説明

歩行促進効果を有する履物

【課題】 格別な訓練、習熟を伴わなくとも使用しただけで、自然に足が前に踏み出されるような支援を受けることができ、且つ歩行状態でないときの使用感も自然な状態を得ることができる新規な履物の開発を試みたものである。
【解決手段】 本発明の歩行促進効果を有する履物Fは、アッパ1とソール2とを具え、前記ソール2は、本底20と中底21とを具えるものであり、前記本底20の前方下面は、静置状態で接地面より離れる浮き上がり部が形成されているものであり、一方前記中底21は保形ソール22と、クッションソール23とを具え、且つ前記保形ソール22は、足長方向のほぼ中間部位に下方に突出する踏み抜き案内支点220を具え、この踏み抜き案内支点220の前後に前側クッションソール232と、反発用スプリングが組み込まれたヒール側クッションソール231とが配設されていることを特徴ととして成るものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴、サンダル等の履物に関するものであって、特に格別な訓練、習熟を要することなく、使用するだけでいわゆる速歩状態を得ることができる歩行促進効果を有する履物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
スポーツシューズをはじめ、いわゆる健康サンダル等は、歩行、ジョギング、ランニングによる健康維持・増進に寄与できるよう様々な工夫がされている。具体的には特に履物のソールにおいてその構造、素材等の工夫改良がなされている。しかしながらこれらの多くは脚部の筋力を鍛えるよう敢えて不自然な形態をとったり、あるいはランニング競技において有効に脚力を生かすような改良に主眼がおかれている。いわばほとんどの提案はトレーニングを目的としたもので、一般の人が日常生活や日常業務の中で、何の習熟、訓練もせずに使用した場合であっても効率的な歩行ができる履物はほとんど提案されていない。日常業務において比較的迅速な行動が要求される業務としては、医療業務の現場、あるいは警務・警備の現場等であるが、これらの現場では歩行を伴わない立位作業であっても、自然に使用できる履物であることが前提であり、このような目的に適う履物はほとんど存在しなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3126681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような背景を考慮してなされたものであって、格別な訓練、習熟を伴わなくとも使用しただけで、自然に足が前に踏み出されるような支援を受けることができ、且つ歩行状態でないときの使用感も自然な状態を得ることができる新規な履物を開発することを技術課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の歩行促進効果を有する履物は、適宜の履用構造を有するアッパと、このアッパ下面に設けられるソールとを具えた履物において、前記ソールは、接地面を構成する本底と、この本底とアッパとの間に設けられる中底とを具えるものであり、前記本底の前方下面は、静置状態で接地面より離れる浮き上がり部が形成されているものであり、一方前記中底は圧縮荷重による変形発現を抑えた保形ソールと、この保形ソール下面側に設けられる圧縮荷重による変形発現の顕著なクッションソールとを具え、且つ前記保形ソールは、足長方向のほぼ中間部位に下方に突出する踏み抜き案内支点を具え、この踏み抜き案内支点の前後に前記クッションソールを構成する前側クッションソールとヒール側クッションソールとが配設されるものであり、更に前記ヒール側クッションソールには圧縮方向に作用する反発用スプリングが組み込まれていることを特徴ととして成るものである。
【0006】
また請求項2記載の歩行促進効果を有する履物は、前記請求項1記載の要件に加え、前記保形ソールは、踏み抜き案内支点を一体に形成したものであることを特徴として成るものである。
【0007】
更にまた請求項3記載の歩行促進効果を有する履物は、前記請求項1または2記載の要件に加え、前記本底は、履物を静置状態とした場合において、先端側の浮き上がり高さ寸法Gがソール後端高さ寸法Hの0.5〜1.0倍の範囲の寸法とされていることを特徴ととして成るものである。
【0008】
