説明

水中の懸濁物質に対する凝集効果を有した凝集剤の製造方法

【課題】豆腐工場より発生する廃製品(廃豆腐)を原料とし、当該原料から、水処理プラントで使用可能な凝集剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】廃豆腐等の大豆タンパク質を含有する原料にせん断力を加え、当該大豆タンパク質を10μm以下の大きさのコロイド状となるまで微粒化し(工程A)、前記工程にて得られた微粒化物にアルコールを添加した後、得られた混合液に超音波振動を与え、更に酸を添加して混合液のpHを1〜4の範囲に調整した後、超音波振動を与え(工程B)、前記工程にて得られた混合液を室温で72時間以上放置してエステル化反応を進行させ(工程C)、大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆タンパク質を含有する原料から、水中の懸濁物質に対する凝集効果を有した凝集剤(大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤)を効率良く製造するための方法に関するものであり、特に、豆腐工場で発生する廃豆腐を減容させて廃棄物として処分するのではなく、廃豆腐を、各種の排水処理に利用可能な凝集剤に変換させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、豆腐・豆乳工場で発生する型崩れした製品や売れ残り製品などの廃棄物は、投棄するか、あるいは、脱水による減容を行うか、不安定な微生物発酵による堆肥化等を行うのが一般的であり、廃豆腐を有効活用する方法についてはほとんど知られていない。
又、土木建築現場からの濁水の処理や、工場排水の処理において使用される凝集剤としては、化学合成された難分解の高分子凝集剤と、残留成分が人体に影響があるとされる金属系凝集剤が一般的に使用されており、残留成分のない凝集剤もいくつか存在しているが、原料が高額であるために、一般的普及にはいたっていないのが現状である。
【0003】
これまでに提案されている豆腐工場からの廃棄物処理方法としては、例えば以下の特許文献1及び2が挙げられ、特許文献1に記載されている廃棄物処理方法は、廃棄物を凝集、乾燥、減容させて廃棄処分または堆肥とする方法であり、特許文献2に記載されている廃棄物処理方法は、型崩れした豆腐等の廃豆腐を乾燥減容し、これを動物飼料とする方法である。
【特許文献1】特開2002−1261号公報
【特許文献2】特開2004−357615号公報
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載される方法の場合、堆肥は、季節により使用頻度が変化するので、日々同量排出される工場廃棄物の全てを堆肥にすることができず、その多くが再利用されることなく処分される。又、上記引用文献2記載の方法に関しても、この方法によって得られた飼料は、家畜を健康的に栄養バランスよく育てることを目的として使用されるので、その需要には限界がある。
このように、豆腐工場からの廃棄物を生物的リサイクルするには量的限界が有るという問題点があった。更に、これら引用文献に記載される方法では、出発原料を変容させるだけでは廃棄物のままである為、使用する農家や畜産家では必要のない廃棄物中の含有成分等に不安が残り、対処できないという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、豆腐工場より発生する廃製品(廃豆腐)を減容や生物発酵などで変容させるのでなく、化学的反応処理(エステル化処理)を行うことで、水処理プラントで使用可能な凝集剤を製造する方法を提供することを課題とする。
上記の課題は、豆腐工場より発生する廃製品中に含まれる良質の大豆タンパク質をコロイド状態とした後、アルコールを用いてエステル化することによって、水処理プラントにおいて有用な、大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤とすることで解決可能である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、上記課題を解決可能な本発明の凝集剤の製造方法は、大豆タンパク質を含有する原料から、水中の懸濁物質を凝集させるのに有効な凝集剤を製造するための方法であって、当該方法が、
工程A:大豆タンパク質を含有する原料にせん断力を加え、当該大豆タンパク質を10μm以下の大きさのコロイド状となるまで微粒化する工程、
