説明

止水装置

【課題】既設管に仮配管を挿入させて流路を迂回させる場合に、簡易な手段で確実な止水を行える止水装置を提供する。
【解決手段】既設管3の端部側からその内部に小径の仮配管2を挿入することで流路を迂回させる際に用いる止水装置1であって、止水装置1は、仮配管2の外周の一部または全部に設置し、流体の注入により既設管3側に膨張変形する隆起部材と、隆起部材よりも既設管3側に設置する止水部材11と、止水部材11の流水に対する下流側端部を仮配管2に固定する固定部材と、を備えており、隆起部材の膨張変形によって、止水部材11の流水に対する上流側端部を既設管3側に持ち上げ、止水部材11の上流側端部が既設管3内壁面に摺接することで、既設管3と仮配管2との間隙を閉塞する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は止水装置に関する。特に、配管の切替や流路変更などの際に、既設管に仮配管を挿入させて流水を迂回させる場合に用いる止水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中などに埋設された配管を切り替えたり、流路変更を行う際には、配管内を流れる水を止め、作業場所に水が流れ込まないようにする必要がある。
【0003】
これに対し、従来では、作業場所の上流部に土嚢を積み上げて流水をせき止めてポンプなどの排水設備を用いて流水を迂回させる方法がある。しかし、この場合、土嚢で流水を完全にせき止めることは困難であり、また流水量が突発的に増えた場合に速やかに対処をすることができない問題点がある。
【0004】
また、スーパープラグシステム工法と呼ばれる工法を使用して流水を迂回させる方法もある。スーパープラグシステム工法は、上下水道などの配管の切替や流路変更の際に、一端に耐圧密閉開閉蓋を設けた筒型管(スーパープラグ)を用い、当該耐圧密閉開閉蓋を開閉することで、既設管の流水を仮配管に迂回させる方法である。スーパープラグシステム工法で用いる装置を下記特許文献1に示す。しかし、この場合、配管径が異なるなど特殊な配管での作業などの際には、当該工法に用いるスーパープラグがオーダーメイドとなるため、比較的高価になってしまう問題点がある。
【0005】
そこで、より安価で簡便な方法として、既設の配管に、流水を迂回させる仮配管を挿入し、既設管と仮配管の接続部でゴムチューブを膨らませるなどで止水を行う方法が採られることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−2644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
既設の配管に仮配管を挿入し、ゴムチューブを膨らませることで止水を行う方法の場合、ゴムチューブ内の膨張力によって、ゴムチューブを配管の内壁に押圧して、既設管と仮配管との間隙を閉塞している。従って、ゴムチューブを配管の内壁に押圧する際の圧力は膨張力だけに依存する。その結果、流水を完全に止めることが難しく、漏水が発生しやすい。また、ゴムチューブは膨らみやすいように、比較的薄い材料を用いるため、仮に配管の内壁に突起物等があった場合には、ゴムチューブに穴を開けてしまい、破損を起こしやすいという問題点もある。すなわち、簡便な方法によれば完全な止水が困難であり、また破損等の止水装置に対する損傷も発生しやすい課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は上記課題に鑑み、既設管に仮配管を挿入させて流路を迂回させる場合に用いる止水装置を発明した。
【0009】
第1の発明は、既設管の端部側からその内部に小径の仮配管を挿入することで流路を迂回させる際に用いる止水装置であって、前記止水装置は、前記仮配管の外周の一部または全部に設置し、流体の注入により前記既設管側に膨張変形する隆起部材と、前記隆起部材よりも前記既設管側に設置する止水部材と、を備えており、前記止水部材が前記流路の下流側で前記仮配管に固定されている、止水装置である。
【0010】
