説明

段染め糸の製造方法および段染め糸

【課題】車両用内装材の縫製に用いられるフィラメント糸において、段染めの色の境界を制御できる段染め糸の製造方法および段染め糸を提供する。
【解決手段】フィラメント糸10の段染めを行う染色工程を有し、フィラメント糸10の段染めを行う前、あるいは、フィラメント糸10の段染めを行うときに、互いに異なる色が付される領域12と領域12との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤44を付して、段染め時において隣接する色同士の混ざり具合を制御した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段染め糸の製造方法および段染め糸に関し、さらに詳しくは、車両用内装材の縫製に用いるのに好適な段染め糸の製造方法および段染め糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の色によって段違いに染色された段染めの糸が知られている(特許文献1、2)。車両用シートやトリム、インパネなどの車両用内装材の縫製に用いられるミシン糸には、強度や耐光性などから、フィラメント糸が用いられるのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−2787号公報
【特許文献2】特公昭54−4435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両用内装材の縫製に好適なフィラメント糸は、一本の単糸が長繊維であることから、スパン糸などの短繊維からなる糸とは異なり、段染めしたときに隣り合う色同士が色の境界で混ざりやすいという性質を有している。このため、フィラメント糸においては、段染めの色の境界を明確にするのは困難であった。
【0005】
そして、その色の混ざり具合も成り行きでしかなかった。例えば赤色とオレンジ色のように近似の色(類似の色)が隣り合う場合には、色の混ざりによってグラデーション効果が得られることはあるものの、色の混ざり具合によって色のピッチが変わることがあった。また、例えば赤色と青色のように反対の色(対照の色)が隣り合う場合には、色の混ざり具合によっては黒褐色となることがあり、見栄えが悪くなることがあった。
【0006】
このように、フィラメント糸の段染めでは、段染めの色の境界を明確にできず、また、その色の混ざり具合も成り行きでしかなかったため、狙った柄を出すことが難しかった。これは、フィラメント糸の段染めでは、色の境界がコントロールできていないためである。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、車両用内装材の縫製に用いられるフィラメント糸において、段染めの色の境界を制御できる段染め糸の製造方法および段染め糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る段染め糸の製造方法は、フィラメント糸の段染めを行う染色工程を有し、前記フィラメント糸の段染めを行う前、あるいは、前記フィラメント糸の段染めを行うときに、互いに異なる色が付される領域と領域との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤を付して、段染め時において隣接する色同士の混ざり具合を制御したことを要旨とするものである。
【0009】
上記抑染剤により、フィラメント糸の互いに異なる色が付される領域と領域との間において、一方の領域に付与した染料の他方の領域への浸透が抑えられることで、段染め時に隣接する色同士の混ざり具合が制御される。したがって、このような構成の段染め糸の製造方法によれば、段染めの色の境界を制御することができる。上記抑染剤により一方の領域に付与した染料の他方の領域への浸透が完全に抑えられなくても、ある程度の浸透が抑えられることで、色同士の混ざり具合は十分制御される。そして、その浸透がかなりの程度に抑えられれば、段染めの色の境界を明確にするところまで色同士の混ざり具合が制御される。
【0010】
この際、フィラメント糸の抑染剤が付された部分に圧力を加えた状態でフィラメント糸の段染めを行うようにすれば、その圧力で、一方の領域に付与した染料の他方の領域への浸透がさらに抑えられるため、段染め時において隣接する色同士の混ざり具合をより制御しやすくできる。
