説明

水性塗工液、および塗膜

【課題】 プラスチック基材に塗工、乾燥することで、透明性、ガスバリア性、および基材との接着性に優れ、さらに均一性に優れる塗膜が得られる水性塗工液を得ること。
【解決手段】 ポリビニルアルコール系樹脂(A)、ポリエチレンイミン(B)、ノニオン系界面活性剤(C)、および水性溶媒(D)を含有する水性塗工液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂を主要成分とする水性塗工液に関し、さらに詳しくは、プラスチック等の基材表面に塗工、乾燥することでガスバリア性塗膜、あるいはガスバリア層を形成することができる水性塗工液に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製のフィルム、シート、あるいはボトル、カップなどの成形体に酸素ガスバリア性を付与する方法として、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂と略記する。)の水溶液を塗布、乾燥し、ガスバリア性に優れるPVA系樹脂塗膜、あるいはPVA系樹脂層を形成する技術が有用である。
【0003】
しかしながら、PVA系樹脂は親水性樹脂であるため疎水性材料に対する親和性が乏しく、基材がポリオレフィン系樹脂やポリエステル系樹脂などの疎水性樹脂である場合、基材表面にアンカー剤処理や親水化処理を施したり、接着層を介在させることが必要である。中でも、アンカー剤による表面処理が広く用いられているが、製造工程が増えることや、特性に影響を及ぼす可能性があるなどの問題点を有している。
【0004】
これに対しポリオレフィンフィルム基材に、水性アンカー剤とPVA系樹脂を含む塗工液中に配合することによって、PVA系樹脂層と基材層との接着性が改善された多層フィルムが提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
一方、PVA積層フィルムの印刷性、ガスバリア性、透明性の改善を目的として、ポリエチレンイミン(以下、PEIと略記する。)がPVA層に少量配合された積層フィルムが提案されている。(例えば、特許文献2参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−245816号号公報
【特許文献2】特開2001−121658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、PVA系樹脂とPEIは、水溶液中では良好に相溶しているが、塗工後の乾燥工程で水が揮発するに従って相分離する傾向があり、その結果、充分なガスバリア性が得られなかったり、厚さムラが生じたり、塗膜の外観や透明性が損なわれる場合があった。
【0008】
すなわち本発明は、PVA系樹脂を主要成分とし、ガスバリア性、基材との接着性に優れ、均一性に優れた塗膜が得られる水性塗工液の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、鋭意検討した結果、PVA系樹脂(A)、PEI(B)、ノニオン系界面活性剤(C)、および水性溶媒(D)を含有する水性塗工液によって本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
これは、PVA系樹脂(A)にPEI(B)を配合することによって基材との接着性が向上し、さらに、ノニオン系界面活性剤(C)によって、PVA系樹脂(A)とPEI(B)の相溶性が向上し、塗工・乾燥時の両樹脂の相分離が抑制されたものと推測される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水性塗工液をプラスチック基材に塗工、乾燥して得られる塗膜は、透明性、ガスバリア性、および基材との接着性に優れ、さらに均一性に優れることから、プラスチックフィルム、シート、あるいは各種成型物に対するガスバリア層形成用塗工液として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、これらの内容に特定されるものではない。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本発明の水性塗工液は、PVA系樹脂(A)、PEI(B)、ノニオン系界面活性剤(C)、および水性溶媒(D)を含有する水性塗工液である。
以下、各順に説明する。
【0013】
〔PVA系樹脂(A)〕
まず、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)について説明する。
PVA系樹脂(A)は、ビニルエステル系単量体を共重合して得られるポリビニルエステル系樹脂をケン化して得られる、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位とビニルエステル構造単位から構成される。
上記ビニルエステル系モノマーとしては、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられるが、経済的に酢酸ビニルが好ましく用いられる。
【0014】
本発明で用いられるPVA系樹脂(A)の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、100〜3000であり、特に200〜1000、さらに300〜600のものが好ましく用いられる。
かかる平均重合度が小さすぎると塗膜強度が不充分となる傾向があり、大きすぎると水性塗工液の粘度が高くなり、塗工性が低下したり、乾燥に高温・長時間を要するようになる傾向がある。
