説明

水中への鉄分の供給方法

【課題】海藻や海草などの水生植物が容易に摂取できる溶解性鉄を長期間にわたって水中に供給することができ、しかも大量且つ安価に入手可能な資材を用いることで、凡用的な利用が可能であり、湖沼や海域などの広い水域に適用可能な鉄分の供給方法を提供する。
【解決手段】製鋼スラグとフルボ酸を含む浚渫土、好ましくはフルボ酸含有量が0.002質量%以上の浚渫土を混合した混合物を水中に設置する。製鋼スラグから溶出する鉄分(二価鉄)と浚渫土中に含まれるフルボ酸が結合してフルボ酸鉄が生成し、このフルボ酸鉄を水中に長期間にわたって供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼や海域などにおいて、鉄分を水生植物(海藻、海草、水草など)が容易に摂取できるような形態で水中に供給するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸海域において海藻や海草の生育が低下し、問題視されている。この問題は、海藻や海草が利用可能な溶解性鉄の不足が一因と考えられている。また、ノリの脱色も鉄不足が原因の一つと考えられている。
沿岸海域では鉄の濃度自体は高いが、海水中では鉄は容易に酸化されて3価の鉄になって不溶化するため、海藻や海草が摂取できないと考えられる。
このような問題を解決し、鉄分を海藻や海草が容易に摂取できるような形態で水中に供給する方法として、例えば、特許文献1には、有機鉄(フルボ酸鉄)を含有する農林水産廃棄物および腐植土を含むコンクリート製の多孔質人工礁を水中に設置し、この人工礁から有機鉄を水中に供給する方法が示されている。
【0003】
また、特許文献2,3には、鉄鋼スラグと木質系腐植物や水産廃棄物を混合したものを透水性の袋体などに充填して、これを水中に設置し、鉄鋼スラグ中の二価鉄と木質系腐植物等に含まれるフルボ酸とが結合したフルボ酸鉄を水中に供給する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−61368号公報
【特許文献2】特開2005−34140号公報
【特許文献3】特開2006−345738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では腐植物や水産廃棄物などの資材を必要とするが、これらの資材を大量に安定して入手することは困難であり、したがって、凡用的な利用は難しく、また、湖沼や海域などの広い水域に適用することも難しい。
したがって本発明の目的は、海藻や海草などの水生植物が容易に摂取できる溶解性鉄を長期間にわたって水中に供給することができ、しかも大量且つ安価に入手可能な資材を用いることで、凡用的な利用が可能であり、湖沼や海域などの広い水域に適用可能な鉄分の供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、フルボ酸を含有する浚渫土があることに着目し、検討した結果、そのような浚渫土をフルボ酸源として利用でき、この浚渫土を製鋼スラグと混合し、この混合物を水中に設置することにより、製鋼スラグから溶出する鉄分(二価鉄)と浚渫土中のフルボ酸が結合してフルボ酸鉄が生成し、このフルボ酸鉄を水中に長期間にわたって供給できることを見出した。
【0007】
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]製鋼スラグとフルボ酸を含む浚渫土を混合した混合物を水中に設置することを特徴とする水中への鉄分の供給方法。
[2]上記[1]の供給方法において、浚渫土のフルボ酸含有量が0.002質量%以上であることを特徴とする水中への鉄分の供給方法。
[3]上記[1]または[2]の供給方法において、製鋼スラグ(x)と浚渫土(y)の混合比x/y(質量比)が10/90〜30/70であることを特徴とする水中への鉄分の供給方法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの供給方法において、浚渫土の硫黄含有量が0.86質量%以下であることを特徴とする水中への鉄分の供給方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製鋼スラグから溶出する鉄分(二価鉄)と浚渫土中に含まれるフルボ酸が結合してフルボ酸鉄が生成し、このフルボ酸鉄を水中に長期間にわたって供給することができる。また、特に浚渫土を用いることにより、(i)浚渫土の分解によって酸性化された底質により製鋼スラグからの鉄の溶出が促進される、(ii)浚渫土の分解によって生じた炭酸により炭酸鉄が生成し、製鋼スラグからの鉄の溶解が促進される、(iii)浚渫土中に含まれるフルボ酸のなかにはアルカリに良く溶解するものがあるため、製鋼スラグから溶出するアルカリによりフルボ酸自体の溶解性も高まる、などの効果も期待できる。
【0009】
以上のことから、海藻、海草などの水生植物が摂取可能な溶解性の鉄分を水中に持続的に供給することができる。しかも、製鋼スラグと浚渫土という大量且つ安価に入手可能な資材を用いるため、凡用的な利用が可能であり、また、湖沼や海域などの広い水域にも容易に適用できる。このため、特に沿岸の広大な海域における海藻や海草の生育促進、藻場や海草場の修復などに有効である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による水中への鉄分の供給方法は、製鋼スラグとフルボ酸を含む浚渫土を混合した混合物を水中に設置するものであり、製鋼スラグから溶出する鉄分(二価鉄)と浚渫土中に含まれるフルボ酸が結合してフルボ酸鉄が生成し、このフルボ酸鉄が水中に長期間にわたって供給される。
本発明で使用する製鋼スラグは、鉄鋼製造プロセスの製鋼工程で発生するスラグである。このような製鋼スラグとしては、例えば、転炉スラグ(脱炭スラグ)、溶銑予備処理スラグ(脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグなど)、電気炉スラグなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。但し、鉄分溶出源として使用するものであるため、トータル鉄含有量が10質量%以上のものが好ましい。