【0011】
そして、本発明に係る段染め糸は、フィラメント糸の互いに異なる色が付される領域と領域との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤を付した後、あるいは、前記抑染剤を付すと同時に、段染めされていることを要旨とするものである。
【0012】
このような構成の段染め糸によれば、上記抑染剤により、段染め時に隣接する色同士の混ざり具合が制御されるので、段染めの色の境界が制御される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る段染め糸の製造方法によれば、上記抑染剤により段染め時に隣接する色同士の混ざり具合が制御されるので、従来、成り行きでしかできなかった段染めの色の境界をどの色調においても制御することができる。これにより、段染めの色の境界を明確にすることも、段染めで狙った柄を出すことも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る段染め糸の製造方法の抑染処理工程を説明する断面模式図である。
【図2】図1の抑染処理において、抑染剤が付される領域を拡大して示した断面模式図である。
【図3】本発明に係る段染め糸の製造方法の染色工程を説明する断面模式図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る段染め糸の模式図である。
【図5】本発明に係る製造方法による段染め糸を車両用シートのステッチに適用した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
本発明に係る段染め糸の製造方法は、フィラメント糸の所定の位置に抑染剤を付す抑染処理工程と、フィラメント糸の段染めを行う染色工程と、を有する。図1および図2は、抑染処理工程を説明する断面模式図であり、図3は、染色工程を説明する断面模式図である。本発明において、抑染処理工程および染色工程は、所定の上型と下型とを用いて実施される。
【0017】
抑染処理工程において、フィラメント糸10は、図1に示すように、上型20と下型30との間に挟まれて固定される。抑染処理工程に用いる上型20は、クランプやネジなどの図示しない固定治具によって下型30に固定される。この上型20は、フィラメント糸10に対し、抑染剤が付される領域14と抑染剤が付されない領域12とに区切ってフィラメント糸10の所定の位置に抑染剤を付すためのものである。
【0018】
抑染処理工程に用いる上型20は、方形状の外観をしており、図1に示すように、上側から下側に向かって抑染剤を流通させるための抑染剤流通路22が上下方向に貫通するように複数形成されている。これらの抑染剤流通路22は、上側の部分が中および下側の部分よりも幅が細くなっている。この上側の部分には、抑染剤44が収容されているタンク46から延びる供給管48が繋がっており、タンク46からこの供給管48を経由して上型20の抑染剤流通路22へと抑染剤44が運ばれる。上型20の抑染剤流通路22と抑染剤流通路22との間は抑染剤流通路22同士を隔てる抑染剤用隔壁24となっており、この抑染剤用隔壁24は抑染剤流通路22同士を隔てる部分であるとともにフィラメント糸10を上側から押圧する部分となっている。したがって、フィラメント糸10は、上型20の抑染剤用隔壁24によって上側から押圧される。そして、上型20の抑染剤用隔壁24と抑染剤流通路22により、フィラメント糸10は抑染剤が付される領域14と抑染剤が付されない領域12とに区切られる。抑染剤が付される領域14は、後述する染色工程において染料が付与される領域(色が付される領域)と領域との間(境界)となる領域であり、抑染剤が付されない領域12は、後述する染色工程において染料が付与される領域(色が付される領域)である。
【0019】
図2に示すように、抑染剤用隔壁24先端の抑染剤流通路22に近接した部分には、下(先端)に向かって凸となる形状のシール部26が形成されている。シール部26は、シリコーン樹脂などの弾性を有する材質のもので形成されており、弾性を有することで抑染剤流通路22の気密性が確保され、抑染剤流通路22から外へ抑染剤44が浸透するのが抑えられる。また、凸部先端での応力集中により気密性がより高まることとなる。図2では、2つの凸部によって2重にシールされる形となっており、このように多重にシールされることでその気密性はさらに高まることとなる。したがって、これによれば、抑染剤44は、フィラメント糸10の抑染剤流通路22の下側開口部に対向する部分に精度良く塗布される。
