説明

水中設置構造物及び水棲生物の増殖方法

【課題】 長期に亘って栄養成分を放出することができ、一定量の水棲生物を安定的に定着させることができる水中設置構造物を提供する。
【解決手段】 水棲生物の増殖を目的として水中に設置される水中設置構造物において、水中に設置される基体11と、この基体11に設けられ、周囲の水よりも比重の大きい栄養成分を密閉状態で収容する収容部111と、収容部111に設けられ、前記栄養成分が放出される放出部113と、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制する水流抑制部14とを有する。前記水流抑制部の表面又は水流抑制部14の内側領域に、前記水棲生物の繁殖と定着を促進するための生物担持体16を設けてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚介類,プランクトン類,藻類,海草類,葉上生物類などの水棲生物の増殖を目的として水底又は水底と水面の間(これらを総称して「水中」と記載する)に設置される水中設置構造物及び水棲生物の増殖方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の構造物の代表例として人工魚礁を挙げることができる。人工魚礁としては、コンクリートブロックや廃船などの構造物を海底に沈めて魚類の住処とするものや、間伐材などの自然廃材を沈めることで人工魚礁から栄養成分を水中に放出させ、藻などの地衣類を発生させることで、魚巣の形成や魚群の定着を促すものがある。
前者の人工魚礁の一例としては、例えば特許文献1に記載のものを挙げることができる。
【0003】
この人工魚礁は、コンクリート製の中空ブロックで形成されていて、その表面に海藻類の苗を植え付けたり、コンクリート材に自然岩石とか貝殻を混入したり貼り付けたりしている。
また、後者の人工漁礁の例としては、特許文献2や特許文献3に記載のものを挙げることができる。特許文献2に記載の人工魚礁は、間伐材を複数段に交叉連結して組みたてた枠体の中に捨石を収容した捨石間伐材混成漁礁である、特許文献3に記載のコンクリート構造物は、コンクリートに栄養成分を担持させ、前記栄養成分が徐々に前記構造物から溶出するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実登3092961号公報(図8参照)
【特許文献2】特開2002−218861
【特許文献3】特開2005−341887
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前者の人工漁礁に対して後者の人工漁礁は、栄養成分を放出させることで海水中の栄養不足を補い、目的とする水棲生物を繁殖させることができる点で有利である。しかし、上記した従来の人工魚礁は、潮流などの水の流れを利用して栄養成分を放出又は拡散させるものであるため、早期に栄養成分が消失してしまい、漁集効果が低下するという問題がある。そのため、人工漁礁そのものを交換するか、栄養成分の補給を行う必要があるが、人工魚礁を引き上げたり、潜水作業によって作業を行う必要があることから、コストと作業負担が大きいという問題があった。
また、栄養成分が潮流などの水の流れによって広範囲に拡散してしまうことがあり、これによっても漁集効果が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたもので、長期に亘って栄養成分を放出することができ、一定の領域に一定量の栄養成分を常に滞留させることで、目的とする水棲生物を安定的に定着させることができ、高い魚集効果を長期に亘って維持できるとともに、栄養成分の補充も簡単な水中設置構造物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者が鋭意研究を行った結果、密閉状態で、周囲の水より比重の大きい液状又は半液状の栄養成分を基体に収容し、前記栄養成分の自然拡散作用によって栄養成分が前記基体の放出部から放出されるようにすることで上記の問題を解決できることに想到した。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、水棲生物の増殖を目的として水中に設置される水中設置構造物において、水中に設置される基体と、この基体に設けられ、周囲の水よりも比重の大きい栄養成分を密閉状態で収容する収容部と、前記収容部に設けられ、前記栄養成分が放出される放出部と、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制する水流抑制部とを有する構成としてある。