工程B:前記工程Aにて得られた微粒化物にアルコールを添加した後、得られた混合液に超音波振動を与え、更に酸を添加して混合液のpHを1〜4の範囲に調整した後、超音波振動を与える工程、及び
工程C:前記工程Bにて得られた混合液を室温で放置してエステル化反応を進行させ、大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤を得る工程
を含むことを特徴とする。
【0007】
又、本発明は、前記の特徴を有する製造方法において、前記の大豆タンパク質を含有する原料が廃豆腐であることを特徴とするものでもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明の凝集剤の製造方法は、豆腐工場で発生する大豆タンパク質を含む廃製品(廃豆腐)を原料としている為、たとえ水処理後の排水中に残留する場合であっても生分解するので環境負荷がないという利点がある。又、本発明の製造方法は、水中の懸濁物質を凝集させるのに有効な凝集剤を量産化することが可能なものであり、しかも、廃棄物の大豆由来タンパク質を利用することで原価を抑えることができるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の製造方法における工程A〜Cの詳細を説明する。
まず最初の工程Aにおいては、大豆タンパク質を含有する原料にせん断力を加え、当該大豆タンパク質を10μm以下の大きさ(0.0001μm〜10μmの大きさ)のコロイド状となるまで微粒化するが、この際に使用するのに適したミキサーとしては、例えば図1に示されるような内部構造を有するものが挙げられる。図1のせん断装置にあっては、回転方向が示されているローターが高速で回転することによって遠心力が生じ、この力によって上記原料が、図面の右側から吸引され、ステーターに設けられた多数の窓穴から原料が、回転軸より遠心力で垂直に噴出される際に、ローターとステーターのクリアランスにより強力なせん断力が加わって細かくせん断され、図面の上方に向かって吐出されるようになっている。尚、本発明では、図2の工程概略図に示されるようにして、豆腐製造中に出る型崩れした製品や返品された製品(廃豆腐)を、底面に水切り用穴が設けられた容器1に投入して、水分を良く取り除くことが望ましく、供給ポンプを用いて上記せん断装置2に供給するのが一般的である。
本発明における工程Aでは、せん断された大豆タンパク質の粒径が10μm以下になるようにする必要があるが、一般的な攪拌羽根等による攪拌では、このような粒径の大豆タンパク質は得られない。そして、この粒径よりも大きい場合には、後工程でエステル化処理を行ったとしても、確実にエステル化反応が進行せず、十分な凝集性能を有した凝集剤は得られない。これは、10μmを超える粒度のタンパク質分子(コロイド状態にまで微粒子化されていない分子)では、当該分子中のカルボキシル基にアルコールを効果的に作用させることができないためである。
尚、上記工程Aを実施するのに適したせん断装置としては、強力なせん断力が付与される市販のミキサーが利用でき、例えばシルバーソン社から市販されているインライン型ミキサーが好適である。
【0010】
次工程の工程Bは、コロイド状になった大豆タンパク質のエステル化を効果的に実施するための処理工程であって、この工程では、図2に示されるようにして、前記工程Aにて得られた微粒化物に、アルコール定量投入装置3から供給されるアルコールを添加した後、得られた混合液に超音波振動装置5を用いて超音波振動を付与し、更に酸定量投入装置4から供給される酸を添加して混合液のpHを1〜4の範囲に調整した後、超音波振動装置6を用いて超音波振動を付与する。
本発明では、せん断されてコロイド状になった大豆タンパク質を含むせん断物にアルコールを投入する際、一般に、上記せん断物100重量部に対して、濃度83%以上の変性アルコールを100重量部以上投入するのが一般的であるが、アルコールの投入量に関しては、これに限定されるものではない。投入されるアルコールの種類については特に限定されないが、エチルアルコールやメチルアルコールが一般的である。