【0020】
抑染処理工程に用いる下型30は、図1に示すように、フィラメント糸10を載置する平板状の下型本体部32を備えており、その下型本体部32には、抑染処理工程に用いる上型20の抑染剤流通路22の下側開口部と対向する位置に、余剰の抑染剤44を排出する抑染剤排出孔36が上下方向に貫通形成されている。この下型30は、後述する染色工程と共用するものであり、染色工程にも用いられる。このため、下型本体部32には、抑染処理工程に用いる上型20の抑染剤用隔壁24先端と対向する位置に、余剰の染料を排出する染料排出孔38が上下方向に貫通形成されている。この下型本体部32の下側には、抑染剤排出孔36に連通する抑染剤排出路40と染料排出孔38に連通する染料排出路42とが画成された下型排出部34が延設形成されている。
【0021】
染色工程に用いる上型50は、方形状の外観をしており、図3に示すように、上側から下側に向かって染料を流通させるための染料流通路52が上下方向に貫通するように複数形成されている。染料流通路52と染料流通路52との間はこれらを隔てる染料用隔壁54となっており、この染料用隔壁54は染料流通路52を隔てる部分であるとともにフィラメント糸10を上側から押圧する部分となっている。この染料用隔壁54は、フィラメント糸10の抑染剤が付される領域14内に位置され、この部分を押圧する。そして、この染料用隔壁54がフィラメント糸10を押圧することにより、フィラメント糸10に対し、染料流通路52の下側開口部に対応する各領域12,12,・・・が、色が付される領域12として区画される。
【0022】
この染料用隔壁54の内部には、上側から下側に向かって空気などのガスを流通させるためのガス流通路56が上下方向に貫通するように形成されており、上型50の上側からフィラメント糸10の抑染剤が付された領域14内の抑染剤が付された部分に送風(加圧)できるようになっている。この染料用隔壁54には、図示しないが、フィラメント糸10に当接する先端の染料流通路52に近接した部分に、図2に示すようなシール部が設けられていても良い。これにより、染料流通路52の気密性はさらに高まるため、フィラメント糸10の染料流通路52の下側開口部に対向する部分に染料が精度良く塗布される。
【0023】
なお、染色工程に用いる下型30は、上述するように、抑染処理工程に用いる下型30と共用するものであるが、染色工程に用いる上型50に対しては、下型本体部32の染料排出孔38は、染料流通路52の下側開口部と対向する位置に形成されている。
【0024】
次に、このような構成の上型20と下型30とを用いて行う抑染処理工程について説明する。抑染処理工程では、まず、下型本体部32の上にフィラメント糸10を載置し、上型20と下型30との間に挟んで固定する。フィラメント糸10は、例えばループ状にまとめてかせ糸の状態で下型本体部32の上に載置する。次いで、抑染剤44が収容されたタンク46から供給管48を経由して上型20の抑染剤流通路22に抑染剤44を供給する。抑染剤流通路22に供給された抑染剤44は、フィラメント糸10の抑染剤流通路22の下側開口部と対向する部分に流れ込み、この部分に塗布される。余剰の抑染剤44は、その下の抑染剤排出孔36を通って抑染剤排出路40から排出される。次いで、下型30から上型20を取り外す。これにより、フィラメント糸10の色が付される領域12と領域12との間14に抑染剤44が塗布される。
【0025】
上型20の抑染剤流通路22に抑染剤44を供給する際には、抑染剤排出路40の排出口からポンプなどを用いて図1中の矢印Aの方向に吸引(減圧)を行う。これにより、フィラメント糸10の抑染剤を付与(塗布)する領域14に抑染剤44をしっかり行きわたらせることができる。また、余剰の抑染剤44を確実に排出することができる。フィラメント糸10の抑染剤を付与(塗布)する領域14の幅は、抑染剤流通路22の下側開口部の幅を調整することにより変更することができる。
【0026】
