状部23bルーロー多角形(ルーロー七角形)から構成され、その外周に外ねじ部25bが設けられている。外ねじ部25bを備える多角形状部23bの中心Ctから当該多角形状部断面の多角形までの最長距離r2は、中心Ctから頂点22bまでの距離である。外ねじ部25bの中心Ctから当該多角形までの最短距離r1は、中心Ctから辺部26bで円弧状に膨らむ中央部27bまでの距離である。図示の破線は基準となる七角形である。
【0031】
図3(c)の断面図は断面形状九角形の多角形状部23cを示す。この多角形状部23cもルーロー多角形(ルーロー九角形)から構成され、その外周に外ねじ部25cが設けられている。外ねじ部25cを備える多角形状部23cの中心Ctから当該多角形状部断面の多角形までの最長距離r2は、中心Ctから頂点22cまでの距離である。外ねじ部25cの中心Ctから当該多角形までの最短距離r1は、中心Ctから辺部26cで円弧状に膨らむ中央部27cまでの距離である。図示の破線は基準となる九角形である。
【0032】
図3(d)の断面図は断面形状十二角形の多角形状部23dを示す。この多角形状部23dは辺部26dに円弧状の膨らみを持たない正十二角形から構成され、その外周に外ねじ部25dが設けられている。外ねじ部25dを備える多角形状部23dの中心Ctから当該多角形状部断面の多角形までの最長距離r2は、中心Ctから頂点22dまでの距離である。外ねじ部25dの中心Ctから当該多角形までの最短距離r1は、中心Ctから辺部26dまでの距離である。
【0033】
図示の多角形状部23b,23cのとおり、ルーロー多角形とする場合、頂点数は5ないし13のいずれかの奇数となる。また、多角形状部23dのとおり、正多角形とすることもできる。いずれにおいても、最長距離r2の最短距離r1に対する倍率が前記の範囲内である限り、ルーロー多角形や正多角形あるいは円弧の膨らみを有する多角形とすることは適宜である。
【0034】
図4の横断面図を用い、第1実施例の継ぎ手構造における螺着時の様子を説明する。図中の矢印はこの例のねじ締めの向きを示す。図4(a)は袋ナット50の内ねじ部55を継ぎ手本体20の外ねじ部25に途中まで螺着させた状態である。図示のとおり、袋ナット50と継ぎ手本体20の多角形状部23,23同士は緊締状態である。そこで、多角形状部の断面多角形を構成する袋ナットの辺部56と継ぎ手本体の辺部26とは互いに螺合し、また、袋ナットの頂点57と継ぎ手本体の頂点22も互いに一致する位置関係にある。この時点の袋ナット50における最小の肉厚はt1の長さである。
【0035】
図4(b)は、同図(a)より30°ねじ締めの向きに回した状態である。当該ねじ締めの回転により、袋ナットの頂点57は継ぎ手本体の頂点22から30°離れた位置にある。このとき、継ぎ手本体20の頂点22部分の外ねじ部25と袋ナット50の辺部56の中央部分に位置する内ねじ部55との係合により、継ぎ手本体20と袋ナット50は螺着している。特に、袋ナット50が継ぎ手本体20の頂点22部分を回動する際、袋ナット50は外側に膨らむように変形して継ぎ手本体20の頂点22部分を乗り越える。図示の二点鎖線は回動前の袋ナットの輪郭であり、t2の長さ分袋ナットに変形が生じている。さらに30°回動すると、袋ナットは同図(a)と同様の位置となる。この回動の繰り返しにより、袋ナットの螺着は進み、樹脂製チューブは継ぎ手本体に圧着される。
【0036】
通常、ねじ形状とは断面円形の円筒部分に螺旋状にねじ山が形成される。この場合、継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部による螺着時の緊締にゆるみが生じると、両ねじ部の螺合に伴う摩擦は存在するものの、途中の抵抗を受けることなく袋ナットは回り、螺着が解かれる。これに対し、ねじ形状が多角形状となることにより、いったん継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部による螺着時の緊締にゆるみが生じて袋ナットが回る場合であっても、断面多角形状の頂点部分が抵抗となる。つまり、多角形状の頂点部分を通過するためには、袋ナット自体は変形しなければならず、ゆるんだ袋ナットが引き続き回動するためには過大な荷重が必要となる。加えて、袋ナットが回動しようとしても、多角形状の頂点部分に到達する毎に逐次抵抗を受ける。この結果、ねじ締めにゆるみが生じたとしても初期時点で袋ナット回動が抑えられ、チューブの圧締は維持される。すなわち、極めてねじ締めのゆるみに耐性ある滑り止め性能に優れた継ぎ手構造を実現することができる。
【0037】
