説明

毒素検出方法

【課題】黄色ブドウ球菌が有するパントンバレンタインロイコシジン毒素に対する抗体、該抗体を用いた前記毒素の検出方法およびキット、ならびにパントンバレンタインロイコシジン毒素に対する抗体を含むPVLを有する黄色ブドウ球菌を治療するための医薬組成物の提供。
【解決手段】パントンバレンタインロイコシジンFに結合性を有し、LukDおよび/またはHlgBに交差反応性を示さない抗体、ならびにパントンバレンタインロイコシジンSに結合を有し、LukE、HlgCおよびHlgAの少なくとも1つに交差反応性を示さない抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌が産生する抗原性物質、特にタンパクまたはペプチドあるいはタンパク性毒素などに特異的な抗体およびこれを使用する毒素の検出方法に関する。
【0002】
より具体的には、黄色ブドウ球菌が産生するタンパク性毒素に対する抗体に関する。
【0003】
さらに具体的には本発明は黄色ブドウ球菌が産生する2成分性毒素タンパクであるパントンバレンタインロイコシジン(以下、PVL)に特異的な抗体に関する。
【0004】
さらに該抗体を使用する黄色ブドウ球菌が産生する毒素タンパクであるPVLの検出方法および検出用キットに関する。
【0005】
また、人工的な該抗体を抗毒素ワクチンまたは抗毒素中和抗体として使用する方法に関する。さらに具体的には抗PVL抗体を投与することによりPVL感染を予防する方法および抗PVL抗体を投与することによるPVL感染を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0006】
黄色ブドウ球菌は、通性嫌気性のグラム陽性球菌で、自然界に広く分布し、院内感染や日和見感染の原因となる微生物であり、腎盂炎、膀胱炎、膿迦疹、限局性膿症、骨髄炎、敗血症や、嘔吐を伴う食中毒等の起炎菌として重視されている。
【0007】
また、黄色ブドウ球菌の中に、染色体変異により多種の抗生物質に対して高度の耐性を有するメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が存在する。このMRSAは、高齢者や新生児、ガン患者等のような抵抗力の衰えた人の体内で増殖し、肺炎や敗血症等を引き起こし、死亡させることがある。
【0008】
1961年にイギリスでMRSAが報告されて以来、MRSAは院内感染の起因菌と知られてきた。しかし1981年、アメリカで院内感染でないMRSA感染症(市中感染型MRSA)が報告され(非特許文献1を参照のこと)、これ以来、病院外の感染症からもMRSAが分離されることが世界中で数多く報告されるようになっている。
【0009】
市中MRSAの細菌学的特徴として、白血球崩壊毒素の一種であるPVLをコードする遺伝子の高い保有率が知られている(非特許文献2を参照のこと)。
【0010】
PVL毒素の特徴としては、パントンバレンタインロイコシジンF(以下、LukF-PV)とパントンバレンタインロイコシジンS(以下、LukS-PV)の2つのタンパクからなる2成分性毒素であり、単独では毒素活性はないが、2成分が重合して作用することにより白血球系細胞に特異的な崩壊活性が現れる。
【0011】
1997年から1999年にかけてアメリカミネソタとノースダコタでPVL遺伝子を保有する市中感染型MRSA(Community-acquired MRSA)による小児の肺炎・敗血症での死亡例が立て続けに報告(非特許文献3を参照のこと)された。市中感染型MRSAからのPVL検出の重要性が注目され、さらにMRSAに対してだけでなく黄色ブドウ球菌からのPVL検出の重要性が注目されるようになってきている。
【0012】
現在、PVL検出法としてPCR法によるPVL遺伝子検出が実施されている(非特許文献4及び5を参照のこと)。
【0013】
この他、G.PREVOSTらは、PVL毒素に対する抗体を作製し、これらの抗体を用いPVL毒素の免疫学的検出を実施した例を報告している(非特許文献6を参照のこと)。
【0014】
また、現在、抗生物質や抗菌剤などで黄色ブドウ球菌を制御する方法はあるが、黄色ブドウ球菌が産生するPVLによる障害を直接予防、治療する方法はまだ確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】アメリカCDC(Centers for Disease Control)「Community-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus infections--Michigan.」Morbidity and Mortality Weekly Report ,1981;Vol30,p185-187
【非特許文献2】伊藤輝代 他 著 「市中感染型MRSAの遺伝子構造と診断(細菌の知見)」 感染症学雑誌 2004年6月 第78巻 第6号 p459-469
【非特許文献3】アメリカCDC(Centers for Disease Control)「Four pediatric deaths from cimmunity-acquired methicillin-resistant Staphylococcus aureus.」Morbidity and Mortality Weekly Report ,1999;Vol48,p707-710
【非特許文献4】Lina G,Piemont,Godial-Gamot F他 著 「Involvement of Panton-Valentine leukocidine-producing Staphylococcus aureus in Primary skin infections and pneumonia」 Clinical infectious Diseases,1999;Vol29,p1128-1132
【非特許文献5】山本達男 他 著、「Panton-Valentineロイコシジン陽性の市中メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の出現」、日本化学療法学会雑誌、2004年11月、Vol.52,p635-653
【非特許文献6】A.Gravet、G.Prevostら著 「Characterization of a novel structural member,LukE-LukD,of the bi-component staphylococcal leucotoxins family」 FEBS Letters,1998,Vol436,p202-208
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
現在PVL検出法として実施されているPCR法でPVL遺伝子を増幅して検出する方法は、設備と熟練した技術者を必要とする上、結果がでるまで時間がかかり迅速性に欠けるという問題点を含んでいる。また、免疫学的手法として報告されている方法は特異性について問題点を含んでいることなど、その測定方法に対する信頼性に問題がある。
【0017】
本発明は、これらの問題を解消し、LukF-PVまたはLukS-PVにそれぞれ特異的な抗体を提供し、1種または2種の標的物質を特異的に検出できる測定方法、および該測定キットを提供することを課題とする。
【0018】
また、抗PVL抗体を提供し、抗PVL抗体を投与することによりPVL感染を予防する方法および抗PVL抗体を投与することでPVL感染を防止し、PVLによる障害を予防または治療する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
PVLはLukF-PVとLukS-PVの2つのタンパクによって構成される2成分性毒素である。
LukF-PVを抗原とし、ウサギまたはマウスに免疫してLukF-PVに対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を得ることができる。またLukS-PVを抗原としてウサギまたはマウスに免疫してLukS-PVに対するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を得ることができる。
【0020】
