説明

水分散性ナッツパウダーの製法およびそれにより得られた水分散性ナッツパウダー並びにそれを用いてなるナッツソース

【課題】ナッツの成分を効率よく摂取でき、乳化剤を用いることなく水性媒体に分散させ、その分散状態を長く保つことのできる、使い勝手の良い水分散性ナッツパウダーの製法およびそれにより得られた水分散性ナッツパウダー並びにそれを水性媒体に分散させてなるナッツソースを提供する。
【解決手段】粗刻みされたナッツと砂糖の混合物を焙煎し、焙煎砂糖付ナッツを得る工程と、上記焙煎砂糖付ナッツを刃断により粉砕する工程と、粉砕された上記焙煎砂糖付ナッツをさらに加圧により微粉砕する工程とを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂質が多く含まれるナッツを、乳化剤を用いることなく、水性媒体に分散させ、その分散状態を長く保つことができる水分散性ナッツパウダーの製法およびそれにより得られた水分散性ナッツパウダー並びにそれを用いてなるナッツソースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
アーモンドやピスタチオ等に代表されるナッツにはビタミンE,食物繊維,ポリフェノール等の体に良いと言われる成分が多く含まれており、近年の健康食ブームにおいて注目を集めている。しかし、これらのナッツは、主成分が脂質であり、細かく粉砕すると中から油脂が滲みだし、パウダーではなく、いわゆるペーストになってしまうため、その利用は限定的となっている。また、いったんペーストになってしまうと水系のものには混ざらず分離してしまう。このため、このペーストを水系のものに利用したい場合には、乳化剤等の添加物を加えなければならず、無添加食品を求めるユーザーの要望に応えられないという現状にある。
【0003】
一方、ナッツを上記のようなペーストではなくパウダーにする方法として、焙煎したナッツを圧縮手段によって押し潰しながら油脂を搾り取り、この脱脂したナッツを粉砕しパウダーにする方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法では、香ばしい風味を呈する粒子の細かいナッツパウダーを提供できるものの、ナッツに含まれる油脂分は廃棄されてしまうため、油脂に含まれる各種成分を摂取することができず、また、そのままでは、ナッツパウダー表面に油脂分が付着しているため水系のものには混ざらず分離してしまうため、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−87124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、ナッツの成分を、油脂分も含めて効率よく摂取でき、しかも乳化剤を用いることなく水性媒体に分散させて、その状態を長く保つことのできる、使い勝手の良い水分散性ナッツパウダーの製法およびそれにより得られた水分散性ナッツパウダー並びにそれを用いてなるナッツソースの提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、粗刻みされたナッツと砂糖の混合物を焙煎し、焙煎砂糖付ナッツを得る工程と、焙煎砂糖付ナッツを刃断により粉砕する工程と、粉砕された焙煎砂糖付ナッツをさらに加圧により微粉砕する工程とを備える水分散性ナッツパウダーの製法を第1の要旨とする。また、第1の要旨の製法によって得られた水分散性ナッツパウダーを第2の要旨とし、第2の要旨の水分散性ナッツパウダーを水性媒体に分散させてなるナッツソースを第3の要旨とする。
【0007】
すなわち、本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、ナッツを単独で焙煎すると、その焙煎されたナッツからは油脂が出やすくなり、その後の条件を検討しても、粉砕によって焙煎されたナッツから油脂が出ることを抑えることができず、ペースト化して、パウダーにすることができないことが判明した。そこで、ナッツ単独ではなく、砂糖と一緒に焙煎して、焙煎砂糖付ナッツを作製し、これを粉砕したところ、ナッツから油脂が出ることが抑制され、良好なパウダー化を実現し得ることを突き止めた。