説明

気密部材とその製造方法

【課題】封着材料層および封着層の形成工程にレーザ加熱を適用するにあたって、気密封止性に優れる封着層を再現性よく形成することが可能な気密部材の製造方法を提供する。
【解決手段】封着材料ペーストの枠状塗布層の第1の照射開始位置LS1から第1の照射終了位置LF1まで、焼成用レーザ光を枠状塗布層に沿って走査しながら照射して封着材料層5を形成する。封着材料層5を介して第1のガラス基板と第2のガラス基板2とを積層した後、第1の照射開始位置LS1および第1の照射終了位置LF2とは異なる位置に設定された第2の照射開始位置LS2から第2の照射終了位置LF2まで、封着用レーザ光8を封着材料層5に沿って走査しながら照射して封着層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、電界放出型ディスプレイ(Feild Emission Dysplay:FED)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)では、表示素子を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板間を封着した気密部材(ガラスパッケージ)で表示素子を封止した構造が適用されている(特許文献1参照)。色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(光電変換素子)を封止した気密部材の適用が検討されている(特許文献2参照)。
【0003】
2枚のガラス基板間を封止する封着材料には、耐湿性等に優れる封着ガラスの適用が進められている。封着ガラスによる封着温度は400〜600℃程度であるため、加熱炉を用いて焼成した場合にはOEL素子や色素増感型太陽電池素子等の電子素子部の特性が劣化するおそれがある。そこで、2枚のガラス基板の周辺部に設けられた封止領域間に封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料層を配置し、これにレーザ光を照射して封着材料層を加熱、溶融させて封着層を形成することが試みられている(特許文献1,2参照)。
【0004】
レーザ封着を適用する場合には、まず封着材料をビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製し、これを一方のガラス基板の封止領域に塗布した後、封着材料の焼成温度(封着ガラスの軟化温度以上の温度)まで昇温し、封着ガラスを溶融してガラス基板に焼き付けて封着材料層を形成する。また、封着材料の焼成温度への昇温過程で有機バインダを熱分解して除去する。次いで、封着材料層を有するガラス基板と他方のガラス基板とを封着材料層を介して積層した後、一方のガラス基板側からレーザ光を照射し、封着材料層を加熱、溶融させることによって、ガラス基板間に設けられた電子素子部等を気密封止する。
【0005】
封着材料層の形成には、一般的に加熱炉が用いられている。特許文献3には封着材料層の形成工程で、有機バインダを除去する第1の昇温過程と、封着材料を焼き付ける第2の昇温過程とを実施することが記載されている。第1の昇温過程においては、ホットプレート、赤外線ヒータ、加熱用ランプ、レーザ光等を用いて、ガラス基板をその裏面側から加熱している。封着材料を焼き付ける第2の昇温過程には、ガラス基板全体を加熱する加熱炉が用いられている。また、特許文献4には低融点ガラス(封着ガラス)とバインダと溶剤とを混合した封着材料ペーストを一方のパネル基板に塗布した後、レーザ光で封着材料ペーストの塗布層を焼成して封着材料層を形成することが記載されている。
【0006】
レーザ封着に使用する封着材料層を形成するにあたって、封着材料ペーストの塗布層の焼成にレーザ光による局所加熱を適用する場合、焼成用レーザ光の照射終了時に封着ガラスが表面張力や空隙減少等に起因して収縮し、これにより焼成用レーザ光の照射終了位置にギャップ(隙間)が生じるおそれがある。封着材料層に生じるギャップは、その後の封着工程で気密部材の気密封止性を低下させる要因となる。さらに、レーザ封着を適用する場合、封着用レーザ光の照射条件等によっては封着材料層に生じたギャップ等に基づいて局部的に応力が増大し、これによりガラス基板に割れ等が生じやくなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2008−115057号公報
【特許文献3】特開2003−068199号公報
【特許文献4】特開2002−366050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、封着材料層の形成工程および封着層の形成工程の両工程でレーザ光による加熱を適用するにあたって、気密封止性に優れる封着層を再現性並びに歩留りよく形成することを可能にした気密部材の製造方法、および気密封止性やその信頼性等に優れる気密部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の気密部材の製造方法は、第1の封止領域が設けられた第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域が設けられた第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、前記封着材料ペーストの枠状塗布層の第1の照射開始位置から第1の照射終了位置まで、焼成用レーザ光を前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射し、前記焼成用レーザ光で前記枠状塗布層全体を加熱することにより、前記枠状塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記封着材料層の前記第1の照射開始位置および前記第1の照射終了位置とは異なる位置に設定された第2の照射開始位置から第2の照射終了位置まで、封着用レーザ光を前記第1または第2のガラス基板を通して前記封着材料層に沿って走査しながら照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間隙を気密に封止する封着層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0010】
本発明の気密部材は、第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有し、前記第2の表面が前記第1の表面と対向するように、前記第1のガラス基板上に所定の間隙を持って配置された第2のガラス基板と、前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の間隙を気密封止するように、記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に形成され、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を溶融および固化させた材料からなる封着層とを具備し、前記封着層の形成により生じるリタデーション値が100nm以下であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の気密部材の製造方法によれば、封着材料層の形成工程および封着層の形成工程の両工程でレーザ光による加熱を適用する際に、気密封止性に優れる封着層を再現性並びに歩留りよく形成することができる。従って、気密封止性やその信頼性等に優れる気密部材を歩留りよく提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による気密部材の製造方法を示す断面図である。
【図2】図1に示す気密部材の製造方法で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
【図3】図1に示す気密部材の製造方法で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
【図4】図3のA−A線に沿った断面図である。
【図5】図1に示す気密部材の製造方法における第2のガラス基板への封着材料層の形成工程を示す断面図である。
【図6】図1に示す気密部材の製造方法における焼成用レーザ光の走査例を示す図である。
【図7】図1に示す気密部材の製造方法における封着用レーザ光の走査例を示す図である。