本発明では、止水装置を仮配管側に取り付け、隆起部材の膨張変形によって、止水部材の流水に対する上流側端部を既設管側に持ち上げ、止水部材の上流側端部が既設管の内壁面に摺接することで、既設管と仮配管との間隙を閉塞する。止水部材には、既設管からの流水による流水圧がかかるが、上記の構成から、止水部材にかかる流水圧を利用して止水部材を既設管により密着させることが可能となる。そのため、流水量が多い場合であっても、閉塞を確実に行うことが出来る。また、止水装置は仮配管に設置することから、既設管に対する損傷が発生することもないし、止水部材が既設管の内壁に摺接することで既設管と仮配管との間隙を閉塞するので、仮に既設管の内壁に突起物等があっても、膨張、収縮する隆起部材が直接外部と接触しないため、止水装置自体への損傷も発生しにくくなる。
【0011】
第2の発明は、既設管の端部側からその内部に小径の仮配管を挿入することで流路を迂回させる際に用いる止水装置であって、前記止水装置は、前記既設管と前記仮配管との間隙を調整するための、前記仮配管の外周の一部または全部に設置する間隙調整部材と、前記間隙調整部材に設置し、流体の注入により前記既設管側に膨張変形する隆起部材と、前記隆起部材よりも前記既設管側に設置する止水部材と、を備えており、前記止水部材が前記流路の下流側で前記間隙調整部材に固定されている、止水装置である。
【0012】
既設管と仮配管との間隙は必ずしも一定とは限らず、既設管の径が大きくなると、同一の止水装置を用いただけでは、既設管と仮配管との間隙を閉塞することが出来ない場合がある。そのような場合には、止水装置に間隙調整部材を設けることで、既設管と仮配管との間隙を閉塞するように構成する。このように構成することによって、第1の発明と同様の技術的効果、すなわち、流水量が多い場合であっても、止水装置による閉塞を確実に行い、漏水を防止することが出来る。また、止水装置および間隙調整部材は仮配管に設置することから、既設管に対する損傷が発生することもないし、止水部材が既設管の内壁に摺接することで既設管と仮配管との間隙を閉塞するので、仮に既設管の内壁に突起物等があっても、膨張、収縮する隆起部材が直接外部と接触しないため、止水装置自体への損傷も発生しにくくなる。
【0013】
上述の各発明において、前記止水部材は、前記固定部材によって固定される固定部と、前記既設管の内壁面に摺接する自由端部と、前記固定部と前記自由端部との間に位置する閉塞部とを備え、前記閉塞部に、前記止水部材の弾性変形を規制して剛性を補強するための支持部材を備える、止水装置のように構成することもできる。
【0014】
本発明のように、止水部材に支持部材を備えることで、流水圧が強くなったとしても、支持部材の剛性により、止水部材が下流側に反転してしまうことを防止でき、既設管の内壁の閉塞状態を維持することが可能となる。すなわち、止水部材の閉塞部には既設管の流水による流水圧がかかり、止水部材を隆起させた支点を中心とした下流側へのトルクが止水部材に発生する。しかし、止水部材の閉塞部に、止水部材の弾性変形を規制して剛性を補強する支持部材が配置されることによって、該支点よりも下流側に止水部材が移動することがない。むしろ、流水量が多い場合には、強い流水圧がかかることで、支持部材が止水部材の自由端部を既設管の内壁に強く押圧する。そのため、流水圧が強くなっても既設管の内壁の閉塞状態を維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の止水装置を用いることによって、既設管に仮配管を挿入させて流水を迂回させる場合に、簡易な手段で確実に止水することが出来る。また、既設管に損傷を与えることもないので、既設管からの漏水なども懸念する必要がなくなり、さらに、止水装置に対する損傷も発生しにくい。
【0016】
また、既設管内の流水を止めずに作業が出来、突発的に流量が増えたとしても、その流水圧を利用して止水部材が既設管の内壁に密着するので、完全に止水出来る。そのため、配管の切替や流路変更部でのコンクリートの打設作業などを問題なく行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】流水を迂回させるために、既設管に仮配管を挿入させた状態を模式的に示す図である。
