説明

水性塗料用組成物とその製造方法、および二液硬化型水性塗料キット

【課題】有機溶媒の含有量が低く環境に対する負荷が小さいと共に、貯蔵安定性に優れる水性塗料用組成物を提供する。
【解決手段】フルオロオレフィン単位40〜60モル%、アルキルビニルエーテルおよび/またはアルキルビニルエステル単位3〜50モル%、水酸基含有ビニルエーテル単位4〜30モル%、下式(a4)で表される構造単位0.4〜7モル%からなる含フッ素共重合体(A)を含む水性塗料用組成物。
[化1]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性の含フッ素共重合体を含む水性塗料用組成物とその製造方法、および二液硬化型水性塗料キットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然環境保護のため、有機溶媒排出による地球温暖化や光化学スモッグ等の公害が問題とされ、排出規制が実施されつつある。特に欧州では規制が先行しており、日本においても2006年に大気汚染防止法が改訂されて、法的な排出規制が開始された。
このような法的規制に対応すべく、塗料分野においても、塗着効率を上げて塗料の有効利用をはかる塗装方法の開発や、塗料の固形分を上げ、排出溶剤を削減するハイソリッド型塗料の導入が実施されてきた。しかし、ハイソリッド型塗料では溶剤削減に限界がある。
従来から、アルキド系、アクリル系、ポリエステル系、ポリ酢酸ビニル系、エポキシ系等の各種合成樹脂を水に分散または溶解させた水性塗料用組成物が知られている。この合成樹脂として、または合成樹脂の一部として水酸基を備える架橋性の含フッ素共重合体を用いた水性塗料組成物が、耐候性に優れることから広く用いられている。
水性塗料用組成物に用いる含フッ素共重合体としては、水に対する親和性を高めるため、有機溶媒中で、水酸基の一部をエステル化してカルボキシ基を導入し、さらに、そのカルボキシ基の一部または全部を塩基性化合物で中和したものが知られている(特許文献1)。
また、乳化重合により得られる含フッ素共重合体も知られている(特許文献2)。
しかし、特許文献1の含フッ素共重合体の水分散液または水溶液は、カルボキシ基を導入する工程で用いる有機溶媒が大量に残留している。また、残留している有機溶媒を除去してしまうと、貯蔵安定性が低下して経時により沈降してしまう傾向があった。
一方、特許文献2のように、乳化重合により得られる含フッ素共重合体を用いる場合、低溶剤濃度のエマルション塗料とすることができる。しかし、エマルション塗料は造膜性が劣り、また残存する乳化剤のために耐水性、密着性に劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平1−29488号公報
【特許文献2】特許第335803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであって、有機溶媒の含有量が低くても、貯蔵安定性に優れた、架橋性の含フッ素共重合体を含む水性塗料用組成物を提供する。また、その水性塗料用組成物の製造方法、および二液硬化型水性塗料キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]水に合成樹脂が分散又は溶解している水性塗料用組成物であって、前記合成樹脂は、
式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4〜30モル%、式(a4)で表される構造単位0.4〜7モル%(ただし、(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる含フッ素共重合体(A)を含有し、かつ、有機溶媒を該水性塗料用組成物の全質量中10質量%以下含有する、または有機溶媒を含まないことを特徴とする水性塗料用組成物。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化1】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化2】

[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【化3】

[ただし、式(a4)において、RおよびRは式(3)における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
【0006】
[2]式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4.4〜37モル%(ただし、式(a1)、式(a2)、式(a3)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる含フッ素共重合体(B)と、二塩基性酸無水物とを有機溶媒中で反応させることにより、該含フッ素共重合体(B)を構成する、式(a3)で表される構造単位における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入するエステル化工程と;
塩基性化合物を加え、前記カルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する中和工程;
水を加える工程と;
有機溶媒を除去する工程と;
を備えることを特徴とする水性塗料用組成物の製造方法。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化4】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化5】