本来ならば、多角形状部同士を螺着させようとすると、部材に破損が生じたり、いったん螺着した後の取り外しが困難になることが多い。しかし、図示のとおり、無理を重ねながらも袋ナット50を継ぎ手本体20に螺着させる必要がある。そこで、互いに螺合し合っているときの係合部位の破損を回避するべく、袋ナット50及び継ぎ手本体20は適度な弾性を有し、しかも形状変形可能なことが不可欠となる。この点から、袋ナット50及び継ぎ手本体20は共に樹脂素材から形成される。とりわけ、前記の樹脂製チューブと同様に、請求項4の発明に規定するように、耐食性、耐薬品性に優れたフッ素樹脂から形成される。
【0038】
部材の材料となるフッ素樹脂は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(パーフルオロアルコキシアルカン)、FEP(パーフルオロエチレンプロペンコポリマー)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)等である。これらのフッ素樹脂は、流通する流体の性質、加工のしやすさ、樹脂の可撓性、粘り、硬さ等を考慮して選択される。
【0039】
図5の縦断面図は、第1実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Aによる接続状態を示す。前出の図1と併せて第1実施例の継ぎ手本体20における筒部21の先端部分の構造を説明する。当該先端部分の構造は、請求項5の発明に規定するように、継ぎ手本体20の長手方向の前後に外ねじ部25を備えた筒部21が設けられ、その筒部21の先端に丸みを持たせて膨出(拡大)させた環状リップ部31が形成される。この筒部21の内側に、樹脂製チューブ10の拡形端部11が挿入され、これと密着する連結筒部32が設けられる。また、筒部21の内側であり連結筒部32の外周側に、樹脂製チューブ10の拡形端部11が挿入される差込溝部33が形成される。連結筒部32の先端には先細となった先端テーパ面部34が設けられている。さらに、先端テーパ面部34には、環状溝部35が形成されている。
【0040】
連結筒部32の外径は、樹脂製チューブ10の拡形端部11の内径よりも若干大きめに形成される。これは、樹脂製チューブの拡径端部を連結筒部に差し込んだときに拡径端部が押し広げらて僅かに変形する。樹脂製チューブの拡径端部にはもとの形状に戻ろうとする復元力が働くため、樹脂製チューブと継ぎ手本体(連結筒部)との密着力は強まり、シール性能、引き抜き強度も高まる。先端テーパ面部34は、装着する樹脂製チューブ10の拡形端部11の形状に対応した傾斜を有している。この傾斜は、樹脂製チューブの拡径端部を連結筒部に差し込む際の抵抗を少なくするためである。
【0041】
次に袋ナット50の内ねじ部55が設けられている開口部58側と反対側には樹脂製チューブが挿通されるチューブ開口部59が設けられている。チューブ開口部59の周囲には内鍔部51が備えられる。内鍔部51(チューブ開口部59)により袋ナット50の最小径部が形成される。袋ナット50を継ぎ手本体20に螺着したとき、樹脂製チューブ10の拡径端部11は内鍔部51を通じて先端テーパ面部34に圧締される。
【0042】
併せて、内鍔部51よりも袋ナット50の内部側には内テーパ面部52が形成される。袋ナット50を継ぎ手本体20に螺着したとき、この内テーパ面部52により、筒部21の先端の環状リップ部31は内側に折り曲げられる。同時に環状リップ部31により樹脂製チューブ10の拡径端部11は押圧され、拡径端部11は先端テーパ面部34に圧着される。同時に、拡径端部11の一部は環状溝部35の内部に食い込む。
【0043】
続いて図6、図7の要部縦断面模式図を用い、袋ナット50と継ぎ手本体20との螺着時の様子を説明する。図6(a)は初期の螺着状態であり、継ぎ手本体20の筒部21の先端にある環状リップ部31は、袋ナット50の内テーパ面部52と離れた状態である。図4にて説明した袋ナット50の螺着に伴う前進により、同図(b)のとおり、継ぎ手本体20の筒部21の環状リップ部31に袋ナット50の内テーパ面部52が当接する。そこで、図中の矢印のように環状リップ部31は樹脂製チューブ側に折り曲げられるように変形する。
【0044】
さらに袋ナット50の螺着に伴う前進により、同図(c)のとおり、袋ナット50の内鍔部51が樹脂製チューブ10の拡径端部11のテーパ部分12に接触する。拡径端部11のテーパ部分12に袋ナットの筒方向となる前進方向の押圧力f1が作用することにより、拡径端部11は継ぎ手本体20の連結筒部32に圧接される。同時に、継ぎ手本体の中心側へ変形した環状リップ部31から拡径端部11のテーパ部分12へ内向きの押圧力f2が生じる。
【0045】
