説明

正特性サーミスタの製造方法

【課題】低比抵抗を保ちつつ、耐電圧の高い正特性サーミスタを製造することのできる正特性サーミスタの製造方法を提供する。
【解決手段】炭酸バリウムおよび酸化チタンを主成分とする原料を仮焼して仮焼体1を形成した後、この仮焼体1を焼成匣2に載せて焼成することによって、正特性サーミスタを製造する。この焼成時に、仮焼体1と焼成匣2との間に、3.5〜25.0モル%の酸化カルシウムと残余がジルコニアとからなる部分安定化ジルコニア層3を介在させ、かつ、前記酸化カルシウム量をaモル%としたときの仮焼温度が、a=3.5のとき、1100〜1180℃、3.5<a≦10.0のとき、1100〜1160℃、10.0<a≦20.0のとき、1100〜1140℃、20.0<a≦25.0のとき、1100〜1120℃であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸バリウムおよび酸化チタンを主成分とする原料を用いた正特性サーミスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
正特性サーミスタとして、チタン酸バリウムを主成分とし、希土類元素(Y、Laなど)の添加により半導体化されたものが知られている。
この正特性サーミスタは、常温時は比抵抗(電気抵抗率)が低く、キュリー温度を超えると比抵抗が急激に上昇するという正の抵抗温度特性を有しており、このような特性を活かして、従来から電子回路の過電流防止や過熱防止、または、ブラウン管テレビの消磁用や、モータ起動用などに用いられている。
【0003】
この正特性サーミスタは、炭酸バリウムおよび酸化チタンを主成分とする原料を仮焼して仮焼体を形成した後、この仮焼体を焼成することにより製造される。
焼成は、アルミナやムライトからなる焼成匣(匣鉢やセッター)に、ジルコニア(酸化ジルコニウム)の粉末等を敷いて、その上に仮焼体を載せて行われる(例えば、特許文献1参照)。
仮焼体と焼成匣との間に、ジルコニア粉末を介在させることにより、焼成時に、焼結物と焼結匣とが溶着したり、焼成匣に含まれる酸化アルミニウムと仮焼体とが反応して、正特性サーミスタの耐電圧等の電気特性が低下するのを防止している。
ここで、耐電圧とは、静的耐電圧ともいい、正特性サーミスタに印加する電圧を徐々に増加させたとき、正特性サーミスタが破壊せずに耐え得る最大電圧をいう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平8−24006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したようなジルコニア粉末を用いた場合、仮焼体と焼成匣との反応よりは小さい反応ではあるものの、仮焼体がジルコニア粉末と反応してしまい、正特性サーミスタの耐電圧が低下するという問題が生じる。
【0006】
また、近年では、正特性サーミスタの小形化を図るため、常温での比抵抗が小さいことや、耐電圧が高いことが要望されている。
比抵抗を下げるには、仮焼温度を極力下げることが有効であることが知られているが、仮焼温度を下げると、仮焼時に原料が不純物と反応してしまう。この場合、焼結時に、仮焼体とジルコニア粉末とが反応しやすくなって、正特性サーミスタの耐電圧が大きく低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、低比抵抗を保ちつつ、耐電圧の高い正特性サーミスタを製造することのできる正特性サーミスタの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の正特性サーミスタの製造方法は、炭酸バリウムおよび酸化チタンを主成分とする原料を仮焼して仮焼体を形成した後、この仮焼体を焼成匣に載せて焼成することにより正特性サーミスタを製造する方法であって、前記仮焼体と前記焼成匣との間に、3.5〜25.0モル%の酸化カルシウムと残余がジルコニアとからなる部分安定化ジルコニア層を介在させ、かつ、前記酸化カルシウム量をaモル%としたときの仮焼温度が、
a=3.5のとき、1100〜1180℃、
3.5<a≦10.0のとき、1100〜1160℃、
10.0<a≦20.0のとき、1100〜1140℃、
20.0<a≦25.0のとき、1100〜1120℃
であることを特徴とする。
【0009】
純粋なジルコニアは、1000℃付近を超えると、結晶構造が単斜晶から正方晶および立方晶に変化(相転移)し、この相転移に伴って体積が変化するが、ジルコニアと酸化カルシウム(安定化剤として機能)とを固溶させると、ジルコニアは相転移しなくなる(安定化する)。このような安定化したジルコニアを安定化ジルコニアといい、一部の結晶が安定化しているジルコニアを部分安定化ジルコニアという。
【0010】
部分安定化ジルコニアは、純粋なジルコニアに比べて、仮焼体と反応しにくい。
そのため、仮焼体と焼成匣との間に、ジルコニアと酸化カルシウムとからなる部分安定化ジルコニア層を介在させることにより、純粋なジルコニアを介在させた場合に比べて、焼成時の仮焼体の反応による正特性サーミスタの耐電圧の低下を抑制することができる。
【0011】
また、部分安定化ジルコニア層中の酸化カルシウムの含有量が多いほど、焼成時に、ジルコニアに溶け込んでいない酸化カルシウムと仮焼体とが反応して耐電圧は向上するものの、比抵抗が高くなってしまう。具体的には、酸化カルシウムの含有量が25.0モル%を超えると、耐電圧は高くなるものの、比抵抗が高くなり過ぎる。
