説明

水処理システム

【課題】水処理システムにおいて、ヒートポンプ容量の増加を抑制する。
【解決手段】水処理システム1aは、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続し、内部を水が流れる複数の配管区間2,22と、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間2としてこの吸熱配管区間から吸熱し、この吸熱配管区間2から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間22として、この排熱配管区間22に排熱するヒートポンプ3と、ヒートポンプ3と吸熱配管区間2との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部、またはヒートポンプ3と排熱配管区間22との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部を一時的に貯蔵する熱貯蔵手段4,24と、を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システムに関し、特にヒートポンプを用いた水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
純水製造システム等の水処理システムは、水処理のための様々な装置が配管で結ばれて構成されている。これらの装置の例として、イオン交換装置、逆浸透膜(RO膜)装置、ろ過装置などがある。各装置は性能(不純物の除去特性等)を最大限に発揮させるために、最適な水温の範囲を有している。一方、ユースポイント(使用点)では、例えば25℃、60℃、80℃等の様々な温度が要求されることがある。また、循環運転を行う部位では、循環運転に伴うポンプからの入熱などによって循環水の温度が上昇しやすくなる。このように、水処理システムでは、装置の温度要求、システム要求、システム構成などの様々な要因のために、システム内の様々な個所で温度調整を行う必要がある。
【0003】
特許文献1には超純水の製造装置が開示されている。原水槽から供給された原水は脱気槽やRO膜装置で処理され、後工程に送られる。RO膜装置における逆浸透膜の標準設計温度は25℃であるため、RO膜装置の入口点における処理水の温度をこの温度に調整するため、原水槽と脱気槽の間にいくつかの熱交換器が設置されている。
【0004】
特許文献2には、熱交換のために、ヒートポンプを水処理システムに用いた例が開示されている。ヒートポンプは、エネルギー効率の高い水処理システムとして知られている。ヒートポンプは外部熱源から熱を奪い、奪った熱を加熱対象部位に供給し、あるいは冷却対象部位から熱を奪い、奪った熱を外部に放出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−183800号公報
【特許文献2】特開2002−16036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から、水処理システム内を流通する被処理水等の温度調整を行う場合、冷却塔やボイラなどの設備を設けることが一般的であった。例えば、加熱のためにボイラを使用する場合には、ボイラに投入された熱量によって、加熱対象部位よりも高温の温水や蒸気が製造され、熱媒体である温水や蒸気の持つ熱が加熱対象部位に加えられる。冷却のために冷却塔を使用する場合には、冷却対象部位よりも低温の冷却水が製造され、冷却対象部位から熱が奪われる。
【0007】
水処理システムの場合、多くの部位は常温に近い温度に制御されており、例えばボイラで得られる温水や蒸気の温度は水処理システム内の水温よりはるかに高い。このため、温水や蒸気を配管で輸送する際、大きな放熱ロスが生じる可能性がある。
【0008】
ヒートポンプは、ボイラなどと異なり、熱媒体を過度の高温まで加熱する必要がないため、水処理システムにおける温度調整手段として有利である。また、ボイラなどと比べエネルギー効率が高く、消費電力を抑えることも容易である。しかし、水処理システム内の水温は、例えば1日の昼夜での温度変化など様々な原因によって変動する。これに対して水処理システム内の様々な装置は最適な水温範囲で作動するように構成されており、温度条件の変動に対してはヒートポンプで適切に対処する必要がある。ユースポイントで要求される温度範囲も、使用用途によっては厳密に管理される。ヒートポンプに過剰な容量(コンプレッサ容量)を持たせれば温度条件の変動による影響を緩和することはできるが、コストに多大の影響が生じる。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされ、ヒートポンプ容量の増加を抑制することの容易な水処理システム及びこれを用いた水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の水処理システムは、複数の装置と、互いに隣接する複数の装置同士を接続し、内部を水が流れる複数の配管区間と、少なくとも1つの配管区間を吸熱配管区間としてこの吸熱配管区間から吸熱し、この吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の配管区間を排熱配管区間として、この排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、ヒートポンプと吸熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部、またはヒートポンプと排熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部を一時的に貯蔵する熱貯蔵手段と、を有している。
【0011】
吸熱配管区間または排熱配管区間を流れる水がヒートポンプとの間で授受した熱量は、水の加熱または冷却に必要な熱量に対して不足する場合もあれば過剰となる場合もある。これは主として水の温度変動に基づき生じるが、水の流量、物性(熱容量等)の変化、あるいは水の目標加熱温度(または目標冷却温度)の一時的な変化によっても生じ得る。本実施態様ではヒートポンプと吸熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部、またはヒートポンプと排熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部を一時的に貯蔵する熱貯蔵手段が設けられ、余剰の熱量を貯蔵しておくことができる。従って、熱貯蔵手段が余剰の熱量を貯蔵している場合には、水の温度条件が変化して、水を所望の温度まで変化させるために必要な熱量がヒートポンプによって供給可能な熱量を上回った場合には、熱貯蔵手段に貯蔵されている余剰の熱量を利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