[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【0007】
[3]塩基性化合物の水溶液を加えることにより、前記中和工程と水を加える工程とを同時に行う[2]に記載の水性塗料用組成物の製造方法。
[4][1]に記載の水性塗料用組成物と、水酸基またはカルボキシ基と反応する官能基を有する、水溶性または水分散型の硬化剤とを備えてなる二液硬化型水性塗料キット。
[5]式(a2)で表わされる構造単位が、j=k=0の構造単位であり、式(a3)で表わされる構造単位が、m=n=0の構造単位である[1]に記載の水性塗料用組成物。
[6]有機溶媒が、アルコール類、セロロルブ類、プロピレングリコール誘導体およびケトン類からなる群から選ばれる1種以上である[1]、または[5]に記載の水性塗料用組成物。
[7]有機溶媒を、水性塗料用組成物の全質量中3質量%以下含有する[1]、[5]または[6]に記載の水性塗料用組成物。
[8]含フッ素共重合体における式(a4)で表される構造単位の含有割合が1.4〜6モル%である、[1]、[5]、[6]または[7]に記載の水性塗料用組成物。
[9]水溶性または水分散型の硬化剤が、イソシアネート系化合物である[4]に記載の二液硬化型水性塗料キット。
[10]水溶性または水分散型の硬化剤が、非ブロックイソシアネートである[4]に記載の二液硬化型水性塗料キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性塗料用組成物は、有機溶媒の含有量が低く環境に対する負荷が小さい。また、有機溶媒の含有量が低いにもかかわらず、貯蔵安定性に優れる。
また、本発明の水性塗料用組成物の製造方法によれば、有機溶媒の含有量が低く環境に対する負荷が小さいと共に、貯蔵安定性に優れる水性塗料用組成物を製造することができる。
さらに、本発明の二液硬化型水性塗料キットは、有機溶媒の含有量が低いにも関わらず貯蔵安定性に優れる水性塗料用組成物を用いるため、環境に対する負荷が小さく、かつ取扱性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪水性塗料用組成物≫
<含フッ素共重合体(A)>
本発明の水性塗料用組成物は、水に合成樹脂が分散又は溶解している水性塗料組成物であって、前記合成樹脂は含フッ素共重合体(A)を含んでいる。
含フッ素共重合体(A)は、式(a1)で表される構造単位、式(a2)で表される構造単位、式(a3)で表される構造単位、及び(a4)で表される構造単位で構成されている。(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100、好ましくは95〜100である。
なお、本明細書においては、式(a1)で表される構造単位を「構造単位(a1)」のようにも記す。他の式で表される化合物についても同様に記す。
【0010】
構造単位(a1)は、下式(a1)で表される、フルオロオレフィン系化合物に基づく構造単位である。
−CFX−CX− (a1)
ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。
【0011】
構造単位(a1)としては、下記のフルオロオレフィン系化合物に基づく構造単位を挙げることができる。
CF=CF、CClF=CF、CHCl=CF、CCl=CF、CClF=CClF、CHF=CCl、CH=CClF、CCl=CClF等のフルオロエチレン。
CFClCF=CF、CFCCl=CF、CFCF=CFCl、CFClCCl=CF、CFClCF=CFCl、CFClCF=CF、CFCCl=CClF、CFCCl=CCl、CClFCF=CCl、CClCF=CF、CFClCCl=CCl、CFClCCl=CCl、CFCF=CHCl、CClFCF=CHCl、CHCCl=CHCl、CHFCCl=CCl、CFClCH=CCl、CFClCCl=CHCl、CClCF=CHCl、CHBrCF=CCl等のフルオロプロペン類。
CFCCl=CFCF、CF=CFCFCClF、CFCFCF=CCl等の炭素数4以上のフルオロオレフィン系化合物。
これらの中で、CF=CF、CClF=CFが、塗膜の耐候性が優れ好ましい。
【0012】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a1)の含有割合は、40〜60モル%であり、45〜55モル%であることが好ましい。
構造単位(a1)の含有割合が上記範囲であると、充分な耐候性が得られ、ポリマーのガラス転移温度が高くなりすぎず、非晶質で良好な膜が得られる。
【0013】
構造単位(a2)は、下式(a2)で表される、アルキルビニルエーテル、アルキルビニルエステル、アルキルアリルエーテル、またはアルキルアリルエステルなどに基づく構造単位である。
【0014】
【化6】

【0015】
ただし、式(a2)中のRは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。
式(a2)で表わされる構造単位としては、j=0であり、k=0または1である、アルキルビニルエーテルまたはアルキルビニルエステルが好ましい。
【0016】
構造単位(a2)としては、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、吉草酸ビニル、またはピバリン酸ビニルに基づく構造単位が挙げられ、これらの中から所望の塗膜物性(硬度、光沢、顔料分散性など)に応じた構造単位が適宜選択される。
これらの中で、エチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテルなどに基づく構造単位が、構造単位(a1)との交互共重合性がよく、樹脂のガラス転位温度を調整しやすいので、好ましい。
【0017】
構造単位(a2)が、含フッ素共重合体(A)の構造単位全体に対する割合は、3〜50モル%、好ましくは20〜45モル%である。本発明においては、2種以上の構造単位(a2)を用いてもよい。
【0018】
構造単位(a3)は、下式(a3)で表される、水酸基含有ビニルエーテル、水酸基含有ビニルエステル、水酸基含有アリルエーテル、または水酸基含有アリルエステルなどに基づく構造単位である。
【0019】
【化7】

【0020】
ただし、式(a3)中のRは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。
【0021】
構造単位(a3)としては、2−ヒドロキシアルキルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルーテル、1−ヒドロキシメチル−4−ビニロキシメチルシクロヘキサン、または4−ヒドロキシプチルビニルエステルに基づく構造単位が挙げられるが、これらの中で重合性、架橋性などからヒドロキシアルキルビニルエーテルに基づく構造単位が好ましい。
【0022】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a3)の含有割合は、4〜30モル%であり、8〜25モル%であることが好ましい。
構造単位(a3)の含有割合が少なすぎると、架橋をした際、架橋密度が低くなる。また、構造単位(a3)の含有割合が多すぎると、塗膜にしたときの耐水性の低下が懸念される。
【0023】
構造単位(a4)は、下式(a4)で表される構造単位である。
【0024】
【化8】