そして、さらに研究を続けた結果、上記焙煎砂糖付ナッツを、まず刃断により粉砕し、さらに加圧により微粉砕すると、単にナッツをパウダーにできるだけでなく、得られたナッツパウダーが水性媒体に容易になじみ、その状態を長く保つことができることを見い出し、本発明に到達した。このナッツパウダーが水分散性を有する理由は定かではないが、パウダーにおけるそれぞれの粒子が、内部に油脂を抱えた状態のまま、その表面が上記のように親水基を有する砂糖でコーティングされているためではないかと推測される。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明の水分散性ナッツパウダーの製法においては、粗刻みされたナッツと砂糖との混合物を焙煎し、焙煎砂糖付ナッツを作製するようにしている。この方法によれば、まず、加熱により溶けた砂糖がナッツの表面に満遍なく付着する。そして、その状態でさらに加熱が続く(焙煎される)ため、粗刻みされたナッツの表面に付着した砂糖が皮膜化した状態で硬化し、ナッツの表面は硬化した砂糖により、いわばコーティングされた状態となる。したがって、焙煎後のナッツをパウダーにするために粉砕しても、ナッツに含まれる油脂はコーティングされた砂糖に阻まれ、容易に外部へ出ないようになっている。しかも、この焙煎砂糖付ナッツを、まず刃断により粉砕し、続いてさらに加圧により微粉砕する、という2段階の粉砕を行うため、粉砕の工程において、過度の摩擦による加熱の発生を抑制できる。このため、ナッツを粉砕、微粉砕する工程において、ナッツの表面をコーティングする砂糖の溶出が抑制され、ひいてはナッツに含まれる油脂がコーティングされた砂糖に阻まれて外部に出ることが抑制されるため、焙煎砂糖付ナッツをペーストではなく、パウダーとすることができる。さらに、このナッツパウダーは水になじみ易く、水に分散させると、コロイド溶液のように、水中にほぼ均一の分散状態で存在し、長期間その状態を保つことができる。
【0009】
また、上記粗刻みされたナッツと砂糖の混合物における砂糖の含有割合が、粗刻みされたナッツ100重量部に対し50〜150重量部の範囲内であると、ナッツの表面のコーティングを過分なく行うことができるため、ナッツパウダーの水分散性をより高めることができる。
【0010】
そして、上記焙煎条件が、温度140〜165℃、時間10〜30分間であると、ナッツの表面に砂糖のコーティングが充分になされるとともに、ナッツの風味をより高めることができるため、商品価値の高い水分散性ナッツパウダーを製造できる。なお、上記温度は、焙煎後の焙煎砂糖付ナッツの表面温度を測定し、設定するようにしてもよい。
【0011】
さらに、これらの製法によって製造された水分散性ナッツパウダーは、乳化剤を使用することなく、水分を多く含む食品へそのまま添加し用いることができる。
【0012】
また、上記水分散性ナッツパウダーを水性媒体に分散させてなるナッツソースは、乳化剤を使用することなく、長期間の分散状態を保つことができるため、都度、攪拌する必要がなく使い勝手がよい。また、このナッツソースは、ナッツパウダーが水性媒体にほぼ均一に分散しているため、他の食品と混ぜ合わせて、容易に均一な状態にすることができる。
【0013】
なお、本発明において、「ナッツ」とは、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、くるみ等の硬い殻に覆われた食用の木の実全般を意味する。
【0014】
また、本発明において、「水性媒体」とは、水、あるいは水を主成分とする溶媒を意味し、水はもちろん、糖や蜂蜜、果汁等を水に溶かしたものなどが含まれる。
【0015】
そして、本発明において、「刃断により粉砕する」とは、粉砕機に設けられた刃を内容物に当て、そのせん断力により内容物を粉砕することを意味する。このような粉砕を行う装置としては、例えば、フードカッター、カッターミル、チョップ機等があげられる。
【0016】
さらに、本発明において、「加圧により微粉砕する」とは、両側から押しつぶすような力を加え、その圧縮力により内容物を微粉砕することを意味する。このような微粉砕を行う装置としては、例えば、ロールミル、ジョークラッシャー、エッジランナー等があげられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施の形態を説明する模式図である。
【図2】上記一実施の形態における破砕された焙煎砂糖付ナッツを加圧により微粉砕する工程を説明する模式図である。
