説明

歯車製造方法及びホブ盤

【課題】油水ミストによる潤滑でホブやワークへの切削屑の圧着または固着を防ぐことが可能な歯車製造方法及びホブ盤を提供する。
【解決手段】本発明の歯車製造方法では、潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを吐出する油水ミスト生成ノズル10の位置を、ワーク回転軸J1とホブ回転軸J2とに共に直交する基準線Kに対して、ワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側でホブ33より上方となる位置に保持しかつ、油水ミスト生成ノズル10の姿勢を、先端下がりでかつその先端のミスト吐出口14がワークWの回転中心側を向いた姿勢に保持して、油水ミストをワークWに向けて吹き付けながらホブ加工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛直方向に延びたワーク回転軸を中心に回転するワークを、水平方向に延びたホブ回転軸を中心に回転するホブにて下向きに切削して、ワークから歯車を製造する歯車製造方法及びホブ盤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを圧縮ガスと水と潤滑油とから生成する油水ミスト生成ノズルが開発され、その油水ミスト生成ノズルで潤滑を行う切削加工機の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3574023号(図1,2,3,請求項1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、切削加工機の1つであるホブ盤に上記した油水ミスト生成ノズルを使用した場合、切削屑がホブやワークに噛み込んでワークに圧着または固着するという問題が生じることもあった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、油水ミストによる潤滑でホブやワークへの切削屑の圧着または固着を防ぐことが可能な歯車製造方法及びホブ盤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係る歯車製造方法は、鉛直方向に延びたワーク回転軸を中心に回転するワークを、水平方向に延びたホブ回転軸を中心に回転するホブにて下向きに切削して、ワークから歯車を製造する歯車製造方法において、潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを吐出する油水ミスト生成ノズルの位置を、ワーク回転軸とホブ回転軸とに共に直交する基準線に対して、ワークの被切削位置における周速方向の後側でホブより上方となる位置に保持しかつ、油水ミスト生成ノズルの姿勢を、先端下がりでかつその先端のミスト吐出口がワークの回転中心側を向いた姿勢に保持して、油水ミストをワークに向けて吹き付けながらホブ加工するところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の歯車製造方法において、油水ミスト生成ノズルにおけるミスト吐出口の中心軸が基準線とワーク回転軸との交点を通るように油水ミスト生成ノズルを支持するところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明に係るホブ盤は、鉛直方向に延びたワーク回転軸を中心に回転するワークを、水平方向に延びたホブ回転軸を中心に回転するホブにて下向きに切削して、ワークから歯車を製造するホブ盤であって、潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを吐出する油水ミスト生成ノズルと、油水ミスト生成ノズルの位置を、ワーク回転軸とホブ回転軸とに共に直交する基準線に対して、ワークの被切削位置における周速方向の後側で、ホブより上方となる位置に保持しかつ、油水ミスト生成ノズルの姿勢を、先端下がりでかつその先端のミスト吐出口がワークの回転中心側を向いた姿勢に保持するノズル支持部材とを備えたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3に記載のホブ盤において、ノズル支持部材は、油水ミスト生成ノズルにおけるミスト吐出口の中心軸が基準線とワーク回転軸との交点を通るように油水ミスト生成ノズルを支持しているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0010】