【0025】
ただし、式(a4)中のR、Rは式3における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。
構造単位(a4)において、Rが−NHZである割合は30〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。
【0026】
含フッ素共重合体(A)における構造単位(a4)の含有割合は、1.4〜6モル%である。
構造単位(a4)の割合が上記範囲であると、水への溶解性または分散性に優れ、水中での安定性に優れる。
本発明における含フッ素共重合体(A)は、構造単位(a1)、構造単位(a2)、構造単位(a3)、構造単位(a4)以外の構造単位(以下、その他の構造単位という。)を、20モル%以下の含有割合で含んでいてもよい。
その他の構造単位としては、エチレン性単量体に基づく構造単位が挙げられる。
【0027】
含フッ素共重合体(A)の特に好ましい構成は、構造単位(a1)が45〜55モル%、構造単位(a2)が14〜45.6モル%、構造単位(a3)が8〜25モル%、構造単位(a4)が1.4〜6モル%であって、その他の構造単位を含有しない構成である。
【0028】
<その他の合成樹脂成分>
本発明の水性塗料用組成物は、含フッ素共重合体(A)以外の他の合成樹脂が、含フッ素共重合体(A)と共に水に分散又は溶解していてもよい。他の合成樹脂としては、フッ素系、フェノール系、アルキド系、メラミン系、ユリア系、ビニル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系などの合成樹脂が挙げられる。
フッ素系の合成樹脂としては、特許第2955336号に記載のフルオロオレフィンに基づく重合単位及び親水性部位を有するマクロモノマーに基づく重合単位を必須構成成分とする含フッ素共重合体が挙げられる。ここで、親水性部位とは、親水性基を有する部位、又は親水性の結合を有する部位、及びこれらの組合せからなる部位を意味する。また、マクロモノマーとは片末端にラジカル重合性不飽和基を有する低分子量のポリマー又はオリゴマーのことである。この含フッ素共重合体を含有させた場合は、水性塗料組成物の機械的安定性および化学的安定性が改良される点で好ましい。
【0029】
本発明の水性塗料用組成物において、水に分散又は溶解している合成樹脂中に占める含フッ素共重合体(A)の比率は、10〜95質量%が好ましく、50〜90質量%がより好ましい。
含フッ素共重合体(A)以外の他の合成樹脂として、フッ素系以外の合成樹脂を用いる場合は、優れた耐候性を付与する観点から含フッ素共重合体(A)の比率を55質量%以上とすることが好ましい。
本発明の水性塗料用組成物において、水に分散又は溶解している合成樹脂の固形分濃度は、3〜50質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0030】
本発明の水性塗料用組成物は、有機溶媒を含まないもの、または、水性塗料用組成物の全質量中、有機溶媒を4.5質量%以下、好ましくは3質量%以下含有するもののいずれであってもよい。
含有し得る有機溶媒としては、例えば、後述のエステル化工程で用いる有機溶媒が残留したものが挙げられる。また、後述の含フッ素共重合体(B)の重合過程で用いられる有機溶媒が残留したものも挙げられる。
【0031】
本発明の水性塗料用組成物は、造膜助剤、表面調整剤、増粘剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤等の添加剤を適宜含有することが好ましい。
造膜助剤としては、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノ(2−メチルプロピオネート)、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
なお、造膜助剤は、本発明における有機溶媒の1種である。よって、造膜助剤を含有させる場合は、造膜助剤とそれ以外の有機溶剤の含有割合の合計が、水性塗料用組成物において10質量%以下となるようにする。
造膜助剤を含有させる場合、その含有量は、合成樹脂(重合体の固形分)の100質量部に対し、3質量部以下、特には1質量部以下とするのが好ましい。
表面調整剤としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエーテル変性シロキサン等が好ましく挙げられる。
増粘剤としては、ポリウレタン系会合性増粘剤等が好ましく挙げられる。
【0032】
紫外線吸収剤としては、公知の種々のものが使用できる。特に透明塗料として上塗り塗装で用いる場合に適した紫外線吸収剤としては、
サリチル酸メチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸クレジル、サリチル酸ベンジル等のサリチル酸エステル類;
2−ヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−5−クロロベンゾフェノン、2−アミノベンゾフェノン、アデカ・アーガス社製のT−57として販売されているような高分子量変性品等のベンゾフェノン類;
2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−ネオペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、チバ・ガイギー社製のチヌビン900、1130として販売されているような高分子量変性品等のベンゾトリアゾール類;
2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸エチル、2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリル酸2−エチルヘキシル、α−シアノ−β−メチル−4−メトキシ桂皮酸メチル等の置換アクリロニトリル類;
2,2’−チオビス(4−オクチルフェノレート)ニッケル錯塩、{2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノラート)}−n−ブチルアミン・ニッケル錯塩等のニッケル錯塩;
p−メトキシベンジリデンマロン酸ジメチル、レゾルシノールモノ安息香酸エステル、ヘキサメチルリン酸トリアミド、2,5−ジフェニル−p−ベンゾキノン等の紫外線吸収剤;及びビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジン)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)等があり、これらは1種または2種以上の混合物として組み合わせて用いることもできる。
【0033】
紫外線吸収剤は、合成樹脂の固形分濃度100質量部あたり0.1〜15質量部、特には0.1〜5質量部の範囲で使用することが好ましい。紫外線吸収剤の量が少なすぎる場合においては、耐光性の改良効果が充分に得られず、また、多すぎる場合には、その効果が飽和してしまい、適当とはいえない。
【0034】
光安定剤としてはアデカアーガス社製のMARK LA 57,62,63,67,68、チバ・ガイギー社製のチヌビン622LDなどのようなヒンダードアミン系の光安定剤が挙げられる。これらは、1種または2種以上の混合物として紫外線吸収剤と組み合わせて用いることもできる。
【0035】
消泡剤としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸塩類、液体脂肪油硫酸エステル類、脂肪族アミン及び脂肪族アミドの硫酸塩類、脂肪族アルコールリン酸エステル類、二塩基性脂肪酸エステルのスルホン酸塩類、脂肪酸アミドスルホン酸塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類、ホルマリン縮合のナフタリンスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アクリル系ポリマー、シルコーン混合アクリル系ポリマー、ビニル系ポリマー、ポリシロキサン化合物などが挙げられる。
これらの消泡剤のうち、消泡効果は親水基と疎水基のバランス(HLB価)で左右され、HLBが6以下、特に4以下のものが好ましく採用される。
【0036】
なお、塗膜の光沢を調整する必要がある場合は、常用の無機又は有機のツヤ消剤を添加すればよい。
また、着色が必要な場合には、市販の有機顔料、無機顔料、有機染料、これらを複合化した顔料もしくは染料等の着色材を分散若しくは混合添加すればよい。
【0037】
≪水性塗料用組成物の製造方法≫
本発明の水性塗料用組成物の製造方法は、下記の含フッ素共重合体(B)と、二塩基性酸無水物とを有機溶媒中で反応させることにより、式(a3)で表される構造単位における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入するエステル化工程と、塩基性化合物を加え、前記カルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する中和工程と、水を加える工程と、有機溶媒を除去する溶媒除去工程とを備えている。
【0038】
<含フッ素共重合体(B)>
含フッ素共重合体(B)は、構造単位(a1)40〜60モル%、構造単位(a2)3〜50モル%、および構造単位(a3)4.4〜37モル%(ただし、式(a1)、式(a2)、式(a3)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)から構成されている。
含フッ素共重合体(B)における構造単位(a3)のモル%は、本発明の水性塗料用組成物に含まれる含フッ素共重合体(A)における構造単位(a3)と、構造単位(a4)のモル%の合計に等しい。
【0039】
含フッ素共重合体(B)は、以下に示す、式(b1)で表される単量体、式(b2)で表される単量体、および式(b3)で表される単量体(以下、各々「単量体(b1)」のようにも記す。)を、重合触媒の共存下、あるいは非共存下に、重合開始剤あるいは電離性放射線などの重合開始源を作用せしめて、アルカリ条件下で共重合させることによって製造可能である。共重合反応系をアルカリ側に保つために、共重合反応は塩基性化合物の存在下で行う。
【0040】
単量体(b1)は、下式(b1)で表される化合物である。
CFX=CX ・・・式(b1)
ただし、式(b1)中のXおよびXは、それぞれ前記式(a1)における意味と同じである。
【0041】
単量体(b2)は、下式(b2)で表される単量体である。
【0042】
【化9】

