説明

歯周病菌生育抑制用組成物

【課題】安全性が高く、口腔内への投与後、比較的短時間で効果が発揮される歯周病菌生育抑制組成物を提供する。
【解決手段】ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株(FERM BP−10758)を、歯周病菌生育抑制用組成物の有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病菌生育抑制用組成物、これを含む歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤、並びに歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病は、口腔内の悩みとして齲蝕に次いで第二番目に多い疾患である。歯周病は、歯肉、歯根膜、セメント質、歯槽骨等の歯周組織を破壊し、その機能を侵す。歯周病の原因となる歯周病菌として、グラム陰性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネマ・デンティコラ(Treponema denticola)、タンナレラ・フォーシシア(Tannerrella forsythia)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)等の口腔内細菌が知られている(例えば、非特許文献1)。このような歯周病菌は、口臭症の発症にも関与することが明らかとなっている。
【0003】
一般に、ヒトや動物等の宿主に有益に働く微生物をプロバイオティクスとよび、整腸作用、免疫調節作用等の消化管を介したプロバイオティクスの効果が知られている。近年では、口腔内においてもプロバイオティクスの有用性が検証されており、歯周病、口臭、齲蝕等への抑制効果が報告されている(例えば、非特許文献2)。
【0004】
このうち、乳酸菌を歯周病の予防や治療に用いることについて、以下のような報告がある。
【0005】
非特許文献3、4では、ヒトの口腔内から分離された乳酸菌は、数日から数週間経口投与すると、投与中止後も数週間にわたってある程度は口腔内に定着し、歯周病菌を減少させることが報告されている。
【0006】
特許文献1には、健常人の口腔内より分離されたラクトバチルス・サリバリウスTI2711株を有効成分とする歯周病の発生防止又は治療用の生菌製剤または乳酸菌含有食品が開示されている。
同文献には、試験管内での抗菌活性試験において、培地中に1×106cfu/mlの歯周病菌と同等の生菌数のラクトバチルス・サリバリウスTI2711株を混合接種すると、37℃で12時間培養後には歯周病菌の生存率は0.002%に低下したことが記載されている。
【0007】
また、このラクトバチルス・サリバリウスTI2711株の歯周病菌に対する抗菌活性について、接種菌数を変化させて経時的に調べた報告(例えば、非特許文献5)によると、培地中に1×108cfu/mlの歯周病菌とその100分の1の生菌数の1×106cfu/mlのラクトバチルス・サリバリウスTI2711株を混合接種すると、37℃で12時間培養後には歯周病菌の生菌数は検出限界以下にまで減少したとのことである。また、培地中に1×108cfu/mlの歯周病菌と同等の生菌数の1×108cfu/mlのラクトバチルス・サリバリウスTI2711株を混合接種すると、37℃で9時間培養後には歯周病菌の生菌数は検出限界以下にまで減少したとのことである。
すなわち、同文献では、ラクトバチルス・サリバリウスTI2711株は、歯周病菌との混合培養において、生菌数100倍の歯周病菌を12時間以内に殺菌し、同等の生菌数の歯周病菌を9時間以内に殺菌したことが報告されているといえる。
【0008】
特許文献2には、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクス
OLL1255株及びストレプトコッカス・サーモフィルスOLS3294株を含有する口腔内疾患予防用及び/又は治療用の発酵乳が記載されている。同文献には、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ブルガリクスOLL1255株及びストレプトコッカス・サーモフィルスOLS3294株を用いて得られた発酵乳が、歯周病菌の増殖を抑制したことが示されている。
【0009】
特許文献3には、ビフィズス菌、乳酸菌又は酪酸菌に属する菌と、それらの菌が資化しうる糖類を含有することを特長とする歯周病の予防剤又は治療剤が開示されている。同文献には、混合培養において、培地中に1×108cfu/mlの歯周病菌とそれぞれ5×106cfu/mlの3種類の乳酸菌を混合接種すると、37℃で24時間培養後には歯周病菌はある程度増殖が抑制されるが、強い抗菌活性は観察されなかったことが記載されている。
【0010】
特許文献4には、発酵乳の製造に使用されるエンテロコッカス・フェシウムに属する乳酸菌および/またはその培養物を含有する、ポルフィロモナス・ジンジヴァリス除菌および/または感染防御のための組成物が開示されている。同文献には、エンテロコッカス・フェシウム(1×106cfu/ml)は、歯周病菌との混合培養において、生菌数約10倍(1×107cfu/ml)の歯周病菌に対して24時間培養後には増殖を抑制したものの、強い抗菌活性は観察されなかったことが記載されている。