後述する実験で確認できたように、ホブの上方に位置した油水ミスト生成ノズルから油水ミストをワークに向けて吹き付けながらホブ加工する場合、請求項1及び3の発明のように、ワーク回転軸とホブ回転軸とに共に直交する基準線に対して、ワークの被切削位置における周速方向の後側に油水ミスト生成ノズルを配置したら、基準線上や基準線より前側に配置した場合に比べて切削屑のホブやワークへの圧着または固着を防ぐことが可能になることがわかった。また、請求項2及び4の発明のように、油水ミスト生成ノズルにおけるミスト吐出口の中心軸を基準線とワーク回転軸との交点を通るように配置すると、通らないように配置した場合に比べて、ワークへの切削屑の圧着または固着をより確実に防ぐことができることがわかった。これらにより、本発明によれば、油水ミスト生成ノズルを用いた歯車の製造が実現可能になり、給油ノズルから潤滑油を供給して歯車を製造する場合に比べて、潤滑油の使用量削減及び飛散量削減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】油水ミスト生成ノズルの断面図
【図2】ホブ盤の主要部を示した側面図
【図3】ホブ盤の主要部を示した平面図
【図4】ホブ盤の主要部を示した側面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図1〜図4を参照して説明する。図1には、本発明に係る油水ミスト生成ノズル10が示されている。この油水ミスト生成ノズル10は、特許第3574023号公報に開示された油水ミスト生成ノズル(同公報における「油膜付水滴生成混合器」に相当する)と同様の原理で油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを生成することが可能な構成になっている。
【0013】
具体的には、油水ミスト生成ノズル10は、先端に向かって徐々に細くなった先細り形状をなし、その軸心部には、メイン流路12が貫通形成されている。また、油水ミスト生成ノズル10の後端面の中央には、メイン流路12の始端開口がガス供給ポート13として備えられ、油水ミスト生成ノズル10の先端には、メイン流路12の終端開口がミスト吐出口14として備えられている。そして、ガス供給ポート13に供給された圧縮ガス(例えば、圧縮空気)がメイン流路12を流れて、ミスト吐出口14から吐出される。また、メイン流路12には、ガス供給ポート13側からミスト吐出口14側に向かって順番に第1絞り部15、第1霧化室16、第2絞り部17、第2霧化室18、余剰油結合室19及び吐出ガイド部20が備えられている。
【0014】
油水ミスト生成ノズル10のうちメイン流路12における第1絞り部15より後側の側方には、給油路21が備えられている。給油路21は、一端部がメイン流路12における第1絞り部15の内側部分に直交するように連絡されると共に途中部分が直角曲げされて、他端部が油水ミスト生成ノズル10の後端面に開口し、その開口が給油ポート22になっている。
【0015】
油水ミスト生成ノズル10のうちメイン流路12における第2絞り部17より後側の側方には、給水路23が備えられている。給水路23は、一端部がメイン流路12における第2絞り部17の内側部分に直交するように連絡されると共に途中部分が直角曲げされて、他端部が油水ミスト生成ノズル10の後端面に開口し、その開口が給水ポート24になっている。
【0016】
油水ミスト生成ノズル10のうちメイン流路12における第1霧化室16の前端部から余剰油結合室19の前端部に亘る部分の側方には、サイド連通路25が備えられている。サイド連通路25の一端部は、第1霧化室16における前端部の内側面に開口し、サイド連通路25の他端部は、余剰油結合室19における軸方向における2カ所に開口している。なお、メイン流路12における流体の通過面積は、第1霧化室16,第2霧化室18、余剰油結合室19及び吐出ガイド部20の順番で徐々に小さくなっている。また、第1と第2の絞り部15,17における流体の通過面積は、吐出ガイド部20より小さくなっている。
【0017】
油水ミスト生成ノズル10のガス供給ポート13には、開閉弁を介して圧縮ガスのガス供給源(例えば、給気ポンプ、工場のエアー配管)が接続され、給水ポート24には、開閉弁、流量調整弁を介して水供給源(例えば、給水ポンプ、工場の水道管)が接続され、給油ポート22には、開閉弁を介して油供給源(例えば、給油ポンプ)が接続されている。また、上記した流量調整弁は、油水ミスト生成ノズル10への潤滑油の供給量に対する水の供給量が、予め設定された比率になるように調整されている。
【0018】
そして、メイン流路12内を圧縮ガスが流れている状態で給油ポート22から給油路21を通して第1絞り部15内に潤滑油が供給されると共に、給水ポート24から給水路23を通して第2絞り部17内に水が供給される。これにより、圧縮ガスと共に潤滑油が第1霧化室16に送給されて、第1霧化室16内で潤滑油の霧が生成される。そして、潤滑油の霧を含んだ圧縮ガスが第2絞り部17に送給される。これにより、潤滑油を含んだ圧縮ガスと共に水が第2霧化室18に送給され、第2霧化室18内で、潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストが生成される。