【図8】図1に示す気密部材の製造方法における焼成用レーザ光および封着用レーザ光の他の走査例を示す図である。
【図9】本発明の実施形態の封着材料層の形成工程における焼成用レーザ光の照射終了位置を示す図である。
【図10】本発明の実施形態の封着材料層の形成工程における焼成用レーザ光の終了領域を説明するための図である。
【図11】本発明の実施形態の封着材料層の形成工程における焼成用レーザ光の終了領域の走査速度を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1ないし図7は本発明の実施形態による気密部材の製造方法を示す図である。ここで、本発明の実施形態の製造方法を適用する気密部材としては、OELD、FED、PDP、LCD等のFPDにおける表示素子を気密封止するガラスパッケージ、OEL素子等の発光素子を気密封止する照明装置用のガラスパッケージ、色素増感型太陽電池、薄膜シリコン太陽電池、化合物半導体系太陽電池等の封止型太陽電池における太陽電池素子を気密封止するガラスパッケージ、反射鏡の気密パッケージ、複層ガラス等が挙げられる。
【0014】
まず、図1(a)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを用意する。第1および第2のガラス基板1、2には、例えば各種公知の組成を有する無アルカリガラスやソーダライムガラス等で形成されたガラス基板が用いられる。無アルカリガラスは35〜40×10-7/K程度の熱膨張係数を有している。ソーダライムガラスは80〜90×10-7/K程度の熱膨張係数を有している。第1および第2のガラス基板1、2の少なくとも一方は、化学強化ガラス基板等であってもよい。
【0015】
第1のガラス基板1の表面1aには、図2に示すように、外周領域に沿って枠状の第1の封止領域3が設けられている。第2のガラス基板2の表面2aには、図3および図4に示すように、第1の封止領域3に対応する枠状の第2の封止領域4が設けられている。第1および第2の封止領域3、4は、封着層の形成領域(第2の封止領域4については封着材料層の形成領域)となるものである。第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とは、第1の封止領域3を有する表面1aと第2の封止領域4を有する表面2aとが対向するように、所定の間隙を持って配置されている。第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間隔は、気密部材の用途等に応じて適宜に設定されものである。
【0016】
この実施形態で製造する気密部材を電子デバイスのガラスパッケージ等として用いる場合には、第1のガラス基板1の表面1aと第2のガラス基板2の表面2aとの間に、電子デバイスに応じた電子素子部が設けられる。電子素子部は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、FEDであれば電子放出素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば太陽電池素子を備えるものである。電子素子部には各種公知の構造が適用され、その構成に限定されるものではない。また、気密部材を反射鏡の気密パッケージとして用いる場合には、第1のガラス基板1の表面1aおよび第2のガラス基板2の表面2aの少なくとも一方に金属反射膜が設けられる。
【0017】
第2のガラス基板2の封止領域6には、図1(a)、図3、および図4に示すように、枠状の封着材料層5が形成されている。封着材料層5は封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を焼成した材料からなる層である。封着材料は、主成分としての封着ガラスにレーザ吸収材、さらに必要に応じて低膨張充填材等の無機充填材を配合したものである。封着材料はこれら以外の添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0018】
封着ガラス(ガラスフリット)には、例えば錫−リン酸系ガラス、ビスマス系ガラス、バナジウム系ガラス、鉛系ガラス、ホウ酸亜鉛アルカリガラス等の低融点ガラスが用いられる。これらのうち、ガラス基板1、2に対する封着性(接着性)やその信頼性(接着信頼性や密閉性)、さらには環境や人体に対する影響性等を考慮して、錫−リン酸系ガラスやビスマス系ガラスからなる封着ガラスを使用することが好ましい。
【0019】
錫−リン酸系ガラス(ガラスフリット)は、55〜68モル%のSnO、0.5〜5モル%のSnO2、および20〜40モル%のP25(基本的には合計量を100モル%とする)を含む組成を有することが好ましい。SnOはガラスを低融点化させるための成分である。SnOの含有量が55モル%未満であるとガラスの粘性が高くなって封着温度が高くなりすぎ、68モル%を超えるとガラス化しなくなる。
【0020】
SnO2はガラスを安定化するための成分である。SnO2の含有量が0.5モル%未満であると封着作業時に軟化溶融したガラス中にSnO2が分離、析出し、流動性が損なわれて封着作業性が低下する。SnO2の含有量が5モル%を超えると低融点ガラスの溶融中からSnO2が析出しやすくなる。P25はガラス骨格を形成するための成分である。P25の含有量が20モル%未満であるとガラス化せず、その含有量が40モル%を超えるとリン酸塩ガラス特有の欠点である耐候性の悪化を引き起こすおそれがある。
【0021】
ここで、ガラスフリット中のSnOおよびSnO2の割合(モル%)は以下のようにして求めることができる。まず、ガラスフリット(低融点ガラス粉末)を酸分解した後、ICP発光分光分析によりガラスフリット中に含有されているSn原子の総量を測定する。次に、Sn2+(SnO)は酸分解したものをヨウ素滴定法により求められるので、そこで求められたSn2+の量をSn原子の総量から減じてSn4+(SnO2)を求める。
【0022】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、SiO2等のガラスの骨格を形成する成分やZnO、B23、Al23、WO3、MoO3、Nb25、TiO2、ZrO2、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO等のガラスを安定化させる成分等を任意成分として含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30モル%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100モル%となるように調整される。
【0023】
ビスマス系ガラス(ガラスフリット)は、70〜90質量%のBi23、1〜20質量%のZnO、および2〜12質量%のB23(基本的には合計量を100質量%とする)の組成を有することが好ましい。Bi23はガラスの網目を形成する成分である。Bi23の含有量が70質量%未満であると低融点ガラスの軟化点が高くなり、低温での封着が困難になる。Bi23の含有量が90質量%を超えるとガラス化しにくくなると共に、熱膨張係数が高くなりすぎる傾向がある。
【0024】
ZnOは熱膨張係数等を下げる成分である。ZnOの含有量が1質量%未満であるとガラス化が困難になる。ZnOの含有量が20質量%を超えると低融点ガラス成形時の安定性が低下し、失透が発生しやすくなる。B23はガラスの骨格を形成してガラス化が可能となる範囲を広げる成分である。B23の含有量が2質量%未満であるとガラス化が困難となり、12質量%を超えると軟化点が高くなりすぎて、封着時に荷重をかけたとしても低温で封着することが困難となる。
【0025】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、Al23、CeO2、SiO2、Ag2O、MoO3、Nb23、Ta25、Ga23、Sb23、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、CaO、SrO、BaO、WO3、P25、SnOx(xは1または2である)等の任意成分を含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30質量%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100質量%となるように調整される。