【図2】実施例1の止水装置を仮配管に取り付けた場合の図である。
【図3】図1のA付近の拡大断面図である。
【図4】実施例1の止水部材の詳細図である。
【図5】実施例1の止水装置において、流体が注入されていない状態の断面図である。
【図6】実施例1の止水装置において、流体の注入が開始された中途状態の断面図である。
【図7】実施例1の止水装置において、流体の注入が終了し、止水部材で既設管と仮配管との間隙を閉塞した状態の断面図である。
【図8】実施例1の止水装置において、流水を抑止する状態を示す断面図である。
【図9】実施例2の止水装置を仮配管に取り付けた場合の図である。
【図10】実施例2の止水部材の詳細図である。
【図11】実施例2の止水部材の長さ関係を示す図である。
【図12】実施例2の止水装置において、流体の注入が終了し、止水部材で既設管と仮配管との間隙を閉塞した状態の断面図である。
【図13】実施例2の止水装置において、流水を抑止する状態を示す断面図である。
【図14】実施例3の止水装置において、流体が注入されていない状態の断面図である。
【図15】実施例3の止水装置において、流体の注入が開始された中途状態の断面図である。
【図16】実施例3の止水装置において、流体の注入が終了し、止水部材で既設管と仮配管との間隙を閉塞した状態の断面図である。
【図17】実施例4において、止水装置を固定用鋼材に取り付けた状態を模式的に示す図である。
【図18】図17のB付近の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の止水装置1は、上下水道などの液体が流れる配管の切替や流路変更などの際に、既設管3に仮配管2を挿入して、中を流れる上水や下水等を迂回させる場合に用いる。図1に、既設管3と、既設管3の上半分を除去し、そこに仮配管2を挿入させた状態の断面図を示す。図1において除去面は波線で示されている。また、わかりやすさのため、止水装置1を配管に対して大きく示しているが、実際には、既設管3と仮配管2との間隙に合わせた止水装置1を適宜用いればよい。
【0019】
なお本発明の止水装置1には、主に4通りの実施態様がある。第1の実施態様(実施例1)は、本発明の止水装置1を仮配管2の上流側先端付近に、仮配管2の外周に沿って取り付けた場合、第2の実施態様(実施例2)は、止水装置1の後述する止水部材11に支持部材111を備えた場合、第3の実施態様(実施例3)は、止水装置1の後述するシール膜12の代わりに、ゴムチューブ15とずれ防止部材16とを用いた場合、第4の実施態様(実施例4)は、止水装置1に固定用鋼材17を用いた場合である。
【0020】
なお、本明細書において、上流、下流とは、既設管3から仮配管2に流れる流水に対するものである。
【実施例1】
【0021】
図2に示すように、本発明の止水装置1は、仮配管2の上流側先端付近に、仮配管2の外周に沿って取り付けられる。図2では仮配管2の外周上に止水装置1が取り付けられる場合を模式的に示しているが、仮配管2の上方付近まで水が流れてこないことが明らかに分かっている場合には、想定される最大水位の高さ付近まで止水装置1が設置されているだけであっても良い。また図1のA付近の拡大図が図3である。
【0022】
止水装置1は、シール膜12と止水部材11と固定具14と注入管13とを有している。シール膜12は、筒状のゴム膜などの弾性体を仮配管2の外周に沿って設置しており、シール膜12を仮配管2に取り付けた状態における上流側端部および下流側端部に複数の孔部が設けられている。また、シール膜12には、厚手のゴム板などで筒状に形成された止水部材11を重ねて配置する。止水部材11をシール膜12の上に重ねて配置した状態において、シール膜12の下流側端部の孔部に対応する位置に、止水部材11の下流側端部にも複数の孔部112を設ける。
【0023】
そして、固定具14a(ボルトなど)を、シール膜12の下流側端部の孔部と止水部材11の孔部112に挿通させ、シール膜12と止水部材11とを仮配管2に固定する。また、固定具14bを、シール膜12の上流側端部の孔部に挿通させ、シール膜12を同様に仮配管2に固定する。従って、シール膜12の上流側端部および下流側端部はともに固定されているが、止水部材11の上流側は自由端となっている。
