説明

歯周病の検査方法及び検査診断薬

【課題】歯周病の進行予測を的確に行うことができる歯周病の検査方法及び検査診断薬を提供すること。
【解決手段】歯周病によって流出量が増加することが知られている歯肉溝滲出液に発現することが判明した破骨細胞の分化誘導に関与するγ−グルタミルトランスペプチダーゼの活性を測定する歯周病の検査方法を提供するとともに、とともに、前記γ−グルタミルトランスペプチダーゼと反応する物質、例えば抗γ−GTP抗体を少なくとも含有する歯周病の検査診断試薬を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯周病の検査方法及び検査診断薬に関する。より詳細には、γ−グルタミルトランスペプチダーゼをマーカーとする歯周病の生化学的な検査方法及び歯周病の検査試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯周病は、歯のまわりの歯周組織が徐々に壊されていく慢性の病気である。一般には、根端性歯周炎や歯周組織にできた腫瘍を除いて、それ以外の歯周組織に係わる病気を一括して歯周病(又は歯周疾患)と呼んでいる。
【0003】
現在、60歳以上の80%が歯周病であるという知見があり、今後、高齢化の進行に伴い患者数が増大することが予測される。近年は、中年の患者も増加し、国民病の様相を呈し、現在、医療機関で治療を受けている患者は3,000万人以上、潜在患者も同数以上存在すると考えられ、歯周病の医療費は、約5,000億円に達し、歯科医療費の2割に相当する。
【0004】
現在までの研究によって、歯周病の原因が細菌であることや症状の進行過程等について明らかにされている。歯周病の症状としては、歯肉が腫れたり、食事の時や歯を磨く時に歯肉から出血したり、口臭が増したり、歯肉を押すと歯のまわりから膿が出たりすることが挙げられる。だが、殆どの歯周病は、痛み等の自覚症状がないままに静かに経過するため、歯がぐらつく等の異常に気付いた時には、既に手遅れの状態で、歯を支える歯槽骨の大半が失われている場合も少なくない。
【0005】
また、歯周病は、ゆっくり進行するが周期性があり、ほとんど症状を示さない静止期とその後に続く激しい急性炎症と破壊によって、歯と歯肉の間に亀裂(一般に、「歯周ポケット」と称される。)が生じ、更に、歯のまわりの結合組織が壊され、歯槽骨が吸収される。外部から観察すると、歯肉が痩せて退宿し、歯根が現れるようになって、やがては歯がぐらついて、最終的には歯が抜け落ちてしまう。
【0006】
ここで、現在普及している歯周病の検査診断法としては、レントゲン写真を撮って骨の吸収の度合いを目視で判断する方法、歯周ポケットの深さや細菌の付着レベルを測る方法、また、プロービング時の出血(歯周ポケットにプローブという器具を入れた時に出血があるかどうか)や歯の揺動度を調べる方法、プラーク(歯垢)中の細菌数を測定し、菌の種類を同定する方法等がある。
【0007】
また、酵素活性測定を利用する歯周病検査方法として、口腔から採取した検体をアルカリフォスファターゼ活性測定用基質と反応させ、その発色の程度を肉眼で観察して、歯肉炎、歯周炎等の歯周疾患の程度を予測する方法(特許文献1参照)、歯肉溝滲出液に含まれるコラゲナーゼの酵素活性を測定する方法(特許文献2参照)等が提案されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平5−176796号公報。
【特許文献2】
特開昭61−71000号公報。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前掲した従来の歯周病の検査診断法では、歯周病の発症を把握することはできても、病気の進行を的確に予測することは難しかった。このため、依然として、歯周病の進行を客観的に予測することができる有力な検査方法の開発が望まれている。
【0010】
自覚症状がないままに進行する歯周病への対策は、発症の早期発見と病気の進行予測が特に重要である。炎症の初期に歯槽骨の破壊の程度が予測できれば、即ち、歯槽骨破壊の早期診断ができれば、患者の早期治療への取り組みを促し、歯周病の的確な治療を行うことができる。
【0011】