【0026】
封着材料はレーザ吸収材を含有している。レーザ吸収材としては、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、およびCuから選ばれる少なくとも1種の金属または前記金属を含む酸化物等の化合物が用いられる。また、これら以外の顔料であってもよい。レーザ吸収材の含有量は封着材料に対して0.1〜40体積%の範囲とすることが好ましい。レーザ吸収材の含有量が0.1体積%未満であると封着材料層5を十分に溶融させることができないおそれがある。レーザ吸収材の含有量が40体積%を超えると第2のガラス基板2との界面近傍で局所的に発熱するおそれがあり、また封着材料の溶融時の流動性が劣化して第1のガラス基板1との接着性が低下するおそれがある。好ましくは37体積%以下である。
【0027】
さらに、封着材料は必要に応じて低膨張充填材を含有してもよい。低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、石英固溶体、ソーダライムガラス、および硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)227、NaZr2(PO43、KZr2(PO43、Ca0.5Zr2(PO43、NbZr(PO43、Zr2(WO3)(PO42、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。
【0028】
低膨張充填材の含有量は、封着ガラスの熱膨張係数がガラス基板1、2の熱膨張係数に近づくように設定することが好ましい。低膨張充填材は封着ガラスやガラス基板1、2の熱膨張係数にもよるが、封着材料に対して0.1〜50体積%の範囲で含有させることが好ましい。低膨張充填材の含有量は、封着材料層5の厚さ等によっても適宜変更することができる。ただし、低膨張充填材の含有量が50体積%を超えると、封着材料の溶融時の流動性が劣化して第1のガラス基板1との接着性が低下するおそれがある。好ましくは45体積%以下である。低膨張充填材の含有量はレーザ吸収材との合計含有量として影響するため、これらの合計含有量は0.1〜50体積%の範囲とすることが好ましい。
【0029】
封着材料層5は以下のようにして形成される。封着材料層5の形成工程について、図5を参照して説明する。まず、封着ガラスにレーザ吸収材や低膨張充填材等を配合して封着材料を作製し、これをビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製する。ビヒクルは、バインダ成分である樹脂を溶剤に溶解したものである。
【0030】
ビヒクル用の樹脂としては、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等のセルロース系樹脂、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル系モノマーの1種以上を重合して得られるアクリル系樹脂等の有機樹脂が用いられる。ビヒクル用の溶剤としては、セルロース系樹脂の場合はターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等が、アクリル系樹脂の場合はメチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等が用いられる。
【0031】
ビヒクル中の樹脂成分は、封着材料のバインダとして機能するものであり、封着材料を焼成する以前に除去する必要がある。封着材料ペーストの粘度は、ガラス基板2に塗布する装置に対応した粘度に合わせればよく、樹脂成分(有機バインダ)と溶剤(有機溶剤等)との割合や封着材料とビヒクルとの割合により調整することができる。封着材料ペーストには、消泡剤や分散剤のようにガラスペーストで公知の添加物を加えてもよい。封着材料ペーストの調製には、攪拌翼を備えた回転式の混合機やロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法を適用することができる。
【0032】
図5(a)に示すように、第2のガラス基板2の封止領域4に封着材料ペーストを塗布し、これを乾燥させて枠状の塗布層6を形成する。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第2の封止領域4上に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第2の封止領域4に沿って塗布する。塗布層6は、例えば120℃以上の温度で10分以上乾燥させることが好ましい。乾燥工程は塗布層6内の溶剤を除去するために実施するものである。塗布層6内に溶剤が残留していると、その後の焼成工程(レーザ焼成工程)で有機バインダを十分に除去できないおそれがある。
【0033】
次に、図5(b)に示すように、封着材料ペーストの塗布層(乾燥膜)6に焼成用のレーザ光7を照射する。焼成用のレーザ光7を塗布層6に沿って照射して選択的に加熱することによって、塗布層6中の有機バインダを除去しつつ、封着材料を焼成して封着材料層5を形成する(図5(c))。焼成用のレーザ光7は特に限定されるものではなく、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等からのレーザ光が使用される。後述する封着用のレーザ光も同様である。
【0034】
レーザ光7による塗布層6の焼成工程は、必ずしも塗布層6の膜厚に限定されるものではないが、焼成後の厚さ(封着材料層5の厚さ)が20μm以下となるような膜厚を有する塗布層6に対して特に有効である。焼成後の厚さが20μmを超えるような場合には、レーザ光7で塗布層6全体を均一に加熱することができないおそれがある。ただし、塗布層6の形成条件やレーザ光7の照射条件等を調整することによって、焼成後の厚さが150μm以下となる膜厚を有する塗布層6であれば、レーザ光7で焼成することができる。封着材料層5の厚さは実用的には1μm以上とすることが好ましい。
【0035】
この実施形態による封着材料層5の形成工程においては、封着材料ペーストの枠状塗布層6に焼成用レーザ光7を照射して選択的に加熱している。このため、第2のガラス基板2の表面2aにカラーフィルタ等の有機樹脂膜、また素子膜等が形成されているような場合においても、有機樹脂膜や素子膜等に熱ダメージを与えることなく、封着材料層5を良好に形成することができる。さらに、有機バインダの除去性にも優れていることから、封着性や信頼性等に優れる封着材料層5を得ることができる。
【0036】
また当然ながら、焼成用レーザ光7による封着材料層5の形成工程は、第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されていない場合でも適用可能であり、そのような場合にも封着性や信頼性等に優れる封着材料層5を得ることができる。さらに、レーザ光7による焼成工程は、従来の加熱炉による焼成工程に比べてエネルギー消費量が少なく、また製造工数や製造コストの削減に寄与する。従って、省エネやコスト削減等の観点からも、レーザ光7による封着材料層5の形成工程は有効である。
【0037】
焼成用のレーザ光7で封着材料層5を形成するにあたって、まず図6に示すように、封着材料ペーストの枠状塗布層6の照射開始位置LS1にレーザ光7を照射する。次いで、レーザ光7を枠状塗布層6に沿って走査しながら照射する。そして、レーザ光7を照射開始位置LS1と少なくとも一部が重なる照射終了位置LF1まで走査し、枠状塗布層6全体を加熱した後にレーザ光7の照射を終了する。このように、枠状塗布層6全体にレーザ光7を照射することによって、枠状塗布層6中の有機バインダを熱分解して除去しつつ、封着ガラスを溶融並びに急冷固化して封着材料層5を形成する。なお、焼成用のレーザ光7による枠状塗布層6の具体的な焼成条件については後述する。
【0038】
封着材料ペーストをスクリーン印刷やグラビア印刷等を適用して塗布した場合、封着材料ペーストは第2のガラス基板2の封止領域4に対して一括して塗布されるため、焼成用のレーザ光7の照射開始位置LS1は特に限定されない。封着材料ペーストをディスペンサ等で第2の封止領域4に沿って塗布した場合には、図6に示すように、封着材料ペーストの塗布開始位置ASと塗布終了位置AFとが生じる。塗布開始位置ASと塗布終了位置AFとが重なる部分では、枠状塗布層6の膜厚にばらつきが生じやすく、レーザ光7を照射した際に応力集中が起こりやすい。このような部分に応力が集中しやすいレーザ光7の照射開始位置LS1および照射終了位置LF1を設定すると、局部的な応力がさらに増大したり、また以下に示す封着材料層5のギャップが拡大するおそれがある。