【図3】上記一実施の形態における破砕された焙煎砂糖付ナッツを加圧により微粉砕する工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明を実施するための形態について説明する。ただし、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0019】
本発明の製法は、要約すると、脂質を主成分とするナッツ粗刻み品と砂糖の混合物を焙煎し、焙煎砂糖付ナッツを作製し、これを、刃断により粉砕し、粉砕された焙煎砂糖付ナッツを、さらに、加圧により微粉砕し、水分散性を有するナッツパウダーをつくるものである。以下、アーモンドとグラニュー糖との混合物を用いて、水分散性ナッツパウダーを得る方法を例にして詳細に説明する。
【0020】
まず、粗刻みされたアーモンドとして、1/8チョップ(アーモンド1粒を約1/8サイズに刻んだもの)アーモンドを準備し、4.0パス、4.75mm角の篩でふるい、粒径が一定のサイズとなるよう調整する。この調整された粗刻みアーモンド10Kgと、グラニュー糖10Kgとを混合して混合物をつくり、この混合物をヌガマロースター(NR20、Felix Hoppe Maschinenbau GmbH社製)で、黒色に近いこげ茶色の色調を呈するまで、およそ160℃で25分間焙煎する。このとき、粗刻みアーモンドとグラニュー糖とを別々にヌガマロースターに投入し、ヌガマロースター内でこれらを混合するようにしてもよい。なお、ヌガマロースターは上記混合物を攪拌しながら焙煎するため、図1(A)に示すように、粗刻みアーモンド1の表面には、加熱により溶けたグラニュー糖2が満遍なく付着する。そして、その状態でさらに加熱されるため、図1(B)に示すように、グラニュー糖2は、粗刻みアーモンド1表面に付着した状態のまま硬化し、褐色化する。したがって、焙煎が完了した上記粗刻みアーモンド1の表面は、褐色化したグラニュー糖2’によりコーティングされた状態となっている。この焙煎直後の焙煎グラニュー糖付アーモンドの表面温度は160℃であった。なお、図1は模式的に示したものであり、各部位の実際の大きさ,形とは異なっている(以下の図においても同じ)。
【0021】
つぎに、上記焙煎グラニュー糖付アーモンドの粒径を細かくするため、これをフードカッター(robot coupe、TK.SUPPLIES社製)で、30秒間粉砕し、焙煎グラニュー糖付アーモンド粉砕品3を作製した。フードカッターにより粉砕されたアーモンドは、図1(C1)に示すように、カッターの刃が当たった部分Qは、グラニュー糖2’のコーティングがなく、刻みアーモンド1自身が露出された状態になる。しかし、フードカッター内は焙煎グラニュー糖付アーモンドが高速回転しているため、図1(C2)に示すように、刻みアーモンド1が露出した部分Qに、粉砕時に発生する発熱により溶け出したグラニュー糖2’が付着したり、粉砕により発生したグラニュー糖2’の微粉末が付着したりすることにより、その露出部分Qにも新たにグラニュー糖のコーティングがされるものと考えられる。なお、このときの焙煎グラニュー糖付アーモンド粉砕品3の、粉砕直後の品温は24.5℃であり、その平均粒径は1.0mmであった。また、本発明における平均粒径は、回折式粒度分布測定装置により測定したものをいう。
【0022】
この焙煎グラニュー糖付アーモンド粉砕品3の粒径をさらに細かくするため、図2に示すように3本ロールミル(RS−4、井上製作所社製)のロール4、4’の間を通し、刻みアーモンド1から油脂が出ないようにスピード、圧等を微調整しながら、微粉砕を行い、焙煎グラニュー糖付アーモンド微粉砕品5(アーモンドパウダー)(図3参照)を作製する。この焙煎グラニュー糖付アーモンド微粉砕品5(アーモンドパウダー)は、水分散性を有するものであった。なお、焙煎グラニュー糖付アーモンド粉砕品3を3本ロールミルにかけ、その圧力により割れたり、欠けたり等させ、その粒径を細かくしていくが、図3(D1)に示すように、その際、割れたり欠けたりした部分Rは、グラニュー糖2’のコーティングがなく、刻みアーモンド1自身が露出している。しかし、カッターミルによる粉砕時と同様に、3本ロールミル微粉砕時に発生する熱により、図3(D2)に示すように、グラニュー糖2’が溶けたり、また、3本ロールミル内を通過する際に他の粒子の表面と強く擦り合わされ、上記の露出部分Rにグラニュー糖2’が付着し、その部分Rをコーティングするようになっているものと思われる。なお、このときの焙煎グラニュー糖付アーモンド微粉砕品5(アーモンドパウダー)の、微粉砕直後の品温は26.5℃であり、その平均粒径は50μmであった。