【0015】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)のケン化度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常、80〜100モル%であり、特に90〜99.9モル%、殊に98〜99.9モル%のものが好適に用いられる。
かかるケン化度が低すぎると、水溶性が低下するため、良好な水性塗工液を得ることが困難になる。また、本発明の水性塗工液による塗膜に、高度な酸素ガスバリア性を要求する場合には、ケン化度が99モル%以上のものを用いることが好ましい。
【0016】
また、本発明では、PVA系樹脂(A)として、ポリビニルエステル系樹脂の製造時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られたものや、未変性PVAに後変性によって各種官能基を導入した各種変性PVA系樹脂を用いることができる。
【0017】
ビニルエステル系モノマーとの共重合に用いられる単量体としては、エチレンやプロピレン、イソブチレン、α−オクテン、α−ドデセン、α−オクタデセン等のオレフィン類、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン等のヒドロキシ基含有α−オレフィン類およびそのアシル化物などの誘導体、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸等の不飽和酸類、その塩、モノエステル、あるいはジアルキルエステル、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル等のニトリル類、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド類、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸類あるいはその塩、アルキルビニルエーテル類、ジメチルアリルビニルケトン、N−ビニルピロリドン、塩化ビニル、ビニルエチレンカーボネート、2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソラン、グリセリンモノアリルエーテル、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、等のビニル化合物、酢酸イソプロペニル、1−メトキシビニルアセテート等の置換酢酸ビニル類、塩化ビニリデン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、ビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0018】
また、後反応によって官能基が導入されたPVA系樹脂としては、ジケテンとの反応によるアセトアセチル基を有するもの、エチレンオキサイドとの反応によるポリアルキレンオキサイド基を有するもの、エポキシ化合物等との反応によるヒドロキシアルキル基を有するもの、あるいは各種官能基を有するアルデヒド化合物をPVAと反応させて得られたものなどを挙げることができる。
かかる変性PVA系樹脂中の変性種、すなわち共重合体中の各種単量体に由来する構成単位、あるいは後反応によって導入された官能基の含有量は、変性種によって特性が大きくことなるため一概には言えないが、通常、0.1〜20モル%であり、特に1〜10モル%の範囲が好ましく用いられる。
【0019】
これらの各種変性PVA系樹脂の中でも、本発明においては、下記一般式(1)で示される側鎖に1,2−ジオール構造を有する構造単位を有するPVA系樹脂が、水性塗布液の安定性に優れる点、および透明性に優れる塗膜が得られる点で好ましく用いられる。
なお、一般式(1)におけるR、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示すものである。
【0020】
【化1】

【0021】
中でも、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のR〜R、及びR〜Rがすべて水素原子であり、Xが単結合である、下記一般式(1’)で表わされる構造単位を有するPVA系樹脂が最も好ましい。
【化2】

【0022】
なお、かかる一般式(1)で表わされる構造単位中のR〜R、及びR〜Rは、樹脂特性を大幅に損なわない程度の量であれば有機基であってもよく、その有機基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、かかる有機基は、必要に応じて、ハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の官能基を有していてもよい。
【0023】
また、一般式(1)で表わされる1,2−ジオール構造単位中のXは高温下や酸性条件下での安定性の点で単結合であるものが最も好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば結合鎖であってもよく、かかる結合鎖としては、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、フェニレン、ナフチレン等の炭化水素(これらの炭化水素はフッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていても良い)の他、−O−、−(CHO)−、−(OCH−、−(CHO)CH−、−CO−、−COCO−、−CO(CHCO−、−CO(C)CO−、−S−、−CS−、−SO−、−SO−、−NR−、−CONR−、−NRCO−、−CSNR−、−NRCS−、−NRNR−、−HPO−、−Si(OR)−、−OSi(OR)−、−OSi(OR)O−、−Ti(OR)−、−OTi(OR)−、−OTi(OR)O−、−Al(OR)−、−OAl(OR)−、−OAl(OR)O−、等(Rは各々独立して任意の置換基であり、水素原子、アルキル基が好ましく、またmは1〜5の整数)が挙げられる。中でも製造時あるいは使用時の安定性の点で炭素数6以下のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは−CHOCH−が好ましい。