このように、本発明によれば、ヒートポンプ容量の増加を抑制することの容易な水処理システム及びこれを用いた水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の水処理システムの、第1の実施形態を示す概念図である。
【図2】図1に示す水処理システムの作用を概念的に示す模式図である。
【図3】図1に示す水処理システムと他の水処理システムのエネルギー利用効率を示す模式図である。
【図4】本発明の水処理システムの、第2の実施形態を示す概念図である。
【図5】本発明の水処理システムの、第3の実施形態を示す概念図である。
【図6】本発明の水処理システムの、第4の実施形態を示す概念図である。
【図7】水処理システムの構成の一例を示す概略図である。
【図8】水処理システムの構成の他の例を示す概略図である。
【図9】水処理システムの熱水殺菌時のライン構成を示す概略図である。
【図10】実施例の水処理システムの構成を示す概略図である。
【図11】実施例と各比較例の過不足熱量の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1〜6を参照して、水処理システムで好適に使用できる本発明の水処理システムに係るいくつかの実施形態について説明する。これらの図は水処理システムを構成する様々な装置のうち、各実施形態に関連する部分だけを抽出して示すものである。実際の水処理システムの例は後述する。本発明は水処理システムで特に好適に使用できるが、流体の温度調整が必要な任意のシステムに適用することができる。
【0015】
(第1の実施形態)
図1(a)を参照すると、水処理システム1aは、互いに隣接する複数の装置D1,D2同士を接続する吸熱配管区間2と、吸熱配管区間2の一部と熱的に接続されたヒートポンプ3と、第1の熱貯蔵手段4と、第1のバイパス管5と、を有している。吸熱配管区間2は水処理システム内の冷却が必要な任意の配管区間である。吸熱配管区間2は通常、水が流れるようにされているが、水以外の液体または気体を含む任意の流体が流れるようにされていてもよい。
【0016】
水処理システム1aはさらに、互いに隣接する複数の装置D3,D4同士を接続する排熱配管区間22と、第2の熱貯蔵手段24と、第2のバイパス管25とを有している。排熱配管区間22も水が流れるようにされている。ヒートポンプ3は、吸熱配管区間2の接続部6において吸熱配管区間2と熱的に接続され、吸熱配管区間2を流れる水との間で熱量の授受を行うことができる。ヒートポンプ3は排熱配管区間22の一部とも、接続部26において熱的に接続され、排熱配管区間22を流れる水との間で熱量の授受を行うことができる。このため、ヒートポンプ3を介して吸熱配管区間2と排熱配管区間22との間で熱量の授受を行うことができる。
【0017】
ヒートポンプ3は本実施形態では蒸気圧縮式を用いている。図1(b)は、図1(a)に示すヒートポンプ3の部分詳細図である。ヒートポンプ3は、アンモニア、二炭化炭素、フロン類やR410Aを始めとする代替フロン類などの冷媒を蒸発させる蒸発器3aと、冷媒を圧縮するコンプレッサ3bと、冷媒を凝縮させる凝縮器3cと、冷媒を膨張させる膨張弁3d、とを備え、これらの要素がこの順で閉ループ3e上に配置されている。冷媒は、閉ループ3e内を循環しながら、蒸発、圧縮、凝縮、膨張の熱サイクルを受ける。蒸発器3aは接続部6で吸熱配管区間2と熱的に接続しており、冷媒が蒸発した際の気化熱によって、吸熱配管区間2を流れる水から熱QCが奪われる。蒸発した冷媒はコンプレッサ3bで圧縮され、高温高圧の気相となる。冷媒は次に凝縮器3cに送られる。凝縮器3cは接続部26で排熱配管区間22と熱的に接続しており、凝縮の際に放出された凝縮熱QHが排熱配管区間22を流れる水に与えられる。凝縮した冷媒は膨張弁3dを通って減圧冷却される。このようにしてヒートポンプ3の1サイクルの運転の間に、吸熱配管区間2の冷却と排熱配管区間22の加熱が行われる。
【0018】
ヒートポンプ3は蒸気圧縮式に加えて、熱電子式、化学式、吸着式または吸収式のヒートポンプを用いることも可能である。
【0019】
第1の熱貯蔵手段4は、吸熱配管区間2のヒートポンプ3との接続部6よりも下流側に設けられており、冷却された水の少なくとも一部を一時的に貯蔵する。第1の熱貯蔵手段4としては、一般的なタンクを用いることができる。第1の熱貯蔵手段4の下流側には第1の流量調整手段11が設けられている。第1の流量調整手段11としては一般的な流量調整弁を用いることができる。
【0020】
第1のバイパス管5は接続部6の上流側で吸熱配管区間2から分岐して、第1の熱貯蔵手段4の下流側で吸熱配管区間2と合流している。分岐部には三方弁8が設けられ、吸熱配管区間2と第1のバイパス管5に流れる水の流量比を調整することができる。第1の流量調整手段11に代えて、第1のバイパス管5と吸熱配管区間2の合流部に三方弁を設けてもよい。
【0021】
吸熱配管区間2の第1のバイパス管5との合流部より下流側には第1の温度センサ9が設けられている。
【0022】
第1の制御部10は、第1の温度センサ9で測定された水の温度T2に応じて、三方弁8の開度を調整し、第1のバイパス管5へ流入する水の流量を制御するとともに、第1の流量調整手段11を調整し、第1の熱貯蔵手段4から流出する水の流量を制御する。
【0023】
第2の熱貯蔵手段24は、排熱配管区間22のヒートポンプ3との接続部26よりも下流側に設けられ、加熱された水の少なくとも一部を一時的に貯蔵する。第2の熱貯蔵手段24は第1の熱貯蔵手段4と同様、一般的なタンクを用いることができる。第2の熱貯蔵手段24の下流側には第2の流量調整手段31が設けられている。第2の流量調整手段31としては一般的な流量調整弁を用いることができる。
【0024】
第2のバイパス管25は接続部26の上流側で排熱配管区間22から分岐して、第2の熱貯蔵手段24の下流側で排熱配管区間22と合流している。分岐部には三方弁28が設けられ、排熱配管区間22と第2のバイパス管25に流れる水の流量比を調整することができる。第2の流量調整手段31に代えて、第2のバイパス管25と排熱配管区間22の合流部に三方弁を設けてもよい。
【0025】
排熱配管区間22の第2のバイパス管25との合流部より下流側には第2の温度センサ29が設けられている。
【0026】
第2の制御部30は、第2の温度センサ29で測定された水の温度T2’に応じて、第2のバイパス管25へ流入する水の流量と、第2の熱貯蔵手段24から流出する水の流量とを制御する。第2の制御部30は第1の制御部10と共通の制御部として構成することができる。
【0027】