【0024】
仮配管2の上流側先端付近には、一箇所以上の孔部21が穿設されており、孔部21はシール膜12によって外側から被覆されている。仮配管2の内側には、水などの液体や空気などの気体(以下、「流体」という)を送り込むための注入管13が配管されており、注入管13の先端は、上記孔部21に接合している。また注入管13のほかの一端は、仮配管2内を通り、空気ボンベや液体の貯蔵タンク(以下、「流体貯蔵タンク」という)と接合しており、注入管13に設けられたコック131が操作されることで、流体を止水装置1側に注入したり、それを止水装置1から排出することができる。
【0025】
シール膜12は、上述のようにゴム膜などの弾性体であることが好ましいが、膨らみやすい素材であればよい。またシール膜12の上流側端部および下流側端部にはシーリングを施し、シール膜12と仮配管2との間に注入した流体が漏出しないようになっている。注入管13から流体が孔部21を介して、シール膜12と仮配管2との間に注入されると、シール膜12は隆起し、止水部材11を既設管3側に持ち上げる。
【0026】
止水部材11の上流側端部は、図3に示すように自由端となっていることから、シール膜12が隆起した状態においては止水部材11の上流側端部がシール膜12によって既設管3側に持ち上げられる。また、その隆起が大きくなると、止水部材11の上流側端部付近が、既設管3の内壁に摺接する。これによって、シール膜12が隆起した状態において、既設管3と仮配管2との間隙を止水部材11で閉塞することが可能となる。従って、止水部材11の管軸方向の長さは、既設管3と仮配管2との間隙よりも長くなっている。
【0027】
次に、仮配管2を既設管3に挿入した状態において、本発明の止水装置1を用いて止水を行う状態を説明する。
【0028】
図5に示すように、仮配管2が既設管3に挿入された状態においては、注入管13から流体が注入されていないので、シール膜12は仮配管2の外周面に接している。そして止水装置1を機能させる場合には、注入管13のコック131を操作することで、流体貯蔵タンクから流体を注入管13に注入し、仮配管2の孔部21からシール膜12と仮配管2との間に流体を注入する。
【0029】
流体が注入されると、図6に示すように、シール膜12が隆起し、シール膜12によって、止水部材11の上流側端部付近から既設管3側に持ち上げられる。
【0030】
さらに流体が注入され続けると、図7に示すように、止水部材11は弧を描くように曲がり、自由端である上流側端部付近が既設管3の内壁に密着する。そして、これ以上、止水部材11が上方に持ち上げられることはなくなる。これによって、既設管3と仮配管2との間隙が閉塞される。
【0031】
この状態で既設管3に水が流れてくると、既設管3と仮配管2との間にも水が流れてくるが、図8の状態においては、シール膜12の膨張変形による隆起によって、止水部材11の自由端である上流側端部が既設管3側に持ち上げられ、既設管3の内壁に摺接されている。その結果、止水部材11によって既設管3と仮配管2との間隙を閉塞することが出来、既設管3を流れた流水が漏れるのを防止することが出来る。
【0032】
なお、仮配管2を既設管3から取り外すなどの場合には、注入管13のコック131を操作し、シール膜12側への流体の注入を中止するとともに、内部の流体を排出する。これによって、シール膜12の隆起が縮小し、図6の状態を経て、図5の状態に戻ることとなる。
【実施例2】
【0033】
次に、本発明の止水装置1の別の実施態様として、止水部材11に剛性を高めるための支持部材111を備える場合を説明する。この場合の止水装置1を、仮配管2の上流側先端付近に、仮配管2の外周に沿って取り付けた状態を図9に示す。また図10に、本実施態様における止水部材11を示す。図10(a)は止水部材11を上方から見た図、図10(b)は止水部材11のA−A線断面図、図10(c)は止水部材11のB−B線断面図である。なお、本実施態様の説明において、実施例1と同じ部分については説明を省略する。