更にまた請求項4記載の歩行促進効果を有する履物は、前記請求項1、2または3記載の要件に加え、前記浮き上がり部における浮き上がり部起点Pと先端との間の浮き上がり長さ寸法Lは、浮き上がり高さ寸法Gの1.0〜2.5倍の範囲の寸法であることを特徴ととして成るものである。
【発明の効果】
【0009】
まず請求項1記載の発明によれば、歩行動作における足部の動きをあたかもシーソー状の動きを呈するように支援するものであって、踵部による接地に対し、シーソー様の作用を発現させるため反発用スプリングが作用するとともに、その後踏み抜き案内支点が中心となって履物が前下がり状態となり、結果的に自然に足が前に踏み出されるような状況を発現させ、歩行促進が図られるものである。加えて歩行しない立位作業時等においても、ヒール部の沈み込みが反発用スプリングにより抑えられ、安定した姿勢が得られる。
【0010】
また請求項2記載の発明によれば、保形ソールと一体に踏み抜き案内支点が形成されており、強度的にも優れ、且つ低コストでの製造が可能となる。
【0011】
更にまた請求項3記載の発明によれば、本底の先端が充分に浮き上がり状態に構成されているから、歩行動作にあたって体重を支持した支点から前側に体重が移動するにあたって、円滑にその体重移動が図られ、自然に足が踏み出されるような状態が得られる。
【0012】
更にまた請求項4記載の発明によれば、前側クッションソールの変形とともに、浮き上がり長さ寸法Lが浮き上がり高さ寸法Gの1.5〜2.5倍程度に設定されているから、歩行時における蹴り出し作業を円滑に行わせるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の歩行促進効果を有する履物の構成を示す斜視図、分解斜視図、並びに歩行動作における作用態様を併せて示した説明図である。
【図2】本発明の歩行促進効果を有する履物の構成を示す、一部破断側面図である。
【図3】本発明の歩行促進効果を有する履物のソールの構成要素を示した分解側面図である。
【図4】本発明の歩行促進効果を有する履物の歩行動作における作用態様を示す説明図である。
【図5】本発明の歩行促進効果を有する履物の他の実施例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態は以下述べる実施例に示すとおりであり、更にこの技術思想内において改良し得る種々の形態を含むものである。
【実施例】
【0015】
以下本発明を図示の実施例に基づいて具体的に説明する。符号Fは本発明の履物であって、通常の歩行時における歩行促進効果を有するものである。この履物Fは、大別するとアッパ1とソール2とが組み合わされて構成されるものであり、アッパ1としては図1〜4に示すような靴タイプのアッパ11と、図5に示すようなサンダルタイプのアッパ12など、適宜の履用構造を具えるものが適用できる。もちろんこれ以外にもブーツタイプ、スリッパタイプ等、目的に合った形態をとることが当然可能である。
【0016】
次に本発明の主要構成を有するソール2について説明する。このソール2は、常法に従い接地面を構成する本底20と、この本底20とアッパ1との間に設けられる中底21とを具える。本底20は、接地時における耐久性や防滑性等が考慮されたものであり、接地側は適宜の凹凸を構成して防滑構造とされている平板状のゴムラバー等を適用している。なお完成状態においてこの本底20は、靴Fを静置した状態で爪先側が接地しない状態に構成されるものであり、この部位を浮き上がり部201とする。
【0017】
一方、中底21は保形ソール22とクッションソール23、更にその中に組み込まれる反発用スプリング25を主要部材とする。保形ソール22は、圧縮荷重による変形発現を抑えた素材で構成されるものであり、具体的には硬質ウレタン等の成形部材が用いられる。このものは全体としてはほぼ平板状であって外殻形状は靴の外周形状にほぼ合致したような形態をとる。この保形ソールは、その足長方向のほぼ中間部位に下方に突出する踏み抜き案内支点220が形成されるとともに、その後方にヒール支承部221が形成され、また前方には前部支承部222が形成される。
【0018】