請求項2に記載するように、前記水流抑制部の表面又は水流抑制部の内側領域に、前記水棲生物の繁殖と定着を促進するための生物担持体を設けてもよい。
【0009】
前記水流抑制部の例としては遮蔽板(壁)や放出部に設けられる蓋などを挙げることができるが、前記栄養成分の表面に浮かべられることで、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制するものであってもよい。このようなものとしては、栄養成分の表面に浮かべられるフロートのほか、請求項3に記載するように、前記栄養成分よりも比重が小さく周囲の水より比重の大きい成分を挙げることができ、ある程度の粘性を有する成分を用いることで、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生をより効果的に抑制することができる。
【0010】
収容部への栄養成分の補充をしやすくするために、請求項4に記載するように、前記収容部の内部に連通する補充部を設けてもよい。
栄養成分は周囲の水より比重が大きいため、補充部から流し込むだけで水中でも補充作業が容易に行え、船上や陸上からホースを使って栄養成分を収容部に流し込むことも可能である。
【0011】
請求項5に記載するように、前記放出部に、前記収容部から突出する筒体を設け、この筒体の開口から前記栄養成分が放出されるようにしてもよく、請求項6に記載するように、前記放出部又は前記筒体の開口を覆う部材を水流抑制部の全部又は一部として設けてもよい。
【0012】
前記水流抑制部の他の例としては、例えば請求項7に記載するように、前記水流抑制部は、前記放出部を囲堯して水流を遮蔽するとともに、前記栄養成分を攪拌しない範囲内で水流の出入りを許容する孔又は隙間及び水棲生物が出入りする孔又は隙間を有する遮蔽体である構成としてもよい。
前記孔は、必要最小限の水流を遮蔽体の内部に取り込んで、遮蔽体内部での水棲生物の繁殖と定着を促す。水棲生物が出入りできる孔によって水流を取り込むことができるのであれば、水流を取り入れる孔と水棲生物を出入りさせる孔とは同じものであってもよい。なお、本明細書において「孔」は水流や水棲生物、栄養成分を通過させることができれば、一般的な開口状のものに限られない広い概念で、隙間状のものや溝状のもの、メッシュ状のものも含まれる。
【0013】
請求項8に記載するように、放出部の近傍に、前記放出部から放出された栄養成分を滞留させる滞留部を設けるとよく、請求項9に記載するようにこの滞留部に生物担持体を設けるとよい。生物担持体の形態としてはリボン状,短冊状又はブラシ状のものを用いることができ、吊り下げたり、立設したり、敷設したりすることで、水棲生物の繁殖と定着を促すことができる。
請求項10に記載するように、前記栄養成分に増粘剤を添加しし及び/又は攪拌抑制手段を設けて、水流による攪拌作用を抑制ししてもよい。この場合、請求項11に記載するように、前記収容部に設けた隔壁部材で攪拌抑制手段を構成してもよい。また、アミノ酸のような有機栄養物を用いる場合には、請求項12に記載するように前記栄養成分に腐敗防止剤を混合するのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、収容部に周囲の水より比重の大きい栄養成分を収容し、収容した栄養成分の表面が水流によって乱れたり栄養成分が攪拌されたりしないようにすることで、栄養成分が自然の拡散作用によって放出部から徐々に放出される。そのため、長期間にわたって収容部に収容した栄養成分を持たせることができ、頻繁に補充したり交換したりする必要がなくなる。また、放出された栄養成分を、水中設置構造物の周囲に留まらせることで、水棲生物の繁殖と定着が長期にわたって安定的に維持される。
さらに、栄養成分の補充も、船上や陸上から比較的容易に行うことができ、作業者の作業負担を軽減できるうえ、低コストで補充を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、本発明の水中設置構造物の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する分解斜視図である。