【0023】
これによれば、従来のように、アーモンドを粉砕する前に、アーモンドに含まれる脂質を脱脂する工程が不要となり、工程の短縮化が図られる。また、アーモンドを脱脂せずに使用するため、アーモンドに含まれる各種の成分を、脂質も含めて効率よく取得することができる。また、粗刻みされたアーモンド100重量部に対し、グラニュー糖を100重量部用いた混合物を焙煎しているため、焙煎時の加熱により溶けたグラニュー糖が、満遍なくアーモンド表面に付着するようになっている。そして、その状態でさらに焙煎状態が持続するため、アーモンド表面に付着したグラニュー糖は褐色に変化・硬化し、アーモンド表面が満遍なくコーティングされた状態の、焙煎グラニュー糖付アーモンドとなる。このようにして作製されたアーモンドを二段階に分けて無理なく粉砕および微粉砕するようにしているため、余分な熱の発生が抑制され、必要以上のグラニュー糖がアーモンド表面から溶け出さず、しかもアーモンド粉砕および微粉砕面にグラニュー糖のコーティングが付与されるようになっているため、アーモンドに含まれる脂質が外部に出ることが効果的に防がれる。そして、アーモンド表面がグラニュー糖に由来する親水性を有するようになっているため、得られたアーモンドパウダーが水分散性を有するようになっているものと推察される。
【0024】
つぎに、得られたアーモンドパウダーを用いて、水分散性アーモンドソースをつくる場合について、説明を行う。
【0025】
上記得られたアーモンドパウダーは、上記で説明したように、微粉砕品の各粒子の表面が、親水性を有するグラニュー糖でコーティングされた状態になっているものと推察される。このため、上記アーモンドパウダー100gに、水を40g加えたものを、湯煎(80℃)にかけて温めることにより、上記アーモンドパウダーが水に均一に分散するようになる。そして、その分散は長期間安定して保たれる。また、この水分散性アーモンドソースの糖度は63%であるため、保存料を加えなくても長期間の保存が可能である。なお、上記糖度の測定は、屈折糖度計(N−3E、ATAGO社製)により行っている。そして、上記水分散性アーモンドソースは、アーモンドパウダーに由来する黒っぽい茶褐色を有し、比較的粘度の高い液体であるが、糖やトレハロース等を溶かした液体を適宜加えることにより、その粘度の調整を任意に行うことができる。
【0026】
この構成によれば、アーモンドパウダーと水とが分離するのを防ぐために、乳化剤を使用する必要がない。また、得られた水分散性アーモンドソースの糖度が63%と高く、長期間の保存が可能であるため、余分な添加物を加える必要がない。そして、この水分散性アーモンドソースは、アーモンドパウダーがほぼ均一に水に分散している状態であるため、他の食品に容易に混ぜ合わせて使用することができる。特に、今までアーモンドパウダーを乳化剤なしに混ぜ合わせることのできなかった、水分の多い食品に混ぜ合わせることができる、という利点を有する。
【0027】
なお、上記の例では、ナッツとして、アーモンドを用いているが、その他にも、ピスタチオ,ヘーゼルナッツ,カシューナッツ,ピーナッツ,クルミ,マカデミアナッツ等の、硬い殻に覆われた、食用の実全般を用いることができる。ナッツの風味をより生かすことができる点で、アーモンド,ヘーゼルナッツ,カシューナッツが好ましく用いられる。また、ある品種を単独で用いてもよいし、複数を組み合わせても用いることができる。さらに、品種を複数組み合わせて用いる際に、ヘーゼルナッツおよびカシューナッツの少なくとも一方を含むように組み合わせると、ナッツが有する独特の雑穀味を低減させることができるため、好ましい。
【0028】
また、上記の例では、粗刻みされたアーモンドとして、1/8チョップのものを用いているが、1/4,1/10,1/12チョップ等、その他のサイズに粗刻みされたものを用いることもできる。なかでも、焙煎と、後の工程における粉砕とのバランスの点から、粗刻みのナッツ(アーモンド以外のナッツを含む、以下同じ)の大きさは、100μm〜7mmの範囲のものが好ましく用いられる。