【0039】
すなわち、焼成用のレーザ光7の照射終了位置LF1は、枠状塗布層6全体を加熱するために、照射開始位置LS1と少なくとも一部重なるように設定される。枠状塗布層6に沿ってレーザ光7を走査している間に、封着ガラスの溶融が終了している照射開始位置LS1は冷却されて固化している。このため、照射開始位置LS1と少なくとも一部が重なる照射終了位置LF1にレーザ光7が到達する際に、加熱溶融された封着ガラスの流動性より表面張力が勝ることによって、照射終了位置LF1で封着ガラスが収縮してギャップが生じるものと考えられる。このような部分に枠状塗布層6の膜厚ばらつきが生じていると、封着ガラスの収縮が増大してギャップが拡大するおそれがある。
【0040】
そこで、封着材料ペーストをディスペンサ等で第2の封止領域4に沿って塗布した場合、レーザ光7の照射開始位置LS1は枠状塗布層6における封着材料ペーストの塗布開始位置ASおよび塗布終了位置AFとは異なる位置に設定することが好ましい。これによって、枠状塗布層6の膜厚の均一な部分から焼成用のレーザ光7の照射が開始されるため、第2のガラス基板2の局部的な応力の増大や封着材料層5のギャップの拡大を抑制することができる。レーザ光7の照射開始位置LS1は、応力の分散効果や枠状塗布層6の膜厚ばらつきの影響を抑制する効果を得る上で、封着材料ペーストの塗布開始位置ASおよび塗布終了位置AFから3mm以上離れた位置に設定することが好ましい。
【0041】
次に、図1(b)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを表面1a、2a同士が対向するように封着材料層5を介して積層する。この後、図1(c)に示すように、第2のガラス基板2を通して封着材料層5に封着用のレーザ光8を照射する。レーザ光8は第1のガラス基板1を通して封着材料層5に照射してもよい。封着用のレーザ光8を枠状の封着材料層5に沿って走査しながら照射し、封着材料層5を順に溶融並びに急冷固化することによって、図1(d)に示すように第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間隙を気密封止する封着層9を形成して気密部材10を作製する。第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間の空間11は封着層9により気密封止される。
【0042】
封着用レーザ光8は、図7に示すように、まず枠状の封着材料層5の照射開始位置LS2に照射される。封着用レーザ光8は封着材料層5に沿って走査しながら照射され、照射開始位置LS2と少なくとも一部が重なる照射終了位置LF2まで走査される。封着用レーザ光8の照射開始位置LS2は、封着材料層5における焼成用レーザ光7の照射開始位置LS1および照射終了位置LF1とは異なる位置に設定される。封着用レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2にも応力が集中しやすいため、これを焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LF1とは異なる位置に設定することによって、レーザ光7、8の始終端に起因する応力が分散されて気密部材10の信頼性が向上する。
【0043】
さらに、封着材料層5のギャップが生じている部分に封着用レーザ光8の照射開始位置LS2を設定すると、封着用レーザ光8の熱が第1のガラス基板1に過度に伝わって局部的な応力がさらに増大するおそれがある。封着用レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2を焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LF1とは異なる位置に設定することで、封着材料層5のギャップに起因する局部的な応力の増大を抑制することができる。封着用レーザ光8の照射開始位置LS2は、応力の分散効果や封着材料層5のギャップの影響を抑制する効果を得る上で、焼成用レーザ光7の照射開始位置LS1および照射終了位置LF1から3mm以上離れた位置に設定することが好ましい。
【0044】
前述したように、封着材料層5における焼成用レーザ光7の照射終了位置LF1には、封着ガラスが表面張力や空隙減少等に起因して収縮することでギャップが生じるおそれがある。ギャップが生じている部分に封着用レーザ光8の照射開始位置LS2を設定すると、封着材料層5のギャップに起因して封着用レーザ光7の熱が第1のガラス基板1に過度に伝わって局部的に応力が増大するおそれがある。このような局部的な応力の増大はガラス基板1の割れの発生原因となる。封着用レーザ光8の照射開始位置LS2を、焼成用レーザ光7の照射開始位置LS1および照射終了位置LF1とは異なる位置に設定することで、局部的な応力の増大やそれに基づくガラス基板1の割れを抑制することができる。
【0045】
図7は、封着材料ペーストの塗布開始位置ASおよび塗布終了位置AFを第2の封止領域4の第1の辺4aに設定し、焼成用レーザ光7の照射開始位置LS1および照射終了位置LF1を第2の封止領域4の第2の辺4bに設定し、封着用レーザ光8の照射開始位置LS2および照射終了位置LF2を第2の封止領域4の第3の辺4cに設定した状態を示している。このように、封着材料ペーストの塗布開始・終了位置AS、AF、焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LF1、封着用レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2を、第2の封止領域4の各辺4a、4b、4cに別けて設定することで、封着層9の各辺に応力が分散されるため、ガラス基板1の割れをより確実に抑制することができると共に、気密部材10の信頼性をより一層高めることができる。
【0046】
封着材料ペーストの塗布開始・終了位置AS、AF、焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LF1、封着用レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2は、図8に示すように、第2の封止領域4の1つの辺4aに設定してもよい。この場合、焼成用レーザ光7の照射開始位置LS1は封着材料ペーストの塗布開始・終了位置AS、AFから3mm以上離れた位置に設定することが好ましく、封着用レーザ光8の照射開始位置LS2は焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LS2から3mm以上離れた位置に設定することが好ましい。気密部材10を電子デバイスのパッケージとして使用する場合、各位置を第2の封止領域4の1つの辺4aに設定し、応力に弱い配線等を他の辺に配置することで、電子デバイスの配線パターンの自由度等を高めることができる。
【0047】
次に、焼成用レーザ光7による封着材料層5の形成工程の具体的な条件について述べる。焼成用レーザ光7を枠状塗布層6に照射したときの加熱温度は、封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲とすることが好ましい。封着ガラスの軟化温度Tは軟化流動するが結晶化しない温度を示すものである。レーザ光7を照射した際の枠状塗布層6の温度は放射温度計で測定した値とする。枠状塗布層6の温度が(T+80℃)に達しないようなレーザ光7の照射条件下では、枠状塗布層6の表面部分のみが溶融され、枠状塗布層6全体を均一に溶融できないおそれがある。枠状塗布層6の温度が(T+550℃)を超えるようなレーザ光7の照射条件下では、ガラス基板2や封着材料層(焼成層)5にクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0048】