そして、このアルコール添加後の混合物に、一般的な周波数20kHzの超音波振動を付与することによって、大豆タンパク質のコロイド状態を維持し、更にエステル化反応を促進させるための酸、一般的には35%塩酸を、混合物のpHが1〜4、好ましくは1になるまで添加し、再度、周波数20kHzの超音波振動を付与する。本発明における工程Bでは、大豆タンパク質をコロイド状態で維持させるために0.5〜5分間、好ましくは2分間程度、超音波が照射される。通常、コロイド状になった大豆タンパク質は、酸の添加によって酸性雰囲気になると凝集を起こすが、本発明の工程Bでは超音波振動を付与することで大豆タンパク質の凝集が起こることはなく、酸を添加した後においてもコロイド状態が維持され、大豆タンパク質の粒子径はより一層細かくなる。ただし、コロイド状になった大豆タンパク質を含むせん断物に、先に酸を添加してpH1の状態にした後でアルコールを投入すると、大豆タンパク質の凝集が起こり、目的とする凝集剤は得られない。
【0011】
最後の工程Cでは、前記工程Bにて得られた混合液を室温で一定時間放置してエステル化反応を進行させ、大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤を得るが、一般的には、図2に示される超音波振動装置6からの混合液を充填機にて適当な容器内に充填した後、常温で72時間以上放置することによりエステル化反応を進行させる。本発明では、充填を行う前の前記工程Bで得られた混合液(酸が添加された後に超音波照射されたもの)中には、エステル化タンパク質が生成されていないが、2回の超音波照射によってコロイド状態が維持された大豆タンパク質とアルコールとのエステル化反応が酸性条件下で徐々に進行し、常温であっても大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤が製造できる。
尚、本発明の製法は、揮発性のあるアルコールと劇物の酸を使用する為、製造プラントライン内での連続生産により実施することが好ましい。
【0012】
本発明では、廃豆腐をせん断と超音波振動によって細粒化することで、含有される大豆タンパク質をコロイド状態とし、この状態を維持しながらエステル化反応を効果的に行なわせることで、エステル化タンパク質を含む凝集剤が効率良く製造でき、得られた凝集剤は、大豆タンパク質の特性でプラスイオンの性質を有しているので、水中のけん濁物質に対して広いpH範囲で有用である。又、本発明の製造方法によって得られた凝集剤は、大豆タンパク質が原料であるために人体に対しても安全であり、家畜、蓄養などの飼料等の製造時及び使用時にも安全に使用でき、生分解性を有しているために、捕捉した物質と凝集剤との分離が容易に行える。更に、この凝集剤は、バクテリアによって容易に分解可能であることで沈殿物の再利用にも有効であり、河川及び海洋中に残留物での環境汚染が無く、土木建築現場濁水処理及び工場排水処理に広く有用である。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0013】
実施例1:大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤の製造例
図2に示されるようにして、豆腐工場から排出された廃豆腐を底面に水切り穴が設けられた容器内に投入し、当該廃豆腐を、図1に示されるせん断構造部を有したせん断装置(シルバーソン社製のインラインミキサー、モデルインシェアスクリーン・ファインエマルサスクリーン)へポンプを使用して120リットル/hの流量で移送し、上記せん断装置を用いて廃豆腐を10μm以下の粒径となるようにしてせん断した。そして、10μm以下の粒径にせん断された廃豆腐(流量:120リットル/h)に83%変性アルコールを120リットル/hの流量で投入し、この混合物に、周波数20kHzの超音波振動を約2分間照射した。この際、超音波照射装置としては、日本アレックス社製の超音波発生機(モデルHSG−500)を用いた。その後、このような超音波照射によりコロイド状態が維持された大豆タンパク質とアルコールとの混合物に、当該混合物のpHが1になるまで35%塩酸を投入し(塩酸の流量は2.4リットル/h)、再度、前述の装置を用いて周波数20kHzの超音波振動を約2分間照射した。上記の超音波処理を行った後の混合液をプラスチック製の容器内に充填して密閉し、室温(約20〜25℃)で72時間放置することにより、本発明による凝集剤を得た。
【0014】
実施例2:凝集剤の凝集効果確認実験