【0024】
かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂の製造法としては、特に限定されないが、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体をケン化する方法や、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱炭酸する方法や、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される化合物との共重合体をケン化及び脱ケタール化する方法が好ましく用いられる。
【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

【0028】
上記一般式(2)、(3)、(4)中のR、R、R、X、R、R、Rは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R及びRはそれぞれ独立して水素原子またはR−CO−(式中、Rはアルキル基である)である。R10及びR11はそれぞれ独立して水素原子またはアルキル基である。
【0029】
(i)、(ii)、及び(iii)の方法については、例えば、特開2006−95825に説明されている方法を用いることができる。
中でも、共重合反応性および工業的な取扱い性に優れるという点から、(i)の方法において、一般式(2)で表わされる化合物として3,4−ジアシロキシ−1−ブテンを用いることが好ましく、特に3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが好ましく用いられる。
【0030】
かかる側鎖に1,2−ジオール構造を有するPVA系樹脂(A)に含まれる1,2−ジオール構造単位の含有量は、通常、1〜20モル%であり、さらに2〜10モル%、特に3〜8モル%のものが好ましく用いられる。かかる含有量が低すぎると、側鎖1,2−ジオール構造の効果が得られにくく、逆に高すぎると、高湿度でのガスバリア性が低下する傾向がある。
【0031】
なお、PVA系樹脂(A)中の1,2−ジオール構造単位の含有率は、PVA系樹脂を完全にケン化したもののH−NMRスペクトル(溶媒:DMSO−d6、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができ、具体的には1,2−ジオール単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出すればよい。
【0032】
また、本発明で用いられるPVA系樹脂(A)は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよく、その場合は、上述の未変性PVAどうし、未変性PVAと一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂、ケン化度、重合度、変性度などが異なる一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂どうし、未変性PVA、あるいは一般式(1)で示される構造単位を有するPVA系樹脂と他の変性PVA系樹脂、などの組み合わせを用いることができる。
【0033】
〔PEI(B)〕
次に、本発明で用いられるPEI(B)について説明する。
PEI(B)は、エチレンイミンの重合体であって、二級アミンのみを含む直鎖状のもの、および一級、二級、三級アミンを含む分岐型のものが挙げられる。本発明においては、そのいずれも、およびこれらの混合物を用いることができる。また、本発明の効果を阻害しない程度の少量であれば、カチオン基などの種々の官能基が導入された誘導体を用いることも可能である。
【0034】
本発明においては、PEI(B)の重合度は、通常200〜100000、特に300〜10000のものが好適に用いられる。
かかる重合度が小さすぎると、PVA系樹脂層と基材層との接着性が不充分になる傾向があり、大きすぎると、水に溶解させるのに高温、長時間を要したり、得られた水性塗工液の粘度が高くなって、塗工性が損なわれたりする場合がある。
【0035】
なお、かかるPEI(B)は粘稠液体であるため、移送や秤量、添加などの取扱い性を高めるため、予め溶液とすることが好ましく、かかる溶媒としては水や、メタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール、およびこれらの混合溶媒が好ましく用いられる。
【0036】
〔ノニオン系界面活性剤(C)〕
次に、本発明で用いられるノニオン系界面活性剤(C)について説明する。