【0043】
ただし、式(b2)中のR、R、j、kは、それぞれ前記式(a2)における意味と同じである。
【0044】
単量体(b3)は、下式(b3)で表される化合物である。
【0045】
【化10】

【0046】
ただし、式(b3)中のR、R、m、nは、前記式(a3)における意味と同じである。
【0047】
単量体(b1)、単量体(b2)、単量体(b3)の仕込みの比率(モル%)は、各々含フッ素共重合体(B)を構成する構造単位(a1)、構造単位(a2)、構造単位(a3)のモル%と同じとする。
【0048】
重合開始剤としては、t−ブチルパーオキシアセテートのごときパーオキシエステル型過酸化物、ジイソプロピルパーオキシジカーボネートのごときジアルキルパーオキシジカーボネート、ベンゾイルパーオキシド、アゾビスイソブチロニトリルなどが用いられる。
重合開始剤の使用量は、種類、共重合反応条件に応じて適宜変更可能であるが、通常は共重合されるべき単量体全量に対して、0.05〜0.5質量%程度が採用される。
塩基性化合物の使用量は、共重合されるべき単量体全量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜10質量%程度が採用される。
また、重合の際に存在させる塩基性化合物は、有機塩基性化合物、無機塩基性化合物の中から広範囲に選択可能である。有機塩基性化合物では、トリエチルアミンなどのアルキルアミン類、トリエチルホスフィンなどのアルキルホスフィン類などが好ましい。無機塩基性化合物では、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、酸化マグネシウムなどのアルカリ金属、若しくはアルカリ土類金属の炭酸塩、水酸化物または酸化物などが好ましい。
【0049】
上記共重合反応としては、溶液重合を採用することが好ましい。溶媒としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、1個以上のフッ素原子を含む飽和ハロゲン化炭化水素類、キシレンなどの芳香族炭化水素類などを使用することが好ましい。
共重合反応の反応温度は10℃〜90℃が好ましい。また、反応圧力は、0〜100kg/cm・Gが好ましく、1〜50kg/cm・Gがより好ましい。
【0050】
含フッ素共重合体(B)の固有粘度は、0.05〜2.0dL/gであることが好ましい。連鎖移動定数の比較的大きい反応溶媒を使用することや、適宜の連鎖移動剤の共存下で反応をさせることにより、固有粘度を前記範囲に抑えることができる。
含フッ素共重合体(B)の数平均分子量は3000〜200000の範囲が好ましい。分子量が3000未満の場合は、塗膜にした場合の耐候性が低下する場合がある。分子量が200000超の場合は塗装性が低下し、塗膜外観が低下する場合がある。
【0051】
<エステル化工程>
エステル化工程では、有機溶媒中で、含フッ素共重合体(B)に、二塩基性酸無水物を反応させることにより、(a3)で表される構造単位における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入する。
【0052】
二塩基性酸無水物としては無水コハク酸、無水グルタル酸、無水イタコン酸、無水アジピン酸、無水1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、無水cis−4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、無水フタル酸、無水1,8−ナフタル酸、無水マレイン酸等が好ましく採用される。
【0053】
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、第2級ブタノール、第3級ブタノール、ペンタノール等のアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、イソプロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、第2級ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;プロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート等のプロピレングリコール誘導体;エチレングリコールエチルエーテルアセテート;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族化合物などが挙げられ、含フッ素重合体(B)および二塩基性酸無水物の溶解性などを勘案して適宜選定される。
なお、含フッ素共重合体(B)を製造する場合の重合過程で用いた有機溶媒が充分に残留していれば、エステル化工程において新たに有機溶媒を添加する必要はない。
【0054】
エステル化工程では、触媒を併用することが可能である。かかる触媒としては、カルボン酸金属塩、水酸化アルカリ、アルカリ金属炭酸塩、4級アンモニウム塩、3級アミンが用いられるが、好ましくはトリエチルアミンなどの3級アミンが挙げられる。
エステル化工程の反応温度は、室温〜150℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。反応時間は数10分から数時間程度である。
【0055】
反応させる二塩基性酸無水物の量は、結果的に、得られる含フッ素共重合体(A)における、構造単位(a4)の含有割合が1.4〜6モル%となり、構造単位(a3)の含有割合が4〜30モル%残存するように調整して決定される。
エステル化反応後の構造単位(a4)の量は、酸価を測定することによって確認できる。エステル化反応後の酸価が2〜35mgKOH/gであると、構造単位(a4)が0.4〜7モル%であることが確認できる。
エステル化反応前の構造単位(a3)の量は、エステル化前の水酸基価から確認できる。構造単位(a3)が4〜30モルであるためには、エステル化前の水酸基価が20〜150mgKOH/gであって、エステル化後の酸価が上記範囲であることが必要である。
【0056】
<中和工程>
中和工程では、エステル化された含フッ素共重合体(B)に塩基性化合物を加え、エステル化工程で導入されたカルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する。構造単位(a4)中、塩基性化合物で中和する割合は30〜100モル%であることが好ましく、50〜100モル%であることがより好ましい。