【0019】
また、霧にならずに第1霧化室16に溜まった潤滑油は、サイド連通路25を通して余剰油結合室19に送られる。そして、余剰油結合室19を通過する油水ミストの水粒群に吸収される。このようにして生成された油水ミストは、吐出ガイド部20で流速を上げられ、油水ミスト生成ノズル10のミスト吐出口14から吐出される。
【0020】
図2には、本発明に係るホブ盤30の主要部が示されている。このホブ盤30は、鉛直方向に延びたワーク回転軸J1を中心に回転するワーク保持シャフト31と、水平方向に延びたホブ回転軸J2を中心に回転するホブ保持シャフト32とを備えている。ワーク保持シャフト31には、筒状のワークWが挿通した状態に固定されている。一方、ホブ保持シャフト32には、筒状のホブ33が挿通した状態に固定されている。なお、ホブ33は、図3に示すように、外周面に備えたねじ山33Nを横切る複数の刃溝33Mが、ホブ回転軸J2に対して緩やかに傾斜した形状になっている。
【0021】
また、ワーク保持シャフト31は、図3に示すように、上方から見て反時計回りとなる方向に回転駆動される一方、ホブ保持シャフト32は、図2に示すように、ホブ33のうちワークW側を向いた部分の周速が下向きになるように回転駆動されるようになっている。また、ホブ保持シャフト32の両端部を回転可能に支持する可動ベース34は、上下動可能であると共に、ホブ回転軸J2と直交する水平方向に前後動可能になっている。そして、ワーク保持シャフト31及びホブ保持シャフト32が回転した状態で、可動ベース34によってホブ保持シャフト32が上下動する動作を繰り返しながら徐々にワーク保持シャフト31側に接近し、ホブ33にてワークWをホブ加工する。このとき、ワークWに向けて油水ミストを吹き付けるために、油水ミスト生成ノズル10が可動ベース34にブラケット35にて固定されている。
【0022】
ここで、ワークWの被切削位置に対して油水ミストを単に無駄なく供給するという観点では、そのワークWの被切削位置、即ち、ホブ33とワークWとの接触位置に対して鉛直方向の真上で油水ミスト生成ノズル10を鉛直姿勢に保持してミスト吐出口14を下向きにすることが好ましいが、そうすると、油水ミスト生成ノズル10とホブ33及びセンターサポート36との干渉と、ホブ33やワークWへの切削屑の圧着・固着が問題になる。
【0023】
そこで、本実施形態では、図2に示すように、油水ミスト生成ノズル10が、ホブ33の上方の領域において、ホブ33及びセンターサポート36に干渉しない範囲で近づけられ、ホブ回転軸J2の軸方向から見てワーク回転軸J1とホブ回転軸J2との間の中央部にミスト吐出口14が配置されている。また、ミスト吐出口14の中心軸J3は、基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lを通りかつ、水平軸に対して所定角度θ1(例えば、60[DEG])だけ先端下がりとなるように傾斜している。さらに、図4に示すように、ホブ33の手前にワークWが配置された状態で基準線Kの軸方向から見ると、ミスト吐出口14の中心軸J3は、前記交点Lから上方に延びた鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側(図4における交点Lの右側)に所定角度θ2(例えば、45「DEG])だけ傾けられている。
【0024】
本実施形態のホブ盤30の構成に関する説明は以上である。次に、このホブ盤30の作用効果及びこのホブ盤30を用いた歯車製造方法について説明する。歯車を製造するには、例えば、ワークWの内面及び端面を仕上げ研削し、必要に応じて内面にキー溝を加工してからワークWをホブ盤30に取り付ける。そして、油水ミスト生成ノズル10から油水ミストを噴出させかつ、ワーク保持シャフト31及びホブ保持シャフト32を回転させた状態で、可動ベース34によってホブ保持シャフト32を上下動する動作を繰り返しながら徐々にワーク保持シャフト31側に接近させる。これにより、ワークWから歯車を切削することができる。
【0025】
ここで、本実施形態のホブ盤30及び歯車製造方法によれば、後述する実験で確認できたように、ワーク回転軸J1とホブ回転軸J2とに共に直交する基準線Kに対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側に油水ミスト生成ノズル10を配置したので、基準線K上や基準線Kより前側に配置した場合に比べて切削屑がホブ33やワークWに噛み込んで圧着または固着することを防ぐことが可能になる。これにより、油水ミスト生成ノズル10を用いた歯車の製造が実現可能になり、給油ノズルから潤滑油を供給して歯車を製造する場合に比べて、潤滑油の使用量及び飛散量の削減を図ることが可能になる。
