説明

水性塗料塗装装置

【課題】水性塗料塗装装置について、水性塗料のブース水を更新することなく循環させても、循環水のBOD及びCODが一定の許容範囲内に抑えられるようにして、ブース水の廃水処理を長期間不要にする。
【解決手段】塗装ブース1と、水性塗料を含むブース水に含まれる塗料樹脂、顔料、及び水溶性溶剤を好んで資化する特定の微生物群を含む処理液を貯留する微生物処理装置5と、脱水分離装置12とを配管で結合してブース水が循環する閉じられた系内において、
前記塗装ブース内で捕集した塗料廃液を微生物分解処理装置に流入させて前記微生物群によって無機物に分解処理し、その処理済み塗装廃液を脱水分離装置でスラッジとブース水とに分離して系内に還流させ、低含水率のスラッジを系外に排出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理が困難で耐腐食性材料の装置を必要とする水性塗料に適した塗装装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塗料には、有機溶剤に溶解させる「溶剤型塗料」と、アルコール系溶剤など水溶性溶剤に溶解させる「水性塗料」とが存在し、いずれも場合も、循環式の大型塗装装置では「ブース水」とよばれる溶液が塗装装置内を循環する。水性塗料の場合、装置内に付着した塗料の固形成分(以下「塗料スラッジ」という。)を清掃をするために多量のブース水を循環させる必要があり、しかも、一定期間使用した後は、その大量のブース水がそのまま産業廃棄物として処分されていた。
従来の方式は水性塗料が循環槽に流入すると水性塗料がブース水に溶解するために、循環するブース水の粘性が上がりやすく、一定時間の使用の後はブース水の廃水処理及び塗料スラッジの廃棄処理が必要であった。また、この塗料スラッジは含水率が非常に高く、廃棄処理(廃水処理)の費用が増大する原因ともなっていた。このため、溶剤型塗料塗装装置と比べて水性塗料塗装装置には多大な設備投資と設備維持費が必要であった。
【0003】
自動車工業など一部の大規模な塗装ブースのシステムでは、ブース水に混入・溶解した水性塗料の樹脂成分は凝集剤により沈降又は浮上して遠心分離機或いは掻き取り機などで分離して取り除いてブース水を一定程度まで再使用することもあるが、ブース水の生化学的酸素要求量(以下、「BOD」という。)、化学的酸素要求量(以下、「COD」という。)の値が一定値に達した後は、最終的には系外で高度な廃水処理(凝集沈殿・生物処理・高度浄化処理等)を行うか又は塗料スラッジを含んだブース水を産業廃棄物として業者に引き取り処分していた(特許文献1乃至3参照)。
【0004】
しかし、2006年に施行される大気汚染防止法改正法などを背景に近年は揮発性有機化合物(以下、「VOC」という。)の排出量を削減する動きがあり、これを受けて、塗装業界では、従来の溶剤型塗料から水性塗料への転換が急速に求められ、より環境負荷の少ない水性塗料塗装装置の開発が急務となっている。
【0005】
【特許文献1】特開平09−010640号公報
【特許文献2】特開2003−126743号公報
【特許文献3】特開2004−298746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、凝集剤と塗料スラッジ分離装置を組み合わせる従来の方式では、ブース水に溶解した有機物を分解除去することができなかったために、使用後のブース水及び高含水率の塗料スラッジを全て廃棄処分しなければならなかった。
【0007】
これらの問題の最も本質的な部分は、水性塗料に含まれる樹脂などの有機成分はその一部が水に溶解すると共に溶媒(ブース水)がアルコール系の溶剤であるために、塗装ブースの中でブース水を循環して再使用すると、塗料スラッジを除去してもブース水に溶解した有機成分が分離除去されない限り、BOD及びCODは増加し続けるという点にある。ちなみに、溶剤型塗料の場合、溶剤の全てを塗料スラッジと完全に分離できるため廃水処理といった作業は不要であった。この意味において、本発明は「水性塗料」特有の技術的課題を解決せんとするものである。
【0008】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、水性塗料塗装装置について、水性塗料のブース水を更新することなく循環させても、循環水のBOD及びCODが一定の許容範囲内に抑えられるようにして、ブース水の廃水処理を長期間不要にすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水性塗料塗装装置は、塗装ブース1と、水性塗料を含むブース水に含まれる塗料樹脂、顔料、及び水溶性溶剤を好んで資化する特定の微生物群を含む処理液を貯留する微生物処理装置5と、脱水分離装置12とを配管で結合してブース水が循環する閉じられた系内において、
前記塗装ブース内で捕集した塗料廃液を微生物分解処理装置に流入させて前記微生物群によって分解処理し、その処理済み塗装廃液を脱水分離装置で塗料スラッジとブース水とに分離して、分離したブース水を系内に還流させ、低含水率の塗料スラッジを系外に排出することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る水性塗料塗装装置は循環槽4を含み、その内部に微生物処理装置5が設けられていてもよく、微生物処理装置5が循環槽の外部に設けられていてもよい。また、塗装ブースを循環槽と併用し、塗装ブース内に微生物を供給してもよい。
【0011】