水中設置構造物1は、栄養成分を収容して水底に設置される基体11と、この基体11に載置された筒状の遮蔽体14と、この遮蔽体14の内部に収容される生物担持体16とから概略構成される。
【0016】
[基体]
図1に示すように、基体11は、栄養成分を収容する収容部111を備えた箱状の基体本体110と、収容部111の天井部分に設けられ、収容部111に収容した栄養成分が水中に離散しないように抑制する天井部112とを有している。
天井部112には、遮蔽体14が設置される領域(図1において二点鎖線で示す領域)の内側に、放出部としての放出孔113が一つ又は複数(図示の例では四つ)形成されている。この放出孔113は、収容部111に連通していて、収容部111内の栄養成分を水中に放出することができるようになっている。
なお、栄養成分の補充は放出孔113から行うようにしてもよいが、この実施形態では、天井部112における前記領域の外側の遮蔽体14と干渉しない領域に栄養分を補充するための補充孔114を形成し、蓋115によって開閉できるようにしている。
【0017】
基体11は、コンクリートや石材、木材、樹脂、金属などで形成することができる。基体11を水底に設置する場合には、安定性を高めるために比重の大きいコンクリートや石材で形成するのが好ましい。
もちろん、基体11は金属や樹脂又は木材で形成してもよいが、樹脂又は木材で形成する場合には、基体11が流されないようにアンカーで水底に固定したり、バラストを取り付けるが好ましい。
また、収容部111の内壁には、収容した栄養成分による基体11の腐食や劣化、栄養成分の漏出を防止するために、樹脂コーティング等を施してもよいし、樹脂などで形成された別体の容器を収容部111の内部に嵌め込むようにしてもよい。
【0018】
[遮蔽体]
遮蔽体14は、収容部111から栄養成分が水流によらないで自然に放出されるようにするために、基体11の放出孔113付近での水流の発生を抑制する目的と、放出孔113から放出された栄養成分を一定領域内に滞留させ藻類の発生や魚類の誘因を促進させる目的で基体11に設置される。
遮蔽体14は、上下両端が開口する筒状の遮蔽体本体140と、この遮蔽体本体140の上部開口を閉塞する天板141とを有している。
天板141には、魚等の水棲生物が出入りできるように孔143が形成され、遮蔽体本体140の周囲には、水流が出入りできる孔142が複数形成されている。
【0019】
なお、図示の例では、天板141に対して比較的大きな角形状の孔143が一つ形成されているが、孔143は繁殖させようとする水棲生物が出入りできる大きさ及び形であればよい。
例えば、小さい円形状の孔143を天板141に複数形成してもよく、孔142から水棲生物が出入りできるのであれば、天板141に孔143は特に形成しなくてもよい。
さらに、基体11の放出孔113の周囲に水流を発生させないのであれば、天板141は特に設けなくてもよい。
【0020】
孔142は、主として水棲生物の生息に必要な水流を遮蔽体本体140内に導入する目的で形成される。この目的を達成できるのであれば、孔142の大きさや形状及び遮蔽体本体140における配置位置は問わないが、可能な限り、基体11の放出孔113の周囲に水流を起こさせないものを選択する。
この目的を達成できるのであれば、例えば孔143の形状は、図示の例のように上下方向に形成されたスリット状のものであってもよいし、丸孔状又は角孔状のものであってもよい。さらに、天板141の孔143によってこの目的を達成できるのであれば、孔142は特に設けなくてもよい。
【0021】
[生物担持体]
生物担持体16は、遮蔽体本体140内における栄養成分の滞留を補助するとともに、水棲生物の繁殖と定着を促す目的で設けられる。
この実施形態において生物担持体16は、遮蔽体本体140内に固定される支持部材162と、この支持部材162から吊り下げられるリボン状,ブラシ状又は短冊状の吊下部材161とから構成される。隣り合う吊下部材161どうしが接触しないように、適宜に吊下部材161,161の間に接触防止部材を介在させてもよい。
【0022】
吊下部材161は、藻類や海草類などの水棲生物が発生及び定着しやすい材質のものを選択するのがよく、例えば、繊維や表面に多数の凹凸を形成した樹脂などを挙げることができる。この種の繊維又は樹脂の材料としては、人工魚礁用として一般に利用されているものを用いることができるが、例えば特開平09−118775号公報に記載されているような生物付着性樹脂組成物を用いてもよい。