PVLの上記成分をコードする遺伝子に類縁の遺伝子が知られており、PVLバリアントをコードする遺伝子ロイコシジンDおよび遺伝子ロイコシジンE、並びにγ-ヘモリジンをコードする遺伝子γ-ヘモリジンA、遺伝子γ-ヘモリジンBおよび遺伝子γ-ヘモリジンC等がある(以下、各遺伝子がコードするタンパクをそれぞれ、LukD、LukE、HlgA、HlgBまたはHlgCと記載する)。これまでのLukF-PVまたはLukS-PVに対する抗体を用いる検出法では、LukF-PVまたはLukS-PVを特異的に検出しているかどうか不明であった。
【0021】
上記の課題について本発明者は鋭意検討の結果、上記LukF-PVまたはLukS-PVを免疫して得られたポリクローナル抗体について、遺伝子学的に類縁のタンパク質(LukF-PVの類縁タンパクであるLukD, HlgBと、LukS-PVの類縁タンパクであるLukE, HlgC, HlgA)に対する反応性を吸収除去することによって、LukF-PVまたはLukS-PVにそれぞれ特異的な抗体を作製できることを見出した。
【0022】
また、LukF-PVまたはLukS-PVを免疫して得られたモノクローナル抗体については、遺伝子学的に類縁のタンパク質(LukF-PVの類縁タンパクであるLukD, HlgBと、LukS-PVの類縁タンパクであるLukE, HlgC, HlgA)に対する反応性が認められないことを見出した。
【0023】
すなわち、本発明はLukF-PVまたはLukS-PVにそれぞれ特異的な抗体を提供すること、およびそれら抗体を用いることで特異的かつ高感度な該物質の測定キットを提供することである。
【0024】
上記の特異抗体を標識化し利用する標識イムノアッセイ法や特異抗体を利用した抗原抗体凝集反応、イムノクロマトグラフィー法などの免疫学的測定法によりLukF-PVの検出および/またはLukS-PVの検出を行うことで、特異的かつ高感度にPVL(LukF-PV、LukS-PV)を検出することが可能となった。
【0025】
また、本発明者は鋭意検討の結果、PVLの白血球崩壊毒素活性を阻害する能力を有する抗体を見出した。当該抗体を投与することによりPVL感染を予防すること、および抗PVL抗体を投与することでPVL感染を治療することが可能となった。
【0026】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1] パントンバレンタインロイコシジンFに結合性を有し、LukDおよび/またはHlgBに交差反応性を示さない抗体。
[2] パントンバレンタインロイコシジンSに結合性を有し、LukE、HlgCおよびHlgAの少なくとも1つに交差反応性を示さない抗体。
[3] パントンバレンタインロイコシジンの白血球崩壊毒素活性を阻害する能力を有する抗体。
[4] パントンバレンタインロイコシジンFに結合性を有し、白血球崩壊毒素活性を阻害する能力を有し、かつLukDおよび/またはHlgBに交差反応性を示さない抗体。
[5] パントンバレンタインロイコシジンSに結合性を有し、白血球崩壊毒素活性を阻害する能力を有し、かつLukE、HlgCおよびHlgAの少なくとも1つに交差反応性を示さない抗体。
[6] パントンバレンタインロイコシジン毒素中和抗体である[3]〜[5]のいずれかの抗体。
[7] [1]〜[5]のいずれかの抗体を含む、パントンバレンタインロイコシジン検出用キット。
[8] [1]〜[5]のいずれかの抗体を黄色ブドウ球菌培養物と接触させることを含むパントンバレンタインロイコシジン毒素を検出する方法。
[9] [3]〜[5]のいずれかの抗体の少なくとも1つの抗体を含む医薬組成物。
[10] [3]〜[5]のいずれかの抗体の少なくとも1つの抗体を含む抗パントンバレンタインロイコシジン毒素ワクチン。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、これまで特異的かつ高感度な検出が困難であり、しかも結果がでるまでかなりの時間を必要とした黄色ブドウ球菌の産生するPVL毒素タンパクを、特異性に優れ、高感度かつ簡便に、高い信頼度で検出し得る方法を提供する。さらに本発明は黄色ブドウ球菌の産生するPVL毒素タンパクの検出用キットを提供する。病原因子が毒素の場合その毒素タンパクを検出することが、重要となる。遺伝子検出法では標的遺伝子が検出されても、タンパク質発現の可能性を情報として得ることができるが、実際に発現しているかどうかはわからない。本発明により該毒素タンパクを直接検出することが可能となり、タンパク質レベルで病原因子としての情報を提供することが可能となった。
【0028】
また、抗PVL抗体を提供し、抗PVL抗体を投与することによりPVL感染を予防する方法および抗PVL抗体を投与することによるPVL感染を治療する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に使用したPVL遺伝子保有黄色ブドウ球菌株名、PVL遺伝子非保有黄色ブドウ球菌株名を示した図である。
【図2A】検体培養上清中から本発明試薬によりPVLを検出した結果を示した図である。各感作ラテックスとの反応による凝集像が確認される終末価も示した。
【図2B】検体培養上清中から本発明試薬によりPVLを検出した結果を示した図であり、図2Aの続きである。各感作ラテックスとの反応による凝集像が確認される終末価も示した。
【図3】本発明法によるPVL検出結果とPCR法によるPVL遺伝子検出結果との相関性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の方法を詳しく説明する。
抗体
本発明の抗体としては、例えばウサギ、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギ等のほ乳類動物やニワトリなどを用いて作製されたポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が挙げられる。また、本発明は、ヒトモノクローナル抗体、ヒトポリクローナル抗体、組換えヒトモノクローナル抗体等のヒト抗体やヒト化抗体をも包含する。ヒト化抗体とは、ヒト型キメラ抗体およびヒト型CDR(Complementarity Determining Region; 相補性決定領域;以下、CDRと記す)移植抗体を包含する。ヒト抗体は、遺伝子工学的、細胞工学的、発生工学的な技術により作製されたヒト抗体ファージライブラリーおよびヒト抗体産生トランスジェニック動物から得られる抗体等を含む。ヒト化抗体およびヒト抗体は公知の方法により作製することができる。さらにモノクローナル抗体は、完全抗体であっても、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv等の抗原結合部位を有する断片であってもよい。
【0031】
免疫抗原の調製
PVL産生黄色ブドウ球菌より公知の方法(Infection AND Immunity,Oct,1995,4121-4129)によりPVLを免疫抗原として精製することができる。
【0032】
PVLは2つのタンパク質画分[詳しくは陽イオン交換クロマトグラフィーで分離した場合に早く溶出されるF画分(fast-eluted)のLukF-PVおよび遅く溶出されるS画分(slow-eluted)のLukS-PV]からなり、これらのLukF-PVおよびLukS-PVは単独では不活性であるが、両タンパク質が協同して活性型となり、ヒトやウサギの多核白血球に対する特異的な細胞崩壊毒性が現れる特徴を有する。
【0033】
また、前記以外に遺伝子工学的手法により作製した組換えLukF-PVや組換えLukS-PVを免疫抗原として用いることもできる。
【0034】
さらに、前記で得られた免疫抗原をトリプシンなどのプロテアーゼで処理して得られるペプチドフラグメントや合成ペプチドを免疫抗原として用いることもできる。
【0035】
ところで、PVLはヒトやウサギの多核白血球に特異的に細胞崩壊毒性を示すという特徴を有するが、白血球崩壊性を有しPVLに相同性の高いタンパクとして、PVLバリアントであるLukD、LukE(FEBS Lett,436,202-208(1998))や弱い白血球崩壊性と赤血球崩壊性を示すγ-ヘモリジン成分HlgB、HlgC、赤血球崩壊性に関与するγ-ヘモリジン成分HlgA(Infection and Immunity,Oct.1995,4121-4129)などが知られている。これら相同性の高いタンパクは上記と同様の手法で得ることができ、本発明抗体の反応特異性を確認するために使用することができる。