【0011】
特許文献5には、ヒトの消化管から分離され、耐酸性の高い菌株として選抜されたラクトバシラス・サリバリウスWB21株を有効成分として含有する食中毒、又は、口腔疾患の予防及び/又は治療組成物が開示されている。
【0012】
特許文献6には、ラクトコッカス属に属する特定の菌株からなるポルフィロモナス・ジンジバリス及び/又はフゾバクテリウム・ヌクレアタムの生育阻害剤が記載されている。
【0013】
また、歯周病菌が産生する物質(例えば、タンパク質)による、乳酸菌の増殖の抑制に関する報告があり、乳酸菌と歯周病菌は互いに競合することが知られている(非特許文献7)。
【0014】
ところで、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株については、特許文献7に記載されるように、虫歯予防用組成物の有効成分としての用途が知られている。
【0015】
歯周病と齲蝕はともに口腔内細菌による感染症ではあるものの、それらの原因菌の特徴ならびに発病の機序は大きく異なる。齲蝕は、グラム陽性であるストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)やストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)等の齲蝕原性細菌が産生する酸による歯質の脱灰によって起こる。これらの齲蝕原性細菌は、非水溶性グルカンとともに歯垢を形成し、歯垢中に齲蝕の原因となる酸を産生する(例えば、非特許文献1)。実際に、齲蝕原性細菌に対して強い抗菌活性を示す物質であっても、歯周病菌に対する抗菌活性は弱いものもあることが報告されている(例えば、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第4203855号公報
【特許文献2】特許第4469792号公報
【特許文献3】特開2003−171292号公報
【特許文献4】特開2006−328052号公報
【特許文献5】特許第3944076号公報
【特許文献6】特開2010−124772号公報
【特許文献7】特開2008−237198号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】口腔衛生学2010、松久保隆、八重垣建、前野正夫編、一世出版、東京、2010年、第160−184頁
【非特許文献2】ペリオドントロジー2000(Periodontology 2000)、デンマーク、第48巻、2008年、p.111〜147
【非特許文献3】アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Applied and Environmental Microbiology)、アメリカ、第72巻、2006年、p.3050〜3053
【非特許文献4】日本歯周病学会誌、日本、第48巻、2006年、p.315〜324
【非特許文献5】日本歯周病学会誌、日本、第46巻、2004年、p.118〜126
【非特許文献6】ジャーナル・オブ・メディカル・マイクロバイオロジー(Journal of Medical Microbiology)、イギリス、第52巻、2003年、p.1083〜1093
【非特許文献7】リサーチ・イン・マイクロバイオロジー(Research in Microbiology)、フランス、第154巻、p.669〜675
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
歯周病菌の増殖抑制効果があるとされる乳酸菌のうち、ヒトの検体から分離された乳酸菌は、比較的ヒトの口腔内に定着し易く、歯周病菌の持続的な増殖抑制効果が期待される。
しかしながら、このような乳酸菌は、人によっては長期間の投与や摂取により、副作用を生ずる場合もあり、口腔内組成物や食品に利用する場合の安全性を確保しにくいという問題がある。
一方、例えば、ヒトの検体以外の自然界から分離され、発酵乳の製造などに使用される乳酸菌は、安全性の観点から実用性が高い。
しかしながら、乳酸菌の投与、摂取後は一過的に口腔内に存在するものの、長期間にわたる口腔内での定着性は低いという問題がある。
【0019】
したがって、特にヒト口腔以外の自然界から分離された乳酸菌を口腔内でプロバイオティクスとして応用するためには、乳酸菌が口腔内に留まっているうちに効果が発揮される菌株を選択する必要、つまり、摂取後比較的短時間で効果が発揮される菌株を選択する必要がある。
そこで、本発明は、安全性が高く、口腔内への投与後、比較的短時間で効果が発揮される歯周病菌生育抑制組成物を提供することを課題とする。また、安全性が高く、効果にも優れた、歯周病又は口臭の予防及び/又は治療剤、並びに、該組成物を含有する歯周病又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、前記背景技術に鑑み、乳酸菌の持つ生理機能について鋭意探索を重ねた結果、ヒト口腔以外の自然界から分離された特定の乳酸菌株が、歯周病菌に対して強い抗菌活性を示すことを見出した。