ここで、環状リップ部31を介して押圧された樹脂製チューブ10の拡径端部11は、押圧量に応じて先端テーパ面部34に形成された環状溝部35内へ食い込む。図7に示すとおり、環状溝部35内へ食い込んだ樹脂製チューブの拡径端部11は、環状溝部35の縁に当接する。図示の環状溝部35は断面形状を函形とするため、拡径端部11は環状溝部35の縁部35eと線接触する。よって、螺着時に環状溝部35の縁部35eに圧力f3が集中することにより、よりいっそう高いシール性能を得ることができる。結果、流通させる流体の温度変化に起因する樹脂製チューブの変形や共回りにより生じる捻れにも対応することができる。なお、図示しないが前述のとおり、樹脂製チューブの拡径端部にはもとの形状に戻ろうとする復元力も作用している。このように、袋ナットのみを螺着することによって、非常に高い密着性を得ることができことから、管路形成に必要な部品数の削減が可能となり、施工時の煩雑さが軽減される。
【0046】
図8の部分斜視図は、第2実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Bに用いる継ぎ手本体20xを示す。この継ぎ手本体20xによると、請求項6の発明に規定するように、外ねじ部25xは、継ぎ手本体20xの多角形状部23p及び当該多角形状部23pよりも継ぎ手本体の先端側となる円筒形状部24qの両方に形成されている。より詳しく述べると、外ねじ部25xは、多角形状部23pに形成された多角状外ねじ部25uと、円筒形状部24qに形成された螺旋状外ねじ部25vの双方からなり、螺旋状外ねじ部25vと多角状外ねじ部25uとは、連続した一条のねじ山として形成されている。継ぎ手本体20xと螺着する袋ナットは、図2のように多角形状部に内ねじを形成した袋ナット50としても良く、あるいは、図示しないが、袋ナットの開口部側を円筒状とすると共にその直後を多角形状部として、双方に内ねじ部を設けた構造とすることも可能である。なお、図示の便宜上、筒部21xは図11の従来例の先端構造を採用している例である。むろん、図1等の連結筒部等を適用可能なことは言うまでもない。また、第2実施例以降の図示において、第1実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Aと共通する箇所には同一符号を用いた。
【0047】
第2実施例の継ぎ手本体20xのように、外ねじ部の全てを多角形状部に形成していないため、袋ナットの螺着の初期段階では、袋ナットは円筒形状部24qの螺旋状外ねじ部25vを抵抗無く回転できる。その後、継ぎ手構造が緊締を要し、ねじ緩みを回避したい部位に袋ナットが到達した時点では、袋ナットの内ねじ部は多角形状部23pの多角状外ねじ部25uと螺合できる。従って、袋ナットによる螺着の容易さと、前述のねじ締めのゆるみへの耐性ある滑り止め性能の両方を併せ持つことができる。
【0048】
図9の部分断面図は、第3実施例の樹脂製チューブの継ぎ手構造1Cに用いる継ぎ手本体20yを示す。この継ぎ手本体20yでは、連結筒部32の外周にある連結筒部外周面部36に環状溝部35が形成されている。差込溝部33内へ樹脂製チューブ10の拡形端部11を挿入し、袋ナット50yを継ぎ手本体20yに螺着したとき、この内テーパ面部52yにより筒部21の先端の環状リップ部31は内側に折り曲げられる。この押圧を受けて環状リップ部31により樹脂製チューブ10の拡径端部11は押圧され、拡径端部11は連結筒部外周面部36に圧着される。そして、拡径端部11の一部は環状溝部35の内部に食い込む。図示の継ぎ手本体20yの場合も前記の継ぎ手本体20と同様に、螺着時に環状溝部の縁部に圧力が集中して、よりいっそう高いシール性能が発揮される。
【0049】
既述の実施例は、2本の樹脂製チューブ同士を連結する構造である。さらに、図10の縦断面図に示す樹脂製チューブの継ぎ手構造1Dのように、流量計、開閉弁、圧力制御弁等をはじめとする各種の流体機器40の本体経路19と樹脂製チューブ10との接続にも適用することができる。袋ナット50によって継ぎ手本体60に樹脂製チューブ10を接続する構成は、図5、図6等の説明と同様である。
【0050】
継ぎ手本体60の長手方向の一側にあり外ねじ部65を備えた筒部61には、その先端に丸みを持たせて膨出(拡大)させた環状リップ部71が形成される。この筒部71の内側に、樹脂製チューブ10の拡形端部11が挿入され、これと密着する連結筒部72が設けられる。また、筒部61の内側であり連結筒部72の外周側に、樹脂製チューブ10の拡形端部11が挿入される差込溝部73が形成される。連結筒部72の先端には先細となった先端テーパ面部74が設けられている。さらに、先端テーパ面部74には、環状溝部75が形成されている。符号63は多角形状部である。
【0051】
継ぎ手本体60の他側にも多角形状部64に外ねじ部66が形成される。そして、流体機器40にも、図2等に示した袋ナットの内ねじ部と同様の内ねじ部45が設けられる。従って、流体機器40に継ぎ手本体60を接続した際の螺合にゆるみが生じたとしても初期時点で継ぎ手本体側の回動が抑えられ、ねじ締めのゆるみに耐性ある滑り止め性能に優れた継ぎ手構造が可能となる。
【0052】