かかるノニオン系界面活性剤(C)としては、公知のものを使用することが可能であり、具体的には、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどのエーテル系化合物;ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンジステアリン酸エステル、ソルビタンラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ポリオキシエチレンステアレート等のエステル系化合物;ジメチルポリシロキサン等のシリコン系化合物;フッ素アルキルエステル、パーフルオロアルキルカルボン酸塩等の含フッ素系化合物などを挙げることができる。
【0037】
中でも、本発明の効果が顕著に得られる点で、エーテル系化合物が好ましく、特に、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、およびエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体が好適に用いられる。
【0038】
かかるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物は、下記式(5)で表すことができ、一般式(5)中のR12,R15はそれぞれ独立して炭素数1〜20のアルキル基を示し、特に炭素数1〜5のものが好ましく、殊に炭素数3〜5のものが好ましく用いられる。また、R13,R14はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、特にメチル基が好ましく用いられる。なお、R12とR15、およびR13とR14はそれぞれ同一でも異なったものでもよいが、それぞれ同一構造のものが好ましく用いられる。
また、n,mはそれぞれ0〜30の整数であり、特にm+nが1〜10、特に1〜5、殊に1〜3であるものが好ましく用いられる。
【化6】

【0039】
かかるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物の具体例としては、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド付加物、5,8−ジメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7ジオールのエチレンオキサイド付加物、4,7−ジメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,3,6,7−テトラメチル−4−オクチン−3,6−ジオールのエチレンオキサイド付加物、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオールのエチレンオキサイド付加物、2,5−ジメチル−3−ヘキシン―2,5−ジオールのエチレンオキサイド付加物などを挙げることができる。
これらの中でも、2,5,8,11−テトラメチル−6−ドデシン−5,8−ジオールのエチレンオキサイド付加物であって、エチレンオキサイドの付加量(m+n)が1〜3であるものが好ましく用いられる。
【0040】
また、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体は、例えば、下記一般式(6)のように表すことができ、かかる一般式(6)中のx、yはそれぞれ2〜8であり、特に3〜7であるものが好ましく、その比率はx/yが90/10〜10/90であり、特に60/40〜40/60であるものが好ましく用いられる。また、重合度(x+y)が400〜8000であるものが好ましく用いられる。
【化8】

【0041】
なお、これらのノニオン系界面活性剤は単独で使用してもいいが、複数のものを併用することも可能であり、特に、上述のアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物と、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体を併用することで、本発明の効果が顕著に得られる。
かかるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物とエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体の配合比率は、通常、重量比で、80/20〜20/80であり、特に70/30〜30/70、殊に60/40〜40/60の範囲が用いられる。
【0042】
なお、かかるノニオン系界面活性剤は、移送や秤量、添加などの取扱い性を高めるため、溶液として用いることが好ましく、その際の溶媒としては水や、メタノール、イソプロパノール、ブタノールなどの一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール、およびポリグリセロールなどの多価アルコールの重合体、およびこれらの混合溶媒が好ましく用いられる。
その際の濃度としては、特に限定されるものではないが、通常、20〜60重量%であり、特に30〜50重量%の範囲が好ましく用いられる。
【0043】
〔水性溶媒(D)〕
次に、本発明で用いられる水性溶媒(D)について説明する。
水性溶媒(D)としては、水、または水を主成分とする混合溶媒が用いられる。水性溶媒(D)として混合溶媒を用いる場合に用いられる水以外の物質としては、水と任意の比率で混和する有機溶剤が用いられ、具体的には炭素数1〜3のアルコール類、ケトン類などが挙げられる。水性溶媒(D)における水と水以外の物質との配合比率は、重量比で、通常、100/0〜60/40であり、特に100/0〜80/20、殊に100/0〜90/10の範囲が用いられる。
【0044】
〔水性塗工液〕
本発明の水性塗工液は、上述のPVA系樹脂(A)、PEI(B)、ノニオン系界面活性剤(C)、および水性溶媒(D)を含有するものである。