或いは、塗装ブースの底部が循環槽としても機能すると共に、前記微生物処理装置に代えて、前記塗装ブースの底部に前記微生物群が直接投入されるように構成してもよい。
【0012】
このように、本発明に係る水性塗料塗装装置によると、従来は循環槽の下部等に沈殿する無機物は高含水率でしかも水溶成分と固溶成分の両方に高濃度の有機物質が含まれていたために、排水を含んだまま系外に排出され、これを廃棄処理又は廃水処理する必要があったところ、本発明では、ブース水に含まれる水溶成分及び固溶成分を有機物から無機物(二酸化炭素と水等)に分解した後で脱水分離するため、系外に排出されるのは含水率の低い塗料スラッジのみでブース水は系外に排出されることがない。これにより、系内を循環するブース水の量が従来よりも大幅に少なくてすみ、かつ廃棄物量全体を減容化することができる。試算では、従来の1/3乃至1/10程度にまで減容化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、従来は水性塗料塗装装置において不可欠であった系外でのブース水の廃水処理が一切不要となり、長期間、塗装ブース水を循環させて使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下実施例1乃至実施例3を用いて本発明の実施形態について説明する。なお、特に説明のない限り、同一の機能を有する部材については同一の符号を使用するものとする。
(第1の実施例)
図1は、本発明に係る水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。水性塗料は塗装ブース1の内部で噴霧ガン2等から被塗物Wに向けて吹き付けられる。被塗物Wに付着しない塗料(塗装廃液)は塗装ブース1の下部に集積されてブース水に混入し、配管3を通じて循環槽4に送られる。
【0015】
この実施例では、循環槽4の内部には一定量のブース水が満たされていると共に、その内部に微生物処理装置5が設けられている。この微生物処理装置5は微生物群を含む処理液を貯留することができる。この微生物処理装置5は、処理液を貯留(固定化)するために、例えば、多孔質セラミックス、発泡性樹脂、不織布等の多孔性の担体が収容された構造となっている。また、微生物処理装置5には、定量的に微生物、活性化剤及び活性化液などが補給される。なお、微生物の濃度は条件により異なるが、例えばブース水の1%乃至10%(重量%)程度が好ましい。
【0016】
特定の微生物群としては、例えば、フラボオバクテリューム種、シェードモナス種、アシイノバクター種、メタノカーカウス種、マイクロカーカウス種、バクテリアム種、マイコバクテリアム種、アクロモバァクター種、エウロモウナス種など、各種油脂類、溶剤、乳化剤、塗料樹脂、顔料、染料等を好んで資化する性質を備える複数種が含まれるようにすることが好ましい。
【0017】
これらの微生物は例えば水温を25℃乃至50℃、より好ましくは38℃乃至42℃に加温し、適切に酸素や栄養物を供給して通気攪拌するとともに、適宜新たに微生物を投入することで、高密度に増殖させることができる。
【0018】
循環槽4に回収された塗料(塗装廃液)などの有機物は微生物により二酸化炭素と水に分解処理され、無機物は循環槽4の底部に沈降分離される。本発明では、ポンプ8により配管9を通じて脱水分離装置12に移送され、ここで塗料スラッジ13とブース水に分離され、ブース水は配管14を通じて循環槽4に還流する。脱水分離装置12には通常遠心分離機やスクラバーなどが用いられる。
【0019】
循環槽4で処理されたブース水はポンプ6により配管7を通じて塗装ブース1に還流する。
【0020】
水性塗料は焼付型一般溶剤型塗料と同程度の塗膜性能を有する水性特殊編成ポリエステルメラミン樹脂系(焼付型)を用いているが、水又はアルコール系溶剤を溶媒とするものであればよい。
【0021】
図4は、水性塗料(オーデエコラインS-100)を容器に入れ、強制乾燥した試料を赤外線分光光度計(FT-IR)で測定した結果を示している。微生物処理前は有機物が多数残っているため広い範囲で信号が観測された。
【0022】
図5は、この水性塗料を微生物処理装置によって処理した液約2Lを液体窒素で凍結して強制乾燥した試料を、図6は、この水性塗料を微生物処理装置によって処理した液約2Lをメスシリンダー内で3日間放置し、上澄み液を回収し、沈殿物を強制乾燥して赤外線分光光度計で測定した結果を、それぞれ示している。
【0023】
図4と図5及び図6の結果を比較すると、FT-IRの信号が小さくかつ平坦になっていることから、水性塗料に含まれていた有機物の殆どが微生物処理によって二酸化炭素と水に分解されたと考えられる。従って、循環槽4の下部の沈殿物、ポンプ8によりくみ上げられて脱水分離装置12で脱水・分離された塗料スラッジ13、及び脱水・分離後に配管14を通して循環槽4に還流するブース水には、有機物が殆ど含まれないことが分かる。
【0024】
このように、本発明に係る水性塗料塗装装置は、塗装ブース水に含まれる臭気等の原因となる有機物を常時微生物によって二酸化炭素と水に分解し、その後、無機物を脱水分離装置で分離するため、系外に廃棄される塗料スラッジ13の含水率が極めて低く、かつ、塗料スラッジと分離され再び循環槽4に還流されるブース水中にも有機物が殆ど含まれない。また、ブース水を循環して使用するため排水をゼロにすることができ、長期間繰り返し使用してもブース水中のBOD或いはCODの値が殆ど上昇しない。
【0025】
(第2の実施例)
図2は、本発明に係る第2の水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。