なおこれらヒール支承部221及び前部支承部222はそれぞれ踏み抜き案内支点220に至る境界部位は滑らかに連続した曲面を形成している。つまりヒール支承部221、前部支承部222の上下の厚さ寸法は、それぞれ前後の端部から踏み抜き案内支点220に向かうに従い、厚さを漸増させるような形態をとっている。なお圧縮荷重による変形発現が抑えられている保形ソール22については、厳密には圧縮荷重を受ければそれに応じた圧縮変形が生ずることは言うまでもないが、実用上一般の人の体重がかかったときに、言わば緩衝的な圧縮変形がなされないという意味である。また保形ソール22は適宜軽量化等の目的で抜き穴224を形成している。
【0019】
次にクッションソール23について説明する。このものは、保形ソール22の下面に設けられるものであり、圧縮荷重による変形発現が顕著なものであって、具体的には軟質E.V.Aスポンジ等を適用する。もちろんこの圧縮荷重による変形発現が顕著であるということは、通常の実用的な履物としての使用にあたってのクッション効果を奏するという意味である。このクッションソール23は、前記保形ソール22において踏み抜き案内支点220が形成されることにより相対的にヒール支承部221あるいは前部支承部222の下方に空間が形成されることとなるが、この空間部位を塞ぐように設けられるものである。従ってヒール支承部221の下面にはヒール側クッションソール231が設けられ、また前部支承部222の下面には前側クッションソール232が設けられる。
【0020】
そしてこのヒール側クッションソール231は、その中央部がくり抜かれるようになって反発用スプリング25を収納するスプリング収め部233を構成する。反発用スプリング25は一例として金属製のコイルスプリングを設けるものであり、本底20のヒール部と保形ソール22のヒール支承部221との間に設けられるものである。
【0021】
更に完成状態において、歩行時等に作用する履物Fの各部位あるいはそれらの寸法について更に説明する。すなわち図1、2に示すように、まずソール2の高さについてはソール2におけるソール後端高さ寸法をHとし、静置時における接地面からの爪先側ソール高さ寸法をH0とする。これらソール後端高さ寸法H、爪先側ソール高さ寸法H0は、静置状態においてはほぼ近い寸法設定とされている。そして本底20における浮き上がり部201が開始される点を浮き上がり部起点Pとし、靴先端とこの浮き上がり部起点Pとの間の寸法を、浮き上がり長さ寸法Lとする。また先端における浮き上がり部分の寸法を、浮き上がり高さ寸法Gとする。更にソール2については歩行時の体重移動に着眼して、前後方向の部位をゾーン分けして、まず後端部を接地開始ゾーンZ1とし、踏み抜き案内支点220を中心としたその前後の範囲を支点ゾーンZ2とし、更にそれより爪先側の部位を蹴り出しゾーンZ3とする。なお実質的に蹴り出しゾーンZ3は、浮き上がり部起点Pを概ね含む爪先側の範囲である。
【0022】
本発明の歩行促進効果を有する履物Fは、以上述べたような構成を有し、歩行時においては次のように歩行促進効果を発揮する。まず使用にあたっては通常の靴と何ら変わらない状態で、これを履いて用いる。そして歩行時の状態を見ると、通常歩行の際には踵側から接地するものであり、まず接地開始ゾーンZ1が接地してこの部位におけるヒール側クッションソール231及び内蔵されている反発用スプリング25が共に圧縮される(図4(a)(b)参照)。このような状態の後、瞬時に蹴り出しないしは体重移動がされるものであり、その際、クッションソール23におけるヒール側クッションソール231に組み込まれている反発用スプリング25の作用により接地開始ゾーンZ1が踵を押し上げるように復元しながら、支点ゾーンZ2が靴の前後の揺動運動の支点となり、図4(c)(d)に示すようにあたかも靴がシーソー様の動きをするような作用を呈する。
【0023】
因みにこのとき反発用スプリング25が存在しないときには、接地開始ゾーンZ1、支点ゾーンZ2で体重がそのまま荷重され、言わば踵下がり状態のままとなってしまう。そしてこの状態で歩行を行う場合には、ふくらはぎの筋肉の負担となって、その部位の筋肉の強化等にはなるものの、それはトレーニングシューズのような作用となってしまう。通常の実用的な使用時における歩行促進という本発明の目的からは外れてしまう。つまり爪先側への体重移動を行う場合、この反発用スプリング25が言わば弾みとなり、爪先への体重移動を補助するものである。
【0024】