本発明の水性塗工液におけるPVA系樹脂(A)とPEI(B)の含有比率(A)/(B)(重量比)は、通常、95/5〜60/40であり、特に90/10〜70/30、殊に、85/15〜75/25の範囲が好適に用いられる。
かかるPVA系樹脂(A)とPEI(B)の含有比率において、PEI(B)の配合量が少なすぎると本発明の水性塗工液による塗膜と基材との接着性が不充分となる傾向があり、逆に多すぎると、かかる塗膜のガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0045】
また、本発明の水性塗工液におけるノニオン系界面活性剤(C)の配合量は、PVA系樹脂(A)とPEI(B)の合計量100重量部に対して、通常、0.01〜5重量部、特に0.05〜3重量部、殊に、0.05〜2重量部の範囲が用いられる。
かかるノニオン系界面活性剤(C)の配合量が少なすぎると、PVA系樹脂(A)とPEI(B)の乾燥時の相分離を抑制することが困難となるためか、得られた塗膜が不均一となる傾向がある。また、ノニオン系界面活性剤(C)の配合量が多すぎると、塗膜のガスバリア性が不充分となる傾向がある。
【0046】
本発明の水性塗工液の濃度は、通常、0.1〜30重量%であり、特に1〜20重量%、殊に5〜15重量%の範囲のものが好ましく用いられる。
かかる濃度が高すぎると、基材に塗工した際に生じた気泡が抜けにくくなったり、塗工時の作業性が低下したり、均一な塗工層を得ることが難しくなる傾向がある。逆に、水性塗工液の濃度が低すぎると、乾燥に長時間を要したり、所望の厚さの塗工層を得ることが困難になり、複数回の塗工を余儀なくされる場合がある。
【0047】
本発明の水性塗工液の製造法としては、複数の水溶性化合物を含有する水性液を調製する公知の方法を採用することができ、例えば、(1)それぞれの水溶液を調製し、混合する方法、(2)PVA系樹脂(A)水溶液にPEI(B)、およびノニオン系界面活性剤(C)を配合し、混合する方法、などを挙げることができる。
【0048】
また、本発明の水性塗工液には、本発明の効果を損なわない範囲内で、消泡剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光染料、防腐剤、防黴剤などの、従来公知の添加剤や、ガスバリア性をさらに向上させるための層状無機化合物などを配合してもよい。また、基材への濡れ性改善や、乾燥速度調節などの目的で水以外の有機溶剤類を含んでいてもよく、具体的には水との混和性を有する炭素数が1〜4のアルコール類、ケトン類を挙げることができる。
【0049】
〔塗膜〕
かくして得られた本発明の水性塗工液は、プラスチックなどの各種基材に塗工、乾燥させることで塗膜を得ることができる。
かかる基材としては特に制限はなく、その素材としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などの合成樹脂、ガラス、アルミ箔などの金属材料、紙、木などの天然材料、その形状としては、フィルム、シート、不織布、各種成形品などを挙げることができる。
中でも、本発明の効果が最大限に得られる材料としては、疎水性のプラスチック基材が挙げられ、具体的には、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル系樹脂;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル系樹脂;ナイロン−6、ナイロン6,6、メタキシリレンジアミン−アジピン酸縮重合物等のポリアミド系樹脂;ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル等のスチレン系樹脂;トリ酢酸セルロース、ジ酢酸セルロースなどのセルロース系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン等のハロゲン含有樹脂;ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチック;等を挙げることができる。
【0050】
また、かかるプラスチック基材に対し、プラズマ処理、コロナ処理、電子線処理などによって表面を活性化した後、本発明の水性塗工液を塗工することが好ましい。
【0051】
上述の基材に本発明の水性塗工液を塗工する方法としては、ダイレクトグラビア法、リバースグラビア法などのグラビア法;2本ロールビートコート法、ボトムフィード3本ロール法等のロールコーティング法、ドクターナイフ法、ダイコート法、ディップコート法、バーコート法;など、公知の塗工法を用いることができる。
【0052】
本発明の水性塗工液を基材に塗工した後、乾燥によって水分やその他の揮発分が除かれる。その際の乾燥温度は塗工層の厚さによって適宜調節すべきものであるが、通常は、10〜200℃であり、特に20〜150℃、殊に30〜120℃の範囲が好適に用いられる。また、乾燥時間も、揮発分が所定量以下になるように、上述の乾燥温度に応じて適宜調節されるものであるが、通常は0.1〜120分であり、特に0.5〜60分の範囲で行われる。
【0053】
かくして得られた本発明の水性塗工液による塗膜の膜厚は、通常0.1〜20μmであり、特に0.5〜15μm、殊に1〜10μmの範囲が好ましく用いられる。かかる膜厚が薄すぎると、充分なガスバリア性が得られなくなる場合があり、一方、膜厚が厚すぎると、柔軟なフィルム基材上に塗工した場合、その柔軟性が損なわれる傾向がある。
【0054】