そこで、本発明は、歯周病の炎症に伴って発生する歯槽骨破壊の程度を、破骨細胞を分化誘導する活性がある酵素、即ちγ−グルタミルトランスペプチダーゼの活性を調べることによって把握し、歯周病の進行予測を的確に行うことができる歯周病の検査方法及び検査診断薬を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成して技術的課題を解決するために、本発明では、以下の手段を採用する。
【0013】
まず、本発明では、本願発明者らが、歯周病患者の歯肉溝滲出液に、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ酵素(慣用名。以下「γ−GTP」と略称する。)が発現しているという事実を新規に見出したことに基づいて、このγ−GTPの活性を測定する歯周病の検査方法を提供する。
【0014】
なお、歯肉溝滲出液(gingival crevicular fluid)は、歯肉に炎症が起こるとその流出量が増加することが知られており、γ−GTPは、グルタチオンをはじめとするγ−グルタミルペプチドを加水分解するとともに、γ−グルタミル基を他のアミノ酸やペプチドに転移させる酵素として知られている。
【0015】
本発明において検査マーカーとして用いるγ−GTPは、現在、肝疾患等の検査診断で一般的に用いられているγ−GTP活性測定法、抗γ−GTP抗体(γ−GTPと特異的に結合する抗体)とγ−GTP蛋白質との反応を活用した直接検出法、又はPCR(polymerase chain reaction:合成酵素連鎖反応)法によってγ−GTPをコードするmRNAの発現を確認する方法等から選択される公知の手法に基づいて、簡易かつ確実に検出することが可能である。即ち、γ−GTPの検出又は測定は確立された公知の手段で簡易かつ確実に行うことができるという利点がある。
【0016】
また、本発明では、γ−GTPと反応する物質を少なくとも含有する歯周病の検査診断試薬を提供する。
【0017】
γ−GTPと反応する物質は、例えば、抗γ−GTP抗体(γ−GTPと特異的に結合する抗体)である。これによって、歯周病進行に伴う炎症によって進行する歯槽骨破壊(破骨細胞の分化誘導)のマーカーとなるγ−GTPの発現を簡便にかつ速やかに確認することが可能となる。なお、前記検査診断薬を備える歯周病の検査診断専用の検査キットも提供できる。
【0018】
以上のように、γ−GTPを歯周病のマーカーとして用いれば、歯周病の検査、診断、進行予測が可能な歯周病の生化学的検査診断手法を提供できるという第1の技術的意義、そして、γ−GTPの測定方法又は検出方法は既に医療分野等において確立されている技術があるので、歯周病の生化学的な検査診断方法を医療分野に容易かつ迅速に普及させることができるという第2の技術的意義を有する。
【0019】
【実施例】
まず、本発明に係る歯周病の検査方法の好適な実施例としては、歯周病患者の歯肉溝滲出液を患者から採取し、この歯肉溝滲出液中のγ−GTPの活性を、例えば、現在肝疾患等の検査診断で一般的に用いられている公知のγ−GTP活性測定法によって確認する方法を挙げることができる。
【0020】
この測定値が高い場合には、歯周病疾患であるとの検査及び診断を行うことができる。なお、γ−GTP活性測定法の原理は、例えば、N−(DL−γ−glutamyl)aniline(I)を基質にし、アクセプターとしてアミノ酸(II)を加え、反応生成物のアゾ色素を比色するというもので、市販キットを適宜利用して実施することができる。
【0021】
また、本発明では、γ−GTP活性が同じでも蛋白質が異なるものも存在し得ることから、抗γ−GTP抗体と特定のγ−GTP蛋白質との特異的な抗原抗体反応を利用した直接検出法(免疫学的手法)によって、直接このγ−GTP蛋白質の発現を確認し、歯周病の検査及び診断を確実に行うという実施形態を採用することもできる。
【0022】
ここで、γ−GTP蛋白質は、破骨細胞の形成活性や骨破壊との関連で発現するものが、歯周病検査のためのマーカーとして好適と考えられる。抗γ−GTP抗体は、このγ−GTP蛋白質と特異的に結合するものであればよく、特に限定されない。歯周病患者から特異的に発現される特定のγ−GTP蛋白質を直接検出することにより、歯周病の診断を確実に行うことができる。
【0023】
更には、公知のRT−PCR(polymerase chain reaction:合成酵素連鎖反応)法によりγ−GTP蛋白質をコードするmRNA発現を確認する方法に基づいて、γ−GTPの発現を確認し、慢性関節リウマチ疾患であるとの検査及び診断を行う実施形態も採用することができる。