次に、以上述べた水処理システム1aの作動について説明する。ここでは簡単な例として、温度T1’の水が一定流量で排熱配管区間22に流入し、三方弁28で排熱配管区間22と第2のバイパス管25とに分岐し、その後合流して温度T2’の温水として供給される場合を考える。温度T2’は一定の目標温度となるように制御される。これに対して温度T1’は、時間の経過に従い変動すると仮定する。また、ヒートポンプ3から加えられる供給熱量QHは一定とし、水処理システム1a内の熱交換効率や第2の熱貯蔵手段24での放熱は無視する。
【0028】
まず初期状態として、排熱配管区間22と第2のバイパス管25への流入比率が所定の値となるように三方弁28を調整しておく。ここでは簡単のために、第2のバイパス管25への流入は全くないと仮定する。第2の熱貯蔵手段24の第2の流量調整手段31は流量調整を行わない状態、すなわち水の全量がそのまま第2の熱貯蔵手段24を通過する状態としておく。その後ヒートポンプ3を起動し、水を温度T1’で供給し、第2の温度センサ29で出口側での水の温度T2’を連続的に測定する。
【0029】
温度T2’が目標温度を超えている場合には以下の操作を行う。まず、三方弁28を調整し、水の一部を第2のバイパス管25に流入させる。しかしこれだけでは、排熱配管区間22を流れる水の温度が上昇し、第2のバイパス管25を流れる水と合流して温度T2’に戻るだけであるため、温度T2’は変わらない。そこで、第2の熱貯蔵手段24の出口側に設けられた第2の流量調整手段31によって第2の熱貯蔵手段24の出口側での流量を絞り、第2の流量調整手段31を通過した水と、第2のバイパス管25を通過した水とを混合させる。これによって、合流後の水に与えられる総熱量が下がったのと同じ効果が得られ、温度T2’を下げ、温度T2’を目標温度となるように制御することができる。以上の操作を行った結果、第2の熱貯蔵手段24には温水、すなわち熱量が貯蔵されていく。
【0030】
次に、温度T2’が目標温度から下がった場合を考える。この場合には、温度T2’を目標温度に維持するために必要な熱量が不足しているため、第2の流量調整手段31を制御して、第2の熱貯蔵手段24から流出する流量を増加させる。途中で温度T2’が目標温度に回復した場合はその状態を維持する。温度T2’が目標温度に達しない場合は、第2の熱貯蔵手段24から流出する流量をさらに増加させる。この際、第2の熱貯蔵手段24の貯蔵量が減少していく場合が起こり得る。これは、第2の熱貯蔵手段24に貯蔵されていた熱量を解放し、不足分の熱量を補うことを意味する。このようにして、ヒートポンプ3から加えられる供給熱量QH以上の熱量を水に与えて、温度T2’を目標温度となるように制御することができる。
【0031】
図2は以上説明したことを模式的に示している。図2(a)は時間と温度T1’の関係を、図2(b)は時間と第2の熱貯蔵手段24内における温水の貯蔵量の関係を示している。温度T1’が高い場合は余剰の加熱量が生じるため、第2の熱貯蔵手段24に貯蔵される温水の量が増加していく(すなわち、熱量が貯蔵される)。つまり第2の貯蔵手段24は、ヒートポンプ3と排熱配管区間22との間で熱交換可能な熱量の一部を一時的に貯蔵することができる。温度T1’によっては、熱交換可能な熱量の全量を一時的に貯蔵する場合もあり得る。温度T1’が低くなると加熱量が不足するため、第2の熱貯蔵手段24に貯蔵される温水の量が減少していく(すなわち、熱量が消費されていく)。
【0032】
吸熱配管区間2の温度T2についても同様に制御することができる。入口側の温度T1が低い場合は冷却して温度の下がった水の一部を第1の熱貯蔵手段4に貯蔵しておき、温度T2が高い場合は第1の熱貯蔵手段4に貯蔵されていた低温の水を放出し、所望の温度まで水を冷却する。第1の熱貯蔵手段4は、ヒートポンプ3と吸熱配管区間2との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部(すなわち、一部または全量)を一時的に貯蔵することができる。第1の熱貯蔵手段4に実際に貯蔵されているのは冷水であるが、この冷水は吸熱配管区間2を流れる水から熱量を奪うことができる。従って、第1の熱貯蔵手段4には冷却のための熱量が貯蔵されているということができる。
【0033】
ヒートポンプ3は冷媒の蒸発時の気化熱と凝縮時の凝縮熱を利用しているため、吸熱側及び排熱側の温度とは無関係に熱移動を行うことができる。つまり、吸熱側の水温と排熱側の水温がほとんど同じ場合や、排熱側の水温が吸熱側の水温より高い場合でも熱移動が可能である。水処理システムでは、例えば発電システムなどと異なり、システム内で極端な温度差が生じることはあまりなく、一般的な熱交換器を有効利用することは困難である。このため、冷却には冷水等を、加熱には蒸気等を個別に供給する方式が一般的であったが、本発明では、ヒートポンプ3を用いているため、冷却対象の配管区間と加熱対象の配管区間の温度に拘わらず、これらの間で必要な熱量の移動が可能となっている。
【0034】
本実施形態のように、水処理システム内で一つの配管区間から吸熱しその熱で他の配管区間を加熱する方式を、熱貯蔵手段と組み合わせることで、エネルギー効率を大幅に高めることができる。この点について図3を参照して説明する。
【0035】
図3(a)は、左側に加熱が必要な配管区間における必要加熱熱量を、右側に冷却が必要な配管区間における必要吸熱熱量を示している。簡単のために、必要加熱熱量は時間に従い変動し、必要吸熱熱量は時間によらず一定とする。水処理システムにおいて必要加熱熱量が変動する原因としては、原水温度の昼夜での変動などが考えられる。
【0036】
図3(b)は、必要加熱熱量の最低値にあわせてヒートポンプ3を構成した場合を示している。冷却対象から熱量QCを奪い、これをヒートポンプ3によって移送し、加熱対象に熱量QHを与えるため、個別に冷却及び加熱を行った場合と比べてエネルギー効率が高まる。しかし、この例では吸熱熱量QCは必要吸熱熱量よりも小さいため、図3(c)に示すように、不足分の吸熱熱量QC’を他の冷却手段で補う必要がある。同様に、不足分の加熱熱量QH’も他の加熱手段で補う必要がある。
【0037】
図3(d)は、必要加熱熱量の平均値にあわせてヒートポンプ3を構成した場合を示している。この例では、ヒートポンプ3によって移送する熱量が増加するため、図3(b)に示すケースよりもさらにエネルギー効率が高まる。しかしこの例でも、吸熱熱量QCは依然として必要吸熱熱量よりも小さいため、図3(e)に示すように、不足分の吸熱熱量QC”は他の冷却手段で補う必要がある。同様に、不足分の加熱熱量QH”も他の加熱手段で補う必要がある。さらに、過剰の加熱熱量QH'''は廃棄しなければならず、エネルギー効率の低下の要因となる。
【0038】