本発明の樹脂製チューブの継ぎ手構造は、例えば、シリコンウエハー等の半導体製造設備における超純水、フッ酸水、アンモニア水、過酸化水素等の薬液等の流体を供給する経路中の樹脂製チューブ同士の接続(図1参照)、あるいは流量計、開閉弁等の流体機器との接続(図10参照)に用いられる。また、医薬品分野、生化学分野等における分析機器、製造機器等にも用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の一実施例に係る継ぎ手構造の分解斜視図である。
【図2】継ぎ手本体の外ねじ部の部分拡大図である。
【図3】多角形状部の断面図である。
【図4】継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の横断面模式図である。
【図5】図1の継ぎ手構造の縦断面図である。
【図6】継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の要部縦断面図である。
【図7】継ぎ手本体と袋ナットとの螺合時の拡大断面図である。
【図8】他の例の継ぎ手構造の部分斜視図である。
【図9】さらに他の継ぎ手本体の部分断面図である。
【図10】本発明に係る継ぎ手構造の別形態の横断面模式図である。
【図11】従来の継ぎ手構造の縦断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1A,1B,1C,1D 樹脂製チューブの継ぎ手構造
10 樹脂製チューブ
11 拡径端部
20,20x,20y,60 継ぎ手本体
21,21x,61 筒部
22 頂点
23 多角形状部
25,25x,65 外ねじ部
26 辺部
31,71 環状リップ部
32,72 連結筒部
33,73 差込溝部
34,74 先端テーパ面部
35,75 環状溝部
50,50y 袋ナット
51 内鍔部
52,52y 内テーパ面部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製チューブ(10)の拡径端部(11)を継ぎ手本体(20)に嵌着し、袋ナット(50)の内ねじ部(55)を前記継ぎ手本体の外ねじ部(25)に螺着して緊締するようにした継ぎ手構造において、
互いに螺着する前記継ぎ手本体の外ねじ部と袋ナットの内ねじ部とのねじ形状を、多角形状部(23)として形成したことを特徴とする樹脂製チューブの継ぎ手構造。
【請求項2】
前記多角形状部の断面形状が5ないし13の頂点を有する多角形である請求項1に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造。
【請求項3】
前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最長距離(r2)が前記外ねじ部の中心から前記多角形までの最短距離(r1)の1.001〜1.07倍の長さを有する請求項2に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造。
【請求項4】
前記継ぎ手本体及び前記袋ナットが共にフッ素樹脂から形成されている請求項1ないし3のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造。
【請求項5】
前記継ぎ手本体には、前記外ねじ部を備えた筒部(21)と、前記筒部の先端を膨出させた環状リップ部(31)と、前記筒部の内側に前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される連結筒部(32)と、前記筒部の内側であり前記連結円筒部の外周側に形成され前記樹脂製チューブの拡径端部が挿入される差込溝部(33)とが設けられ、前記連結筒部には先端テーパ面部(34)が設けられていると共に、前記先端テーパ面部又は前記連結筒部の外周の連結筒部外周面部(36)には環状溝部(35)が形成され、
前記袋ナットには、前記継ぎ手本体との螺着時において前記樹脂製チューブの拡径端部を前記先端テーパ面部に圧締する内鍔部(51)と、前記継ぎ手本体との螺着時において前記環状リップ部を前記樹脂製チューブの拡径端部に圧締することにより前記当該チューブの拡径端部を前記環状溝部側へ押圧する内テーパ面部(52)が備えられている請求項1ないし4のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造。
【請求項6】
前記外ねじ部が、前記継ぎ手本体の前記多角形状部及び該多角形状部よりも先端側の円筒形状部に形成されている請求項1ないし5のいずれか1項に記載の樹脂製チューブの継ぎ手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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