封着材料ペーストの枠状塗布層6の加熱温度が上記範囲となるように、レーザ光7を走査しながら照射することで、枠状塗布層6中の有機バインダが熱分解されて除去される。レーザ光7は枠状塗布層6に沿って走査しながら照射されるため、レーザ光7の進行方向前方に位置する部分は適度に予熱されることになる。有機バインダの熱分解は、枠状塗布層6にレーザ光7が直に照射されているときに加えて、レーザ光7の進行方向前方の予熱された部分によっても進行する。これらによって、枠状塗布層6中の有機バインダが有効かつ効率よく除去され、封着材料層5内の残留カーボン量を低減することができる。残留カーボンは気密部材内の不純物ガス濃度を上昇させる要因となる。
【0049】
レーザ光7は枠状塗布層6に沿って3〜20mm/秒の範囲の走査速度で走査しながら照射することが好ましい。枠状塗布層6に沿って走査する際のレーザ光7の走査速度が3mm/秒未満であると、レーザ光7による枠状塗布層6の焼成速度が低下し、封着材料層5を効率よく形成することができない。一方、レーザ光7の走査速度が20mm/秒を超えると、枠状塗布層6全体が均一に加熱される前に表面部分のみが溶融してガラス化されるおそれがあるため、有機バインダの熱分解により生じたガスの外部への放出性が低下する。このため、封着材料層5の内部に気泡が生じたり、表面に気泡による変形が生じやすくなる。封着材料層5の残留カーボン量も増大しやすい。有機バインダの除去状態が悪い封着材料層5を用いてガラス基板1、2間を封止すると、ガラス基板1、2と封着層との接合強度が低下したり、気密部材の気密性が低下するおそれがある。
【0050】
レーザ光7の走査速度は、さらに枠状塗布層6の膜厚に応じて調整することが好ましい。例えば、焼成後の膜厚が5μm未満となるような枠状塗布層6の場合には、レーザ光7の走査速度を15mm/秒以上というように高速化することができる。また、焼成後の膜厚が20μmを超える枠状塗布層6の場合には、レーザ光7の走査速度を5mm/秒以下とすることが好ましい。焼成後の膜厚が5〜20μmの範囲となる枠状塗布層6を焼成する際のレーザ光7の走査速度は5〜15mm/秒の範囲とすることが好ましい。
【0051】
さらに、走査速度が3〜20mm/秒の範囲のレーザ光7で、枠状塗布層6の加熱温度を(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲とするにあたって、レーザ光7は100〜1100W/cm2の範囲の出力密度を有することが好ましい。レーザ光7の出力密度が100W/cm2未満であると、枠状塗布層6全体を均一に加熱することができないおそれがある。レーザ光7の出力密度が1100W/cm2を超えると、ガラス基板2が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0052】
なお、図5ではレーザ光7を枠状塗布層6上から照射する状態を示したが、レーザ光7はガラス基板2を介して枠状塗布層6に照射してもよい。例えば、枠状塗布層6の焼成時間を短縮するためには、レーザ光7の高出力化や走査速度の高速化が有効である。例えば、高出力化したレーザ光7を枠状塗布層6上から照射すると、枠状塗布層6の表面部分のみがガラス化するおそれがある。枠状塗布層6の表面部分のみのガラス化は、上述したような種々の問題を引き起こす。このような点に対して、レーザ光7をガラス基板2側から枠状塗布層6に照射すると、レーザ光7が照射された部分からガラス化したとしても、有機バインダの熱分解により生じたガスを枠状塗布層6の表面から逃すことができる。レーザ光7を枠状塗布層6の上下両面から照射することも有効である。
【0053】
レーザ光7のビーム形状(照射スポットの形状)は、特に限定されるものではない。レーザ光7のビーム形状は一般的には円形であるが、円形に限られるものではない。レーザ光7のビーム形状は、枠状塗布層6の幅方向が短径となる楕円形としてもよい。ビーム形状を楕円形に整形したレーザ光7によれば、枠状塗布層6に対するレーザ光7の照射面積を拡大することができ、さらにレーザ光7の走査速度を速くすることができる。これらによって、枠状塗布層6の焼成時間を短縮することが可能となる。
【0054】
前述したように、焼成用レーザ光7の照射終了位置LF1には、封着ガラスの表面張力や空隙減少等に起因してギャップが生じるおそれがある。封着材料層5に生じるギャップが広いと、その後のレーザ封着工程で気密封止性を低下させるおそれがある。このような点に対しては、焼成用レーザ光7の照射終了時期に封着ガラスの流動状態を保つようにすることが有効である。レーザ光7が照射終了位置LF1に到達する際の封着ガラスの溶融状態を維持し、溶融状態の封着ガラスが固化している封着ガラスと接する時間を長くする、言い換えると溶融状態の封着ガラスを固化している封着ガラス上を流動させることによって、封着ガラスの表面張力等に起因するギャップの発生を抑制することができる。
【0055】
具体的には、枠状塗布層6におけるレーザ光7の照射終了位置LF1を、枠状塗布層6の既に焼成された部分(既にレーザ光7が照射されて溶融・固化した部分)と少なくとも一部が重なる位置に設定した場合、照射終了位置LF1に接近した位置から照射終了位置LF1までの終了領域におけるレーザ光7の走査速度を、終了領域を除く枠状塗布層6に沿った走査領域におけるレーザ光7の走査速度より減速させることが好ましい。このように、終了領域におけるレーザ光7の走査速度を減速させることで、溶融状態の封着ガラスを既に固化している封着ガラスに向けて流動させ、溶融状態の封着ガラスを固化状態の封着ガラスと十分に接触させることが可能となる。従って、照射終了位置LF1における封着ガラスの流動性が不足して収縮することで生じるギャップ幅を狭くすることができる。
【0056】
枠状塗布層6における焼成用レーザ光7の照射終了位置LF1は、図9(A)に示すように、枠状塗布層6の既に焼成された部分(基本的には照射開始位置LS1に相当する部分)と少なくとも一部が重なる位置に設定する。これによって、封着ガラスを流動状態で一体化することができる。レーザ光7の照射終了位置LF1は、図9(B)に示すように照射開始位置LS1との重なり量(面積比)が50%以上となる位置に設定することが好ましい。レーザ光7の照射終了位置LF1は、図9(C)に示すように照射開始位置LS1と重なる位置に設定したり、図9(D)に示すように照射開始位置LS1を超えた位置に設定することがより好ましい。終了領域における溶融状態の封着ガラスを枠状塗布層6の焼成部分(固化状態の封着ガラス)とより一層良好に接触させることができる。
【0057】
図9(D)に示すように、焼成用レーザ光7の照射終了位置LF1を、照射開始位置LS1を超えた位置に設定する場合、レーザ光7を重複して照射する領域の長さは特に限定されるものではない。ただし、レーザ光7の重複照射領域をあまり長くしても、溶融状態の封着ガラスと固化状態の封着ガラスとの接触性の向上効果をそれ以上高めることができないだけでなく、封着材料層5の形成時間がその分だけ延びて形成効率が低下する。このため、レーザ光7の重複照射領域はレーザ光7のビーム中心を基準として、照射開始位置LS1の中心からレーザ光7のビーム径Dの20倍以下の距離とすることが好ましく、レーザ光7のビーム径Dの5倍以下の距離とすることがより好ましい。なお、レーザ光7のビーム形状は、ビーム最大強度の1/e2の強度になる領域で定義する。
【0058】
レーザ光7の速度を減速させる位置(終了領域の開始位置)は、図10(A)に示すように、レーザ光7のビーム中心を基準として、枠状塗布層6の焼成部分(焼成端)からレーザ光7のビーム径Dの少なくとも1.2倍手前の位置とすることが好ましい。レーザ光7をビーム径Dの1.2倍未満の位置から減速させた場合には、終了領域における溶融状態の封着ガラスと固化状態の封着ガラスとの接触時間が不十分になるおそれがある。レーザ光7の減速開始位置は、枠状塗布層6の焼成端からレーザ光7のビーム径Dの1.2倍以上手前の位置であればよく、ビーム径Dの1.2倍の位置よりさらに手前の位置(焼成端からより離れた位置)から減速させてもよい。
【0059】
ただし、枠状塗布層6の焼成端から離れすぎた位置から減速すると、その分だけ減速させた状態でのレーザ光7の走査時間が増加し、封着材料層5の形成時間がその分だけ延びて形成効率が低下する。このため、レーザ光7の減速開始位置は、図10(B)に示すように、レーザ光7のビーム中心を基準として、枠状塗布層6の焼成端から手前にレーザ光7のビーム径Dの20倍以下の位置とすることが好ましい。このように、レーザ光7の減速開始位置は、枠状塗布層6の焼成端から手前にレーザ光7のビーム径Dの1.2倍以上20倍以下の範囲内に設定することが好ましく、ビーム径Dの1.2倍以上5倍以下の範囲内に設定することがより好ましい。