【0026】
なお、ホブ盤30から取り外された歯車に、例えば、熱処理を施してから表面を研磨して歯車が完成する。
【0027】
[実施例]
上記実施形態で説明したホブ盤30を下記[1]の加工条件で使用し、その使用中の油水ミスト生成ノズル10の位置及び姿勢を下記[2]のように変更して、ワークW又はホブ33に切削屑が付着するか否かを目視確認する実験を行った。
【0028】
[1]加工条件
(1)油水ミスト生成ノズル10への給水量を3〜15[ml/min]、給油量を0.15[ml/min]、圧縮ガスの給気圧を0.25[MPa]に設定した。
(2)ワークWの外径を34[mm]、軸長を27[mm]、ホブ33の外径を50[mm]及び、ホブ33の回転速度を133[rpm]とした。なお、ワークWは、ホブ33に同期して回転するように制御されている。
【0029】
[2]油水ミスト生成ノズル10の位置・姿勢
油水ミスト生成ノズル10を、ホブ33の上方の領域に配置してホブ33に干渉しない範囲で近づけ、ホブ回転軸J2の軸方向から見て、ワーク回転軸J1とホブ回転軸J2との間の中央部にミスト吐出口14が位置し、さらに、水平軸に対してθ1=60[DEG]だけ先端下がりに傾斜させたという共通の前提条件の下、以下のように詳細条件を変更して実際にワークWをホブ加工した。
【0030】
なお、油水ミスト生成ノズル10を、ホブ33の下方の領域に配置した場合は、油水ミストがワークWにおける被切削部分に行き届かないことが明らかであり、油水ミスト生成ノズル10を、ホブ33の上方の領域に配置した場合にしても、油水ミスト生成ノズル10を先端下がりの姿勢にしなければ、油水ミストがワークWに到達する前に拡散して、ワークWにおける被切削部分に行き届かないことが明らかであるので、上記前提条件を設けた。
【0031】
(1)比較例1:図4において、油水ミスト生成ノズル10の先端が基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の前側(図4における交点Lの左側)に所定角度θ2=45[DEG]だけ傾斜するように配置した。
【0032】
(2)比較例2:図4において、油水ミスト生成ノズル10の先端が基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の前側に所定角度θ2=15[DEG]だけ傾斜するように配置した。
【0033】
(3)比較例3:図4において、油水ミスト生成ノズル10の先端が基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対して所定角度θ2=0[DEG]になるように配置した。
【0034】
(4)実施例1:図4において、油水ミスト生成ノズル10の先端が基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側(図4における交点Lの右側)に所定角度θ2=15[DEG]だけ傾斜するように配置した。
【0035】
(5)実施例2:図4において、油水ミスト生成ノズル10の先端が基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側に所定角度θ2=45[DEG]だけ傾斜するように配置した。
【0036】
[実験結果]
比較例1,2,3及び実施例1,2のホブ加工におけるワークWに切削屑が付着した不良品の発生率の比較結果は、以下の通りであった。
実施例2<実施例1<比較例3<比較例2=比較例1
【0037】
即ち、比較例1,2では、不良品の発生率が非常に高く、これらに比べて比較例3では、不良品の発生率は低いが、実用には至らなかった。これに対し、実施例1,2では、不良品の発生率が極めて低く、実用可能なレベルに至った。特に、実施例2では同じホブ33でワークWを6000個加工しても不良品は発生しなかった。
【0038】
以上のように、実施例1,2のホブ加工は、比較例1,2,3のホブ加工に比べて明らかに切削屑がワークWやホブ33に付着する不良が発生しにくい結果となった。つまり、ホブ33の上方に位置した油水ミスト生成ノズル10からホブ33とワークWとに向けて油水ミストを吹き付けながらホブ加工する場合、ミスト吐出口14の中心軸J3がワーク回転軸J1及びホブ回転軸J2に共に直交する基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lを向くように配置した状態で、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速方向の後側に配置したときの方が、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速方向の前側に配置したときに比べて切削屑がホブ33やワークWに噛み込んで圧着または固着することを防ぐことができることがわかった。