中和工程の反応は、塩基性化合物または塩基性化合物の水溶液を、エステル化された含フッ素共重合体(B)が溶解した有機溶媒に対して、室温で数10分攪拌しながら加えれば、充分に進行する。
【0057】
中和工程では、エステル化された含フッ素共重合体(B)が溶解した有機溶媒に対して、塩基性化合物を加えると共に水も加える。水は、塩基性化合物と同時に加えても別々に加えても、一部を同時に加えて残りを別々に加えてもよい。一部または全部を同時に加える場合には、塩基性化合物の水溶液とすることが好ましい。別々に加える場合には、塩基性化合物を加える前に加えても、後に加えてもよい。
中でも、塩基性化合物を加えた後に水を加える方法と、塩基性化合物の水溶液を加える方法が好ましい。
中和工程で加える水の量は、エステル化された含フッ素共重合体(B)の固形分濃度が、3〜50質量%、特には15〜35質量%となるようにすることが好ましい。
【0058】
中和工程で用いる塩基性化合物は、塗膜中に塩基性化合物が残留しにくくなることから、沸点が200℃以下であることが好ましい。
かかる塩基性化合物としては、アンモニア;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン等の1級、2級または3級のアルキルアミン類;モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール等のアルカノールアミン類;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン類;エチレンイミン、プロピレンイミン等のアルキレンイミン類;ピペラジン、モルホリン、ピラジン、ピリジン等が挙げられる。
【0059】
<溶媒除去工程>
溶媒除去工程では、有機溶媒を除去する。これにより、有機溶媒が全質量に対して10質量%以下である水性塗料組成物が得られる。
ここで除去すべき溶媒としては、エステル化工程で用いた有機溶媒が残留したものが挙げられる。また、含フッ素共重合体(B)を製造する場合の重合過程で用いられた有機溶媒が残留したものが挙げられる。
溶媒の除去は、減圧留去により行うことができる。
【0060】
≪二液硬化型水性塗料キット≫
本発明の二液硬化型水性塗料キットは、本発明の水性塗料組成物と硬化剤とを備えてなる。本発明の水性塗料組成物は、硬化剤と混合して使用するものである。
硬化剤によっては、常温乾燥でも架橋が可能であり、水性塗料組成物と硬化剤とを塗布することにより塗膜を形成できる。架橋に加熱が必要な場合は、加熱焼き付けすることにより塗膜を形成できる。
【0061】
硬化剤は、水酸基またはカルボキシ基と反応する官能基を有する、水溶性または水分散型の硬化剤である。
硬化剤としては、イソシアネート系化合物、メラミン樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂、トルエン樹脂などが挙げられる。特にイソシアネート系化合物が耐候性、機械的性質に優れた塗膜が得られやすいため好ましい。
【0062】
イソシアネート系化合物としては、機械的に水に分散させたもの、または自己乳化性のポリイソシアネート化合物が好ましい。自己乳化性のポリイソシアネート化合物とは、乳化剤なしに水に乳化分散可能な化合物のことである。
機械的に水に分散させるポリイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート類;m−またはp−フェニレンジイソシアネート、2,4−または2,6−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、4,4’−ジイソシアネート−3,3’−ジメチルジフェニルなどの芳香族ポリイソシアネート類;ビス−(イソシアネートシクロヘキシル)メタン、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネート類;クルードトリレンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネートなどのクルードポリイソシアネート類;カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリオール変性ヘキサメチレンジイソシアネートなどの変性ポリイソシアネート類が挙げられる。
【0063】
これらのポリイソシアネート類はビューレット型、イソシアヌレート環型、ウレトジオン型等により、2量体または3量体になっているもの、あるいはイソシアネート基をブロック化剤と反応させたブロックポリイソシアネート類であってもよい。
ブロック化剤としては、アルコール類、フェノール類、カプロラクタム類、オキシム類、活性メチレン化合物類などが挙げられる。
上記のポリイソシアネート類は、2種以上併用してもよい。
ポリイソシアネート類は、機械的に水に分散させたものが使用される。
機械的に水に分散させるポリイソシアネート類は、比較的低粘度のものが好ましい。この分散の際に乳化剤を添加すると、より安定な分散体が得られる。ここで使用する乳化剤としては、公知のものが特に限定なく使用されるが、イオン性、特に、活性水素原子を有するものは、分散時に反応して増粘したり、分散性が低下したりするため好ましくない。非イオン性乳化剤、特にポリオキシエチレン鎖を有する乳化剤が好ましい。
【0064】
ブロックポリイソシアネート類は、通常140℃以上でないと硬化しないため、それより低い温度で硬化させる場合には、ブロック化されていないポリイソシアネート類を使用することが好ましい。
また、自己乳化性のポリイソシアネート化合物としては、上記のごときポリイソシアネート類に親水性のポリオキシアルキレン類を反応せしめたプレポリマーなどが例示できる。
親水性のポリオキシアルキレン類としては、イソシアネート反応性基を少なくとも1個有する、数平均分子量が200〜4000の範囲のものが好ましい。特に好ましくは分子量が300〜1500の範囲のポリオキシアルキレンポリオールまたはポリオキシアルキレンモノオールである。分子量の小さいものは自己乳化性が充分に達成されず、分子量の高いものは、自己乳化性は良好であるが、水中安定性が悪くなり、また、結晶性が高くなるため、低温性での貯蔵安定性が低下し、濁りが発生する。
