説明

水平補償機能を有する除振装置

【課題】床面に経年的に僅かな局所的な上下が生じても、複数の除振台ユニットに支持されている除振対象物の水平性を維持できる水平補償機能を有する除振装置を得る。
【解決手段】単一の除振対象物と床面との間の異なる平面位置に位置する複数の除振台ユニット;除振対象物の異なる平面位置における基準水平面からの沈み込み量を検知する沈み込み量検知器18,20;及びこの沈み込み量検知器18,20が検知した沈み込み量に応じて複数の除振台ユニットの気密圧力室13に対する供給圧力を変化させる供給圧力制御機構17;を有する水平補償機能を有する除振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気ばね式の除振装置に関し、特に水平補償機能を有する除振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気ばね式の除振装置は、除振対象物と床面との間に位置する拡縮可能な気密圧力室を有している。この除振装置では、床面の振動に応じて動的に気密圧力室の圧力を上下させることで床面の振動が除振対象物に伝達されないようにするアクティブ制御が可能であり、また気密圧力室への基礎圧力を上下させることで、床面と除振対象物との距離を変化させるスタティック制御を行うこともできる。
【0003】
除振対象物が小型であれば、一つの除振対象物に一台の除振台(ユニット)を対応させればよい。しかし、除振対象物が大型になると、一つの除振対象物に対して異なる平面位置に位置させた複数(一般的に3台以上)の除振台ユニットを必要とする。
【特許文献1】特開平8-195179号公報
【特許文献2】特開平7-310779号公報
【特許文献3】特開平7-93036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように複数の除振台ユニットを用いて単一の除振対象物の除振を行うと、床面の水平度が問題となる。しかし、従来の制御系では、床面の変位(経時的な沈み込み)を考慮していない。このため、床面と除振対象物との距離が各除振台ユニット部分において変化しなくても、床面自体が上下に変位してしまえば、除振対象物の水平性が損なわれてしまう。
【0005】
本発明は、以上の問題点の発見に基づき、床面に経年的に僅かな上下変位が生じても、複数の除振台ユニットに支持されている除振対象物の水平性を維持できる水平補償機能を有する除振装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、除振対象物の異なる平面位置における床面の基準水平面からの変位を検知し、その検知結果を各除振台ユニットにフィードバックすれば、除振対象物の水平性を維持することができるという着眼に基づいてなされたものである。
本発明の水平補償機能を有する除振装置は、単一の除振対象物と床面との間の異なる平面位置に位置し、それぞれ拡縮可能な気密圧力室を有していて該気密圧力室への供給空気圧力の大小により床面と上記除振対象物との距離を変化させる複数の除振台ユニット;除振対象物の異なる平面位置における基準水平面からの沈み込み量を検知する沈み込み量検知器;及びこの沈み込み量検知器が検知した沈み込み量に応じて上記複数の除振台ユニットの気密圧力室に対する供給圧力を変化させる供給圧力制御機構;を有することを特徴としている。
【0007】
沈み込み量検知器は、具体的には、床面に設置した3個以上の液面測定器から構成し、各液面測定器は、床面に設置した水平検知カップと、複数の水平検知カップを連通させる連通路と、これらの水平検知カップ及び連通路内に入れた自由液体と、各水平検知カップ内の自由液面高さと床面との距離を検知する高さ検知器とから構成することができる。3個以上の相互に連通する水平検知カップ内の自由液面と、この自由液面と床面との距離を検知する高さ検知器によれば、基準水平面からの床面のずれを検知することができる。
【0008】
除振対象物が剛体であると仮定できる場合には、3個の水平検知カップによって平面を確定できるから、水平検知カップと除振台ユニットとを一対一で対応させなくとも、除振対象物の異なる平面位置における基準水平面からの沈み込み量を検知することが可能である。しかし、除振対象物は実際には大荷重弾性体であると考えられ、異なる平面位置における基準水平面からの微小な沈み込み量を問題にする場合には、4個以上の水平検知カップを用いることが好ましい。特に水平検知カップは、各除振台ユニットに対応させて設けるのがよい。そして、供給圧力制御機構は、各水平検知カップ内の自由液面高さに応じて対応する除振台ユニットの気密圧力室の圧力を制御する。
【0009】
自由液体は、勿論水でもよいが、粘度が低く非揮発性で安価に入手可能なミシンオイル、スピンドルオイル、エチレングリコール、またはイオン性液体を用いることが望ましい。
【0010】