かかる塗膜には、さらに他の熱可塑性樹脂を積層し、多層構造体とすることも可能であり、その際の層構成としては、PVA系樹脂層をa(a1、a2、・・・)、熱可塑性樹脂層をb(b1、b2、・・・)とするとき、a/bの二層構造のみならず、b/a/b、a/b/a、a1/a2/b、a/b1/b2、b2/b1/a/b1/b2、b1/b2/a/b3/b4、a1/b1/a2/b2等任意の組み合わせが可能で、特にb/a/bまたはb2/b1/a/b1/b2の層構成が好ましい。
【0055】
さらに、本発明の水性塗工液による塗膜、あるいはその上に積層した熱可塑性樹脂層の表面、あるいは界面に、金属や無機成分による蒸着層を設けることも好ましい実施態様である。
【0056】
かかる多層構造体の膜厚は、通常0.1〜100μmであり、特に1〜50μm、殊に2〜30μmの範囲である。かかる膜厚が薄すぎると充分なガスバリア性が得られなくなる傾向があり、逆に厚すぎると柔軟性が損なわれる傾向がある。
【実施例】
【0057】
以下に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、実施例の記載に限定されるものではない。
尚、例中、「部」、「%」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0058】
実施例1
〔PVA系樹脂(A1)の製造〕
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた反応容器に、酢酸ビニル68.0部、メタノール23.8部、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン8.2部を仕込み、アゾビスイソブチロニトリルを0.3モル%(対仕込み酢酸ビニル)投入し、攪拌しながら窒素気流下で温度を上昇させ、重合を開始した。酢酸ビニルの重合率が90%となった時点で、m−ジニトロベンゼンを添加して重合を終了し、続いて、メタノール蒸気を吹き込む方法により未反応の酢酸ビニルモノマーを系外に除去し共重合体のメタノール溶液とした。
【0059】
ついで、上記メタノール溶液をさらにメタノールで希釈し、濃度45%に調整してニーダーに仕込み、溶液温度を35℃に保ちながら、水酸化ナトリウムの2%メタノール溶液を共重合体中の酢酸ビニル構造単位および3,4−ジアセトキシ−1−ブテン構造単位の合計量1モルに対して10.5ミリモルとなる割合で加えてケン化を行った。ケン化が進行するとともにケン化物が析出し、粒子状となった時点で濾別し、メタノールでよく洗浄して熱風乾燥機中で乾燥し、目的とするPVA系樹脂(A1)を作製した。
【0060】
得られたPVA系樹脂(A1)のケン化度は、残存酢酸ビニルおよび3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解に要するアルカリ消費量にて分析したところ、99.2モル%であった。また、平均重合度は、JIS K 6726に準じて分析を行ったところ、450であった。また、一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位の含有量は、H−NMR(300MHzプロトンNMR、d6−DMSO溶液、内部標準物質;テトラメチルシラン、50℃)にて測定した積分値より算出したところ、6モル%であった。
【0061】
〔水性塗工液の製造〕
得られたPVA系樹脂(A1)の10%水溶液を作製し、これにPEI(日本曹達社製「チタボンドT−100」)(B1)、およびノニオン系界面活性剤(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物:20重量%、一般式(6)においてx/yが50/50であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体:20重量%、ポリグリセロール:50重量%、水:10重量%)(C1)を、それぞれの純分の含有量がPVA系樹脂(A1)80重量部、PEI(B1)20重量部、ノニオン系界面活性剤(C1)0.5重量部となるように配合し、水性塗工液を得た。
【0062】
<水性塗工液の安定性>
得られた水性塗工液を5℃の恒温下に24時間置き、その前後の粘度をB型粘度計にて測定し、増粘倍率を求めた。
【0063】
〔コーティングフィルムの作製〕
得られた水性塗工液を、表面がコロナ処理されたPETフィルム(フタムラ化学社製「太閤ポリエステルフィルム FE2001」コロナ処理フィルム)上に流延し、100℃の熱風乾燥機中で10分間乾燥して、厚さ3μmの塗膜を有するコーティングフィルムを作製した。
【0064】
<均一性>
得られた乾燥後の塗膜の状態を目視観察し、下記の基準にて均一性を評価した。結果を表1に示す。
◎ :全体的に透明で、相分離が認められない。
○ :全体的に透明だが、塗膜の周縁部にわずかに相分離が認められる。
△ :全体的にわずかに白濁し、塗膜の周縁部にわずかに相分離が認められる。
× :全体的に相分離が認められる。
【0065】
<接着性>
セロハンテープ(積水社製「No.252」、幅15mm)を6cmの長さに切り取り、その中央部(端から3cmの部分)がコーティングフィルムの塗膜部と非塗工部との境界上となるように貼り付け、非塗工部上のテープを端から1cmはがし、その部分をもってフィルム面に対し約90°の角度で勢いよく引き剥がした。
同様の操作を5回(5箇所)に対して行い、塗膜の状態を目視観察し、4回以上剥がれなかった場合を接着性良好、4回以上剥がれた場合を接着性不良と判定、それ以外の場合には、再試験を行った。結果を表1に示す。
【0066】
<酸素ガスバリア性>
MOCON社製『OXTRAN2/20』を用い、得られたフィルムの酸素透過度を23℃、50%RH、および23℃、65%RHでの酸素透過度(厚さ3μm換算値)を測定した。結果を表1に示す。