【0060】
前述したように、枠状塗布層6に沿って走査する際のレーザ光7の走査速度(走査領域におけるレーザ光7の走査速度)は、3〜20mm/秒の範囲とすることが好ましい。このような走査領域におけるレーザ光7の走査速度に対して、終了領域ではレーザ光7の走査速度を2mm/秒以下まで減速することが好ましい。これによって、終了領域における溶融状態の封着ガラスを枠状塗布層6の焼成部分(固化状態の封着ガラス)と良好に接触させることができる。終了領域におけるレーザ光7の走査速度は0.5mm/秒以下まで減速することがより好ましい。終了領域におけるレーザ光7の走査速度の下限値は特に限定されないが、ガラス基板2の過剰加熱や封着材料層5の形成効率の低下等を考慮して0.1mm/秒以上(ビーム径Dの1.2倍手前の位置基準)とすることが好ましい。
【0061】
終了領域におけるレーザ光7の走査速度は、図11(A)および図11(B)に示すように、レーザ光7のビーム中心を基準として、枠状塗布層6の焼成部分(焼成端)からレーザ光7のビーム径Dの1.2倍手前の位置で2mm/秒以下とすることが好ましい。レーザ光7の減速開始位置は、上述したように枠状塗布層6の焼成端からレーザ光7のビーム径Dの1.2倍以上手前の位置であればよいため、図11(C)に示すように、レーザ光7のビーム径Dの1.2倍手前の位置よりさらに手前の位置(焼成端からより離れた位置)、すなわちレーザ光7のビーム径Dの1.2倍以上20倍以下の範囲内の位置からレーザ光7を2mm/秒以下の速度で走査してもよい。
【0062】
図11(B)および図11(C)は、終了領域におけるレーザ光7を走査領域の走査速度より減速した一定速度、例えば2mm/秒以下の一定速度で走査する状態を示している。図11(D)に示すように、レーザ光7の減速開始位置(ビーム径Dの1.2倍以上20倍以下の範囲内)から照射終了位置LF1まで、所定の減速度でレーザ光7の走査速度を減速させてもよい。この場合にも、レーザ光7のビーム中心が枠状塗布層6の焼成端からレーザ光7のビーム径Dの1.2倍手前の位置に到達した時点における走査速度を2mm/秒以下とすることが好ましい。いずれの場合にも、レーザ光7のビーム径Dの1.2倍手前の位置におけるレーザ光7の走査速度を2mm/秒以下とすることが好まく、これにより照射終了位置LF1に生じるギャップ幅を再現性よく狭くすることができる。
【0063】
上述したように、終了領域ではレーザ光7の走査速度を、走査領域におけるレーザ光7の走査速度より減速させるため、走査領域におけるレーザ光7と同一の出力密度では枠状塗布層6の加熱温度が高くなりすぎる場合がある。このような場合には、終了領域におけるレーザ光7の出力密度を走査領域より低下させることが好ましい。これによって、枠状塗布層6の過剰加熱、それによるガラス基板2や封着材料層(焼成層)5のクラックや割れ等を抑制することができる。ただし、終了領域における枠状塗布層6の加熱温度が上記範囲内であれば、走査領域と同一条件でレーザ光7を照射してもよい。
【0064】
焼成用レーザ光7の照射終了位置LF1に生じるギャップは、終了領域におけるレーザ光7の走査速度を走査領域のそれより減速させることで抑制することができる。さらに、照射終了位置LF1におけるギャップ幅は封着材料の流動しやすさにも影響される。封着材料の流動状態は、封着ガラスに添加するレーザ吸収材や低膨張充填材の含有量や粒径等に影響される。このため、レーザ吸収材および低膨張充填材の含有量(質量%)と比表面積(m2/g)との積の総和で表される封着材料の流動性阻害因子を300以下とすることが好ましく、さらに好ましくは250以下である。これによって、封着材料の流動性が向上するため、ギャップ幅をより一層狭くすることができる。
【0065】
次に、封着用レーザ光8による封着層9の形成工程の具体的な条件について述べる。封着用レーザ光8を封着材料層5に照射したときの加熱温度は、封着ガラスの軟化温度T(℃)に対して(T+80℃)以上で(T+550℃)以下の範囲とすることが好ましい。封着材料層5の温度が(T+80℃)に達しないようなレーザ光8の照射条件下では、ガラス基板1、2と封着ガラスとの接着性が不充分になるおそれがある。一方、封着材料層5の温度が(T+550℃)を超えるようなレーザ光8の照射条件下では、ガラス基板1、2や封着層9にクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0066】
レーザ光8は封着材料層5に沿って3〜15mm/秒の範囲の走査速度で走査しながら照射することが好ましい。また、レーザ光8の出力密度は700〜5200W/cm2の範囲とすることが好ましい。レーザ光8の照射終了位置LF2は、照射開始位置LS2と重なる位置や照射開始位置LS2を超えた位置に設定することが好ましい。特に、レーザ光8の照射終了位置LF2を、照射開始位置LS2を超えた位置に設定することで、レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2に起因する応力を分散させることができる。レーザ光8の重複照射領域はレーザ光8のビーム中心を基準として、照射開始位置LS2の中心からレーザ光8のビーム径Dの20倍以下の距離とすることが好ましく、レーザ光8のビーム径Dの5倍以下の距離とすることがより好ましい。
【0067】
この実施形態の製造方法によれば、レーザ光7、8の始終端等に起因する応力を分散させることができるため、封着層9の形成により生じる局部的な応力の増大を抑制することができる。これによって、封着層9の形成時等におけるガラス基板1、2の割れを抑制できることに加えて、封着層9を有する気密部材10の信頼性を高めることが可能になる。具体的には、封着層9を形成した後のガラス基板1、2のリタデーション値を偏光顕微鏡等で観察した際に、封着層9が形成された部分のリタデーション値を100nm以下とすることができる。すなわち、封着層9の形成によりガラス基板1、2に生じるリタデーション値を100nm以下とすることができる。
【0068】
特に、封着材料ペーストの塗布開始・終了位置AS、AF、焼成用レーザ光7の照射開始・終了位置LS1、LF1、封着用レーザ光8の照射開始・終了位置LS2、LF2において、封着層9の形成によりガラス基板1、2に生じるリタデーション値を3〜100nm以下とすることができる。これによって、封着層9を有する気密部材10の信頼性を高めることができる。各位置のリタデーション値を100nm以下とすることで、封着性や封着後の信頼性を高めることができる。なお、リタデーション値の下限値は急冷プロセスであるために3nm未満とすることは困難である。
【0069】
上述した封着層9の形成により生じるリタデーション値の測定には、複屈折イメージングシステム(CRi社製、装置名:Abrio)を使用する。この方法では、複屈折イメージングシステムの光軸に対して、サンプルをガラス基板1、封着層9、ガラス基板2の順になるように設置し、サンプルの前方(ガラス基板2側)に光源と円偏光フィルタとを配置し、サンプルの後方(ガラス基板1側)に楕円偏光解析器とCCDカメラとを配置した構成が使用される。この構成において、楕円偏光解析器内の液晶光学素子の状態を変化させ、楕円偏光解析器を通過した複数の画像をCCDカメラで取得し、これらの画像を比較計算することにより、発生したリタデーションを定量化することができる。封着層9の厚さが厚い場合やレーザ吸収材の濃度が高い場合は、封着層9内部や該上下部のガラス基板1、2のリタデーションの測定が困難であるため、ガラス基板1、2の封着層9脇の部分のリタデーション値を用いる。この際のリタデーション値について、さらに説明すると、封着層9の端から2mm以内の範囲で最も値が高いものとする。
【実施例】
【0070】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0071】
(実施例1)
Bi2383質量%、B235質量%、ZnO11質量%、Al231質量%の組成を有し、平均粒径が1μmのビスマス系ガラスフリット(軟化温度:410℃)と、低膨張充填材として平均粒径が0.9μm、比表面積が12.4m2/gのコージェライト粉末と、Fe23−Al23−MnO−CuO組成を有し、平均粒径が1.9μm、比表面積が8.3m2/gのレーザ吸収材とを用意した。
【0072】