図3(f)は、図3(d)の例において廃棄されていた過剰の加熱熱量QH'''を蓄熱し、不足分の加熱熱量QH"を過剰の加熱熱量QH'''で補う例を示している。この例は過剰の加熱熱量QH'''と不足分の加熱熱量QH"とが一致している理想的な場合を示しており、加熱のために他の加熱手段を併用する必要はない。しかし、仮に一致していなくても、過剰の加熱熱量QH'''の少なくとも一部を不足分の加熱熱量QH"の少なくとも一部として利用することができるため、エネルギー効率の向上は可能である。吸熱熱量QC”は他の冷却手段で補う必要があるが、全体としてみればエネルギーの利用効率は最も高く、エネルギー効率の大幅な向上が可能になる。
【0039】
(第2の実施形態)
図4を参照すると、第2の実施形態の水処理システム1bは、第1の実施形態に加えて、第1の熱貯蔵手段4から、接続部6の上流側でかつ第1のバイパス管5の分岐部より下流側の吸熱配管区間2に水を還流させる第1の還流管15を有している。第1の還流管15は吸熱配管区間2とともに循環ループを構成する。この循環ループでは常にヒートポンプ3による吸熱を行うことができる。第1の熱貯蔵手段4に貯蔵された冷水は周囲との熱交換によって温度が上昇する場合がある。ヒートポンプ3の冷却能力に余裕がある場合に第1の熱貯蔵手段4に貯蔵された水の再冷却を行うことで、余剰の冷却能力を維持することができる。
【0040】
第2の熱貯蔵手段24についても同様の還流管を設けることができる。図4を参照すると、排熱配管区間22の接続部26の上流側でかつ第2のバイパス管25の分岐部より下流側の排熱配管区間22に水を還流させる第2の還流管35が設けられている。第2の熱貯蔵手段24に貯蔵された温水は周囲との熱交換によって温度が低下する場合があるため、第2の還流管35によって温度の低下した水をヒートポンプ3によって再加熱することで、第2の熱貯蔵手段24に貯蔵された余剰の加熱能力を維持することができる。
【0041】
第2の熱貯蔵手段24において、第2の還流管35への流出部Lは排熱配管区間22からの流入部Hよりも下方に位置していることが望ましい。特に排熱配管区間22からの流入部Hは第2の熱貯蔵手段24の最上部に、第2の還流管35への流出部Lは第2の熱貯蔵手段24の底部に設けることが望ましい。第2の熱貯蔵手段24に水が貯蔵されている状態でヒートポンプ3の運転を開始すると、ヒートポンプ3によって加熱された温水が上側に位置する流入部Hから第2の熱貯蔵手段24に流入し、それによって、第2の熱貯蔵手段24に貯蔵されていたこれより低温の水が下部に移動する。第2の熱貯蔵手段24に高温水と低温水とが成層化された状態が一時的に生じるため、低温の水が効率的に第2の熱貯蔵手段24からヒートポンプ3に供給され、加熱効率を高めることができる。
【0042】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1、2の実施形態と同様、一つの配管区間から吸熱し、その熱で他の配管区間を加熱する場合に適用されるが、中間ループを有している点でこれらの実施形態と異なる。図5を参照すると、水処理システム1cは、第1の実施形態と同様、水が流れるようにされた吸熱配管区間2と、ヒートポンプ3と、を有している。本実施形態では、水処理システム1cは第1の中間ループ12を有している。第1の中間ループ12は、吸熱配管区間2の一部及びヒートポンプ3と、それぞれ接続部6,16において熱的に接続されている。第1の中間ループ12は、吸熱配管区間2を流れる水とヒートポンプ3との間で熱量の授受を行うための第1の熱媒体が流れるようにされている。第1の熱媒体に特に制約はなく、腐食性の強い流体やスケールの発生しやすい流体を使う必要性はない。第1の中間ループ12にCO2を充填すれば、水を充填する場合よりも効率的に熱を運搬できる。
【0043】
水処理システム1cは、第1の中間ループ12から三方弁18で分岐し、その下流で第1の中間ループ12と合流する第1の中間ループバイパス管14を有している。具体的には、第1の中間ループバイパス管14は、第1の熱媒体の流れる方向に沿ってヒートポンプ3側の接続部16の下流側で第1の中間ループ12から分岐して、吸熱配管区間2側の接続部6の上流側で第1の中間ループ12と合流している。第1の中間ループバイパス管14には、第1の中間ループ12を流れる第1の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第3の熱貯蔵手段13が設けられている。第3の熱貯蔵手段13の、第1の熱媒体の流れ方向に沿った下流側には第1の流量調整手段11が設けられている。
【0044】
吸熱配管区間2の第1の中間ループ12との接続部6より下流側には、第1の温度センサ9が設けられている。
【0045】
第1の制御部10は、第1の温度センサ9で測定された水の温度に応じて第1の中間ループバイパス管14へ流入する第1の熱媒体の流量と、第3の熱貯蔵手段13から流出する第1の熱媒体の流量とを制御する。
【0046】
水処理システム1cはさらに、排熱配管区間22と、第2の中間ループ32と、第4の熱貯蔵手段33と、第2の中間ループバイパス管34と、を有している。第2の中間ループ32は、排熱配管区間22の一部及びヒートポンプ3と、それぞれ接続部26,36において熱的に接続されている。第2の中間ループ32は、排熱配管区間22を流れる水とヒートポンプ3との間で熱量の授受を行うための第2の熱媒体が流れるようにされている。これによって、ヒートポンプ3を介して、吸熱配管区間2と排熱配管区間22との間で熱量の授受が行われる。利用可能な第2の熱媒体は、第1の熱媒体と同様に考えることができる。
【0047】
水処理システム1cは、第2の中間ループ32から三方弁38で分岐し、その下流で第2の中間ループ32と合流する第2の中間ループバイパス管34を有している。具体的には、第2の中間ループバイパス管34は、第2の熱媒体の流れる方向に沿ってヒートポンプ3側の接続部36の下流側で第2の中間ループ32から分岐して、排熱配管区間22側の接続部26の上流側で第2の中間ループ32と合流している。第2の中間ループバイパス管34には、第2の中間ループ32を流れる第2の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第4の熱貯蔵手段33が設けられている。第4の熱貯蔵手段33の、第2の熱媒体の流れ方向に沿った下流側には第2の流量調整手段31が設けられている。
【0048】
排熱配管区間22の第2の中間ループ32との接続部26より上流側には、第2の温度センサ29が設けられている。
【0049】
第2の制御部30は、第2の温度センサ29で測定された水の温度T2’に応じて第2の中間ループバイパス管34へ流入する第2の熱媒体の流量と、第4の熱貯蔵手段33から流出する第2の熱媒体の流量を制御する。