【0021】
すなわち、前記課題を解決する本発明は、 ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株(FERM BP−10758)を有効成分とする歯周
病菌生育抑制用組成物である。
【0022】
本発明の好ましい形態では、歯周病菌生育抑制用組成物は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株が、歯周病菌の菌数に対して1%以上の菌数となるように投与される。
【0023】
特に、本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、ポルフィロモナス・ジンジバリスに属する歯周病菌の生育抑制に好適である。
【0024】
また、本発明は、上記の歯周病菌生育抑制用組成物を含有する歯周病又は口臭の予防及び/又は治療剤、並びに、該組成物を含有する歯周病又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品を提供する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の組成物は、従来のヒト口腔以外の自然界から分離された乳酸菌株を含む組成物に比して、短時間に歯周病菌の生育の抑制効果を発揮し、安全性も高い。
従って、本発明の歯周病又は口臭の予防及び/又は治療剤、並びに、該組成物を含有する歯周病又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品は、歯周病や口臭の予防や治療に有効であり、且つ安全性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】試験例2における歯周病菌の生菌数を示す図である。
【図2】試験例2における乳酸菌の生菌数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。
【0028】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株(本明細書において、単に「TL6株」という。)を有効成分とする。TL6株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター 中央第6)に、平成19年1月17日より、受託番号 FERM BP−10758で寄託されている。
本菌株は、特開2008−237198公報に開示されるように、自然界から採取した各種試料から分離した菌株の中から、還元脱脂粉乳培地でストレプトコッカス・サーモフィルスと併用して培養したときに、培地を凝固させることができる発酵性を有するものを選択し、さらにストレプトコッカス・ミュータンスの増殖抑制性を有する菌株を選択することによって得られた菌株である。
また、TL6株の菌学的性質は、特開2008−237198公報に開示されているとおりである。また、同文献にも記載されているように、TL6株は、発酵乳の製造に適した菌株であり、人体に対して安全である。
【0029】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物には、TL6株と同等以上の歯周病菌生育抑制効果を有し、口腔内に投与した場合に安全である限り、TL6株の変異株を用いてもよい。ある変異株がTL6株と「歯周病菌生育抑制効果」を有するか否かは、例えば、後述する試験例に示すような方法で、変異株と歯周病菌を混合培養し、歯周病菌数の変化をTL6株のそれと比較することにより確認することができる。このような変異株は、TL6株に非人為的に変異が導入されることで構築されてもよい。また、UV等の変異原を用いた処理によりTL6株に変異を導入して変異株を構築してもよく、種々の遺伝子操作法によりT
L6株に変異を導入して変異株を構築してもよい。
なお、上述のTL6株の変異株は、TL6株を親株として派生した菌株であり、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティス種に属する株に限定される。また、上述のTL6株の変異株には、従来知られる歯周病菌の予防、治療効果が確認された乳酸菌株は一切含まれない。
以下の説明において、TL6株と上述の変異株をまとめて、単に「TL6株」という場合がある。
【0030】
TL6株は、ラクトバチルス属に属する細菌の培養に通常用いられる培養条件で培養することが可能である。例えば、培養温度としては、通常25〜50℃程度、好ましくは35〜42℃程度である。また、培養条件としては、微好気条件又は嫌気条件が好ましい。
【0031】