【0036】
抗体の作製
1.ポリクローナル抗体
本発明の抗LukF-PVに特異的なポリクローナル抗体および抗LukS-PVに特異的なポリクローナル抗体は、以下の方法による作製することができる。
【0037】
(1)免疫工程
ウサギ、マウス、ラットなどの哺乳動物を、上記の精製LukF-PVおよび/または精製LukS-PVを抗原として用いて免疫する。投与手段としては、腹腔内注射、静脈注射、皮下注射などが採用され、場合により皮内注射も採用される。追加免疫を数回繰り返し、最終免疫後3〜10日目に哺乳動物の採血を行い、抗血清(ポリクローナル抗体)を得る。
(2)吸収抗体の作製
上記工程によりLukF-PVおよび/またはLukS-PVを用いて抗血清を得た後、それら抗血清と類縁タンパク(LukF-PVの類縁タンパクであるLukD, HlgBと、LukS-PVの類縁タンパクであるLukE, HlgC, HlgA)とを混合して、類縁タンパクと反応する抗体を吸収除去し、目的のタンパク質に対して特異的なポリクローナル抗体(吸収抗体)を作製することができる。この吸収操作によりLukF-PVに特異的なポリクローナル抗体およびLukS-PVに特異的なポリクローナル抗体を得ることができる(以下、これら抗体を特異的ポリクローナル抗体と記載する)。
【0038】
2.モノクローナル抗体
本発明のLukF-PVを特異的に認識し結合するモノクローナル抗体(以下、抗LukF-PVモノクローナル抗体)およびLukS-PVを特異的に認識し結合するモノクローナル抗体(以下、抗LukS-PVモノクローナル抗体)は、ケーラーとミルステインの方法(Kohler,G.and Milstein,C.,Nature,256,495-497,1975)等の公知の方法により作製し得る。
【0039】
前記の精製LukF-PVまたは精製LukS-PVを免疫原として用いることができる。免疫原は、市販のフロイント完全アジュバント、フロイント不完全アジュバント、BCG、水酸化アルミニウムゲル、百日咳ワクチン等の適当なアジュバントと共に投与するのが望ましい。また、被免疫動物としては、マウス、ラット、モルモット等が利用可能であるが、通常はマウスが汎用される。マウスの場合、3〜10週齢、好ましくは4週齢のマウスを用いる。調製した免疫原は、動物の皮下、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮内等いずれのルートを通しても投与することができる。免疫の間隔は特に限定されないが、例えば1〜2週間隔で、2〜5回免疫するのが望ましい。また、1回当たりの投与量も限定されないが、例えば上述のように調製した免疫原を適当なアジュバントと混合し、数十μl〜数百μlの量を投与すればよい。
【0040】
最終免疫後、3〜10日後に、被免疫動物から抗体産生細胞を採取する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、胸腺細胞、末梢血細胞等が挙げられるが、脾臓細胞を用いるのが一般的である。被免疫動物から脾臓、リンパ節、胸腺、末梢血等を摘出または採取し、これらの組織を破砕する。さらにこの破砕物をPBS等の緩衝液またはDMEM、RPMI-
1640、E-RDF等の培地に懸濁した後に、200〜250μmのステンレスメッシュ等を用いてろ過し、遠心分離することにより目的とする抗体産生細胞を調製することができる。
【0041】
このようにして調製した抗体産生細胞を骨髄腫細胞と細胞融合させる。骨髄腫細胞としては、当業者が入手可能な株化細胞を用いることができる。骨髄腫細胞は、一般に被免疫動物と同種の動物より得られたものを用いるが、異種間でも可能な場合がある。使用する細胞株は、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態ではヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン培地(HAT培地)等の選択培地中で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態のみで生存できる性質を有するものが好ましい。一般的には、8-アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン-グアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼを欠損し(HGPRT-)、HAT培地に生育できない。骨髄腫細胞として、Sp2/O-Ag14[ATCC CRL-1581;Nature,276,271(1978)]、P3X63Ag8[ATCC TIB-9;Nature、265、495-497(1978)]、P3X63 Ag8U.1(P3U1)[ATCC CRL-1580;Current Topics in Microbiology and Immunology、81、1-7(1978)]、P3X63Ag8.653[ATCC TIB-18;European J.Immunology、6,511-519(1976)]、P2/NSI/1-Ag4-1[ATCC CRL-1581;Nature、276、269-270(1978)]等のマウス骨髄腫細胞株が挙げられる。
【0042】
細胞融合は、MEM、DMEM、RPMI-1640、E-RDF等の動物細胞培養用培地中で107〜108細胞/mlの骨髄腫細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:10で、例えば1:5の割合で、融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜3分間細胞同士を接触させることにより効率的に行うことができる。融合促進剤としては、平均分子量1000〜6000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等を用いることができる。また、センダイウイルス等の融合ウイルスを用いて細胞融合を行うこともできる。さらに、エレクトロポーレーション等の電気刺激を利用した方法によっても細胞融合を行うことができる。エレクトロポーレーションを利用した細胞融合装置は市販のものが利用可能である。
【0043】
細胞融合処理後の細胞から、HAT培地等の選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法によりハイブリドーマを選別することができる。例えば、融合した細胞の懸濁液をHATサプリメント(Gibco BRL)およびインターロイキン-6(1unit/mL)を添加したイスコフ培地(IMDM)に103〜107細胞/mLとなるよう希釈後、96ウェルの細胞培養用マイクロプレートに102〜106細胞/ウェルの細胞密度でまき、各ウェルにHAT培地等の選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換しながら細胞培養を行い、ハイブリドーマを選別する。
【0044】
骨髄腫細胞として、8-アザグアニン耐性株、選択培地としてHAT培地を用いた場合は、未融合の骨髄腫細胞は培養後約7〜10日目に死滅し、正常細胞である抗体産生細胞もインビトロでは長く生存できず、培養後約7〜10日目に死滅する。その結果、培養6〜10日前後から生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0045】
増殖してきた細胞の培養上清について、LukF-PVまたはLukS-PVに対する抗体の産生があるか否かを検定し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする。ハイブリドーマのスクリーニングは通常の方法により行うことができる。例えば、ハイブリドーマが生育したウェルに含まれる培養上清の一部を採集し、酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)等により目的とする抗体が含まれるか否か検定することができる。例えば、96ウェルマイクロタイタープレートに免疫原として使用した精製LukF-PVまたは精製LukS-PVを各々吸着させた96ウェルマイクロタイタープレートにモノクローナル抗体を含む培養上清を添加して抗原と反応させる。