【0034】
本実施態様の止水部材11では、仮配管2側の表面、既設管3側の表面、または止水部材11の内部に、一定以上の剛性を備えた短冊状(矩形状)の支持部材111が複数、止水部材11の中央付近に設けられている。図10では、止水部材11の内部に支持部材111を備えた場合を示している。
【0035】
図11(a)に示すように、止水部材11は主に、固定端部11aと閉塞部11bと自由端11cとから形成されている。固定端部11aは、止水部材11に設けられた孔部112にボルトなどの固定具14aが挿通され、仮配管2に固定される部分である。閉塞部11bは、シール膜12の隆起により既設管3側に持ち上げられ、仮配管2と既設管3との間隙を閉塞する。また、自由端部11cは、閉塞部11bがシール膜12の隆起により既設管3側に持ち上げられた状態において、既設管3の内壁面に摺接する。
【0036】
止水部材11が、閉塞部11bに支持部材111を備える場合には、止水部材11を固定具14aで仮配管2に取り付けた状態において、支持部材111は、既設管3や仮配管2内を流れる流水の進行方向に対して平行または略平行に設置されている。すなわち支持部材111の長辺が流水の進行方向に対して平行または略平行に位置し、短辺が流水の進行方向に対して垂直または略垂直に位置していることが好ましい。
【0037】
支持部材111の剛性は、既設管3および仮配管2内の流水に対して抵抗しうる程度であれば良く、支持部材111としては、たとえば鉄などの金属や硬質プラスチックなどを用いることが出来る。また支持部材111を用いない場合の閉塞部11bにこれらの素材を用いることも出来る。
【0038】
止水部材11の長さの関係を図11(a)および図11(b)に示す。図11(a)に示すように、止水部材11の全体の長さをL、止水部材11が固定具14で固定される部分(固定端部11a)の長さをl、閉塞部11b(あるいは支持部材111)の長さをl、既設管3の内壁に接する部分(自由端部11c)の長さをlとすると、閉塞部11bによって、既設管3内の流水による流水圧を支持するため、閉塞部11bの長さlは、既設管3と仮配管2との間隙の幅dと比較すると、l>dとなる。また自由端部11cの長さlは、既設管3に摺接する部分であるため、lは長い方がより漏水を防止できる。
【0039】
このような止水部材11を用いて、シール膜12と仮配管との間に流体を注入させると、実施例1と同様に、シール膜12が隆起する。そしてシール膜12の隆起により、止水部材11も既設管3側に持ち上げられる。
【0040】
さらに流体が注入され続けると、図12に示すように、止水部材11が既設管3の内壁に接し、これ以上、止水部材11が上方に持ち上げられることはなくなる。これによって、既設管3と仮配管2との間隙が閉塞される。
【0041】
すなわち、図12および図13の状態においては、シール膜12の隆起によって、固定具14a付近を支点αとして、止水部材11の閉塞部11bと自由端部11cが既設管3側に持ち上げられ、閉塞部11bの先端であって自由端部11cの後端である点βから前方の自由端部11cが既設管3の内壁に摺接され、閉塞部11bによって既設管3と仮配管2との間隙が閉塞される。この状態で、閉塞部11bの先端(かつ自由端部11cの後端)である点βは支点αよりも、仮配管2の上流側に位置しているため、既設管3を流れた流水による流水圧が閉塞部11bにかかったときに、閉塞部11bには支点αを中心として下流側へのトルクが発生する。しかし閉塞部11b(あるいは閉塞部11bに備えられた支持部材111)が、既設管3と仮配管2との間隙dよりも長く、かつ十分な剛性を有しているため、自由端部11cの点βは、支点αの位置よりも下流側にずれることがない。むしろ、流水圧が強くなればなるほど、閉塞部11bに対するトルクが強くなり、結果、点βにかかる力も強くなるので、自由端部11cは、既設管3の内壁により強く密着する。従って、既設管3を流れる流水量が少ない場合はもちろん、多くなったとしても漏水のおそれがなくなることとなる。
【0042】