【0050】
本実施形態は2つの中間ループ12,32を備えているが、一方の中間ループを第1の実施形態のような中間ループを設けない構成とすることもできる。
【0051】
第1の中間ループ12及び第2の中間ループ32を設けることで、ヒートポンプ3の設置場所の制約が緩和される場合がある。すなわち、ヒートポンプ3が吸熱配管区間2等から離れている場合、これらの配管区間をヒートポンプ3まで引きまわす必要が生じる。水処理システムでは一般に、膜装置やイオン交換装置など圧力損失の大きい装置が多数設置されているため、圧力損失を抑えることが重要である。図5の例では、例えば吸熱配管区間2は最短の配管長で設置し、吸熱配管区間2とヒートポンプ3の間は圧力損失の小さい第1の中間ループ12で接続すればよいので、水処理システムの圧力損失を抑えることが可能である。この利点は、ヒートポンプ3が吸熱配管区間2等から離れている場合に、特に大きい。図示は省略するが、第1の中間ループ12は、必要に応じ二重、三重のループとして構成することも可能である。第2の中間ループ32についても同様である。
【0052】
さらに図示は省略するが、第1の中間ループ12と第2の中間ループ32の少なくともいずれかは、複数の配管区間と熱的に接続していていてもよい。例えば第2の中間ループ32に沿って加熱の必要な他の配管区間を設け、排熱配管区間22とともに加熱するようにしてもよい。中間ループはルートの制約が少ないため、1台のヒートポンプで複数の配管区間を同時に冷却し、複数の配管区間を同時に加熱することが容易である。
【0053】
次に、以上述べた水処理システム1cの作動について説明する。ここでは簡単な例として、温度T1’の水が一定流量で排熱配管区間22に流入し、温度T2’の温水として供給される場合を考える。温度T2’は一定の目標温度となるように制御される。これに対して温度T1’は、時間の経過に従い変動すると仮定する。ヒートポンプ3から加えられる熱量QHは一定とし、水処理システム1c内の熱交換効率や第4の熱貯蔵手段33での放熱は無視する。第2の中間ループ32はヒートポンプ3と熱的に接続されており、第2の中間ループ32を流れる第2の熱媒体は、ヒートポンプ3によって加熱され、排熱配管区間22を流れる水と熱交換して冷却される。
【0054】
まず初期状態として、第2の中間ループバイパス管34への流入比率が所定の値となるように三方弁38を調整しておく。ここでは簡単のために、第2の中間ループバイパス管34への流入は全くないと仮定する。第4の熱貯蔵手段33の出口側に設けられた第2の流量調整手段31は閉止状態としておく。その後ヒートポンプ3を起動し、水を温度T1’で供給し、第2の温度センサ29で出口側での水の温度T2’を連続的に測定する。
【0055】
温度T2’が目標温度を超えている場合には以下の操作を行う。まず、三方弁38を調整し、第2の熱媒体の一部を第2の中間ループバイパス管34に流入させる。これによって、第2の中間ループ32を循環する第2の熱媒体の流量が低下し、水に単位時間に与えられる熱量が下がる。この結果、温度T2’を下げ、温度T2’を目標温度となるように制御することができる。以上の操作を行った結果、第4の熱貯蔵手段33には昇温した第2の熱媒体、すなわち熱量が貯蔵されていく。
【0056】
次に、温度T2’が目標温度から下がった場合を考える。この場合には、温度T2’を目標温度に維持するために必要な熱量が不足しているため、第2の流量調整手段31を制御して、第4の熱貯蔵手段33に貯蔵された第2の熱媒体を所定の流量で放出させる。放出させる流量は不足する熱量に依存し、温度T2’の測定結果に基づき決定することができる。このようにして、第4の熱貯蔵手段33に貯蔵されていた熱量を解放し、不足分の熱量を補うことができるため、温度T2’を目標温度となるように制御することができる。
【0057】
吸熱配管区間2についても同様である。吸熱配管区間2は、入口側の温度T1が低い場合は冷却して温度の下がった第1の熱媒体の一部が第3の熱貯蔵手段13に貯蔵され、温度T1が高い場合は第3の熱貯蔵手段13に貯蔵されていた低温の第1の熱媒体が放出されて、水を所望の温度まで冷却する。
【0058】
(第4の実施形態)
図6を参照すると、水処理システム1dは、吸熱配管区間2及びヒートポンプ3の各々と熱的に接続され、吸熱配管区間2を流れる水とヒートポンプ3との間で熱量の授受を行うための第1の熱媒体が流れるようにされた第3の中間ループ17を有している。水処理システム1dはさらに、第1の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第3の熱貯蔵手段13を有している。第3の中間ループ17は、第3の熱貯蔵手段13を挟んで第1の循環ループ17aと第2の循環ループ17bとに区画されている。第1の循環ループ17aは、接続部6で吸熱配管区間2と熱的に接続されており、第3の熱貯蔵手段13を介して第1の熱媒体が循環するようにされている。第2の循環ループ17bは、接続部16でヒートポンプ3と熱的に接続されており、第3の熱貯蔵手段13を介して第1の熱媒体が循環するようにされている。第2の循環ループ17bは第1の熱媒体を補給するための補給管19aを備えている。
【0059】
同様に、水処理システム1dは、排熱配管区間22及びヒートポンプ3の各々と熱的に接続され、排熱配管区間22を流れる水とヒートポンプ3との間で熱量の授受を行うための第2の熱媒体が流れるようにされた第4の中間ループ37と、第2の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第4の熱貯蔵手段33と、を有している。第4の中間ループ37は、第4の熱貯蔵手段33を挟んで第3の循環ループ37aと第4の循環ループ37bとに区画されている。第3の循環ループ37aは、接続部26で排熱配管区間22と熱的に接続されており、第4の熱貯蔵手段33を介して第2の熱媒体が循環するようにされている。第4の循環ループ37bは、接続部36でヒートポンプ3と熱的に接続されており、第4の熱貯蔵手段33を介して第2の熱媒体が循環するようにされている。第4の循環ループ37bは第2の熱媒体を補給するための補給管39aを備えている。
【0060】
排熱配管区間22の入口側の温度T1’が高い場合は、加熱して温度の上がった第2の熱媒体の熱の一部が第4の熱貯蔵手段33に貯蔵され、温度T1’が低い場合は第2の流量調整手段31が調整され、第4の熱貯蔵手段33に貯蔵されていた高温の第2の熱媒体が放出されて、水を所望の温度まで加熱する。
【0061】
吸熱配管区間2の入口側の温度T1が低い場合は、冷却して温度の下がった第1の熱媒体の熱の一部が第3の熱貯蔵手段13に貯蔵され、温度T1が高い場合は第1の流量調整手段11が調整され、第3の熱貯蔵手段13に貯蔵されていた低温の第1の熱媒体が放出されて、水を所望の温度まで冷却する。