【0046】
次いで、結合した特異的抗体に酵素標識抗マウス免疫グロブリン抗体を反応させ、各ウェルに酵素基質を添加して発色させ、培養上清中のモノクローナル抗体が固相化した精製LukF-PVまたは精製LukS-PVと反応するかどうかを検定する。この際、酵素としてβ-D-ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、グルコースオキシダーゼ等が用いられる。発色は、アッセイ系に応じた信号読取装置、例えばマイクロプレートリーダーを用いて測定することができる。
【0047】
抗LukF-PVモノクローナル抗体について1次スクリーニングとしてLukF-PVと反応し結合するモノクローナル抗体を含む培養上清を選別し、さらに2次スクリーニングとして類縁タンパクと反応しないモノクローナル抗体を含む培養上清を選別し、LukF-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることができる。
【0048】
LukF-PVとの反応性は、精製LukF-PVをポリアクリルアミドゲル電気泳動により分離し、これにモノクローナル抗体を反応させ、標識二次抗体による発色を見るイムノブロット法(ウエスタンブロット法)や酵素免疫測定法(EIA、ELISA)等により確認することができる。
【0049】
抗LukS-PVモノクローナル抗体についても同様にLukS-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが可能である。
【0050】
このようにして、選別されたウェル中のハイブリドーマから目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをクローニングする。ハイブリドーマのクローニングは、限界希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができ、最終的にLukF-PVまたはLukS-PVを特異的に認識し、結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得することができる。
【0051】
LukF-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマまたはLukS-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマから通常の細胞培養法により、抗LukF-PVモノクローナル抗体または抗LukS-PVモノクローナル抗体を採取することができる(以下、これら抗体を特異的モノクローナル抗体と記載する)。
【0052】
細胞培養法においては、抗LukF-PVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマまたは抗LukS-PVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを10〜20%仔ウシもしくはウシ胎児血清を含有させたIMDM、RPMI-1640、MEM、E-RDFまたは無血清培地等の動物細胞培養用培地中で、通常の培養条件(例えば、37℃、5%CO2濃度)で2〜14日間培養し、その培養上清から抗体を取得することができる。また腹水形成法においては、骨髄腫細胞由来の動物と同種の動物の腹腔内にあらかじめプリスタン(2、6、10、14-テトラメチルペンタデカン)等の鉱物油を投与し、その後1×107〜1×109細胞、好ましくは5×107〜1×108抗LukF-PVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマまたは抗LukS-PVモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを腹腔内に投与し、ハイブリドーマを大量に増殖させる。1〜4週間後、好ましくは2〜3週間後に腹水または血液を採集して抗体を取得することができる。
【0053】
抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、DEAEセルロース等の陰イオン交換体を利用するイオン交換クロマトグラフィー、分子量や構造によってふるいわける分子ふるいクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜に選択して、またはこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0054】
このようにして、本願発明のモノクローナル抗体を得ることができる。モノクローナル抗体は、完全抗体であっても、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv等の抗原結合部位を有する断片であってもよい。
【0055】
また、本発明の抗体は本発明の抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマから単離し、遺伝子工学的手法により組換えタンパク質として作製することもできる。特に、ヒト化抗体やヒト抗体の作製には遺伝子工学的手法による作製が適しており、医薬として用いる抗体を大量に作製することができる。
【0056】
本発明の抗体は、上記方法により得られた、LukD、LukE、HlgB、HlgCおよびHlgAの少なくとも1つと、好ましくはすべてと反応しないPVLに対する抗体である。また、本発明の抗体はLukF-PVに結合性を有し、LukDおよび/またはHlgBに交差反応性を示さない抗体であり、またはLukS-PVに結合を有し、LukE、HlgCおよびHlgAの少なくとも1つに交差反応性を示さない抗体である。
【0057】
3.抗体の標識
上記の方法で得られた抗体を検出試薬に用いるために標識を行う場合、標識物質は限定されない。具体的には、酵素、放射性同位元素、蛍光色素、ビオチン、染料ゾルおよび金コロイドやラテックス粒子等の不溶性担体を用いることができる。また、標識は公知の方法で行うことができる。
【0058】
4.PVLの検出
このようにして得られたPVLを構成する2成分LukF-PVまたはLukS-PVに特異的に反応する抗体を用いて、黄色ブドウ球菌培養上清からLukF-PVおよび/またはLukS-PVを検出することが可能である。
【0059】
LukF-PV、LukS-PVの検出はイムノブロット法、酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、放射線免疫測定法(RIA)、蛍光抗体法、凝集反応を利用した方法、イムノクロマトグラフィー法等の当業者に知られた方法により行うことができる。この際、試料として、例えば各種臨床検査試料由来の臨床分離菌である黄色ブドウ球菌の培養上清等の培養物を用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0060】
例えば、LukF-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を感作した担体を用いて凝集法やEIAによりLukF-PVを検出することができる。LukS-PVについても同様に検出することができる。
【0061】
凝集法の場合、これらの特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体を感作する担体としては、不溶性で、非特異的な反応を起こさず、かつ安定である限り、いかなる担体を使用してもよい。例えば、ラテックス粒子、ベントナイト、コロジオン、カオリン、固定羊赤血球等を使用することができるが、ラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子としては、例えば、ポリスチレンラテックス粒子、スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス粒子、ポリビニルトルエンラテックス粒子等を使用することができるが、ポリスチレンラテックス粒子を使用するのが好ましい。ラテックス粒子を使用する場合には、特別な処理をしなくても容易に抗体を担体に感作できるとともに、試料と担体の反応により生じる凝集像が明瞭となり、試料の担体に対する反応性を容易かつ精度よく判別できる点でさらに有利である。