【0024】
なお、上記以外の方法でも、γ−GTP蛋白質を確実に検出できる方法であれば、本発明の実施例の一つとして採用できる。例えば、抗体を用いたイムノアッセイ法としては、ラジオイムノアッセイ(RIA)並びに酵素抗体法(ELISA)、ラジオアイソトープを使わない競合的酵素抗体法(EIA)などを挙げることができる。また、ビアコア等のバイオセンサー装置を用いたγ−GTP蛋白質の検出も可能である。
【0025】
次に、本発明に係る歯周病の検査診断試薬の好適な実施形態としては、例えばγ−GTPと特異的に結合する抗γ−GTP抗体を少なくとも含有する構成を備える試薬が考えられる。なお、この試薬の具他的形態は広く解釈されるものであり、更には、この試薬を備える検査診断キットや抗γ−GTP抗体等をリガンドに備える検出表面を持つバイオセンサーチップ等も提供することができる。
【0026】
【実験例】
歯周病患者10名から抜歯した抜去歯を提供してもらい、この抜去歯を洗浄せずにチューブに入れて、抜去歯が浸るように1mlの生理食塩水(PBS)を入れて、4℃、24時間放置し、前記抜去歯に付いた歯周組織のγ−GTPを溶出させた。その後、得られた溶出液をフィルターでろ過して滅菌し、測定用の溶出液を得た。この溶出液中のγ−GTP活性は、協和メデックス(株)社製・デタミナーL(登録商標)キットを用いて測定した。なお、この測定は、前記溶出液1ml中の60μlを用いた。
【0027】
なお、比較検体は、歯周病ではない虫歯患者からの抜去歯(検体番号11)、歯が健康で歯矯正の際に抜歯した抜去歯(検体番号12〜14)をそれぞれ用いて、上記同様の方法でγ−GTP活性を測定した。測定結果を次の表1に示す。
【0028】
【表1】



【0029】
上記表1に示されているように、歯周病を発症した患者10名(検体番号1〜10)の抜去歯の溶出液中のγ−GTP活性は高く(平均17.9U)、一方、歯周病ではない虫歯患者からの抜去歯の溶出液(検体番号11)のγ−GTP活性は0であり、また、歯が健康で歯矯正の際に抜歯した抜去歯の溶出液(検体番号12〜14)においては、γ−GTP活性は、平均0.2Uであった。
【0030】
なお、上記実験例では、歯周病を発症した患者10名の唾液中に含まれるγ−GTP活性を測定したところ、約1U程度であることが確認できた。このことから、検体番号1〜10から得られた溶出液中のγ−GTPの大部分は、歯肉溝滲出液由来のものであることが確認できた。
【0031】
以上の実験結果から、歯周病を発症した患者の歯肉溝滲出液中にはγ−GTPが発現し、その活性が高まることを検証できたことから、本発明の有効性を確認することができた。
【0032】
本発明は、歯周病の炎症に伴う歯槽骨破壊を進行させる破骨細胞の分化誘導に係わるγ−GTPの活性を測定する方法又は同γ−GTPの発現を確認できる検査診断試薬であるから、歯槽骨破壊の早期発見、歯槽骨破壊の進行段階の把握、歯槽骨破壊の進行予測に役立てることができる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によって、γ−GTPに関し、歯周病のマーカーとしての全く新規な用途を提案できる。そして、γ−GTPの測定方法又は検出方法は、既に医療分野等において確立されている技術を用いて、歯周病の生化学的な検査方法及び検査診断試薬を医療分野に容易かつ迅速に普及させることができる。更には、歯周病の決定的な生化学的検査診断技術を提供できるので、歯周病の早期診断、早期治療に役立てることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯肉溝滲出液に含まれるγ−グルタミルトランスペプチダーゼ活性を測定することを特徴とする歯周病の検査方法。
【請求項2】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼと反応する物質を少なくとも含有する歯周病の検査診断試薬。

【公開番号】特開2004−129584(P2004−129584A)
【公開日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−298177(P2002−298177)
【出願日】平成14年10月11日(2002.10.11)
【出願人】(301058137)株式会社エーシーバイオテクノロジーズ (6)
【Fターム(参考)】