なお、吊下部材161には、発生させようとする例えば藻類や海草類などの種を予め植え込んでおいてもよい。
【0023】
[栄養成分]
上記構成の本発明の水中設置構造物1に使用される栄養成分としては、液状又は半液状の無機栄養物や有機栄養物を用いることができる。この栄養成分の比重は、周囲の水より若干大きい程度とするのがよく、1.05〜1.3程度であるのが好ましい。比重がこれより小さいと、栄養成分が早期に拡散、放出されてしまい、比重がこれより大きいと、栄養成分が拡散されにくくなって魚集効果を高めることができなくなる。
【0024】
これら無機栄養物や有機栄養物に無機塩や有機塩を添加した無機栄養塩や有用有機物を栄養成分として用いてもよい。
無機塩や有機塩を添加することで、例えばアミノ酸等の有機栄養物の腐敗を遅らせることができる。例えば、アミノ酸に10〜30重量%程度、好ましくは20重量%程度の無機塩又は有用塩を添加することで、栄養成分の腐敗を一年程度遅らせることができる。
【0025】
上記の栄養成分は、比重が水(海水を含む)より大きいため、水中において補充孔114から収容部111内に栄養成分を流し込むことができる。また、水より比重が大きいため、収容部111内では底部に栄養成分が溜まり、かつ、放出孔113の周辺での水流が抑制されているため、栄養成分は表面から徐々に自然作用により放出孔113から遮蔽体本体140の内部に放出されることになる。
さらに、アルギン酸やゲル化剤、寒天などを添加して粘性を増すことで、水流による攪拌の影響をより小さくして、自然拡散による放出孔113からの栄養成分の放出をより容易にすることができる。
【0026】
[作用]
上記構成の本発明の水中設置構造物1の作用を、図2を参照しながら説明する。
図2は、図1の水中設置構造物を水底に設置したときの断面図である。
栄養成分Nは、比重が周囲の水より大きいため、水中において補充孔114から収容部111内に投入することもできるし、ホースを補充孔114に接続して船上又は陸上から投入することもできる。
収容部111に収容された栄養成分Nの表面には水が接触しているが、水流は放出孔113の上に載置された遮蔽体14によって遮蔽され、栄養成分Nの表面が乱されたり栄養成分が攪拌されたりすることはない。そのため、栄養成分Nは自然放出作用により徐々に放出孔113から遮蔽体本体140の内部に放出されることになる。遮蔽体本体140の内部に放出された栄養成分Nは、生物担持体16の吊下部材161に付着したり、吊下部材161の間を浮遊したりして、遮蔽体本体140の内部に滞留し、藻類や海草類などの発生と吊下部材161への定着が促進される。これにより、魚類が水中設置構造物1の周囲に集まり、魚巣や魚群が形成される。
収容部111からは、長期に亘って栄養成分Nが放出され続けるので、上記の作用が長期に亘って持続され、水中設置構造物1の周囲や内部に魚巣や魚群が定着する。
【0027】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態にかかる水中設置構造物1′について、図3を参照しながら説明する。図3は、本発明の第二の実施形態にかかり、水中設置構造物を水底に設置したときの断面図である。なお、図3において先の実施形態と同一部位、同一箇所には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
この第二の実施形態の水中設置構造物1′において第一の実施形態の水中設置構造物1と異なるところは、天井部112の放出孔113に筒状の放出筒117を設けている点及びこの放出筒117の開口部分を包み込むようにカバー118を被せている点である。カバー118と放出筒117の開口部分との間には隙間が形成されていて、この隙間を通して栄養成分Nが遮蔽体本体140の内部へと放出される。
【0028】
このような構成とすることで、水流により影響をより抑制することができ、潮流や水流の速い水中にも本発明の水中設置構造物1′を設置して、藻類や海草類などの繁殖促進や魚巣や魚群が定着を図ることが可能になる。
また、この実施形態では、補充口114に収容部111の底部近くまで伸びる導通管119を設けてあり、新鮮な栄養成分Nが補充口114から収容部111内の古い栄養成分Nの下に投入されるようになっている。このようにすることで、収容部111内に残った古い栄養成分Nの一部が腐敗することによる新鮮な栄養成分Nの腐敗の促進を抑制することができる。