【0011】
製鋼スラグの粒度も特に限定されるものではないが、鉄分の溶出効率の面からは粒径25mm以下、より好ましくは粒径10mm以下のものが望ましい。
製鋼スラグと混合する浚渫土は、フルボ酸を含有していることが必要である。
浚渫土に含まれるフルボ酸は生物遺体に由来するものであるが、浚渫土によって、フルボ酸を殆ど含まないもの、フルボ酸を豊富に含むもの、など様々である。
【0012】
本発明で使用する浚渫土は、フルボ酸含有量は高いほど好ましいが、特にフルボ酸含有量が0.002質量%以上であることが好ましい。この理由は以下のとおりである。
まず、海藻や海草の生育の必要な海水中の溶解性Fe濃度は10μg/L以上であると考えられている。ここで、水中に設置される製鋼スラグ+浚渫土の混合物(以下、単に「混合物」という)と海水の割合を大略1:10程度と考えると、海水中の溶解性Fe濃度を10μg/Lとするのに必要な混合物から海水へのFe供給量は以下のようになる。
Fe供給量=100μg/100g-混合物
=1mg/kg-混合物
ここで、フルボ酸と溶解性Feの割合を分子量当たり1:1と考え、フルボ酸平均分子量:1000とすると、フルボ酸:Fe=1000:55.85≒18:1となり、浚渫土中に必要なフルボ酸濃度は18mg/kg-浚渫土ということになる。したがって、浚渫土のフルボ酸含有量は約0.002質量%以上であることが好ましい。
【0013】
浚渫土には硫化水素が含まれる場合が多いが、この硫黄分が製鋼スラグから溶出する鉄分と反応するため、フルボ酸鉄の生成の阻害要因となる。このため浚渫土の硫黄含有量は0.86質量%以下であることが好ましい。この理由は以下のとおりである。
製鋼スラグと浚渫土との混合比(質量比)を30:70、製鋼スラグ中のFe含有量を10質量%としたとき、製鋼スラグ+浚渫土の混合物(以下、単に「混合物」という)中のFe含有量は、30×0.1=30g/kg-混合物となる。製鋼スラグからのFeの溶出効率を5%とすると、混合物からのFe溶出量は、30×0.05=1.5g/kg-混合物となる。
【0014】
製鋼スラグから溶出するFeと浚渫土中のSの反応は1:1(Fe+S=FeS)であり、製鋼スラグから溶出するFeと浚渫土中のSの反応効率を10%と考えると、浚渫土中のS許容量(S含有量の好ましい上限)は、以下のようになる。
S許容量=1.5/55.85/0.1×32
=8.6g/kg-浚渫土
したがって、浚渫土の硫黄含有量は0.86質量%以下であることが好ましい。
【0015】
製鋼スラグと浚渫土の混合比に特別な制限はないが、製鋼スラグが少なすぎるとFe溶出量が不足し、浚渫土が少なすぎるとフルボ酸量が不足し、フルボ酸鉄の供給量も減少する。このため製鋼スラグ(x)と浚渫土(y)の混合比x/y(質量比)は10/90〜30/70程度とすることが好ましい。
製鋼スラグと浚渫土との混合方法や水中への設置(敷設)方法などに特別な制限はない。例えば、製鋼スラグと浚渫土は陸上で混合してもよいし、水中に設置するための船上で混合してもよいが、特に好ましいのは、製鋼スラグと浚渫土の混合物を水底に管体で送給するとともに、その管体内で製鋼スラグと浚渫土が混合されるようにする方法(管中混合法)である。この方法は、製鋼スラグと浚渫土とが十分に混合され、しかも施工時に水の濁りが発生しにくいという利点がある。
また、製鋼スラグと浚渫土の混合物の設置(敷設)形態も任意であるが、通常は、水底に層状に敷設される。
【実施例】
【0016】
製鋼スラグとして、250μm以下の粒度(Fe溶出促進のための試験用の粒度)に粉砕した脱炭スラグを用いた。浚渫土としては、フルボ酸含有量:0.005質量%の浚渫土A、フルボ酸含有量:0.0005質量%の浚渫土Bを用いた。
試験材としては、比較例として製鋼スラグ単体、浚渫土A単体、浚渫土B単体をそれぞれ用い、発明例として製鋼スラグと浚渫土Aの混合物(製鋼スラグ/浚渫土の質量比=1/9)、製鋼スラグと浚渫土Bの混合物(製鋼スラグ/浚渫土の質量比=1/9)をそれぞれ用いた。
【0017】
各試験材50gを人工海水500mLとともにポリ容器(500mL)内に入れ、200rpmによる往復振とう混合を72時間行い、その後、容器内容物を0.45μmメンブランによりろ過し、このろ液を濃縮カラムにて50倍濃縮した後、原子吸光計でFe濃度を測定した。その結果を表1に示す。
【0018】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
製鋼スラグとフルボ酸を含む浚渫土を混合した混合物を水中に設置することを特徴とする水中への鉄分の供給方法。
【請求項2】
浚渫土のフルボ酸含有量が0.002質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の水中への鉄分の供給方法。
【請求項3】
製鋼スラグ(x)と浚渫土(y)の混合比x/y(質量比)が10/90〜30/70であることを特徴とする請求項1または2に記載の水中への鉄分の供給方法。
【請求項4】
浚渫土の硫黄含有量が0.86質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中への鉄分の供給方法。

【公開番号】特開2011−155993(P2011−155993A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118625(P2011−118625)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【分割の表示】特願2008−322398(P2008−322398)の分割
【原出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】