逆に、部分安定化ジルコニア全量に対する酸化カルシウムの含有量が3.5モル%よりも少ないと、仮焼成形体との反応が抑制され、耐電圧を向上させる効果がほとんどない。
そのため、部分安定化ジルコニア層中の酸化カルシウムの含有量を3.5〜25.0モル%とするとともに、酸化カルシウムの含有量に応じた所定の仮焼温度で仮焼することにより、低比抵抗を保ちつつ、耐電圧を向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の正特性サーミスタの製造方法によると、高耐電圧の正特性サーミスタを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る正特性サーミスタの製造方法における焼成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る正特性サーミスタの製造方法について説明する。
【0015】
正特性サーミスタの原料は、炭酸バリウム(BaCO)及び酸化チタン(TiO)を主成分とし、半導体化のための希土類元素(例えばY、La)や、キュリー温度を調整するためのストロンチウム(Sr)または鉛(Pb)や、正特性サーミスタの抵抗温度特性を制御するためのマンガン(Mn)などの公知の添加剤を添加したものが用いられる。
【0016】
上記原料を湿式で混合した後、脱水・乾燥し、仮焼して仮焼体を形成する。
仮焼温度を、1100〜1200℃とし、仮焼時間を、例えば2時間程度とする。
仮焼温度が1100℃未満では、仮焼時に原料の一部が不純物と反応して、正特性サーミスタの本来の電気特性が得られず、1200℃以上では、正特性サーミスタの比抵抗が高くなりすぎるので好ましくない。
また、仮焼温度は、詳細には、後述する焼成時に使用する部分安定化ジルコニア層3中の酸化カルシウム量に応じて設定する。
【0017】
次に、この仮焼体を粉砕して、湿式で造粒してから、所望の形状に成形して仮焼成形体1を形成する。
【0018】
次に、図1に示すように、アルミナやムライト等のセラミックで形成された焼成匣2の上に、部分安定化ジルコニア層3を形成し、さらにその上に仮焼成形体1を載せて、焼成を行う。つまり、仮焼成形体1と焼成匣2との間に、部分安定化ジルコニア層3を介在させて焼成を行う。
これにより、チタン酸バリウムを主成分とする焼結体素子が形成される。
【0019】
部分安定化ジルコニア層は、75.0〜96.5モル%のジルコニア(ZrO)と、3.5〜25.0モル%の酸化カルシウム(CaO)とから構成される。
部分安定化ジルコニア層は、部分安定化ジルコニアの粉末を敷いたものであってもよく、部分安定化ジルコニアからなるシートであってもよい。
【0020】
ここで、焼成温度は、1250〜1350℃とし、焼成時間は、1〜2時間とする。
【0021】
最後に、得られた焼結体素子に電極を設けて、正特性サーミスタの製造が完了する。
【0022】
ここで、従来の正特性サーミスタの製造方法では、焼成時に、仮焼成形体と焼成匣との間にジルコニアを介在させている。そのため、焼成時に、仮焼成形体とジルコニアとが反応して、正特性サーミスタの耐電圧が低下していた。
本実施形態の正特性サーミスタの製造方法では、焼成時に、仮焼成形体1と焼成匣2との間に、ジルコニアと酸化カルシウムとからなる部分安定化ジルコニア層3を介在させている。部分安定化ジルコニアは、純粋なジルコニアに比べて、仮焼成形体と反応しにくい。このため、仮焼成形体1と焼成匣2との間に、部分安定化ジルコニア層3を介在させることにより、純粋なジルコニアを介在させた場合に比べて、焼成時の仮焼成形体1の反応による正特性サーミスタの耐電圧が低下するのを抑制することができ、高耐電圧の正特性サーミスタを得ることができる。
そのため、たとえ比抵抗を下げるために仮焼温度を低めに設定した場合であっても、高耐電圧の正特性サーミスタを得ることができる。
【0023】
また、部分安定化ジルコニア層3中の酸化カルシウムの含有量が多いほど、焼成時に、ジルコニアに溶け込んでいない酸化カルシウムと仮焼体とが反応して耐電圧は向上するものの、比抵抗が高くなってしまう。具体的には、酸化カルシウムの含有量が25.0モル%を超えると、耐電圧は高くなるものの、比抵抗が高くなり過ぎる。
逆に、部分安定化ジルコニア全量に対する酸化カルシウムの含有量が3.5モル%よりも少ないと、焼成時の仮焼成形体1の反応を抑制して耐電圧を向上させる効果がほとんど期待できない。
そのため、部分安定化ジルコニア層3中の酸化カルシウムの含有量を3.5〜25.0モル%とすることにより、低比抵抗を保ちつつ、耐電圧を向上させることができる。
【0024】
また、上述したように、仮焼温度は、部分安定化ジルコニア層3中の酸化カルシウム量に応じて設定される。具体的には、酸化カルシウム量をaモル%とすると、a=3.5のとき、1100〜1180℃、3.5<a≦10.0のとき、1100〜1160℃、10.0<a≦20.0のとき、1100〜1140℃、20.0<a≦25.0のとき、1100〜1120℃とする。
部分安定化ジルコニア層3中の酸化カルシウム量が多くなるほど、正特性サーミスタの比抵抗が高くなるため、仮焼温度を酸化カルシウム量に応じて上記の範囲内に設定することにより、低比抵抗を保つことができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0026】