なお、支持部材111の代わりに、閉塞部11b自体が十分に剛性を備える素材から形成され、固定端部11aと閉塞部11bとの間、閉塞部11bと自由端部11cとの間がそれぞれ屈曲可能となっていても良い。
【実施例3】
【0043】
次に、本発明の止水装置1の別の実施態様として、シール膜12の代わりに円環状のゴムチューブ15とずれ防止部材16とを用いる場合を説明する。この場合の止水装置1の断面図を図14乃至図16に示す。本実施態様の止水装置1では、ゴムチューブ15とずれ防止部材16と止水部材11と固定具14と注入管13とを備える。なお本実施態様においては止水装置1の止水部材11として、実施例2のように支持部材111を備えた止水部材11を用いる場合を示すが、実施例1の止水部材11を用いても良い。
【0044】
ゴムチューブ15は、仮配管2の先端付近に周設される。ゴムチューブ15には、仮配管2に穿設された孔部21と対応する位置に孔部151が設けられ、仮配管2の孔部21から、ゴムチューブ15の孔部151を通り、注入管13からの流体がゴムチューブ15内に送り込まれる。この際に、孔部21と孔部151との間の流体の注入がスムースに行われるように、バルブ(図示せず)などによってこれらの孔部21、151が連結されていても良い。
【0045】
ゴムチューブ15はずれ防止部材16によって、仮配管2とずれ防止部材16との間に挟み込まれる。ずれ防止部材16はゴムなどの弾性体によって形成されており、ゴムチューブ15が膨張、縮小した際にその位置がずれるのを防止するために、ゴムチューブ15を既設管3側から抑えつける形で所定の間隔をおいて設置される。なお、ずれ防止部材16はゴムチューブ15がほかの方法で仮配管2に固定、支持され、ずれることがないのであれば設ける必要がない。ずれ防止部材16は、仮配管2の上流側および下流側の固定具14a、14bによって固定される。
【0046】
ゴムチューブ15よりも既設管3側(ずれ防止部材16の既設管3側)には、止水部材11が設けられる。止水部材11とずれ防止部材16は下流側の固定具14aによって固定される。
【0047】
ゴムチューブ15内に流体が注入されていない状態においては、ゴムチューブ15内には流体がないので、図14に示すように、ずれ防止部材16および止水部材11によって、ゴムチューブ15は仮配管2の外周面に押圧されている。そして、注入管13のコック131が操作され、流体貯蔵タンクから流体が、注入管13、孔部21、孔部151を介してゴムチューブ15内に注入されると、図15に示すように、ゴムチューブ15が徐々に膨張し、止水部材11の閉塞部11b、自由端部11cが既設管3側に持ち上げられる。
【0048】
そして図16に示すように、ゴムチューブ15内が流体で十分に充填されると、止水部材11の自由端部11cが既設管3の内壁に摺接される。この状態を保つことによって、上述と同様に、既設管3と仮配管2との間隙を閉塞する。
【0049】
このように、実施例1、実施例2のように、シール膜12を用いる形態ではなく、ゴムチューブ15、ずれ防止部材16によって止水部材11を既設管3側に支持し、既設管3と仮配管2との間隙を閉塞しても、上述と同様の効果、すなわち、止水部材11に、既設管3を流れた水による流水圧がかかることで、止水部材11に流水圧に応じた力がかかり、止水部材11からの漏水を防止することが可能となる。
【実施例4】
【0050】
さらに本発明の止水装置1の別の実施態様として、図17に示すように、止水装置1を仮配管2ではなく、固定用鋼材17に取り付けても良い。図17は、止水装置1を取り付けた固定用鋼材17を仮配管2に取り付けた状態の断面図である。また図18は、図17におけるB付近の拡大図である。固定用鋼材17は断面がコの字状である環状の鋼材であって、仮配管2にはボルトなどによってパッキンなどの止水材料を挟んで固定する。
【0051】