【0029】
[第三の実施形態]
次に、本発明の第三の実施形態にかかる水中設置構造物1″について、図4を参照しながら説明する。図4(a)は、本発明の第三の実施形態にかかり、水中設置構造物を水底に設置したときの断面図、(b)は隔壁の平面図である。なお、図4において図1の実施形態と同一部位、同一箇所には同一の符号を付して詳しい説明は省略する。
【0030】
この第三の実施形態の水中設置構造物1″において第一の実施形態の水中設置構造物1と異なるところは、収容部111内の上下方向に、複数層の隔壁120を設けている点である。この隔壁120は、収容部111内で栄養成分Nの表面が水流の影響によって乱れたり栄養成分が攪拌されたりしないように抑制して、栄養成分Nが可能な限り自然放出によって放出孔113から放出されるようにするために設けられる。
【0031】
隔壁120には、図4(b)の平面図に示すように、複数の孔120aを形成するか、隔壁120をメッシュ状部材から形成することで栄養成分Nと水との接触面積を一定以上に維持する。
このような構成とすることで、水流により影響をより抑制することができ、潮流や水流の速い水中にも本発明の水中設置構造物1″を設置して、藻類や海草類などの繁殖促進や魚巣や魚群が定着を図ることが可能になる。
【0032】
なお、第二の実施形態の放出筒117及びカバー118を組み合わせることで、より高い水流抑制効果を得ることができる。また、隔壁は図4に示すような横方向に限らず、縦方向に設けるものとしてもよい。
【0033】
[第四の実施形態]
次に、本発明の第四の実施形態にかかる水中設置構造物2について、図5を参照しながら説明する。
図5(a)に示すように、この実施形態では、箱状又はフレーム状に形成された基体21の中に、栄養成分Nを収容する有底筒状の収容筒24が収容される。図示の例では、基体21に収容する収容筒24を6本としているが、これ以外の本数であってもよい。
【0034】
栄養成分は、収容筒24の開口24aから放出されるが、放出量を調整するために、開口25aの径を適宜に調整したカバー25を収容筒24の上端に取り付けるようにしてもよい。
この実施形態では、栄養成分の補充は収容筒24の開口24aから行う。
図5では、図示の便宜上、一部を省略して記載しているが、この実施形態において基体21の上部には、開口24aの周囲の水流を抑制するために、ブラシ状の遮蔽体24が開口24aを取り囲むように配置される。そして、遮蔽体24の内側が、放出された栄養成分を滞留する滞留部となることで藻類や海草類などの発生が促進される。
【0035】
なお、この実施形態においても、遮蔽体24の中に生物担持体を設けてもよいが、遮蔽体24を図示するようなブラシ状のものや短冊状のもの又はリボン状のもので形成した場合には、これらの表面を生物担持体として利用してもよい。
また、図5(b)に示すように、収容筒24に収容する栄養成分Nの表面に、栄養成分Nより比重が小さく、周囲の水より比重の大きい材料を浮かべることで、水流抑制層Naを形成してもよい。この水流抑制層Naは油脂成分等で形成され、栄養成分Nが水流抑制層Naに浸潤又は透過しつつ若しくは水流抑制層Naにできた破れなどの隙間や穴を通して、開口24aから水中に拡散される。このような水流抑制層Naを形成する栄養成分Nの表面の乱れや攪拌を抑制することができる。なお、このような水流抑制手段Naは、攪拌抑制手段としても作用する。
【0036】
[第五の実施形態]
次に、本発明の第五の実施形態にかかる水中設置構造物3について、図6を参照しながら説明する。
なお、図6において第一の実施形態と同一部位、同一部材には同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。
この実施形態では、天井部112の放出孔113の上に筒状の遮蔽体34を取り付けている。この遮蔽体34には、上底部分や周面部分に栄養成分が放出される開口341を複数形成している。遮蔽体34の周囲にさらに水流を抑制するための別の遮蔽体を設けてもよい。
この実施形態では、遮蔽体34の表面を粗したり、凹凸や溝を形成するなどして、藻類や海草類などの水棲生物が定着しやすいようにしてある。すなわち、この実施形態では、遮蔽体34の表面が生物担持体を構成している。
【0037】
[第六の実施形態]
次に、本発明の第六の実施形態にかかる水中設置構造物4について、図7を参照しながら説明する。