コージェライト粉末およびレーザ吸収材の比表面積は、BET比表面積測定装置(マウンテック社製、装置名:Macsorb HM model−1201)を用いて測定した。測定条件は、吸着質:窒素、キャリアガス:ヘリウム、測定方法:流動法(BET1点式)、脱気温度:200℃、脱気時間:20分、脱気圧力:N2ガスフロー/大気圧、サンプル質量:1gとした。以下の例も同様である。
【0073】
上記したビスマス系ガラスフリット66.9体積%(79.8質量%)とコージェライト粉末19.2体積%(8.8質量%)とレーザ吸収材13.9体積%(11.4質量%)とを混合して封着材料を作製した。この封着材料80質量%をビヒクル20質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。ビヒクルはバインダ成分としてのエチルセルロース(2.5質量%)をターピネオールからなる溶剤(97.5質量%)に溶解したものである。コージェライトおよびレーザ吸収材の含有量(質量%)と比表面積(m2/g)との積の総和(封着材料の流動性阻害因子)は203.7である。
【0074】
次に、無アルカリガラス(熱膨張係数:38×10-7/K)からなる第2のガラス基板(寸法:90×90×0.7mmt)を用意し、このガラス基板の封止領域に封着材料ペーストをスクリーン印刷法で70×70mmの枠状に塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。封着材料ペーストは乾燥後の膜厚が6.4μmとなるように塗布した。封着材料ペーストの枠状塗布層を形成した無アルカリガラス基板を、レーザ照射装置のサンプルホルダ上に厚さ0.5mmのアルミナ基板を介して配置した。
【0075】
次いで、波長940nm、出力密度679W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形のレーザ光を、封着材料ペーストの枠状塗布層に沿って照射した。レーザ光の照射開始位置は封止領域の第1の辺に設定した。レーザ光の走査速度は5mm/秒とした。この際の枠状塗布層の加熱温度は740℃である。レーザ光が枠状塗布層の焼成端から5mmの位置に到達した時点で走査速度を0.5mm/秒まで減速し、この走査速度でレーザ光を照射終了位置まで照射した。減速時にレーザ光の出力密度を425W/cm2に低下させた。この際の枠状塗布層の加熱温度は740℃である。レーザ光の照射終了位置は、重複照射距離が5mmとなるように設定した。このようにしてレーザ光で封着材料ペーストの枠状塗布層全体を焼成することによって、膜厚が3.8μmの封着材料層を形成した。
【0076】
得られた封着材料層の状態をSEMで観察したところ、封着材料層全体が良好にガラス化していることが確認された。封着材料層には有機バインダに起因する気泡や表面変形の発生も認められなかった。さらに、照射終了位置におけるギャップ幅を側長顕微鏡で測定したところ、レーザ光の照射終了位置にギャップは生じていない(ギャップ幅=0μm)ことが確認された。封着材料層の残留カーボン量を測定したところ、同一の封着材料ペーストの塗布層を電気炉で焼成(300℃×40分)した際の残留カーボン量と同等であることが確認された。
【0077】
次に、封着材料層を有する第2のガラス基板と第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した。次いで、波長940nm、出力密度1982W/cm2、ビーム形状が直径1.5mmの円形のレーザ光を、第2のガラス基板を通して封着材料層に沿って走査しながら照射し、封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。レーザ光の照射開始位置は封止領域の第2の辺に設定した。レーザ光の走査速度は10mm/秒とした。レーザ光の照射終了位置は、重複照射距離が3mmとなるように設定した。
【0078】
このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施したところ、いずれの気密部材もガラス基板や封着層に割れやクラックは認められず、また気密性にも優れていることが確認された。さらに、良好に封着することができた気密部材を用いて、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を前述した方法にしたがって測定した。その結果、焼成用レーザ光の照射開始位置におけるリタデーション値が20nm、また封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値が15nmと、いずれも歪みが小さく、応力が分散されていることが確認された。
【0079】
(実施例2)
実施例1と同様にして調製した封着材料ペーストを、ディスペンサ(日立プラントテクノロジー社製)を用いて、実施例1と同一組成、同一形状の第2のガラス基板の封止領域に沿って枠状に塗布した。ディスペンサによる塗布条件は、ノズル径:0.45mm、ノズル速度:30mm/秒、吐出圧力:70〜80kPaとした。このような条件で、乾燥膜厚が12〜15μm、線幅が500〜600μmの塗布膜を形成した。この塗布膜を実施例1と同一条件で乾燥した後、実施例1と同一条件でレーザ焼成して封着材料層を形成した。焼成用レーザ光の照射開始位置は封止領域の第2の辺に設定した。
【0080】
次に、封着材料層を有する第2のガラス基板と第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した後、実施例1と同一条件でレーザ封着して気密部材を作製した。封着用レーザ光の照射開始位置は封止領域の第3の辺に設定した。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。また、良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
Bi2382質量%、B236質量%、ZnO10質量%、Al231質量%、SiO21質量%の組成を有し、平均粒径が1μmのビスマス系ガラスフリット(軟化温度:410℃)と、低膨張充填材として平均粒径が0.9μm、比表面積が12.4m2/gのコージェライト粉末と、Fe23−Al23−MnO−CuO組成を有し、平均粒径が0.8μm、比表面積が8.3m2/gのレーザ吸収材とを用意した。次いで、ビスマス系ガラスフリット66.9体積%とコージェライト粉末19.1体積%とレーザ吸収材13.9体積%とを混合して封着材料を作製した。この封着材料80質量%を実施例1と同一組成のビヒクル20質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。
【0082】
上記した封着材料ペーストを使用する以外は、実施例2と同一条件で、封着材料ペーストのディスペンサによる塗布、その塗布膜のレーザ焼成、それにより形成された封着材料層を用いたレーザ封着を実施した。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。また、良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0083】
(実施例4〜6)
封着材料層に照射するレーザ光の出力密度を表1に示す条件に変更する以外は、実施例2と同一条件で気密部材を作製した。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。また、良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0084】
(実施例7)
封着材料ペーストの塗布開始位置と焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置を、いずれも封止領域の1つの辺に設定する以外は、実施例2と同一条件で気密部材を作製した。ただし、封着材料ペーストの塗布開始位置と焼成用レーザ光の照射開始位置との距離は35mmとし、また焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置との距離は15mmとした。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置とを封止領域の1つの辺の同一位置に設定する以外は、実施例1と同一条件で気密部材を作製した。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0086】
(比較例2)