ポリオキシアルキレン類におけるオキシアルキレン鎖としては、その全部または多くがオキシエチレン基であるものが親水性の面から好ましい。
【0065】
ポリイソシアネート類とポリオキシアルキレングリコール類の反応は、3級アミン類、アルキル置換エチレンイミン類、3級アルキルホスフィン類、金属アルキルアセトネート類、有機酸金属塩類等の触媒の存在下、必要に応じて助触媒の存在下に100℃以下で行う。また、反応に際しては、残存イソシアネート基の量が10〜24質量%、特には15〜20質量%となるように調整することが好ましい。
残存イソシアネート基の量が少ないと含フッ素共重合体(A)との反応性が低下することがあり好ましくない。また、充分な架橋度を達成するために多量のイソシアネート化合物が必要となるため、塗膜の耐候性に悪い影響を与えることがあり好ましくない。残存イソシアネート基の量が多すぎると安定な乳化液が形成されにくいため好ましくない。
自己乳化性のイソシアネート化合物は特公平4−15270号公報などに記載されている。
【0066】
メラミン樹脂としては、メチルエーテル化、ブチルエーテル化、イソブチルエーテル化などのアルキルエーテル化されたメラミン樹脂が挙げられ、水溶性の面から、少なくとも一部がメチルエーテル化されたメラミン樹脂が好ましい。
【0067】
二液硬化型水性塗料キットにおける、水性塗料用組成物と硬化剤との質量比は、不揮発分(重合体の固形分基準)の組成比で、50〜95質量%/5〜50質量%、特に65〜90質量%/10〜35質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0068】
以下に本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
実施例中の部は、特にことわりのない限り質量部を示すものである。
【0069】
≪水性塗料用組成物の貯蔵安定性評価≫
含フッ素共重合体が水に分散または溶解している合成例1〜5の水性液を合成した。なお、合成例1〜3の水性液中に分散または溶解している合成樹脂は、本発明の含フッ素共重合体(A)に該当する。また、合成例4、5の水性液中に分散または溶解している合成樹脂は、本発明の含フッ素共重合体(A)と構造単位の比率が異なる含フッ素共重合体である。
【0070】
<合成例1>
含フッ素共重合体(B)として、旭硝子社製の塗料用フッ素樹脂ルミフロンフレーク(クロロトリフルオロエチレン/エチルビニルエーテル/シクロヘキシルビニルエーテル/ヒドロキシブチルビニルエーテル(モル%比が50/15/15/20)、水酸基価100mgKOH/g、Mw7000)を、メチルエチルケトン(MEK)に溶解させて固形分60質量%のワニスを得た。
【0071】
このワニス300部に、無水こはく酸の20質量%アセトン溶液の19.3部、及び触媒としてトリエチルアミンの0.072部を加え、70℃で6時間反応させエステル化した。反応液の赤外吸収スペクトルを測定したところ、反応前に観測された無水酸の特性吸収(1850cm−1、1780cm−1)が反応後では消失しており、カルボン酸(1710cm−1)およびエステル(1735cm−1)の吸収が観測された。エステル化後の含フッ素共重合体(B)の酸価は12mgKOH/g、水酸基価は86mgKOH/gであった。この酸価と水酸基価の値によれば、ヒドロキシブチルビニルエーテルの構造単位20モル%の内、約2.4モル%がエステル化されたこととなる。
【0072】
次に、エステル化後の含フッ素共重合体に、トリエチルアミンの2.73部を加え室温で20分攪拌しカルボン酸の一部を中和し、次いでイオン交換水の180部を徐々に加えた。これにより、エステル化されカルボキシ基が導入された構造単位、約2.4モル%の内、約1.7モル%を中和した。
【0073】
その後、アセトンおよびメチルエチルケトンを減圧留去した。さらにイオン交換水の約90部を加えて、固形分濃度40質量%の合成例1の水性液を得た。得られた合成例1の原料組成及びエステル化後の酸価と水酸基価、並びに、これらの値から求めた各構造単位のモル%を表1に示す。
なお、表1において、(a1)はクロロトリフルオロエチレン構造単位のモル%を、(a2)はエチルビニルエーテル構造単位とシクロヘキシルビニルエーテル構造単位の合計モル%を、(a3)はヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位のモル%を、(a4−1)はエステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位の内、中和されていないもののモル%を、(a4−2)はエステル化されたヒドロキシブチルビニルエーテル構造単位の内、中和されたもののモル%を各々示す。
【0074】
<合成例2〜5>
エステル化に使用する無水こはく酸のアセトン溶液の量および中和反応に使用するトリエチルアミンの量を表1に従い変更した他は、合成例1と同様にして合成例2〜5の水性液を得た。得られた合成例2〜5の水性液における合成樹脂の原料組成(質量部)及びエステル化後の酸価と水酸基価、並びに、これらの値から求めた各構造単位のモル%を表1に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
<実施例1〜3、比較例1、2>
合成例1〜5の水性液100質量部に、表2に示す成分を添加した。次いで、50℃のオーブンで2週間保持して貯蔵安定性を確認した。その結果を表2に示す。なお、表2における各添加物の名称は、各々以下の化合物を示す。また、表2中の数値は、特に断りのない限り質量部である。
DEA:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)。
BYK348:ビックケミー社製の表面調整剤(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)。
BYK080:ケミー社製の消泡剤(シリコン系消泡剤。
チヌビン1130:チバガイギー社製の紫外線吸収剤(メチル−3−(3−t−ブチル−5−(2H−ベンゾトリアゾ−ル−2−イル)−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネ−トとポリエチレングリコ−ル(分子量300)との縮合物)
サノールLS765:三共社製の光安定剤
【0077】
【表2】