【0062】
特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体を担体に感作する方法は、特に限定されない。例えば、特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体を担体に物理的に吸着させてもよいし、化学的に結合させてもよい。より具体的には、例えば、特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体と担体とを混和した後、30〜37℃で1〜2時間加温振盪することにより、抗体を担体に感作させることができる。担体に感作する抗体の量は、使用する担体の粒径に応じて適宜設定することができる。抗体を担体に感作した後、担体表面上の未感作部分をウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等でブロッキングするのが好ましい。特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体を感作した担体は、試料と反応させる時まで媒体分散液として保持しておくのが好ましい。この際、媒体としては、例えば、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液等を使用することができる。特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体を感作する担体の含有量は、通常、媒体分散液に対して0.2〜0.5重量%とすることができるが、0.25〜0.3重量%とするのが好ましい。媒体中には、必要に応じてウシ血清アルブミン、ゼラチン、アラビアゴム等を添加してもよい。このようにして調製した特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体感作担体を試料と反応させ、凝集の有無またはその程度により試料と特異的ポリクローナル抗体または特異的モノクローナル抗体との反応性を判別し、LukF-PV、LukS-PVを検出することができる。
【0063】
また、酵素免疫測定法(EIA)においては、LukF-PVを検出するためにLukF-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体または抗LukF-PVモノクローナル抗体をマイクロタイタープレート、樹脂ビーズ、磁性化ビーズ等の担体に物理吸着や化学結合により固相化する。LukS-PVを検出するためにはLukS-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体または抗LukS-PVモノクローナル抗体をマイクロタイタープレート、樹脂ビーズ、磁性化ビーズ等の担体に物理吸着や化学結合により固相化する。
【0064】
固相化量は、特に限定されないが担体がマイクロタイタープレートの場合、1ウェル当たり数ngから数十μgが望ましい。固相化は固相化すべき抗体を適切なバッファーに溶解し、担体と接触させて行うことができる。例えば、マイクロタイターウェルを用いる場合、抗体溶液をマイクロタイタープレートのウェルに分注し一定時間置くことにより固相化することができる。基質を固相化した後は、アッセイ中の非特異的結合を防ぐためにウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン、卵白アルブミン等を含んだブロッキング溶液を用いてブロッキングを行うのが好ましい。次いで、固相化担体と試料を反応させ、洗浄後、LukF-PVを検出するためには標識したLukF-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体または標識した抗LukF-PVモノクローナル抗体、LukS-PVを検出するためには標識したLukS-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体または標識した抗LukS-PVモノクローナル抗体を反応させる。標識は、β-D-ガラクトシダーゼ、ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼやグルコースオキシダーゼ等の酵素を用いて行うことができる。
【0065】
例えば、酵素免疫測定法(ELISA)においては、多数のウェル(例えば、96穴)を有するマイクロタイタープレートに基質を固相化させ、ウェル中で抗原抗体反応を行わせることにより一度に大量測定が可能になる。また、用いる抗体および試料の使用量を非常に少なくすることも可能である。さらに、全自動EIA測定装置などの自動測定機器を用いることも可能になる。
【0066】
本発明は、黄色ブドウ球菌が産生するPVLの検出を可能にするキットの提供を目的とし、該キットは、LukF-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体、LukS-PVを特異的に認識するモノクローナル抗体、LukF-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体およびLukS-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体の少なくとも1つを含む。
【0067】
該キットがEIA法に基づく場合は、抗体を固相化する担体を含んでいてもよく、抗体があらかじめ担体に結合していてもよい。該キットがラテックス等の担体を用いた凝集法に基づく場合は抗体が吸着した担体を含んでいてもよい。また、該キットは、適宜、ブロッキング溶液、反応溶液、反応停止液、試料を処理するための試薬等を含んでいてもよい。
【0068】
以上のように、本発明の抗LukF-PVモノクローナル抗体、抗LukS-PVモノクローナル抗体、LukF-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体およびLukS-PVを特異的に認識するポリクローナル抗体の少なくとも1つを用いることにより、黄色ブドウ球菌の産生するPVLを検出する事ができる。
【0069】
本発明の抗体は、PVLの毒性を消失または低減させ得る中和抗体であり、PVLの白血球崩壊毒素活性を阻害し得る。
【0070】
本発明の抗体の中和抗体価は、本発明抗体をPVL産生黄色ブドウ球菌または精製PVL毒素とともにマウス等の動物に投与した後の、該動物の致死率または発病率を測定することにより決定することができる。本発明抗体とPVL産生黄色ブドウ球菌または精製PVL毒素の投与順序は限定されず、同時に投与してもよい。複数個体の動物に投与し、そのうちの生存動物または発病しない動物の数により中和抗体価を測定することができる。この際、対照としてPVL産生黄色ブドウ球菌または精製PVL毒素のみ投与して本発明抗体を投与しない動物群を設け、PVL産生黄色ブドウ球菌または精製PVL毒素投与群と非投与対照群との比較により本発明抗体の効果を判断することができる。
【0071】
また、精製PVL毒素と本発明抗体を混合した後に、抗凝固剤としてヘパリンなどを添加したヒト血液(好ましくは顆粒球画分、さらに好ましくは好中球画分)または抗凝固剤としてヘパリンなどを添加したウサギ血液(好ましくは顆粒球画分、さらに好ましくは好中球画分)とを混合し、一定時間反応させた後にPVL活性により崩壊した白血球数(好ましくは顆粒球の数、さらに好ましくは好中球の数)を計測する。この際、対照としてPVL毒素のみ混合して本発明抗体を混合しない群を設け、精製PVL毒素混合群と非混合対照群との比較により本発明抗体の効果を判断することができる。
【0072】
さらには、本発明の抗体は、本発明において作製した組換えLukF-PVおよび/または組換えLukS-PVの中和作用を有し、黄色ブドウ球菌が産生し白血球崩壊因子であるPVL活性を阻害する作用を有することにより、PVL毒素産生黄色ブドウ球菌またはPVL毒素の感染により重篤に至る可能性のあるPVLによる障害の予防、治療剤として医薬品として使用することができる。PVLによる障害として、白血球の崩壊等が挙げられる。