封着材料ペーストの塗布開始位置と焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置とを封止領域の1つの辺の同一位置に設定する以外は、実施例2と同一条件で気密部材を作製した。このようにして10個の気密部材のレーザ封着を実施し、レーザ封着による良品数を調べた。良品の気密部材を用いて、封着材料ペーストの塗布開始位置、焼成用レーザ光の照射開始位置と封着用レーザ光の照射開始位置のリタデーション値を、実施例1と同様にして測定した。それらの結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【符号の説明】
【0088】
1…第1のガラス基板、1a…第1の表面、2…第2のガラス基板、2a…第2の表面、3…第1の封止領域、4…第2の封止領域、5…封着材料層、6…封着材料ペーストの枠状塗布層、7…焼成用レーザ光、8…封着用レーザ光、9…封着層、10…気密部材、11…気密空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の封止領域が設けられた第1の表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域が設けられた第2の表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、
前記封着材料ペーストの枠状塗布層の第1の照射開始位置から第1の照射終了位置まで、焼成用レーザ光を前記枠状塗布層に沿って走査しながら照射し、前記焼成用レーザ光で前記枠状塗布層全体を加熱することにより、前記枠状塗布層内の前記有機バインダを除去しつつ、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、
前記第1の表面と前記第2の表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記封着材料層の前記第1の照射開始位置および前記第1の照射終了位置とは異なる位置に設定された第2の照射開始位置から第2の照射終了位置まで、封着用レーザ光を前記第1または第2のガラス基板を通して前記封着材料層に沿って走査しながら照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間隙を気密に封止する封着層を形成する工程と
を具備することを特徴とする気密部材の製造方法。
【請求項2】
前記第2の照射開始位置は、前記第1の照射開始位置および前記第1の照射終了位置から3mm以上離れた位置に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の気密部材の製造方法。
【請求項3】
前記封着材料層の形成工程で、前記第1の照射終了位置に接近した位置から前記第1の照射終了位置までの終了領域における前記焼成用レーザ光の走査速度を、前記終了領域を除く前記枠状塗布層に沿った走査領域における前記焼成用レーザ光の走査速度より減速させることを特徴とする請求項1または2に記載の気密部材の製造方法。
【請求項4】
前記走査領域における前記焼成用レーザ光の走査速度を3〜20mm/秒の範囲に制御し、かつ前記終了領域における前記焼成用レーザ光の走査速度を前記第1の照射開始位置から前記焼成用レーザ光のビーム径の1.2倍手前の位置における前記焼成用レーザ光の走査速度が2mm/秒以下となるように制御することを特徴とする請求項3に記載の気密部材の製造方法。
【請求項5】
前記焼成用レーザ光の前記第1の照射終了位置を、前記第1の照射開始位置と一部が重なる位置から前記焼成用レーザ光の重複照射領域が前記焼成用レーザ光のビーム径の20倍以下となる位置までの範囲内に設定することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の気密部材の製造方法。
【請求項6】
前記封着用レーザ光の前記第2の照射終了位置を、前記第2の照射開始位置と一部が重なる位置から前記封着用レーザ光の重複照射領域が前記封着用レーザ光のビーム径の20倍以下となる位置までの範囲内に設定することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の気密部材の製造方法。
【請求項7】
前記第2の封止領域の前記第1の照射開始位置、前記第1の照射終了位置、前記第2の照射開始位置、および前記第2の照射終了位置とは異なる位置に設定された塗布開始位置から塗布終了位置まで、前記封着材料ペーストを前記第2の封止領域に沿って塗布することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の気密部材の製造方法。
【請求項8】
前記塗布開始位置は、前記第1の照射開始位置、前記第1の照射終了位置、前記第2の照射開始位置、および前記第2の照射終了位置から3mm以上離れた位置に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の気密部材の製造方法。
【請求項9】
前記塗布開始位置は前記第2の封止領域の第1の辺に設定されており、前記第1の照射開始位置は前記第2の封止領域の第2の辺に設定されており、前記第2の照射開始位置は前記第2の封止領域の第3の辺に設定されていることを特徴とする請求項7または8に記載の気密部材の製造方法。
【請求項10】
前記塗布開始位置、前記第1の照射開始位置、および前記第2の照射開始位置は、それぞれ前記第2の封止領域の1つの辺に設定されていることを特徴とする請求項7または8に記載の気密部材の製造方法。
【請求項11】
前記封着材料は、0.1〜40体積%の前記レーザ吸収材と0〜50体積%の範囲の低膨張充填材とを、前記レーザ吸収材と前記低膨張充填材との合計量として0.1〜50体積%の範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載の気密部材の製造方法。
【請求項12】
第1の封止領域を備える第1の表面を有する第1のガラス基板と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える第2の表面を有し、前記第2の表面が前記第1の表面と対向するように、前記第1のガラス基板上に所定の間隙を持って配置された第2のガラス基板と、
前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間の間隙を気密封止するように、
前記第1のガラス基板の前記第1の封止領域と前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域との間に形成され、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を溶融および固化させた材料からなる封着層とを具備し、
前記封着層の形成により生じるリタデーション値が100nm以下であることを特徴とする気密部材。
【請求項13】
前記封着層は、前記第1または第2の封止領域に形成された前記封着材料の焼成層に沿って封着用レーザ光を照射することにより形成されたものであり、
前記封着材料の焼成層に対する前記封着用レーザ光の照射開始位置および照射終了位置における前記リタデーション値が3〜100nmであることを特徴とする請求項12記載の気密部材。
【請求項14】
前記封着材料の焼成層は、前記第1または第2の封止領域に形成された前記封着材料を含むペーストの塗布層に沿って焼成用レーザ光を照射することにより形成されたものであり、
前記ペーストの塗布層に対する前記焼成用レーザ光の照射開始位置および照射終了位置における前記リタデーション値が3〜100nmであることを特徴とする請求項13記載の気密部材。
【請求項15】
前記ペーストの塗布層は、前記ペーストを前記第1または第2の封止領域に沿って塗布することにより形成されたものであり、
前記ペーストの塗布開始位置および塗布終了位置における前記リタデーション値が3〜100nmであることを特徴とする請求項14記載の気密部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−53032(P2013−53032A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191698(P2011−191698)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】