既設管3と仮配管2との間隙が止水装置1の止水部材11だけでは閉塞できない大きさの場合に、固定用鋼材17を用いることで、既設管3と仮配管2との間隙の閉塞を補助することが可能となる。この場合、固定用鋼材17のうち、止水装置1を取り付けた側には上述の孔部171を設け、そこに注入管13を取り付ける。従って、コの字状の開口部が仮配管2の後方側に位置することとなるが、これ以外の方法によって固定用鋼材17を仮配管2に取り付けても良い。すなわち、固定用鋼材17は、既設管3と仮配管2との間隙を止水装置1で閉塞できるだけ止水装置1を仮配管2から高い位置にかさ上げして設置できるのであれば、如何なるように設置しても良い。たとえば開口部が仮配管2側となるように設置しても良い。また固定用鋼材17としたが、止水装置1を固定できる部材であれば、鋼材でなくても良いし、その形状も問わない。
【0052】
なお、上述の各実施例において説明した、止水部材11を上方に隆起させる部材(隆起部材)は、本明細書では、シール膜12やゴムチューブ15としたが、それ以外であっても良く、ほかの構成を採ることも可能である。
【0053】
また、上述の各実施例において説明した、隆起部材や止水部材11を仮配管2に固定する部材(固定部材)は、本明細書では、ボルトなどの固定具14a、14bとしたが、それ以外であっても良く、ほかの構成を採ることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
上述した止水装置1を用いることによって、既設管3に仮配管2を挿入させて流水を迂回させる場合に、簡易な手段で確実に止水することが出来る。また、既設管に損傷を与えることもないので、既設管からの漏水なども懸念する必要がなくなる。
【0055】
さらに、本発明の止水装置1によって、簡単な作業によって流水を完全に止水することが出来る。また、既設管3内の流水を止めずに作業が出来、突発的に流量が増えたとしても、その流水圧を利用して止水部材が既設管の内壁に密着するので、完全に止水出来る。そのため、配管の切替や流路変更部でのコンクリートの打設作業などを問題なく行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0056】
1:止水装置
2:仮配管
3:既設管
11:止水部材
12:シール膜
13:注入管
14:固定具
15:ゴムチューブ
16:ずれ防止部材
17:固定用鋼材
21:仮配管の孔部
111:支持部材
131:コック
151:ゴムチューブの孔部
171:固定用鋼材の孔部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の端部側からその内部に小径の仮配管を挿入することで流路を迂回させる際に用いる止水装置であって、
前記止水装置は、
前記仮配管の外周の一部または全部に設置し、流体の注入により前記既設管側に膨張変形する隆起部材と、
前記隆起部材よりも前記既設管側に設置する止水部材と、を備えており、
前記止水部材が前記流路の下流側で前記仮配管に固定されている、
ことを特徴とする止水装置。
【請求項2】
既設管の端部側からその内部に小径の仮配管を挿入することで流路を迂回させる際に用いる止水装置であって、
前記止水装置は、
前記既設管と前記仮配管との間隙を調整するための、前記仮配管の外周の一部または全部に設置する間隙調整部材と、
前記間隙調整部材に設置し、流体の注入により前記既設管側に膨張変形する隆起部材と、
前記隆起部材よりも前記既設管側に設置する止水部材と、を備えており、
前記止水部材が前記流路の下流側で前記間隙調整部材に固定されている、
ことを特徴とする止水装置。
【請求項3】
前記止水部材は、
前記固定部材によって固定される固定部と、前記既設管の内壁面に摺接する自由端部と、前記固定部と前記自由端部との間に位置する閉塞部とを備え、
前記閉塞部に、前記止水部材の弾性変形を規制して剛性を補強するための支持部材を備える、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の止水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−72175(P2013−72175A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209581(P2011−209581)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)