【0073】
本発明の医薬組成物は、好ましくは、本発明の抗体に加えて、生理学的に許容され得る希釈剤またはキャリアを含んでおり、他の抗体または抗生物質のような他の薬剤との混合物であってもよい。適切なキャリアには、生理的食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水グルコース液、および緩衝生理食塩水が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の医薬組成物は、経口ルート、並びに静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内の注射等を含む非経口ルートで投与することができる。本発明の抗体の有効量と適切な希釈剤および薬理学的に使用し得るキャリアとの組合せとして投与される本発明の抗体の有効量は、1回につき体重1kgあたり0.0001mg〜100mgが好ましい。
【0074】
本発明の医薬組成物には、例えば、本発明の抗体を有効成分として含む抗PVL毒素ワクチンが含まれる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例にその技術的範囲が限定されるものではない。
【0076】
実施例1 免疫抗原の作製
以下に示す方法により、組換え体LukF-PV、組換え体LukS-PVを作製した。
【0077】
PVL遺伝子保有株である黄色ブドウ球菌MW2株(MW2株)をLB培地4mL中、37℃、好気条件下で20時間振とう培養を実施した。この培養液からDNA抽出キットであるISOPLANTII(NIPPON GENE)を用いて、MW2株染色体DNAを抽出した。
【0078】
組換え体作製のための目的遺伝子を抽出するために全塩基配列情報(LANCET 2002;359:1819-1827)を元にプライマーを作製し、また、非特異的なPCR産物が混合増幅されないように組換え体LukF-PVとしてのアミノ酸配列をコードする塩基配列(903b.p)、組換え体LukS-PVとしてのアミノ酸配列をコードする塩基配列(855b.p)の抽出を2段階のPCRを行うことで得た。MW2株染色体DNAを鋳型DNAとして第1のPCR増幅を行い、LukF-PVをコードする塩基配列を含むDNA断片(1620b.p)、LukS-PVをコードする塩基配列を含むDNA断片(1642b.p)を得た。各DNA断片を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離し、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche)を用いて、分離ゲル中から各精製DNA断片を抽出した。
【0079】
次に、DNA断片の5‘末端には制限酵素BamHI認識配列、3‘末端にはSalI認識配列を付加するプライマーを設計し、第1のPCRで得られたPCR精製産物を鋳型DNAとして第2のPCR増幅を行い、制限酵素認識部位が付加され組換え体LukF-PVとしてのアミノ酸配列をコードするDNA断片(制限酵素認識部位含む925b.p)、制限酵素認識部位が付加され組換え体LukS-PVとしてのアミノ酸配列をコードするDNA断片(制限酵素認識部位含む877b.p)を得た。
【0080】
それらDNA断片を用いて、定法に従って大腸菌JM109を形質転換させ、得られた各形質転換体を100μg/mlのアンピシリンを含むLB培地250ml中、37℃で培養し、O.Dユニット(550nmの光学濃度)が0.4〜0.8の時、1M IPTGを1mMの濃度になるよう加えて培養をさらに3時間続けた。菌体培養液を10000rpmで二分間遠心して集菌し、10mlの緩衝液(50mM Tris・HCl(pH8.0),0.1M NaCl,20%Glycerol,0.1%TritonX-100,1mMメルカプトエタノール,1mMEDTA,1mg/mLLysozyme,2mMPMSF)に懸濁し15分間の超音波破砕により、菌体を破壊し、菌体内に発現されたLukF-PVタンパク、LukS-PVタンパクを精製し、組換え体LukF-PV(精製LukF-PV 35kDa)、組換え体LukS-PV(精製LukS-PV 31kDa)を作製した。
【0081】
LukF-PVと相同性の高い類縁タンパクLukD、HlgBについても同様に組換え体LukD(精製LukD 35kDa)、HlgB(精製HlgB 35kDa)を得た。また、LukS-PVと相同性の高い類縁タンパクLukE、HlgC、HlgAについても同様に組換え体LukE(精製LukE 31kDa)、組換え体HlgC(精製HlgC 31kDa)、組換え体HlgA(精製HlgA 31kDa)を得た。
【0082】
実施例2 ポリクローナル抗体作製
LukF-PVに対するポリクローナル抗体を得るために、実施例1で作製した精製LukF-PV 50μgとFruendの完全アジュバンドとを混合しウサギに皮下注射し免疫した。さらに追加免疫として精製LukF-PV 100μgをFruendの不完全アジュバンドとを混合して2週間毎に計2回ウサギに皮下注射して免疫した。さらに、精製LukF-PV 50μgを2週間毎に計2回ウサギに静脈注射し追加免疫し、最終免疫の5日後に免疫ウサギから全採血し抗LukF-PV血清を得た。
【0083】
また、LukS-PVに対するポリクローナル抗体を得るために、精製LukS-PV 50μgとFruendの完全アジュバンドとを混合しウサギに皮下注射し免疫した。さらに追加免疫として精製LukS-PV 100μgをFruendの不完全アジュバンドとを混合して2週間毎に計2回ウサギに皮下注射して免疫した。さらに、精製LukS-PV 50μgを2週間毎に計2回ウサギに静脈注射し追加免疫し、最終免疫の5日後に免疫ウサギから全採血し抗LukS-PV血清を得た。
【0084】
次に、各抗体の反応性をウエスタンブロッティングで確認した。
LukF-PVに対する抗体の確認については、精製LukF-PV 20ng、精製LukD 20ng、精製HlgB 20ngをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画後、PVDF膜(Immun-Blot PBDF Membrane 0.2μm BIO-RAD)に転写した。LukS-PVに対する抗体の確認については、精製LukS-PV 10ng、精製LukE 10ng、精製HlgC 10ng、精製HlgA 10ngをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分画後、PVDF膜(Immun-Blot PVDF Membrane 0.2μm :BIO-RAD)に転写した。
【0085】
転写した後、非特異的結合部位をブロックするために、PVDF膜と5%脱脂粉乳含有-0.25%Tween20含有-PBS溶液とを4℃で一晩インキュベートした。その後、膜を3回0.25%Tween20含有PBS(TPBS)で洗浄し、次に、膜とTPBSで1:250に希釈した対応する抗血清とを混合し、室温で1時間インキュベートし1次抗体反応とした。次に、膜を3回TPBSで洗浄し、膜とTPBSで1:10,000に希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG(whole molecule)ヤギ抗体(Sigma)とを室温で1時間インキュベートした。最後に、抗体の反応性を発色反応によって確認した。発色反応試薬はAP Conjugate Substrate Kit(BIO-RAD)を用いた。
【0086】
抗LukF-PV血清の反応性について反応性をウエスタンブロッティング法で確認した結果、抗LukF-PV血清は精製LukF-PVの他に類縁タンパク精製LukD、精製HlgBに対しても反応する事が示された。結果を表1に示す。なお、表中の判定基準を以下に示す。
判定基準+:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性を確認
判定基準−:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性なし
【0087】