原料として、BaCO、TiO、SrCO、CaCO、Pb、Yを用意して、所定の配合比で配合し、これを湿式で混合した後に脱水・乾燥し、1100℃〜1200℃で2時間仮焼して仮焼体を得た。
次に、仮焼体を湿式粉砕した後に、バインダーを加えて造粒し、これを一軸方向に圧力を加えて円柱状(直径13mm、厚さ0.6mm)に成形した。
【0027】
次に、ムライト質の焼成匣に、表1に示す部分安定化ジルコニアの粉末またはジルコニアの粉末を敷き、その上に円柱状の成形体を載せて、1250〜1350℃で1〜2時間焼成して、焼結体素子を得た。なお、焼成温度および焼成時間は、全試料とも同一条件とした。
最後に、この焼結体素子の両面にインジウム−ガリウム合金を塗布して電極を形成して、正特性サーミスタを作製して、常温時の比抵抗と耐電圧を測定した。その結果をも表1に示す。
なお、表1中の評価欄には、比抵抗20Ω・cm未満で、かつ耐電圧200V/mm以上の場合に丸印を表示している。この比抵抗と耐電圧の数値は、高電圧過電流防止用の正特性サーミスタに要求される性能である。
【0028】
【表1】

【0029】
表1の結果から明らかなように、純粋なジルコニアを用いた比較例a-1〜a-5に比べて、部分安定化ジルコニアを用いた実施例および比較例は、正特性サーミスタの耐電圧が向上している。
【0030】
表1より分かるように、部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が多くなるほど、比抵抗は上昇し、耐電圧は向上している。
また、部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が一定の場合には、仮焼温度が高くなるほど、比抵抗が上昇し、耐電圧が向上している。
【0031】
具体的には、部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が3.5モル%の場合については、仮焼温度が1100℃〜1180℃では、比抵抗と耐電圧の両方について要求される性能を満足することができたが、仮焼温度が1200℃では比抵抗が高すぎて要求性能を満足しなかった。
【0032】
また、部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が10.0モル%の場合については、仮焼温度が1100℃〜1160℃では、比抵抗と耐電圧の両方について要求される性能を満足することができたが、仮焼温度が1180℃以上では比抵抗が高すぎて要求性能を満足しなかった。
【0033】
部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が20.0モル%の場合については、仮焼温度が1100℃〜1140℃では、比抵抗と耐電圧の両方について要求される性能を満足することができたが、仮焼温度が1160℃以上では比抵抗が高すぎて要求性能を満足しなかった。
【0034】
部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が25.0モル%の場合については、仮焼温度が1100℃〜1120℃では、比抵抗と耐電圧の両方について要求される性能を満足することができたが、仮焼温度が1140℃以上では比抵抗が高すぎて要求性能を満足しなかった。
【0035】
部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量が30.0モル%の場合については、比抵抗が高すぎて要求される性能を満足しなかった。
【0036】
また、仮焼温度が1100℃未満では、仮焼時に原料の一部が不純物と反応して、正特性サーミスタの本来の電気特性が得られない。
【0037】
以上より、部分安定化ジルコニア中の酸化カルシウムの含有量と仮焼温度の範囲の関係については、酸化カルシウム量をaモル%としたときの仮焼温度が、
a=3.5のとき、1100〜1180℃、
3.5<a≦10.0のとき、1100〜1160℃、
10.0<a≦20.0のとき、1100〜1140℃、
20.0<a≦25.0のとき、1100〜1120℃としたときが好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 仮焼成形体(仮焼体)
2 焼成匣
3 部分安定化ジルコニア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸バリウムおよび酸化チタンを主成分とする原料を仮焼して仮焼体を形成した後、この仮焼体を焼成匣に載せて焼成することにより正特性サーミスタを製造する方法であって、
前記仮焼体と前記焼成匣との間に、3.5〜25.0モル%の酸化カルシウムと残余がジルコニアとからなる部分安定化ジルコニア層を介在させ、かつ、
前記酸化カルシウム量をaモル%としたときの仮焼温度が、
a=3.5のとき、1100〜1180℃、
3.5<a≦10.0のとき、1100〜1160℃、
10.0<a≦20.0のとき、1100〜1140℃、
20.0<a≦25.0のとき、1100〜1120℃
であることを特徴とする正特性サーミスタの製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−238903(P2010−238903A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85059(P2009−85059)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】