【0029】
そして、上記の例では、砂糖として、グラニュー糖を用いているが、上白糖、中白糖、三温糖、ザラメ、粉糖、角砂糖、氷砂糖や、赤砂糖、黒砂糖、サトウキビまたはサトウダイコンを材料としてつくったショ糖(サッカロース)を主成分とする甘味料全般を用いることができる。取り扱いが容易な点で、グラニュー糖が好ましく用いられる。
【0030】
さらに、上記の例では、粗刻みされたアーモンド100重量部に対し、グラニュー糖を100重量部用いて混合物としているが、本発明の製法におけるナッツに対する砂糖の割合は、これに限られない。なかでも、本発明の製法におけるナッツに対する砂糖の割合は、50〜150重量部の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは80〜100重量部の範囲である。すなわち、粗刻みされたナッツが多すぎると、表面のコーティングが充分に行うことができない傾向がみられ、逆に、砂糖が多すぎると、ナッツが上手く焙煎できず、また、得られる水分散性ナッツパウダーの風味が劣る傾向がみられるためである。
【0031】
また、上記の例では、破断により粉砕する装置として、フードカッターを用いているが、カッターミル、チョップ機等を用いることもできる。なかでも、粉砕の効率と、熱の発生とのバランスが取れている点で、フードカッターが好ましく用いられる。
【0032】
そして、上記の例では、加圧により微粉砕する装置として、3本ロールミルを用いているが、その他のロールミル、ジョークラッシャー、エッジランナー等を用いることもできる。微粉砕の効率と、熱の発生とのバランスが取れている点で、3本ロールミルが好ましく用いられる。
【0033】
また、上記の例では、焙煎グラニュー糖付アーモンドの、カッターミル粉砕品(焙煎グラニュー糖付アーモンド粉砕品3)の平均粒径は1mmであるが、これに限らず、0.1〜2mmの範囲に設定することが好ましい。すなわち、この範囲において、後の工程でのロールミル等による微粉砕工程での粉砕の効率化と、ナッツからの油脂の滲み出しの効果的な抑制を図ることができる。
【0034】
そして、上記の例では、3本ロールミルによる微粉砕品(焙煎グラニュー糖付アーモンド微粉砕品5)の平均粒径は50μmであるが、3本ロールミルの微粉砕条件を設定することにより、適宜の粒径の微粉砕品を得ることができる。ただし、ナッツからの油脂のしみ出し防止と、水系での均一分散性を得るためには、45〜105μmの範囲に設定することが好ましい。
【0035】
なお、ナッツは脂質を主成分としているが、その含有割合は、例えば、アーモンドは脂質を53.6重量%、カシューナッツは47.6重量%、ヘーゼルナッツは69.3重量%というように、種類により異なっている。そして、この脂質含有割合の違いによって、上記微粉砕品として適する平均粒径が異なる傾向がみられる。すなわち、脂質含量が60.0重量%を超えるナッツ〔例えば、ヘーゼルナッツ、くるみ(68.8重量%)、マカダミアナッツ(76.7重量%)等〕では、上記微粉砕品の平均粒径が100〜105μmの範囲にあることが好ましく、脂質含量が60.0重量%以下であるナッツ〔例えば、アーモンド、ピスタチオ(56.1重量%)、カシューナッツ(47.6重量%)等〕では、上記微粉砕品の平均粒径が45〜60μmの範囲にあることが好ましい。脂質含量が高いと、粉砕の程度が進むにつれ、内部から脂質が滲み出し、ペースト状になる傾向がみられるためである。なお、上記の各ナッツの脂質含量は、「五訂増補日本食品標準成分表」の記載に基づいている。
【0036】
そして、上記の例では、アーモンドとグラニュー糖との混合物の焙煎を、温度160℃で行っているが、ナッツと砂糖の混合物の焙煎は、この温度に限らず、温度140〜165℃の範囲で行うことが好適である。また、その焙煎を25分間行っているが、焙煎温度や焙煎する混合物量にもよるが、10〜30分の範囲で間行うことが好ましい。なお、その際、上記混合物の表面がスーパーディープといわれる黒に近い茶褐色になるように焙煎することが好ましい。スーパーディープになるように焙煎すると、得られるナッツパウダーが香ばしいナッツの風味がより強く感じられるようになるためである。
【0037】