【表1】

【0088】
また、抗LukS-PV血清の反応性について反応性をウエスタンブロッティング法で確認した結果、抗LukS-PV血清は精製LukS-PVの他に類縁タンパク精製LukE、精製HlgC、精製HlgAに対しても反応することが示された。結果を表2に示す。なお、表中の判定基準を以下に示す。
判定基準+:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性を確認
判定基準−:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性なし
【0089】
【表2】

【0090】
実施例3 LukF-PV、LukS-PVの交差反応性の除去
LukF-PVに特異的なポリクローナル抗体、LukS-PVに特異的なポリクローナル抗体を提供するために、抗LukF-PV血清については反応が確認されたLukD、HlgBに対する反応性を、また、抗LukS-PV血清については反応が確認されたLukE、HlgC、HlgAに対する反応性を除去するために吸収操作を実施した。
【0091】
吸収操作のためのカラムを作製するにあたっては、担体としてホルミルセルロファイン(生化学工業)と抗LukF-PV血清に対する吸収用リガンドとして精製LukD、精製HlgBを、抗LukS-PV血清に対する吸収用リガンドとして精製LukE、精製HlgC、精製HlgAを用いて、生化学工業株式会社が発行した「セルロファイン アフィニティークロマトグラフィー」に掲載の方法でそれぞれのリガンドが結合したカラムを作製した。
【0092】
抗LukF-PV血清を吸収するために、PBSで10倍希釈した抗LukF-PV血清をHlgBカラムに添加し、抗LukF-PV血清に含まれるHlgBとの反応性を吸着除去し、次にこの抗血清をLukDカラムに添加し抗LukF-PV血清に含まれるLukDとの反応性を吸着除去した。抗LukF-PV血清からHlgBおよびLukDに対する反応性を除去し、LukF-PVを特異的に認識する吸収血清(以下、吸収血清F)を作製した。同様に抗LukS-PV血清をPBSで10倍希釈しHlgCカラム、続いてLukEカラム、さらにHlgAカラムに添加し、抗LukS-PV血清からHlgC、LukE、HlgAに対する反応性を除去し、LukS-PVを特異的に認識する吸収血清(以下、吸収血清S)を作製した。
【0093】
吸収血清Fの反応性を実施例2と同様の手順でウエスタンブロッティング法で確認した結果、吸収血清Fは精製LukF-PVに反応性を有し、類縁タンパク精製LukD、精製HlgBに対しての反応性は確認されなかった。この結果から、収抗血清FはLukD、HlgBに対して反応せず、LukF-PVに特異的に反応することが示され、本発明の吸収抗体の特異性における改善が示されている。
【0094】
結果を表3に示す。なお、表中の判定基準を以下に示す。
判定基準+:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性を確認
判定基準−:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性なし
【0095】
【表3】

【0096】
また、吸収血清Sの反応性を実施例2と同様の手順でウエスタンブロッティング法で確認した結果、吸収血清Sは精製LukS-PVに反応性を有し、類縁タンパク精製LukE、精製HlgC、精製HlgAに対しての反応性は確認されなかった。この結果から、吸収血清SはLukE、HlgC、HlgAに対して反応せず、LukS-PVに特異的に反応することが示され、本発明の吸収抗体の特異性における改善が示されている。
【0097】
結果を表4に示す。なお、表中の判定基準を以下に示す。
判定基準+:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性を確認
判定基準−:抗原タンパクと抗体(抗血清)の反応性なし
【0098】
【表4】

【0099】
以上の結果からLukF-PVに特異的なポリクローナル抗体、LukS-PVに特異的なポリクローナル抗体を得ることができた。
【0100】
実施例4 モノクローナル抗体作製
抗LukF-PVモノクローナル抗体の作製
免疫抗原精製LukF-PV 100μgをフロイント完全アジュバントと共に5週齢、雌のBALB/cマウスに免疫し、2週間後同抗原50μgをフロイント不完全アジュバントで追加免疫を行った。さらに2週間後、同抗原25μgを静脈に注射し、その3日後に脾臓細胞を摘出した。摘出された脾臓細胞はケラーらの方法(Kohler et al.,Nature,vol.256,p495-497(1975))によりマウスミエローマ細胞(P3X63-Ag8.653)と融合し、炭酸ガスインキュベーター中で37℃で培養した。得られたハイブリドーマの培養上清を検体として、精製LukF-PVを抗原として固相したELISA法でハイブリドーマのスクリーニングを行い、反応が確認された培養上清のハイブリドーマを選択した。
【0101】
総てのスクリーニングされたハイブリドーマを限界希釈法によって1.5細胞/ウェルになるように96ウェルプレートに播き、ウェル中に単一コロニーとして発育したハイブリドーマのみクローンとし、この限界希釈法を2度繰り返すことによりクローニングを行った。
【0102】
以上により、精製LukF-PVを認識するモノクローナル抗体産生細胞株5株(LukF-PV E-16-5M)、(LukF-PV E-26-2M)、(LukF-PV G-1-2M)、(LukF-PV 2F-9-2M)、(LukF-PV 2F-9-4M)を取得した。取得した該細胞株をプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
【0103】
さらに、1次スクリーニングで得られた腹水をPBSで1000倍希釈した腹水試料を調製し、精製LukF-PV、精製LukD、精製HlgB各抗原が0.1μg/ウェル濃度で抗原固相されたプレート、基質液として0.3mg/mL 3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(0.0075vol%過酸化水素水を含む)、反応停止液:0.3mol/L硫酸を用い、定法に従ってELISA試験を実施し、吸光度(測定波長450nm、参照波長630nm)を測定した。吸光度0.2以上を示す場合を陽性(反応性:+)、0.2以下を陰性(反応性:−)とし、特異性の判断基準とした。
【0104】
ハイブリドーマ(LukF-PV G-1-2M)、(LukF-PV 2F-9-4M)が産生する各モノクローナル抗体について、精製LukF-PVに対して反応性を有するが、類縁タンパク精製LukD、精製HlgBに対しては反応性を有さないことを確認した。結果を表5に示す。
【0105】
【表5】

【0106】
抗LukS-PVモノクローナル抗体の作製
上記と同様に、精製LukS-PVを認識するモノクローナル抗体産生細胞株9種(LukS-PV A-2-1M)、(LukS-PV A-2-4M)、(LukS-PV B-10-2M)、(LukS-PV B-10-3M)、(LukS-PV D-6-1M)、(LukS-PV D-6-2M)、(LukS-PV D-14-9M)、(LukS-PV 2G-5-2M)、(LukS-PV 2G-5-4M)を取得した。取得した該細胞株をプリスタン処理したBALB/cマウスに腹腔投与し、約2週間後、抗体含有腹水を採取した。
【0107】
次に、1次スクリーニングで得られた腹水をPBSで1000倍希釈した腹水試料を調製し、精製LukS-PV、精製LukE、精製HlgC、精製HlgA各抗原が0.1μg/ウェル濃度で抗原固相されたプレート、基質液として0.3mg/mL 3,3',5,5'-テトラメチルベンチジン(0.0075vol%過酸化水素水を含む)、反応停止液:0.3mol/L硫酸を用い、定法に従ってELISA試験を実施し、吸光度(測定波長450nm、参照波長630nm)を測定した。吸光度0.2以上を示す場合を陽性(反応性:+)、0.2以下を陰性(反応性:−)とし、特異性の判断基準とした。
【0108】