【0062】
第4の熱貯蔵手段33において、第4の循環ループ39への流出部Lは第4の循環ループからの流入部Hよりも下方に位置していることが望ましい。特に、第4の循環ループからの流入部Hは第4の熱貯蔵手段33の最上部に、第4の循環ループへの流出部Lは第4の熱貯蔵手段33の低部に位置していることが望ましい。その理由は第3の実施形態と同様である。
【0063】
以上説明したように、本発明の各実施形態では、ヒートポンプ3から供給される熱量が、配管区間の加熱または冷却に必要な熱量に対して余った場合、これを熱貯蔵手段で貯蔵し、必要な熱量が不足した場合にこれを有効利用している。従って、熱量が余っても、負荷変動に対応するためにヒートポンプの無駄な待機や抑制運転を行う必要がなく、一方熱量が不足した場合に備えてヒートポンプの容量を増加する必要もない。
【0064】
次に、以上述べた水処理システムが適用される水処理の具体例について説明する。本発明が適用される水処理システムは、超純水製造装置、排水処理装置、排水回収装置などの様々な装置(ユニット)から構成することができる。ただし、これらの装置の構成は純水の要求水質、原水や排水の水質等によって様々であり、以下に示す例はあくまで一例であることに留意されたい。
【0065】
図7(a)は、水処理システムのうち、超純水製造装置の概略構成の一例を示している。原水の温度は設置場所や季節によっても異なるが、ここでは15℃であると仮定する。純水を製造するには、原水を除濁膜108に通して懸濁物などを除去し、さらに活性炭塔109を通した後、加熱ポイント101で加熱してRO膜装置110に送る。加熱するのはRO膜装置110に用いられる逆浸透膜の標準設計温度が25℃であるためであり、原水の温度によってはこの加熱工程は不要である。RO膜装置110を出た原水はイオン交換装置111でイオン成分を除去され、一次純水タンク112に貯蔵される。イオン交換装置111に用いられる樹脂の再生のため、イオン交換装置111には薬品供給ラインが設けられており、アルカリ薬液を加熱ポイント127で加熱してイオン交換装置111に供給し、アルカリ薬液の廃液を冷却ポイント128で冷却した後、中和槽113において酸廃液と中和させる。廃液は、中和された後も必要に応じて中和槽内113で冷却される。
【0066】
一次純水タンク112に貯蔵された純水は紫外線酸化装置114、カートリッジポリッシャー装置(混床イオン交換樹脂が充填された非再生型イオン交換ユニット)115及び限外ろ過膜(UF膜)装置116を通って、各ユースポイント117において使用される。使用されなかった純水は循環ループ118を通って一次純水タンク112に回収され、さらに循環運転を続ける。この際、図示しないポンプからの入熱などによって循環中の純水の温度が上昇するため、ユースポイント117での温度要求に応じて純水を冷却する。本例では紫外線酸化装置114の入口側に冷却ポイント119が設けられている。一方、使用目的によっては60〜80℃程度の高温超純水が必要とされる場合もある。本例では、純水タンク112から高温超純水供給ライン120が分岐しており、加熱ポイント121で昇温された後、紫外線酸化装置122、カートリッジポリッシャー装置123及び限外ろ過膜装置124を通って、ユースポイント125まで送られる。使用されなかった高温超純水は一次純水タンク112に戻る前に冷却ポイント126で冷却される。
【0067】
図7(b)〜(e)は様々な排水処理装置の例を示している。排水は水処理システム内で発生したものでもよく、水処理システム外で発生したものでもよい。また、処理された排水はそのまま水処理システム外に放出されてもよく、図7(a)に示す超純水製造装置で再利用されてもよい(図中の※印)。
【0068】
図7(b)は排水に嫌気性処理及び好気性処理を行うプロセスを示している。嫌気性処理と好気性処理は各々、嫌気性微生物と好気性微生物を用いた排水処理であるが、本例では嫌気性処理(メタン発酵)の最適温度が36〜38℃(中温発酵)、53〜55℃(高温発酵)と比較的高温であるため、予め加温する必要がある。一方、好気性処理の適正温度は30℃程度であるため、嫌気性処理が終わった排水を冷却する必要がある。図7(c)は好気性処理のみを行う例を示したものであり、好気性処理の最適温度である30℃程度まで、排水が加温される。
【0069】
図7(d)は排水をストリッピング処理するプロセスを示している。ストリッピング処理とは、遊離アンモニアに蒸気や空気を吹き込んで、遊離アンモニアを排水中から除去する処理である。この処理は排水が比較的高温で供給されることが望ましいため、ストリッピング装置の入口側に加熱ポイントが設けられている。
【0070】
以上説明した嫌気性処理、好気性処理及びストリッピング処理が終了した後は、排水の温度調整は不要である。しかし、他の加熱ポイントにおいて必要とされる熱量を得るために、上記処理を受けた排水から必要に応じて吸熱することができる。そこで、これらの装置の出口側に、吸熱が可能なポイントであるという意味で冷却ポイントが設けられている。また、これらのポイントを逆に、必要に応じてヒートポンプにて吸熱した熱の排出先として利用してもよい。
【0071】
図7(e)は、超純水が使用されたシステムから回収された排水の処理システムを示している。使用可能な排水としては、例えば半導体製造の際にウエハのリンスで用いた純水など、比較的清浄なものが挙げられる。排水は、過酸化水素が混合された後に紫外線酸化装置101に送られ、主に排水中のTOC(total organic carbon)成分が除去される。次に排水は、冷却ポイント102で冷却された後、活性炭塔103で有機物や臭気成分を除去され、イオン交換装置104に送られる。紫外線酸化装置101では、排水が数時間滞留し、温度がかなり上昇することがある。そこで、紫外線酸化装置101の出口側に冷却ポイント102が設けられている。
【0072】
図8は、以上説明した装置のうち、図7(a)で説明した超純水製造装置と図7(e)で説明した排水処理システムを一つの水処理システムとして構成した例を示している。個々の要素については上述の説明を参照されたい。
【0073】
図9は、水処理システムのメンテナンスの際に熱水殺菌を行う場合のプロセスを示している。ここでは、処理水を軟化(CaイオンやMgイオンの除去)し、活性炭処理して原水とし、その原水をRO膜装置、イオン交換装置(電気式脱イオン水製造装置(EDI))に通した後に、フィルタ処理と紫外線酸化を行うシステムの例を示している。図9(a)は活性炭とRO膜を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、RO膜装置と活性炭塔とが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。図9(b)はEDI、フィルタ及び紫外線酸化装置を熱水殺菌する場合の例であり、通常時にはラインから隔離されている熱水源(加熱熱交)をラインに接続し、熱水源から破線で示すルートで熱水を供給し、EDIが熱水殺菌される。処理が終了すると、熱水は冷却されて排水される。