なお、図7において第二の実施形態と同一部位、同一部材には同一の符号を付し、詳しい説明は省略する。
【0038】
この実施形態の水中設置構造物4は、第二の実施形態の水中設置構造物1′から遮蔽体14と生物担持体16を取り除き、生物担持体46を天井部112に上面に敷設した構成としてある。
この水中設置構造物4においては、天井部112の周囲に立設された基体11の側壁44が、水流を抑制する遮蔽体として機能する。また、側壁44で囲まれた領域が、膨出筒117から放出された栄養成分を滞留させる滞留部として機能する。
この実施形態の水中設置構造物4は、小型で簡単な構成であるため、水流がほとんど発生しない湾内や養殖池等での利用に適している。
【0039】
本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記の説明に限定されるものではない。
例えば、上記の説明では、主として水底に設置される構造物を例に挙げて説明したが、本発明の水中設置構造物は、アンカーやフロートなどを使って水底と水面の間に浮揚状態で設置することも可能である。
また、水中設置構造物1,1′,1″,2〜4の基本形状として四角形状のもの図示して説明したが、設置される水中の環境に応じて、円形や楕円形、多角形、不定形など、種々の形状とすることが可能である。
【0040】
さらに、生物担持体16は支持部材162から吊り下げられるものに限らず、藻類や海草類等の発生と定着を促すことができるのであれば、棒状又は板状の比較的硬い部材であってもよく、これらを基体11の天井部112や遮蔽体本体140の壁面から立設させてもよい。
また、第一の実施形態〜第六の実施形態で説明した各手段は適宜に組み合わせることができ、例えば、図5に示した第四の実施形態の遮蔽体24を図2〜図4に示した第一〜第三の実施形態の基体11に設けることも可能であり、また、図5に示した水流抑制層Naを他の実施形態の栄養成分Nに適用することも可能である。さらに、水流抑制層Naと同様に栄養成分Nの表面に浮かんだ状態で水流抑制を行うことができるのであれば、栄養成分Nの表面に板状又はボール状のフロートを浮かべるようにしてもよい。なお、これらの水流抑制手段は、栄養成分の攪拌抑制も行うことから、攪拌抑制手段としても機能する。
【0041】
さらに、図5(b)の水流抑制層Naは、他の実施形態の基体,収容部及び放出口と組み合わせて他の実施形態とは別に独立して実施することが可能である。
また、図1,2,3,4,5,6の遮蔽体や、図3,5,7のカバー又は蓋をさらに他の形態の遮蔽体や蓋,カバーとすることも可能で、メッシュ状、多孔状のもののほか、例えば図8に示すような井桁を数段に組み上げたものも使用することが可能であるし、この表面を生物担持体として利用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、海中や川中、湖中に設置される魚礁に限らず、魚介類や藻類などの水棲生物の繁殖を目的とする養殖場にも広範に適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の水中設置構造物の第一の実施形態にかかり、その構成を説明する分解斜視図である。
【図2】図1の水中設置構造物を水底に設置したときの断面図である。
【図3】本発明の第二の実施形態にかかり、水中設置構造物を水底に設置したときの断面図である。
【図4】(a)は、本発明の第三の実施形態にかかり、水中設置構造物を水底に設置したときの断面図、(b)は隔壁の平面図である。
【図5】本発明の第四の実施形態にかかり、(a)は水中設置構造物の斜視図、(b)は栄養成分の表面に水流抑制層を形成した一例を示す収容筒の拡大断面図である。
【図6】本発明の第五の実施形態にかかり、水中設置構造物の斜視図である。
【図7】本発明の第六の実施形態にかかり、水中設置構造物の断面図である。
【図8】図1,2,3,4,5,6の遮蔽体又は図3,5,7のカバー若しくは蓋の代わりとして利用可能な部材の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1,1′,1″ 水中設置構造物
11 基体
110 基体本体
111 収容部
112 天井部
113 放出孔
114 補充孔
115 蓋
117 放出筒
118 カバー
119 導通管
120 隔壁
14 遮蔽体
140 遮蔽体本体
141 天板
142 孔
143 孔
16 生物担持体