ハイブリドーマ(LukS-PV B-10-2M)、(LukS-PV D-14-9M)が産生する各モノクローナル抗体について、精製LukS-PVに対して反応性を有するが、類縁タンパク精製LukE、精製HlgC、精製HlgAに対しては反応性を有さないことを確認した。結果を表6に示す。
【0109】
【表6】

【0110】
実施例5 免疫学的検出方法
実施例3により得られたLukF-PVに特異的に結合する抗体を含む吸収血清Fから、定法に従って抗LukF-PV抗体を精製し、抗LukF-PV抗体と支持体として直径0.8μmのポリスチレン製球状粒子を用いて、定法に従って抗LukF-PV抗体感作ラテックス(感作ラテックスF)を調製した。
【0111】
実施例3により得られたLukS-PVに特異的に結合する抗体を含む吸収血清Sについても同様に抗LukS-PV抗体を精製し、抗LukS-PV抗体感作ラテックス(感作ラテックスS)を作製した。
【0112】
また、これらの試薬を確認するため標準毒素を調製した。感作ラテックスFに対しては免疫抗原に用いた精製LukF-PVを100ng/mLに調製し標準毒素LukF-PVとした。感作ラテックスSに対しては免疫抗原に用いた精製LukS-PVを100ng/mLに調製し標準毒素LukS-PVとした。
【0113】
実施例6 黄色ブドウ球菌培養上清中のPVL検出試薬評価
PVL遺伝子の保有、非保有が判明しているPVL遺伝子保有黄色ブドウ球菌35株とPVL遺伝子非保有黄色ブドウ球菌29株(JOURNAL OF CLINICAL MICROBIOLOGY,Nov,2002,P4289-4294他)を被検菌株として、その培養上清を検体とし、実施例5で作製した試薬、感作ラテックスF、感作ラテックスSを使用する逆受身ラテックス凝集反応(Reversed Passive Latex Aggultination:RPLA法)でPVLの検出を行った。被検菌株名を図1に示す。
【0114】
培養上清の調製はCCY modified medium(Res.Microbiol 1991,142,75-85)3mLに被検菌株を接種し、37℃、24時間、130rpmの条件で振とう培養した。培養液を遠心分離し上清を採取。この培養上清を試料とした。
【0115】
試験には培養上清、実施例5で作製した感作ラテックスF、感作ラテックスSとV型96ウェル マイクロプレート、緩衝液(市販ブドウ球菌エンテロトキシン検出用キットSET-RPLA「生研」:デンカ生研(株)付属品)、標準毒素LukF-PV、標準毒素LukS-PVを使用した。
【0116】
試験方法では、1検体につきLukF-PV検出用とLukS-PV検出用として1列(8ウェル)ずつのマイクロプレート2系列使用した。全てのウェルに緩衝液を25μL滴加し、最前列のウェル(1ウェル)に試料25μL加えた(2倍希釈)。さらに最前列の2倍希釈試料を25μL吸い上げ最後のウェル(8ウェル)を除いて2倍段階希釈した。この段階希釈により検体が1:2倍〜1:128倍迄希釈されたことになる。最後のウェルは各ラテックス試薬の陰性対照となる。LukF-PV検出用の1系列8ウェルに感作ラテックスFを各25μL滴加、LukS-PV検出用の1系列8ウェルに感作ラテックスSを各25μL滴加し、マイクロプレート用ミキサーで検体と試薬を混和し、反応液が蒸発しないようにマイクロプレートを湿潤箱に入れ、室温に24時間静置後、判定した。この操作を各被検菌株培養上清について実施した。
【0117】
本発明方法で試験し、LukF-PVに対する感作ラテックスFの凝集価1:2以上およびLukS-PVに対する感作ラテックスSの凝集価1:2以上と確認された場合をPVL陽性(PVL検出)とし判定した。PCR法によりPVL遺伝子保有と判明している35菌株について全ての被検菌株培養上清中からPVLを検出した。また、PCR法によりPVL遺伝子非保有と判明している29菌株について全ての被検菌株培養上清についてPVL検出は陰性を示した。結果を図2AおよびBに示す。本発明によるPVL検出陽性を+、PVL検出陰性を−で示した。
【0118】
また、試薬の確認のため実施例5で調製した各標準毒素と対応する感作ラテックスとを反応させ、試薬の感度、自然凝集等の確認を実施した。
【0119】
各標準毒素(100ng/mL)を2倍段階希釈した検体について試験し、標準毒素LukF-PVに対し感作ラテックスFは1:32倍まで、標準毒素LukS-PVに対し感作ラテックスSは1:32倍まで凝集を認めた。結果を表7に示す。なお、表中の判定基準を以下に示す。
判定基準+:凝集あり(凝集の強い順に +++ > ++ > +)
判定基準−:凝集なし
【0120】
【表7】

【0121】
PCR法による結果と本発明試薬による検出結果との一致率は100%、不一致率0%であった。結果を図3に示す。図3において、検体の培養上清に対し、感作ラテックスF、感作ラテックスSとも凝集価1:2以上と確認された場合に、PVL検出陽性と判断した。本発明方法で特異的かつ高感度にPVLを検出可能であることが明らかとなった。
【0122】
実施例7 中和活性評価
抗LukF-PV抗体、抗LukS-PV抗体のPVL中和活性を測定した。
【0123】
実施例2で作製した抗LukF-PV血清100μLと精製LukF-PV30μg/50μLを混合し4℃で16時間反応させ中和毒素とした。また、比較対照としてPBS100μLと精製LukF-PV30μg/50μLを混合し抗血清を作用させない系を設けた。
【0124】
同様に実施例2で作製した抗LukS-PV血清100μLと精製LukS-PV30μg/50μLを混合し4℃で16時間反応させ中和毒素とし、比較対照としてPBS100μLと精製LukS-PV30μg/50μLを混合し抗血清を作用させない系を設けた。
【0125】
凝固剤としてヘパリンを作用させたヒト静脈血1mLに上記中和毒素10μgまたは対照毒素10μgを表8のように混合し、37℃、90分間インキュベート後、好中球数を計測した。
【0126】
【表8】

【0127】
好中球数の計測には、多項目自動血球分析装置SFVU-1(シスメックス)を用いた。
毒素を添加していないコントロールの系では、反応後の血液1μL中に好中球数2565細胞、2695細胞含有していることが測定された。
【0128】
また、中和していない各毒素を混合し反応後の好中球数は反応後の血液1μL中に470細胞と測定され、本発明工程で作製された組換えLukF-PV、組換えLukS-PVは白血球崩壊活性を有することが示された。さらに、活性を有するこれら毒素と各々の抗血清を混合させ中和処理した毒素とを反応させた系では、反応後の血液1μL中に2890細胞の好中球が測定され、白血球崩壊活性が阻害されたことが示された。結果を表9に示す。
【0129】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パントンバレンタインロイコシジンFに結合性を有し、LukDおよびHlgBに交差反応性を示さない抗体。
【請求項2】
パントンバレンタインロイコシジンSに結合性を有し、LukE、HlgCおよびHlgAに交差反応性を示さない抗体。
【請求項3】
請求項1または2に記載の抗体を含む、パントンバレンタインロイコシジン検出用キット。
【請求項4】
請求項1および/または2に記載の抗体を黄色ブドウ球菌培養物と接触させることを含む、LukD、HlgB、LukE、HlgCおよびHlgAを検出することなくパントンバレンタインロイコシジン毒素を特異的に検出する方法。

【図1】
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【図3】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2013−53154(P2013−53154A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−265453(P2012−265453)
【出願日】平成24年12月4日(2012.12.4)
【分割の表示】特願2006−183535(P2006−183535)の分割
【原出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(502285457)学校法人順天堂 (64)
【出願人】(591125371)デンカ生研株式会社 (72)
【Fターム(参考)】