また、上記の例では、水分散性のアーモンドパウダー100gに水40gを加えて、アーモンドソースを作製しているが、その他の分量の水を加えてアーモンドソースを作製するようにしてもよい。なお、ナッツパウダー100重量部に対し、水20〜40重量部を加えてナッツソースを作製するようにすると、水中でのナッツパウダーの分散安定性が優れ、しかも、高い糖度により、保存料無添加で長期の保存が可能となるため、好ましい。
【実施例】
【0038】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0039】
〔実施例1〕
粗刻みされた1/8チョップのアーモンド900gと、グラニュー糖900gとを混合し、これをヌガマロースター(NR20、Felix Hoppe Maschinenbau GmbH社製)で、温度160℃で、15分間焙煎を行い、焙煎グラニュー糖付アーモンドを作製した。作製した焙煎グラニュー糖付アーモンドの色は、ディープ色と呼ばれるこげ茶色を呈していた。これを放冷後、フードカッター(robot coupe、TK.SUPPLIES社製)で、30秒間粉砕し、粉砕直後の品温が24.5℃であり、その平均粒径が1mmの粉砕品をつくった。さらにこの粉砕品を3本ロールミル(RS−4、井上製作所社製)で、微粉砕し、目的とする水分散性ナッツパウダーを得た。このナッツパウダーは、上記焙煎された混合物の色と同様の、こげ茶色を呈しており、微粉砕直後の品温が26.5℃であり、その平均粒径は50μmであった。
【0040】
〔実施例2〕
実施例1のアーモンドに代えて、カシューナッツを用いたほかは、実施例1と同様にして目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0041】
〔実施例3〕
実施例1のアーモンド900gに代えて、アーモンド300g、カシューナッツ300g、ヘーゼルナッツ300gの混合ナッツを用いたほかは、実施例1と同様にして目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、67μmであった。
【0042】
〔実施例4〕
実施例1における焙煎条件を、温度145℃、時間10分間としたほかは、実施例1と同様にして目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0043】
〔実施例5〕
実施例1における焙煎条件を、温度165℃、時間25分間としたほかは、実施例1と同様にして目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0044】
〔実施例6〕
実施例1のグラニュー糖900gに代えて、グラニュー糖300gを用いたほかは、実施例1と同様にして、目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0045】
〔実施例7〕
実施例1のグラニュー糖900gに代えて、グラニュー糖1500gを用いたほかは、実施例1と同様にして、目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
〔実施例8〕
実施例1のグラニュー糖900gに代えて、グラニュー糖450gを用いたほかは、実施例1と同様にして、目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0046】
〔実施例9〕
実施例1において、カッターミル粉砕品の平均粒径を2mmとしたほかは、実施例1と同様にして、目的とするナッツパウダーを得た。このナッツパウダーの平均粒径は、50μmであった。
【0047】
〔比較例1〕
実施例1において、グラニュー糖を用いず、さらに焙煎も行わないほかは、実施例1と同様にして目的とする比較例1品を得た。
【0048】
〔比較例2〕
実施例1において、グラニュー糖を用いないほかは、実施例1と同様にして目的とする比較例2品を得た。
【0049】
〔比較例3〕
実施例1において、カッターミルによる粉砕を行わないほかは、実施例1と同様にして目的とする比較例3品を得た。
【0050】
〔比較例4〕
実施例1において、3本ロールミルによる微粉砕を行わないほかは、実施例1と同様にして、目的物とする比較例4品を得た。
【0051】
〔比較例5〕