続いて、染色工程について説明する。染色工程では、抑染処理工程に用いた下型30と同じ下型30を用い、上型のみ交換する。抑染処理工程および染色工程で下型30を共用することにより、抑染剤44を塗布したフィラメント糸10を下型30から移動させないで済むため、抑染処理工程から染色工程に移行することによって段染めの境界がずれるのを防止することができる。すなわち、これにより、段染めの境界がずれないようにした。
【0027】
この下型30に対し、染色工程に用いる上型50を、フィラメント糸10の抑染剤が付された領域14内の抑染剤が付された部分にその染料用隔壁54が位置されるようにセットする。下型30に対し上型50をセットする位置は、予め位置決めピンなどで設定しておく。染色工程に用いる上型50は、ネジなどの固定治具によって下型30に固定される。フィラメント糸10は、全体を染色する場合には、図3に示すように上型50内に収まるようにする。フィラメント糸10のループ状の端の部分を染色しない場合などには、上型50内に完全に収まらないでその端の部分が上型50の外に出ていても良い。
【0028】
次いで、上型50の染料流通路52の上側開口部から染料を供給する。染料は特に限定されるものではなく、フィラメント糸の染料として用いられる一般的な染料を任意に適用することができる。本発明においては、フィラメント糸の段染めを行うので、隣り合う染料流通路には互いに異なる色の染料を供給する。以下の構成に限定されるわけではないが、例えば3色の染料により段染めを行う例について説明すると、図3において、染料流通路52aには染料Xを供給し、染料流通路52bには染料Yを供給し、染料流通路52cには染料Zを供給する。各染料流通路52a〜cに供給された各染料X〜Zは、フィラメント糸10の染料流通路52a〜cの下側開口部と対向する部分にそれぞれ流れ込み、この部分にそれぞれ塗布される。このとき、余剰の染料は、その下の染料排出孔38を通って染料排出路42から排出される。次いで、下型30から上型50を取り外す。これにより、フィラメント糸10の隣り合う領域には互いに異なる色が付される。
【0029】
上型50の染料流通路52に染料を供給する際には、染料排出路42の排出口からポンプなどを用いて図3中の矢印Bの方向に吸引(減圧)を行う。これにより、フィラメント糸10の色が付される領域12に染料をしっかり行きわたらせることができる。また、余剰の染料を確実に排出することができる。
【0030】
この染色工程を経て、フィラメント糸10は段染めされる。フィラメント糸10は、一本の単糸が長繊維であることから、スパン糸などの短繊維からなる糸とは異なり、染料が塗布された範囲からその範囲外に浸透しやすい性質を有する。このため、本発明では、抑染剤44によって、染料がその付された範囲から自由に浸透していくのを抑制している。すなわち、この抑染剤44が、染料の浸透を抑制して隣接する色同士の混ざり具合を制御する。
【0031】
染料の浸透を抑制するとは、広くは、染料が浸透する量や範囲などを低減することであり、染料が全く浸透しないようにすることも含まれる。その抑制の程度は、抑染剤44の種類、塗布範囲(幅)、塗布量(濃度)などにより調整される。抑制の程度が調整されることにより、隣接する色同士の混ざり具合が制御される。抑染剤44としては、シリコーンオイルなどの撥水性を有する材料やフッ素樹脂加工剤などを挙げることができる。シリコーンオイルなどは、染料が浸透する量や範囲などを低減する効果に特に優れる点で好ましい。
【0032】
この染色工程では、フィラメント糸10の抑染剤が付された部分に当接している上型50の染料用隔壁54により、フィラメント糸10の抑染剤が付された部分に圧力(押圧力)がかかっている。すなわち、フィラメント糸10の抑染剤が付された部分に圧力を加えた状態でフィラメント糸10の段染めを行っているので、これによっても、フィラメント糸10の抑染剤が付された領域14への染料の浸透が抑制され、隣接する色同士の混ざり具合が制御される。
【0033】
上型50の染料用隔壁54の押し付け量(押圧力)は、付随するネジ58で調整することができる。この押し付け量(押圧力)を調整することにより、フィラメント糸10の抑染剤が付された領域14への染料の浸透量などが調整され、隣接する色同士の混ざり具合が制御される。
【0034】