TL6株を培養する培地としては、特に限定されず、ラクトバチルス属に属する細菌の培養に通常用いられる培地を用いることができる。すなわち、炭素源としては、例えば、グルコース、ガラクトース、ラクトース、アラビノース、マンノース、スクロース、デンプン、デンプン加水分解物、廃糖蜜等の糖類を資化性に応じて使用できる。窒素源としては、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩類や硝酸塩類を使用できる。また、無機塩類としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化マンガン、硫酸第一鉄等を用いることができる。また、ペプトン、大豆粉、脱脂大豆粕、肉エキス、酵母エキス等の有機成分を用いてもよい。
【0032】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、TL6株の培養物の全部又は菌体を含む一部であってもよい。例えば、培養後得られた培養物を遠心分離して、菌体を回収して用いることもできる。
上記のようにして得られた培養物の全部又は一部は、保存性、取り扱い性の観点から、乾燥することが好ましい。乾燥の方法としては、凍結乾燥が好ましい。
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、後述するように、歯周病や口臭の予防や治療を目的とした剤や飲食品の有効成分として用いることができる。
【0033】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物における、TL6株の濃度は、その使用方法、使用量などに応じて、歯周病菌の生育を抑制することができる範囲に調節することができる。
【0034】
また、本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、TL6株が、歯周病菌の菌数に対して1%以上、好ましくは100%以上の菌数となるように投与される形態で用いられることが好ましい。
後述する試験例に示すとおり、TL6株と歯周病菌を混合培養した場合、TL6株が、歯周病菌の1%程度であっても、9時間という短時間で、歯周病菌の生育を抑制する。さらに、後述する試験例の結果から、TL6株が、歯周病菌の100%程度である場合には、3時間という短時間で、歯周病菌の生育を抑制することが推測される。
【0035】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、有効成分であるTL6株以外に、口腔内で有益な作用を示すその他の成分、例えばキシリトールやソルビトール等の糖アルコール、カテキン等のポリフェノール、ラクトフェリン、リゾチーム、ラクトパーオキシダーゼ、免疫グロブリン等のタンパク質を含むことも好ましい。
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、その他、口腔内に投与する組成物に通常用いられる成分を含むことができる。
【0036】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、各種食品に、歯周病菌生育抑制効果を与えるための食品添加剤として使用することができる。
【0037】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物は、グラム陰性菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレポネマ・デンティコラ(Treponema denticola)、タンナレラ・フォーシシア(Tannerrella forsythia)、アクチノバチルス・アクチノミセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)等の歯周病菌の生育抑制に効果がある。特に、ポルフィロモナス・ジンジバリスの生育抑制に効果がある。
【0038】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は、歯周病菌生育抑制用組成物を含む。本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は医薬の形態を含む。
その剤形としては、口腔内へ投与できる形態であればよいが、口腔内に一定時間(数分以上)留まらせるのに適した形態が好ましく、洗浄液、トローチ錠、チューイングガム、ペーストなどが挙げられる。
歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は、薬学的に許容され得る賦形剤等の任意の添加剤と共に、TL6株を製剤化することにより製造できる。製剤化にあたっては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤等の添加剤を使用できる。
【0039】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤における、TL6株の濃度は、その使用方法、使用量などに応じて、歯周病菌の生育を抑制することができる範囲に調節することができる。
TL6株の含有量の目安としては、通常0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