上述した第1の実施例では、微生物処理装置5は循環槽4の内部に設けられていたが、この図のようにポンプ15で循環槽4内のブース水の一部(うわずみ)をくみ上げて系外(循環槽4の外部)に設けられた微生物処理装置5に送り、ここで微生物処理を行って再び循環槽4に還流させるように構成してもよい。微生物処理装置には、定量的に微生物、活性化剤及び活性化液などが補給される。
【0026】
(第3の実施例)
図3は、本発明に係る第3の水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。この図に示すように、循環槽と塗装ブース1とを共通化してもよい。この場合、微生物処理装置5を用いずに微生物A、活性化剤B及び活性化液Cを適宜塗装ブース1の底部に直接投入してもよい。このようにするとシステム構成が簡素化され、設備コストを削減することができる。
【0027】
第2及び第3の実施例は、第1の実施例の変形例であり、これらのシステムでも第1の実施例同様の効果が得られる。すなわち、本発明によるメリットは概ね以下のとおりである。
【0028】
1.イニシャルコストの大幅削減
・ブース水が循環することにより、廃水処理設備の建設が不要となる。
・汚泥を排出しないため、汚泥処理が不要となる。
・液量は処理対象物(塗装スラッジ)に対して40倍程度で、従来必要であった巨大な凝集沈殿槽が不要となる。
・水性塗料化による廃水処理の強化が不要となる。
・大幅なイニシャルコストの削減と省スペース化が実現できる。
2.ランニングコストの大幅削減
・廃水処理、汚泥処理に必要な運転費用、及び高価な排水処理剤の投入が不要となる。
・塗料スラッジの含水率を大幅に削減できる。
・塗料スラッジは一般産業廃棄物まで分解されるため、1/3乃至1/10程度まで減容化される。
・補給微生物と栄養剤の投入は必要であるが、安価である。
3.運転管理の単純化、作業環境の改善
・廃水処理及び汚泥処理にかかわる運転処理が不要となる。
・循環ブース水の管理は、補給微生物等の供給のみで、温度やpHの厳密な管理が不要となる。
・塗料スラッジは不粘着化するので、塗装環境は水洗いで美化できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明にかかる水性塗料塗装装置は、特に大型の塗装装置について有効であり、従来不可欠であった水性塗料の排水を完全に無排水化することができる。従って、本発明は、従来の溶剤型塗料から水性塗料への移行を加速させる技術として、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明に係る水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。
【図2】図2は、本発明に係る第2の水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。
【図3】図3は、本発明に係る第3の水性塗料塗装装置のシステム構成例を示している。
【図4】図4は、水性塗料を容器に入れ、強制乾燥した試料を赤外線分光光度計(FT-IR)で測定した結果を示している。
【図5】図5は、この水性塗料を微生物処理装置によって処理した液約2Lを液体窒素で凍結して強制乾燥した試料を強制乾燥して赤外線分光光度計で測定した結果を示している。
【図6】図6は、この水性塗料を微生物処理装置によって処理した液約2Lをメスシリンダー内で3日間放置し、上澄み液を回収し、沈殿物を強制乾燥して赤外線分光光度計で測定した結果を示している。
【符号の説明】
【0031】
1 塗装ブース
2 噴霧ガン
4 循環槽
5 微生物処理装置
12 脱水分離装置
13 塗料スラッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装ブース(1)と、水性塗料を含むブース水に含まれる塗料樹脂、顔料、及び水溶性溶剤を好んで資化する特定の微生物群を含む処理液を貯留する微生物処理装置(5)と、脱水分離装置(12)とを配管で結合してブース水が循環する閉じられた系内において、
前記塗装ブース内で捕集した塗料廃液を微生物分解処理装置に流入させて前記微生物群によって分解処理し、その処理済み塗装廃液を脱水分離装置で塗料スラッジとブース水とに分離して、分離したブース水を系内に還流させ、低含水率の塗料スラッジを系外に排出することを特徴とする水性塗料塗装装置。
【請求項2】
請求項1記載の水性塗料塗装装置において、系内にさらに循環槽(4)を含み、その内部に微生物処理装置(5)が設けられていることを特徴とする水性塗料塗装装置。
【請求項3】
請求項1記載の水性塗料塗装装置において、さらに循環槽(4)を含み、その外部に微生物処理装置5が設けられていることを特徴とする水性塗料塗装装置。
【請求項4】
請求項1記載の水性塗料塗装装置において、塗装ブースの底部が循環槽としても機能すると共に、前記微生物処理装置に代えて、前記塗装ブースの底部に前記微生物群が直接投入されることを特徴とする水性塗料塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−196073(P2007−196073A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13988(P2006−13988)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(594099082)株式会社一世 (2)
【出願人】(302005684)株式会社アサヒマイクロ (2)
【Fターム(参考)】