また、床面の水平が補償されている状態での除振機能を発揮するため、各除振台ユニットに対応させて、除振対象物と床面との距離を測定するZ方向変位計を設け、供給圧力制御機構により、このZ方向変位計の検出高さに応じて、対応する除振台ユニットの気密圧力室の圧力を制御することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、除振対象物の異なる平面位置における床面の基準水平面からのずれを検知し、除振対象物を支持する複数の除振台ユニットにフィードバックするので、除振対象物の水平を補償した上で除振作用を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明による水平補償機能を有する除振装置の一実施形態を示す平面図である。この実施形態では、単一の除振対象物(例えば液晶パネル製造装置、大型の精密加工機等、半導体製造装置)Oの下面に均等に分散させて4個の除振台ユニット10が配置されている。全ての除振台ユニット10は同一構造(同一仕様)であり、図1、図2及び図4に示すように、床面Fに固定される固定プレート11と、除振対象物Oの下面に固定される(除振対象物Oの下面を支える)可動プレート12とを有し、固定プレート11と可動プレート12の間に、鉛直ベローズ13が配置されている。鉛直ベローズ13は鉛直方向の気密圧力室を構成し、この鉛直ベローズ13内への供給する供給空気圧力の大小により、固定プレート11(床面F)に対する可動プレート12の高さ位置が変化する。床面F上にはまた、各除振台ユニット10毎に、平面矩形をなす可動プレート12の各辺に対応する4つの固定縦壁14が立設固定されており、各固定縦壁14と可動プレート12の各辺垂直面との間に、水平方向の気密圧力室を構成する水平ベローズ15が配置されている。すなわち、水平ベローズ15は、各除振台ユニット10につき直交二方向に各2個ずつ合計4個存在し、これらの水平ベローズ15に対する供給空気圧力の制御により、可動プレート12の水平方向の位置が制御される。このような除振台ユニット10の具体的構造は各種が知られている。
【0013】
各除振台ユニット10には、液面測定器20が付設されている。各液面測定器20は、対応する除振台ユニット10近傍の床面Fの基準水平面からのずれを検知するもので、この実施形態では、平面矩形をなす除振対象物Oの四隅外側の4カ所に同一仕様で設けられている(各除振台ユニット10は、各液面測定器20の内側位置に設けられている)。図3は、4個の液面測定器20のみを描いたもので、その位置に応じ、R(右)、L(左)、F(前)、及びB(後)の符号を付した。
【0014】
各液面測定器20は、図5ないし図7に詳細を示すように、床面F上に固定される基準プレート21と、この基準プレート21上に固定した水平検知カップ22と高さ測定器支持ロッド23とを備えている。4個の水平検知カップ22は、連通パイプ(連通路)24(図1、図3も参照)によって相互に連通しており、その連通した通路及びカップ内に自由液体25が入れられている。
【0015】
自由液体25の量は、図5に示すように、各水平検知カップ22内の適当な高さ位置に自由液面が来るように定められる。自由液体25としては、例えば粘度が低く非揮発性で安価な、ミシンオイル、スピンドルオイル、エチレングリコール、またはイオン性液体を用いることが好ましい。
【0016】
高さ測定器支持ロッド23には、レーザ測長器(高さ検知器)26を有する測長器ユニット27が支持されている。レーザ測長器26は、水平検知カップ22内の自由液体25の自由液面に対してレーザ光を発射し、その反射光から床面Fと自由液面高さとの距離(自由液面高さとレーザ測長器26の基準高さとの間の距離)を測定するものである。このようなレーザ測長器は知られている。
【0017】
床面Fは、本除振装置を設置するときに可及的に水平面とするものである。この水平面を基準水平面とし、このときのレーザ測長器26の検知距離を基準とすると、床面Fが基準水平面からずれない限り(床面Fが沈み込んだり浮き上がったりしない限り)、各水平検知カップ22内の自由液体25の自由液面と床面Fとの距離は変化しない。一方、床面Fが基準水平面から上下にずれる(正負の沈み込みが発生する)と、各水平検知カップ22内の自由液体25の自由液面と床面F(レーザ測長器26)との距離が変化する。例えば、床面Fが沈み込むと、自由液体25の自由液面高さ(基準水平面に対応)は変化しないのに対し、自由液面とレーザ測長器26との距離は小さくなるため、基準水平面からのずれが検知される。
【0018】
図8は、本除振装置の制御系を示している。4個の液面測定器20のうちのいずれかが床面Fの正負の沈み込みを検知すると、その液面測定器20に対応する除振台ユニット10用の鉛直ベローズ用アクチュエータ17がその除振台ユニット10の鉛直ベローズ13への供給圧力を増加させて可動プレート12の固定プレート11に対する位置を上昇させる。4個の液面測定器20と対応する除振台ユニット10は、独立しているから、これら4個の除振台ユニット10に対する供給圧力の制御を独立して行うことにより、除振対象物Oの水平性を補償することができる。すなわち、床面Fの局所的な沈み込みによって除振対象物Oが微小に弾性変形する場合にも水平性を補償することができる。
【0019】
Z方向変位計18は、除振対象物O(可動プレート12)と床面Fとの距離を測定するもので、各除振台ユニット10の側部に設置されている(図1参照)。鉛直ベローズ用アクチュエータ17はまた、このZ方向変位計18の検出距離に応じて、鉛直ベローズ13に対する供給圧力を制御する。Z方向変位計18による鉛直ベローズ13への供給圧力制御は、主に振動が除振対象物Oに伝達されないようにするアクティブな制御である。これに対し、液面測定器20による鉛直ベローズ13への供給圧力制御は、床面Fが基準水平面からずれたときにも除振対象物Oの水平を補償するスタティックな制御である。本実施形態は、このスタティックな制御を特徴としている。スタティックな制御量は、例えば1/1000mmオーダーである。
【0020】