【0067】
実施例2
実施例1において、PVA系樹脂(A1)に代えて、ケン化度99モル%、重合度500の未変性PVA系樹脂(A2)を用いた以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例3
実施例1において、ノニオン系界面活性剤(C1)に代えて、ノニオン系界面活性剤(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物:20重量%、一般式(6)においてx/yが10/90であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体:20重量%、ポリグリセロール:50重量%、水:10重量%)(C2)を用いた以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0069】
実施例4
実施例1において、ノニオン系界面活性剤(C1)に代えて、ノニオン系界面活性剤(アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物:20重量%、一般式(6)においてx/yが90/10であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体:20重量%、ポリグリセロール:50重量%、水:10重量%)(C3)を用いた以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0070】
実施例5
実施例1において、ノニオン系界面活性剤(C1)に代えて、ノニオン系界面活性剤(一般式(6)においてx/yが50/50であるエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体:40重量%、ポリグリセロール:50重量%、水:10重量%)(C4)を用いた以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0071】
比較例1
実施例1において、ノニオン系界面活性剤(C1)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0072】
比較例2
実施例1において、PEI(B1)を配合しなかった以外は実施例1と同様にして水性塗工液、塗膜を作製し、同様に評価した。結果を表1に示す。
【0073】
[表1]

【0074】
上記の結果から、本発明の水性塗工液を用い、ポリエステルフィルム基材上に形成された実施例の塗膜は、基材との接着性、およびガスバリア性に優れるとともに、相分離が全くないか極めて少なく、均一性に優れるものであったが、ノニオン系界面活性剤を配合しなかった比較例1による塗膜は、全体的に相分離が認められ、PEIを配合しなかった比較例2による塗膜は基材との接着性の点で劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の水性塗工液は、透明性、ガスバリア性に優れ、プラスチック基材との接着性に優れ、さらに均一性に優れる塗膜が得られることから、プラスチック材料に簡便にガスバリア性を付与することができる材料として、産業上、極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)、ポリエチレンイミン(B)、ノニオン系界面活性剤(C)および水性溶媒(D)を含有する水性塗工液。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とポリエチレンイミン(B)の含有比率(A)/(B)が95/5〜60/40(重量比)である請求項1記載の水性塗工液。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)とポリエチレンイミン(B)の合計量100重量部に対するノニオン系界面活性剤(C)の配合量が0.01〜5重量部である請求項1または2記載の水性塗工液。
【請求項4】
ポリビニルアルコール系樹脂(A)が、下記一般式(1)で表される1,2−ジオール構造単位を有するポリビニルアルコール系樹脂である請求項1〜3いずれか記載の水性塗工液。
【化1】

[式中、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示し、Xは単結合または結合鎖を示し、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子または有機基を示す。]
【請求項5】
ノニオン性界面活性剤(C)が、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、及び/又はエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロック共重合体である請求項1〜4いずれか2記載の水性塗工液。
【請求項6】
水性溶媒(D)が水である請求項1〜5いずれか記載の水性塗工液。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか記載の水性塗工液を基材表面に塗工、乾燥してなる塗膜。



【公開番号】特開2013−82910(P2013−82910A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−213369(P2012−213369)
【出願日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】