説明

殺菌剤

【課題】食品や食品用物品を安全かつ効果的に殺菌し得る殺菌剤を提供すること。
【解決手段】エタノールとポリグリセリンラウリン酸エステルを含む殺菌剤。前記ポリグリセリンラウリン酸エステルは、ラウリン酸テトラグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリド、およびラウリン酸ヘキサグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品および食品用物品の殺菌に使用し得る殺菌剤、特に、食品および食品用物品の表面に残存した細菌等の殺菌に使用し得る殺菌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エタノールは、安全かつ高い殺菌効果を有するため、食品、食品用物品(例えば食器等)の殺菌に広く用いられている。しかし、エタノール単独では殺菌効果が不十分であるため、各種添加剤と併用することが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、グリシン、スレオニン等のアミノ酸とエタノールを併用すること、特許文献2には、リゾチーム及び低級脂肪酸モノエステルとエタノールを併用することが開示されている。また、特許文献3には、リモネン等の香料と併用した例、特許文献4には、乳酸、酢酸と併用した例、特許文献5にはスレオニン、グリセリン脂肪酸エステルと併用した例が開示されている。
【特許文献1】特開昭60−27371号公報
【特許文献2】特公平6−6049号公報
【特許文献3】特開昭62−111675号公報
【特許文献4】特開昭56−140878号公報
【特許文献5】特開昭59−227281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、上記公報記載のようにエタノールに各種添加剤を添加し、その殺菌力や防腐力を高めることが検討されてきた。しかし、近年、夏場に限らず細菌による食中毒が問題となることが多く、より高い殺菌効果を発揮する殺菌剤が求められていた。
そこで、本発明は、食品や食品用物品を安全かつ効果的に殺菌し得る殺菌剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
エタノールは高い殺菌効果を有するが、物品表面への展延性(表面への広がり)に乏しい。そこで、本発明者らは、エタノールの展延性を改善すれば、エタノールを物品表面に広範に行き渡らせることができ、表面に残存する細菌等を効果的に殺菌できると考えた。本発明者らは、上記知見に基づき更に検討を重ねた結果、特定のポリグリセリンラウリン酸エステルが、エタノールの展延性を著しく向上させることを見出した。
本発明は、以上の知見に基づき完成された。
【0006】
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[1] エタノールとポリグリセリンラウリン酸エステルを含む殺菌剤であって、前記ポリグリセリンラウリン酸エステルが、ラウリン酸テトラグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリド、およびラウリン酸ヘキサグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種である前記殺菌剤。
[2] 前記ポリグリセリンラウリン酸エステルが、ラウリン酸ペンタグリセリドである[1]に記載の殺菌剤。
[3] エタノール30〜90質量%およびポリグリセリンラウリン酸エステル0.01〜3質量%を含む[1]または[2]に記載の殺菌剤。
[4] エタノール40〜80質量%を含む[3]に記載の殺菌剤。
[5] アミノ酸、有機酸ならびにその塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を更に含む[1]〜[4]のいずれかに記載の殺菌剤。
[6] 食品または食品用物品の殺菌に使用される[1]〜[5]のいずれかに記載の殺菌剤。
[7] 食品または食品用物品の表面の殺菌に使用される[6]に記載の殺菌剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の殺菌剤によれば、食品や食品用物品の表面に残存した細菌等を効果的に殺菌することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の殺菌剤は、エタノールとポリグリセリンラウリン酸エステルを含む殺菌剤である。
【0009】
本発明の殺菌剤に含まれるポリグリセリンラウリン酸エステルは、ラウリン酸テトラグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリド、およびラウリン酸ヘキサグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種である。中でも、エタノール水溶液の展延性をより一層改善するためには、前記ポリグリセリンラウリン酸エステルとして、ラウリン酸ペンタグリセリドを用いることが好ましい。上記ポリグリセリンラウリン酸エステルは、いずれも市販品として入手可能である。なお、本発明では、二種以上のポリグリセリンラウリン酸エステルを併用することも可能である。
【0010】
本発明の殺菌剤は、エタノールを30〜90質量%含むことができる。より好ましくは40〜80質量%、更に好ましくは45〜75質量%である。エタノールの濃度が上記範囲内であれば、高い殺菌効果を発揮し得る。一方、本発明の殺菌剤中のポリグリセリンラウリン酸エステルの含有量は、0.01〜3質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜1質量%である。0.01質量%を下回ると展延性が低下し、その結果殺菌対象物表面の殺菌力が低下するおそれがある。一方、3質量%を越えると食品の味に影響を与えたり食品用物品表面が白っぽくなることがある。