【0039】
比較例3のホブ加工において、切削屑がワークWに付着した不良が発生した要因として、真上から油水ミストを吹き付けると、ワークWの加工点に対して油水ミストを好適に供給することができるものの、偶発的に舞った切削屑を油水ミストによってワークWの加工点に押し込んでしまい、結果としてワークWに切削屑が噛み込んだものと考えられる。
【0040】
実施例1,2のように、油水生成ノズル10をワークWの被切削位置における周速方向の後側に傾斜させていくことにより、ワークWの加工点への切削屑の押し込みを低減することができることがわかった。また、油水ミスト生成ノズル10をワークWの被切削位置における周速方向の後側の傾斜角度において、実施例1より実施例2の方が不良が発生しにくいことがわかった。これにより、油水ミスト生成ノズル10におけるミスト吐出口14の中心軸J3を基準線Kとワーク回転軸J1との交点Lに向くように配置すると共に、鉛直軸に対してワークWの被切削位置における周速Vの方向の後側に所定角度θ2=45[DEG]だけ傾斜するように配置することが好ましいことがわかった。
【0041】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、上記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0042】
前記実施形態では、ホブ33の刃の並び方向(刃すじ方向)と油水ミストの吹き付け方向とが交差するように配置されていたが、油水ミストの吹き付け方向がホブ33の刃の並び方向に沿うように配置されていてもよい。しかしながら、実験において、油水ミストの吹きつけ方向がホブ33の刃の並び方向に沿うように配置された方がワークWに切削屑が付着しやすかった。なお、この理由として、油水ミストの吹き付け方向がホブ33の刃の並び方向に沿うように配置すると、油水ミストが切削屑をワークWの加工点に押し込んでしまうことが考えられる。
【符号の説明】
【0043】
10 油水ミスト生成ノズル
14 ミスト吐出口
25 サイド連通路
30 ホブ盤
31 ワーク保持シャフト
32 ホブ保持シャフト
33 ホブ
34 可動ベース
35 ブラケット
J1 ワーク回転軸
J2 ホブ回転軸
J3 中心軸
K 基準線
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びたワーク回転軸を中心に回転するワークを、水平方向に延びたホブ回転軸を中心に回転するホブにて下向きに切削して、前記ワークから歯車を製造する歯車製造方法において、
潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを吐出する油水ミスト生成ノズルの位置を、前記ワーク回転軸と前記ホブ回転軸とに共に直交する基準線に対して、前記ワークの被切削位置における周速方向の後側で前記ホブより上方となる位置に保持しかつ、前記油水ミスト生成ノズルの姿勢を、先端下がりでかつその先端のミスト吐出口が前記ワークの回転中心側を向いた姿勢に保持して、前記油水ミストを前記ワークに向けて吹き付けながらホブ加工することを特徴とする歯車製造方法。
【請求項2】
前記油水ミスト生成ノズルにおける前記ミスト吐出口の中心軸が前記基準線と前記ワーク回転軸との交点を通るように前記油水ミスト生成ノズルを支持することを特徴とする請求項1に記載の歯車製造方法。
【請求項3】
鉛直方向に延びたワーク回転軸を中心に回転するワークを、水平方向に延びたホブ回転軸を中心に回転するホブにて下向きに切削して、前記ワークから歯車を製造するホブ盤であって、
潤滑油の油膜で覆われた水粒群からなる油水ミストを吐出する油水ミスト生成ノズルと、
前記油水ミスト生成ノズルの位置を、前記ワーク回転軸と前記ホブ回転軸とに共に直交する基準線に対して、前記ワークの被切削位置における周速方向の後側で、前記ホブより上方となる位置に保持しかつ、前記油水ミスト生成ノズルの姿勢を、先端下がりでかつその先端のミスト吐出口が前記ワークの回転中心側を向いた姿勢に保持するノズル支持部材とを備えたことを特徴とするホブ盤。
【請求項4】
前記ノズル支持部材は、前記油水ミスト生成ノズルにおける前記ミスト吐出口の中心軸が前記基準線と前記ワーク回転軸との交点を通るように前記油水ミスト生成ノズルを支持していることを特徴とする請求項3に記載のホブ盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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