廃豆腐と前記アルコールを1:1の重量比率で混合し、得られた混合物を10μm以下の粒径にまでせん断した後、塩酸を添加することによってpHを1とし、その後、常温で72時間放置して得た凝集剤(超音波照射を行っていない比較品)と、前記実施例1で得られた凝集剤(超音波照射を行った本発明品)の、二つの凝集剤を用意し、超音波照射によって大豆タンパク質のコロイド状態を維持した場合の有効性を確認する実験を行った。
凝集効果を確認するための実験方法は以下の通りである。
1.市販の珪藻土1.25gを250mLの蒸留水に入れてマグネチックスターラで撹拌する。
2.炭酸水素ナトリウム(緩衝剤)を加えて溶液のpHを約7に調節する。
3.上記の凝集剤(6g/L)をそれぞれ、0、1、2、3、4、5mL加えて3分間撹拌する。
4.撹拌を止め、1分後と3分後に液面下5cmの位置から懸濁液0.2mLを採取する。
5.採取した試料液に2mLの蒸留水を加え、分光光度計(600nm)で吸光度Aを測定する。
6.凝集剤を全く添加していない対照実験における吸光度Aを求め、この値から比濁度A/Aを算出する。
【0015】
実験結果
図3は、上記実験における凝集剤の添加量と比濁度A/Aの関係を示したものである。Aは凝集剤を加えた系の吸光度、Aは凝集剤を加えていない系の吸光度である。吸光度は珪藻土濃度に比例するので、A/Aは撹拌を止めて1分または3分後の液面下5cmにおける珪藻土の残存率に相当し、A/A値が低いほど凝集効果が高いことを示す。凝集剤の添加量は、珪藻土に対する重量%で示した。
その結果、超音波照射していない凝集剤を用いた系では、凝集剤を2.5%添加してもA/A値が約0.5であるが、アルコール添加後及び塩酸添加後に超音波照射を行って得た本発明による凝集剤を用いた系では、添加量0.5%でA/A値が0.1まで低下し、添加量1%でA/A値がほぼ0となった。これにより、アルコール添加後及び塩酸添加後に超音波照射を行うことで、凝集剤の凝集効果が著しく向上することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明の凝集剤の製造方法は、大豆タンパク質を含む廃製品中の大豆タンパク質を原料とすることが可能であるので、従来、廃棄物として処理していた廃豆腐等を有効活用することができ、しかも、この製法で製造された凝集剤を使用することによって水中の懸濁物質を凝集させて除去でき、環境汚染を起こすことなく各種水処理に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の製造方法の工程Aにて使用されるせん断装置の好ましい内部構造の一例を示す図である。
【図2】本発明の製造方法(工程A〜C)の好ましい一例における工程図である。
【図3】実施例における超音波振動の有無による凝集効果の違いを示すグラフである。
【符号の説明】
【0018】
1 廃豆腐収容容器
2 せん断装置
3 アルコール定量投入装置
4 酸定量投入装置
5 超音波振動装置
6 超音波振動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆タンパク質を含有する原料から、水中の懸濁物質を凝集させるのに有効な凝集剤を製造するための方法であって、当該方法が、
工程A:大豆タンパク質を含有する原料にせん断力を加え、当該大豆タンパク質を10μm以下の大きさのコロイド状となるまで微粒化する工程、
工程B:前記工程Aにて得られた微粒化物にアルコールを添加した後、得られた混合液に超音波振動を与え、更に酸を添加して混合液のpHを1〜4の範囲に調整した後、超音波振動を与える工程、及び
工程C:前記工程Bにて得られた混合液を室温で放置してエステル化反応を進行させ、大豆由来のエステル化タンパク質を含む凝集剤を得る工程
を含むことを特徴とする凝集剤の製造方法。
【請求項2】
前記の大豆タンパク質を含有する原料が、廃豆腐であることを特徴とする請求項1に記載の凝集剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−272708(P2008−272708A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122140(P2007−122140)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(301059846)喜多機械産業株式会社 (2)
【出願人】(500566198)インテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】