このような体重移動ないしは足の踏み出しに伴い、その移動は次に図4(e)(f)に示すように支点ゾーンZ2を中心に靴が前下がり状態となるものであり、このとき本底20はその前端に浮き上がり部201を有することから、その部位、すなわち蹴り出しゾーンZ3が接地するにつれ、言わばシーソー様の運動が誘導される。この動きは自然に足先が前に踏み出すような支援動作となるのである。なおこの浮き上がり高さ寸法Gは、例えばヒール側のソール後端高さ寸法Hを基準としたとき、その0.5〜1.0倍程度の寸法であることが好ましく、特に0.7〜0.8倍程度であるときに更に好ましい結果が得られている。
【0025】
また足の踏み込みを円滑にするために更に重要な役割をする浮き上がり部起点Pについても、浮き上がり高さ寸法Gを基準としたとき、その1.0〜2.5倍程度、特に1.8〜2.2倍程度にすることが好ましく、このような寸法設定であるとより自然な歩行状態が得られる。なお保形ソール22については、踏み抜き案内支点220とヒール支承部221、前部支承部222をすべて一体成形の部材とすることが好ましいが、踏み抜き案内支点220を構成するにあたってより最適な別体の部材を保形ソール22の中央に組み合わせるような形態としてももちろん差し支えない。なおアッパ1とソール2との間に更にクッション性能等を求められるときには更に他の緩衝素材を介在させることももちろん差し支えない。
【0026】
また歩行しない立位作業等の場合には、本発明の履物Fは、踵側が反発スプリング25の存在により過度に沈むことがなく、安定した履物の使用姿勢が保たれる。
【符号の説明】
【0027】
1 アッパ
2 ソール
201 浮き上がり部
11 靴タイプのアッパ
12 サンダルタイプのアッパ
20 本底
21 中底
22 保形ソール
220 踏み抜き案内支点
221 ヒール支承部
222 前部支承部
224 抜き穴
23 クッションソール
231 ヒール側クッションソール
232 前側クッションソール
233 スプリング収め部
25 反発用スプリング
F 履物
G 浮き上がり高さ寸法
L 浮き上がり長さ寸法
H ソール後端高さ寸法
H0 爪先側ソール高さ寸法
P 浮き上がり部起点
Z1 接地開始ゾーン
Z2 支点ゾーン
Z3 蹴り出しゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
適宜の履用構造を有するアッパと、このアッパ下面に設けられるソールとを具えた履物において、前記ソールは、接地面を構成する本底と、この本底とアッパとの間に設けられる中底とを具えるものであり、前記本底の前方下面は、静置状態で接地面より離れる浮き上がり部が形成されているものであり、一方前記中底は圧縮荷重による変形発現を抑えた保形ソールと、この保形ソール下面側に設けられる圧縮荷重による変形発現の顕著なクッションソールとを具え、且つ前記保形ソールは、足長方向のほぼ中間部位に下方に突出する踏み抜き案内支点を具え、この踏み抜き案内支点の前後に前記クッションソールを構成する前側クッションソールとヒール側クッションソールとが配設されるものであり、更に前記ヒール側クッションソールには圧縮方向に作用する反発用スプリングが組み込まれていることを特徴とする歩行促進効果を有する履物。
【請求項2】
前記保形ソールは、踏み抜き案内支点を一体に形成したものであることを特徴とする請求項1記載の歩行促進効果を有する履物。
【請求項3】
前記本底は、履物を静置状態とした場合において、先端側の浮き上がり高さ寸法Gがソール後端高さ寸法Hの0.5〜1.0倍の範囲の寸法とされていることを特徴とする請求項1または2記載の歩行促進効果を有する履物。
【請求項4】
前記浮き上がり部における浮き上がり部 点と先端との間の浮き上がり長さ寸法Lは、浮き上がり高さ寸法Gの1.0〜2.5倍の範囲の寸法であることを特徴とする請求項1、2または3記載の歩行促進効果を有する履物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−246791(P2010−246791A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−100667(P2009−100667)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(509111869)
【Fターム(参考)】