また、この染色工程では、染料用隔壁54の内部に形成されたガス流通路56に上型20の上側から図3中の矢印Cの方向にガスを供給してフィラメント糸10の抑染剤が付された部分に送風(加圧)を行い、色が付される領域12と領域12との間に風の壁を作るようにする。併せて、下型30からも、フィラメント糸10の抑染剤が付された部分に連絡される抑染剤排出路40を利用し、図3中の矢印Dの方向にガスを供給してフィラメント糸10の抑染剤が付された部分に送風(加圧)を行う。
【0035】
このように、フィラメント糸10の抑染剤が付された部分に送風による圧力を加えた状態でフィラメント糸10の段染めを行うことにより、フィラメント糸10の抑染剤が付された領域14への染料の浸透が抑制される。この際、その風圧を調整することにより、染料の浸透量などが調整され、隣接する色同士の混ざり具合が制御される。所定部分への送風は、フィラメント糸10に染料を供給する前から、あるいは、フィラメント糸10に染料を供給すると同時に、開始する。
【0036】
フィラメント糸10に染料を付与した後は、常法に従う処理を行う。具体的には、通常、染料が付与されたフィラメント糸10を型から取り出して乾燥を行い、加熱等によって染料をフィラメント糸10に定着させた後、洗浄を行う。また、必要に応じて、可縫性の向上などの目的でオイル処理を行う。なお、抑染剤44は、フィラメント糸10の染色後であれば、洗浄などの処理によってフィラメント糸10から除去しても良い。
【0037】
本発明に適用されるフィラメント糸10としては、特に限定されるものではないが、耐久性などの観点から、ポリエステル繊維やナイロン繊維などが好ましいものとして挙げられる。なお、ここでいう耐久性とは、縫製後に車両内装材として使用される年数において、縫目上部や側面などから受ける負荷に耐える糸の強度を意味する。また、これらのうちでより好ましい材質としては、ポリエステル繊維である。フィラメント糸10としてポリエステル繊維を用いると、長期にわたる使用に際しても色あせしにくい(耐候性に優れる)からである。
【0038】
本発明に適用されるフィラメント糸10は、単糸からなるものであっても良いし、複数本の単糸が撚り合わされてなる撚糸からなるものであっても良い。その単糸の本数も特に限定されるものではない。フィラメント糸10が複数本の単糸からなる場合、複数本の単糸はいずれも同じ太さからなるものであっても良いし、少なくとも1本以上が異なる太さからなるものであっても良い。また、複数本の単糸はいずれも同じ材質からなるものであっても良いし、少なくとも1本以上が異なる材質からなるものであっても良い。単糸は、単繊維からなるものであっても良いし、複数本の繊維を撚り合わせたもので構成されていても良い。複数本の繊維からなる場合、単一の材質で構成されていても良いし、2種以上の材質で構成されていても良い。
【0039】
以上に示す本発明に係る段染め糸の製造方法によれば、フィラメント糸10の段染めを行う前に、互いに異なる色が付される領域12と領域12との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤44を付して、段染め時において隣接する色同士の混ざり具合を制御したので、従来、成り行きでしかできなかった段染めの色の境界をどの色調においても制御することができる。これにより、段染めの色の境界を明確にすることも、段染めで狙った柄を出すことも可能となる。
【0040】
そして、本発明に係る段染め糸の製造方法により、例えば段染めの色の境界を明確にした段染め糸を得ることができる。図4は、本発明に係る段染め糸の製造方法により得られた段染め糸の一実施形態を示したものである。一実施形態に係る段染め糸60は、フィラメント糸の互いに異なる色が付される領域と領域との間に抑染剤を付した後(あるいは抑染剤を付すと同時に)、段染めされているものである。
【0041】
一実施形態に係る段染め糸60は、抑染剤により、あるいは、染色工程においてフィラメント糸の抑染剤が付された部分に加えられた圧力(押圧力、送風)により、段染め時において隣接する色同士の混ざりが抑えられて、段染めの色X,Y,Zの境界が明確にされている。このように、段染めの色の境界が明確にされたことにより、一実施形態に係る段染め糸60は、見栄えの良い、意匠的に優れたものとなる。
【0042】
本発明に係る製造方法で得られた段染め糸60は、意匠性に優れることから、例えば、図5に示すような車両用シート70のシートの表皮の継ぎ目を縫製するステッチ72などに好適に用いることができる。また、車両用シート70以外にも、車両の内装全般に適用することができる。具体的には、例えば、ドアトリム、インパネ(車両前面のパネル)、カーペット、天井、コンソールなどの各種車両内装材の縫製に好適に用いることができる。