161 吊下体
162 支持部材
N 栄養成分
Na 水流抑制層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水棲生物の増殖を目的として水中に設置される水中設置構造物において、
水中に設置される基体と、
この基体に設けられ、周囲の水よりも比重の大きい栄養成分を密閉状態で収容する収容部と、
前記収容部に設けられ、前記栄養成分が放出される放出部と、
前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制する水流抑制部と、
を有することを特徴とする水中設置構造物。
【請求項2】
前記水流抑制部の表面又は水流抑制部の内側領域に、前記水棲生物の繁殖と定着を促進するための生物担持体を設けたことを特徴とする請求項1に記載の水中設置構造物。
【請求項3】
前記水流抑制部が前記栄養成分よりも比重が小さく周囲の水より比重の大きい成分で形成され、前記栄養成分の表面に浮かべられることで、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制することを特徴とする請求項1又は2に記載の水中設置構造物。
【請求項4】
前記収容部の内部に連通し、前記収容部に液状の前記栄養成分を補充するための補充部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項5】
前記放出部に、前記収容部から突出する筒体を設け、この筒体の開口から前記栄養成分が放出されるようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項6】
前記水流抑制部が前記放出部又は前記筒体の開口を覆う部材を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項7】
前記水流抑制部は、前記放出部を囲堯して水流を遮蔽するとともに、前記栄養成分を攪拌しない範囲内で水流の出入りを許容する孔又は隙間及び水棲生物が出入りする孔又は隙間を有する遮蔽体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項8】
前記放出部から放出された栄養成分を滞留させる滞留部を設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項9】
前記滞留部に前記水棲生物の繁殖と定着を促進するための生物担持体を設けたことを特徴とする請求項8に記載の水中設置構造物。
【請求項10】
前記栄養成分に増粘剤を添加し及び/又は攪拌抑制手段を設けて、水流による攪拌作用を抑制したことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項11】
前記攪拌抑制手段が、前記収容部に設けた隔壁部材であることを特徴とする請求項10に記載の水中設置構造物。
【請求項12】
前記収容部に前記栄養成分とともに腐敗防止剤を収容したことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の水中設置構造物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の水中設置構造物を利用した魚類や藻類などの水棲生物の増殖方法において、
水中に設置される基体の収容部に、密閉状態で液状又は半液状の栄養成分を収容し、
前記収容部に収容された前記栄養成分が、前記栄養成分の自然拡散作用によって前記収容部に形成した放出部から放出されるように、前記栄養成分の表面を乱したり前記栄養成分を攪拌したりする水流の発生を抑制し、
前記放出部から放出された栄養成分により、前記水中設置構造物の周囲に前記水棲生物を繁殖,定着させること、
を特徴とする水棲生物の増殖方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−111066(P2013−111066A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263217(P2011−263217)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000182247)サカイオーベックス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】