以上の実施形態では、液面測定器20を各除振台ユニット10に対応させて設置しており、微小な床面の上下位置変位に対応することができる。しかし、例えば、除振装置の設置環境によって、特定の除振台ユニット10に液面測定器20を付設できないような場合には、除振対象物Oを剛体と仮定し、3点以上の液面測定器20の測定結果から、液面測定器20が存在しない部分の沈み込み量を推定することができる。また、除振対象物Oの下面は平面である(平面を維持する)と仮定することができる場合には、液面測定器20は異なる平面位置に最低3点に設置すればよい。すなわち、除振対象物Oの下面にできるだけ正三角形の頂点位置に位置させて3個の液面測定器20を設置すれば、除振対象物Oの異なる平面位置における基準水平面からのずれ(全体の基準水平面からのずれ)を検知する沈み込み量検知器を構成することができる。そして、この沈み込み量検知器が検知した沈み込み量(各除振台ユニット10が存在する部分における床面Fの基準水平面からのずれ量)に応じて各除振台ユニット10の鉛直ベローズ13への供給圧力を制御することで、除振対象物Oの水平を補償することができる。勿論、除振対象物Oが実際には大荷重弾性体であることを考慮すれば、除振台ユニット10(液面測定器20)は4個以上を用いることが好ましく、設置数を増加するに従って、より精度の高い制御が可能になることは言うまでもない。
【0021】
以上の実施形態では、各除振台ユニット10につき4個の水平ベローズ15が存在しており、これらの水平ベローズ15に対する供給空気圧力の制御により、可動プレート12の水平方向の位置が制御可能である。しかし、本発明は、除振台ユニット10が水平ベローズ15を有するか否か、及びその制御態様を問題としない。また、液面測定器20の水平検知カップ22内の自由液面高さと床面との距離を検知する高さ検知器は、レーザ測長器26以外の高さ検知器を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による水平補償機能を有する除振装置の一実施形態を示す平面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】図1の除振装置から自由液面検知装置群を取り出して描いた平面図である。
【図4】図1の除振装置に含まれる一つの除振台及び自由液面検知装置の正面図である。
【図5】一つの自由液面検知装置の正面図である。
【図6】図5の平面図である。
【図7】図5の右側面図である。
【図8】本発明による水平補償機能を有する除振装置の制御系を示す図である。
【符号の説明】
【0023】
O 除振対象物
F 床面
10 除振台ユニット
11 固定プレート
12 可動プレート
13 鉛直ベローズ
14 固定縦壁
15 水平ベローズ
17 鉛直ベローズ用アクチュエータ
18 Z方向変位計
20 液面測定器
21 基準プレート
22 水平検知カップ
23 高さ測定器支持ロッド
24 連通パイプ(連通路)
25 自由液体
26 レーザ測長器(高さ測定器)
27 測長器ユニット


【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一の除振対象物と床面との間の異なる平面位置に位置し、それぞれ拡縮可能な気密圧力室を有していて該気密圧力室への供給空気圧力の大小により床面と上記除振対象物との距離を変化させる複数の除振台ユニット;
上記除振対象物の異なる平面位置における基準水平面からの沈み込み量を検知する沈み込み量検知器;及び
この沈み込み量検知器が検知した沈み込み量に応じて上記複数の除振台ユニットの気密圧力室に対する供給圧力を変化させる供給圧力制御機構;
を有することを特徴とする水平補償機能を有する除振装置。
【請求項2】
請求項1記載の水平補償機能を有する除振装置において、上記沈み込み量検知器は、床面上に設置した3個以上の液面測定器からなっていて、各液面測定器は、床面に設置した水平検知カップと、複数の水平検知カップを連通させる連通路と、これらの水平検知カップ及び連通路内に入れた自由液体と、各水平検知カップ内の自由液面高さと床面との距離を検知する高さ検知器と備えている水平補償機能を有する除振装置。
【請求項3】
請求項2記載の水平補償機能を有する除振装置において、上記水平検知カップは、各除振台ユニットに対応させて設けられており、上記供給圧力制御機構は、各水平検知カップ内の自由液面高さに応じて対応する除振台ユニットの気密圧力室の圧力を制御する水平補償機能を有する除振装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項記載の水平補償機能を有する除振装置において、上記自由液体は、ミシンオイル、スピンドルオイル、エチレングリコール及びイオン性液体のいずれかである水平補償機能を有する除振装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項記載の水平補償機能を有する除振装置において、各除振台ユニットに対応させて、上記除振対象物と床面との距離を測定するZ方向変位計がさらに備えられており、上記供給圧力制御機構は、このZ方向変位計の検出高さに応じて対応する除振台ユニットの気密圧力室の圧力を制御する水平補償機能を有する除振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−100910(P2007−100910A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294067(P2005−294067)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000005175)藤倉ゴム工業株式会社 (120)
【Fターム(参考)】