【0074】
図7〜9においては加熱及び冷却対象の配管区間を太線で示しているが、以上説明したように、水処理システムにおいては通常運転時、メンテナンス時を問わず、様々な加熱及び冷却対象の配管区間が存在している。本発明の水処理システムは、加熱及び冷却対象の配管区間に、個別に適用してもよいし、加熱対象の配管区間と冷却対象の配管区間とを適宜組み合わせて適用してもよい。
【0075】
(実施例)
図10に示す、中間ループを持つシステムを用いて以下の測定を行った。熱貯蔵手段としては容量5m3のタンクを用い、ヒートポンプとしてはコンプレッサ動力7.5kW、成績係数4(加温時)のものを用いた。負荷に応じたヒートポンプの調整運転は行わず、供給熱量は30kW(=7.5kW×成績係数4)で一定とした。ヒートポンプの出口温度(出湯温度)T4は65℃とした。排熱配管区間における加熱対象水の入口温度T1は1日の中で時間帯によって変動するものとし、出口温度T2は25℃となるように制御した。熱貯蔵手段からの熱媒体の放出流量は温度センサでの測定結果に基づき制御した。
【0076】
水の入口温度T1と出口温度T2は表1の通りとした。
【0077】
【表1】

【0078】
このときの水処理システムにおける2時間毎の各種パラメータの変化を表2に示している。表中、「流量(L/h)」は水の供給流量であり、6500L/hの一定値とした。「必要熱量(kW)」は水を25℃まで加温するのに必要な熱量を示しており、時間(すなわち入口温度T1)によって変動している。「過不足熱量(kW)」は、ヒートポンプの供給熱量と必要熱量との差分であり、熱量が余る場合を正、不足する場合を負としている。「貯蔵熱量(kWh)」は、熱貯蔵手段に貯蔵されている熱量である。ヒートポンプの供給熱量30kWのうち余剰分がある場合には、熱貯蔵手段に貯蔵されていくため、余剰の状態が続くと、貯蔵熱量は増加していく。図11(a)は、実施例における過不足の熱量の経時的変化をグラフに示した。
【0079】
【表2】

【0080】
表3には、中間ループにおける各種パラメータの変化を示している。温度T3は水の出口温度T2に等しいとした。「第1の熱貯蔵手段貯水量(L/h)」は時間当たりに熱貯蔵手段に貯蔵された熱媒体の量を示し、「熱貯蔵手段放水量(L/h)」は時間当たりに熱貯蔵手段から放出された熱媒体の量を示している。これに対し、表2の「貯蔵熱量(kWh)」は熱貯蔵手段にそれまでに蓄積された熱量の累積値である。
【0081】
【表3】

【0082】
実施例では、「貯蔵熱量(kWh)」が徐々に増加していき、その後温度T1が下がるとともに徐々に消費されていき、最終的に0になる。従って、他の熱源で不足分を補う必要はなく、トータルの必要加熱熱量は720kWhであった。実際に消費したエネルギーは、コンプレッサの電力に換算して180kWhとなった。ヒートポンプからの供給熱量30kWは、ヒートポンプと排熱配管区間との間で熱交換可能な熱量ということができる。10時からの20時までの間は、熱交換可能な熱量の一部だけが熱交換に用いられ、残りの熱量は熱貯蔵手段に一時的に貯蔵される。22時から8時までの間は、熱貯蔵手段に一時的に貯蔵された熱量が、排熱配管区間への排熱の不足分を補填するために用いられている。
【0083】
(比較例1)
実施例の装置構成で熱貯蔵手段を設けない場合について同様の測定を行った。結果を表4に示す。図11(b)は、比較例1における過不足の熱量の経時的変化をグラフに示した。「他の熱源からの供給熱量(kW)」は、加熱熱量が不足する場合に他の手段(ボイラ等)で補うべき熱量であり、不足する場合を負としている。前半はヒートポンプの供給熱量が必要熱量を上回るため、他の熱源からの熱供給は不要であるが、余った熱は棄てられることになる。後半ではヒートポンプの供給熱量が必要熱量を下回るため、他の熱源からの熱供給が必要となる。不足分は全て他の熱源から供給する必要がある。これに要する熱量は90kWhであった。仮に、この熱量をボイラで供給する場合、トータルの必要エネルギーは180kWh(ヒートポンプの必要エネルギー)に90kWhを加えた270kWhとなる。従って、第1の熱貯蔵手段を設けることでトータルの必要エネルギーを節約することが可能となる。
【0084】
【表4】

【0085】
(比較例2)
実施例の装置構成でヒートポンプをボイラ等の熱源に置換した構成を用いて同様の測定を行った。結果を表5に示す。図11(c)は、比較例2における過不足の熱量の経時的変化をグラフに示した。この場合、実施例と同様、トータルの必要熱量は720kWhとなるが、必要エネルギーも720kWhであり、実施例と比べて4倍のエネルギーを必要とする。
【0086】
【表5】

【符号の説明】
【0087】
1a〜1d 水処理システム
2 吸熱配管区間
3 ヒートポンプ
4 第1の熱貯蔵手段
5 第1のバイパス管
6,16,26,36 接続部
8,18,28,38 三方弁
9 第1の温度センサ
10 第1の制御部
11 第1の流量調整手段
12 第1の中間ループ
13 第1の熱貯蔵手段
14 中間ループバイパス管
22 排熱配管区間
24 第2の熱貯蔵手段
25 第2のバイパス管
29 第2の温度センサ
30 第2の制御部
31 第2の流量調整手段
32 第2の中間ループ
33 第2の熱貯蔵手段
34 第2の中間ループバイパス管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の装置と、
互いに隣接する前記複数の装置同士を接続し、内部を水が流れる複数の配管区間と、
少なくとも1つの前記配管区間を吸熱配管区間として該吸熱配管区間から吸熱し、該吸熱配管区間から吸熱した熱を、少なくとも1つの他の前記配管区間を排熱配管区間として、該排熱配管区間に排熱するヒートポンプと、
前記ヒートポンプと前記吸熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部、または前記ヒートポンプと前記排熱配管区間との間で熱交換可能な熱量の少なくとも一部を一時的に貯蔵する熱貯蔵手段と、
を有する、水処理システム。
【請求項2】
前記吸熱配管区間の前記ヒートポンプとの接続部よりも下流側に設けられた第1の熱貯蔵手段と、
前記接続部の上流側で前記吸熱配管区間から分岐して、前記熱貯蔵手段の下流側で前記吸熱配管区間と合流する第1のバイパス管と、を有している、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記吸熱配管区間の前記ヒートポンプとの接続部よりも下流側に設けられた第1の熱貯蔵手段と、