【0043】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0044】
例えば上記実施形態では、抑染処理工程に用いる上型20と染色工程に用いる上型50とが下型30のように共用されるものではないため、型の構成の都合上、フィラメント糸10の段染めを行う前に抑染処理を行っているが、例えば図3に示す染色工程の上型50の送風を行うための染料用隔壁54のガス流通路56を利用してフィラメント糸10に抑染剤44を供給するようにすれば、染色工程の上型50を用いて抑染処理と染色とを同時に行うことも可能である。この場合、抑染剤44が目的の位置に塗布されるように染料用隔壁54のガス流通路56の形状に適宜改良を加えても良い。そして、このように抑染処理工程および染色工程で上型も共用することができれば、より一層確実に、段染めの境界がずれるのを防止することができる。なお、これ以外の方法によって、抑染処理と染色とを同時に行っても良いのは勿論である。
【0045】
また、上記実施形態では、染色工程において、染料用隔壁54によりフィラメント糸10の抑染剤が付された部分に圧力(押圧力)が加えられ、また、ガス流通路56や抑染剤排出路40からの送風によりフィラメント糸10の抑染剤が付された部分に圧力が加えられた状態で、フィラメント糸10の段染めを行っているが、例えば抑染剤44による浸透を抑える効果の大きさや求める色の混ざり具合によっては、染料用隔壁54による押圧や送風のいずれかあるいは両方を行わないようにすることもできる。また、送風に関しては、上型50と下型30の両方から行っているが、いずれか一方からの送風にすることもできる。
【0046】
さらに、上記実施形態では、抑染処理工程および染色工程は、所定の上型と下型とを用いて実施しているが、目的の位置に抑染剤や染料を塗布可能であれば、上記実施形態で示した型以外の型を用いて抑染処理工程および染色工程を実施することもできるし、噴霧等の他の方法で目的の位置に抑染剤や染料を塗布可能であれば、型を用いないで抑染処理工程および染色工程を実施することもできる。
【符号の説明】
【0047】
10 フィラメント糸
12 フィラメント糸の色が付される領域
14 フィラメント糸の抑染剤が付される領域
20 抑染処理工程の上型
22 抑染剤流通路
24 抑染剤用隔壁
30 下型
32 下型本体部
34 下型排出部
36 抑染剤排出孔
38 染料排出孔
40 抑染剤排出路
42 染料排出路
44 抑染剤
50 染色工程の上型
52 染料流通路
54 染料用隔壁
56 ガス流通路
58 ネジ
60 段染め糸
70 車両用シート
72 ステッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィラメント糸の段染めを行う染色工程を有し、前記フィラメント糸の段染めを行う前、あるいは、前記フィラメント糸の段染めを行うときに、互いに異なる色が付される領域と領域との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤を付して、段染め時において隣接する色同士の混ざり具合を制御したことを特徴とする段染め糸の製造方法。
【請求項2】
前記フィラメント糸の抑染剤が付された部分に圧力を加えた状態で、フィラメント糸の段染めを行うことを特徴とする請求項1に記載の段染め糸の製造方法。
【請求項3】
フィラメント糸の互いに異なる色が付される領域と領域との間に、一方の領域に付与した染料が他方の領域に浸透するのを抑える抑染剤を付した後、あるいは、前記抑染剤を付すと同時に、段染めされていることを特徴とする段染め糸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−87373(P2013−87373A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226724(P2011−226724)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【出願人】(399124303)丸糸株式会社 (3)
【Fターム(参考)】