【0078】
表2に示すように、合成例1〜3の水性液を用いた実施例1〜3では、50℃のオーブンで2週間保持しても変化がなく、貯蔵安定性に優れることが確認できた。
一方、合成例4の水性液を用い、有機溶媒を含有しない比較例1では、沈降が見られた。
合成例5の水性液を用いた比較例2では、有機溶媒量が12.3%であっても沈降が見られた。
【0079】
≪塗膜の耐水性評価≫
<実施例4〜6>
合成例1〜3の水性液100質量部に、表3に示す成分を添加した。次いで、この液を、スレート板にアクリル系エマルション下塗り材を塗装した試験体にスプレー塗装し、室温で2週間乾燥させた。なお、表3における各添加物の名称は、以下に示す他は、表2と同じ化合物を示す。また、表3中の数値は、特に断りのない限り質量部である。
バイヒジュール3100:住化バイエルウレタン社製の水分散型ポリイソシアネート
【0080】
<耐水性> 実施例4〜6の試験体を室温にてイオン交換水に2週間浸漬し外観変化を観察した。結果を表3に示す。
<透水性> 実施例4〜6の試験体について、JIS K 5400に記載の方法で透水量を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】

【0082】
表3に示すように、合成例1〜3の水性液を用いた実施例4〜6では、耐水性試験において変化がなく、透水性も僅かであった。したがって、本発明の二液硬化型水性塗料キットによれば、耐水性に優れた塗膜が形成できることが確認できた。
【0083】
≪塗膜の光沢性、耐候性評価≫
<合成例6>
イオン交換水の192.9部に、日本乳化剤社製の乳化剤ニューコール707SFの20.0部、2−エチルヘキシルアクリレートの204部、スチレンの195.8部、アクリル酸の8.2部を加えてホモミキサーを用いて乳化した。これに過硫酸アンモニウム2.04部を加えた後、ガラス容器中で窒素ガスによる加圧、次いで脱気を行ない、D液を得た。
一方、撹拌機付1リットルガラス反応容器にイオン交換水の200部を入れ、窒素ガスによる加圧、次いで脱気を行ない80℃に昇温した。次いで、チューブポンプを用い、3.5時間かけてD液の623.24部を滴下した。その後、過硫酸アンモニウム10質量%水溶液の1部を加え2.5 時間80〜85℃で熟成させた。その後30℃以下に冷却し28質量%アンモニア水で中和して固形分濃度50質量%の合成例6の水性液を得た。
【0084】
<顔料分散液Eの作成>
酸化チタン顔料CR−90(石原産業社製)の60部、ディスロールH−14N分散剤(日本乳化剤社製)の2.9 部、FSアンチフォーム013B消泡剤(ダウコーニング社製)の0.2部、イオン交換水38部、ガラスビーズ100部を混合し、グレンミフレ分散機を用い分散し、その後ガラスビーズを濾過して顔料分散液Eを作製した。
【0085】
<実施例7>
合成例1の水性液の100質量部、合成例6の水性液の50質量部、顔料分散液Eの40質量部、造膜助剤DEAの1.5質量部、硬化剤バイヒジュール3100の20.5質量部、Akzo Nobel社製のポリウレタン系会合性増粘剤BERMODOL PUR 2150 の0.1質量部を配合し、フィルムアプリケータを用いてアルミニウム板(厚さ1mm、表面をクロメート処理)に乾燥膜厚40μmになるよう塗布し、150℃にて20分間焼付けして試験片を得た。この試験片の外観は60゜光沢で84であった。QUV試験機(Electric Devices社製UC−1型、QUV-Bランプ)を用い、照射時70度8時間、湿潤時50度4時間のサイクルで1000時間の耐候性を確認したところ、光沢保持率98%であり、耐候性が良好であることを確認した。
【0086】
合成例1の水性液を他の合成樹脂の水性液と併用した実施例7では、光沢性と耐候性に優れていた。したがって、本発明の二液硬化型水性塗料キットによれば、光沢性と耐候性に優れた塗膜が形成できることが確認できた。
【0087】
<合成例7>
内容積200mlのステンレス製撹拌機付きオートクレーブ中に、エチルビニルエーテル19部、シクロヘキシルビニルエーテル2部、ヒドロキシブチルビニルエーテル3部、親水性部位を有するマクロモノマー(EOVE)4.5部、イオン交換水60部、日本乳化剤社製の乳化剤NL−2320の5部、炭酸カリウム0.35部、過硫酸アンモニウム0.1部を仕込み、氷で冷却して、窒素ガスで3.5kg/cmになるように加圧し、次いで脱気した。この加圧、脱気を2回繰り返した後、10mmHgまで脱気して溶存気体を除去した後、クロロトリフルオロエチレン38部を仕込み、50℃で24時間反応を行った。反応終了後、残ガスをパージし、含フッ素共重合体の水分散体を得た。
なおEOVEは次の式で示される化合物であり、数平均分子量は約500である。
CH=CHOCHCHCHCH(OCHCHOH
[ただし、rは正の整数]
【0088】
<実施例8>
合成例1の水性液の100質量部、合成例7の水分散体の50質量部、顔料分散液Eの40質量部、造膜助剤DEAの3質量部、硬化剤バイヒジュール3100の20.5質量部、Akzo Nobel社製のポリウレタン系会合性増粘剤BERMODOL PUR 2150の0.1質量部を配合し、フィルムアプリケータを用いてアルミニウム板(厚さ1mm、表面をクロメート処理)に乾燥膜厚40μmになるよう塗布し、150℃にて20分間焼付けして試験片を得た。この試験片の外観は60゜光沢で82、耐候性はQUV試験1000時間でほぼ変化なく良好であった。
【0089】
実施例8に示すように、合成例1の水性液を他の含フッ素共重合体の水性分散体と併用した実施例8では、光沢性と耐候性に優れていた。したがって、本発明の二液硬化型水性塗料キットによれば、光沢性と耐候性に優れた塗膜が形成できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の水性塗料用組成物の製造方法によれば、有機溶媒の含有量が低く環境に対する負荷が小さいと共に、貯蔵安定性に優れる水性塗料用組成物を製造することができ、さらに当該水性塗料用組成物は、環境に対する負荷が小さく、かつ取扱性に優れる二液硬化型水性塗料キットとして利用可能である。