前記接続部の上流側で前記吸熱配管区間から分岐して、前記第1の熱貯蔵手段の下流側で前記吸熱配管区間と合流する第1のバイパス管と、
前記第1の熱貯蔵手段から、前記接続部の上流側でかつ前記第1のバイパス管の分岐部より下流側の前記吸熱配管区間に水を還流させる第1の還流管と、を有している、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記排熱配管区間の前記ヒートポンプとの接続部よりも下流側に設けられた第2の熱貯蔵手段と、
前記排熱配管区間の前記接続部の上流側で前記排熱配管区間から分岐して、前記第2の熱貯蔵手段の下流側で前記排熱配管区間と合流する第2のバイパス管と、を有している、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記排熱配管区間の前記ヒートポンプとの接続部よりも下流側に設けられた第2の熱貯蔵手段と、
前記排熱配管区間の前記接続部の上流側で前記排熱配管区間から分岐して、前記第2の熱貯蔵手段の下流側で前記排熱配管区間と合流する第2のバイパス管と、
前記第2の熱貯蔵手段から、前記排熱配管区間の前記接続部の上流側でかつ前記第2のバイパス管の分岐部より下流側の前記排熱配管区間に水を還流させる第2の還流管と、を有している、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
前記排熱配管区間の前記ヒートポンプとの接続部よりも下流側に設けられた第2の熱貯蔵手段と、
前記排熱配管区間の前記接続部の上流側で前記排熱配管区間から分岐して、前記第2の熱貯蔵手段の下流側で前記排熱配管区間と合流する第2のバイパス管と、
前記第2の熱貯蔵手段から、前記排熱配管区間の前記接続部の上流側でかつ前記第2のバイパス管の分岐部より下流側の前記排熱配管区間に水を還流させる第2の還流管と、を有し、
前記第2の熱貯蔵手段において、前記第2の還流管への流出部は前記排熱配管区間からの流入部よりも下方に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項7】
前記吸熱配管区間及び前記ヒートポンプの各々と熱的に接続され、前記吸熱配管区間を流れる水と前記ヒートポンプとの間で熱量の授受を行うための第1の熱媒体が流れるようにされた第1の中間ループと、
前記第1の熱媒体の流れる方向に沿って前記第1の中間ループの前記ヒートポンプとの接続部の下流側で分岐して、前記吸熱配管区間との接続部の上流側で合流する第1の中間ループバイパス管と、
前記第1の中間ループバイパス管に設けられ、該第1の中間ループを流れる前記第1の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第3の熱貯蔵手段と、を有している、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項8】
前記吸熱配管区間及び前記ヒートポンプの各々と熱的に接続され、前記吸熱配管区間を流れる水と前記ヒートポンプとの間で熱量の授受を行うための第1の熱媒体が流れるようにされた第3の中間ループと、
前記第1の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第3の熱貯蔵手段と、を有し、
前記第3の中間ループは、前記吸熱配管区間と熱的に接続され、前記第3の熱貯蔵手段を介して前記第1の熱媒体が循環するようにされた第1の循環ループと、前記ヒートポンプと熱的に接続され、前記第3の熱貯蔵手段を介して前記第1の熱媒体が循環するようにされた第2の循環ループと、を有している、請求項1に記載の水処理システム。
【請求項9】
前記排熱配管区間及び前記ヒートポンプの各々と熱的に接続され、前記排熱配管区間を流れる水と前記ヒートポンプとの間で熱量の授受を行うための第2の熱媒体が流れるようにされた第2の中間ループと、
前記第2の熱媒体の流れる方向に沿って前記第2の中間ループの前記ヒートポンプとの接続部の下流側で分岐して、前記排熱配管区間との接続部の上流側で合流する第2の中間ループバイパス管と、
前記第2の中間ループバイパス管に設けられ、該第2の中間ループを流れる前記第2の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第4の熱貯蔵手段と、を有している、請求項1、7、8のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項10】
前記排熱配管区間及び前記ヒートポンプの各々と熱的に接続され、前記排熱配管区間を流れる水と前記ヒートポンプとの間で熱量の授受を行うための第2の熱媒体が流れるようにされた第4の中間ループと、
前記第2の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第4の熱貯蔵手段と、を有し、
前記第4の中間ループは、前記排熱配管区間と熱的に接続され、前記第4の熱貯蔵手段を介して前記第2の熱媒体が循環するようにされた第3の循環ループと、前記ヒートポンプと熱的に接続され、前記第4の熱貯蔵手段を介して前記第2の熱媒体が循環するようにされた第4の循環ループと、を有する、請求項1、7、8のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項11】
前記排熱配管区間及び前記ヒートポンプの各々と熱的に接続され、前記排熱配管区間を流れる水と前記ヒートポンプとの間で熱量の授受を行うための第2の熱媒体が流れるようにされた第4の中間ループと、
前記第2の熱媒体の少なくとも一部を一時的に貯蔵する第4の熱貯蔵手段と、を有し、
前記第4の中間ループは、前記排熱配管区間と熱的に接続され、前記第4の熱貯蔵手段を介して前記第2の熱媒体が循環するようにされた第3の循環ループと、前記ヒートポンプと熱的に接続され、前記第4の熱貯蔵手段を介して前記第2の熱媒体が循環するようにされた第4の循環ループと、を有し、
前記第4の熱貯蔵手段において、前記第4の循環ループへの流出部は前記第4の循環ループからの流入部よりも下方に位置している、請求項1、7、8のいずれか1項に記載の水処理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−91117(P2012−91117A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240813(P2010−240813)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)