また、TL6株の含有量の目安としては、通常107〜1010cfu/g、好ましくは108〜109cfu/gである。
【0040】
また、本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は、TL6株が、歯周病菌の菌数に対して1%以上、好ましくは100%以上の菌数となるように投与される形態で用いられることが好ましい。
例えば、歯周病予備群或いは歯周病患者のヒトの口腔内には、108〜1010cfu程度の歯周病菌が口腔内に存在している。従って、本発明の歯周病や口臭の予防及び/又は治療剤の1回の投与菌数は、通常107cfu以上、好ましくは108cfu以上、更に好ましくは109cfu以上である。
【0041】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は、口腔内に投与される。口腔内への投与の形態としては、口腔内への投与後に口腔内から吐き出される形態、口腔内への投与後嚥下される形態の何れであってもよい。例えばトローチ、散剤、液剤、歯磨きペースト等が挙げられる。中でも、口腔内に滞留しやすいトローチのような形態が好ましい。本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤は、1日に複数回、好ましくは2〜3回、3〜4時間おきに投与することが好ましい。特に、食後30分以内に投与することが好ましい。
【0042】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品は、歯周病菌生育抑制用組成物を含む。
その形態としては、例えば、ヨーグルト等の発酵食品、チョコレートやキャンディー、チューインガム等の菓子類等が挙げられる。中でも、TL6菌株を十分量摂取しやすい、発酵食品が好ましい。
【0043】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品における、TL6株の濃度は、その飲食品の形態に応じて、歯周病菌の生育を抑制することができる範囲に調節することができる。
TL6株の含有量の目安としては、通常0.01〜30質量%、好ましくは0.1〜10質量%である。
また、TL6株の含有量の目安としては、通常106〜1010cfu/g、好ましくは107〜109cfu/gである。
【0044】
また、本発明の歯周病及び口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品は、TL6株が、歯周病菌の菌数に対して1%以上、好ましくは100%以上の菌数となるように投与される形態で用いられることが好ましい。
上述の通り、ヒトの口腔内の歯周病菌数を考慮して、本発明の歯周病や口臭の予防用及び/又は治療用の食品の1回の摂取菌数は、通常107cfu以上、好ましくは108cfu以上、更に好ましくは109cfu以上である。
【0045】
本発明の歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品は、1日に複数回、好ましくは2〜3回、3〜4時間おきに摂取することが好ましい。特に、キャンディーやチューイングガム等の形態では、食後または食間に摂取することが好ましい。
【0046】
本発明の歯周病及び口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品は、「歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用」との用途が表示された飲食品として販売することが好ましい。
【0047】
前記「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為、商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的方法により提供する行為、等が例示できる。
【0048】
しかしながら、表示としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましく、例えば、特定保健用食品(健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号))としての表示(特に保健の用途の表示)が最も好適である。
【0049】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、「歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用」という文言のみに限られるわけではなく、それ以外の文言であっても、歯周病及び/又は口臭の予防、或いは治療の効果を示唆する文言、又は歯周病及び/又は口臭の予防、或いは治療によって二次的に生じる効果を示唆する文言であれば、使用できることはいうまでもない。
【0050】
次に、試験例を示して、TL6株の歯周病菌に対する抗菌作用を詳細に説明する。
[試験例1]
本試験は、歯周病菌に抗菌作用を有する乳酸菌を選択するために行った。
(1)歯周病菌前培養液の調製
歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリスJCM8525株(理化学研究所より分譲)を5mg/Lヘミン、1mg/Lメナジオン、及び7g/Lグルコース添加を添加したGAMブイヨン(日水製薬社製)4mlに接種し、85%窒素ガス、5%水素ガス、及び10%炭酸ガスを充填した嫌気性チャンバー(Coy社製)の内部で37℃、1日間培養し、歯周病菌前培養液とした。
【0051】
(2)乳酸菌試験菌液の調製
乳酸桿菌の基準菌株(理化学研究所又はアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクショ
ンより分譲)13種類、又は乳酸桿菌の保存菌株28種類を5mg/Lヘミン、1mg/Lメナジオン、及び7g/Lグルコース添加を添加したGAMブイヨン4mlに接種し、85%窒素ガス、5%水素ガス、及び10%炭酸ガスを充填した嫌気性チャンバーの内部で37℃、1日間培養した。この培養液を、リン酸緩衝生理食塩水で100倍に希釈し、乳酸菌試験菌液とした。
【0052】
(3)試験方法
5mg/Lヘミン、1mg/Lメナジオン、及び7g/Lグルコースを添加したGAMブイヨン4mlを含む容量15mlのチューブに歯周病菌の前培養液40μL及び乳酸菌の試験菌液40μLを添加し、攪拌した。この混合培養液を85%窒素ガス、5%水素ガス、及び10%炭酸ガスを充填した嫌気性チャンバー内で37℃で混合培養した。混合培養開始8、9、及び10時間後に培養液100μLを採取し、リン酸緩衝生理食塩水にて10倍希釈系列を作成し、その希釈液を20μlずつ歯周病菌のみ選択的に検出するための寒天培地(5%ウマ脱繊血、5mg/Lヘミン、1mg/Lメナジオン、75mg/Lネオマイシン、及び3.5mg/Lバンコマイシンを添加した血液寒天基礎培地NO.2(オキソイド社製))に塗布し、嫌気性チャンバー内で37℃、5日間培養した後、寒天培地上に形成されたコロニーの数を測定した。検出された細菌のコロニー数から、上記の試験混合液1ml当りの歯周病菌生菌数の対数値(log10 cfu/ml)を求めた。対照実験として、乳酸菌試験菌液を無添加の条件で歯周病菌生菌数を調べた。
【0053】
(4)試験結果
本試験の結果を表1、2に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すとおり、乳酸菌の基準菌株のうち、ラクトバチルス・ガセリ(L. gasseri)
JCM1131株は、混合培養開始10時間後において、歯周病菌を初菌数(約7.0 log10 cfu/ml)の100分の1以下(4.70 log10 cfu/ml)に低下させ、殺菌活性が観察された。一方、それ以外の乳酸菌の基準菌株12菌株では、混合培養において10時間後まで、乳酸菌無添加の対照と比べて歯周病菌の生菌数に殆ど影響を及ぼさなかった。
【0056】
【表2】

【0057】
表2に示すとおり、保存菌株のうち、TL6株は9時間後において歯周病菌数を検出限界以下に低下させ、殺菌活性が観察された。また、ラクトバチルス・サリバリウス(L. salivarius)102−1−1株は、10時間後において歯周病菌数を検出限界以下に低下させ、殺菌活性が観察された。一方、上記の2菌株以外の保存菌株26株では、混合培養において10時間後まで乳酸菌無添加の対照と比べて歯周病菌の生菌数に殆ど影響を及ぼさなかった。したがって、供試した基準菌株及び保存菌株のうち、TL6株が最も短時間のうちに歯周病菌に対する抗菌活性を発揮することがわかった。
【0058】
[試験例2]
本試験は、試験例1で歯周病菌への抗菌活性がみられたTL6株について、その抗菌活性の強さ、特に歯周病菌を殺菌するのに要する時間を検討するために行った。
【0059】
(1)歯周病菌前培養液の調製
上記試験例1と同様の方法で歯周病菌前培養液を調製した。
【0060】
(2)乳酸菌試験菌液の調製
上記試験例1と同様の方法でTL6株を培養し、乳酸菌試験菌液を調製した。
【0061】
(3)試験方法
上記試験例1と同様の方法で歯周病菌と乳酸菌を混合培養した。ただし、混合培養開始直後(0時間)、3、6、7、8、9、及び10時間後の歯周病の生菌数を上記試験例1と同様の方法で測定した。さらに、リン酸緩衝生理食塩水にて作成した10倍希釈系列のうち20μLを、BCP加プレートカウント寒天培地(栄研化学社製)に塗布し、10%炭酸ガスを充填したインキュベーター中で37℃、3日間培養し、寒天培地上に形成されたコロニー数をカウントし、乳酸菌の生菌数を測定した。
【0062】
(4)試験結果
本試験の結果を図1及び2に示す。図1には歯周病菌の生菌数の結果を示した(○:乳酸菌無添加、●:乳酸菌添加)。また、図2には乳酸菌の生菌数の結果を示した(○:乳酸菌無添加、●:乳酸菌添加)。その結果、歯周病菌および乳酸菌の生菌数は、混合培養開始時点(0時間後)では、それぞれ7.44log10 cfu/ml、および4.96log10 cfu/mlであった。乳酸菌との混合培養では、歯周病菌の生菌数は、混合培養開始6時間後まで増加し、8時間後までほぼ一定の生菌数が観察された、一方、乳酸菌無添加の対照では、歯周病の生菌数は、培養開始10時間後まで増加した。また、乳酸菌の生菌数は混合培養開始10時間後まで増加した。乳酸菌との混合培養開始9時間後において、歯周病菌の生菌数は検出限界以下(<2.70log10 cfu/ml)にまで低下し、殺菌活性が観察された。したがって、TL6株は、歯周病菌の増殖培地を用いた混合培養において、生菌数約100倍の歯周病菌を9時間以内に殺菌することが明らかとなった。