なお、2006年4月25日に出願された日本特許出願2006−120464号及び2007年2月6日に出願された日本特許出願2007−027081号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に合成樹脂が分散又は溶解している水性塗料用組成物であって、前記合成樹脂は、
式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4〜30モル%、式(a4)で表される構造単位0.4〜7モル%(ただし、(a1)、(a2)、(a3)、(a4)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる含フッ素共重合体(A)を含有し、かつ、
有機溶媒を該水性塗料用組成物の全質量中10質量%以下含有する、または有機溶媒を含まないことを特徴とする水性塗料用組成物。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化1】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化2】

[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【化3】

[ただし、式(a4)において、RおよびRは式(3)における各々と同じ意味であり、Rは炭素数2〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、Rは水素原子または−NHZ(Z、Z、Zはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜4のアルキル基または炭素数1〜6のヒドロキシアルキル基である。)であって、少なくとも一部のRは−NHZであることを必須とし、pは0〜8の整数、qは0または1である。]
【請求項2】
式(a1)で表される構造単位40〜60モル%、式(a2)で表される構造単位3〜50モル%、式(a3)で表される構造単位4.4〜37モル%(ただし、式(a1)、式(a2)、式(a3)で表される各構造単位の合計モル%の値は80〜100である。)からなる含フッ素共重合体(B)と、二塩基性酸無水物とを有機溶媒中で反応させることにより、該含フッ素共重合体(B)を構成する、式(a3)で表される構造単位における水酸基の一部をエステル化しカルボキシ基を導入するエステル化工程と;
塩基性化合物を加え、前記カルボキシ基の少なくとも一部を塩基性化合物で中和する中和工程と;
水を加える工程と;
有機溶媒を除去する工程と:
を備えることを特徴とする水性塗料用組成物の製造方法。
−CFX−CX− ・・・式(a1)
[ただし、式(a1)において、XおよびXは、それぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子であり、Xは塩素原子、フッ素原子または−CY(Y、Y、Yはそれぞれ独立に水素原子、塩素原子またはフッ素原子である。)である。]
【化4】

[ただし、式(a2)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜12のアルキル基または炭素数4〜10の1価の脂環式基であり、jは0〜8の整数、kは0または1である。]
【化5】

[ただし、式(a3)において、Rは水素原子またはメチル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基または炭素数4〜10の2価の脂環式基であり、mは0〜8の整数、nは0または1である。]
【請求項3】
塩基性化合物の水溶液を加えることにより、前記中和工程と水を加える工程とを同時に行う請求項2に記載の水性塗料用組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の水性塗料用組成物と、水酸基またはカルボキシ基と反応する官能基を有する、水溶性または水分散型の硬化剤とを備えてなる二液硬化型水性塗料キット。
【請求項5】
式(a2)で表わされる構造単位が、j=k=0の構造単位であり、式(a3)で表わされる構造単位が、m=n=0の構造単位である請求項1に記載の水性塗料用組成物。
【請求項6】
有機溶媒が、アルコール類、セロソルブ類、プロピレングリコール誘導体およびケトン類からなる群から選ばれる1種以上である請求項1または5に記載の水性塗料用組成物。
【請求項7】
有機溶媒を、水性塗料用組成物の全質量中3質量%以下含有する請求項1、5または6に記載の水性塗料用組成物。
【請求項8】
含フッ素共重合体における式(a4)で表される構造単位の含有割合が1.4〜6モル%である、請求項1、5、6または7に記載の水性塗料用組成物。
【請求項9】
水溶性または水分散型の硬化剤が、イソシアネート系化合物である請求項4に記載の二液硬化型水性塗料キット。
【請求項10】
水溶性または水分散型の硬化剤が、非ブロックイソシアネートである請求項4に記載の二液硬化型水性塗料キット。

【公開番号】特開2013−91806(P2013−91806A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−5757(P2013−5757)
【出願日】平成25年1月16日(2013.1.16)
【分割の表示】特願2008−513243(P2008−513243)の分割
【原出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】