実施例1の粗刻みされた1/8チョップのアーモンドに代えて、粗刻みされていないアーモンドを用いた。しかし、これをヌガマロースターで焙煎し、作製した焙煎グラニュー糖付アーモンドは、焼きむらが多く、均一な状態で焙煎されていないことが明らかであった。このため、その後の工程(粉砕、微粉砕)を行わなかった。したがって、比較例5品を得ることができなかった。
【0052】
得られたこれらの実施例および比較例品について、以下の項目の評価を行い、その結果を後記の〔表1〕および〔表2〕に示した。
【0053】
〔水分散性〕
水に対する分散性について評価を行った。具体的には、実施例および比較例品各100gに対し、40gの水をそれぞれ加え、これを湯煎(80℃)にかけながら5分間攪拌して、ナッツソースを得た。このナッツソースを30分放置した後、その状態を観察し、以下の基準に従い評価した。
◎:むらなく均一に混ざり、粒子が目立たない。分離はみられない。
○:むらなく均一に混ざるが、やや粒子が目立つ。分離はみられない。
×:均一に混ざらず、分離がみられる。
【0054】
〔水分散安定性〕
ナッツパウダーの水における分散の安定性について評価を行った。具体的には、水分散性の評価で使用したナッツソースを、常温(およそ20℃)で2ヶ月保存し、保存後の状態を観察し、以下の基準に従い評価した。
◎:保存前後で変化が殆どみられない。
○:保存後の方がやや沈殿物が多いものの、それ以外の変化は殆どみられない。
△:保存前後でやや状態が異なるが、分離はみられない。
×:保存前後で明らかに状態が異なり、分離がみられる。
【0055】
〔味覚(官能試験)〕
水分散性の評価で使用した、ナッツソースについて、味覚に関する官能試験を行い、以下の基準に従い評価し、その平均を記載した。なお、官能試験は、特別の訓練を受けている男女10人のパネラーによって行った。また、比較例品において、水に分散させることができなかったものについては、評価自体ができなかったため、表中に「−」で示している。
◎:ナッツの香ばしい風味が充分にあり、おいしいと感じられる。
○:ナッツの香ばしい風味はやや劣るものの、おいしいと感じられる。
△:ナッツの香ばしい風味はするものの、雑穀臭のような不快な臭いを感じ、ややおいしさにかけると感じられる。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
上記の結果から、実施例品はいずれの評価も高く、特に実施例3品は全ての評価が◎と高評価であった。これらに対し、比較例1〜4品は、水に分散させること自体ができなかった。また、比較例5では、焙煎自体が上手くできず、比較例5品を得ることができなかったため、各項目の評価ができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の水分散性ナッツパウダーの製法は、使い勝手の良い水分散性ナッツパウダーを製造することができる。また、それにより得られた水分散性ナッツパウダーは、乳化剤を用いることなく水性媒体に分散させることができる。さらに、この水分散性ナッツパウダーは、牛乳や生クリーム等にも水性媒体と同様に分散させることができるため、各種パン、菓子類へ広く利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗刻みされたナッツと砂糖の混合物を焙煎し、焙煎砂糖付ナッツを得る工程と、焙煎砂糖付ナッツを刃断により粉砕する工程と、粉砕された焙煎砂糖付ナッツをさらに加圧により微粉砕する工程とを備えることを特徴とする水分散性ナッツパウダーの製法。
【請求項2】
上記粗刻みされたナッツと砂糖の混合物における砂糖の含有割合が、粗刻みされたナッツ100重量部に対し50〜150重量部の範囲内である請求項1記載の水分散性ナッツパウダーの製法。
【請求項3】
上記焙煎条件が、温度140〜165℃、時間10〜30分間である請求項1または2記載の水分散性ナッツパウダーの製法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製法によって得られたことを特徴とする水分散性ナッツパウダー。
【請求項5】
請求項4記載の水分散性ナッツパウダーを水性媒体に分散させてなることを特徴とするナッツソース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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