【0011】
本発明の殺菌剤は、エタノール水溶液中に前記ポリグリセリンラウリン酸エステルを添加、混合することで容易に得ることができる。更に、本発明の殺菌剤は、上記成分以外に水を含むことができ、更には食品用殺菌剤に通常用いられる成分、例えば、アミノ酸、有機酸ならびにその塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むこともできる。その添加量は適宜設定し得る。添加可能な成分の具体例としては、グリシン、スレオニン、クエン酸、乳酸、グルコン酸、グルコノデルタラクトン等を挙げることができる。
【0012】
本発明の殺菌剤は、食品および食品用物品の殺菌に使用することができる。特に、本発明の殺菌剤は物品表面への展延性に優れるため、表面に残存した細菌等の殺菌に好適である。使用する殺菌剤の量は、殺菌対象物の汚染の程度等を考慮して適宜設定することができる。例えば、後述するように本発明の殺菌剤を殺菌対象物の表面に噴霧する場合、噴霧量は、1cm3当たり0.01〜0.1ml程度とすることができる。
【0013】
本発明の殺菌剤を食品用物品の表面の殺菌に使用する場合、殺菌方法としては、
(1)本発明の殺菌剤に殺菌対象物品を浸漬する方法;
(2)本発明の殺菌剤を殺菌対象物品表面に噴霧する方法;
(3)本発明の殺菌剤を含浸した布等で、殺菌対象物品の表面を拭き取る方法
等を用いることができる。前記食品用物品としては、食品製造用機材、調理用機材、食器等を挙げることができる。
【0014】
本発明の殺菌剤を食品表面の殺菌に使用する場合にも、前述の(1)〜(3)等の方法を用いることができる。例えば、表面の構造が複雑な食品(イチゴ等)の場合には、前記(1)または(2)に記載の方法を用いることで食品表面を効果的に殺菌できる。
【0015】
本発明の殺菌剤は、食品や食品用物品の表面に付着、残存する各種細菌等の殺菌に用いることができる。具体的には、大腸菌、黄色ブドウ球菌、乳酸菌等、および各種酵母等の殺菌に用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例により更に説明する。但し、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0017】
[実施例1]
まな板の殺菌
酵母(Hansenula anomala)の104/ml程度の懸濁液200μlをまな板に塗抹後風乾した。酵母を塗抹したまな板表面(面積100cm2)に対し、下記製剤2mlを噴霧した後風乾した。その後、まな板表面の酵母を滅菌綿棒で拭き取り、5mlの滅菌水により集菌した。この滅菌水を標準寒天培地に塗抹し、培養後コロニー計数により生菌数を測定した。
製剤組成
エタノール 57.2質量%
ラウリン酸ペンタグリセリド 0.03質量%
(太陽化学製サンソフトA−121E)
水 残部
【0018】
[比較例1]
ラウリン酸ペンタグリセリドをラウリン酸デカグリセリドに代えた以外は実施例1と同様の製剤を用い、実施例1と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0019】
[比較例2]
ラウリン酸ペンタグリセリドをカプリン酸モノグリセリドに代えた以外は実施例1と同様の製剤を用い、実施例1と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0020】
[比較例3]
ラウリン酸ペンタグリセリドを添加しない以外は実施例1と同様の製剤を用い、実施例1と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0021】
実施例1および比較例1〜3について、殺菌試験を3回行い平均値を求めた。結果を表1に示す。対照として、殺菌処理を行わなかったまな板上の生菌数も示す。実施例1の製剤は、まな板表面の細菌に対し、比較例1〜3の製剤よりもはるかに高い殺菌効果を示した。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例2]
ホイッパー(泡立て器)の殺菌
大腸菌(E.coli)の104/ml程度の懸濁液50mlにホイッパーを浸漬後、風乾した。このホイッパーに対し、下記製剤2mlを噴霧した後風乾した。滅菌綿棒でホイッパー表面を拭き取り、5mlの滅菌水に集菌した。この滅菌水を標準寒天培地に塗抹し、培養後コロニー計数により生菌数を測定した。
製剤組成
エタノール 57.2質量%
ラウリン酸ペンタグリセリド 0.03質量%
(太陽化学製サンソフトA−121E)
水 残部
【0024】
[比較例4]
ラウリン酸ペンタグリセリドをラウリン酸デカグリセリドに代えた以外は実施例2と同様の製剤を用い、実施例2と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0025】
[比較例5]
ラウリン酸ペンタグリセリドをカプリン酸デカグリセリドに代えた以外は実施例2と同様の製剤を用い、実施例2と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0026】
[比較例6]
ラウリン酸ペンタグリセリドをラウリン酸モノグリセリドに代えた以外は実施例2と同様の製剤を用い、実施例2と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0027】
[比較例7]
ラウリン酸ペンタグリセリドを添加しない以外は実施例2と同様の製剤を用い、実施例2と同様の方法で殺菌試験を行った。
【0028】
実施例2および比較例4〜7について、殺菌試験を3回行い平均値を求めた。結果を表2に示す。対照として、殺菌処理を行わなかったホイッパー表面の生菌数も示す。実施例2の製剤は、ホイッパー表面の細菌に対し、比較例4〜7の製剤よりも優れた殺菌効果を示した。この結果から、本発明の殺菌剤は、ホイッパーのような複雑な構造を有する物品の殺菌にも好適であることがわかる。
【0029】
【表2】