なお、TL6株の菌数は、混合培養開始6時間後において7.48log10 cfu/mlにまで増加し、歯周病菌の混合培養開始時点(0時間後)とほぼ同じ生菌数に達した。この時点(混合培養開始6時間後)を基準とすると、その3時間後(混合培養開始後9時間後)には歯周病菌が検出限界以下にまで殺菌されたことになる。従って、TL6株は、同等の生菌数の歯周病菌を、少なくとも3時間以内に殺菌することが推測された。
【0063】
以上の試験から、TL6株は、従来の乳酸菌株に比して、歯周病菌に対する抗菌性が高く、短時間で歯周病菌を殺菌することができることが分かった。
【実施例】
【0064】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
肉エキス50g、酵母エキス100g、ペプトン100g、乳糖200g、リン酸水素二カリウム50g、リン酸二水素カリウム10g、シスチン4g及び水9.5Lの組成からなる培地で、25℃16時間前培養したラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株のシードカルチャー500mLを、前記培地と同一組成の培地10Lに接種し、25℃16時間培養した。更に、90℃で30分間殺菌した前記培地
と同一組成の培地200Lに、前記培養液全量(10.5L)を接種し、25℃16時間培養した。培養後の生菌数は3.0×109cfu/mLであった。
次いで、シャープレス型遠心分離機を用いて、遠心分離(15,000rpm)により菌体を集め、培地と同量の生理食塩水(90℃30分間殺菌済)に再懸濁し、前記と同様遠心分離して再度集菌した。集めた菌体を、脱脂粉乳10%、蔗糖1%、グルタミン酸ソーダ1%からなる溶液(90℃30分間殺菌済)20Lに懸濁し、常法に従って凍結乾燥し、8.5×1010cfu/gのラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含む粉末約2.2kgを得た。
【0066】
この粉末は、本発明の歯周病菌生育抑制用組成物であり、本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤、或いは本発明の歯周病及び/又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品の原料として利用することができる。
【0067】
[実施例2]
還元難消化性デキストリン14kg及びソルビトール6kgに、実施例3で得られたラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株を含む粉末20gを加えて均一に混合し、ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株の菌末を含有する生菌剤約20kgを得た。
【0068】
この粉末は、本発明の歯周病及び/又は口臭の予防及び/又は治療剤であり、歯周病や口臭の予防や治療に有効であることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の歯周病菌生育抑制用組成物の剤や飲食品への適用は、口腔内の衛生状態を確保する手段として、安全であり、かつ効果的である。特に、長期間の日常的な摂取にも適しているため、実用性に優れる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株(FERM
BP−10758)を有効成分とする歯周病菌生育抑制用組成物。
【請求項2】
ラクトバチルス・デルブルッキー・サブスピーシーズ・ラクティスTL6株が、歯周病菌の菌数に対して1%以上の菌数となるように投与されることを特徴とする、請求項1に記載の歯周病菌生育抑制用組成物。
【請求項3】
歯周病菌が、ポルフィロモナス・ジンジバリスである請求項1又は2に記載の歯周病菌生育抑制用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物を含有する歯周病又は口臭の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物を含有する歯周病又は口臭の予防用及び/又は治療用の飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−25699(P2012−25699A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166136(P2010−166136)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】