【0030】
[実施例3]
スプーンの殺菌
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)の104/ml程度の懸濁液50μlをスプーンに塗抹後風乾した。実施例2で使用した製剤2mlをスプーン表面に噴霧した後、風乾した。滅菌綿棒でスプーン表面を拭き取り、5mlの滅菌水に集菌した。この滅菌水を標準寒天培地に塗抹し、培養後コロニー計数により生菌数を測定した。
【0031】
[比較例8]
比較例4で使用した製剤を用い、実施例3と同様の殺菌試験を行った。
【0032】
[比較例9]
比較例5で使用した製剤を用い、実施例3と同様の殺菌試験を行った。
【0033】
[比較例10]
比較例6で使用した製剤を用い、実施例3と同様の殺菌試験を行った。
【0034】
[比較例11]
比較例7で使用した製剤を用い、実施例3と同様の殺菌試験を行った。
【0035】
実施例3および比較例8〜11について、殺菌試験を3回行い平均値を求めた。結果を表3に示す。対照として、殺菌処理を行わなかったスプーン表面の生菌数も示す。実施例3の製剤は、スプーン表面の細菌に対し、比較例8〜11の製剤よりも優れた殺菌効果を示した。
【0036】
【表3】

【0037】
製剤の展延性試験
エタノール57.2質量%(目視を容易にするため色素を添加した)にラウリン酸ペンタグリセリド、ラウリン酸デカグリセリド、カプリン酸デカグリセリド、またはラウリン酸モノグリセリド0.03質量%添加し(残部は水)、まな板上に各150μl滴下した。それとは別に、上記添加剤を添加しなかったエタノール水溶液もまな板上に滴下した。このまな板の写真を図1に示す。図1から、ラウリン酸ペンタグリセリドを添加したエタノール水溶液は、まな板表面に広範に広がり、高い展延性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の殺菌剤は、食品および食品用物品の表面の殺菌に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】展延性試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールとポリグリセリンラウリン酸エステルを含む殺菌剤であって、前記ポリグリセリンラウリン酸エステルが、ラウリン酸テトラグリセリド、ラウリン酸ペンタグリセリド、およびラウリン酸ヘキサグリセリドからなる群から選ばれる少なくとも一種である前記殺菌剤。
【請求項2】
前記ポリグリセリンラウリン酸エステルが、ラウリン酸ペンタグリセリドである請求項1に記載の殺菌剤。
【請求項3】
エタノール30〜90質量%およびポリグリセリンラウリン酸エステル0.01〜3質量%を含む請求項1または2に記載の殺菌剤。
【請求項4】
エタノール40〜80質量%を含む請求項3に記載の殺菌剤。
【請求項5】
アミノ酸、有機酸ならびにその塩およびエステルからなる群から選ばれる少なくとも一種を更に含む請求項1〜4のいずれか1項に記載の殺菌剤。
【請求項6】
食品または食品用物品の殺菌に使用される請求項1〜5のいずれか1項に記載の殺菌剤。
【請求項7】
食品または食品用物品の表面の殺菌に使用される請求項6に記載の殺菌剤。

【図1】
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